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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第13話:Res novae―――Also sprach Zarathustra<新世界へ語れ―――超越の物語>
作者:蓬莱   2012/07/13(金) 23:26公開   ID:.dsW6wyhJEM
綺礼とメイド仮面との戦いが始まった頃、正純は突如として飛び出してきたルビーと名乗るステッキに契約を迫られていた。

「おやおやぁ? どうかしましたか、マスター? ちゃっちゃと契約を済ませましょうよ」
「いやいや、ちょっと待って!! 何で、私をマスターと呼ぶんだ? そもそも、お前は何なんだ!?」

ほぼ押し売り同然の契約履行を迫るルビーに対し、正純は状況を把握する為に待ったをいれた。
これ以上相手のペースに乗ってしまえば取り返しのつかない事になる!!―――半ば確信めいた予感に寒気を感じた正純は、こちらのペースに乗せようとルビーに対し矢継ぎ早に質問した。

「えっと…愛と正義の魔女っ子ステ―――」
「いや、そこはいいから!?」

だが、ルビーはそんな正純の思惑を見抜いているかのように、またもやふざけた自己紹介をしようとし始めた。
気まじめな性格のためなのか、武蔵の外道連中とのやり取りで育まれた条件反射なのか、まんまとルビーのボケに乗ってしまった正純は、思わずツッコミを入れてしまった。
傍から見れば、気まじめな正純を弄ぶルビーを怪しげに見つめる一同の中で、魔術師としての知識のあるキャスターだけがルビーの正体に気付いていた。

「なるほど…宝石翁が作り上げた魔術礼装が一つ―――<カレイド・ステッキ>か。噂には聞いていたが…」
「おやおや…あっさりと見破られちゃいましたか。さすがは、数百年生きていた分の年の功と言いましょうか」

ルビーの正体を見抜き、値踏みすような口調で呟いたキャスターに対し、ルビーはお返しと言わんばかりにキャスターの正体に心あたりがあるような口調で言い返した。
魔術礼装<カレイド・ステッキ>―――宝石翁と称される魔法使い:キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグによって片手間に制作された魔術礼装の一つである。
その効果としては、持ち主は、第二魔法<並行世界の運営>を限定的に干渉し行使できる―――擬似的だが魔法使いになれるとものであり、あらゆる魔術礼装の中でも一級品とされる代物なのだ。
まぁ、幼少期の子供のおもちゃのような見た目と、カレイド・ステッキに宿る人工天然精霊<マジカル・ルビー>のはちゃけた性格さえ眼をつぶればの話だが。

「へぇ〜なら、セージュンの代わりに俺が使おうか?」
「え? 」

とここで、正純とルビーのやり取りを見ていたアーチャーが手を上げながら自ら名乗りを上げた。
まさか、こんな怪しげなステッキと契約を結ぼうとする人間がいるとは思わなかった正純は、男のアーチャーに、この怪しげなステッキを手渡すべきか、戸惑った。

「あ、すみません。いくら何でも、全裸の変態なんて契約対象外です。つか、全裸の魔法女装変態なんて存在自体あり得ないので触らないでください」
「おいおい、俺にだけドライで厳しくねェか、このステッキ!?」

だが、いくら脳天気な色物キャラを通しているとはいえ、ルビーといえど超えてはならない一線―――男の魔法少女など冷やしたぬき以上にあってはならないという拘りがあった。
先程の人間味溢れすぎる口調から一転して、ルビーは、自分を触ろうとするアーチャーにむかって、感情のない人形じみた口調できっぱりと拒否した。
ちぇーと唇を尖らせながら石を蹴る仕草をするアーチャーを無視しつつ、今度はランサーがルビーにむかって尋ねてきた。

「とりあえず、キャスターの宝具にやられた銀時達を助ける事ができるのよね、あなた?」
「はいv もちろんですともv ルビーちゃんの力にかかれば、幻燈結界にやられた人達を助ける事だって出来ますよ」

銀時達を助けようとするランサーの問いに対し、ルビーは態度をコロリと変えながら笑顔で答えた。
方法としては単純明快―――第二魔法を限定的に行使できるルビーの力で、幻燈結界によって、銀時達が囚われている記憶の世界に救出に向かうというものだった。
ただし、第二魔法を行使するには、マスター―――ここでは正純との契約が必要となってくるのだ。
やるべき事が分かったランサーは、即座に正純に向かって凄みを利かせた笑顔でお願いという名の命令をした。

「なら、あなた。さっさと契約しなさい。時間稼ぎくらいはしてあげるから」
「んふふふ…そこはせめて、倒しても構わないわね?の方がいいと思うわよ、熱血女?」
「ちょっと待て!! お前ら、何で勝手に決めて…!!」

キャスターの足止めをする代わりに契約を迫るランサーと喜美に対し、正純は思わず抗議した。
確かに、現時点で、銀時達を助ける事の出来る方法が他にない以上、ランサー達としては何としてでも、正純に魔法少女になってもらう必要があった。
だが、正純としては、この年で魔法少女をやるなんて恥ずかしい!!という羞恥心だけでなく、政治交渉として携わってきた経験から、この怪しげなルビーの言葉を信用できずにいた。
とその時、先程までルビーと契約できずに愚痴をこぼしていたトーリが、正純に頭を下げながら頼み込んだ。

「俺からも頼むわ、セージュン」
「あ、アーチャー…お前まで…!!」

そこまでして、魔法少女をやらせたいのか!?と思いながら、最終的には物理的な言語も見据えた正純はアーチャーに説教しようとした。
だが、正純が次の言葉を言う前に、アーチャーは頭を上げると申し訳なさそうに頼み込んだ。

「銀時には色々と助けてもらったから…俺、助けたいんだよ」

ずるい―――銀時を助けたいと言うアーチャーの言葉を聞きながら、カレイド・ステッキを握りしめた正純はそう思った。
アーチャーは銀時を本気で助けたいと思っていると同時に、正純なら銀時を助ける事ができると本気で思っているのだ。
アーチャーがいつものように馬鹿をやりながら頼めば即座に拒否できただろうが、そんな風に頼まれたら嫌という事など正純は言えなかった。

「…一つだけ条件がある。絶対に引くなよ?」
「Jud.絶対に引かねぇよ。なぁ、皆?」
『『『『Jud.』』』』

せめてもの最低限の条件だけ付け加えた正純は半目で、トーリや表示枠越しでこちら見ている他のメンバーを睨みながら呟いた。
うんうんと頷きながら、アーチャーが皆の確認を取ると、他のメンバーを即座に了承した。
これでもうやるしかなくなった正純は、意を決して、ルビーとの契約を結ばんとした。

「それでは、マスターの同意を得た事で行きますよぉ!!」
「もう好きにしろ!! 本多・正純―――魔法少女でもやってやるともさ!!」
「お任せくださいvコンパクトフルオープン!! 鏡界回廊最大展開!!」

正純の同意を得たルビーはノリノリで最後の仕上げに取り掛かるが、もはや魔法少女になる覚悟を決めた正純に迷いはなかった。
そして、正純が自身の名前を告げると同時に、ルビーはその力を発揮したのを証明するかのように、カレイド・ステッキが光り輝いた。
そして、光がおさまると同時に魔法少女としての衣装―――真紅のヘッドドレスとワンピースに身につけ、犬の耳を思わせる飾りを付けた正純が名乗りを上げた。

「新生カレイド・ルビー!! プリズマ・正純―――参上!!」

歴代カレイド・ステッキ所持者史上、もっとも貧乳とされる魔法少女プリズム・正純―――ここに誕生!!

『『『『うわ、ホントに魔法少女やっちゃったよ、この人…』』』』
「貴様らぁあああああああああ!!」

同時に、即行で一斉にドン引きする一同に向かって、正純は顔を赤らめながら力の限り叫んだ。

「へぇ〜面白そうね、それ。私もやってみたら、案外良いと思わない、アラストール?」
『頼むから止めてくれ、ランサー。それをやったら、絶対にヴィルヘルミナが嘆くぞ』

皆がドン引きする中で、ランサーはそういうノリが結構好きなのか、自分達も一度やってみようかと、アラストールに尋ねた。
だが、この面子の中で、もっとも常識人(?)なアラストールは、気まじめな友の名前を口にしながら、頭を抱えるような口調でランサーを止めた。
恐らく、気まじめなケイネス殿は確実に胃潰瘍になる―――アラストールは、ケイネスの胃痛を少しでも被害を最小限にとどめようと必死だった。

「お前ら、あれだけ引くなと言っ―――ドッ!!―――うわっ!!」

と次の瞬間、未だ抗議を続ける正純に向かって、不意を突いてきたキャスターの魔法弾が放たれた。
思わず身構える正純だったが、何らかの障壁が展開されているのか、魔法弾は正純に命中することなくかき消された。

「なるほど…どうやら、力だけは本物のようね」
「ふ、防いだ…」
「まぁ、キャスターさんも本気じゃなかったですからね。本気だったら、一発でアウトでしたけど」

ランサーによって傷つけられた身体を再生させたキャスターは、加減をしていたとはいえ魔法弾の直撃を防いだのを見て、カレイド・ステッキの力が本物であることを確信した。
結果として、キャスターの攻撃を防いだ正純も、カレイド・ステッキの持つ力の一端を認めざるを得なかった。
とはいえ、ルビーも先程のキャスターの放った攻撃が様子見である事が分かっていた。
―――そんな余裕があるほど、まだ、キャスターは本気を出していないという事も。

「あら、もう復活したみたいね…んじゃ、踊り子さん、よろしく頼むわよ」
「フフフ…いいわよ、熱血女。賢姉が救けてあげる―――だから、貧乳政治家。あんたはしっかりその銀髪侍達を救けてあげなさいよ」
「…分かった。ルビー、行くぞ!!」
「お任下さいv 鏡界回廊、開―――んじゃ、俺も!!―――門って、ちょっ!!」

ついに身体を完全に再生させたキャスターと対峙しながら、互いに軽口をたたくランサーと喜美は、正純に銀時達の救出を託した。
そんなランサーと喜美に応えるために、幻燈結界に囚われた銀時達を救う為に正純はカレイド・ステッキの力を発動させた。
そして、正純とルビーが精神世界へと行く直前、何故かアーチャーも鬼ごっこに参加するようなノリで付いて行ってしまった。

「見くびられたものね…貴様ら風情がこの私を止められると?」
「くくく、分かっていないわね、汚れ系幼女。もう勝負は決まっているのよ」

キャスターの足止めに残ったランサーと喜美に対し、キャスターは、正真正銘の魔女である事を示威するかのように、ランサーと喜美に向かってぞっとするような凄惨な笑みを浮かべた。
そんなキャスターにひるむことなく、喜美は笑みで返しながら、自分の体を軽く抱きながら、胸を持ちあげて見せつけるように言った―――

「…胸の差でね!!」

―――巨乳的な勝利宣言を!!



一方、正純とルビー、何故かついてきたアーチャーらは、精神世界へと潜り込み、銀時らの救出に向かっていた。

「何で、お前まで着いてくるんだ!?」
「おいおい、セージュン。冷たい事言うなよ〜俺の力が必要になる時があるかもしれないじゃん」

まさか着いてくるとは思わなかった正純は、全裸に詰め寄りながら、全裸の首を掴みながらガクガクと揺らした。
まぁ、当のアーチャーは若干顔色が赤から青になりかけているものの、いつもの調子で根拠のない事を気楽に言った。

「…まぁ、着いてきた以上は仕方ありませんね。とりあえず、先にセイバーさんを助けるために、助っ人と合流しましょうか」
「助っ人?」

とりあえず、アーチャーが付いて来てしまった事は仕方がないで済ませたルビーは、戦力的な意味も考えて、一先ずセイバーの救出を提案した。
とここで、いよいよ紫色に顔色を変えたアーチャーの首を絞めていた正純は、アーチャーの首を放すと、ルビーの言葉に首をかしげた。
どうやら、ルビーが手配した助っ人が待っているのと事らしいが、いったい何者なのか?
そんな事を考えていた正純であったが、セイバーの精神世界へと続く扉に来た時、その答えはすぐに分かる事となった。

「何やら分かりやせんが、うちの主は随分とややこしい事態に巻き込まれたようでござんすね、ルビー殿」

そこにいたのは、身の丈をはるかにしのぐ巨大な鋼鉄製の金棒を背負い、黒い着物を着こなし、ショートカットの黒髪に二本の角を生やした美少女だった。



まず、キャスターと対峙した喜美は、ゆっくりと前に進みながら、制服のインナースーツの首元とハードポイントに繋がっている白のインナーの襟と胸前を外した。

「邪魔よねぇ」

そう呟いた喜美は、胸元を大きく開け、帯状の黒パーツだけで胸を押さえた。
更に、喜美は、上着を肩から外し、ベスト状となったジャケットを捨て、袂のある袖だけを腕に絡めた。
そして、惜しげもなく肌を晒し、身軽となった喜美は口元に笑みを浮かべた。

「まさか、このバビロンの魔女を前にして、色香で惑わせるつもりなのかしら?」
「うふふ…つまらない女ね。長く生きている割には、無粋でつまらない男共としか付き合ってないようね―――出なさい、ウズィ」

まるでこちらを誘うかのような服装となった喜美を一瞥しながら、つまらないもの見るような口調で、キャスターは苦笑した。
だが、喜美もキャスターを碌な男としか付き合えないつまらない女だと切りかえしながら、自身の宝具とも言える、主の術式を補佐する霊獣型デバイス―――走狗(マウス)を呼び出した。
そして、喜美の言葉に応じるかのように、喜美の肩に現れたのは、お面を阿弥陀かぶりした三頭身の少女―――喜美が契約した芸能系の主神であるウズメの走狗:ウズィだった

「あら、可愛らしい子じゃない」
「ありがとうv それと熱血女。最初に言っておくけど、私の宝具や固有スキルはエロ系とダンス系だけだから」
『貴様、一体何のためにここに残ったのだ!?』

素直な感想を言いながら、面白そうにウズィの頬をつつくランサーに、ウズィと共に身を揺らし始めた喜美は褒め言葉を返した。
ついでに、喜美は、ランなサーに向かって、自分が戦闘に特化したサーヴァントでない事を伝えた。
これに驚いたのは、ランサーの相棒であるアラストールだった。
先程までの正純らとのやり取りから、アラストールは、まさか、喜美が戦闘を得意とするサーヴァントでないとは思っていなかったのだ。
だとすれば、相当にまずい―――キャスターとの戦闘経験があるアラストールにしてみれば、戦闘系のサーヴァントでない以上、喜美が、バーサーカーに次いで強力なサーヴァントであるキャスターを相手にするのは無謀としか言いようがなかった。

「何を当然の事を聞いてるの、この固物宝石…」
『か、固物!?』
「ぷっ…」

だが、アラストールの心配をよそに、喜美は呆れた口調で、固物宝石ことアラストールに向かって駄目だしした。
固物宝石というあまりにも不名誉な言い草に戸惑うアラストールに対し、ランサーは相棒であるアラストールの性格を一発で言い当てた喜美の言葉に少しだけ噴き出してしまった。

「ふん…ならば、貴様自身の死出の舞を踊りながら、精々、私を愉しませなさい!!」

対するキャスターは、ぞっとするような笑みを浮かべながら、ゆっくりと身を揺らせる喜美に一気に襲いかかった。
生前、キャスターが戦ってきた相手と比べても、喜美の身体は戦闘向きの体ではない事は明白だった。
ならば、殺す方法など無数にある。
その中で、キャスターはあえて魔術を行使することを選ばず、肉弾戦で嬲り殺すことにした。
あえて、キャスターが肉弾戦を選んだ理由は極めて単純だった。

「淫売風情の貴様ごときが、私のヴェラードを語るなぁ!!」

つまらない男としか付き合っていない―――まるで、ヴェラードを、キャスターの愛する男を愚弄するような喜美の言葉は、キャスターにとって万死に値するものだった。
ならば、喜美が見せつけている自慢の身体と顔を、自らの手でズタズタにしてから殺す方が面白いだろうと考えたからだ。
そして、喜美に襲いかかったキャスターは、その余裕の笑みを浮かべた顔を引き裂こうと、すれ違いざまに右手の爪を立てながら一気に横に薙いだ。

「ふん…」

存外に他愛ない―――呆気なさを感じつつも痛みにもがく喜美の姿を想像しながら、キャスターは喜美の顔を引き裂いた右手を見た。
キャスターの右手は綺麗なままだった―――血の一滴も付いていないほど。

「…え?」
「くくくく…」

血に塗れていない綺麗な自分の右手を見たまま、呆気にとられたキャスターの背後で、喜喜美は笑みを浮かべていた。
何事もなかったかのように笑みを浮かべた喜美は、無傷のまま、腕を組みながら、身体を揺らしつつ、平然と立っていた。
キャスターが引き裂こうとした喜美の顔はおろか、かすりもしなかったかのように身体の何処にも傷はなかった。
そして、喜美は眉を立てたまま、笑みを浮かべながら、背を見せて呆けるキャスターに告げた。

「あんた思った通り―――淫乱を自称する割には、かなり駄目な女ね」

喜美のその言葉を告げられたと同時に、キャスターは今度こそ相手を引き裂こうと、再び爪を立てながら左手を振り下ろした。
今度の攻撃は、手ごたえは十分だった。
先程のような遊びはなく、ただ殺意を込め、屈強な男ですら簡単に引き裂くその攻撃は―――

「ふふふ・・・何してんの?」

―――笑みでこちらを見る喜美に何ら傷を与えていなかった。
攻撃の手ごたえはあるのに、攻撃を受けたはずの喜美は無傷のまま―――この異常事態に、キャスターは瞬時にある推測に思い当った。

「…宝具か?」
「敵に問う馬鹿がどこにいんのよ。親切に教えてあげる馬鹿がいると思う? でも、自慢したいから、特別に教えてあげちゃう―――巨乳防御よ!!」
「な…!?」
『結局教えるのか!? いや、それより絶対違うはずだ!?』

カマをかけてきたキャスターに対し、喜美は挑発するかのようにはぐらかしながら、大きな胸を持ちあげるように身体を抱きながら、顎を乗せるようにして、言い放った。
喜美の言葉が思わず絶句するキャスターに代わって、今度も比較的常識人(?)なアラストールが即座にツッコミを入れた。

「くくく…あんたが動揺してどうするのよ? でも、疑問に思うなら、何で私が無傷なのか説明してみなさい!! 巨乳という文字を使って二十文字以内で、ハイスタート!!」
『ら、ランサー…この娘は味方のはずなのに、どうしてこうなんというか・・・!!』
「思いっ切り遊ばれているわね、アラストールv」

だが、ツッコミをいれたアラストールに対して、喜美は容赦なく畳み掛けるように理不尽な事を言い返した。
この娘、本当に味方なのか!?―――予想だにしなかった喜美の反撃に押されたアラストールは戸惑いながら、唯一味方になってくれそうなランサーに助けを求めた。
もっとも、ランサーも、ハイテンションな喜美に翻弄されるアラストールを見ながら、変わった性格の小娘に翻弄される紅世の天罰神という光景を楽しんでいたりするのだが。

「はい、時間切れよ、マダオ系固物宝石。さっき、私の宝具はエロ系とダンス系と言ったでしょ? でも、エロけりゃ、誰にだって身体を預けると思ってんの?」

とここで、アラストールをマダオ系に認定した喜美は、走狗であるウズィと共にゆっくりとステップを踏みながら踊り始めた。
確かに、喜美はエロい女であるが、それは決して無粋な者やイケてない者にまでも身体を許すというわけではない。
そこで、エロとダンスを信望する喜美は、自らの高みをそのまま術式として完成させた。

「高嶺の花は、そこに到る者にしか姿を拝ませない。まして、それを枯らせずにつれて帰らせようなんて出来やしない。だから、高嶺の花が孤高に咲き続ける事で、山は不可侵であり続け、高き場所に到れる者達の崇拝の対象となるの」

―――故に私は高嶺の花となろう。
そう考えた喜美は、自分が認めた相手以外には、喜美を触れさせなくする術式を編み出した。
その名は<高嶺舞>―――歌と踊りによって紡がれるこの術式が発動し続ける限り、いかなる速度もいかなる武術の腕があろうとも、決して喜美に触れる事が出来なくなるのだ。

「私の<高嶺舞>は、私の身に無粋が触れないようにする為の術式が宝具化したもの。あんたのように、枯れることも考えない無粋な馬鹿ものが摘み取れないようにね」

そう言い放ちながら踊り続ける喜美に向かって、即座にキャスターは無数の魔法弾を叩きこんだ。
肉弾戦による攻撃では埒が明かないと判断したキャスターは、得手とする即座に魔術による遠距離攻撃に切り替えた。
だが、喜美を中心に、放たれた無数の魔法弾が次々と地面を粉砕した直後―――

「無粋ね。花を摘む気もなく、ただ燃やすだけなんて」
「何!?」

―――驚愕するキャスターの背後で、傷一つ付けられていない喜美は笑みを浮かべ続けながら舞い踊っていた。
物理攻撃だけでなく、魔術による攻撃さえも防ぐ<高嶺舞>の力を見せつけた喜美であったが、<高嶺舞>自体に攻撃力そのものはない。

「さて、とりあえず、この汚れ系幼女の攻撃は何とかしてあげる。だから、こちらの攻撃は任せたわよ、熱血女」
「いいわよ。無粋な者から高嶺の花を護る蜂としての役目請け負ったわ」

故に、キャスターの攻撃を防ぐ事に徹した喜美は、共闘しているランサーにキャスターの攻撃を任せた。
高嶺の花として舞い続ける喜美の言葉に応じたランサーは、喜美の舞に合わせるかのように<騎士団>を次々と召喚した。
本当にノリのいい女ね、素敵!!―――こちらの流儀に合わせてくれるランサーをそう思いながら、喜美はウズィを見せつけるように両手に乗せながら、キャスターにむかって宣言した。

「さぁ、やってみなさい。高嶺の位置に到れるかどうか―――舞が奉納される限り、私は高嶺よ」
「くっ、ぬかせぇ!!」

そして、喜美が腕を振り上げて、ウズィを空に放り投げた瞬間、この舞の舞台となる鳥居と円を組み合わせたフィールドが作り出された。
そして、喜美は舞の歌である通し道歌の一フレーズを口ずさみながら、キャスターの放った魔法弾を防ぐべく、今までのように緩やかなものではなく、激しく上下に波打つように明確なステップを踏んだ―――キャスターに至らせまいと、高嶺の花として高い場所で咲かんとする為に。

「通りませ―――」

―――笑みの口調で唄いながら、

「―――通りませ」

――大量に放たれる周囲の音を伴奏に、

「行かば 何処か細道なれば」

―――しかし、次々と鳴り響く音は声を越えようとしても、

「天神の元へと 至る細道」

―――幾度も幾度も打ち鳴らされ、

「御意見御無用 通れぬとても」

―――時折、割り込んでくる紅い髪に合わせるように、

「この子の十の お祝いに」

―――中央に白と黒の衣服の舞を置きながら、

「両のお札を納めに参ず」

―――周囲にいる騎士達をバックダンサーにしつつ、

「行きはよいなぎ 帰りはこわき」

―――止まることなく速度を上げながら、

「我が中こわきの―――通りませ―――」

―――二回目に突入した。
此処に来て、キャスターは、ただの命知らずな変人かと思っていた喜美が難敵である事を悟ると、即座に一つの解決方法を選択した。
この<高嶺舞>は確かに恐ろしい宝具ではあるが、完全ではない。
恐らく、ある程度の対人・対軍宝具クラス程度の攻撃は防げても、喜美の使用する魔力を軽く上回るような対城宝具や大規模な魔術攻撃ならば簡単に突破できるはずだ。

「このバビロンの魔女を舐めるなぁ!! その程度の小細工などもろとも吹き飛ばしてくれる!!」
「高嶺の花を掴めないから、山ごと消し飛ばすつもりなの? 本当に無粋ね―――」

ならば、高嶺舞をもってしても防げない魔術攻撃で、この鬱陶しい舞台ごとランサーもろとも、喜美を吹き飛ばせばいい!!
キャスターは、両手に魔力を集めると、舞うような動きで文様を描き、高嶺舞でも防げない大規模魔術―――バーサーカーとの戦いで使用した暗黒魔術を放とうとした。
空中でエアを決めたウズィを肩に着地させた喜美は、キャスターの行動を見ながら、本当につまらない女だと心底呆れながらため息をついた。

「―――私という高嶺の花を護るのが蜂だけとも限らないのにね」
「沸騰する混沌より冒涜の光―――ズドン!!―――がぁっ!!」

―――攻撃の担い手は、何もランサーだけではないというのに。
その直後、詠唱していたキャスターの背後から細い光が突き刺さり、勢いよく爆発した。
伏兵か!?―――背後からの不意打ちを受けたキャスターは、ここにいる喜美とランサー以外にもう一人増援がいる事に気付かされた。
そして、キャスターの予想は見事に的中していた。

「…やった!!」

キャスターの読み通り、アーチャー陣営との共闘が決まった際に、ランサーの提案により、遠距離からの援護を任された射手―――喜美達と別行動を取っていた浅間智は森の中を走っていた。
キャスターが、喜美の高嶺舞に翻弄されている間、戦いの様子を見つつ、ランサーは別行動中の浅間と連絡を取っていた。
そして、ランサーは、キャスターが、喜美の高嶺舞でも防ぎきれない攻撃仕掛けてきたなら、即座に浅間が妨害するように指示を出していたのだ。
現在、キャスターを射抜いた浅間は、静かによしと拳を固めながら、場所を特定されないように、次の場所を移動していた。
ちなみに、本来、巫女である浅間は人を撃ってはいけないのだが、サーヴァントは人間ではなく、英霊なので遠慮なく打ち放題しても無問題なのである。

「お見事。やるじゃないの、あの子」
「何を当たり前のことを言っているの、熱血女。なんたって、武蔵の巫女は戦艦さえを撃ち落とす巫女―――ズドン巫女なんだから!!」
『巫女なのか? それは巫女という名の何かではないのか!?』
『私は巫女です、ちゃんと巫女ですから!! 後、喜美、此処に来てまで、何を流行らせようとしてるんですかぁ!!』

一方、浅間に援護を提案したランサーは、見事にキャスターを射抜いた浅間の腕前に素直に感心していた。
そんなランサーに対し、浅間とは幼馴染である喜美は、浅間の腕を認めつつ、事も無げに浅間本人は断固否定していた悪名をバラしていた。
これには、浅間も慌てて表示枠を出すと、ここにはまともな常識人はいないのか!?と常識の通用しない面子に驚愕するアラストールに弁明しつつ、不名誉なあだ名を広めようとする喜美に対し抗議の声を上げた。
その直後―――

「なるほど…だが、その程度で、この私を、バビロンの魔女を仕留められると思っていたのか?」
『そんな直撃だったはずなのに!?』
「伊達に不死身じゃないって事ね。持久戦になりそうだけど、頑張れそう、踊り子さん?」
「ふふふ…もちろんよ、熱血女」

―――浅間の狙撃で受けながらも、宝具の力で身体を完全に再生させたキャスターが強烈な殺意を込めた凄惨な笑みを浮かべていた。
自分の予想を次々と覆していく喜美達を前に、キャスターはこれまでの過信と余裕を捨て去り、喜美達を本気で殺しにかかろうとしていた。
直撃を受けても何事もなく戦おうとするキャスターに驚く浅間に対し、ランサーと喜美はここから先が勝負の行く末を決める正念場であると覚悟を決めた。

「―――通りませ―――」

再び、舞い踊ろうとする喜美が動くと同時に、キャスターは一斉に魔法弾を発射した。
戦いは、既に銀時達が戻ってくるまでの時間を稼ぐ持久戦から、どちらかが力尽きるまでの消耗戦に突入していた。



一方、幻燈結界によって精神世界に囚われた銀時は、ここが精神世界だと気付かないまま、桂や高杉と共に戦場を駆け巡っていた。

「おぉおおおおおおおおおお!! どけぇえええええええええ!!」
「てめぇら、雑魚に用はねぇんだよ!!」
「銀時、ヅラぁ…急げ時間がねぇぞ!!」

血だらけになりながらも、銀時らは、鬼気迫る勢いで、向ってきた敵兵を切り捨てた。
開戦当初、不穏分子として処刑されようとしている師匠である吉田松陽を助けるため、銀時達は、次々に襲いかかる敵兵を獅子奮迅の強さで蹴散らしていた。
だが、銀時達は、ここで予想外の強敵―――額の左から右頬にかけて大きな古傷を負った何処か陰鬱そうな男が率いる部隊によって足止めを喰らう事になってしまった。
これにより、主力となっていた銀時達が抑えられた事で、他の部隊も次々に押され始めていた。

「もう少しだ…もう少しで…!!」
「ちっ、この急がなきゃいけねぇ時によ…!!」
「諦めんじゃねぇぞ、お前ら!! 俺達には護らなきゃいけない約束があるんだよ!!」

敵の足止めに苛立つ桂と高杉に向かって、銀時は叱咤するように檄を飛ばした。
どんなに不利を強いられようと、銀時達は諦めるわけにはいかなかった。
一刻も早く先生を助けなければ!!―――その思いだけが、幕府と天人の連合軍という兵力差や装備の差など圧倒的不利な状況で闘う銀時達の心を支えていた。

「なるほど…お前達が天にかみつくという愚行を起こすのは、あの男を助けたいという思いからか。ならば…」
「…!!」

とここで、銀時と戦っていた古傷の男は、この不利な状況に於いても戦おうとする銀時達の目的を察した。
その古傷の男が口にした言葉に、目的を言い当てられた銀時は何か嫌な予感を覚えて、思わず体が強張ってしまった。
そして、銀時の見せた隙をすかさず逃すことなく、古傷の男は隠し持っていた信号弾を空に向かって発射した。

「今、私が放った信号弾の内容は、処刑執行開始せよ…これで、お前達の戦う理由はもうないはずだ」
「てめぇ、ど…どけよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

古傷の男が、銀時達の士気をくじく為に、松陽の処刑をすぐに行うように連絡した事を知り、銀時は怒りにまかせて斬りかかった。
だが、古傷の男はまるで斬り合うつもりなど無いかのように、銀時の攻撃を避けるのに徹し始めた。
松陽が処刑されれば、師を助けると言う目的を失う事で、敵軍は瓦解すると判断した古傷の男は、銀時達を足止めする為に、処刑執行までの時間稼ぎに徹する事にしたのだ。

「無駄だ。いくら喚こうと、いくら叫ぼうと、お前達の慟哭など天に届きはしない」
「うるせぇ!! 約束があるんだ!! 約束したんだよぉ、せんせええええええええええええええええ!!」

銀時の攻撃を避けながら、そう断じる古傷の男に対し、銀時はあらん限りの力を振り絞って叫んだ。
銀時が幼かった頃、幕府の役人によって、松陽が謀反人として連行されていく中で、松陽と銀時はある約束を交わしていた。
―――銀時、後の事は頼みました。なぁに心配ないよ。
―――すぐに皆の元に戻りますから。だから―――それまで…
―――皆を守ってあげてくださいね…約束ですよ…
先生、約束を守るから、俺ちゃんと約束を守るから――――!!
吼えるように斬りかかった銀時が、もう一度古傷の男に挑もうとした直後―――

「―――種種<クサグサ>の罪事は天津罪、国津罪、許許太久<ここだく>の罪出でむ、かく出よ」
「え?」
「何?」

―――古傷の男の背後から、この騒乱の戦場に於いて似つかわしくない穏やかな青年の声が静かに聞こえてきた。
思わず後ろを振り返った古傷の男につられたのか、銀時も声のした方向に目を向けた。
そこにいたのは、西洋の軍服に身を包み、身の丈を超える巨大な剣を携えた、長身で髪の長い、マスクで顔を隠した青年だった。
と次の瞬間、青年の周囲にどす黒い色をした泥が蠢きながら、あふれ出していた。
何が起こるのかと見届ける銀時達の目の前で、青年は祝詞を唄うかのように言葉を紡いだ。

「此久佐須良比失比<かくさすらいうしないて>―――罪登云布罪波在良自<つみというつみはあらじ>」

そして、あふれ出した泥は一気に質量を爆発的に増しながら、青年の目の前に広がる戦場へと津波のように押し寄せた。
ようやく異変に気付いた幕府と天人との連合軍の兵達であったが、音速に匹敵する速さで進行する泥に為すすべもなく、飲み込まれていった。
だが、本当の地獄はそこからだった。

「何だ…何なのだ、あれは…!?」
「腐っていやがる…敵の兵士だけじゃねぇ、戦艦まで腐らせてやがるぞ!!」

桂と高杉は、目の前に繰り広げられる光景を見て、唖然としながらも、驚きを隠せなかった。
泥に飲み込まれた幕府と天人との連合軍の兵達、否、地上に降りていた戦艦さえも、有機物・無機物と関係なく、青年からあふれ出した泥に触れた全てのものが次々に腐り崩れていた。
たった一人の青年の登場によって、腐食の泥に飲み込まれた幕府と天人の連合軍は総崩れとなり、戦場を瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図へと変えてしまった。

「てめぇは…誰なんだ?」
「混乱するのも無理はないか。そもそも、僕はここにはいないはずの人間だからね」

こんな奴いないはずだ―――何故かそう思った銀時は、味方か敵か分からない青年にむかって何者か尋ねた。
だが、青年は銀時の質問に答えることなく、考え込むように訳の分からない事を口走った。

「どうやら最悪の展開になる前に来られたのは幸いだったか。彼らが来ていないところ見ると、どうやらセイバーを助けるのに時間がかかっているようだね」

最悪の展開? 彼ら? セイバー?―――何かを安堵したかのような青年の呟きの意味は理解できないものの、銀時は青年の口から出てくる単語に引っ掛かるモノがあった。
何故かは理由は分からないが、銀時にとって、自分はこの後どうなっていたかを知っていたし、青年の言う彼らやセイバーにも心あたりがあるような気がしてならなかった。
とここで、青年は銀時と古傷の男の間に立ちはだかりながら、銀時に背を向けて話しかけた。

「ここは僕が引き受けよう。僕が現れた事で、罪人を処刑する事も忘れるほど、敵は混乱に陥っているようだ」

銀時の代わりに古傷の男と戦おうとする青年の言葉に、銀時はハッとしながら処刑場の方へと眼を向けた。
腐食の泥は処刑場にまでは到達していないものの、守備兵や処刑人達は腐食の泥に恐れをなしたのか、処刑すべき罪人を置き去りにして逃げ出していた。
そう、今こそ、先生を―――松陽を助ける絶好の機会だった。

「君は自分の救わなければならない人を助けるんだ…それがこの場に於いての最善の行動になる」
「…あんた、名前は?」

青年も、まるでそれが、銀時の義務であるかのように、銀時にむかって一刻も早く松陽を助けるように促した。
それに対し、せめて、銀時は自分達を、松陽先生を助けようとする青年の名前を尋ねた。

「櫻井―――櫻井戒。彼に頼まれてね…あの第六天に啖呵を切った大馬鹿野郎を助けてほしいとね」

青年―――戒は自身の名前と銀時を助けた理由を、銀時に伝えながら、古傷の男に向かって得物である巨大な剣を構えた。
実際に銀時を見て、一目で分かってしまった―――銀時も自分が背負っているもの、大切に思うものを護る為に闘おうとする人間だと。
故に、戒は第六天を、バーサーカーを打ち倒すためだけでなく、戒個人としても銀時を救いたいと思っていた。

「護らねばならない輝きがあるのなら、僕自身は腐泥にまみれても良い―――それが、屑でしかない、この櫻井戒の役目だ」

まるで自分自身を卑下するかのように言い切った戒の言葉に、銀時は少しだけ戒という青年の本質の一部分を理解した。
要するに、こいつは、てめぇの守りたい奴に何も背負わせたくない、全ての穢れから守りたいと願っているんだ。
だから、戒という青年は、大切なもんに降りかかる不幸や悪意みたいな汚いもの全部を、てめぇだけで全部受け止める馬鹿なんだと。

「何言ってやがんだよ…てめぇは屑なんかじゃねぇさ」

故に、何でもかんでも自分で背負いこもうとする戒に向かって、銀時は恩人に対する感謝の言葉を言おうとして―――

「腐った泥に塗れても、輝いて―――お〜い、銀時っ!!―――うぼぁああああ!!」
「ぜ、全裸が空から降ってきた…!!」
「おい、何か次々、空から人が降ってきたぜ、ヅラ!!」
「え、ええええええええええええええ!?」

―――空か降ってきた全裸―――アーチャーの股間が銀時の頭の上に直撃した。
どこぞの皇帝の断末魔のような悲鳴を上げた銀時は、全裸の股間が激突した頭を押さえて痛みに悶えた。
だが、全裸に続けと言わんとばかりに、セイバーや外道丸、正純&ルビーが銀時に上に次々のしかかった。
桂と高杉は、この異常事態に別の意味で驚き、事情を知る戒はアーチャーらのあんまりな登場の仕方にキャラを忘れるほど声を上げて驚いた。

「な、何とか着いたようだな…」
「ちょうど、真下に銀時様がいたおかげで助かりやしたが、もう勘弁してほしいでござんすね」
「まったくその通りです。そもそも、セイバーさんがいきなり暴れるからですよー」
「いくらショック療法だからって、全裸の、全裸のナニを握らされて冷静でいられるわけないでしょ!!」
「おいおい、銀時聞いてくれよー!! あの蜘蛛の姉ちゃん、股間を殴るなんてマジ鬼くさくね?」
「いや、君達の場合は、もっと空気を読むべきだと思うんだけど…」

無事に銀時の精神世界にたどり着いた事に安堵する正純に対し、外道丸とルビーはお前のせいだよ、コノヤローと言わんばかりのジト眼で、此処に来る途中で大騒ぎしたセイバーの方を見た。
もっとも、半泣き状態のセイバーは、アーチャーの首をがくがく揺らしながら、外道丸とルビーに向かって涙交じりで言い返した。
いくら正気を取り戻すためとはいえ、全裸のナニを握らされたのだから、セイバーが非難の声を上げるのは剱冑である前に女として当然だった。
もっとも、当の全裸ことアーチャーは人の話を聞いていないのか、股間の紳士がかなりピンチだった事を、うつ伏せになったまま動かない銀時に向かっていつもの調子で話しかけた。
そして、戒は、助けるどころか思いっきり銀時の邪魔をしているアーチャー達に何か遠くを見る目で見詰めつつ、この子達はいったい何をしに来たんだろう…?と呆れながら呟いた。

「て、てめぇら…ふざけんじゃねぇぞ、こらああああああああ!! 特に全裸ぁあああ、何で、また全裸になってるんだよ!? あれか、全裸になれば何でも笑いがとれると思っている汚れ系芸人か、このや…あ?」

とここで、この大変な時に馬鹿をやらかしたアーチャーらに対し、頭から血をダクダク垂れ流した銀時は怒鳴り声を上げながら、即座に起き上がった。
そして、セイバーと一緒になってアーチャーの首をガクガク揺らしながらツッコミを入れる途中である違和感に気付いた。
―――何で、ここに夢で見たアーチャーやセイバーがいるんだ?
―――いや、そもそも、何で、俺は、攘夷戦争の時には会った事のない外道丸の事を知っているんだ!?
まるで、現実であると思っていたモノこそが偽物であるという感覚に陥った銀時は、大凡の事情を知っているであろう外道丸にむかって尋ねた。

「おい、外道丸。何で、てめぇらが此処にいるんだよ? というか、ここは何処なんだよ?」
「…その様子だとすでに異常に気付いたようでござんすね。此処は銀時様の記憶、それももっとも耐えがたい過去の記憶を引きずりやした世界でござんす」

この異常事態に混乱しかけている銀時に対し、外道丸はここがキャスターの宝具<幻燈結界>によって引き出された銀時の持つ記憶の―――それも銀時にとって越えられない過去の記憶の世界である事を告げた。
そもそも、キャスターの宝具<幻燈結界>はただの幻を見せる宝具ではない。
キャスターの宝具<幻燈結界>の最大の脅威は、敵の記憶を読み、もっとも苦痛を伴う形で幻を見せ、その精神や想い出、信念を蹂躙する事で敵の精神を破壊することにあった。
英霊となる前のキャスターも、次々に襲いかかる聖堂教会や魔術協会などの猛者達を、もっとも鍛え難い精神を壊す<幻燈結界>の力を使う事で打ち破ってきた。
だが、今回の場合は、過去の記憶にいないはずのアーチャー達の登場と、戒を送りこんだ張本人―――とある変質者の介入により、銀時にかけられた幻燈結界の効果が壊れ始めているのだ。

「あの全裸のナニを乗せられたドS幼女にそんな切り札があったとはな。なら、さっさと第一天のねーちゃん助けるために出て行くしかねぇよな…」

改めて、キャスターの恐ろしさを思い知った銀時は、アーチャー達が来てくれた事に感謝しながら、未だ幻燈結界に囚われているであろう第一天のところへ向かおうとした―――

「なら、銀時…銀時の大切な人を助けてから出て行こうぜ」
「…全裸よぉ、話聞いていたのか? ここは、俺の記憶の中だぜ。現実じゃねぇんだよ。意味なんて何も…ねぇんだよ」

―――直後、アーチャーは銀時の大切な人―――松陽を助けようと言いながら、背を向けて立ち去ろうとする銀時を引きとめた。
こいつは状況を分かっているのか?―――そう思った銀時は、アーチャーを半目で睨みながら、ここで松陽を助けても無意味だと声を荒げて言った。
この世界は銀時の記憶が再現された幻の世界―――この世界で、銀時達が松陽先生を助けたとしても、未来が変わるわけではないのだ。
だから、銀時は、この世界で何をしようと意味など無いと割り切ろうとしていた。

「でも、助けてぇんだろ? なら、助けに行こうぜ」
「全裸…てめぇ、何で、そこまでするんだ?」

だが、アーチャーは笑みを浮かべたまま、無意味だと割り切ろうとしながらも、それでも松陽先生を助けたいという銀時の心を見抜いているかのように手を差し出した。
それに対し、銀時は頭を乱暴に掻きながら、アーチャーに松陽を助けようとする理由を尋ねた。
アーチャーの言葉を聞く限り、セイバー陣営と同盟を組んでいるからとか、後の恩を売る為などという打算などというモノが全くなかった。
―――ならば、なぜ、アーチャーは松陽先生を助けようとするのか?
銀時の抱いた疑問に対し、別段考えるそぶりも見せないまま、アーチャーはあっさりとその答えを言った。

「だって、銀時達は、今殺されようとしているおっさんを助けるために、国と戦ってんだろ? それに、銀時達が助けようとするおっさんが悪い奴なわけねぇじゃん。だったら、俺達は、おっさんを助けようとする銀時を全力で助けるぜ」

アーチャーは、理不尽な処刑を強いられる松陽先生を、銀時達が国を敵に回そうとも助けたいと思っているから、その銀時達を助けるのだと笑いながら言った。

「だから、助けに行こうぜ、銀時。安心しろよ。銀時なら出来る―――出来ねぇ俺が、この葵トーリが保証するさ」
「…馬鹿野郎。本当に大馬鹿野郎だぜ」

アーチャーは自身の真名<葵・トーリ>名を口にしながら、真っ直ぐにこちらを見つめる銀時に向かって手を差し出した。
あろうことか自分の真名を告げたアーチャーに、銀時は憎まれ口を叩きながら苦笑した。
アーチャーは確かに、本来ならば敵である銀時にもっとも隠すべき真名を教えるほどの大馬鹿野郎かもしれない。

「だけど…そういう馬鹿は嫌いじゃないぜ、葵・トーリ」

けれど、真名を明かしてまで、わずかな間しか知りあってだけの銀時を信じるアーチャー、否、葵・トーリという少年を、銀時は表のは出さないものの、好ましくさえ思っていた。
そして、松陽先生を助ける決意を固めた銀時は信頼できる仲間としてアーチャーを真名で呼びながら、差し出されたアーチャーの手を固く握り返した。
確かに、あの時の銀時は、自身の力不足と幕府という強大な敵を前に、松陽先生を助ける事は出来なかった。

「一応、注意しとくけど、記憶の中でも善悪相殺の誓約は発動するわ…」
「ま、なんとかしてみるさ、セイバー」

―――やれやれと物騒な忠告をするセイバーに向かって、いつもの調子で答えた。

「なら、雑魚の露払いは、あっしに任せてもらうでござんす。この外道丸、主である銀時様の背中を護らせてもらいやす」
「私も微力ながらやれる事はやるつもりだ」
「やれやれですね…でも、そう言うノリは嫌いじゃないですよv」
「頼んだぜ、外道丸。えっと…そこの痛そうな魔女っ子?も頑張ってな。その…人生とか…」
「何故、そこで口ごもる!? 後、眼を逸らしているだろ!?」

―――得物である金棒を担いだ外道丸と魔法少女の格好をした見知らぬ少年に背中を預けた。
―――一応、何か目覚めてしまったのか、ハタから見ると恥ずかしいことこの上ない魔法少女の格好をした見知らぬ少年には、人生の先輩として色々とフォローしてやった。
―――見知らぬ少年は何やら訴えているようだが、間違いなく全裸の中でもトップクラスの変態だと思ったので、とりあえずスルーしてあげる事にした。

「なら、いっちょ行くぜ、セイバー!!」

だが、今の銀時には、あの時にはいなかった、松陽先生を助ける自分に力を貸し、国を敵に回しても、銀時が正しいと信じてくれる仲間達がいた!!
まるで勝利を確信したような笑みを浮かべた銀時は、セイバーを装甲せんと誓約の口上を口にした。

「鬼に逢うては鬼を斬る…仏に逢うては仏を斬る!! ツルギの理、ここに在り!!」

次の瞬間、セイバーの装甲が次々と宙を舞いながら、銀時の周りを旋回しながら纏われていった。
そして、深紅の鎧武者―――宝具<装甲悪鬼村正>を纏った銀時が姿を見せた。

「何!?」
「何なんだ、そりゃ…!?」
「じゃあ、ちょっとばかり行ってくるわ、ヅラ、高杉―――セイバー、辰気加速(グラビティ・アクセル)!!」
「諒解!!」

蚊帳の外にされていた桂と高杉が驚くのを見ながら、セイバーを纏った銀時は重力を操り加速する技―――辰気加速の力で一気に空を飛んだ。
目指す場所は、処刑人達に置き去りにされた松陽先生のいる処刑場―――深紅の弾丸と化した銀時は目的地に一直線に目指していった。



一方、ランサー達とキャスターとの戦闘は、両陣営ともに死闘を繰り広げていたが、ある意味で予想通りの終わりを迎えようとしていた。

「ちょっと…これはシャレにならないわよ…」
「うふふふふ…さすがに、この賢姉も驚きだわ」
『冗談じゃないですよ…こっちはもうヘトヘトなのに…』

まず、ランサー達はすでに闘い続けるのもままならないほど酷い有様だった。
攻撃の要となっていたランサーは軽口をたたいてはいるが息も絶え絶えで、<騎士団>の連続使用により魔力の消耗が激しく、何とか展開できた二体の騎士に支えられて立っている状態だった。
それは、キャスターの攻撃を防いでいた喜美も同じで、喜美の魔力を消耗させんとするキャスターの激しい攻撃に、今や現界可能な魔力を残すだけになっていた。
そして、喜美と同様に、遠距離からの援護射撃でキャスターの大規模魔術を妨害していた浅間もその場にへたり込むほど、魔力を使い尽くしていた。

「ふん…もう終わりのようだな」
「本当に不死身みたいね…バーサーカーじゃないけど、反則じゃないの、それ?」

だが、喜美達と同様に全力で闘っていたはずのキャスターは、一切の傷も魔力の消耗の無い状態でボロボロのランサー達を見下ろす様にして立ちはだかっていた。
ランサー達との戦いの中で、キャスターはランサーの<騎士団>に斬り裂かれ、貫かれ、叩きつぶされる度に致命傷を負い、喜美の<高嶺舞>によって多くの魔力を消耗していた…はずだった。
しかし、キャスターは、自身の宝具<虚無の魔石>の効果で驚異的な超再生力と大量の魔力供給により、致命傷を負っても即座に再生し、魔力が尽きることなく闘い続けていたのだ。
不老不死の魔女―――生前にそう呼ばれ、尽きることなく供給される魔力といかなる方法持ってしても殺せぬ身体を持つキャスターにとって、マスターの魔力供給が有限である限り、他のサーヴァントに消耗戦で負けることなどあり得ない事だった。
もはや勝利は揺るがぬ事を確信したキャスターは、まずは、先程受けた不意打ちの礼をする事にした。

「まずは、貴様からだ…弓兵!!」
「…しまった!?」
「浅間!!」

そして、徐にランサーと喜美に背を向けたキャスターは、遠距離射撃で援護をしていた浅間のところに一直線に向かって行った。
飛び去って行ったキャスターの狙いが浅間である事に気付いたランサーと喜美は慌てて、キャスターを追いかけた。
だが、ランサーと喜美は、魔力不足で全力を出し切れず、キャスターに追い付くどころか突き放されるだけだった。

「―――死ね!!」
「…!?」

一方、こちらに向かってくるキャスターに気付いた浅間はすぐに距離を取ろうとするが、瞬く間に浅間へと追いついたキャスターは、両手の爪を突き立てながら、一気に襲いかかった。
弓を構える事も、逃げる事もできない浅間は、目の前に現れたキャスターの振り下ろした鋭い爪に服と共に身体が引き裂かれる直前―――

「―――海は幅広く、無限に広がって流れ出すもの。水底の輝きこそが永久不変」
「なっ…がぁっ!! 何だ、何なんだ、それはぁ!?」

―――どこかで聞いた覚えのある少年の声が聞こえてくると同時に、キャスターの腕が不意に現れた断頭台の刃に似た何かに斬り飛ばされた。
3度目の不意打ちを受けたキャスターと浅間の間に割り込むように現れたのは、バーサーカーに呼び出されたサーヴァントの一体―――断頭台の刃を腕に宿した少年であった。
だが、キャスターが何より驚いたのは、この少年がバーサーカーを除く倉庫街で現れたどのサーヴァントよりも、明らかに桁違いのステータスを有していることだった。

「―――永劫たる星の速さと共に、今こそ疾走して駆け抜けよう」
「これは唄なの…?」

尚も祈りを込めて謳いあげるように紡がれていく少年の言葉を聞きながら、ランサーは少年から膨れ上がる魔力、否、荘厳とさえ思ってしまうほどの神気の奔流を感じながら唖然としたままで呟いた。
一応、ランサーもその身に天罰神と称されるアラストールを有する存在だが、それでも比べ物にならないほど少年の神格は比べる事さえ無意味なほど桁が違っていた。

「―――どうか聞き届けてほしい。世界は穏やかに安らげる日々を願っている」
『まさか、本来の姿を戻ろうとしているのか!? だが、これは…』

とその時、アラストールは謳いあげる少年の姿が変化し始めている事に気付いた。
謳いあげる少年が、中性的な少年の姿から逞しい青年の身体へと変わっていく中で、肌の色は漆黒へ、髪と眼は血のように赤く染まり、服もいつの間にか白銀の鎧を纏い、背中には翼とも蜘蛛の脚とも見える八枚の巨大な刃が展開し始めていた。
変貌を遂げる少年―――否、青年の姿は、禍々しい印象を与えながらも、そこに厳粛な静謐さを兼ね備えた神々しさもあった。

「―――自由な民と自由な世界で、どうかこの瞬間にいわせてほしい」
「ふぅ…良い男じゃない―――高嶺の花がその孤高を投げ出して、全てを捧げたくなるほど」

その中に於いて、いつもの余裕の笑みを浮かべず、真剣な眼差しで見つめる喜美は、謳いあげる青年を見ながら、うっとりしながら呟いた。
ああ、あれになら触れられても、枯らされても構わない―――そう思ってしまうほど、青年の姿は、喜美を見惚れさせていた。

「―――時よとまれ。君は誰よりも美しいから」
「あっ…」

姿を変えながらも謳いあげる青年の姿を見ていた浅間は、この祈りに込められた意味を感じ取った。
―――愛すべき一瞬の刹那を味わいたい。
―――美しいモノよ、過ぎ去ることなく留まり続けろ。
―――俺は、この愛すべき日常を、友を、陽だまりを、愛を守り抜きたい。
この人は悪い人じゃない―――そう思った浅間は、キャスターに斬り裂かれた服が肌蹴ているのも忘れるほど静かに見守っていた。

「―――永遠の君に願う。俺を高みへと導いてくれ」

しかし、浅間が感じたように、この青年自体が善人だとしても、神とは善や悪で区別されるものではない。
神とは、ただ圧倒的に己が法を流れ出して、己の色に染め上げるべく、世界を塗りつぶす存在なのだ。

「―――Atziluth<流出>―――」

そして、最後の一句を謳いあげようとする青年の法とは―――



第13話:Res novae―――Also sprach Zarathustra<新世界へ語れ―――超越の物語>



この刹那よ、永遠なれ―――時そのものを止めたいという渇望であった。


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■作者からのメッセージ
これにて、某投稿サイトにて掲載した分を全て移転しました。
次からは完全新作を投稿していきますので、よろしくお願いしますv

んで、感想返信をばv

>ヤシガニさん
何とか移転することができましたv

切嗣「(左右の個室確認後)…ふぅ、舞弥…爆破しよう、早めに(ぉぃ」
つうか、何でいるんだよ、ゴリラと桂、エリザベス!!

>グレンさん
何か、波旬みたいなノリで見つかったぁー!!
あと、GM粒子は、武蔵菌と銀魂ウィルスがジョグレス進化したものっすv
本編にはあまりかかわらないけどv
では、次回もがんばって更新していきますv
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