ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第5話:無量大数の狂戦士
作者:蓬莱   2012/07/09(月) 23:53公開   ID:.dsW6wyhJEM
―――冬木市某所
冬木の地のセカンドオーナーである遠坂家すら、その存在を知らない―――モニタールームにて、モニターを見る責任者らしき青年と送られてくる情報を処理していくスタッフ達の姿があった。
そこには、冬木市中に仕掛けられた隠しカメラから送られてくる映像が、壁一面を覆い尽くすほどの無数のモニターに映し出されていた。
もちろん、その中には、倉庫街で戦う銀時らの姿を映すモニターもあった。

「…随分と、ややこしい事になってきたな」
「どうかしたのか? 」
「は、はい!! 」

そんな最中、情報を処理していたスタッフの一人が険しい顔をしながら、徐に呟いた。
これを聞き逃さなかった青年は、ポツリと呟いたスタッフに、刃物のような鋭い視線を向けた。
スタッフの一人は怯えるように身体を委縮させたが、すぐさま、青年に倉庫街での出来事についての報告をした。

「…キャスターの背後に現れた謎の全裸が、キャスターの頭の上に―――」
「それ以上言わずとも良い…むしろ、聞くに堪えぬわ」

もっとも、全裸―――アーチャーに関する事柄だと分かった瞬間、青年は、スタッフが言いきる前に言葉を遮った。
ここ数日間、モニターに映る画像には、何か騒動がある度に、アーチャーこと全裸が映っていた。
勿論、大半は全裸の姿だったが…
もはや、聞く価値すらないとした青年であったが、その背後に、六十年前からの協力者である老人が現れた。

「かかかか…これは、また、予想外の展開になったものじゃのう」
「ふん…貴様か」

老人はモニターに映る映像を見て、愉快そうに笑った。
それに対し、青年は一瞥しただけで、老人を無視するかのように、すぐさま映像を見続けた。

「そう厄介者扱いするでないわ。わしらは、六十年来の同士であろうが」
「そうであったな…我に特別思う事などないがな。それに、かような些事など、我が計画に毛ほどの影響も…」

老人は、青年の態度に言葉では非難していたが、キチキチと蟲の蠢くような音―――この老人特有の忍び笑いをしていた。
それを知っているのか、老人の非難を聞き流した青年は、全裸の行動など、自分の計画にとって障害ですらないと言いかけた。

「た、大変です、―――様!! 」
「…どうした、手短に話せ」

その直後、モニターを監視していたスタッフの一人が声を張り上げて、青年の名を呼んだ。
スタッフの慌てぶりに怪訝な顔をする青年であったが、次の瞬間、その眼は驚きに見開くこととなった。

「マスターと共に、バーサーカーが、セイバー達のいる倉庫街に近づいています!! 」
「何…!? 」
「あやつめ…!! どうする? このままでは、計画に支障が出るぞ? 」

そのスタッフが大型モニターに出した映像には、バーサーカーとそのマスターである間桐桜の姿が映し出されていた。
予期していなかったバーサーカーの登場に、青年も老人も驚きを隠せなかった。
もし、このバーサーカーが倉庫街での戦闘に参加すれば、聖杯戦争の決着がすぐにつくだろう。
それだけは何としても阻止しなければならない―――焦る老人に対し、青年はすぐさま手を打った。

「…ならば、駒を使うまでよ」

青年は受話器を取ると、自身の駒である人物へと早急に連絡を入れた。



第5話:無量大数の狂戦士



その頃、未だショックの抜けきれない一同を尻目に、キャスターは全裸の首を掴みながら、ガクガクと揺らしていた。
もはや先程の余裕などまったく感じないほど、キャスターは動揺しまくっていた。

「ひ、人の頭の上に何をするかぁ―――!! 」
「え〜」

泣き眼になりながら喚くキャスターだったが、いくらバビロンの大淫婦と称されていたとはいえ、いきなり頭の上にナニを乗せられたのだから無理もなかった。
だが、全裸はわざとらしいくらい不満そうな声をあげながら、小指を鼻につっこみながら、キャスターを下から見上げた。

「あれあれ? さっきまで、なんかすっごく余裕ぶってった貧乳がいたんですけどぉー」
「く…!! 」

全裸は首をかしげながら、キャスターを子供扱いしつつ、思いっきり馬鹿にしたような口調でしゃべりだした。
このままでは、この全裸のペースに乗せられると思ったキャスターは歯を噛みしめると、体をくねらせる全裸を突き飛ばすように放した。
とここで、全裸はおいおい落ちつけよと、キャスターの頭を掌で軽く叩いた。

「まぁ、とりあえず、おめぇ、もうちょっと落ちつけよ。今の今まで、余裕見せていたのに、これじゃぁ、格好悪過ぎだぜ」
「…そ、そうね。こ、この程度の事で、バビロンの魔女であるこの私が―――ポニーテールぅ〜―――貴様ぁ!! 」

貴様のせいだろうがぁ―――!!と言いたい気持ちを抑えつけたキャスターは、目をつむりながら気持ちを落ち着かせた。
その隙を全裸は、逃すことなく、キャスターの背後に回った。
そして、全裸は腰を引きつつ、甘掛けしながら、気の抜けた声で馬鹿をやらかした。

「あれあれ? この人、本気で怒ってるんでしゅか〜なんか、バビロンの魔女とか言ってた気がしゅるんでしゅけど〜 」
「こ、こいつ…!! 」

なんか無性にムカつく子供言葉で挑発する全裸に、またもやナニを使ったネタにやられたキャスターは怒りで肩を震わせた。
何か、ランサーやアイリスフィールなどの女性陣からは可哀想なモノを見る目だし、ライダーや銀時ら男性陣についてはどうコメントしようか困っている様子だった。

「…何か色んなモノが台無しになった気がする。…ん? 」

恐らく、この場にいる全員が思っている事を吐きだすように言ったウェイバーであったが、ふとある事に気付いた。
いつの間にか、全裸の近くに壊されたコンテナの一部を両手に持って、その陰に入った少女―――ホライゾンがいた。
そして、ホライゾンは、半分だけ縁から顔を出して、三白眼の震えつきうすら笑いで、キャスターを見ながら言った。

「こ、この泥棒猫…!! 如何でしょうか、この擬似的嫉妬表現? 」
「いや、どうって…とりあえず、おたくら、何って聞きたいですけど…? 」
「何かこう色々疲れるから、名前だけ言って、さっさと帰ってほしい…」

どう?と首をかしげるホライゾンに、かろうじてギャグ属性に耐性を持つ銀時とツッコミ疲れしたウェイバーが投げやりに答えた。
新手のギャグとしか思えない乱入者達の行動に、もはや先程のシリアス空気はブレイクしていた。
もういいから帰れよーみたいな空気の中、全裸はあっさり自分のクラスを言った。

「ん、俺? トッキーに召喚されたアーチャーだけど…俺、なんか注目されてる? 」
「Jud.確かにかなり痛い方向に注目を集めています。と、ホライゾンはそう思います。あと…」

照れるなぁと言いながら、身体をくねらせるアーチャーこと全裸に対し、ホライゾンは無表情のまま、冷静にツッコミをいれた。
何か時臣から色々とクレーム入れてくるが、とりあえずスルーした。
とここで、ホライゾンは、どう対応していいか困っているライダーに目を向けた。

「ん、わしか? 」
「Jud…私の知っている父―――松平・元信とはかなりイメージにギャップがあるので、ホライゾンは、少々戸惑っています」
「わしがお主の? あははははは、随分と奇妙な縁というものがあるのだな」

色々と納得できないと首をかしげるホライゾンの言葉に、ライダーは愉快そうに笑った。
まぁ、それはともかく、状況はかなりややこしい事になっていた。

「んで…あそこの全裸の兄ちゃん―――アーチャーのおかげで、厄介な事になっちまったな」
「うん…何かいろんな意味で厄介な敵みたいね…」
「確かにな…PTA的な厄介さも含めて」
「そっち!? そっちの方向なの!? 」

セイバーの中で若干ゲロ吐きつつ、アーチャーを警戒する銀時に、アイリスフィールも頷いた。
キャスターの優位な展開をあっというまに変えてしまったアーチャーの行動は確かに厄介極まりないものだった。
もっとも、銀時が警戒していたのはPTA的な意味だったので、アイリスフィールは思わずツッコミをいれた。
まぁ、確かに15歳未満禁止してなきゃ、アウトだったろうが…。

『PTA的な問題は置いとくとして…四人を相手に睨みあいになった時点で、もう迂闊には動けないわ』

それは、さておいても、村正の言葉通り、他のサーヴァント達は互いに牽制するも、一向に動こうとしなかった。
バトルロイヤルの常道で言えば、もっとも劣勢な相手を一斉に攻めたてるのが堅実的な戦術である。
だが、互いの力が拮抗状態であるならば、もっとも優勢な相手を攻めるという手もある。
結果として、全ての敵の動向を見極めるために、誰もが動けないでいた―――何か変顔で笑わせようとする全裸を除いてだが。


「不味い事になりましたわね…」
『ええ…主に、ト…じゃなくて、アーチャーのせいで…』

一方、こう着状態となった状況に、アーチャーの呼び出した仲間達は、気配を隠しながら、様子を窺っていた。
物陰に隠れる銀色の大振りな前髪と円を巻いた後ろ髪大きな束、黄色の鋭い瞳を持つ少女―――ネイト・ミトツダイラは、全裸の奇行に呆れつつ、冷や汗をかきながら、通神帯―――アーチャー達の使用する通信システムを通して呟いた。
ネイトの言葉に頷いたのは、ライダーが去った後に、冬木大橋の鉄骨の上で陣取る弓を持った黒髪の少女―――浅間智だった。
うっかり、アーチャーの真名を言いかけた浅間であったが、気を取り直して弓を構えた。

「どうするで御座る…拙者達も加勢するで御座るか? 」
『マスターからの指示では、出来うる限り戦闘は避けるよう言われているが…』

とここで、別の場所に隠れていた槍を手にした黒髪のポニーテールの少女―――本多二代が仕掛けるのか尋ねた。
通信先の相手である男装をした少女―――本多正純は、色々と心労で壊れかけている時臣に代わって、指示を出した。
時臣としては、出来うる限り、序盤からアーチャーの宝具を迂闊に見せないつもりだった。
だが、アーチャーの乱入から始まったこの状況によっては、それを破らざるを得ないかもしれなかった。

「誰が先に動いた瞬間が鍵ね」
「Jud.拙僧らの出番はそこからか…向井、周囲に異常はないか? 」

それを分かっているのか、頭に百足を象った意匠がある緑黒と赤の龍に似た全身装備型のパワードスーツ―――機動殻<不転百足>を装備した女―――伊達成美は隣にいる夫に呼びかけた。
呼びかけられた背中に鋼の翼を持った機械の竜―――キヨナリ・ウルキアガは成美の言葉に頷いた。
そして、ウルキアガは、新たな乱入者が来ていないか、別の場所で周囲の警戒を任された少女―――向井鈴に尋ねた。

『う、うん…い、今いるサーヴァント以外、だ、誰も、入って、ないよ…』
『一応、空からは、ナルゼ君やナイト君、義康君が見張っているからね…新手が来てもすぐに―――え? 』

ウルキアガの言葉に、前髪を垂らした少女―――向井鈴は途切れ途切れの言葉で、他のサーヴァントが来ていない事を伝えた。
そして、現場指揮官である眼鏡を付けた少年―――トゥーサン・ネシンバラも、鈴の言葉に頷きかけて…思わず言葉がつまった。
唐突だが、こんな話がある―――昔、二人の船頭が難破して、島らしきところに漂着した。
しかし、そこにはどれだけ歩いても人家はなく、塩水ばかりで真水がなかった。
仕方なく、二人の船頭は小舟に乗って漕ぎ出すと、島があっという間に沈んでしまったのだ。
実は、その島は、島ではなく、背中に大量の砂を積んだ巨大なエイの背中だったというオチで話は終わる。
何が言いたいのか…つまるところ、人間というものは、あまりに巨大過ぎるものに対して、それを正確に認識できないのだ。
そう…盲目ゆえに聴力などの他の感覚機能が鋭く、サーヴァント化したことで霊気さえも感知できるようになった鈴が、マスターである桜を連れて、アーチャー達のところに現れたサーヴァント―――バーサーカーの桁はずれの貯蔵魔力を大気中にある魔力<大源(マナ)>と認識してしまったように!! 

「…」
「お、女の子…? 何で、こんなところに…」

バーサーカーを連れて、このこう着状態の中に現れた少女―――桜を見て、アイリスフィールは困惑していた。
アイリスフィールには、なぜ、自分の娘であるイリヤスフィールとさほど変わらない少女が聖杯戦争に参加しているのか、全く分からなかった。

「…見つけた」

とその時、桜の隣にいた金髪を逆立てた三つ目のインド風の少年―――バーサーカーがポツリと呟いた。
そして、バーサーカーの白濁とした眼光を放つ三つの瞳が、銀時らに焦点を合わせた瞬間―――

「「「「「!!」」」」」

―――その場にいた全員に電流のような衝撃が駆け巡り、無理矢理頭の中を覗かれたような感覚に陥った。

「見つけた。見つけた。見つけた見つけた見つけた見つけた見つけたあああああああああ!! あはっははははははは!! 」

と次の瞬間、バーサーカーは狂ったように言葉を垂れ流しながら、笑みを浮かべていた。
何だ、コレは?―――その場にいるほぼ全ての者がバーサーカーを見て、嫌悪と疑念の思想に埋め尽くされた。
バーサーカーには、意思の疎通という概念すら存在せず、英霊ならば持ちうる知性や神聖さが欠片も存在しない。
だが、それに反比例するかのように感じるバーサーカーの波動は、この場にいる誰よりも強大だった。

「おいおい、このハッサン似の子供、いきなり、テンション激―――あははははははは…邪魔だ―――うぉっ!! 」

その中で、唯一人だけアーチャーは笑みの顔を崩すことなく、笑い続けるバーサーカーに近づいて行った。
とりあえず一発ギャグでもやろうかと、アーチャーがバーサーカーに触れようとした瞬間、笑い声をあげていたバーサーカーは路傍の石をどかすように、アーチャーを腕で払った。
たったそれだけの行動で、アーチャーは派手に吹っ飛びながら、コンテナに激突した。

「ト…アーチャー様、さすがに初対面の相手に…え? 」

いつもの様に馬鹿をやらかしたアーチャーに、ホライゾンはすぐさま駆け寄った。
まぁ、固有スキルであるボケ術式の恩恵で、多少の即死系ツッコミなら平気ですね。
そう思ったホライゾンはいつもの様に、アーチャーが笑いながら、すぐさま立ち上がると思っていた。
―――頭から血を出して、意識を失っているアーチャーの姿を見るまでは。

「塵屑どもが消え失せろよ―――聖杯(アレ)は俺だけ使えればいい。俺は俺だけで満ちているから、俺以外の者は要らない」

アーチャーを一撃で戦闘不能に追い込んだバーサーカーは、その場にいる全員を、ただの塵だと断じた。
稚児にさえ劣る身勝手極まりない暴論を振りかざすバーサーカーに、自分が倒したアーチャーについて考えることなど意識になかった。
元より、バーサーカーは何も見ていない―――ただあるのは、己のみしか見ていないから、己以外消えろという他者の廃絶のみ!! 

「―――滅尽滅相ッ!! 」

邪魔な塵を片付けんと、極限まで高められた自己愛を爆発させながら、バーサーカーは近くにいた塵―――ランサーに襲いかかった。

「こいつ―――!! <騎士団(ナイツ)>、騎乗!! 蹴散らせぇ!! 」
「あははっはぁ、なんだそりゃあ火遊びかァ!! 」

突如、襲いかかってくるバーサーカーを前に、ランサーはすぐさま馬に跨った騎士達を召喚し、一斉に突撃した。
―――並のサーヴァントならば、一方的に蹂躙できるほどの力を持つ炎の騎士達。
だが、人の感情を逆なでするような笑みを浮かべたバーサーカーはその騎士達を―――

「―――腕の一振りで消し飛ばせるがなぁ!! 」
「嘘っ!! 」

―――腕を薙いだだけで、全て粉々に粉砕した。
無残に砕け散った<騎士団>の姿に驚くランサーを前に、<騎士団>を全滅させたバーサーカーが迫っていた。
咄嗟に盾を出して防御を試みるランサーを、バーサーカーは嘲りの笑みを浮かべた。

「温いぜェ、燃え滓風情がぁ!! 」
「くっ、う―――うああああああああああ!! 」

そして、先程と同じく、バーサーカーが腕を薙いだだけで、ランサーの出した盾は打ち砕かれた。
そのまま、全身を駆け巡る衝撃と共に、ランサーは絶叫を上げ、鮮血をまき散らしながら、宙を舞った。

「これだから、女はつまらん。戦えるってことは、幸せな事じゃない―――そんなに塵同士の潰し合いが好きなら、とっと潰し合って、消え失せろよぉ!! 」
『き、貴様ああああああああああああああ!! 』

だが、ランサーを倒したバーサーカーは無感動に呟きながら、ランサーの持つ矜持を口走りながら、くだらないと吐き捨てた。
まるでランサーの生き様を嘲うバーサーカーの言葉に、ランサーと心を結び合わせているアラストールは、我を忘れるほどの怒りの声を張り上げた。

「おい、糞餓鬼…調子に乗るんやないでぇ!! 」
「真島殿、気をつけろ!! これは…!! 」
「ん? 」

そして、同時に、真剣勝負を汚された真島が、背を向けているバーサーカーにむかって、炎を纏った拳で殴りかかってきた。
それに合わせるように、ライダーもすかさず渾身の力を込めて、バーサーカーに殴りかかった。
次の瞬間、向かってくる真島とライダーの拳が、後ろを振り向いたバーサーカーに叩きこまれた。

「んなっ!? 」
「何…だと…!? 」
「<絆>…それがもっとも強い力だと、わしは信じている―――五月蠅い鳴き声と一緒で軽いんだよぉ!! 羽みたいな拳で殴られて効くか阿呆がぁ!! 」

だが、真島とライダーの顔に浮かんだのは、あり得ないものを見て、驚愕した者が見せる表情だった。
必殺の威力が込められた真島とライダーの拳は、バーサーカーの指先一本で受け止められていた。
そして、ライダーの掲げる言葉を吐き捨てながら、軽く指先を押し出した。
ただそれだけで、、真島とライダーは軽々と突き飛ばされながら、何度も全身を地面に叩きつけられた。

「あはははははははは!! 押しただけで、それかぁ? 中身まで軽いのかぁ? 」
「ごぁっ…くの、われぇええ!! 」
「ぐっ…何だ、あの出鱈目な強さは…!! だが、それ以上に…!! 」

バーサーカーは腹を抱えながら、けたたましい笑い声を響かせながら、地面に叩きつけられた真島とライダーを嘲笑った。
全身を麻痺したかのような痛みに耐えながら、真島はバーサーカーを睨みつけ、怒りの声を上げた。
それに対し、ライダーはバーサーカーの力と、それ以上にバーサーカーにとってこれが戦いですらない事に気付かされた。

「沸騰する混沌より冒涜の光を呼び寄せん!! 原初の闇より生まれし万物を、今、その座に還さん!! 」

ランサー、真島、ライダーを次々に倒したバーサーカーに挑んだのは、新たな文様を浮かばせたキャスターだった。
こいつは即刻殺すべきだ―――そう断じて、呪文を詠唱するキャスターの前方に、黒い光が集中していった。

「いかなる対魔力をもっても防ぐ事の敵わぬ、究極の暗黒魔術で―――魂も、霊も消え失せるがいいわぁ!! 」
「あぁ? 」

呪詛を込めたキャスターの言葉と共に放たれた黒色の光は、怪訝な顔をするバーサーカーを飲み込んだ。
勝った―――そうキャスターは確信していた。
生きとし生きるものを形作る力を侵食し、分解する究極の暗黒魔術を、バーサーカーは、まともに受けたのだから、キャスターがそう思っても無理はなかった。

「な…んだとぉ…!! 」
「なんだ、そりゃ? なんだ? 無尽蔵の魔力? 不死身? 塵共が小賢しいぞ」

―――それほどの大魔術を受けながら、毛ほども傷ついていないバーサーカーの姿を見るまでは。
究極の暗黒魔術を受けても揺るがないバーサーカーに、キャスターは愕然とした。
だが、バーサーカーにしてみれば、特殊能力を持つキャスター自体が理解できなかったし、理解しようとも思わなかった。

「弱いから、つまらぬから…塵共は物珍しげな設定をひねり出して、頭が賢いとでも言いたいのかぁ? 要らない、要らない。俺にそんな塵共の欲しがる塵など要らない。 そもそも―――」

バーサーカーは何の特殊能力を持っていない。
それは、バーサーカーに言わせれば、塵である弱者の考え―――弱いから、特殊能力のやりよう次第で強者も倒せるという女々しい考えだからだ。
自分には、そんな塵共の欲しがるようなものなど必要ない。

「―――力の桁が違えば、その時点で勝てるか…阿呆ぅがぁ!! 」
「ぐぁああああああああああ!! 」

なぜならば、キャスターを踏みつけたバーサーカーにあるのは、万象すべてを踏みにじる圧倒的な力のみ!! 
究極の暗黒魔術―――それがどうした?
バーサーカーの持つ無量大数たる卍曼荼羅の神威を前にすれば、あの程度の攻撃など何の意味もなかった。

「き、貴さ――――――がっ!! 」
「臭いんだよ。穢らわしいぞ。気持ち悪いぞ、塵が―――潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろれろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろれろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろ潰れろぉ!! 」
「―――――――!! 」

怒り心頭で起き上がろうとするキャスターを、誰が許したと言わんばかりにバーサーカーは踏みつけた。
そのまま、バーサーカーは徹底的に、キャスターの顔を、足を、腕を、腹を、胸を踏み続けた。
―――立つな。
―――癒すな。
―――生き返るな。
誰がそんな事を許したと、一方的な傲岸さで、バーサーカーは、キャスターを踏み続けた。
不死身の体を持つキャスターとはいえ、この一方的な蹂躙に声なき悲鳴を上げた。
もはや、キャスターを肉片同然となるまで踏み続けるバーサーカーであったが、別の塵がいる場所に目を向けた。

「何だぁ、そりゃぁ? ああ、さっきの塵にひっついていた塵がいたなぁ…」
「…それ以上、喋らないでください。ホライゾンは、あなたの言葉が非常に不愉快だと判断します」

バーサーカーの視線の先には、アーチャーを守るように、宝具<悲嘆の怠惰>を構えたホライゾンを立っていた。
自動人形特有の無表情さから分かりづらいが、ホライゾンは、アーチャーを傷つけたこのバーサーカーが怒りを覚えていた。

「―――教えてやるよ、取り戻しに行くよ、お前の感情を。そして、お前の全てに繋がる大罪を、俺とお前の、境界線上に揃えに行こう。そうしたら、いつか―――全ての感情を従えて、俺と一緒に笑ってくれ、ホライゾン」
「その言葉は…!? 」

ここで、突然、バーサーカーの口から出たのは、初めて悲しみを知ったホライゾンに、アーチャーが送った言葉だった。
驚くホライゾンは、かつて、悲しみの感情を得て、涙を流す自分に口づけをし、深く抱きしめてくれたアーチャーとの記憶を思い出さずにはいられなかった。

「―――俺が出来なくても、オマエらは出来る。だから、憶えておいてくれ。もし、自分に大事な人がいたら。その人が危険な目に遭っていたら、オマエらは救えるんだ。オマエらは出来る―――出来ねぇ、俺が保証するさ」
「「「「「…!? 」」」」」

バーサーカーの口から続けて出たのは、かつてホライゾンを取り戻すために、アーチャーが仲間達へと送った言葉だった。
驚きを隠せない一同を尻目にバーサーカーがそう言い放った瞬間―――

「はぁ? 塵だろ、これは」
「「「「「なっ―――!!」」」」」

―――心底呆れたようにあっさりとアーチャーの思いを踏みにじった。
思わず声上げたアーチャーの仲間達を嘲うかのように、バーサーカーは汚濁に満ちた笑い声をあげた。

「あんな塵共に何かが出来ると? はははははははは!! やはり、塵は塵だな!! 何もできない塵だから、雑多な塵を集めて、満足しているのか? 腐って見える!! 俺を取り囲んでいたあの掃き溜めどもにそっくりだぁ!! あははははははっははっは!! 」

―――アーチャーなど塵だ。
独りよがりで、身勝手で、己が内しか知りもしないし、知る気もないから判らないバーサーカーはそう嗤いながら、汚濁にまみれた言葉を口にした。
それを許す者など、アーチャーの仲間にはいるはずもなかった。

「このぉ外道がぁ!! 」
「その腐りきった根性叩き直してあげますわ!! 」
「貴様のような下劣な異端は、拙僧が裁く―――!! 」
「確かに、塵ね―――あなたの性根が!! 」

真っ先に姿を見せたのは、近くの物陰に隠れていた為に、ネシンバラが止める前に飛び出した二代、ミトツダイラ、ウルキアガ、成美の4人だった。
もはや、時臣の指示など関係なかった。
それ以上に、アーチャーの全てを踏みにじったバーサーカーの存在が許せなかった。
一方、訳のわからない事をさえずりながら、槍を、鎖を、自らの体を、顎剣を向けて突撃する4つの塵を見て、バーサーカーは淡々と呟いた。

「ああ、何だ…やっぱり、塵だ」

塵だ、屑だ、滓に違いない―――他者を己と同等に扱うなどこいつら纏めて狂っているし、気持ちが悪い。
バーサーカーは心の底からそう感じながら、ミトツダイラの投げつけてきた鎖を掴んだ。

「なら、周りの奴から壊してやるよ」
「力比べ…舐められたも―――えっ!? 」

そう呟いたバーサーカーに対し、ミトツダイラは即座に鎖―――<銀鎖>を、バーサーカーの腕に絡ませた。
半人狼であるミトツダイラは高い身体能力を活かした力技での戦いを得意としていた。
―――バーサーカーといえど、力比べというこちらの土俵で戦うならば、勝機はある!!
そして、ミトツダイラは、捕えたバーサーカーを持ち上げ、叩きつけようとして―――バーサーカーに勢い良く引っ張られた。

「我が王と王妃を護るのが騎士の務め―――ご主人様に褒められたくて、狗が尻尾振って喜んでいるんじゃねぇよ!! 」
「―――!? 」

ミトツダイラの騎士としての誓いを嘲ったバーサーカーは、引き寄せられたミトツダイラに軽く拳を突き出した。
ただ、それだけで、バーサーカーの拳をまともに顔面に受けたミトツダイラは、叩き折られた鼻から血を噴き出しながら、意識を失った。

「右で打ったら、左手でも打て―――聖職者ダブルラリアット!! 」
「囀るな、阿呆がぁ!! 」

続けて、上空から高速で移動する半竜―――ウルキアガが半身として前に突き出した右腕を大きく振りながら、叫びと共に、バーサーカーに突撃をしかけた。
ウルキアガの声に対し、忌々しげに吐き捨てたバーサーカーは、何やら鬱陶しい塵が飛び回りながら、こちらに向かってきたので―――

「綺麗だ、伊達成美―――塵は塵だろう、馬鹿か? 」
「ぐぅおおおおおおおおおおおおおお!! 」

―――背中に飛び乗って、この鬱陶しい塵が飛び回らないように背中の翼を引き千切った。
バーサーカーに背中の飛翔翼をもがれたウルキアガは、そのまま、地面を抉るように叩きつけられた。

「お前は、誰を踏みつけているつもりなの!! 」
「塵が囀るな…ああ、面倒だ」

その瞬間、ウルキアガを倒された事に慟哭した成美が一気に突っ込んできた。
普段の成美ならば、この危険なバーサーカーに真っ向勝負をしないだろうが、ウルキアガを傷つけられた事で、冷静さを失いかけていた。
絶叫をたぎらせ襲いかかる成美を心底面倒くさいと思ったバーサーカーは、そんなにこの塵が大事なら返してやる事にした。

「私は馬鹿な半竜が好きよ―――うっとしいぞ、塵が!! 」
「キヨナ―――!! 」

そして、バーサーカーは、ウルキアガの頭を掴むと、そのまま、成美にむかって投げつけた。
バーサーカーに投げつけられたウルキアガを避ける事が出来ずに、成美はそのまま、ウルキアガと衝突した。
ウルキアガの巨躯とぶつかった事で、成美は意識を失い、不転百足の装甲をまき散らしながら、ウルキアガもろとも、コンテナの山に突っ込んだ。

「拙者、武蔵アリアダスト教導院副長―――本多・二代!! 」
「知らん、どうでもいい」

ミトツダイラ、ウルキアガ、成美の三人を次々に撃破したバーサーカーであったが、名乗りを上げる四人目―――本多・二代を前にうんざりしたように呟いた。
この塵共は何がしたいのか、さっぱり分からない―――そう思うバーサーカーを尻目に、二代は<翔翼>による加速術式で移動しながら、蜻蛉切を次々に突き出した。
高速移動と攻撃の連続を繰り出す二代に、その場にいた全員がバーサーカーに手傷を負わせたと思っていた。

「あはははははぁ、なんだそりゃぁ、ナマクラかぁ!! ただ、勝つ事に御座る―――何だ、それは。そういう啖呵が流行っているのか? それで勝てるとか、痴呆か、お前ら? 」」
「結べ、蜻蛉切…!! 」

しかし、二代を嘲うバーサーカーの身体には傷一つ残っていなかった。
そして、そのバーサーカーの毒塗れの嘲笑は、本多家の者として、父である忠勝さえも貶める言葉に、二代は蜻蛉切の力―――刃に写した対象の名前を獲得し、それを斬る事で本体を割断する機能を発動させた。

「木偶の槍だな、芯がない―――うわはははあははははは!! 」
「が、あ…」

だが、やはりというべきなのか、バーサーカーは無傷―――蜻蛉切の持つ割断の力は通用しなかった。
あり得ない事態に眼を見開いて、驚愕する二代を、バーサーカーは中指に力をためて、二代の額にむかって一気に弾いた。
次の瞬間、二代の額から鮮血が迸ると同時に、意識を失った二代はそのまま崩れ落ちた。

「…で、何が出来るんだ、この塵どもは? 何もできない塵だろ。こういうのを塵共の言葉で…無用の長物というのではないのか? なぁ、なぁ、なぁ―――」
「―――!!」

瞬く間に、ミトツダイラ達を叩きのめしたバーサーカーの言葉に、ホライゾンは声を張り上げて、<悲嘆の怠惰>を発動させた。
超過駆動で放たれた黒の稲妻の束―――刃に映った射程距離上のものを削ぎ落とす<掻き毟り>が走った。
ホライゾンは、直撃すれば、空中戦艦さえも殴り砕くことのできる大規模破壊武装を100%の力で発動させた。
黒の爪群れは、地面や倉庫が次々と削ぎ落とされ、海の水さえも削ぎ落とした。

「―――なぁ? 」
「…この宗茂砲本気で使えないと思っていましたが、まさか、対人兵器以下の威力しかないなんて。 」

ただ、それでも、バーサーカーを削ぎ落とすどころか、髪の毛一本削る事さえ叶わなかった。
平然と独り言を言い続けるバーサーカーに対し、ホライゾンは手にした<悲嘆の怠惰>を見て、眉をひそめて首をかしげた。


「お、お兄さん、どうしたの? 」
「宗茂様!! 膝をついて、だ、大丈夫ですか!? 」
「いや、地域制圧用としては優秀なんです…そうなんです…ただ、相手が悪いというか…」

ちょうどその頃、葵と凛の護衛役に回されていた元<悲嘆の怠惰>の持ち主は、慌てふためく妻と護衛対象の凛がいるなかで、膝をついていた。


「そんなかすり傷一つついていないなんて…!! 」
「おい、そこのあんた!! ライダーのマスター、あんただよ!! あいつのステータス、どうなっているのか、分かるか? 」
「え、ああ…今、確認して…え? 」

間違いなく対城宝具クラスの攻撃を受けたに関わらず、無傷のバーサーカーに、アイリスフィールは目を疑った。
まさかのバーサーカー無双に焦った銀時は、ライダーのマスターであるウェイバーに向かって、バーサーカーのステータスを尋ねた。
呆然としていたウェイバーであったが、銀時に促されて、バーサーカーのステータスを見た瞬間、凍りついた。

「冗談だろ…そんなバーサーカーのサーヴァントなのに…」
「バーサーカーかよ…まぁ、何か話は通じにくそうな相手だろうけどな…つか、独り言喋っているだけにしちゃ、理性が…」
「そんな問題じゃないんだよ!! あいつ…あいつ…」

目の前のサーヴァントがバーサーカーであることを告げるウェイバーに、バーサーカーの言動を見ていた銀時は、ある意味予想通りの言葉にうんざりしたように言った。
しかし、疑問もあった―――本来、バーサーカーのクラスで召喚されたサーヴァントは、狂化のスキルにより、理性を失っているはずなのだ。
だが、あのバーサーカーは独り言じみた言動を除けば、理性を失っているようには見えなかった。
もっとも、ウェイバーが驚いていたのは、それすらも些細なことと言える別の事だった。

「あのバーサーカー…魔力供給を受けていないんだ!! 自前で持っている無量大数なんていう桁違いの貯蔵魔力だけで戦っているんだ!! 」

すなわち、バーサーカーが、マスターである桜からの魔力供給を受けていないという事に―――!!


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。
テキストサイズ:25k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.