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IS インフィニットストラトス〜黒騎士は織斑一夏〜 第二十話
作者:AST   2012/07/16(月) 15:09公開   ID:GaMBFwOFFuY
 時刻は十一時半。

 七月の空は快晴で、太陽の日差しが容赦無く降り注いでいる

 砂浜には専用機持ち全員が並んでいた

 「来い、白式」

 「行くぞ、紅椿」

 「行きますわよ、ブルー・ティアーズ」

 「行くわよ、甲龍」

 「行くよ、ラファール」

 「シュヴァルツェア・レーゲン、行くぞ」

 「___Yetzirah」

それぞれが己の相棒たるISを纏う




第二十話  





 『織斑、聞こえるか?』

 ISのオープンチャンネルから千冬の声が聞こえ、一夏は頷いて返事をした

 『今回の作戦の要はお前だ。もしお前が仕損じた場合は全員で叩く』

 「了解」

 するとプライベートチャンネルで千冬は言う

 『それと、どうも篠ノ之は浮かれているな。あんな状態では何か仕損じるやも知れん。いざという時はサポートしてくれ』

 「意識しておきます」

 『頼むぞ』

 またオープンチャンネルに切り替わり、号令をかける

 『では、はじめ!』

 「じゃあ行こうか、皆♪」

 『暴風纏う破壊獣(リングヴィ・ヴァナルガンド)』を纏ったシュライバーが一夏達に笑顔で言う

 シュライバーが両手に一夏と箒の手を掴み

 一夏と箒の手をセシリアとシャルロットが掴む

 そしてラウラが二人の両手に掴まる

 更に鈴が創造を発動して不可視の糸で固定する

 シュライバーが加速するために詠う

 
Fahr‘hin, Waihalls lenchtende Welt
__さらば ヴァルハラ 光輝に満ちた世界

Zarfall‘in Staub deine stolze Burg聳え立つその城も
__微塵となって砕けるがいい

Leb‘wohl, prangende Gotterpracht
__さらば 栄華を誇る神々の栄光

End‘in Wonne, du ewig Geschlecht
__神々の一族も 歓びのうちに滅ぶがいい

__Briah
__創造

Niflheimr Fenriswolf――
__死世界・凶獣変生
 
 

 一夏達を引っ張りながらシュライバーは凄まじい速度で砂浜から飛び立つ

 「暫時衛星リンク確立……情報照合完了。目標の現在位置確認」

 あっという間に目標高度五百メートルに達したシュライバーは福音の現在位置を確認すると、皆に告げる

 「飛ばすよ、意識を失わないでね」
 
 シュライバーが『暴風纏う破壊獣(リングヴィ・ヴァナルガンド)』を一気に加速させる

 ISの中でも最高クラスの速度と言うだけの速度である

 「見えて来たよ!」

 ハイパーセンサーの視覚情報が、一夏達に自分の感覚の様に目標を映し出す

 『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』はその名にふさわしく全身が銀色に輝いている

 頭部から生えた一対の巨大な翼が一際異質に感じられる

 「いくよ、マキナ」

 「ああ。鈴、解除しろ」

 「分かってる」

 不可視の糸の固定が外れた一夏は雪片を握りしめながら目標へと向ける

 零落白夜を発動させ、シュライバーから離れ、瞬時加速を行い間合いを一気に詰める

 “終わりだ”

 光の刃が福音に届く直前

 「むっ!」

 最高速度のままで福音は反転して、後退する姿となって身構えた

 「させん!!」

 即座に追撃を仕掛けるが

 「敵機確認。迎撃モードへ移行。『銀の鐘(シルバー・ベル)』稼働開始」

 「ッ!」

 追撃の一刀を宙返りで回避する福音

 わずか数ミリの精度で避ける技術、かなりのモノである

 「あの翼が急加速をしているのか!?」

 高出力の多方向推進装置は世界に数多くあれど、ここまで精密な急加速を行える物など見たことが無い

 「鈴!」

 「任せて!」

 鈴の創造によって放たれた不可視の糸が福音を拘束せんと迫る

 「なっ!?」

 しかし、それを見えているかの様に回避する福音

 そこへセシリアとラウラの弾幕が襲い掛かる

 だが泳ぐ様にソレすらも回避する

 一夏は再び、鈴の糸で引っ張られながら切りかかる

 「このッ!」

 ひらりひらりと翻弄する様に一夏の斬撃と合間を縫うように放たれるセシリア、ラウラ、シャルの支援砲撃を回避する福音

 零落白夜の残り時間も少なくなってきた一夏

創造による加速の残り時間が少なくなってきたシュライバー

 「箒、ボクが時間切れになったらキミが一夏を背負って!」

 「ああ、任せろ」

 一夏達の連携攻撃に回避するだけの福音

 次の瞬間、スラスターでもある銀の翼の装甲が広げるのかのように一部が開く

 そこから見えたのは砲口

 「!!」

 一斉に開いた砲口を一夏達に向かわせる為に翼が前へと迫り出す

 そこから幾重もの光の弾丸が彼等へ向けて放たれる

 「ぐっ!!?」

 その弾丸は高密度に圧縮されたエネルギーで、羽の様な形をしている

 それがISアーマーに突き刺さったかと思うと、次の刹那には一気に爆ぜた

 更に脅威なのは洒落にならない連射性能である

 狙いはそれほど高い精度では無いが、それを爆発で補っているのだろう

 クレイモアや地雷の様なセンサー爆弾を弾丸にして放っている様なモノである

 「シュライバー!」

 「大丈夫、なんとか躱せたよ……でも時間切れが近い」

 シュライバーの創造はエネルギーの消耗が激しい

 加速すればするほどエネルギーが早く尽きてしまう

 だからこそ、シュライバーのIS『暴風纏う破壊獣(リングヴィ・ヴァナルガンド)』は拡張領域の大半をエネルギータンク等に回しているのだが……

 「持ってきたエネルギー補給用タンクがやられちゃってね……」

 機体の特徴である背中の巨大なスラスターとその下に付けられているタンク

 スラスターが巨大な分、推進剤やエネルギーを消費するのでタンクも又それなりに大きい

 どうやら急回避したが、タンクに弾丸が刺さったらしくパージしたらしい

 「箒、鈴、シュライバー、一気に畳み掛けるぞ!!セシリア、ラウラ、シャル、援護しろ!!」

 「「「「「「了解!!」」」」」」

突撃する四人は複雑な回避行動を行いながら、連射の手を休めない福音へと仕掛ける

 更に援護のまわった三人の砲撃が襲い掛かる

 しかし、まるで未来を読んでいるかの様に、攻撃の隙間を分かっているのかの様に

 奇抜な動きで回避すると同時に、反撃までして来る

 福音の特殊型スラスターは、奇抜な外見とは裏腹に実用性が高い代物だった

 七人の猛攻を悉く回避し、反撃する福音

 「くっ、こちらは専用機持ち七人だぞ!?それと互角に渡り合うなど化け物か!?」

 ラウラが信じられない様に言う
 
 各国最新鋭機や次世代機を纏めて相手して互角など洒落にならない

 明らかに異常だ。千冬クラスでも無ければ、これ程の戦える訳が無い

 「一夏!私が動きを止める!」

 「ああ!」

 言うなり、箒は二刀流で突撃と斬撃を交互に繰り出す。更に腕部展開装甲が開き、発生したエネルギー刃が攻撃に合わせて自動で射出され、福音を狙う

 “これ程とは……”

 箒は紅椿の機動力と展開装甲による自在の方向転換、急加速を使って福音との間合いを詰めてゆく

 更にシュライバーに引かれながら、シャル、セシリア、ラウラの支援砲撃が襲う

 この猛攻に流石の福音も防御を使い始めた

 “いける!”

 一夏はそう思い突撃する

 そこに福音の全面反撃が待っていた

 「La………♪」

 甲高いマシンボイス。その刹那、ウイングスラスターの砲門、総てが開かれる

 その数、三十六。それも全方位へ向けての一斉射撃

 「やるなっ……!だが、押し切る!!」

 箒が光弾を紙一重で躱し、迫撃する

 福音に隙が出来た

 「ッ!!」

 しかし、一夏は福音とは真逆の、直下海面へと全速力で向かった

 「一夏ッ!?」

 「なッ!!?」

 瞬間加速、零落白夜、両方を最大出力で行い、一発の光弾をかき消す

 「何をしている!?せっかくのチャンスに___」

 「船が居る。海上は教師達が封鎖したはずなのに___く……密漁船か」

 しかし、だからと言って一夏は見殺しにする訳にはいかない

 一夏の持つ雪片弐型の光の刃は消え、展開装甲が閉じる

 「く、シュライバー!作戦変更しろ!」

 「分かった!」

 一夏の声にシュライバーが三人の支援砲撃を受けながら、鈴と共に福音に向かって突撃する。

 「馬鹿者!犯罪者など庇って……そんな奴らは___「箒ッ!!」_ッ!!?」

 「箒、そんな寂しい事は言うな。力を手にしたら弱い者の事が見えなくなるなど……力に溺れるなど、お前らしく無いぞ」

 「わ、私、は………」

 明らかな動揺を顔に浮かべ、それを隠すかのように手で覆う

 その時、落とした刀が空中で消えたのを見て、一夏は焦る

 “____不味い!!”

 「箒ぃぃッ!!!」

 最後のエネルギーを総て使っての瞬時加速

 “間に合え!”

 視線の先ではシュライバーと鈴の攻撃、セシリアとシャルとラウラの砲撃を回避しながら、こちらに砲門を向けている福音の姿があった

 その刹那、一夏の目にニヤリと哂う水銀の姿を見た

 __sic itur ad astra
__こうして人は天に昇る

__sequere naturam
__自然に従え

悍ましい声で紡がれた詠唱によって、それまでの羽の様な弾丸では無く

彗星の如き、光弾が翼より箒へと放たれる

次の瞬間、一夏は箒と福音の間に割って入った

「ぐあああァァァッ!!!!」

箒を庇うように抱きしめた瞬間、一夏の背中へと彗星が降り注いだ

エネルギーシールドを紙の様に貫き、凄まじい衝撃が彼の背に襲い掛かる

ISの装甲が破壊され、衝撃で骨が悲鳴を上げ、灼熱によって筋肉が焼かれてゆく感覚

全身に奔る激痛に意識が遠くなってゆく中、一夏は箒を見る

泣きそうな表情で、自分の名前を叫んでいる彼女を見て

“ああ……無事だったか……良かった”

一夏は安堵の笑みを浮かべ、海面へと墜ちていった

箒の頭を守る様に抱きしめながら

大きな水音と全身を伝播する衝撃

一夏は海面越しに福音を見た

“……興ざめだよ。君が近しい者を傷つけられれば、面白くなると思ったが……”

総てを嘲笑うかの様な水銀の声を最後に、一夏は気を失った


「一夏ぁッ!!」

「一夏さん!!」

「一夏ッ!!」

「一夏!!」

鈴、セシリア、シャル、ラウラが動揺した声を上げる

「よくも一夏を!!」

怒りに任せて双天牙月で切りかかる鈴

それをひらりと舞うかの様に回避する福音

「貴方は絶対に許しませんわ!!」

セシリアがスターライトMk−Uで狙撃するが回避される

「……許さない」

まるで内に秘めた憎悪を身に纏うかのようにシャルが両手に持ったアサルトライフルを放つ

「一夏を墜とした貴様は潰す!!」

ラウラが激昂しながらレールカノンとワイヤーブレードを放つ

その総てが福音にとって、用意された障害物に過ぎない

“君達には興味ないし、倒すだけ時間の無駄だ”

「「「「ッ!!?」」」」

はっきりと聞こえた声に四人が驚愕の表情を浮かべる

「またお前か。クラフト……」

“白騎士(アルベド)、君に構っている暇も無い、ここで失礼させて貰おう”

「クラフトォォォォォォォッ!!!」

シュライバーが獣の様な唸り声を上げて、福音に突撃するが

福音は影のように消えてゆくのだった………

「二人共!!」

シャルが、二人の墜ちて行った所へと急行する

それに続いて、セシリア、ラウラ、鈴も急ぐ

シュライバーは唯一人、その場に立ち尽くしていた

そして千冬に通信を繋げる

「織斑先生、作戦は失敗。福音はロスト、一夏が撃墜され負傷、箒は一夏が庇ったからそんなに対して怪我は無い」

『そうか……全員、帰還しろ』

「……申し訳ありませんでした」

シュライバーが謝罪する。その声に覇気が無いのは気のせいでは無いだろう

『お前だけの所為じゃない。早く戻って来い』

「了解しました」

シュライバーは通信を切って、彼女等の元へと向かった

「……ちくしょう」

ただ一言、悔しさの滲む声でシュライバーは呟くのだった




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