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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第10話:二元論VS善悪相殺
作者:蓬莱   2012/07/10(火) 23:41公開   ID:.dsW6wyhJEM
その頃、間桐家の応接間では、臓硯の死亡により当主代行となった雁夜とバーサーカーが呼び出したサーヴァントの一人―――中性的な顔立ちの青年が今後の動向について話し合っていた。

「雁夜、桜の様子はどうだ?」
「…ありがとう。身体には何も問題ないはずだ」

心配そうに青年が桜について尋ねると、桜の身を守ってくれた青年に頭を下げた雁夜は優しく、和やかな声で礼を言った。
桜は倉庫街での戦闘で気絶したまま、今日の夕方になるまで眠り続けていたのだ。
だが、桜にとっては、ある意味で幸いだったかもしれなかった―――暴走したバーサーカーによって、駆けつけた警官達が蹂躙されていく様を見ることだけは避けられたのだから。
だが、雁夜達にとっての問題は他にもあった。

「バーサーカー討伐か…厄介な展開になったな」
「ああ…今、全ての陣営が俺たちを、桜ちゃんを狙っているんだ。バーサーカーの奴、どうしてくれるんだ!?」

監督役からのバーサーカー討伐の提案―――青年と雁夜は、密偵として放った使い魔からもたらされこの情報に頭を抱えていた。
もっとも、雁夜達にしてみれば、六対一の包囲戦を仕掛けたところで、あのバーサーカーに勝てるとはとても思えなかった。
だが、雁夜と青年にしてみれば、バーサーカーに勝てない事の方が問題だった。
バーサーカーが聖杯を得るのを阻止し、桜を守ろうとする雁夜達としては是が非でも他陣営のサーヴァントに、バーサーカーを倒してもらう必要があったのだ。
はからずも、バーサーカーの暴走による倉庫街での一件によって引き起こされたこの事態に、雁夜は張本人であるバーサーカーに対して腹立たしげに不満をぶちまけた。
もっとも、騒ぎの中心であるバーサーカーは、塵共の潰し合いなどに興味はないと言わんばかりに、何もなくなった蟲蔵に引き篭ったままで出てくる様子は一向にないのだが。

「まぁ、何にせよ、俺たちがしなきゃいけない事は変わらないけどな。一応、俺の仲間も何人かは手助けに応じてくれたぜ…といっても、女連中は嫌がっていたからなぁ。そっちは期待できそうにないか…」
「すまない…」

―――何を格好つけているのよ、幼女趣味。
―――ぶっちゃけ、アレじゃない? 光源氏計画を狙っているとか…
―――色々と満足できないなら、私で解消してもいいよ、藤井君。
お前らなぁいい加減機嫌直せよ―――今も自分の中で抗議する仲間たちの声に苦笑いする青年に対し、何の力にもなれない雁夜はただただ心苦しかった。
間桐邸に戻った後、桜を寝かせた雁夜は、この青年からバーサーカーの素性についての情報を教えてもらっていた。
聞かなければよかった―――青年からバーサーカーの為した事を聞いた雁夜は率直にそう思った。
それほどまでに、バーサーカーは生まれるべきではない最悪の下種だった。
同時に、それでもある理由の為に現界した青年達に、雁夜は深い悲しみと尊敬の念を抱かずにはいられなかった。

「ところで、第一天はどうしたんだ? さっきから見かけないけど…」
「そういえば、夕方から姿を見せていなかったなぁ」

とここで、青年はあの気難しい女丈夫―――第一天の姿がない事に気がついた。
青年は雁夜に尋ねると、雁夜も改めて第一天が夕方から一度も姿を見せていない事に首をかしげた。
色々と問題のある性格―――もっとも水銀の蛇に比べれば何万倍もマシだが―――なので、青年も、第一天が勝手な行動を取らないように見張っていたのだが、どうやらこっそり抜け出したようだった。

「嫌な予感がするなぁ…ちょっと出掛けてくる」
「…大丈夫なのか?」
「別にあいつの心配なら要らないだろうぜ…ま、相手の方がむしろ心配だぜ」

このまま放っておくのは危険すぎると判断したのか、青年は第一天を捜しに出かける事にした。
心配そうに尋ねる雁夜に対し、青年は冗談じみた皮肉を言いながら、第一天が向かったであろう場所へ、青年たちが注目した男―――坂田銀時が居るアインツベルン城へと出掛けて行った。


第10話:二元論VS善悪相殺


その頃、狙われているとは知らない銀時達はアインツベルン城のサロンに集まっていた。

「ふぅ…何とか落ち着いたようだな、切嗣の野郎(もぐもぐ」
「いったい、何があったのかしら? あんな切嗣は初めて見たわ…」

貪るように晩飯を食べながら尋ねる銀時に対し、アイリスフィールは心配そうな顔で項垂れていた。
あの後、窓の外へと飛び出そうとした切嗣を、銀時が当て身を喰らわせて気絶させ、ずぶ濡れの服を脱がしてた後、寝室にあるベッドに寝かしつけていた。
だが、それでも悪夢にうなされているかのように、切嗣の苦しそうなうめき声が部屋から聞こえていた。
切嗣の様子から察するに、よほど精神的に追い詰められた状態のようだった。。

「私と合流した時には、すでに憔悴しきっていました。あの状態ではとても前線に出るのは難しいかと、マダム」
「何か大変そうだな、そっちも…」

切嗣の身を案じるアイリスフィールに対し、舞弥は極めて冷静に判断しながら、切嗣の状態が戦闘不能であると答えた。
だが、舞弥も内心では切嗣をあそこまで追い詰めた誰か―――切嗣がもっとも警戒していた敵である言峰綺礼に怒りと焦りを感じていた。
そんな重い空気の一同に向かって、いつも通りの全裸姿なアーチャーは軽い口調で気の毒そうに言った。
まぁ、一応付け加えるなら、敵陣営にて絶賛人質(?)中のアーチャーも大変である事に間違いないのだが…

「あんたらねえ…いい加減にしなさいよぉおおおおお!!」

と次の瞬間、これまで黙っていたセイバーがこの異常な空間に耐えきれずにちゃぶ台返しをしながら叫んだ。
色々とシリアスな場面であるので空気を読んでいたセイバーであったが、もはや我慢の限界だった。
つうか、最近になって、こういう役回りが多くなったわね―――そんな自身の立場を自嘲するセイバーに対し、晩飯を食べ続ける銀時はジト眼で文句を言った。

「おいおい、食事中に何すんだよ、セイバー? 」
「銀時。その糖分オーバーキルなゲテモノ料理は?」

折角の食事を邪魔された事に不満を漏らす銀時に対し、セイバーは銀時の手にしているモノ―――ホカホカのご飯の上に大量の小豆を山盛りの乗せた丼ぶりにむかって指を指すような仕草をした。
ご飯と小豆―――セイバーからしてみれば、冷やしたぬき並にあり得ない料理だった。

「あ、知らねぇの? 俺らの世界じゃ一般家庭食なんだぜ、この宇治銀時丼は」
「とりあえず、あんたみたいな味覚異常者が蔓延する世界だって事はよく分かったわ」
「ええ、その通りですね。ご飯の上に小豆だなんて…常識はずれも甚だしいです」

だが、そんなセイバーに対し、銀時は指して気にする事もなく、ご飯の上に小豆を山盛りに乗せた丼ぶり飯―――宇治銀時丼をモグモグと平気で食べ始めた。
もはや、見ているだけで胸やけしそうな銀時の食べっぷりに、セイバーは銀時のいた世界に生まれなくてよかったと思いながら、もはや呆れたように呟いた。
とここで、同じく食事を取っていた舞弥も、宇治銀時丼を食べる銀時に対して澄ました顔で、セイバーの意見に同意した―――

「舞弥ぁ…ご飯の上に生クリームをブチまけるあんたの言えた台詞じゃないと思うんだけど?」
「ご安心を。小豆では得られない脂質面をカバーしています。あと、熱いご飯ではなく、冷や飯を使用してあるので問題ありません」
「そういう問題なの!? そう言う問題じゃないでしょ!? ねぇ、二人とも、私が何か間違っているの!?」

―――ご飯の上に大量の生クリームを存分にかけた丼ぶりを手にしながら。
新たに現れた味覚異常者第2号である舞弥に、声のトーンを落としたセイバーは反語表現含みながら聞き返した。
だが、そんなセイバーに対し、栄養的な面で何事もないと語った舞弥はモグモグと生クリーム丼を食べ始めた。
切嗣…お願いだから早く起きてよ!!―――この異常な空間の中で、唯一味方になってくれそうな切嗣(ツッコミ役)の不在にセイバーは頭を抱えながら、ゲテモノ料理を食べ続ける銀時と舞弥に、ほとんど涙声の口調で必死になって訴えた。

「おいおい、落ちつけよ、セイバー。そんなにカリカリしても、何も解決しねぇぞ」
「お前が一番の原因でしょうがあああああああ!! しょうこりもなく女装して!! よくよく考えたら、あんたの女装のせいで!! さりげなく切嗣に止めを刺した張本人がああああああああ!!」

そんな孤立無援のセイバーに対し、アイリの私服を着たアーチャーは落ち着かせるように宥めた。
だが、切嗣が再起不能状態になったのは、切嗣がアイリの服で女装した全裸に抱きついてしまった原因なのだ。
当然のごとく、血管があれば無数の青筋が浮かんできそうな剣幕で激怒するセイバーは、元凶であるアーチャーにむかって捲し立てるようにキレた。

「おいおいキレるの早いなぁ、この蜘蛛のねーちゃん!! 銀時、何でだろうなぁ?」
「ん〜? アーチャー、そいつは簡単な事だぜ。カルシウムが足りねぇからだよ。人間ってのは、カルシウムさえ摂れば人生は大抵うまくいくんだ」
「ねぇ、あんたら…敵同士なの忘れてない? 親しげに何でそんなに話し合ってるのよ!?」

しかし、当のアーチャーは、セイバーの剣幕に多少驚いたものの、普段からこういう状況に慣れているのか、自分の隣に座っている銀時にむかって話しかけた。
そんなアーチャーに対し、宇治銀時丼を食べ終えた銀時は、明らかに見当はずれな事を言いながら、買っておいたイチゴ牛乳を飲み始めた。
まるで同じ会社の同僚の様な感覚で話す銀時とアーチャーに対し、セイバーはげんなりとした声でもう何十回目となるツッコミを入れた。
一応、忘れている人もいるかもしれないが、銀時やアーチャーは聖杯戦争における敵同士なのだ。
普通ならば、殺し合いの一つや二つぐらい起こってもおかしくはないのだが…

「いや、何というか…馬鹿だけど、気が合うというか…なぁ?」
「う〜ん…まぁ、銀時って、あれじゃん? 目は死んでいるけど、ボケやすいんだよなぁ」
「おいおい、俺はてめぇのツッコミ要員か、このやろー。俺はアレだぞ? 基本はボケる側の人間だから。ツッコミは新八(眼鏡)の仕事だっての」
「ふぅ…とりあえず、これ以上喋らないで。もう過労しそうだから」

首をかしげながら尋ねる銀時に対し、軽い口調で答えるアーチャー―――この二人のやり取りを見る限り、銀時とアーチャーにそんな物々しい空気は一切なかった。
むしろ、銀時とアーチャーは、まるで息のあった漫才コンビのようなやり取りをし始めていた。
そんな銀時とアーチャーとのやり取りを見ていたセイバーは、ツッコミによる疲れもあるのか、半ば諦めたようにため息を漏らした。
だが、突然、銀時らを見て、和やかに笑っていたアイリスフィールが身を強張らせた。
その瞬間、事情を察したセイバーは、何だよ、生理か?や、ナプキンあるよーなどとほざく天パと全裸の事を無視しつつ、すぐさま気持ちを切り替えた。
これは森に張ってある結界の術式が侵入者を探知し、警告の為にアイリスフィールの魔術回路に反応している兆候だった。

「敵なの、アイリスフィール? 」
「分からないけど、侵入者ということは確かよ。今、遠見の水晶球で確認するから」

すぐさま、臨戦態勢に入ったセイバーに対し、アイリスフィールは結界が捕捉した侵入者の映像を水晶玉に投影して見せた。
そこに映っていたのは、白い戦装束に身を包んだ女丈夫―――バーサーカーの呼び出したサーヴァントの一人:第一天だった。

「こいつは…バーサーカーと一緒にいたサーヴァント!?」
「おいおい、さっそく乗り込んできたのかよ。バーサーカーの野郎はいねぇようだけど」
「でも…何のつもりかしら…?」

思いもよらなかった侵入者の正体に、バーサーカーと直接戦ったセイバーと銀時は驚きを隠せなかった。
銀時が言うように、主であるバーサーカーの姿はないようだが、アイリスフィールはこの侵入者―――第一天が単独で来た事を怪訝に思った。
もし、バーサーカーがこの場所に気付いたのなら、バーサーカー本人或いは他の4人と一緒に直接出向けば事足りるはずなのだ。
だが、なぜ、この侵入者は一人でやってきのか?―――アイリスフィールが不審に思った瞬間、第一天は不意に上を向いてアイリスフィールを見つめ返しながら、凛々しい顔立ちのままハッキリと告げた。

『覗き見とはあまり感心しないな』
「気付かれた!?」

さすがに、あのバーサーカーように探索能力は低くないのか、第一天はアイリスフィールの千里眼をあっさりと見破った。
そして、第一天はアイリスフィールの視点位置を把握すると、そのまま話を続けた。

『私の名は…ひとまず、第一天とでも名乗っておこうか。これより先、尋常な勝負を望む故に、セイバーらと御目通りしたい。しばし、ここで待たせてもらう!!』
「おいおい、随分と律義なねぇちゃんだな…」
「で、どうするの、アイリスフィール?」
「えぇ…でも、罠の可能性も…」

自らの名前と用件だけを手短に告げる第一天に対し、水晶玉をとおして見ていた銀時はどこかで見たような既知感を覚えた。
あまりにもストレートすぎるこの第一天からの挑戦に対し、セイバーはアイリスフィールを見据えながら尋ねた。
臨戦態勢に入ったセイバーとしては、すでにこの挑戦を受ける覚悟を固めていた。
とはいえ、切嗣が寝込んでいる以上、現時点でのマスターであるアイリスフィールは罠を警戒して、どうするのかをしばし逡巡していた。

「うーん…多分、大丈夫だと思うぜ」
「何で、あんたにそんな事が分かるのよ…? つか、何で、自然と紛れ込んでいるのよ? そして、何で全裸なのよ!?」

そんなアイリスフィールの戸惑いに対し、いつの間にか全裸になっていたアーチャーは水晶越しに映る第一天の姿を見ながら話に入ってきた。
話に割り込んできたアーチャーを、今まで散々全裸に振り回されてきたセイバーは疑いのまなざしで軽く半目で睨みながら、いつものようにツッコミをいれた。
そうでなくとも、アーチャーとは本来、聖杯を巡って争う敵同士なのだ。
決してツッコミで過労しているという理由を除いても、敵であるアーチャーに対して、セイバーが不審がるのも無理はなかった。

「まぁ、何と言うか…数々のエロゲーを攻略してきた俺の観察眼なんだけどさぁ」
「あぁ、そうなのーそんな碌でもない観察眼で何が分かるのかしらねぇー?」

さっそく、珍しくまじめな顔で駄目人間丸出しの発言するアーチャーに、セイバーは投げやり気味に適当な返事を返した。
まぁ、セイバーとしては、この全裸に期待はしていなかったし、当てにするつもりもさらさらなかった。
そんなセイバーの投げやりな言葉に抗議する事なく、アーチャーは第一天の第一印象についてこう述べた。

「このねぇちゃん…罠とかそういうこと考えるほど余裕がねぇと思うんだけどなぁ」
「…」

水晶玉に映る第一天の姿を見ながら心配そうに語るアーチャーに対し、銀時は黙ったまま、最初に見たときの第一天に抱いた既知感の正体に気付いた。
第一天の雰囲気が、最初に再会した時に出会った、何かに御膳立てされた信念を貫いていた時のヅラ―ヅラじゃない、桂だ!! 桂小太郎だ!!――によく似ているのだ。
もっとも、第一天には、ヅラのキャラというべき天然系真面目ボケという要素がない分、相当なクソ真面目そうであるが。
この馬鹿で変態な兄ちゃんは人を見る目だけはありそうだな―――そう思った銀時は、このねーちゃん、おっぱいでかいなぁなどと呟くアーチャーを横目で見ながら気付かれないように小さく笑った。

「仕方ないわね…切嗣が立ち直るまで、私達で何とかするしかなさそうね」
「そのようですね、マダム。皆さん、敵をこの城に近づけないように迎撃してください」

とここで、切嗣が意識を失った状態であることを考慮したアイリスフィールは自分たちでこの危機を切り抜ける事を決断した。
今の切嗣にはこの戦いを潜り抜けるには消耗しきっている為、それを敵に悟られないように是が非でも城に近づけさせないようにしなければいけなかった。
そして、舞弥もそれに賛同し、すぐさまセイバーらに第一天の迎撃に向かうように頼んだ。

「よっしゃ!! この葵トーリに任せとけってな」
「あ、服を用意しておいたから、それを持って行ってね、アーチャー。すっごくあなたに合う服を用意したからv」
「あんたは来るな!! アイリスフィールは煽らないで!! 来たら、絶対ややこしくなるから!!」
「んじゃ、任せたぞ、全裸。俺はここでじっくり自宅警備を―――さっさと来ないと足で逝かすぞ、こらぁ―――オゥケィ!! わが主の命のままに!!」

とここで、本来なら無関係であるはずのアーチャーがウザくなるくらいのハイテンションで親指を立てながら、頼りがいのあるセリフを口にした―――全裸という点で全てが台無しになのだが。
そんなアーチャーに対し、アイリスフィールも全裸のままではさすがに格好がつかないと思ったのか、用意しておいた着替えの衣装の入った紙袋を手渡した。
だが、ツッコミ過労状態のセイバーは折角のシリアス展開を壊されてたまるかと、アーチャーとアイリスフィールに断固抗議した。
もっとも、一番やる気のない銀時は全てを全裸とセイバーに任せようとするが、セイバーのマジでブチ切れ5秒前のガチ脅し―――恐怖の足責めに屈するしかなかった。
そして、態度を180度変えた銀時は、すぐさまセイバーの背中に乗って、アーチャーと共に第一天のいる場所へと向かって行った。



数分後、宣告通り第一天はセイバーが来るのを律義に待ち続けていた。

「…来たか」

とその時、第一天は、サーヴァントらしき気配を持った何かがこちらに近づいてきているのを感知した。
まずは、こちらの呼びかけに応じた事を評価しながら、第一天はこれから始まる戦いを前に静かに戦闘態勢に入った。
と次の瞬間、第一天の前に先程呼び出した者達―――セイバーの背中に乗った若干酔い気味の銀時と服を着替えているアーチャーが姿を現した。

「へぇ…本当に待っていてくれたみたいだな」
「罠も仕掛けてないわね。随分と律義な性格みたいね…あの腐れ外道と仲間だなんて思えないわ」

言葉通り、この場所で待ち続けていた第一天に、セイバーの背中から降りた銀時は感心したように言った。
続いて、周囲の索敵をしていたセイバーも、罠一つ仕掛けようともしない正々堂々とした第一天の姿に皮肉交じりの称賛を告げた。
正直なところ、セイバーは不意打ちの可能性も考えていたが見事に覆された。
この第一天の第一印象や行動を見る限りでは、あのバーサーカーに召喚されたとは思えないほどのまともな性格のようだった―――まるで己が善である事を示す様に。

「だから、俺言ったじゃん。このねぇちゃんはそういう事しねぇって」
「あぁ、そうですねーもうしゃべらないでね、全…じゃないわね」
「アイリが用意してくれたんだけど、結構ブカブカだなぁー」

とここで、場違いなほど脳天気な声で話しかけてきたアーチャーに、なるべく意識しないようにしていたセイバーは半目になりながらうんざりとした。
どうしたら自重するのよ、この全裸―――投げやりに返事をしたセイバーは、睨むように横目でアーチャーを見ながら、いつものように全裸呼ばわりしようとした。
しかし、今回のアーチャーは、服のサイズが合っていない事を除けばいたってまともな服装―――どこかでみたような黒色がかったスーツを着ていた。

「…そちらは?」
「あんまり気にしないでくれ。折角のシリアスブチ壊す元だし」
「おいおいおいおい、銀時。俺を勝手にシリアスブレイカーだって決めつけるなよ。まるで俺がそんな事しかしてねぇみたいに思われるじゃねぇか」
「鏡ぃ!! 今すぐ、鏡を見なさいよ!! 後、今までの自分の行動を省みなさいよ!!」

何故、ここにアーチャーが居るのかと尋ねる第一天に対し、銀時は一々相手にしているとアーチャーが調子に乗って、ギャグに走りそうだったので、スルーしてもらうことにした。
そんな銀時に不満そうに口を尖らせながら、アーチャーは眉を立てて銀時を指差して抗議した―――もはやツッコミ役と化したセイバーの声を聞き流しつつ。

「で、第一天のねぇちゃん。尋常な勝負が望みみたいだけどよ…何で、俺たちが選ばれたんだよ? 他の連中でもいいじゃねぇか」
「そんな事は決まっている。貴様たちが悪だからだ」

そんな中で、銀時は第一天に対し、ランサーやライダーといった他の陣営ではなく、自分達を狙う理由を尋ねた。
正直な話、善悪相殺の呪いというハンデを持つ銀時としては出来る事なら戦闘は避けたいため、ひとまず話し合いで済ませたいところだった。
それに対し、第一天は、銀時という男を見極めるためという目的をあえて隠し、もう一つの理由―――セイバーらを滅ぼすべき邪悪だからだと断じた。

「…おいおい、ストレートに言われたよ。どう思う、全裸?」
「色々と痛いよなぁ。でも、ネシンバラが好きそうなキャラだなぁ」
「このセクハラ系マダオと猥褻物陳列罪全開の全裸の会話は無視するとして…私達を悪だという理由は何かしら? とりあえず、バーサーカーの仲間であるあなたが言うべき言葉じゃないわね」
「理由を述べる前に、一つだけ訂正してもらおう」

痛い、この第一天って女色々と痛すぎる、何か厨二的な意味で―――銀時とアーチャーは、ここまでストレートに言い切った第一天を頭の可哀想な者を見る目で囁き合った。
―――何で、こいつら、少しは空気を読むってことをしないのよ。
そんな事を思いながら、銀時とアーチャーをスルーしたセイバーは、自分達を悪―――さすがにセクハラと猥褻物陳列罪は認めつつ―――と断じた第一天を挑発するように質問した。
それに対し、第一天はセイバーの質問に応じる前に、セイバーの言葉に訂正を加えた。

「私の前で二度とあの外道と仲間など言うな。あの下劣畜生と同類などと…それだけは断じて違う」
「…っ!!」

次の瞬間、先程とは打って変わって、バーサーカーの仲間という点を否定した第一天は射殺さんばかりの殺気をこめた視線で押し黙ったセイバーを睨みつけた。
如何に罵倒されようとも、第一天にとって、あの極大の下種―――バーサーカーと仲間として扱われる事だけは、もっとも忌むべき屈辱の極みだった。

「そして、話の続きだが、セイバー…お前達を悪とする理由はただ一つ。善悪相殺―――そのふざけた理だけで、悪と認ずるに十分だ」
「何ですって…」

ひとまず、バーサーカーの仲間であるという事を否定した第一天は、善悪相殺という呪いじみた固有スキルを持つセイバーに向かって言い切った。
その第一天の言葉に、今度はセイバーが苛立ったように声を荒げた。

「敵を殺せば、味方を殺す。悪を殺せば、善を殺す。憎む者を殺せば、愛する者を殺す。そんな理は、悪以外の何物でもない。討つべき…否、討たねばならない邪悪の理だ」
「…まぁ、言い返せねェよな」
「銀時ぃ…黙っていてくれる?」

だが、セイバーの声を無視した第一天は滅ぼしてもいい邪悪だと言わんばかりの態度で、セイバーの善悪相殺を否定し続けた。
それに対し、セイバーに洗脳されて、危うく鈴を殺しかけそうになった銀時としては、第一天の言い分に一理あると苦笑しながらぼやいた。
次の瞬間、敵の言い分をあっさりと認めた銀時にむかって、セイバーは半目で睨みつけながら怨みがましそうな声で喋るなと制した。

「ああ…なるほど、あの第六天が嘲うはずだな。なんて便利な塵屑だと腹を抱えて嘲うだろうな」
「…べらべらよくしゃべる女ね。そんなに自分が善だと言いたいの? 笑わせるんじゃないわよ!!」

だが、第一天はそれを無視し、第六天―――バーサーカーの真名の一部を口にしながら、セイバーをバーサーカーにとっての都合のいい塵屑だと断じた。
その第一天の言葉に、我慢の限界に来たセイバーは怒りをあらわにしながら一喝した。
―――討たねばならない邪悪の理? 知ったような口をきくな!!
―――何も知らない奴に、善悪相殺という戒律の意味も、そこに込められた思いも知らない正義の味方きどりの独善者に否定されてたまるか!!
此処において、セイバーにとって、第一天とだけは相いれない敵にして、絶対に負けられない敵だと認識した。

「銀時…準備はいい?」
「…この前みたいなのは勘弁してくれよな。鬼に逢うては、鬼を斬る。仏に逢うては、仏を斬る―――ツルギの理ここに在り!!」

もはや第一天との戦闘は避けられない事を悟った銀時は、意気込むセイバーにむかって先の倉庫街での洗脳だけは拒否しながら、誓約の口上を唱えた。
次の瞬間、セイバーの身体が分解し、土煙と共に宙を舞いながら銀時の体へと次々に装甲されていった。
そして、巻き上がった土煙が晴れた時に、妖甲と謳われた深紅の剱冑―――宝具:装甲悪鬼村正が姿を見せた。

「行くぞ、セイバー!! 我は第一天―――善と悪を分かち、悪を断ずる者なり!!」
「夢見過ぎなのよ!! 掛かってきなさいよ、正義の味方!!」
「んじゃ、万事屋銀さん…頑張ろうかな。んで、全裸…てめぇはどうするんだ?」
「俺? う〜ん…」

それを待ち構えていた第一天は、取り出した剣を掲げながら、己を善だと言い切るように名乗りを上げた。
対するセイバーも、目の前にいる第一天―――英雄気取りの独善にむかって吼えるように応じた。
とりあえず、奮い立つ一人と一体の女達に否応もなく巻き込まれた銀時も死なさない程度に第一天と戦うつもりで木刀を構えた。
とここで、銀時はこの戦いを見続けているアーチャーにむかって尋ねると、アーチャーはしばし考え込んだ後、いつものように軽い口調で返した。

「…なら、俺は二人が仲直りする方法を思いつくまで見届けるわ」
「なるべく早くしてくれよな」

まるで、子供の喧嘩を見守るような感覚で話すアーチャーに、銀時は極小とも言える可能性に一縷の望みを託しながら、攻めかかる第一天へと向かって行った。



そして、同時刻。

「これは…どこかで誰かが闘っているのか!?」
「あら、喧嘩っ早い誰かが攻め込んできたのかしらね?」
「まさか、また、アーチャー絡みで厄介事ですか!?」

セイバー陣営との交渉にやってきた正純、喜美、浅間が―――

「へぇ、どうやら色々と始まっているようね。戦っているのはセイバーかしらね」
「ふん…とすれば、今のアインツベルン城にはマスターのみか」

街中で見かけた第一天を追ってきたランサーとケイネスが―――

「見つけたわ、全裸ぁ…このバビロン大淫婦を敵に回した事を死さえも安息と思えるほど後悔させてあげるわ」

倉庫街での屈辱を晴らさんと、アーチャーを捜していたキャスターまでもが集結し始めていた。
そして、このアインツベルンの森を舞台に、倉庫街での激戦に続いて、聖杯戦争の第2幕が幕を上げようとしていた。


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