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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第6話:撤退者達の誓い
作者:蓬莱   2012/07/09(月) 23:59公開   ID:.dsW6wyhJEM
倉庫街で、バーサーカーが次々と塵を潰していた頃、使い魔の視覚を通して、状況を見ていた一人の男―――間桐雁夜は毒づいていた。

「くそっ…!! バーサーカーの奴…派手にやりやがって!! 」

召喚された時から、雁夜もバーサーカーが強力なサーヴァントである事は分かっていたつもりだった。
だが、雁夜は、次々と敵対するサーヴァントを屠るバーサーカーの圧倒的な力を目の当たりにして、改めて気付かされた。
―――こいつだけは、召喚してはならないサーヴァントだという事を。

「俺は、お前みたいな塵の糞なんざ要らない。俺が穢れる」

桜に叶えるべき願いを言ったバーサーカーは、魔力供給を試みよとする桜に対して、そう告げた。
現世に現界する為に必要な魔力の供給を拒むバーサーカーに、雁夜は不思議に思った。
しかし、マスターである桜から教えられたバーサーカーのステータスを聞いた瞬間、その疑念は一気に吹き飛んだ。

「ああ…確かに、規格外だろうな…一切の魔力供給を必要としないバーサーカーなんて…!! 」

バーサーカーが、魔力供給を必要としない理由は二つ―――無量大数という桁違いの貯蔵魔力と、もうひとつ、バーサーカーの固有スキル<自己愛の理:EX>だった。
この固有スキルは、バーサーカーの持つ神域すら超越した常軌を逸する唯我の渇望から生じたもので、狂化による理性の消失を防ぎ、<単独行動:EX>がスキルとして追加されるのだ。
歴代のバーサーカーは、いずれも魔力供給の枯渇による自滅で敗退している。
だが、このバーサーカーに限って言えば、それは絶対にあり得ない事なのだ。

「バーサーカーは最強だ…この第四次聖杯戦争の、いや、歴代聖杯戦争のサーヴァントの誰よりも…」

誰ともなく呟いた雁夜の言葉は、ただの過大評価ではなかった。
事実、バーサーカーの蹂躙を見ていた者ならば、誰もがそう思っていた。
だが、雁夜にとって、それはどうしようもない絶望と同意義だった。

「頼む…だれか、バーサーカーを倒してくれ…桜ちゃんを助けてくれ…」

涙を流しながら、神に祈るかのように蹲る雁夜の嗚咽が、下水道の中に空しく響いた。


第6話:撤退者達の誓い


「さぁて…とんだ化け物が出来てきたわけだが…どうする? 銀さんとしちゃ、このまま逃げたいところなんだけど」
「そうね…あいつが、そんな事を許すとは思えないけど」

顔をひきつらせた銀時は、桁違いの強さを誇るバーサーカーに、冷や汗を垂れ流した。
もはや、逃げたいところだったが、セイバーの言う通りで、あのバーサーカーから逃げる事は極めて困難だった。
もはや万事休すとなった状況に追い詰められた銀時達に対し、ミトツダイラ達を倒したバーサーカーは無表情で呟いた。

「こいつらも…あの掃き溜めと同じで、自分以外が壊れると泣き始めるのか」

さっきからこいつら、何やら訳の分らぬ事を囀りながら、湧き出てきた。
何がしたいのか、これっぽっちも理解できないが、バーサーカーは、唯一つ、こいつらがあの掃き溜めどもと同類だという事は理解できた。

「先に周りの奴から壊してやるよ」
「トーリ様…!! 」

だから、バーサーカーは、この塵どもは他人が壊れると泣き出すなら、まずは余分なものから壊すことにした。
そうすれば、勝手に泣いて、勝手に動きが雑になって、綺麗に削れて踏みならせるだろう。
そう思ったバーサーカーは、とりあえず、あそこで動かなくなった塵―――アーチャーを踏みつぶそうと、アーチャーのところに近づき始めた。
アーチャーに近づこうとするバーサーカーが、何をするのか察したホライゾンが駆けつけようとした。
だが、ホライゾンが駆けよる前にバーサーカーは、アーチャーを踏みつぶそうとして―――

「あぁ? 」
「と、トーリ君を、こ、殺さないで…!! すきな人なの…!! ほ、ホライゾンがすきな人なの…!! お願い…!! 」

―――また湧いてきた塵―――アーチャー庇うために、思わず飛び出してきた鈴に触られている事に気付いた。
ミトツダイラ達を倒したバーサーカーの脚を掴みながら、鈴は涙を流しながら、アーチャーを殺さないように必死に言った。
そんな鈴を見て、バーサーカーは心底から思った。

「塵が触るな…!! 面倒だ、ああ知らん。」
「あ、うっ…!! 」

阿呆か、気持ちが悪い―――心の底からそう思ったバーサーカーは、自分の脚を掴んだ鈴の腕を踏み砕いた。
腕の骨を砕かれた鈴であったが、それでもアーチャーを庇おうと、アーチャーの身体に覆いかぶさった。
だが、鈴の行動を全く理解しないバーサーカーは、面倒なので鈴ごとアーチャーを踏みつぶそうとした。

「纏めて潰してや―――ドゴォ―――あっ? 」

次の瞬間、バーサーカーは、何かに触られた―――殴られた事に気付いた。

「おいおい、何勝手に、人を塵扱いしてんだ、てめぇ。しかも、女子供相手によぉ。てめぇ、あれか? 俺様最強だねとか言いながら、誰にも関わりたくねェから引き篭っているニートか、コノヤロー」

アーチャーと鈴を踏みつぶそうとするバーサーカーを殴りつけたのは、セイバーを装甲した銀時だった。
ここで、バーサーカーに手を出すなど自殺行為に他ならなかったが、銀時にはどうしてもバーサーカーの行動を見過ごすことなど出来なかった。
―――この全裸の兄ちゃん―――アーチャーは確かに馬鹿かもしれないが、多分仲間達に好かれているのだろう。
―――こんな可愛い嬢ちゃんまで、体張って、護ろうとしているんだからなぁ。
だからこそ、それら全てを塵扱いするバーサーカーを見過ごすなど、銀時の武士道にとって断じて許せない事だった!!

「まだ、塵がいたのか…お前ら、消え失せろよ」
「塵、塵…五月蠅いんだよ、糞野郎が。てめぇなんざ、俺達の前座にすぎねぇんだよ。なぁ、セイバー? 」

次々と増え続ける塵に苛立ちを募らせるバーサーカーに対し、銀時は軽口を叩きながら、木刀を構えた。
そして、銀時は、セイバーにも同意を求めるが、そのセイバーの口から出たのは、意外な言葉だった。

『…そこのあなた、自分の命を引き換えにしても、こいつを殺す覚悟はある? 』
「え…!! 」
「おい、セイバー…てめぇ、何言ってやがる!! 」

セイバーは、いつもの人間臭さなどない、無感情な機械であらんとする声で鈴に尋ねた。
セイバーからの問いかけに、思わず声を詰まらせる鈴対し、銀時はセイバーの不穏な言葉に声を荒げた。
銀時は、セイバーというサーヴァントが持つ固有スキル知っていた。
―――悪しき者を殺したなら、善なる者を殺さねばならない呪いから転じた固有スキル<善悪相殺の誓約>を。

「…お、お願い…!! ト、トーリ君を、ホ、ホライゾンを…みん、皆を、たす、助けて…!! 」
『諒解したわ。その言葉を以って、契約として…あなたの友達を助けるわ』

しばし、戸惑う鈴であったが、この危機を脱する為に覚悟を決め、セイバーに助けを求めた。
鈴の言葉を聞いたセイバーは、鈴の願いを聞き届ける為に、バーサーカーを討ちとらんと太刀を抜いた。

「ふざけんじゃねぇぞ、セイバー…!! そんな事、俺が…!! 」
『そう言うと思ったわ…』

セイバーの独断に激怒する銀時に対し、セイバーは出来うる限り機械的に言葉を返した。
多分、こうなることは、ランサーと戦っていた時から分かっていた。
だが、この状況下で、銀時の遣り方では、バーサーカーを倒す事が出来ない。

『けど、御堂はどうやら、諒解したようね』
『令呪を以って命じる―――セイバー、銀時を精神汚染しろ』
「き、切嗣、てめえええええええええ!! がぁああああああああああああああ!! 」

だからこそ、マスターである切嗣は、セイバーのもつ精神汚染―――仕手の精神を支配するセイバーの技を使用するよう令呪で命じたのだ。
セイバーの言葉と同時に、令呪によって、セイバーの持つ精神汚染の力が発動した。
切嗣の名前を叫びながら、セイバーの精神汚染に抵抗する銀時だったが、流れ込んでくる汚染に瞬く間に意識を飲み込まれた。

「セイバー…銀時は? 」
『銀時の意識を、一時的に同調させたわ…もう、このバーサーカーは殺す以外の方法はないわ』

その様子を見ていたアイリスフィールは、絶叫をあげた銀時を不安に思い、セイバーに尋ねた。
アイリスフィールの問いかけに対し、セイバーは、銀時を精神汚染したことを告げ、バーサーカーを仕留めるために、相まみえんとした。

「―――善悪相殺? 塵を潰すと、別の塵を潰すのか…ちょうどいいなぁ」
『ええ…そうね。あなたのような塵を潰すにはね!! 』

野太刀を構えるセイバーと対峙したバーサーカーだったが、セイバーの記憶を覗き見て、こいつは塵掃除には使えるかと、毒塗れの賛辞を送った。
不愉快極まりないバーサーカーの笑いに耐えながら、セイバーは太刀が背に付くまで大きく振りかぶった。

「なんや…何する気なんや、あいつ…!! 」
「まさか、宝具を使うつもりなのか…!! 」

ようやく起き上がった真島は、太刀を振りかぶったセイバーの姿を見て、何をするつもりなのか分からず、唖然として呟いた。
だが、同じく起き上がったライダーは、即座にそれが、セイバーの宝具が発動している事に気付いた。

「―――磁装<エンチャント>・蒐窮<エンディング>!! 吉野御流合戦礼法、<雪颪>が崩し…」

そして、セイバーの言葉と同時に、セイバーの背中と太刀の刀身に電撃が迸り、激しい磁気反発が生じていた。
この宝具は、セイバーの持つ中で、桁違いの威力を持つ対城宝具であるが、隙と魔力の消費が大きいため、扱いが極めて難しい代物だった。
だが、バーサーカーは、自分自身の強度を過信しているのか、攻撃どころか避けるそぶりさえ見せていなかった。
勝てる―――半ば確信めいた予感を抱いたセイバーであったが、マスターである切嗣は別の手段を取ろうとしていた。

「…舞弥。セイバーが宝具を放った瞬間、僕がバーサーカーのマスターを狙撃する。僕のカウントに合わせてアサシンを攻撃しろ。制圧射撃だ」
『…了解』

バーサーカーのマスターである間桐桜をこの場で射殺する―――非情とも言える切嗣の指示に、舞弥は即座に頷いた。
確かに、セイバーの宝具を持ってしても、バーサーカーを仕留めきれない場合、マスターである桜を殺す以外、状況を打破できる手段はほかになかった。
事実、切嗣も知らない事だったが、バーサーカー自身も、自分に纏わりつく塵―――桜が消えたなら、何の未練もなく即座に消滅するつもりだった。
切嗣は、スコープから桜の姿を見て、自分の娘であるイリヤスフィールと変わらない世代の子供である事を知り、即座に迷いを断ち切るように狙撃体制に入った。

「電磁撃刀<レールガン>―――威<オドシ>!! 」
「今だ…!! 」

そして、セイバーが磁気反発を利用して強烈な打ち下ろしを放つと同時に、スコープから見える桜の頭に狙いを付けた切嗣は引き金を引いた。
バーサーカーを巻き込んで、土煙を巻き上げながら、海さえも断ち切ったセイバーの宝具<電磁撃刀―――威>の爆音に紛れて、切嗣のライフルから二つの銃声があたりに小さく響いた。

ちょうど、その頃、街のあちこちに分散したトランプ達の眼を通して、情報収集する一組のマスターとサーヴァントがいた。
その二人こそ、言峰綺礼とボルサリーノ帽子を被った1930年代のギャング映画に出てきそうな服装をした男―――綺礼のサーヴァントであるアサシンだった。

「…終わったか」
「ああ、そうみたいだな」

トランプ―――アサシンの宝具を通して、倉庫街での戦いを一部始終見ていた綺礼とアサシンは、思わずそう呟いた。
桁違いの強さを誇るバーサーカーに、セイバーは宝具を発動させると同時に、切嗣はバーサーカーのマスターである桜に狙撃した時、綺礼とアサシンは、勝負は決したと思っていた。

「恐らく、セイバーの宝具はあのバーサーカーを倒せないだろう。しかし、どこのだれかは知らないが、バーサーカーのマスターへの直接攻撃は確かに有効だろうな」
「確かに、如何にバーサーカーがけた外れの貯蔵魔力を持っているといえど、依り代であるマスターを失えば、単独で存在する事は難しいだろう。ただ、単独行動スキルが気がかりだが…」

アサシンは、セイバーがバーサーカーに勝てないと判断しつつ、幼い少女を容赦なく射殺する切嗣の冷酷さを皮肉った。
アサシンの皮肉に対し、綺礼は、倉庫街の戦いに思うところはなく、ただ、この聖杯戦争に衛宮切嗣が参戦していることを確認できただけでも十分な収穫だった。
だが、アサシンに内心を悟られないようにしつつ、桜の死を冷静に分析しながら、バーサーカーが無念のうちに聖杯戦争から脱落するであろうと推測した。

「いや、そうじゃない。こいつは、マスターが死ぬ事なんて欠片も気にしちゃいない。むしろ、俺を縛る塵が消えたと喜んで、消えるだろうぜ」
「…聖杯に叶えるべき願望があるのにか? 」

だが、そんな綺礼の推測に対し、アサシンは即座に否定した。
アサシンは、バーサーカーの行動を見たうえで、バーサーカーが、マスターである桜の死に無関心であると断言した。
アサシンの言葉に、思わず、綺礼は訝しむように聞き返した。
本来、聖杯戦争において召喚されたサーヴァントは、マスターとの契約の為だけに聖杯戦争に臨む事はない。
サーヴァント達も、何かしら聖杯を求める理由があるのが普通なのだ。
当然、あのバーサーカーにも聖杯を求めるだけの願いがあるから、聖杯戦争に招かれたはずなのだ。

「そんなもの、こいつにはない。俺の経験からいえば、こいつは間違いなく極大の下種だ。自分以外は塵屑同然。てめぇ以外の他人を要らないと踏みにじる最悪の自閉者―――いわゆる吐き気を催す邪悪って奴だよ。そんな奴が万能の願望器なんてものに興味なんか持つはずがないんだよ」
「つまり、独りになれるなら、マスターが殺されても頓着しないということか」
「だろうな…きっと、マスターを殺した奴に、反吐が出るような毒混じりの祝福を送ってくるだろうぜ」

だが、アサシンは、バーサーカーにとって聖杯になど欠片も興味がないと見抜いた。
己という存在のみがあればいい、他者などいらない―――あの方と出会うまでの自分ならある程度共感できただろう。
そういった感情は、よほどの善人でない限り、誰しもが持っているモノなのだ。
だが、バーサーカーのそれは常軌を逸するほど極端で、それを押し通すだけの力を持っているのだ。
己を唯一無二の存在とし、それを実行できる者が、はたして、聖杯に何を望むというのだろうか?
アサシンの見解に耳を傾けていた綺礼は、バーサーカーにとってマスターさえも排除するべき異物であることに納得せざるを得なかった。
綺礼の言葉を肯定しながら、アサシンは、忌々しそうにボヤキながら、倉庫街にいるトランプ達の目を通して、倉庫街の様子を窺った。

「何…? 」

だが、アサシンが見たのは、予期せぬ事態の幕開けだった。


海を両断するほどの威力を誇るセイバーの宝具<電磁撃刀―――威>が、バーサーカーに叩きこまれた瞬間、誰もがバーサーカーの消滅を確信していた。

「まず、感じたのは<悲憤>―――求めしものは悪の廃絶」

―――土煙がはれると同時に、バーサーカーが、宝具<大極―――大欲界天狗道>を発動させるまでは。
卍曼荼羅から出現したのは、軍神の様な猛々しさと統治者としての気風を持つ、威風と威厳に満ちた初老の男だった。

「何故悪を討てぬ。何故民を救えない。善である為に縛る枷ゆえに善たる我らに悪を討てない。ならば、堕ちよう。我が悪を以って悪を喰らおう。原罪という獣を魂に宿せ―――」

善でありながら善人を守れず、悪を滅ぼせない不条理に対する憤りにより生み出された理の世界を治めた者の残滓だった。
皆が罪を持った人として自然な姿、自由ゆえに本能を重んじる畜生の混沌と称された世界の名は―――

「―――<堕天奈落>!! 」
『うああああああああああああ―――!! 』

―――人が罪を抱き堕天する世界<堕天奈落>と呼ばれていた。
次の瞬間、初老の男が眼を見開くと同時に、セイバーの放った<電磁撃刀―――威>の威力が、セイバーにめがけて跳ね返された。
それは、善悪相殺の誓約を持つセイバーに対する皮肉であるかのごとく、魔力を消耗し、隙の生じたセイバーに容赦なく叩きこまれた。

「塵掃除ぐらいしか役に立たないくせに…お前、さっさと他の塵共を消せよ。元より、お前、それしか意味のないものだろ? 」
「セイバー!! 」

初老の男が砕けると同時に、自分の中の塵掃除を済ませたバーサーカーは、半壊状態のセイバーに治癒魔術を施すアイリスフィールを見ながら、他の塵を掃除しろと嘲るように言った。
そして、どこの誰かは知らないし、興味もないが、塵掃除をしてくれそうなもう一人の塵に向かって、同じような嘲りの笑みを浮かべた。

「それと俺にへばり付く薄汚い塵を潰すのはいいがな…」
「なん…だと…っ!? 」

桜を狙撃した何者かに対してなのか、バーサーカーは、独り言を淡々と呟いた。
バーサーカーの行動に、言いようのない不安を覚えた切嗣は、即座にスコープを先程狙撃した桜の様子を窺った。
そこに映っていたのは、切嗣達をさらに絶望に追い詰めるであろう現実だった。

「潰すなら、ちゃんと潰せよ。俺に纏わりつく塵ごとしっかりなぁ」
『―――言ってろ、この下種野郎』

マスターを殺せと暴言を吐くバーサーカーに対し、桜がいるであろう土煙の中ら、奈落のような憎悪と敵意に満ちた若い少年の声が響いた。
そして、少年の声と共に、彼ら―――バーサーカーの宝具<大極―――大欲界天狗道>に引きずられる形で、バーサーカーと契約した桜を守護することとなった前任者達が姿をあらわにした。

『だが、確かに、これはあまりに喜ばしいものではないな』
『然り…それがか弱気少女であるならば、その筋書きは認められんよ』
『大丈夫だよ…泣かないで…私が抱きしめてあげるから』
『…』
『というわけだ。こちらも不本意だが、この子をお前らに殺させるわけにはいかないんだよ』

切嗣の放った一発目の弾丸を叩き落とした、腰まで伸ばした金髪と黄金の瞳を持つ眉目秀麗な男が興ざめをしたかのように嘆いた。
続いて、二発目の弾丸が撃たれたという事実をなかった事にした、ボロボロのロープを纏った、枯れ木のようにやせ細った変質者が、芝居がかった口調で失笑した。
そして、気絶する桜を優しく抱きしめながら守る少女は、桜に向かって可愛らしい頬笑みを湛えていた。
そんな一同を横目で見ながら、戦装束に身を包み、勇ましく凛々しい女丈夫と断頭台の刃を思わせる武器をその腕に宿した、中性的な外見をした少年が、桜を守るように立ちはだかっていた。
そして、誰もが、サーヴァントという枠にはめられたことで弱体化していたものの、そのステータスは尋常なものではなかった。

「う、嘘だろ…こいつら全員がサーヴァントだなんて…」
「あっ…あっ…」

桜を守護する為に現れた守護者たちを前に、ウェイバーやアイリスフィールらは、もはや言葉と共に戦意も失っていた。
桁違い強さを誇るバーサーカーに、唯一の打開策であったマスターである桜の殺害を阻もうとする5体のサーヴァント―――もはや勝ち目など何処にもなかった。

「早く消えろよ。臭いんだよ、この塵が…塵を抱えて、満足している掃き溜めが」
「うるせぇよ、てめぇ…あれか? 親にブチ切れているヒキニートですか、コノヤロ―」

だが、当のバーサーカーは、桜を守ったサーヴァント達に対し、忌々しそうに吐き捨てた。
マスターを守る強力な守護者達も、マスターの死を願っているバーサーカーにしてみれば、鬱陶しい塵程度にしか思っていなかった。
そんなバーサーカーの言葉に、アイリスフィールにセイバーの治療を任せた銀時が軽く挑発しながら、睨みつけた。
だが、無傷と言うわけではなく、銀時自身も、折れた骨がつきだした左腕からは血が滴り落ち、肋骨も何本か折れていた。

「生きていたみたいね、銀時…ああ、ちょっとさすがにやばいかもね」
「確かに、アレほどの理不尽な強さ―――忠勝、いざと言う時は、ますたぁを連れて逃げてくれ」
「ふぅ…とりあえず、嬢ちゃんが生き返るまでは、時間稼がなあかんなぁ…」
「…」

とここで、ダメージから立ち直ったランサー、ライダー、真島、使えない宗茂砲に代わって、<憤怒の閃撃>を構えたホライゾンも立ち上がった。
だが、もはやバーサーカーとの戦力差を、身を持って思い知らされたことで、各々命に代えても、マスター或いは仲間だけは逃がそうとするつもりだった。
そんな一同に対して、銀時はいつものように憎まれ口を叩きながら、檄を飛ばした。

「馬鹿言ってんじゃねぇよ、お前ら。何、死に花飾ろうなんて考えてんだよ。美しく最期を飾り付ける暇があるなら、最後まで美しく生きようじゃねーか」
「当然」
「ああ、その通りだな」
「分かっとるって…桐生ちゃんとの約束もあるからのう」
「Jud.」

恐らく、この面子の中で、かなりのダメージを負っているはずの銀時の檄に、それまで玉砕覚悟だった一同は命に代えても、生き延びて、この窮地を脱する事にした。

『ほう…』
『これは…』
『あっ…』
『むっ…』
『なるほどな…』

戦場の流れが変わった―――桜を守護する五人は、それまで悲壮感しか漂わせていなかったこの場に、生き残るために奮い立つ闘志が戻った事を感じた。
同時に、それを為した一人の男―――銀時の存在が大きいという事も。

「ああ、蠢くな、這い回るな、主張をするな、息をするな―――!! 何の茶番だ、お前ら!! せめて、目の前で落ちるものがあるなら拾ってやりてぇのさ―――塵を背負って、どうして満足する!! 汚らわしいぞ…消えてなくなれ」
「茶番かどうかは、てめぇの身体で教えてや―――ウー!! ウー!! ―――え? 」

唯一人、バーサーカーだけはそんな事を理化せず、ただ、必死にあがこうとする塵共に苛立ちを募らせていた。
殺気をまき散らすバーサーカーに向かって、銀時はかろうじて動く右腕だけで斬り込もうとした。
だが、その寸前、突如として、倉庫街のあたりに無数のサイレンの音が鳴り響いた。
聞き慣れないサイレン音に戸惑う一同の中で、銀時はこのサイレン音に聞きおぼえがあった。
そう、これは―――

「冬木市警察署捜査一課の秋巳大輔だ!! 倉庫街で騒ぎが起こっているって駆けつけてみれば…何なんだ、この惨状…それに、ロボット!? 」

―――倉庫街で爆破音ありとの通報で、倉庫街へと駆けつけてきたパトカーのサイレン音だった。
制服を着た十数人ほどの警官達を引き連れて、警察手帳を見せた刑事―――大輔は、現場の惨状と忠勝やセイバーの姿を見て、驚いていた。

「…け、警察が来たぁ―――!! 」
「え、そんな…こんな時に…!! 」
「…ちょっとマスター、ちゃんと人払いの結界を張ったの? 」
『貴様は…!! また、私の魔術師としての力量を疑うような真似を…!! そもそも…ん? 』

だが、それは、この場にいたサーヴァントやマスターだけではなく、時臣や監督役である璃正にとっても予想外の事態だっただろう。
聖杯戦争の進行は秘密裏に行われなければならず、当然のことながら、国家権力の象徴である警察の介入など論外だった。
警察の登場に、青ざめる銀時やアイリスフィール達であったが、ランサー一人だけはジト眼で、人払いの結界を張ったであろうケイネスに向かって不満げに尋ねた。
不満丸出しのランサーからの指摘に、悔しさのあまり、ヒステリックに叫ぼうとするケイネスであったが、結界の確認をした瞬間、ある事に気付いた。

『馬鹿な…いや、これは…結界が破られているだと…!? 』
「え、結界が破られているって、それって…」

ケイネスが張ったはずの人払いの結界が何時の間にか破壊されていたのだ。
自身の張った結界を人知れず破壊された事に愕然とするケイネスであったが、ランサーがある事実に疑問を感じていた。
―――誰が、何の目的で、ケイネスの張った結界を破壊したのかということに。

「とりあえず、この惨状については、署できっちり聞かせて―――塵がぁああああ!!―――え? 」
「塵が、塵が、塵がああああああ!! 俺の体に触れるな、這い回るな増えるな鳴くな臭い臭い臭い臭い臭い臭いぃ!! やめろ、やめろ、俺俺俺俺俺だけがいいのにぃ!! 」

そんな事など知る由もない大輔は、容疑者と思われる銀時達を署まで連行しようとした。
だが、次の瞬間、バーサーカーの汚泥のごとき渇望がうねりをあげ、その絶叫があたりに響いた。
同時に、バーサーカーを保護しようとした警官の身体が、鮮血をまき散らしながら、千切れとんだ。
それを皮切りに、湧き続ける塵に苛立ちを爆発させたバーサーカーは、銀時たちではなく、その場にいる警官達に対して襲いかかった。

「おいおい、ますます、手がつけられなくなっちまったぞ、あいつ…すげぇキレてるし」
「いかん…このままでは、あの者たちが…!! 」

バーサーカーの暴走とも言える行動に呆気に取られる銀時であったが、ライダーは焦りの声をあげた。
このままでは、バーサーカーによって、聖杯戦争に関係なく、この倉庫街にいる人間すべてが殺されかねない状況だった。
その中で、ウェイバーは、暴走するバーサーカーの行動からある可能性を呟いた。

「あいつ…サーヴァントと普通の人間の見分けがついていないのか…? 」

事実、これまでのバーサーカーの行動から見るに、バーサーカーにとって、己以外の他人は塵同然という具合だった。
ならば、バーサーカーは、他者全てを塵としか認識していないために、サーヴァントと人間の見分けがついていないのではないか―――ウェイバーはそう推測していた。
事実、ウェイバーの推測は的中しており、バーサーカーの固有スキル<自己愛の理>には、己以外の他人は異物としか認識できなくなるというデメリットもあった。
これにより、バーサーカーは強大な力を有しながらも、探索能力に関してはどのサーヴァントよりもはるかに劣っていたのだ。
そもそも、バーサーカーが倉庫街へたどり着いたのも、雁夜が、日中の間、ランサーを尾行していたからだった。
もし、そうしなければ、バーサーカーは冬木市に住む全ての人間を滅尽滅相という大虐殺を起こしかねなかった。
だが、それが、この状況を打開するためにどう役立つのか―――どうあがいても覆せないバーサーカーとの戦力差に歯を噛みしめるウェイバーであったが、ここで、ある異変に気付いた。

「うわ…!! って、何なんだ、この煙…!! 」

突如として、視界が利かなくなるほどの白い煙が次々と噴き出し、あたり一面を覆い尽くし始めたのだ。
しかも、それは魔術によるものではなく、化学反応の刺激臭―――軍用の携帯用発煙筒による煙幕だった。
次々と状況が慌ただしく変化していく中で、桜を守っていた中性的な顔の少年が煙幕越しに、銀時達に話しかけていた。

「…おい、そこにいるあんたら」
「あ? 何だよ…女っぽい兄ちゃんなんか用かよ? 」
「…女っぽいのは聞き流してやるから、あの下種野郎に見つかる前に、さっさと逃げろよ」

いつも気にしているコンプレックスを突く銀時の余計なひと言に少しだけ苛立ちながら、少年は投げやりにここから逃げるよう促し始めたのだ。
あくまで、少年達の目的は、マスターである桜を守ることであり、あの下種野郎―――バーサーカーを喜ばせるために、銀時らと戦うつもりは毛頭なかった。

「忠勝!? 待て、忠勝!! わしを放すんだ、忠勝、忠勝うううううううううぅ!! 」
「う、うわ…!! え、ちょっと…!! 」
「…!! 」

まず、最初に動いたのは、ライダーとウェイバーを抱えて、少しでもここから離脱しようとした忠勝だった。
あの少年の言う通り、この瞬間において、バーサーカーから逃げ出すチャンスはほかになかった。
己の主であるライダーと、そのマスターであるウェイバーを逃す為に、バーサーカーに襲われる警官達を助けんとするライダーの声を無視して、一気にこの場から飛び去った。

『逃げるよ…!! 今しかバーサーカーから撤退するチャンスはないよ!! 』
「で、でも…あ、あの人達は…!! 」
「…」

続いて、この戦況を見ていたネシンバラも撤退の決断をした。
アーチャーや仲間を傷つけられ、その矜持さえ踏みにじったバーサーカーに背を向けるのは歯がゆいかもしれない。
だが、バーサーカーによって、ここで全滅をするより遥かにマシだった。
当然のことながら、警官達を見捨てることに、戸惑う鈴や無言という形で拒否するホライゾンであったが、ここで、遠坂邸にいた正純は非情の決断を下した。

『里見生徒会長―――トーリ達を連れて、この戦域から今すぐ脱出してくれ』
「ま、正純…!! 」
「正純様…」
『了解した…!! 』

今はだれも救えない―――自分の判断が正しいとは思えないが、それでも、正純は上空に待機していた里見義康に、少なくともトーリ達だけは助けるように指示を出した。
その言葉を受け、義康の搭乗する青い、犬の様な頭部装甲を持つ女性型の巨大なロボット―――武神<義>は、傷ついたトーリ達やこの場に残ろうとする鈴やホライゾンを両腕で抱え込んだ。
それと時を同じくして…

『マティルダよ…』
「何、アラストール…」

逃亡するランサーに向かって、マティルダ―――ランサーの真名を、アラストールは唐突に呼んだ。
アラストールの呼びかけに対し、聞き返すランサーであったが、次に出る言葉は分かっていた。
あの自己愛に狂った最悪の下種野郎―――バーサーカーに汚された、傷つけられた、踏みにじられた。
ならば、ランサーのやらねばならない事は唯一つ。

『次は負けぬぞ』
「ええ、もちろんよ…!! 」

あのバーサーカーの自己愛に真っ向から打ち砕くのみ―――!! 
確固たる決意を秘めたアラストールの言葉に、ランサーは笑みを浮かべながら、頷いた。

「放せや、放さんかい、ド阿呆ぅ!! わいは、まだ―――!? 」
「悪いわね…今は、逃げるわよ」

煙幕の中で暴れまわるバーサーカーに挑もうとする真島を気絶させたキャスターは、あらゆる感知遮断の魔術を使いながら、真島を抱えて、必死になって逃げ出した。
この時、キャスターは唯の少女だった頃を思い出した―――異端の徒として捕らえられ、病に冒され、四肢を腐らせ、死力を失い、死にかけていたあの頃を。
今のキャスターでは、バーサーカーとの力の差は桁違いで、どう覆そうとも勝ち目などこれっぽちもなかった。
いっそ、あの場で死ねたなら、どれだけ楽だっただろう。
だが、それでも―――

「死んでなるものか…あの人の、ヴェラードの望みを叶えるまでは!! 」

―――愛する男の理想叶える為には、キャスターは死ぬわけにはいかなかった。


「失せろぉ、塵がぁ!! 」
「ひ、来るな…来るなあああああああ、ぎゃああああああ!! 」

立ち込める煙幕の中で、携帯していた拳銃を発砲していた警官の一人を、バーサーカーは腕の一振りで血肉へと変えていった。
区別など一切なく、容赦などまるでないバーサーカーの蹂躙に、もはや白い煙幕は血しぶきに染まりかけていた。

「ちっ、何なんだ…何なんだよ、こいつはぁ―――わりぃな―――えっ? 」
「今は、あんただけでも、逃げてくれやあああああ!! 」

十数人の警官が、たった一人の少年によって全滅していく―――この現実離れしたこの状況に、拳銃を構えた大輔は混乱していた。
だが、ここで、大輔は、短く詫びを入れる言葉と共に、何かしらの浮遊感を感じた。
続けて、声の主があの天然パーマの銀髪の青年―――銀時であると分かった瞬間、大輔は倉庫街に広がる海へと勢いよく投げだされた。

「馬鹿!! さっさと逃げるわよ!! アイリスフィール、銀時にしっかり掴まってなさい!! 」
「ええ、分かったわ…!! 」

そんな銀時に対し、ある程度の治癒を受けたセイバーは叱咤しながら、その背中にアイリスフィールと銀時を乗せて、急いで離脱しようとした。
もはや、警官達は先程、銀時が助け出した刑事―――大輔を除いて、バーサーカーによって皆殺しにされていた。
如何に煙幕があろうとも、自分と違う異物がいると分かれば、バーサーカーに容易く見つかってしまう。

「くそっ…またかよ…また、取りこぼしちまうのかよ…!! 」

その中で、アイリスフィールは、苦痛に顔をゆがませる銀時は、心底後悔するような声で絞り出すように呟くのを聞いた。
その中で、バーサーカーは、倒すべき異物の存在にようやく気付いた。

「塵が…誰が逃げていいと言ったぁあああああ!! 」
『がっ―――しまった!! 』
「と、トーリ君!! 」
「トーリ様…!! 」

バーサーカーは、咆えながら、近場にあったパトカーを、この場から飛び立った武神<義>に向かって投げつけた。
パトカーの衝突と共に起こった衝撃に、武神<義>の体は小さく揺れるも、それでも墜落する事はなく、逃走には成功できた。
ただ、アーチャーだけがその両腕から堕ちてしまった事を除けば!!
必死に手を伸ばそうとする鈴やホライゾンのはるか下―――地面に叩きつけられようとするアーチャーを屠らんとバーサーカーが待ち受ける間を―――

「セイバー、ちょっとばっかし寄り道だぁあああああああ!! 」
「何!? 」

アーチャーの落下に気付いたセイバーに乗った銀時によって、アーチャーを掻っ攫われてしまった。
予期していなかった銀時の助太刀に驚くバーサーカーを尻目に、アーチャーを乗せたまま、セイバーは一気に逃げ出した。

「…いやああああああああああ!! 全裸が、全裸が頭の上に、いや、何、フニフニしたものが…え、何か生温かくて、固くなっているんだけど、これ!! 」
「おいいいいいいいい!! そんな実況要らないから!! むしろ、PTA的にアウトになっちゃうから!! 」

―――頭の上に全裸を寝かされて、慌てふためくセイバーと必死になって落ち着かせようとする銀時との、何かすっごく間抜けなやり取りをしながら…

「塵が…!! 」
「おい、何なんだ、これは…!! そこの君、今、応援に駆け付けたのだが、一体何が―――塵共が!!―――!? 」
「どこまで、俺の邪魔をする!! 無駄に増えるばかりで鬱陶しい塵屑どもがあああああああああ!! 」

すぐさま、追いかけようとするバーサーカーであったが、その前に、不幸にも応援に駆けつけてきた警官達と出くわしてしまった。
またもや、異物と紛れてしまったことで完全に銀時らを見失ってしまったバーサーカーは、怒りの絶叫と共に近づいてきた刑事の一人を叩きつぶした。

「―――滅尽滅相!! 」

怒り狂うバーサーカーの咆哮と共に、この場に駆け付けてしまった警官達の命運は塵のように蹴散らされていった。


「ふぅ…序盤からここまで派手になった聖杯戦争なんて、過去にあったのかしらね…」

バーサーカーによって破壊されていく倉庫街から離れた後、アイリスフィールは張りつめていた緊張から解放されて、ようやく安堵のため息を漏らした。
今回の戦いで、六人のサーヴァントが一同に会し、うち何人かは惜しげもなく宝具を開放し、バーサーカーという桁違いの怪物に蹂躙された。
そして、警察の介入という事態に、監督役である聖堂協会も大慌てとなっている事だろう。

「なぁ、アイリスフィール、セイバー…俺さぁ、叶えたい願いを思いついたんだけどさ…」
「え…? 」
「何よ、突然…」

とここで、それまで押し黙っていた銀時が、空を見上げながら、唐突に喋りだした。
何事かと思うアイリスフィールとセイバーの前で、銀時は今、一番叶えたい願いを口にした。

「あのバーサーカーの野郎…あいつの願いだけは絶対叶えさせねぇ。聖杯なんてもの、あの野郎にだけは渡したくねぇ」
「…そうね」
「ええ…」

あの下種野郎の願いだけは阻止しなければならない―――だからこそ、あの少年は、自分達を逃がしてくれたのだと悟った銀時は、決意を新たに、空を見上げた。
バーサーカーとの再戦を決意する銀時の言葉に、アイリスフィールやセイバーもそれぞれの思いを秘めながら、頷いた。

「ま、どいつもこいつも強敵だらけ―――ふに―――ん? 」
「―――おっと残念だったな。そいつは俺の<リアル派>だ」

それでも、他に倒さなければならない他のサーヴァントとの戦いに面倒くさそうに頭を掻いていた銀時は、妙に生温かくて、柔らかいモノを掴むような感触に気付いた。
まさかと思い、手元を見れば…いつの間にか、意識を取り戻した全裸のゴッドモザイクをがっちりホールドしていた。
何だか、全裸が妙に気持ちよさそうにしているのはあえてツッコミを入れなかった。

「てめぇえええええええええ!! 何、ナニを掴ませてんだああああああ!! 思いっ切り掴んじまったああああああ!! 穢れたバベルの塔を掴んじゃったよ、おいいいいい!! 」
「おいおい、おっさん―――気持ち悪ぃぞ。さすがに、俺も男に掴まれる趣味はねぇから」
「誰のせいだ、てめぇ!! 良いから、服着ろや、こらああああああああ!! 」
「っていうか、ナニを掴んだ手で擦り付けるなああああああああ!! 全裸のまま、私の頭の上に座るなあああああああ!! 」

全裸のゴッドモザイクを掴んだと知った銀時は大慌てで、叫びながら、セイバーの装甲に擦り付けるようにゴシゴシと手を拭き始めた。
口をとがらせて、ジト眼で文句を言う全裸に対し、青筋を立てた銀時は思いっ切り全裸の首をガクガクと揺らしながら、ブチ切れた。
それに続くかのように、銀時と全裸に向かって、涙目になりながら悲鳴をあげて抗議するセイバーの姿を見ながら、アイリスフィールは思った。
―――切嗣より大きいですって!!っと


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