大気圏上空。
その場所はそれ相応の準備をしなければ人間が辿り着く事が出来ない場所。
しかし、今その大気圏を縦横無尽にインペリアルドラモン・ドラゴンモードは飛び回っていた。
その背にはインペリアルドラモン・ドラゴンモードが発生させたシールドに護られながら、選ばれし子供達とそのパートナーデジモン達、そして同行者としてベンジャミンが乗っていた。
地球上に出現したダークタワーを破壊する為に、彼らはインペリアルドラモン・ドラゴンモードに乗って世界中を巡ろうとしているのだ。
光子郎はインペリアルドラモン・ドラゴンモードの背に世界地図を広げながらダークタワーが存在している地点を示す。
「皆さん、今のところダークタワーが存在している場所は中国、ロシア、フランス、アメリカ、オーストラリア、そしてメキシコの六ヶ国です」
「こうしてみると、ダークタワーが存在しているのは六ヶ所だけなんだな」
「えぇ、ヤマトさんの言うとおりダークタワーは確かに六ヶ所だけにしか存在していませんが、この六ヶ所に最低でも三本以上存在しています。通常進化を封じる機能は流石に無いでしょうが、早急に破壊しなければ更にゲートが開いて、デジモンの数が増えるでしょう」
「だったら全員で一つの場所に向かうよりも、俺達は分かれて動くべきだな」
「はい、太一さんの考えたように、全員で一つの地点に向かうよりも此処に居るメンバーをそれぞれの場所に向かわせるべきでしょう。配置に関しては僕が考えても良いでしょうか?」
「構わないぜ、光子郎なら安心出来る」
「俺も同感だ」
質問して来た光子郎に太一とヤマトは同意するように声を出し、他のメンバーも同感だと言うように頷く。
光子郎ならば私情を交えずに公正なメンバーの振り分けをしてくれると信じているのだ。
これが大輔ならば確実にヒカリと一緒に行動しようとするだろう。だが、光子郎ならばそれぞれの位置に適したメンバーを振り分けてくれると、この場に居るメンバー全員が信じていた。
それを表すように光子郎はダークタワーが存在している六ヶ所の地点を示しながら、向かうメンバーを話し出す。
「先ず一番近い中国には僕、ヒカリさん、テントモン、テイルモン。次にロシアは京君、ホークモン、空さん、ピヨモンが。フランスには太一さん、アグモン、タケル君、パタモン。オーストラリアには丈さん、ゴマモン、伊織君、アルマジモン。メキシコには一乗寺君、ワームモン、ヤマトさん、ガブモン。そして最後のアメリカには大輔君、ブイモン、そしてベンジャミンさんが向かって貰います。アメリカにはミミさんも居ますから、何とかなるでしょう」
「加えて言えば私の仲間達が各国に居て、それぞれの地に居る選ばれし子供達に協力を要請して居てくれている筈だ・・・しかし、残念だがフランスだけにはエージェントが居ない」
「どうして何ですか?」
「・・この状況になれば各国の軍事コンピュータがデジモンの存在を調べている筈だ。私の仲間はそれを操作して混乱を最小限に導かなければならない・・・その為に現実世界に廻せるメンバーが足りないんだ。一応フランスの選ばれし子供達には連絡を送って在るから、君達には協力している筈だ。事は早急に終わらせなければならない。万が一、デジモンと軍隊が戦いでも初めでもしたら取り返しのつかない事態に発展してしまう」
「・・・そんな事は絶対にさせないぜ」
「大輔の言う通りだ。俺達は何としても現実世界に迷い込んだデジモン達をデジタルワールドに戻さないといけない」
「よし!インペリアルドラモン!!先ずは中国に全速力で向かってくれ!!」
「了解だ!!」
インペリアルドラモン・ドラゴンモードは叫ぶと共に音速で中国大陸へと向かい出した。
現実世界に迷い込んだデジモン達をデジタルワールドに帰す為に。
一方その頃、デジタルワールドに広がる広大な大海原の上空を、ゲンナイを肩に乗せながらブラックウォーグレイモンは飛んでいた。
この場所の近くには嘗て賢が『デジモンカイザー』だった時に発見した暗黒デジモン達が住んでいるダークエリアに繋がるゲートが存在しているのだ。
暗黒デジモン達に動きが在るならば確実にダークエリアに繋がるゲートに異変が起きていると思ったゲンナイは、ブラックウォーグレイモンの肩に乗せて貰ってゲートの探索に向かっていた。
「すまないな、ブラックウォーグレイモン。君に乗る以外にも辿り着く方法は在るが」
「気にするな。俺としてもさっさと情報は手に入れたい。この方法が一番手っ取り早いからな」
そうブラックウォーグレイモンはゲンナイに声を掛けると、ゲンナイに負担が掛からないぐらいまでスピードを上げてゲートへと向かって行く。
そして海を真っ直ぐに進んで行くと、巨大な大渦が生じている箇所に辿り着く。
同時にゲンナイは手に持っていたパソコンを操作して大渦周辺に存在しているエネルギーなどを調べていく。ある程度の時間が経つとゲンナイの顔は険しげに歪んでいく。
「・・・やはり間違いない。既に何体かの暗黒デジモンがダークエリアから出ている。それらしい痕跡が出て来た」
「ほう、となればデーモンも既に現実世界に居るのか?」
「・・いや、デーモンクラスのエネルギーが出た反応は無い。だが、コレは・・・」
「如何した?」
「・・・究極体クラスのデジモンがダークエリアから出たと思われる反応が出ているんだ」
「何だと?」
ゲンナイが告げた事実に、ブラックウォーグレイモンは僅かに目を細めた。
ブラックウォーグレイモンの知る歴史ではデーモンが連れていたのは完全体三体だけだった筈。
しかし、今のゲンナイの言葉が正しければ、デーモン以外の究極体がダークエリアから出たらしい。ブラックウォーグレイモンは自身の知る歴史との変化の原因を考えると、一つだけ思い至る事実に辿り着く。
「俺をこの体に埋め込んだアイツの奴の存在がデーモンの警戒心を強めたのだろう。七大魔王デジモンと言われているデーモンならば、不完全な状態のアイツに気がついていても可笑しくは無い」
「それしか考えられないな・・・だが、一体どんな究極体の暗黒デジモンが?」
「さてな・・・直接本人から聞けば分かるだろう」
「何?」
意味深なブラックウォーグレイモンの言葉に、ゲンナイが訝しげな視線をブラックウォーグレイモンに向けた。
その視線の意味に答える事無くブラックウォーグレイモンは右手のドラモンキラーの爪先に瞬時に赤いエネルギー球を作り上げ、背後に振り返ると共にエネルギー球を投げつける。
「コソコソと邪魔だ!!」
ブラックウォーグレイモンが投げた赤いエネルギー球を避けるように黒い影が素早く移動し、赤いエネルギー球を避けた。
その様子にゲンナイは目を見開くがすぐさま黒い影の正体を見極めようと目を凝らす。
そして黒い影の正体を捉えた瞬間、ゲンナイは信じられないというように口を呆然と開けてしまった。
ブラックウォーグレイモンも自身の頭上に存在している黒い影の正体に僅かに驚愕に目を見開いた。
何故ならばブラックウォーグレイモンとゲンナイの視界の先に居るデジモンは既に居ない筈の存在。
特にゲンナイからすれば忘れる事が出来ない因縁の相手。
背中のトランプボックスに四本の剣を刺し、ピエロのような容姿をしている究極体デジモン。
嘗てデジタルワールドを再構成して『スパイラルマウンテン』を作り上げたダークマスターズのリーダーだったデジモン。
そのデジモンは愉快げに自身の姿に驚愕と困惑に包まれているゲンナイに声を掛ける。
「ホホホホホッ!久しぶりですね、ゲンナイ」
「ピ、ピエモン!?何故お前が此処に居る!?」
ピエモン、世代/究極体、属性/ウィルス種、種族/魔人型、必殺技/トランプソード
奇抜な姿と神出鬼没な、全てが謎に包まれた魔人型デジモン、実力に置いてはトップクラスであり、ピエモンに出会ったら逃げろとさえ言われるほどである。背中の“マジックボックス”から、ハート、スペード、ダイア、クラブの4本の剣で戦う。もし彼に出会ってしまった場合、もはや己の運命を呪うしか道はない。必殺技の『トランプソード』は、背中の4本の剣、全てを瞬時にテレポートさせて、相手に回避不能の攻撃を放つ技だ。その他にもマジック染みた技を多数所持しているぞ。
ゲンナイは自身の視界の先に浮かんでいるピエモンに驚愕した。
ピエモンは二年前にホーリーエンジェモンの力によって、決して脱出する事が出来ない亜空間に葬られたはず。
如何に究極体で在ろうと脱出する事は不可能に近い空間にピエモンは消え去ったのだ。しかし、今そのピエモンがゲンナイとブラックウォーグレイモンの前に現れた。
別個体ではない。別個体ならばゲンナイの事を知る筈がない。ゲンナイの事を知っていると言う事は、紛れも無く目の前に居るのはダークマスターズのピエモンに間違いないのだ。
居ない筈の存在にゲンナイがうろたえたように視線を彷徨わせると、ピエモンは可笑しそうに笑い出す。
「ハハハハハハハハッ!私が居るのが、そんなに変ですか?・・・でしょうね・・確かに私はホーリーエンジェモンの力によって亜空間に消え去った・・・苦しかったですよ。消滅すると本気で思いました・・だが、消滅する直前に私はあの方に救われたのです」
「あの方だと?・・・まさか!?・・お前を救ったのはデーモンか!?」
「そう!デーモン様こそ、私を亜空間から助け出してくれたお方です!そして今は私の主」
「ほう・・・脱出不可能な筈の亜空間から貴様を助け出すとは・・デーモンの力は俺が考えている以上に強大なようだな」
愉快そうに笑っているピエモンを睨みながらブラックウォーグレイモンは声を上げた。
その顔はブラックウォーグレイモン自身は気がついてはいないが、心の底から楽しげに歪んでいた。元々デーモンと戦いたいと言う欲求はブラックウォーグレイモンの内に存在していたが、ピエモンが告げた事実によって更にその欲求がブラックウォーグレイモンの中で更に強まったのだ。だが、まだその事にブラックウォーグレイモン本人は気がついてはいない。
ブラックウォーグレイモンは無意識にピエモンに向かって両手のドラモンキラーを構え、ピエモンは楽しげに顔を歪めているブラックウォーグレイモンに訝しげな視線を向けるが、すぐにその表情は笑いを堪えるように変わる。
「フフフフッ、究極体の紛い物風情が私に挑むつもりですか?」
「紛い物かどうかを確かめたら如何だ?」
「いえいえ、残念ながら貴方ごとき紛い物に構っている暇は私には無いのですよ。デーモン様からの命令も実行しなければいけませんし、何よりも選ばれし子供達に復讐を果たさなければいけない・・私以外にも復讐を狙っている者が居る今、一刻の猶予もありませんからね・・・私と戦いたければ現実世界に来なさい。存分に遊んで上げますよ」
ーーーシュゥン!!
言葉を言い終えると共にピエモンは、空間に溶け込むようにブラックウォーグレイモンとゲンナイの視界の先から消失した。
ゲンナイはピエモンが生きていた事実に顔をこれ以上にないほどに険しく歪めざるえなかった。
何せ二年前の時でさえもピエモンはウォーグレイモン、メタルガルルモンの二体の究極体だけでは戦力が足らず、更に多くのデジモン達を加えた総力戦で挑んで漸く倒す事が出来た強敵。
もし二年前の時にホーリーエンジェモンが現れていなければ、ウォーグレイモン達はピエモンに敗北していただろう。それほどまでの強大な実力者なのだピエモンは。
その上、今回は背後にデーモンと言う最強の座に位置しているデジモンも存在している。幾らチンロンモンの力を得たインペリアルドラモン・ドラゴンモードとウォーグレイモンや、他のデジモン達が居ても勝てる確率は低い。
更にブラックウォーグレイモンは悪い情報を思い出し、肩に乗って如何すればいいのかと悩んでいるゲンナイに伝える。
「ゲンナイ」
「何だい?」
「悪い情報を思い出したぞ。俺の知る歴史ではブイモン、ワームモン、アルマジモン、ホークモン、パタモン、テイルモン以外のデジモン達はデーモンとの戦いには参戦出来なかった」
「ッ!!何だと!?それは如何言う事なんだ!?」
「俺が言った連中以外は長く現実世界に居た事が無い。その為に変化した環境に体が持たないのだろう。恐らく今起きている地球の異変が終わってすぐに奴らをデジタルワールドに戻しても、デーモンとの戦いには参戦出来まい」
「・・・何と言う事だ」
ブラックウォーグレイモンが告げた事実に、ゲンナイは掠れたような声を出さざるえなかった。
デーモンと言う脅威に、更にはピエモンと言う強敵。しかし、その現状で戦えるのが六体のデジモンだけ。いや、完全体への進化を考えれば三体しかいない。
デーモン、ピエモン、そしてデーモンが連れて来るであろう暗黒デジモン達。
三体のデジモンだけでは、如何考えてもデーモン達に対抗する事は不可能に近い。それだけではなく、今地球にはブラックウォーグレイモンが追っている敵も存在している。
(クッ!!状況は私やチンロンモンが考えていた以上に悪い!!幾らインペリアルドラモンとは言え、デーモンとピエモンの二体を相手にするのは無理だ!このままでは地球は!)
「・・・・クククククッ!」
「ッ!!・・・ブ、ブラック・・ウォーグレイモン?」
暗く陰湿ながらも、何処と無く歓喜を感じられる笑いを上げ始めたブラックウォーグレイモンに、ゲンナイは恐る恐る声を掛けた。
しかし、ブラックウォーグレイモンはゲンナイの声が聞こえていないのか、含み笑いを止める事無く、ピエモンが先ほどまで居た場所を見つめ続ける。
「クククククッ、何故かは分からんが、俺は今喜んでいる。奴への憎しみと同じくらいピエモンと、そしてデーモンと戦ってみたくなった・・・奴らと戦えば何かが手に入りそうだ。俺を満たせる何かが」
(・・・これがチンロンモンが言っていた、ブラックウォーグレイモンの本質なのか?)
『ゲンナイよ。ブラックウォーグレイモンと行動するのならば、お前が恐らく最初にブラックウォーグレイモンの本質を知るだろう・・・ブラックウォーグレイモンは決して光にはならない・・・ブラックウォーグレイモンの本質は“闇”。全てを飲み込む闇ではなく、例え何に照らされても変わる事無き“闇”こそがブラックウォーグレイモンの本質なのだ・・・今はまだ己を生み出した者に対する憎しみに支配されて居るが故に、己の本質をブラックウォーグレイモンは知るまい。だが、デーモンとの戦いでは必ずやブラックウォーグレイモンは己の本質を知るであろう。その時にブラックウォーグレイモンが己を御す事が出来なければ、ブラックウォーグレイモンも・・・いや、そうなる事が無きように願うしか私には出来ん』
そうゲンナイはチンロンモンから伝えられた言葉を思い出すが、首を横に振るい、ブラックウォーグレイモンに声を掛ける。
「ブラックウォーグレイモン。一先ずは陸地に戻ろう。これ以上ダークエリアへのゲートの傍に居るのは危険だ。これからどのように動くのかも仲間と話し合うべきだろうからな」
「・・・確かにその通りだな。ならば、急いで戻るとするか」
ブラックウォーグレイモンはゲンナイの言葉に同意を示し、陸地の方向に体を向けると、そのままゲンナイと共に陸地へと戻って行く。
地球に迫る最大の危機を知らずに、ブラックウォーグレイモンは自身の中に湧き上がって来る歓喜について考えながら、陸地へと急ぐのだった。
中国都市香港。
中国大陸の中で大勢の人々が暮らしている大都市。
しかし、今その場所にもダークタワーの影響で開いたデジタルワールドへのゲートによって、デジモンが出現していた。
「グオオオオオオオオォォォォォーーーー!!!」
『ウワァァァァァァァァァァーーーーーー!!!』
咆哮を上げながら都市内部を歩き回る、左腕が竜の頭骨を象り、右腕が機械的な口をして、最後に頭部の部分にも恐竜の顔の合計三つを頭部を持った恐竜のようなデジモン-デルタモンから人々は逃げ回っていた。
デルタモン、世代/成熟期、属性/ウィルス種、種族/合成型、必殺技/トリプレックスフォース、スカルファング
合計3体のデジモン(左腕に『スカルヘッド』。右手に『メタルヘッド』)がコンピュータのバグで合わさった事により誕生した合成型デジモン。カラダの特徴を活かした3段攻撃を得意とし、一度に3体のデジモンと戦う事も出来る。しかし、3体とも元々凶悪なデジモンだった為に、破壊する事では気が合うが、それぞれわがままでお互いの仲は悪く、ケンカし始める事も在る。必殺技は、スカルヘッド、メタルヘッド、そして頭部の口に集めたエネルギーを集中させて、相手に向かってエネルギーを撃ち出す『トリプレックスフォースに、左手のスカルヘッドで相手に噛み付く『スカルファング』だ。
「グルルルルルッ!!」
唸り声を上げると共にデルタモンは、道に乗り捨てられてた車などを踏み潰しながら前へと進んで行く。
デルタモンが探しているのは、自身がデジタルワールドへと帰還する為のゲート。訳も分からずに現実世界にやって来てしまったデジモン達は大小なれど混乱している。
その為に本来ならば危険が無い筈のデジモンでさえも、興奮して暴れ回ってしまっているのだ。特にデルタモンのような凶暴さを兼ね備えたデジモンならば、もはや人々の事など気にせずに暴走してしまう。
唯一の救いが在るとすれば、デルタモンの目的は人々を襲う事ではなく、あくまでデジタルワールドへのゲートを探す事であるぐらいだろう。
だが、元々巨体のデルタモンが街を歩くだけで大混乱が起きてしまう。それを表すように人々は混乱に満ち溢れながら街の中を逃げ回っていた。
しかし、逃げ回る人々の中、一人の老人がデルタモンの前に立ち塞がり、持っていた何らかの文字が刻まれているお札のような物をデルタモンに向かって投げつける。
「ハッ!!」
「グルゥッ!!」
自身に向かって飛んで来るお札をデルタモンは左腕のスカルヘッドで破り捨てた。
同時にゲートを探す邪魔をされたと思ったデルタモンは右手のメタルヘッドを掲げて、自身の前に立っている老人に向かって振り下ろす。
「ガァッ!!」
『危ないジッ様!』
デルタモンのメタルヘッドが老人に激突する直前に、横合いから少年が飛び出し、老人を抱えながらメタルヘッドの一撃を避けた。
その様子にデルタモンは僅かに不快そうに顔を歪めて今度はスカルヘッドを自身から離れようとしている老人と少年に振り下ろそうとする。だが、その直前に左右から強力な水流がデルタモンの両手に放たれる。
『ウォータースクリューーー!!』
「ガァッ!?」
左右からのウォータースクリューによって動きが封じられたデルタモンは、一旦動きを止めて左右を見回すと、貝のような殻で柔らかな体を護っている同じ種類のデジモンを連れた少年が二人左右に立っていた。
更に老人を安全な場所に移動させた少年も、同様に同じ貝のようなデジモン-『シャコモン』を連れてデルタモンの正面に立つ。
シャコモン、世代/成長期、属性/ウィルス種、種族/甲殻類型、必殺技/ブラックパール、ウォータースクリュー
貝のような姿をした甲殻類型デジモン。そのカラは、どんな攻撃も跳ね返す防御力を備えている。逆に本体は柔らかくぷにぷにしており、幼年期並みの防御力しかない。顔だちはとても愛らしいが、油断して近寄ると、ぴったりと貝を閉じたまま突っ込んで攻撃を仕掛けて来るぞ。必殺技は、体の中で作り出される宝石のように硬い玉を、殻を開けた瞬間に敵に向かって撃ち出す『ブラックパール』に、超高水圧の水流を敵にぶつける『ウォータースクリュー』だ。
彼らこそ中国の選ばれし子供達-『ホイ三兄弟』とそのパートナーデジモン達。最初に老人を助けたのは長男。左右を囲むように立っているのが次男と三男で在る。
三兄弟はそれぞれ自身のデジヴァイスを手に持つと、目の前に居るシャコモンに向かって差し出す。
『シャコモン!!』
『シャコモン進化!!』
ホイ三兄弟が叫ぶと同時にデジヴァイスが光り輝き、シャコモンの体はデータ粒子に変換され、進化が始まった。
そしてシャコモン達のデータが集まった箇所には同種族のタコのような体をして、左の触手の先に爪を備え、右手に銃のような物を握り、頭につぼのような物を備えたデジモン-『オクタモン』が存在していた。
「オッ!」
「クッ!」
「タッ!」
『モン!!』
オクタモン、世代/成熟期、属性/ウィルス種、種族/軟体型、必殺技/
海鳴墨銃ウィルスプログラム内部から発見された軟体型デジモン。物を集める癖があり、“ネットの海”で拾った“デジ宝”体中に身に付けている。左の触手のツメは、デビドラモンのデータをマネしたもの。また頭のツボにはフジツモンというデジモンが居て、レーダーのように危険を教えてくれるぞ。必殺技は、毒がある墨が詰まった弾を発射する『
海鳴墨銃』だ。
フジツモン、世代/解析不可、属性/ウィルス種、種族/分類不可、必殺技/不明
オクタモンのツボの中などに生息する謎のデジモン。いつもオクタモンのツボの中にいてフジツモン自体の姿はめったに見れない。オクタモンの危険を察知する役目を持っている。それ以外に関してはウィルス種と言う事以外全て不明なデジモンだ。
三体のオクタモンはそれぞれ一文字づつ自身の名を叫び、最後に声を合わせて名乗りを上げた。
突然現れた三体のオクタモンにデルタモンは目を見開くが、すぐに冷静に立ち返り、二本の頭部の腕と自身の頭の目をオクタモンに向けて、それぞれのデジモンに向かって構えを取る。
流石に三体のオクタモンの出現にはデルタモンも驚愕したが、デルタモンは同時に三体のデジモンと戦える特性を秘めたデジモン。
それ故に慌てる事無くデルタモンはオクタモン達に向かって前進し、そのまま左右のオクタモンにはメタルヘッドとスカルヘッドをそれぞれ構え、正面のオクタモンには噛みつこうと鋭い牙を打ち鳴らす。
「ガァァァァァァーーー!!」
『グッ!!』
突進して来たデルタモンの攻撃をオクタモン達はそれぞれ何本も在る足で受け止め、デルタモンと力比べを行う。
その様子を目撃したホイ三兄弟の長男は、自身のオクタモンに向かって力強い叫びを上げる。
『オクタモン!!ソイツの顔に墨を食らわせるんだ!』
「オウッ!!
海鳴墨銃ッ!!」
「グガッ!!」
オクタモンが握る銃から撃ち出された毒の墨-『
海鳴墨銃』-を浴びたデルタモンは悲鳴を上げて、急いで三体のオクタモンから離れようと後退る。
しかし、他の意思を宿している二本の腕が頭部の意思に逆らい、左右のオクタモン二体に向かって果敢に攻撃を加え続ける。
統制が執れず、更に
海鳴墨銃の毒によってデルタモンの動きが鈍っていくと、三体のオクタモンは同時にデルタモンの傍から離れ、それぞれ持っている銃から
海鳴墨銃(かいめいぼくじゅう)を発射する。
『
海鳴墨銃ッ!!』
「ガアァァァァァァァァーーーー!!!!」
三本の
海鳴墨銃を浴びたデルタモンは苦痛の叫びを辺りに響かせた。
流石に同時の三つの毒攻撃にはデルタモンが耐えられなかったのだ。ましてやデルタモンは三つの巨大な口を持ったデジモン。
それ故に
海鳴墨銃の墨はデルタモンの口の中に入り込み、毒の回りは一般のデジモンよりも早かったのだ。
そして遂に
海鳴墨銃の毒が全身に回ったデルタモンは、フラフラと体を揺らして地面に倒れ伏してしまう。
ーーードォン!!
『よし!今が倒すチャンスだ!!』
『オクタモン達!アイツを倒すんだ!!』
『オウッ!!』
長男と次男の命令にオクタモン達は応じ、左の触手の先に存在している爪を気絶しているデルタモンに振り下ろそうとする。
しかし、その直前に上空からアトラーカブテリモン(赤)の腕に乗った光子郎とエンジェウーモンに抱かれたヒカリが倒れ伏すデルタモンの前に舞い降りる。
そのままヒカリ、エンジェウーモン、アトラーカブテリモン(赤)、光子郎は気絶しているデルタモンを護るようにオクタモン達の前に立ちはだかる。
「待って!!このデジモンは興奮しているだけなの!!」
「これ以上の攻撃は止めて下さい!」
『えっ!?』
ヒカリと光子郎の言葉にオクタモン達は慌てて攻撃を止めた。
そのままエンジェウーモンは抱えていたヒカリを地面に降ろし、光子郎はアトラーカブテリモン(赤)の腕から降りて、何故かヒカリを見つめながら顔を赤らめているホイ三兄弟に声を掛ける。
「僕達は日本からデジモン達をデジタルワールドに戻しに来たんですよ」
「光子郎はん・・・言葉が通じておまへんで」
「アッ!・・しまった」
アトラーカブテリモン(赤)の言葉に、光子郎は困ったように頭を掻いた。
中国の子供に日本語が通じる筈が無い。光子郎、ヒカリ、エンジェウーモン、アトラーカブテリモン(赤)もまた中国語はできない。
困惑して光子郎達を見つめているオクタモン達と、デルタモンの体に手をつけて治療を行っているヒカリを赤らめながら見ているホイ三兄弟をどうやったら説明出来るのかと光子郎は頭を悩ませる。
このままではホイ三兄弟達と協力が取れないと光子郎が頭を悩ませていると、路地裏の方から頭にフードを被ったベンジャミンと同じ服装をした男性が歩いて来て、光子郎に声を掛けて来る。
「此処は私に任せてくれたまえ」
「アッ!もしかして貴方は!」
声を掛けて来てくれていた男性に光子郎は喜びの声を上げると、現れた男性はフードを脱ぎ去り、ベンジャミンと同じ顔をした素顔が現れ、ホイ三兄弟に声を掛ける。
『始めまして中国の選ばれし子供達。私の名前はジャッキー。実は君達に協力を願いたい』
男性-ジャッキー-はホイ三兄弟に光子郎達の事や地球に起きている現状を説明し始めた。
そして全てを聞き終えたホイ三兄弟とオクタモン達は光子郎達とジャッキーに協力する事を決めた。
そのまま残りの中国の選ばれし子供達とも合流して香港に現れたデジモン達を一箇所に集め、デジタルワールドへと戻す準備を進めて行く。
二時間後。少なくとも中国に現れたデジモン達を集め終えたヒカリ達は、広い場所にデジモン達を集めてデジタルワールドへのゲートをパソコンに出現させる準備を行なっていた。
しかし、ゲートを開く直前に何処か慌てた様子をしたジャッキーが、ゲートを開けようとしていた光子郎とヒカリに声を掛ける。
「大変だ!インドの方に現れたデジモン達を連れた選ばれし子供から連絡が届いたのだが、国境のところで中国軍が道を塞いで、デジモン達を連れて来れないらしい!」
「何ですって!?」
「本当なんですか!?ジャッキーさん!」
「あぁ、間違いない。とにかく急いで向かわなければ、中国軍とデジモン達が激突してしまうかもしれない。インドの子が連れているデジモン達は少しでも早くデジタルワールドに戻る為に一緒に居るんだ。戻れないと分かれば、どれだけの被害が出るか考えたくも無い」
「確かにその通りですね・・・だったら、誰か中国語が出来る子にも一緒に来て欲しいです。ジャッキーさんはこの場でデジモン達を抑えて貰いたいので、何とか中国軍に説得を行う為にも中国語が出来る子が必要ですから」
「分かった。ホイ三兄弟にも事情を説明して来る」
光子郎の頼みをジャッキーは応じ、離れたところで現実世界に現れたデジモン達をオクタモンと共に押さえていたホイ三兄弟の下に向かって行く。
事情を聞き終えたホイ三兄弟はジャッキーの頼みを了承し、最終的に長男がヒカリ達に同行する事を決めて、インドと中国の国境へと急いで向かって行くのだった。
中国とインドの国境伝い。
その場所ではインドから連れて来たデジモン達を先導している民族衣装の服を着た少女-ミーナと、そのパートナーデジモンであるメラモンが、自分達の行く手を阻んでいる中国軍と数キロの距離を離して向かい合っていた。
メラモン、世代/成熟期、属性データ種、種族/火炎型、必殺技/バーニングフィスト
全身に紅蓮の炎を纏った火炎型デジモン。その身を包む炎のように激しい気性を持っており、触れるもの全てを焼き尽くそうとする。必殺技は燃え上がる腕からパンチを繰り出す『バーニングフィスト』だ。
『困ったわね』
『俺達の事を敵だと思っているんだろう。彼らも自分達の護りたい国に、俺達のような不可思議な生物を入れたくはないだろうからな』
ミーナの言葉にメラモンは腕を組みながら自身の考えを語った。
少なくともミーナ達の行く手を阻んでいる中国軍の人々は、無理やりに中国領土内に入り込まなければ戦いは行わないだろう。
問題は寧ろミーナとメラモンが連れて来た多数のデジモン達の方に在った。彼らがミーナやメラモンに従っているのは、あくまで一刻も早くデジタルワールドに帰還する為でしかない。
このまま此処で立ち往生すれば、確実にデジモン達は暴走してしまう。そうなればデジモンと人間の戦争が始まってしまうとミーナとメラモンが悩んでいると、上空からエンジェウーモンに抱かれたヒカリ、そしてアトラーカブテリモン(赤)の腕に乗った光子郎、長男、シャコモンが舞い降りて来る。
「ジャッキーさんから救援の情報を貰って来た者です」
「おぉ、それは心強いッ!!」
「アレ?貴方は日本語が出来るんですか?」
「その通りだ」
ヒカリの質問にメラモンは頷き、光子郎とヒカリは安堵の息を吐く。
言葉が通じなければ意志の疎通も行う事が出来ない。例え片方だけでも日本語が出来る者が居れば、会話を行う事が出来る。
そしてミーナはメラモンに通訳されながら、ホイ三兄弟の長男はシャコモンに通訳されて四人は如何すれば中国領土内にデジモンが入れるのかと考え出す。
「やはり軍の人達に事情を説明して通して貰うのが一番なんですが」
「だが、それは難しいだろう。見ての通り中国語が出来るのは、この場では中国の選ばれし子供とシャコモンだけだ。私や他のデジモン達は中国語が出来ない」
「えぇ、メラモンの言うとおり、中国語は私は出来ないわ」
「ワテもや」
メラモンの言葉に続くようにエンジェウーモンとアトラーカブテリモン(赤)も同意し、その場に居る全員が如何したらいいのかと頭を悩ます。
近づけば確実に軍からの攻撃が飛んで来る。かと言って、この場に留まればデジモン達が暴走。
如何すればいいのかと全員が頭を悩ませていると、何かを思いついたようにホイ三兄弟の長男がシャコモンに声を掛け、シャコモンは全員に説明を始める。
「なぁなぁ、良い事思いついたらしいぜ・・・あのな」
シャコモンはそう言うと共に長男が考えた策を説明し始め、全員がその策に同意し、シャコモンはオクタモンに進化して平らな岩の方へと移動して行く。
軍人達がオクタモンの突然の行動に首を傾げながら、オクタモンを見つめていると、オクタモンは突如として持っていた銃の引き金を引いて、岩に何らかの文字を墨で書いて行く。
「
海鳴墨銃ッ!!」
ーーーニーハオ
『ッ!!中国語!あの生物は知恵を持っているのか!?』
岩に墨で書かれた文字を双眼鏡で目撃した軍人は驚愕した。
しかし、すぐさま驚愕を抑えて、部下である軍人達に命じて人文字を作るように指示を出してオクタモンとコンタクトを取り始める。
オクタモンは自分達の策が成功したのだと喜びながら、出来るだけ詳しく自分達がやろうとしている事を丁寧に説明して行く。
そして一時間後。漸く中国軍の人々も納得してくれたのか、行く手を阻むようにして並んでいた立ち位置を変化させて、デジモン達の通れる道を作り上げる。
それを確認したメラモンは自身のパートナーであるミーナをアトラーカブテリモン(赤)に預けて、オクタモン、エンジェウーモンと共にデジモン達を先導しながら歩いて行く。
万が一の事を考えて、選ばれし子供の存在を隠す為に処置だった。
デジモン達はメラモン達に先導されながら中国領土内に足を踏み入れ、出来るだけ大人しくしながら軍人達の前を通って行く。
『・・・宜しかったのですか?』
『良いんだ。どのみち我々にはあの生物達を対処する事は出来ない・・・それに戦っていたのは私達だけではなかったのだ』
『はぁ?』
意味深な言葉に男性は疑問の声を上げるが、軍人は答える事無くデジモン達に向かって敬礼を行い、他の軍人達も一斉にデジモン達に向かって敬礼を行う。
それに対してメラモンも敬礼するように手を顔にやると、デジモン達の殿を勤めるように歩き出し、デジモン達をデジタルワールドに戻す為に香港近くを目指すのだった。