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ひぐらしのなく頃に 〜結殺し編〜 第三話『罰ゲーム』
作者:虫歯菌   2012/07/15(日) 10:10公開   ID:C9tYKpxvBfA




 〜結殺し編 罰ゲーム〜


 最初の鬼でありながら全員を捕らえられなかったぼく。
 そしてそんな鬼に真っ先に捕まった梨花ちゃん。
 上記二名が、今回の罰ゲームを受ける羽目となった部活メンバーだ。いつの間にぼくは正規の部活メンバーになってたんだろう。
 ……ぼくは中性的な顔立ちをしていると、良く言われていた。体躯も小さい。レナより少し――本当に少しだけ小さいと言えば、その小ささが良く分かるだろう。よくさっきのぼくはレナのおでこに口づけできたな、と思いながら、自分の恰好に嫌気がさすのを感じた。ふりふりのゴスロリファッションだ。墨汁だらけの体を、水道に繋げたホースから噴出する水で洗ったところ、服がびしょ濡れになったのだ。結果、罰ゲームとしてこのゴシックロリータを着る羽目となった。なんで教室にこんなものがあるんだと疑問に思いながら。そして今回の罰ゲームはぼくだけじゃない。梨花ちゃんもだ。梨花ちゃんなんか、そもそもがロリな訳で、ゴシックロリータが嫌というほど似合っている。
 ちなみに、自分の姿を鏡で見て、《うわ、この女誰だよ》とか思ったのは内緒にしておきたい。いや、だってさ。元々茶髪で、少し髪の毛が長くなってて、その状態でゴスロリで、それもカチューシャなんかをつけてれば誰だって自分が女だと勘違いするだろう。いや、ぼくが中性的な顔をしているのが悪いだけなのだけれど。
「はぁ……」
 ぼくは溜息を吐いた。それに反応した委員長、基、魅音が、ぼくの頭を撫でた。魅音の方が背が高い。それが少し憎らしい。というか撫でるな。
「いやーっはは、まさかここまでゴスロリが似合うだなんて、おじさんびっくりだよ!」
 ぼくが一番吃驚してるよ。いや、一番吃驚してるのはぼくよりも畑仕事をしている老人たちかもしれない。朝には男だったぼくが女――のような格好――になっているのだから。いや、それどころかぼくのことをぼく本人だと思わないかもしれない。それこそ、双子とか、兄妹とか。そういう風に思うかもしれない。
 ていうか、そう勘違いしていてほしい。謂わば、ぼくの願望だろう。こんな恰好で村を出歩くなんて……拷問に等しい。
 そして梨花ちゃんはというと――
「みー……。もう慣れてしまったのですよ」
 ――だそうだ。
 沙都子ちゃんは服を着ないで良かったと安堵していたし、部活メンバーは全員ゴスロリを着たことがあるのかもしれない。レナと魅音のゴスロリか……。ゴスロリよりも、メイド服を来てもらいたいなぁ。レナは丁度良く盛られた胸をひっそり隠すような、魅音は逆に強調する様な。
「祐二君、今変なこと考えてなかったかな、かな?」
「っ。……変なことってどんなことかな、レナ?」
「ううん、考えてなければそれでいいんだよ。はぁう〜! 祐二君のゴスロリ姿、かぁいいよ〜! お持ち帰り〜!」
「お持ち帰りされる気はさらさらないからね?」
 抱きつこうとしてきたレナを軽く去なし、ぼくは梨花ちゃんと沙都子ちゃんを見た。今まで気にしていなかったが、登校する時、この二人はいなかった。時間がずれただけなのか家の方向が違うのか、下校するまでは定かではなかったが……どうやら二人は、ぼくらと同じ方向に家があるらしい。つまり後者の方が正しかったわけだ。
 と、そんなことを考えていると、小さな二人が突然振り返った。
「では、僕たちはこれでさよならなのです」
「では、これで失礼しますわ、みなさん」
 ふむ、どうやらここで別れのようだ。二人は同じ方向の家に住んでいるのか、沙都子ちゃんに手を引かれて梨花ちゃんが走っていく。
「うん、じゃあね」
 二人に聞こえるかどうか分からないくらい小さな声でそう言った。レナと魅音は、大声で《さよなら》を言っていたが。ぼくは、そういう、大声を出すっていうのは苦手だから。
 それから魅音とレナを分かれ、帰宅。ぼくの家はまぁまぁそれなりに大きい。近所では《榊原の屋敷》なんて呼ばれているらしい。ぼくの母親の趣味である人形を並べるため、一部屋一部屋が無駄に広いのだ。さすがにぼくの部屋には人形はないが、他の部屋には必ず一つ以上の人形が置かれている。常時視線を感じるから、人形趣味があるわけではないぼくにとっては恐怖の対象だったりする。
 家に帰ると、母親はいなかった。恐らく、仕事探しだろう。引っ越す前に探しておくのが最良な手段なのだが、今回は突然の引っ越しだったため、そこまで手が回らなかったらしい。まぁ、お金持ちであるところの榊原家は、後一年から三年ほどは遊んで暮らせると思われるが。大金持ちとは違うから、十年以上とか、一生遊んで暮らせるようなお金は持ち合わせていないのだ。
 そうなると、ぼくは必然的に一人になる。ぼくは自分の部屋に入り、姿見を見遣った。ゴスロリを着ているぼくは本当に女のようだ。カチューシャを外し、長くなりすぎてこの時期には暑苦しい髪の毛を掻き毟った。なんか痒い。慣れない物を頭に着けていたからだろうか。姿見をかち割りたい衝動が一瞬襲ったが、それを抑え、着替えを始める。さすがにガーターなんてものとかはつけていないが……下着も女物のものなのだ。さすがにこれは脱ぎたい。まぁ、濡れたパンツ履いて帰宅よりはマシだったわけだけど。しかし……どうしたものか。ぼくの家族は、母子家庭であり、共に住んでいるのは母親一人だ。自分の下着くらい、把握しているだろう。ともなれば、見知らぬ下着があればすぐ気付くはず。洗濯には出せない。さて……どうしたものかな。ていうか、下着に限らずこのゴシックロリータ、洗濯できなくないか?
 そんなことを思っていると、家の電話が鳴った。




『あ、もしもし。榊原君のお家でしょうか?』
 このはきはきとした、それでいてとても可愛らしい声は、レナだろうか。
『あのー、もしもし?』
 恐らくレナで間違いないだろう。連絡網のプリントを使って電話番号でも調べたのだろうか。しかし、レナか。レナ……うーん。実に意地悪したくなる響きだなぁ、レナって。
『あの……榊原君……?』
 ふむ。しかし、男が女の子に悪戯するなんて、世間的に許されないだろう。いやしかし、悪戯の範囲なら、許される気がする。しかしその悪戯がきっかけでぼくという人間が《女の子を苛める糞っカス》だなんてレッテルを張られる可能性もあるわけで、そうなるとぼくはこの村で人生の終止符を打つこととなるだろう。これは魅音から言われたことだが、この村では《噂》が立てば一晩で全村人に伝わることになるそうだ。恐ろしき村の人口数と結束力。
『あのー……』
「あ、うん。なに?」
『うわ!? 吃驚したぁ……』
 なんか吃驚された。いやまぁ、当然か。返答のない電話から唐突に返答があるというのは、驚いて然るべき事象なのだろう。特に夏の時期である今は、ホラー番組も組まれているだろうし。そういう影響もあるだろう。レナが心霊番組を見てるところなんて想像できないけど。
『えっと、祐二君?』
「うん、そうだけど。どうして電話番号を?」
『先生に訊いたんだよ。ほら、連絡網とか、そういうプリントまだ貰ってないから』
 そういえばそうだったっけ。
『もう、酷いよぅ……。ちゃんと返事してくれないと、分からないよ』
「うん、ごめんごめん。ちょっと考え事をしててね。それで、なに? 電話をしてまで伝えなきゃならないこと?」
 ぼくがそう言うと、レナは《うーん、それは祐二君次第かな、かな》と、いつもの弾んだ声調で言った。
『祐二君、今日のお昼休み――っていうか、お弁当の時間、なにか言い損ねたでしょ?』
 はて。なにか言い損ねただろうか。ぼくという人間は記憶能力を必要としないように作られたようで、細かな会話などはあまり記憶していないのだ。少ない体力と言い記憶力と言い、本当、ぼくの体質はどうかしている。
「ごめん、覚えてないや。えっと……どういう状況で言い損ねてた?」
 それを聴けば、考え事に埋もれてしまっている記憶を掘りだせるかもしれない。そう思ってのことだった。レナはほんの数秒だけ考え込むような雰囲気を電波に乗せた。それから、少し不安そうな口調で教えてくれた。
『確か、私を《竜宮さん、ちょっと良いかな》みたいな感じで呼んだんだけど、そこを魅ぃちゃんが《梨花ちゃんと沙都子ちゃんは名前で呼んでおいて私たちは名字で呼ぶのは》どうたらこうたらって言って……』
 レナもどうやら、そこら辺の細かな会話は記憶にないようだ。眉間に小さな皺を寄せて考えながらもなんとかぼくに思い出させようとしてくれているレナを想像するのは、あまりにも容易だった。
『えっとー……』
「レナ、もう大丈夫。思い出した。……えっと、プライベートなこと訊いても大丈夫かな?」
『うん! 全然大丈夫だよ! 私たち友達でしょ?』
 友達。
 友達だからと言って、プライベートな部分まで気軽に訊いていい訳ではないと思うのだが……それは都会特有の風習だったのだろうか。いや、それとも、ぼく特有の気遣いだったのだろうか。気遣いというべきか、迷いどころだが。
「そう、じゃあ訊くけど……今度の日曜日、予定とかあるかい?」
『予定? ううん、特にないよ? どうして?』
「いや、少しデートのお誘いをしようとね」
 そう言うと、受話器の向こう側から蒸気が漏れ出るような錯覚を覚えた。
『デ、デデデ、デート!? わ、わわ、私と祐二君が!?」
「うん、まぁデートっていうか――」
『わわわわ、私でよければ、そ、その……ど、どど、どうはぁぅうう!!』
 ……どうはぁぅう?
 茶化すためにデートなんて言ったけど、デートのお誘いに《どうはぁぅう!》なんて返答をくれる人もそうそういないだろう。レナはやはり、可笑しな子だ。まぁ、きっと、《私なんかでよければどうぞ》なんて言いたかったのだろうけれど。
「デートついでに村を案内してもらいたいんだ。一日で回れるようなら町にも行こう。女の子を連れまわすのは良くないと思ってるけど……レナが良いなら、できれば見て回りたいんだ」
 ぼくがそう言うと、レナは《はは、はは、はい……》なんて、まるでディスクジョッキーのような返事をしてくれた。そしてレナはずっとディスクジョッキーのまま、電話を終えた。
 リビングのソファに深く腰掛け、ぼくは溜息を一つ。
「……明日謝ろう」
 徹頭徹尾、レナには謝ろう。そう思いながら、エアコンをつけていないせいかむせ返る様な暑さが充満するリビングのほぼ中央で、ぼくはソファに体重を預けた。




 なにかの稼働音が目覚まし代わりとなった。眠い目を擦り、状態を起こす。いつの間に寝てしまったのだろうか。寝汗が少し臭い。リビングは心地の良い冷気に包まれていて、その寝汗の臭い以外に不快になるものはない。エアコン、つけてたっけ。そう思いながら、ぼくは床に足を下ろした。大きな欠伸を一つ。ついでに体を伸ばす。ソファの上で寝るというのは、少し無茶があったらしい。体の節々からゴキゴキと骨の鳴る音がした。
 その音に紛れて――どこからか足音がした。音は、玄関に入ってすぐにある廊下の方から。その音は一度二階へと上がり、それからすぐに駆けるような足音を立てながら一階へと戻ってきた。
「…………」
 今ぼくがいるリビングと廊下には、それらを隔てる扉がある。その扉はシンプルなもので、硝子が組み込まれた木製のものとなっている。その硝子に人影が写った瞬間、大きな音を立ててその扉が開かれた。
「ゆっくり開けないと、割れちゃうよ? それ、案外脆いんでしょ、――母さん?」
 ぼくはそう言いながら、自らの母の姿を見た。
 夕ご飯を作っていたのかエプロンには犬の刺繍が施されている。服は薄いピンクのシャツに薄い緑のロングスカート。至って普通な格好だ。しかし、その両手に持っているものを見て、ぼくは思わず喉を鳴らした。ごくり、と。
「……裕?」
「…………」
「これは、なにかしら?」
「人の部屋に勝手に入っておいてそれを言えるのだろうかという疑問をここで提示したいのですが」
「却下! その前にこれを答えなさい! あなた、まさか、こんな――女装趣味を持っていたの!?」
「ちげえよ」
 その手には今日ぼくが着てきたゴシックロリータ。今見ると本当にすごい。フリフリっていうかヒラヒラっていうか。良くこんなの着て優雅に下校なんてできたものだ。数時間前の自分がなんだか凄いと思えてきた。
「お母さんは許すわよ。むしろ男の娘にでもなっちゃいなさい!」
「ぼくは元から男の子だよ」
「字が違う!」
「ていうか、息子に女装癖を持てとか、なんてことを仰るんですかお母様」
 いい加減そっち方向の趣味は止めていただきたい。いや、元々ぼくが中性的な顔だったのが根本的な問題だったわけだから、ぼくが文句を言うべきではないのだろう。強いて言うならこのパーツをぼくにつけた神様の問題だ。
 まぁ、勿論、神様なんて、この世にはいないわけだけど。
「ねぇ裕、これ着てみてよぉ」
「いい歳こいて猫撫で声出さないで……」
 何気にアニメ声な母さん。声優でもやればよかったのに、と思ってしまう。まぁ、声が良いから声優になれる、なんてはずもないのだろうけれど。



   *   *   *



「で、なんでぼくがこれを着て食事をしなくてはいけない状況に陥ったのか、十文字以内で説明よろしく」
「裕が男の娘に向いてる上に可愛らしすぎて更に可愛らしすぎるかよ」
「意味が分からない上に二十文字程オーヴァーしてるけど」
「気にしたら負けよ」
「気にしないと勝てないよ、これ。……いや、そもそも勝負なのか、これ」
 テンションが嫌に低いぼくとテンションが妙に高い母さんの夜は、こうして更けていった。








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■作者からのメッセージ
早くも結構な日数がたってからの投稿となってしまった。
ぼくという人間はどうも、一つのことにはまるとそっちの方にしか手を出さなくなるようで。ということで、オンラインゲームやってて放ったらかしにしてました。ごめんなさい。

罰ゲーム、ということなんですがね。キャラ設定でこのオリ主、実は男の娘でしたというね。年齢はレナと同じ、ていうか、圭一と同じですね。

まぁ、そんな些細な設定を暴露するために書いた話しのようなものです、はい。
読んでくれている人がいると信じて、これからも投稿に尽力しようと思っています。まぁ、よろしく。
テキストサイズ:10k

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