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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史改変の章その9
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2012/07/07(土) 15:30公開   ID:eoF2Dat1HnA
 帝国軍技術廠、今や世界の兵器技術者達からもっとも熱い視線を浴びている名前である。
 そしてその技術廠を代表する一人の人物、小塚三郎技術大尉。
 兵器産業に従事する人間でこの名前を知らないものはもぐりとさえ言われる。
 そんな彼の執務室、その机の上には二つのファイルが置かれている。
 『量産型撃震弐型性能評価試験結果報告書』
 『次期日本帝国配備戦術機選考試験結果報告書』
 そう、1987年に世界に公開された試作型撃震弐型に、立花隆也の改良案に基づく改修を施した量産機が完成し、その性能評価試験が先日まで行われていたのだ。
 おまけに無謀なことに、それと平行して次期日本帝国の正式採用機トライアルへ撃震弐型を出していた。
 本来ならばあり得ない。性能評価と同時並行してトライアルに出すなど、もはや笑い話にすらならない。自殺行為といっていいだろう。
 だが、誰もその判断を下した小塚に意見をすることはなかった。
 撃震弐型に関わった者は、その性能に絶対なる信頼を寄せているが故に。小塚を知るものは、彼が無謀な賭など決してしないと知っているが故に。
 結果は、言うまでもない。
 小塚と撃震弐型はその周囲の信頼に応えたのだった。

 「第二世代以上、第三世代未満か」

 小塚の口から漏れるのは評価試験の内容だ。数値の上では確かに第三世代に要求される水準に達していないものが多くあるが、逆に第三世代の基準を遙かに凌駕している数値も幾つか見受けられる。
 パイロットへの負荷軽減、複雑な三次元軌道に対する各部位の耐久性および戦闘継続時間、武器の搭載量などだ。
 運用実績、信頼性、機種転換にかかるコストなどは、未だ構想段階の第三世代とは比べるべくもない。

 「実際のところ、準第三世代と言ってもいいほどの性能だな」

 評価試験の結果でも、第一世代の設計思想、重装甲による防御力重視の撃震の改修機とは思えないほどの高機動性をたたき出している。
 現に同時にトライアルを受けた第二世代の陽炎をすら凌駕するものだった。
 これほどの技術を、最初から高機動による回避重視の設計思想の第三世代への製作につぎ込めば一体どれほどの数値をはじき出すのか。評価試験に関わった技術者達の表情は非常に明るい物であった。ただ、耀光計画に参加している技術者たちを除いてではあるが。
 耀光計画、日本帝国軍がその威信をかけて取り組むビッグプロジェクト。国内でも有数の兵器製造業社、優秀な技術者を集めて、第三世代の戦術機を一から作成するというそのプロジェクトは、今暗礁に乗り上げかけていた。
 現場から上がってくる様々な要求、F−15に代表される第二世代の性能、そしていま新たに壁として立ちはだかる準第三世代ともいえる撃震弐型。
 耀光計画に関わる者たちは、最低でもこれらすべての条件をクリアする性能持つ機体を作り出さなければいけないのだ。その重圧は当事者にしか分からないが、相当な物だというのは想像できる。
 そんな彼らの中から、小塚三郎技術大尉へと協力を仰ぐ者がいても不思議はない。むしろそれは、必然とも言えることだった。

 「さて、どうするか。F−15の徹底的な解析、そして改修機である陽炎を作ることによる技術蓄積。それだけやってもまだ、下地としては足りないか。やはり第二世代以降のコンセプトに対する技術理解に根本的な問題があるな」

 問題はそこだった。撃震弐型に代表されるように、第一世代に対する技術蓄積はもはや日本帝国は世界でもトップレベルといっても過言ではない。
 いっそのこと第一世代のコンセプトをさらに発展させる方向で考えてはどうだろうか?
 高機動、高火力、高出力。重量級の装甲を持ってしてもそれを苦にしないだけの高速機動が可能な出力と起動時間を確保できれば、なんら問題ないのではないか?
 そこまで考えて、小塚は大きくため息をついた。

 「そんなことが可能ならば、最初から誰も悩みはしないか。最近、彼に毒されているな」

 彼、いうまでもなく、立花隆也その人である。
 彼からもたらされた物、それこそが今や日本帝国の地位をここまで引き上げる要因になった言っても過言ではない。
 八十六式兵装に代表される彼の発案による兵器群。それらは如何なる環境下においても、許容範囲内の性能低下ですんでいた。まるでその環境での実戦を何度もくぐり抜け、改善点を洗い出したかのように、地球上で行われる全ての作戦行動に対応していた。
 現に撃震弐型と陽炎のトライアルデータでもそれは明らかだった。
 様々な悪条件での運用を想定したトライアルの中でも、撃震弐型は改善の必要性を全く感じない安定性を数字の上で示していた。対照的に陽炎は、砂漠での防塵性能の不備、極寒地帯での間接部の油圧シリンダーの異常、など改善の余地にはことかかない。
 撃震弐型は完成されている機体。にもかかわらずに拡張性、つまり改良の余地は充分残されているのだ。
 各国に対して行ったプレゼンに対する反響も凄まじいものがあった。
 是非技術提供を、是非機体の供給を、是非、是非、是非。
 要望の声は特に前線国家のものが多かった。なにせ近接戦闘に定評がある撃震の改良発展型である撃震弐型だ。近接戦闘の模擬戦データは脅威の一言に尽きた。陽炎に背中すら見せない独走状態だった。
 むろんそれらは大いに国粋主義者達の虚栄心をくすぐった。
 そう、小塚がこの一言を告げるその瞬間まで。

 「ですがこれはF−4を元にした機体。あくまでライセンシーは米国にあります。もちろん、改修技術、および新規の装甲材などに関する技術を提供する用意はありますが、そこのところはお忘れなきよう」

 そう、小塚は撃震弐型があるのも米国が優れた拡張性を持つF−4を作ったからだと公の場で、あからさまに告げたのだ。
 悔しげに顔をしかめる国粋主義者達を横目に、小塚は米国の持つ技術力の高さを嫌みのない程度に持ち上げておいた。実際のところ、日本帝国が持つ第二世代以降の戦術機開発技術は、未だに米国の水準まで至っていない。
 そういえばこのプレゼンで、国粋主義を代表する閣僚に嫌みを言われたが、小塚にとってはそんなことは些事に過ぎない。それは今の自分が日本帝国にとってなくてはならない存在と周囲に認識されていると分かっているが故だった。
 隆也の威を借りている分際でとは言え確かにその通りだったが、彼はそれについてはまるで気にしていなかった。ギブアンドテイク、というにはあまりにもギブが大きいのだが、それについては隆也からうるさいほど言われている。

 「将来おれが帝国軍に入ったときに、後ろ盾があまりに貧弱だといろいろとまずいだろ?小塚さんには、しっかりと昇進してもらって、おれの後ろ盾になってもらわないとな。あと、いろいろと無茶も要求すると思うんで、各部署とのパイプ作りもお願いしていいかな?ほら、融通が利くに越したことはないだろ?いざって時に、下らん横やりが入って身動きが取れない、なんてことになりたくはないしな」

 要するにこれは隆也の依頼を果たすためでもあるのだ。もっとも、将来どんな無理を言われるかと思うと、今から胃が痛くなる思いだったが。
 隆也のもたらした撃震弐型。今回のトライアルを持って、日本帝国の正式採用機となるだろう。
 だがそれらがすべて隆也の思惑の内なのではないだろうか?
 小塚はふと、そんなことを思う。
 自分は、立花隆也という男の手のひらで踊っているだけなのではないだろうか?
 だがそれがどうだというのだろう。今のところ彼の動きは帝国に不利益をもたらす物ではない。むしろ帝国の常任理事国入り、しかも拒否権発動の権限付き、の原動力にすらなっている。国益に充分かなった行動といえる。
 それに小塚自身の勘も、彼が危険な人物ではない、と告げていた。ただ一つ、彼と小塚が見ている先が違う、というのは感じていた。
 小塚は日本帝国、そして人類の勝利を。だが立花隆也は、それとは違ったものを見ている。
 それが何なのか分からない。もどかしいが、今のところはそれが分からなくても特に問題はないだろう。
 BETAを駆逐する手段としての人類の刃である兵器の強化。その一点において、両者は目的を同じくしているのだから。

 「それはともかく第三世代の開発に関わる協力か。おいそれと手出しはできないな」

 なにせ肝心要の隆也と連絡を取れていないのだ。勝手に協力すると言っておいて、彼がいや、といえば手詰まりになってしまう。
 だが協力を取り付けることができれば、そしてその恩を開発関係者たちに売ることが出来れば、それは莫大な利益として小塚に返ってくるだろう。
 軍需産業へのパイプ、技術達とのパイプ、耀光計画に関わる者たち全てに恩を売ることができる。それは彼にとっても望むものだろう。
 とはいえ、いくら彼にその気があっても、技術がなければ話にならない。なにせ彼は第一世代の改修、および武器兵装に関しては神がかったものを発揮したが、それが前人未踏の第三世代に通用するか、といえばそれは未知数だ。
 そこでふと小塚は気づいてしまった。今の自分が技術者としてではなく、政治家としてどう動くべきかと考えていることに。

 「やれやれ、こういうのは一郎兄さんの役目なんだがな」

 苦笑が漏れた。自分は技術者だと常々周囲にいってきたのに、今では一技術者と言うよりも、いかに自身の権力を増大させるかに腐心する政治家としての面が大きくなっていることに対する自嘲でもあった。

 「なんにせよ、彼に相談してみないとな」

 小塚三郎技術大尉は知らない。
 彼こと立花隆也が次に持ってくる案件が、BETA戦の根底を揺るがす技術群の数々の発想であることを。
 そして、従来の発想の斜め上をいったコンセプトの戦術機であることを。


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