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ひぐらしのなく頃に 〜結殺し編〜 第四話『日曜日・前篇』
作者:虫歯菌   2012/07/19(木) 23:07公開   ID:C9tYKpxvBfA





 二人の少女が、そこにいた。
 寝ている少女も含めれば三人、いや、二人と一つと言うべきだろうか。
 幽霊という存在を、魂という概念を、人として数えて良いべきか、迷いどころである。
「ねぇ、羽入。これまでの世界に榊原祐二なんて存在、いたかしら」
 紺色の長い髪の毛を月光に照らしながら、彼女――梨花は、窓枠に腰をかけて言った。
 その手には赤い液体の入ったグラス。
 深いその色は血液を彷彿とさせる。
 血液の様な紅色が入ったグラスを持ち、月光を背後に照らすその姿は、さならが、幼き吸血鬼だ。
「あうあう……ボクの記憶では、あの少年がこの世界に来るのは初めてなのですよ……」
 巫女の服を着た魂――羽入と呼ばれた女性は、焦るように言った。
 焦っているのは、梨花も同じだ。
 言い知れない焦燥感。
「ここにきて新たなピース……いや、サイコロの目と言ったところかしら?」
「しかし、榊原祐二という存在が良か悪かはまだ判断つかないのです……」
「そうね。確かに、あの男はどちら側なのか――」
 梨花はそう言うと、その血液の様な深紅を飲み込んだ。
 《別の世界》で知ったこの味は、最早忘れられず、多くのストレスを背負い込んでいる梨花にとっては必要不可欠なものだった。
 グラスに残ったその液体全てを飲み干し、梨花は独り言のように呟いた。
「……私を殺そうとする側か、それとも、圭一とまったく同じ立場なのか…………」





 〜結殺し編 日曜日〜



 学校がない、都会では家の中でゲームをしたり読書をしたり勉強したりすることになる日曜日。しかし、今日一日の予定は、既に埋まっている。午前中に村を案内してもらい、午後は時間のある限り興宮を案内してもらうことになっているのだ。
 ちなみに、電話での《デート発言》を謝罪したところ、レナは笑顔で許してくれた。聖人君子って本当にいるんだなと思った。レナは暴走モードがなければ、それなりの人格者だと思う。
 閑話休題。
 登校の道、レナと待ち合わせをしている場所で魅音とレナが待っている。そう、レナとの疑似デートは魅音によって潰された。ちなみに、最初の部活で負けたことで、ぼくは魅音のことを魅音と呼ぶように強要されている。まぁ、別に呼称なんて区別がつけばなんでもいいんだけど。
 あれからも毎日、部活の参加を強制され続け、負けを食らっては罰ゲームをする羽目となってきた。荷物持ちとか、女装とか、荷物持ちとか、女装とか。あれ? 荷物持ちと女装しかやってなくね?
 六日間も通学すれば登下校ルートの光景には慣れてきて、新鮮味なんてものも完全に消え失せる。それでも、ずっとコンクリートに囲まれて生きてきたぼくにとって、まだまだここの空気は美味しいと感じられるのだった。この空気の美味しさも当たり前になってしまう日が来るのだろうかと考えると、なんだか感慨深い。
 今日は五月二十九日――もうすぐで六月だ。梅雨の時期は既に通り過ぎているというのだから驚きだ。
「むぅ……熱い」
 やはり、髪の毛が長いと嫌だ。暑苦しくしてしょうがない。後で理髪店にでも案内してもらおうか。村になくても町にならあるだろうし。夏というこの時期に、髪の毛が肩まで伸びてるなんて由々しき事態、放ってもおけないだろうし。
 そういえば、梨花ちゃんと沙都子ちゃんは六年生だったそうで、全然下級生なんかじゃなかった。下級生と遊ぶ姿にまったく違和感がなかったせいで同じ下級生だと思っていたが……世の中、思った通りにはいかないそうだ。
「おーい! 祐二くーん!」
 元気そうな声が脳内に響き、鬱蒼とした思考回路を浄化されるような感覚に陥った。ぼくの癒し、レナだ。レナのすぐ近くには大きな風呂敷に包まれたなにかが置かれている。それを見て少しげっそりしてる魅音が、レナの隣にいる。
「おはよー、裕ちゃん」
「おはよう、祐二君!」
「うん、おはよう」
 気軽な挨拶を済ませ、ぼくはそれをもう一度見遣った。
 その大きな風呂敷の中からは、仄かに良い匂いが漏れ出ている。
「……レナ、それの中身は?」
 その風呂敷を指さして、ぼくは疑問を投じた。今日の予定では、村を回った後に町に行くことになっている。村はまだしも、こんな大きな荷物を持ちながら町をふらつくのは、ある意味危険だろう。職務質問されかねない。
「お弁当だよ、だよ! 祐二君男の子だから、いーっぱい食べると思って作ってきたんだ!」
 おお。笑顔が眩しい。それでいて怖い。
 ぼくは食欲が旺盛かと訊かれれば首を横に振るレベルだ。というか、小食な方だ。見た限りでは、一キロなんて軽く超えているだろう。
「……裕ちゃん、レナ、あれを持つ時に《よいしょ》って言ってた。多分、五キロはあるよ」
 なんと。
 ううーん。……どうしよう。
「そ、そんなにないよぅ! 精々三キロくらいかな、かな」
 充分多いよ。充分過ぎるよ。充分過ぎて十全じゃないなんて冗談でも笑えない気がする。魅音がげっそりしていた理由も、なんだか分かる様な気がする。
「んじゃまぁ、早速村案内と行きましょうかね!」
 妙に張り切っている魅音。どうやら、体力を使いまくって少しでも腹の中を空にしようと意気込んでいるようだ。ぼくも、覚悟をしなくては……。よし――。
「レナ、その荷物はぼくがもつよ」
「ええ!? だ、大丈夫だよ! レナ、これでも力持ちだから」
 ふむ……確かに力持ちだろう。レナの家がどこにあるのかは知らないが、こんな荷物を家から運び出してきたのだから。しかし、こればかりは譲れない。
「女の子にこんなもの持たせるなんて、男として失格だよ」
「で、でも……」
 レナはどうも、こういう部分は頑固らしい。しかし、これだけは、本当に譲れない……!
「まぁまぁ、レナ。裕ちゃんは可愛いレナの前でかっこつけたいのさ。男のメンツを立てるのは、女の役割だよ、レナ」
 なんだろう。ぼくがかっこつけたいとか、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするのだが。いやまぁ、ぼくは自分に対する他人の評価を気にする様な性格はしていないけれど。
 なんでそんな、自分のことを他人のように言えるのかというと、自己分析が趣味だから、としか言えない。
「か、可愛い……わ、私が……?」
「ああ、可愛いさ。可愛い女の子二人の前で、かっこつけないわけにはいかないさ」
 せっかく助け船をだしてくれたんだ。魅音に乗っかることにしよう。
 そう思っての発言だった。
 しかし、どうも、魅音にとってその発言は心外だったらしい。
「わ、私も含まれてるの!? ゆ、裕ちゃん本気? おじさんのことが可愛いって……」
 ぼくにとって魅音が動揺することが心外だったわけで。しかしだからと言って《嘘だよ〜ん、魅音は含めてませ〜ん》なんて言えるような人間でもない。動揺されるのは本当に予想外だったが、なんとか返答はできた。
「当たり前だろう。レナも魅音も、ぼくの人生の中では一番の美人だよ」
 まぁ、こんな感じにキザな台詞になってしまったが。
 なんだろう。客観的に見てすんげームカツク野郎になってる気がしてならない。
「……と、とにかく行くよ! あんまり遅くなると町の方まで行けなくなっちゃうからね!」
 魅音は無理矢理話を方向転換させ、ずかずかと歩きだしてしまった。どうやら、機嫌を損ねてしまったみたいだ。ぼくは後頭部を掻いて、心の中で《しまったな……》なんて呟きながら、レナの持ってきた弁当を担いだ。
 かなり重かった、とだけ言っておこう。


   *   *  *


 村に張り巡らされた小川やら用水路やらを辿って大まかな地形を把握させてもらった。そのあとにレナの家と魅音の家を外見だけでもと見に行った。それだけ回っても一時間から二時間しかかからなかったのだから、この村がどれほどに小さいのかが良く理解できるというものだった。十時からここの探索を始めたため、時間としては昼時。そう。地獄の時間がやってくるわけだ。
「……裕ちゃん。覚悟、できてる?」
「無理だね。ぼくはできない勝負をする程馬鹿じゃない」
「その割には部活で負けまくってるけど」
「負けるのが分かってるからやらないんじゃない。できないからやらないんだ……」
 小食なのだ。ぼくは、本当に男なのかと疑問を持たれたことがあるほどに小食なのだ。男だから大食いなんてイメージを持ってる女子にどれほど苦しめられてきたか。そして、また、ぼくはレナという可愛らしい女の子に苦しめられそうになっている。敵前逃亡こそ至上目的というわけにもいかなそうだ。
「……よし、おじさんに任しときな、裕ちゃん」
 魅音はそう言うと、レナの方を見た。レナはどこでお昼を食べようかお悩み中のようだ。他人が悩んでる姿を拝んでいるだけで癒される日が来るなんて、思いもしなかった。
「レナ! 折角のお弁当なんだしさ、見晴らしが良いところに行こうよ!」
「見晴らしが良いところ……?」
「あるじゃん、とっておきの場所が!」
「……あ! 分かった、あそこだね?」
「うん、あそこ!」
 きゃっきゃきゃっきゃと、女の子二人は楽しそうに笑い合っている。女の子が《あそこ》を連呼しても《いやらし〜》なんて言われない世界は本当に眩しいですはい。
 引っ越してきたばかりなのだから、妙な疎外感を覚えてしまうのは仕方のないことだろう。特に、前住んでたところで友人が少なかったぼくからすれば、ここまで進展した友人――いわば、仲間なんて存在は、いなかったわけだから。そういう、疎外感には少し敏感になっているのかもしれない。
「さて、と。じゃあもう少し歩こうか、裕ちゃん」
 え、なに? もう少し歩けば腹が減るさ、みたいな考え方? ……まさかね。


   *   *   *


 結果的に言えば、ぼくの予想はいい方向に裏切られた。
 少し歩いていくと階段が見えてきた。結構長い階段だ。鳥居が奥に見えるから、恐らく寺や神社の類だろう。レナと魅音は軽々とその長い階段を登りきる。だが、体力の問題でそろそろいろんなものが限界のぼくにとって、この階段は地獄の様だった。
 地獄が終われば後は天国だ。
 そんな前向きな思考を久しぶりに働かせ、ぼくはなんとか階段を登りきった。
「祐二君、もう少しだから荷物は私が持つよ」
 レナは優しい笑顔でそう言ってくれた。確かに、ぼくはもう限界突破している。足はがくがくと笑っているし、自分にこんな発汗機能があったのかと驚いてしまう程に汗を掻いている。蝉の音が少し鬱陶しく思えるほどに、ぼくは疲労していた。
 ゲーム的に言ってしまえば、体力は既にレッドゾーンへと突入している。
「……ここから、後どれくらいなんだい?」
「いや、ここを後十数メートル移動すれば絶景ポイントだけど?」
「……そうか。じゃあ、レナ。素敵なお誘いは断らせてもらうよ。後十数メートルくらいなら、なんら問題ないさ」
 ぼくはそう言って、風呂敷に包まれたそれを抱えなおした。当初よりも重くなっているように感じる。それだけぼくが疲労困憊しているということだろう。
「さ、早く行こう」
 ぼくはそう言うと、歩き出した。
「…………裕ちゃん、そっちじゃない」
「………………案内よろしく」
 なんでぼくは勝手に歩きだしたんだろう。そんな素朴な疑問を感じながら、ぼくはせっせと、昔話のおじいさんよろしく魅音の後を追いかけるのであった。


   *   *   *



 絶景。
 その一言に尽きると言ったところだろうか。筆舌に尽くし難いとも言えるかもしれない。村を一望できるこの場所は、確かに良い場所だろう。ここに住めるのならホームレスでも構わない。……いや、それは言い過ぎか。なんにしろ、この光景は言葉では表せないものだった。まるで、世界遺産のようだ。
「なるほどね……確かに、これは良い場所だ」
 空気が澄んでいて絶景で。これ以上ないと言った程に良い環境だろう。
「それで、魅音。策ってのは、まさか少しでも歩いて腹を空かせる、じゃないよね?」
「あっはっは! そんなわけないでしょ! まぁ、少し待ってなよ」
 そう言いながら軽快に笑う魅音を少し不思議に思いながら、ぼくは手に持っていた――というか抱えていたそれを地面に下ろした。心なしか《ドスン》なんて音が聞こえた気がした。
「祐二君は休んでていいよ。準備は私たちがするから」
「あー、うん。今度ばかりはお願いするよ」
 ぼくはそう言って、地面に横になった。何故だろう。いつもなら服が汚れるとか言う理由でこんなことしないのだが……。絶景の影響だろうか、今は服の汚れなんて気にしていなかった。
「……なにをしてらっしゃいますの、祐二さん」
「この生意気な感じの演技臭い声は……おやおや、御機嫌よう沙都子さん」
 がしっ――。
 ……なんの音かって? ……あまり言いたくない。
 ……うん、まぁ、なんて言えばいいんだろう。言っておくけど、ぼくは幼女に踏まれる趣味は持っていない。
「足を退かしなさい、沙都子ちゃん」
「変に説明口調で接しないで下さいません、祐二さん?」
「沙都子に踏まれて可哀想可哀想なのですよ、にぱー」
 笑いながら頭を撫でてくれる梨花ちゃんの頭を無意識的に撫でたくなった。しかし梨花ちゃん。ぼくが踏まれたのはお腹の方なんだよね。なんで君は頭を撫でてるのかな? なに、まだ頭が痛いネタ引きずってくるの?
「で、誰が生意気ですって?」
「安心するといい。君以外に生意気そうな女の子がいるかい? いいや、いないね」
「ムキー! 今すぐ部活を始めますわよ! 祐二さんのことを貶めて差し上げますわー!」
 おい、なんか変なこと言いだしたぞ。部活とか、本当に止めようよそういう冗談。
「ごめんなさい、ぼくが悪かったです、部活だけは勘弁して」
「そう言いながら毎日部活してるんだから、潔いよねぇ裕ちゃんは」
 それには同意しかねるというのが本音だ。建前として《まぁね》とだけ言っておいたが。
 ついでに言うと、ぼくは全然さっぱりしていない。どちらかというと優柔不断のねっとり野郎だ。
「みー、お弁当ですか?」
 梨花ちゃんが子猫のように鳴きながらそう訊いた。ぼくは沙都子ちゃんに踏まれたお腹を摩りながら上体を起こした。しかしぼくは答えない。
 いや、別に拗ねてないし。拗ねる要素とかないし。
「うん! 祐二君とのピクニックだよ、だよ! 梨花ちゃんと沙都子ちゃんも参加する?」
「当り前ですわ! ていうか、なんで誘ってくれなかったんですの!?」
「みぃー、仲間外れはやーなのですよ」
 やー? やーってなに?
 やーっ! みたいな掛け声?
「祐二、さっきからうるさいなのです」
「いや、ぼく喋ってないからね」
 何故に心を読まれたし。ギャグ補正かなにかだろうか。
 そんなこんな、下級生だと思われてもおかしくないだろう二人を相手にしていると、どうやらレナたちがお弁当の準備を終えたらしい。笑顔で手招きした。ぼくに突っかかってくる沙都子ちゃんを無理矢理抱きかかえ、ぼくの肩にぶらーんとぶら下がる梨花ちゃんをそのままに、ぼくはその風呂敷をレジャーシートの様に活用したものの上に移動――
「はぁうぅ〜! 沙都子ちゃんに梨花ちゃん、かかか、かぁいいよ〜!」
 ……しまった。この二人は地面に下ろしてくるべきだったか。


   *   *   *


 レナの暴走モードで少しばかり時間を食ったが、それでもなんとか弁当にありつけた。歩いてばかりで空腹なのは当然であり、ちょっとした便意もあったがそこら辺は割愛した。いや、女の子の前で《といれー》とか言えない性分でね……。
 さて、話は変わるが……。今、沙都子ちゃんの眼前にはかぼちゃだけが残されている。
「沙都子ちゃん、かぼちゃも食べたらどう?」
「い、嫌ですわ……!」
「でもでも、嫌いなものも食べないと克服できないよ、沙都子ちゃん?」
「そうだよ沙都子。いつまでも我儘言ってちゃあ、強い子になれないよ?」
 沙都子ちゃんへの集中攻撃が始まった。
 沙都子ちゃんは《ぅぅぅ……》と小さく唸るばかりだ。
「沙都子ちゃん、挑戦は大事だよ。そうだね……味を感じないくらい小さくしたかぼちゃを食べてみたらどうだい?」
 味を感じないほど小さなかぼちゃをだ。少しずつ大きくしていき、感覚を慣らしていく。人生、どれだけ慣れることができるかが勝利のカギとなっている。それと同じだ。
 本当ならかぼちゃを調理して、《どんな調理をしたかぼちゃなら食べられるか》を探すのが良いんだけど、残念、今ここではそんな調理なんてできやしない。
「うぅぅ……」
 やはり、唸るだけ。まぁ、分かるよ。ぼくもアスパラガスを食べろって言われれば、今の沙都子ちゃんのようになれる自信がある。
「無理強いはしないけどさ、沙都子ちゃん。逃げてばかりいても、状況は良くならないよ」
 人のことは、言えない立場だけど。逃避だらけの人生を歩んできたぼくだから、言えることでもある。
「そ、それは分かってますのよ? で、ですが心の準備というものが必要ですわ……」
「……そうだね。まぁ、後でいろいろ挑戦してみようか。今日は無理しないで大丈夫だよ」
 沙都子ちゃんの頭を軽く撫でながら言う。
 甘やかすな、と言われるかもしれないが。
「じゃあじゃあ、今度レナがいろんなかぼちゃ料理持ってくるね!」
「ていうか、お弁当の中身にひっそりかぼちゃを隠し味に入れてみたらいいんじゃないの?」
「うわあ! うん! それ、凄く良いよ、魅ぃちゃん!」
 ……良かった。甘やかしているのはぼくだけではないみたいだ。
 沙都子ちゃんは引き攣った笑顔を浮かべていた。まぁ、当然だよね。


   *   *   *


 その後もレナの暴走モードを所々に挟みながら、時間は進んでいった。沙都子ちゃんとか梨花ちゃん、先輩ではあるけど、そして中身がおっさんであるけれど、外見が可愛らしい魅音が標的になるのは分かるが、何故ぼくまで標的になるのだろうか。ここまでくると、レナの守備範囲の広さは異常だ。そのうち、どこぞのお店の看板を見て《はぁう〜! かぁいいよぉ〜! おっ持ちかえり〜!》とか言い出しそうだから怖い。
 そういえば、魅音の策とやらが梨花ちゃんと沙都子ちゃんをお弁当――大食い大会――に参加させるだったことに今さっき気付いた。おかげでお腹も程良くいっぱいになりばんばんざいだ。魅音には後でジュースを奢ることにしよう。
 そんなこんな、ぼくらは今、それぞれの家に帰っている途中だ。梨花ちゃんと沙都子ちゃんはそもそもあの神社が家なのだそうだ。小学生二人が同居――なにかしらの問題でもあったのだろうか。《古手神社》というのがあの神社の名だ。梨花ちゃんのフルネームは《古手梨花》。ということは、梨花ちゃんの家であることに間違いはない。ということは、問題があるのは沙都子ちゃん、か。両親が不在なのだろうか。
 閑話休題。
 何故ぼくらが家に帰っているのか。理由は、移動方法にある。
 村を回るだけなら徒歩で十分だったのだが、町まで行くには自転車が必要だ。自転車でさえ三十分から一時間かかるのに、徒歩でとなったら一体どれだけの時間がかかるのやら。そういうわけで、また来週の日曜にと予定された。
 ちなみに、さっきまで魅音の家で時間を潰していた。午後の予定がなく、暇だったからだ。レナと魅音と三人で、魅音の家にあったボードゲームで遊んでいた。時間は既に六時を過ぎている。

 さて――。しかし、おかしいな。
 魅音ともレナとも、既に別れ、ぼくは一人。
 この村の中では、隠れる場所がない。そんな状況下で、視線を感じるのだ。背後から。尾行にしては下手すぎるし、なにより無謀すぎる。まるで、気付いてもらうことを目的としているような、そんな尾行だった。
 尾行なんてのをされたのは初めてだ。それでも、視線を感じ取ることができるとは……。やれやれ。ぼくも、随分と臆病なものだ。

「――人はなんで、自らを隠すんだろうね?」
「それは、私に対する当てつけかしら?」
「……さぁね。受け取り方は君の自由だ――梨花ちゃん……古手梨花ちゃん」

 ぼくの後ろには、沙都子ちゃんと共に家に帰ったはずの梨花ちゃんがいた。
 月がうっすらと見える空。
 鴉が泣きわめくような空。
 血をぶちまけたような空。
 夕焼け色に浮ぶ太陽と月。
 ――それを背景にして、彼女は細く笑んでいた。この一週間で見たことのない笑み。違和感なんてありはしない。子供の背伸びなんてものじゃあない。
 
 その笑みは、大人の笑みだった。

 大人としての梨花ちゃんが、そこにいた。






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■作者からのメッセージ
あとがき特に書くことないなぁ……。
ていうかあとがきは必須じゃないのか。
じゃあ、書く必要もないのかなー。

さて、展開を遅くするのもあれだからね、さっさと進めていこうか。

次に投稿するのはいつになるのやら……。

誤字やら脱字やらタイピングミスやらがあったら、ぜひ教えてくださいな。
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