ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

IS インフィニットストラトス〜黒騎士は織斑一夏〜 第十七話
作者:AST   2012/07/15(日) 14:51公開   ID:GaMBFwOFFuY
時間はあっという間に過ぎ去ってゆくものである。

 身近な例で言えば、朝にインターネットを始めて、気が付けば夕方だった。

 そんな感じである。





                   第十七話





 「という訳で現在、夜の七時半。大広間三つを繋げた大宴会場で夕食中だよ」

 「誰に言ってるんですか?」

 「ん?読者のみんなだよ」

 そう言ってシュライバーは物凄い勢いで山盛りの白米を平らげていく

 「昼も夜も刺身が出るとは、豪勢だな」

 「そうだね。ほんと、IS学園って羽振りがいいよ」

 右隣に座るシャルが一夏の言葉に同意する。

 今、全員がそうであるように、一夏もシャルも浴衣姿である。

 『お食事中は浴衣着用』という旅館の決まりらしい

 “普通は禁止するものじゃないのか…………?”

 一夏はそう思ったが、口には出さない

 夕食のメニューは、刺身、小鍋、山菜の和え物が二種類、赤だし味噌汁、お新香である。

 刺身は肝付のカワハギである。

 「美味いな。それに山葵(わさび)も本わさとは……高校生の食事では無いな。」

 「本わさ?」

 「本わさは本物の山葵をおろした物、学園の定食についている練りわさはワサビダイコンやセイヨウワサビが原料だ。」

 「じゃあ、これが本当にわさびなんだ?」

 「練わさも最近は美味いのが多いぞ。」

 「そうなんだ。」

 シャルがわさびの山を食べようとするのを、一夏は即座に止めた。

 「待て、本わさは少しでいい。そのままはキツイぞ」

 「そうなんだ。危なかったぁ……」

 ホッとしてからシャルは刺身に本わさを少しつけて食べた。

 「っ……美味しいけど結構効くね。」

 「ああ……だが、それが良い」

 隣ではセシリアが呻いており、一向に食事は進んでいない

 「大丈夫か?」

 「だ……ぃ……ょう、ぶ……ですわ……」

 「…………大丈夫そうでは無いな」

 次第にプルプルと震えだしたセシリアだが、なるべく平静を装って食事を始めた。

 持っている箸が震えている。味噌汁を飲むのにも苦労している。

 IS学園には世界中から入学希望者がやって来るため、生徒・教師ともに多国籍だ。

 周りには浴衣を着ているが様々な国からの女子がいた。

 「お、おいしぃ……ですわ、ね……」

 無理している表情にしか見えない

 「正座が辛い様ならテーブル席に移動したらどうだ?」

 「へ、平気ですわ………この席を獲得するのにかかった労力に比べれば、このくらい」

 “恋する乙女は強いな……”

 まるで意地になって正座を続ける子供の様に見えてくる。

 「一夏、女の子には色々あるんだよ」

 「そうか……」

 “そう言えば箒はどこに居るんだ?”

 海で全く見かけなかったから、気になって辺りを見回すと向かいの列の奥の方に居た。

 背筋が伸びた正座で食事をしている。

 箒は両隣のクラスメイトと楽しげに話をしているらしく、一夏の視線には気が付いていなかった。

 流石というべきか、彼女の浴衣姿は様になっている。

 “大和撫子とはこういうのを言うのだろうか?”

 そう思っていると箒の隣の女子が一夏の視線に気が付いて手を振ってくる。

 すると楽しそうにしていた箒がムッと一夏を睨んだ。

 一夏は適当に手を振りかえして自分の食事に戻った。

 “そういえば束さんは何処に行ったんだ?”

 あのド派手な登場の後、忽然と消えてしまった。

「う、ぐ……くぅ………」

 二度も刺身を取り損なっているセシリアを見た一夏は仕方ないといった様子で行動を起こした。

 自分の(・・・)箸でセシリアの刺身を取り、山葵を少しだけ付けて彼女の口元へと運ぶ

 「い、一夏さん!?」

 驚いた様子で一夏を見るセシリア

 「移動したくないのだろう?しかし食事は一向に進まない。なら俺が食べさせてやる。」

 「で、では、お願いしますわ……」

 顔を真っ赤にしながらもセシリアは口を開く

 「あ〜ん」

 パクリと幸せそうに刺身を食べるセシリアにつられて一夏も表情が緩む

 そしてソレを見逃す程、十代の女子は甘くない

 「あああーっ!セシリアずるい!何してるのよ!」

 「織斑君に食べさせて貰ってる!卑怯者!」

 「ズルイ!インチキ!イカサマ!」

 「よく見たら、織斑君と間接キスじゃない!!」

 「「「「「な、なんだって―――――――――ッ!!!??」」」」」

 騒ぎ出す他の女子達に、やれやれと頭を抱える一夏

 「ず、ずるくありませんわ!席が隣の特権です」

 「それがずるいって言ってんの!」

 「織斑君、私も私も!」

 これ幸いとばかりに自分も食べさせてほしいと迫る女子達

 「早く早く!」

 「あ〜ん!」

 一斉に口を開く女子の群、その光景は雛鳥の群である。

 「お前達は静かに食事をする事も出来んのか」

 千冬がやって来て一喝すれば総ては収まる。

 女子達が各自の席に戻ってゆくのを確認してから、千冬は一夏に言う

 「織斑、あまり騒動を起こすな。鎮めるのが面倒だ」

 「わかりました」

 彼女が部屋から去ってゆくと、一夏はセシリアに告げる。

 「悪い、セシリア」

 「むぅぅ…………」

 ぷく〜〜〜〜〜〜と頬を膨らませたセシリアのふくれっ面

 彼女が幼子の様に拗ねる様子を、微笑ましく可愛らしく思う一夏

 「代わりと言ってはなんだが、後で俺の部屋に来てくれ」

 小声で囁くと、セシリアは二度ぱちくりと瞬きをした。

 「後で部屋に………?それは――――」

 がばっ!と、いきなり一夏の手を握ったセシリアは熱の入った小声で答える。

 「はい!分かりました!じゅ、準備がありますので少々お時間をいただきますが、必ず!」

 「あ、ああ……」

 その勢いに珍しく一夏は気圧されながらも答える

 「ああ、何を食べても美味ですわ!!」

 セシリアはやたらテンションがハイになっており、ヒゲの配管工がお星様を取った時位フィーバーしていた。

 ………セシリア・ナイトフィーバー?

 “この鍋、下味に何を使っているんだ?”

 そんなセシリアを無視して一夏は鍋の味を分析していた。



 
「ふぅ………」

 一夏は夕食の後、旅館の露天風呂に入っていた。

 そこからは海を一望でき、波音が心地良く耳に伝わってくる。

 夜空を見上げれば、満天の星空に満月

 幸せな気分である。

 「酒でもあれば良かったのだがな……」

 本当に残念そうな声で呟く

 夜空を見上げながら一夏はゆっくりと物思いにふける

 “思えば織斑一夏として生まれてから様々な事が在ったモノだな”

 前の人生よりも波乱万丈かも知れない

 前世での故郷の事を考えてみる。

 ドイツは現在世界で最も男女平等に近い国である。

 何故かというとラインハルト・ハイドリヒの影響である。

 ラインハルトは持てる人脈を最大限に活用し、騎士団の勢力を広げ、ついには政治にまで影響するようになった。

 普通、軍隊が政治に介入するなどあってはいけない事であるが、ラインハルトは総てを愛していると言うだけあって、極めて平等な政策を行っている。

 それにより男性にとって住みやすい国でもあり、移住してくる男性も多い

それにIS以外の研究も自由に行われている。

ISが登場して以来、各国はISの研究ばかりで新しいモノを作り出そうとする事が無くなった。

しかしドイツは研究者が自由な研究をする事を認めている。

最近では男性用のパワードスーツが開発されているらしい

価値があれば何でも認められる。

結果としてドイツの経済は豊かとなって世界でも上位に位置する経済国となっている。

ラインハルトの双子の弟にして、騎士団の参謀ヴァレリアン・トリファ・ハイドリヒによる巧みな権謀策略によって国の政治家も大半が騎士団の影響下にあり、盤石である。

「聖晩餐杯……クリストフは日本でバビロンと共に孤児院を経営していたな」

 今度行ってみるか……と思いつつ一夏は風呂から上がった。



風呂から上がった一夏は旅館であるモノを見つけた。

「何だこれは?」

「ガシャポンだよ〜?」

そこに居たのほほんさん、布仏本音が答える。

「それは分かる。中身の事だ」

「ああ〜、聖槍十三騎士団フィギュアだよ?」

「ハイドリヒ、お前は何を考えている?」

フィギュアの説明書を読むと、騎士団の連中がデフォルメ人形としてラインナップされており

ラインナップは

『ラインハルト』『ヴァレリアン』『エレオノーレ』『シュライバー』『ベアトリス』『リザ』『シュピーネ』

『シュピーネ』は他のキャラクターと比べて出易く、すぐにダブるそうだ。

シークレットレアも数種類あるらしい
 
他にも限定5体しかないぬいぐるみがあるとの事

その『ぬいぐるみ』の名は『ちびハルト君』

ラインハルトのSDぬいぐるみである。

ちなみに一夏は千冬の部屋でそれらしきモノを見かけた記憶がある。





『一夏……そこは、んあっ!』

『ここは……?』

『くあっ!そ、そこは……やめっ、ああぅ!』

『直ぐに良くなる。大分溜まってたみたいだな』

『あああッ!!』

「こ、これは、一体、なんですの……?」

セシリアは千冬と一夏の部屋のドアに張り付いている鈴と箒に、引き攣った笑みを浮かべて問うが、帰ってきたのは沈黙だった。

「「…………………………」」

ず〜〜〜んとお通夜さながらに沈んだ表情で箒と鈴は項垂れていた。

『さて、次は――――』

『一夏、少し待て』

途切れた二人の会話にあれ?と思い、三人がドアに耳を寄せた途端

「「「へぶっ!!」」」

勢いよく開かれたドアに殴られた。

「何をしているか、馬鹿者共が」

呆れた様な千冬の声がその場に響いた。

その後、一夏はセシリアにマッサージをして散々、嬌声を上げさせた。

そしてシャルロットとラウラも加えて、千冬が五人に何を話したのか一夏は知らずに終わった。








そこは教会が立っている場所だった。

特徴的なのは教会の頂上に設置されている銀色の鐘だろう

その場所に似合わぬ爆音が響き渡り、地面のあちこちが抉れてる。

「La〜〜〜〜♪」

シスターの姿をした女性が美しい声で聖歌を歌う

同時に大量の光弾が影法師の様な男に襲い掛かる

「ふ、マルグリット以外に私を殺せるものか」

邪魔な羽虫を掃うかの様な調子で腕を振るうと光弾は掻き消えた

影法師が理解不能な言語で何かを呟いたかと思うと

空より彗星が女性へと降り注いぐ

「__________ッ!!!!」

彗星の一つが彼女ごと教会に直撃すると、次々と降り注ぐ彗星

「では、この世界を利用させて貰おう……」

無残にも瓦礫へと変わり果てた教会とボロボロになった女性を気にも留めず

影法師の様な男、メルクリウスは何かの詠唱をした。

彼から溢れ出した水銀が、この世界を徐々に呑み込んでいった………

「さあ、次の恐怖劇の準備は出来たぞ、ニグレド。後は君次第だ……ふふっ、はははははははははははははははははっ!!!」

水銀に呑まれゆく世界の中で彼は哂う


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。
テキストサイズ:8620

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.