大輔達がチンロンモンの力を受け取っている頃。
デジタルワールドに存在する広大な森の中で、ブラックウォーグレイモンとゲンナイは険しい顔をしながら話し合っていた。
「・・・チィッ!!あの二体!どうやって生き延びたんだ!?」
ゲンナイから告げられた地球の現状に、ブラックウォーグレイモンは舌打ちしながら苛立ちに満ちた声を上げた。
地球に複数のダークタワーが現れるのはブラックウォーグレイモンの知る歴史どおり。それ故にブラックウォーグレイモンには驚きは余り無かった。
問題はそれを行ったと思われるアルケニモンとマミーモンが生きている事実の方が、ブラックウォーグレイモンからすれば重要だった。
確かに逃げ場など与えずにガイアフォースを食らわせた筈なのだが、複数のダークタワーの出現がブラックウォーグレイモンが追っている怨敵だけで行える筈が無い。それが意味する事は、殺したと思っていたアルケニモンとマミーモンが生存していると言う事実。
(多少の変化は在っても、俺が知る歴史どおりに進むと言う事か・・・いや、奴があの世界に居ない時点で歴史が変わるのは間違いない・・・となれば、奴らが動くのは日本だな)
ブラックウォーグレイモンは自身の知る情報とゲンナイからの情報から自身の望む怨敵の位置を確信し、暗い歓喜に満ち溢れた笑みを浮かべる。
「情報は感謝する・・・だが、俺はあいつ等には協力する気は無い。あいつ等の力で解決出来る問題だからな」
「・・・其方に関しては構わない」
「何?・・・貴様が俺に頼む協力とは奴らへの援護ではないのか?」
「いや、確かに選ばれし子供達も関わる事は間違いないだろう・・・だが、君に協力して欲しいのは別の件だ。実は此処のところ暗黒デジモン達の一部が活発に動き始めたと言う情報が私のところに届いている」
「・・・・デーモンだな」
ゲンナイが告げた事実から、ブラックウォーグレイモンは動いている暗黒デジモン達の主の名を呟いた。
今の現状で最も動く可能性が高い暗黒デジモンは、ブラックウォーグレイモンの知識からではデーモンしか考えられない。他の暗黒デジモンの可能性も確かに在るが大幅に自身の知る歴史と現状が変わっていない状況では、デーモン以外に動いている暗黒デジモンはブラックウォーグレイモンには考えられなかった。
それが正しいと言うようにゲンナイは深く頷き、話を進める。
「君の言うとおり、動いている暗黒デジモン達の主はデーモンで間違いないとチンロンモンは言っていた。だが、これは同時に不味い状況でも在る。君がこの世界に戻って来たと言う事は、君を生み出した存在は君の知る場所には居なかったのだろう?」
「その通りだ。奴は俺が現れる事を知って地球へと逃げ出したようだ」
「やはりそうか・・・・ならば、状況は最悪な方向に進む可能性が高い。君を生み出した存在の正体は私は知らないが“異界”に干渉するだけの力を持った存在だ・・・もしソイツとデーモンが激突でもしたら」
「・・・・・確実に地球に甚大な被害が出るだろうな・・・(最も今の奴にそれだけの力が在る可能性は低いがな)」
ブラックウォーグレイモンはゲンナイの考えている危機的状況に至る可能性は低いと思っていた。
何せブラックウォーグレイモンの知る歴史では自身が追っている怨敵は、本来のブラックウォーグレイモンを倒す事が出来た筈。なのに今はブラックウォーグレイモンから逃げるように地球に潜んでいる。
それが意味する事は、まだブラックウォーグレイモンの追っている怨敵はブラックウォーグレイモンを倒せるほど力を取り戻していないと言う事に他ならない。
(俺の知る歴史では奴が本来のブラックウォーグレイモンを倒せたのは、“暗黒の種”の力を得てから・・・・今の奴の力ではデーモンと戦うのは無理だろう・・・だが、デーモンが邪魔だと判断すれば奴を消されてしまう可能性が在る!それだけは絶対に赦さん!奴は俺の獲物だ!)
そうブラックウォーグレイモンは内心で憎しみに満ちた叫びを上げると、自身をジッと見つめているゲンナイに目を向ける。
(情報が必要だな・・・相手はデーモンと奴・・両方を同時に相手にするのは今の俺には無理だ・・・まて?何故俺はデーモンも敵だと思っているんだ?奴を倒される可能性が在る相手とは言え、それよりも先に俺が奴を見つけて倒せばいいのだ・・それなのに何故だ?)
ブラックウォーグレイモンは自身の心の内が分からなくなった。
確かにデーモンとブラックウォーグレイモンの追っている怨敵が激突する可能性は充分に在る。だが、それよりも前にブラックウォーグレイモンが怨敵を倒せばいい。
それなのに何故かブラックウォーグレイモンの心は、『デーモンと戦いたい』と言う欲求が湧き上がっていた。
「(・・・分からん・・・ウォーグレイモンとの戦いが切っ掛けで俺の中の何かが変わったのか?・・・まぁ、良い。此処は一先ず情報収集に徹して奴が居る正確な位置を割り出すとするか)・・・良いだろう。暫らくは貴様の指示に従ってやる。だが、あくまで俺が動くのは暗黒デジモン達に関する事だけだ。地球に現れたダークタワーは余程の事態が起きない限り動く気はない・・・俺の目的はあくまで奴を消滅させる事だけだからな」
「それで構わない。私としても暗黒デジモン達の情報を知る為に強力な力を持った者の協力が必要だ。チンロンモンから信用されている君ならば安心出来る」
「フン、奴に信用される事などした事は無いがな」
そうゲンナイとブラックウォーグレイモンは一時的に手を組み合う事を同意し合った。
そして二人はそのまま暗黒デジモン達が存在しているエリアへと向かい出す。ブラックウォーグレイモンが言った余程の事態が地球で起きる事を知らずに。
現実世界。
インペリアルドラモン・ドラゴンモードとウォーグレイモンは自分達の究極進化を終えると、ウォーグレイモンは大輔、賢、太一を護るようにマミーモンとトリケラモンの前に立ち、インペリアルドラモン・ドラゴンモードも自身の巨体をマミーモンとトリケラモンの方に向ける。
その二体の究極体の出現にマミーモンは体を震わせながら後退りして、インペリアルドラモン・ドラゴンモードとウォーグレイモンを指差す。
インペリアルドラモン・ドラゴンモード、世代/究極体、属性/ワクチン種、データ種、フリー、種族/古代竜型、必殺技/メガデス、ポジトロンレーザー
パイルドラモンが究極進化した究極の古代竜型デジモン。他のデジモンとは存在感や能力で大きく上回っている。その強大な力ゆえにコントロールが難しく、善にも悪にもなってしまう。また、インペリアルドラモンにはドラゴンモードの他にファイターモードとパラディンモードが存在し、全部で三形態在ると言う珍しいデジモン。必殺技は、背中にある砲身から超重量級の暗黒物質を発射し、半径数百メートルを、暗黒空間に飲み込む『メガデス』と、同じように背中の砲身からレーザーを撃ち出す『ポジトロンレーザー』だ。
「ま、また進化しやがった!完全体の上だから究極体に!しかもブラックウォーグレイモンと互角に戦いやがった奴まで!嘘だろう!!」
「これ以上お前達の好きにはさせないぞ!!」
「ヒィッ!!」
力強い言葉と共に両手に装備しているドラモンキラーを構えたウォーグレイモンの姿に、マミーモンは恐怖に満ちた悲鳴を上げた。
一目見ただけで完全体の自身が勝てるは可能性がゼロだとマミーモンは本能から理解したのだ。
それは隣に居たトリケラモンも同じだったが、怒りと興奮に支配されていたトリケラモンは自身の頭部の三本の角をインペリアルドラモン・ドラゴンモードに向け、勢いよく走り出す。
「トライホーーン!!」
「不味い!!」
全速力で駆けて来るトリケラモンを目撃した賢は、先ほどまでの事を思い出して思わず声を上げた。
しかし、賢の心配を振り払うようにインペリアルドラモン・ドラゴンモードは右前足を掲げて、突進して来るトリケラモンも簡単に受け止めてしまう。
「ガァッ!!」
インペリアルドラモン・ドラゴンモードの右腕に捕まえられたトリケラモンは自由になろうと暴れるが、インペリアルドラモン・ドラゴンモードは揺らぐ事はなかった。
今のインペリアルドラモン・ドラゴンモードにとっては先ほどまで苦戦していたトリケラモンも敵ではない。それだけの力がインペリアルドラモン・ドラゴンモードの内から湧き上がっていた。
インペリアルドラモン・ドラゴンモードは暴れているトリケラモンをゆっくりと大輔、賢、太一の方に向け、大輔と賢は分かったと言うように頷きながら持っていたパソコンの画面にD-3を構える。
「デジタルゲート!オープン!!」
大輔がD-3をパソコンに向かって構えながら叫ぶと同時にパソコンの画面が光り輝き、デジタルワールドへのゲートが発生した。
そのパソコンから溢れる光をトリケラモンに浴びせると、トリケラモンはパソコンへと吸い込まれ、デジタルワールドへと帰還する。
その様子に大輔、賢、太一が顔を綻ばせると、インペリアルドラモン・ドラゴンモードは突如として空へと高く舞い上がり、背中に備わっている砲塔の照準を調整し始める。
「何だ?インペリアルドラモンの奴、一体何をする気なんだ?」
「日本に存在しているダークタワーを全て破壊する気なんだ」
『ッ!!』
大輔の疑問に答えるようにウォーグレイモンが告げた事実に、大輔、賢、太一は驚愕に目を見開いた。
言葉にすれば簡単だが、インペリアルドラモン・ドラゴンモードが行うとしている事は、途轍もない事だ。何せ日本に存在しているダークタワーは一本や二本ではなく複数。
しかも現在位置から遠く離れた場所に存在しているのだ。それをこの距離から破壊するなど、幾ら究極体のデジモンでも難しい。
しかし、ウォーグレイモンの言葉が正しいと言うように徐々に砲塔にエネルギーが集約し、エネルギーが溜まった瞬間に砲塔から複数のレーザーが一斉に発射される。
「オオオォォォォーーー!!!ポジトロンレーーザーーー!!!」
インペリアルドラモン・ドラゴンモードの背中の砲塔から発射された複数のポジトロンレーザーは照準が狂う事は無く、日本中に存在していたダークタワーへと真っ直ぐに進み、全てのダークタワーを撃ち抜いて破壊した。
その様子を目撃したマミーモンは全身をガクガクと震わせながらゆっくりと降下して来るインペリアルドラモン・ドラゴンモードを見つめる。
「う、嘘だろう!?アレだけのダークタワーをこんな離れた場所から破壊したってのかよ!?」
「すげぇ!」
「あぁ、これが究極体の・・・インペリアルドラモンの力なのか」
大輔と賢もそれぞれ自身のパートナーの凄まじい力に声を出した。
太一はその様子に苦笑するが、すぐさまウォーグレイモンに目配せを行う。
その意味を理解したウォーグレイモンは無言で頷き、一瞬の内にマミーモンの背後に回って羽交い絞めに拘束する。
「なっ!?」
「動くな!究極体に進化した僕なら、この状態でもお前を倒せる!」
「ク、クソォッ!!せっかく助かったってのに!?」
「お前達の黒幕は誰なんだ!?教えて貰うぞ!」
ウォーグレイモンの羽交い絞めにされているマミーモンに向かって太一は叫んだ。
この場で太一とウォーグレイモンは裏で動いている黒幕の正体を知るつもりだった。もし相手が自分達の想像しているヴァンデモンだったら、早い内に手を打たなければ最悪の状況に追い込まれてしまう。
ヴァンデモンの知略を知っている太一とウォーグレイモンはそのつもりでマミーモンを捕らえると、大輔と賢に声を掛ける。
「大輔!それに賢!お前達はダークタワーが在った場所に現れたデジモン達をデジタルワールドに戻しに行くんだ!インペリアルドラモンなら場所が分かるだろう?」
「あぁ、俺には分かる。例え破壊してもダークタワーが存在していた場所はハッキリと」
「よし、早く行くんだ!デジモン達をデジタルワールドに戻してくれ!此処は俺とウォーグレイモンが残る!」
「・・・分かりました!急ごう、賢!」
「うん!太一さん、ウォーグレイモン!気をつけて!」
そう大輔と賢は太一の声を掛けると、真っ直ぐにインペリアルドラモン・ドラゴンモードの下へと走って行く。
そして二人がインペリアルドラモン・ドラゴンモードに近づくと、インペリアルドラモン・ドラゴンモードの背中から光が走り、大輔と賢を包み込んで背中へと運ぶ。
同時にインペリアルドラモン・ドラゴンモードは再び空中に上昇して、そのまま音速を超える速さでダークタワーが在った地点へと向かって行った。
太一とウォーグレイモンはそれを確認すると再びマミーモンに目を向け、同時にビルの屋上に腰掛けたままのアルケニモンにも険しい視線を放つ。
「さぁ、答えて貰うぞ。君達の黒幕が誰なのかを・・・・そしてブラックウォーグレイモンの記憶が何処に在るのかも!?」
「グゥッ!!教える訳が…」
「ブラックウォーグレイモンの記憶の在り処・・・教えてやっても良いよ」
『ッ!!』
「ア、アルケニモン!?お前何を言って!?」
突然のアルケニモンの発言にマミーモンは困惑した。
ブラックウォーグレイモンの記憶は自分達にとって最大の切り札になる代物。特にブラックウォーグレイモンに対しては、憎しみで襲い掛かられた時に止められるかもしれない唯一無二のモノなのだ。
それが無くなったりでもしたらブラックウォーグレイモンを止めるどころか、最悪の場合は自分達の主に裏切りと見なされて抹殺されるだろう。
アルケニモンもその事は充分に理解している。だが、同時にこのまま付き従っていても殺される未来像が見えていた。
(一か八かの大博打に賭けてみようじゃないの。それに裏切りと思われる行動をしても、少なくとも例の計画が遂行されるまでは大丈夫な筈・・・生き残る為にもこの大博打に賭けてやるわ!!)
そうアルケニモンは内心で叫ぶと、懐の中から黒く染まった宝玉を取り出して太一とウォーグレイモンに見えるように掲げる。
「これがブラックウォーグレイモンから奪った記憶が篭っている宝玉さ・・・これがブラックウォーグレイモンに触れればブラックウォーグレイモンは記憶を取り戻す・・だけど、触れる前に割れでもすればブラックウォーグレイモンは永久に記憶を取り戻す事は出来なくなるのさ」
『なっ!?』
「理解したかい・・ならさっさとマミーモンを離しな。アンタがマミーモンを倒すよりも先に、私がコレを粉々にするかもね」
「クッ!!」
脅すように宝玉をこれ見よがしに弄ぶアルケニモンの姿に、ウォーグレイモンは悔しげな声を出しながらもマミーモンを解放した。
その様子に太一も仕方なさそうに悔しげに顔を歪めていると、マミーモンはウォーグレイモンから離れて素早くアルケニモンの隣にジャンプする。
「助かったぜ、アルケニモン!・・・お前やっぱり俺の事を…」
「いてぇ〜」
意味深な視線を向けて来たマミーモンの頭部に、アルケニモンは無言で拳を打ち下ろした。
その衝撃にマミーモンは涙目になるが、アルケニモンは気にする事無く、悔しげに自分達を見つめて来るウォーグレイモンと太一に顔を向ける。
「さて、私らは失礼するけど、追って来ない事を進めるよ。何せこっちには人質みたいなモノが在るんだからね」
「クソッ!!」
「それじゃあね・・あぁ、それと私らの本当の黒幕だけど・・・・“あんた等はソイツを知っているよ”」
『ッ!!』
アルケニモンの意味深な言葉に太一とウォーグレイモンは限界にまで目を見開いて驚愕するが、もはやアルケニモンは何も告げる事はなくマミーモンを引き連れてビルの屋上から屋上へとジャンプしながら去って行った。
その様子を太一とウォーグレイモンは無言で見つめていたが、去る直前のアルケニモンの言葉に顔を難しげに歪めながら見合わせる。
「・・・太一・・・やっぱり・・」
「あぁ・・・・可能性は高いだろうな・・・・ヴァンデモンが生きている可能性が」
そうウォーグレイモンと太一は真の敵について思いながら、一先ずヒカリ達が居る場所へと向かって行くのだった。
太一とウォーグレイモンが居た場所から在る程度離れた高層ビル内部。
そのビルの窓ガラスから太一達の様子を見つめている長髪に黒いコートを着た男性が立っていた。
多くの人々がトリケラモンの暴走に怯えて逃げながらも、男性は一部始終をずっと難しげな顔をしながら見つめ、今は何かを悩むように口元に手をやっていた。
「・・・あいつ等・・・何を企んでいる・・・・アレをこんなにも早く見せびらかせる必要は無かった筈だぞ?」
先ほどのアルケニモンの行動に男性は深い疑問を覚えていた。
何れはブラックウォーグレイモンの奪われた記憶を晒す予定だったが、それはこの状況ではない。寧ろもっと先の時に晒す予定だったのだ。
それはアルケニモンとマミーモンも理解していた筈。なのに予定を遥かに超える早さでブラックウォーグレイモンの奪われた記憶の所在地が判明してしまった。
「不味いぞ・・・アレはブラックウォーグレイモンを操れる切り札だと言うのに!」
(・・・キニスル・・コトハナイ・・・・)
「・・・そうだな。寧ろブラックウォーグレイモンが戻って来た時に真っ先に俺達の下へとやって来る呼び水にはなるか・・・・さて、そろそろあの巨大な竜が日本中に現れたデジモンをデジタルワールドに戻し終えている頃だろう・・・次の計画を進行させなければ」
そう男性は呟くと、窓ガラスに背を向けてビルの出口へと向かい出す。
自身の影が別の何かの生物の形に変わっている事にも気がつかず、男性は己の考えた計画の進行を急ぐのだった。
一方その頃、光子郎の家では集まっていたメンバー全員がテレビに映っていたパイルドラモンが究極進化した姿-インペリアル・ドラモン・ドラゴンモードの力の唖然としていた。
日本中のダークタワーを同時に破壊出来る力を持っていたばかりか、超高速で空を移動出来る力をインペリアルドラモン・ドラゴンモードは見せたのだから、当然といえば当然だろう。
ベンジャミンは皆の様子に思わず苦笑を浮かべてしまうが、すぐさま表情を真剣に戻して話を再開する。
「これで皆が外国に行く手段を手に入れた。それだけではなく私の仲間達も各国で動いている。恐らくは他の国の選ばれし子供達も動いている筈だ」
「他の国の選ばれし子供達が!?」
「あぁ、今回の件は全ての選ばれし子供達が動かねば解決出来ないだろう」
驚愕の叫びを上げた京にベンジャミンはそう告げ、先ほど渡したチンロンモンの力について詳しく説明し出す。
「先ほど渡した力はインペリアルドラモンやウォーグレイモンだけではなく、君達のパートナーデジモンに作用している。今までは成熟期以上の進化は難しかったが、今ならば完全体にも容易に進化出来る」
「完全体に!?」
「その通りだ、テイルモン。その証拠に現実世界では幼年期ではならなかったホークモンとアルマジモンは成長期の状態を保てている」
「言われてみれば、確かに力が湧き上がって来る感じを受けます」
「そうダギャ!今なら誰にも負ける気がしないダギャ!」
ホークモンとアルマジモンはベンジャミンの言葉を肯定するように声を出し、他のテイルモン、テントモン、ピヨモン、ゴマモン、パタモン、ガブモンも同意するように頷いた。
その様子にヒカリ達が笑みを浮かべていると、伊織が気になっていた事をベンジャミンに質問し出す。
「あの質問を良いでしょうか?」
「構わないよ」
「ベンジャミンさん、それに此処には来れなかったゲンナイさんは今まで何をしていたんですか?」
「三年前の事件の時に各国はデジモンの存在を調べ始めたのだ。私達はそれを悪用されない為に、密かに動いていた・・・今はまだデジモンの存在を正確に明るみにする訳にはいかない。デジモンと言う人々にとって未知の生物が受け入れる状況が出来るまではデジモンを調べられるわけにはいかなかったのだ。だからこそ、私達は裏で動き続けていたんだ」
「それじゃ、ゲンナイさんが此処に来れなかったのは、それが原因なんですか?」
「・・・いや、ゲンナイが来れなかったのには別の理由が在る?」
「別の理由?・・・・あのそれは何ですか?」
「すまないが、それは今は話せない・・とにかく今は各国に現れたデジモン達をデジタルワールドに戻す事の方を急がねばならない。インペリアルドラモンならば三十分と掛からずに世界中を回れる筈だ」
そうベンジャミンがヒカリ達に声を掛けると同時に、お台場の方に向かって移動するインペリアルドラモン・ドラゴンモードが窓ガラスの向こう側に見えた。
日本中のデジモン達をデジタルワールドに戻して来たのだと全員が理解し、急いでベンジャミンと共にお台場の方に向かい出す。
そして三十分後。
お台場に存在している広場で大輔、賢、そしてインペリアルドラモン・ドラゴンモードとヒカリ達は合流していた。
その場に太一とウォーグレイモンが居ない事に、ヒカリとテイルモンは不安を覚えて大輔と賢に事情を聞こうとすると、空から太一を抱えたウォーグレイモンが降りて来る。
「遅れてすまない」
「お兄ちゃん!」
「太一さん!無事だったんですね」
「おいおい、ウォーグレイモンも一緒に居たんだ。そう簡単に俺達がやられるかよ、大輔」
心配そうに駆け寄って来たヒカリと大輔を安心させるように太一は声を出した。
同時にウォーグレイモンは光に包まれ、元のアグモンへと退化する。
そしてそのまま全員がインペリアルドラモン・ドラゴンモードで世界中に向かう事を決め合い、インペリアルドラモン・ドラゴンモードの背に乗り込もうとするが、その前にテイルモンは太一とアグモンの手を引っ張って皆の傍から離れる。
「・・それで太一、アグモン・・何か手掛かりを掴んで来たんでしょう?」
「あぁ、先ずはブラックウォーグレイモンの奪われた記憶の在り処が分かったんだ」
「後で皆にも話すけど、アルケニモンが持っていたんだよ。多分黒幕からブラックウォーグレイモンを利用する為に渡されたんだと思う」
「そう・・・それで、他には何か掴んだの?」
「・・・・まだ確証は無いが・・・やっぱり俺達が想像している奴が黒幕の可能性が高い」
「“僕らは黒幕を知っている”。そうアルケニモンは言っていた・・・僕らが知っていた今の現状を考えたら・・多分」
「アイツが生きている可能性が高いわね・・・・この事は確証が得られるまでは皆には隠して於きましょう。もし本当にアイツだったら…」
「分かっている・・・とにかく今は世界中のダークタワーの方が先決だ。これ以上デジモン達を暴れさせる訳にはいかないからな」
そう太一が言うとテイルモンとアグモンは無言で頷き、ヒカリ達の下へと戻って行く。
そして皆が準備を終えて出発しようとするが、その直前にタケルの母親である高石奈津子が風呂敷を持って来る。
「タケル」
「母さん。これからちょっと出掛けるだけ、必ず戻って来るよ」
「えぇ、分かっているわ。だからコレを持って行って・・皆で食べられるようにおにぎりを作ったのよ」
「アッ!・・うん。分かった。ありがとう」
奈津子の差し出して来た風呂敷を受け取りながらタケルは礼を告げて頭を下げた。
タケルは大切そうに風呂敷を抱えながらインペリアルドラモン・ドラゴンモードに向かって走り、そのまま他のメンバーと共にインペリアルドラモン・ドラゴンモードの背に乗り込む。
インペリアルドラモン・ドラゴンモードはそれを確認すると、上空へと浮かび上がり、超高速で遠い外国の地へと飛び立っていた。
その様子をとあるビルの屋上から眺めていたアルケニモンとマミーモンは楽しげに顔を歪める。
「ヘヘヘヘヘッ!アルケニモン。あいつ等行ったぜ」
「そうだね。そして全てのダークタワーを破壊するだろうね・・・それが罠だとも知らずに」
「だよなぁ!そん時のあいつ等の顔が見れないのが悔しいぜ」
ーーーピピピピッ!!
「おっと、連絡が来たようだね」
服の中から鳴り響いた電子音を聞いたアルケニモンは、電子音が鳴り響いている携帯電話を取り出し、通話ボタンを押して会話を開始する。
「はい・・・了解しました」
ーーーピッ!
「あの方から連絡が届いたのか?」
「そうだよ・・・さて、忙しくなるね・・・(もうすぐブラックウォーグレイモンは現れる。何としてもアイツが持っている知識を少しでも手に入れないとね。生き残る為にも)」
アルケニモンは内心でそう呟きながら、マミーモンと共にビルから降りて行く。
胸の内に必ず生き残る事を誓いながら、自分達の主の命令を実行しに向かうのだった。