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漆黒の竜人となりし者 究極進化
作者:ゼクス   2012/07/16(月) 16:23公開   ID:sJQoKZ.2Fwk
 光子郎の住んでいるマンションへの道程。
 その道を今朝に報道されたニュースを見た太一、ヒカリ、アグモン、テイルモン、そして途中で合流した大輔とチビモンは急いで光子郎が住んでいるマンションに向かって走っていた。
 日本各地でダークタワーが出現しただけではなく、世界中にもデジモンが通る為のゲートが開いている報告が光子郎から届いたのだ。もはや今回の件は数名程度の集まりでは如何する事も出来ないと悟った太一達は、一先ず光子郎の家で今回の事件に対する策を練ろうと当初の予定通りに集まる事を決めたのだ。
 そして太一達が真っ直ぐに前に向かって走っていると、フッと通り過ぎようとした駅の前で突如としてチビモンを抱えていた大輔が立ち止まり、何かを悩むように顔を俯かせる。
 太一、アグモン、ヒカリ、テイルモンはそれに気がつき、立ち止まって大輔に声を掛ける。

「大輔。一体如何したんだ?早く光子郎の家に向かわないと」

「・・・俺、賢のところに行きます」

「何だって?」

「大輔君?」

「・・・テレビの報道で賢の住んでいる場所の近くにもダークタワーが現れたらしいんです・・もしその場所にアルケニモンとマミーモンが現れでもしたら、デジメンタルを持っていない賢が危ない。だから俺!」

「・・・よし、なら俺とアグモンも一緒に行こう」

「お兄ちゃん!」

 太一の突然の発言にヒカリは目を見開きながら声を掛けるが、太一は安心させるようにヒカリの頭を撫でる。

「もし本当に大輔の考えたとおりになったら、大輔とチビモンだけよりも俺とアグモンも居た方が良い。それにダークタワーが在るって事は迷い込んだデジモン達も居る筈だからな・・・だからヒカリ。お前はテイルモンと一緒に先に光子郎の所に行っていてくれ」

「・・・・うん・・・気をつけてね」

「分かってるさ。行くぞ!アグモン!大輔!チビモン!!」

「うん!」

「はい!」

「応ッ!!」

 太一の掛け声にアグモン、大輔、チビモンはそれぞれ応じると、素早く駅内部に入り込んで賢が住んでいる場所から程近い駅の切符を買って電車に乗り込む。
 ヒカリとテイルモンはその様子を不安そうに見ていたが、その場に留まっていても仕方が無いと思い光子郎達に太一達の件を伝える為に走り出すのだった。

 そして電車の中に乗り込んだ太一達は、運行が可能とされている駅から賢の住んでいる場所に一番近い駅を調べ終え、それぞれ空いている席に座る。

「・・・太一さん・・・本当にありがとうございます」

「気にするなって・・・それに本当にお前が考えているような事態になっていたら、本当に危ないからな」

「・・・・もしかして?太一さんは何か本当は心当たりが在るんですか?」

 険しい顔をしている太一に大輔はそう思わず質問してしまった。
 幾ら大輔の考えている事が起きている可能性が高いとは言え、此処で優先すべきなのは光子郎の下に向かって世界中で起きているデジモンの事件への対策を考える事の方が重要。
 にも関わらずに太一は大輔とチビモンと共に行動する事を決めた。
 何か重大な理由が在ると思いながら大輔が真剣な目で太一とその横に座っているアグモンを見つめると、太一は何かを悩むように頬を掻きながら話し始める。

「・・・実はだけどな・・・・何となく何だが今回の事件の形が三年前の事件に似ている気がするんだよ」

「三年前って・・確かヴァンデモンって言うデジモンと太一さん達が戦った事件ですよね?」

「あぁ、最終的にはヴァンデモンはアグモンが進化したウォーグレイモンとガブモンが進化したメタルガルルモンに倒された・・・・だけどなぁ・・・・もしかしたらかも知れないんだが」

「・・・・・そのヴァンデモンが生きてるかもしれないんだよ」

『ッ!!』

 太一の言葉に続くようにアグモンが告げた考えに、大輔とチビモンは目を見開いた。
 三年前にヴァンデモンは多数のデジモン達を引き連れて現実世界へとやって来た。そして当時はまだ選ばれし子供として覚醒していなかったヒカリを葬ろうと動いた事も在る。
 序でに言えば大輔にも多少のヴァンデモンとの因縁が存在している。三年前に当時の最後の選ばれし子供であったヒカリを発見する為に、多数の連れ去られた子供達の中に大輔は入っていたのだ。

「でも!ヴァンデモンって言うデジモンは倒した筈なんでしょう!?」

「確かに俺達はヴァンデモンが進化した究極体のヴェノムヴァンデモンを倒した・・・・だけどアイツは進化する前もエンジェウーモンに倒されていたんだ」

「それじゃ!?」

「うん・・・・生きている可能性も在るんだよ・・・それにアイツならブラックウォーグレイモンの持っている異界って言う世界の知識を欲しがっても可笑しくないんだよ・・・アイツの最終目的は『現実世界とデジタルワールドを完全なる闇の世界に統一し、両世界を統べる王となること』だから」

「目的の達成をより確実性を増す為に、ブラックウォーグレイモンの知識を欲しても可笑しくない奴だ。それにアイツは平然と部下のデジモンを殺す残虐性を持っている」

「・・・・確かにソイツならブラックウォーグレイモンにした非道を平然と出来ても可笑しくないですね」


「本当だぜ」

 太一の考えに大輔とチビモンは神妙な顔をしながら頷いた。
 余りにも太一とアグモンの考えどおりの状況証拠が揃っている。
 確かにヴァンデモンと言うデジモンが真の黒幕の可能性は高い。しかし、幾つかの疑問が残るのも事実。第一に確かにヴァンデモンは三年前に倒された。そしてブラックウォーグレイモンが向かった場所も疑問が残る。
 もし本当にヴァンデモンが生きているとすれば、居る可能性が最も高いのは地球かデジタルワールドのどちらかだろう。だが、ブラックウォーグレイモンが向かったのは完全な異世界。
 その事だけが太一とアグモンの考えを否定する要素になっていた。

「そう言う事だから、俺とアグモンもお前について行く事にしたんだ・・・もし本当に今回の事件の黒幕がヴァンデモンだった場合、俺やアグモンが向かえば何かしらの動きを見せる筈だ」

「ヴァンデモンを最終的に倒したのは僕とガブモンだからね。それにアルケニモンとマミーモンが居たとしたら、大輔とチビモンだけじゃキツイだろう」

「・・・確かにそうですね。太一さんやアグモンが居れば心強いですし」

「沢山デジモンが暴れていた時にも助かるな」

 大輔とチビモンはそう太一とアグモンの考えに納得し、四人はそのまま電車に乗って降りる予定の駅まで待つのだった。





 一方その頃、太一達と分かれたヒカリは光子郎の家に到着して、先に到着していた他のメンバーと一緒に光子郎の話を聞いていた。
 光子郎はヒカリから太一、アグモン、大輔、チビモンが来れない理由に顔を険しくしたが、確かに大輔の考えどおりに賢とワームモンとは連絡が取れていない事を思い、太一達が来れない理由を仕方が無いと思いながら自身のパソコンの画面を全員に見せるように開く。

「皆さん、このパソコンに映っている映像は世界中で開いているゲートの所在地を表しています」

「・・・・えぇぇぇーーー!!ちょっと待って下さいよ!コレって!?」

「日本だけじゃなくて、世界中にデジタルワールドのゲートが開いていると言う事か?」

 光子郎が示したパソコンの画面を見た京は驚愕に満ちた声を上げ、ヤマトは現状に対して険しく顔を歪めざるをえなかった。
 何せパソコンの画面に映し出されている世界地図には、日本だけではなく世界中にデジタルワールドに繋がるゲートが開いている事を示している。
 日本だけでも大変なのに、世界中となれば向かう手段が無い光子郎達では如何する事も出来ない。
 何とか行く方法は無いのかとヤマトが考えていると、一つの方法を思いついて提案してみる。
 
「デジタルワールドから行く事は出来ないか?」

「無理だよ、兄さん」

「私達が開けるゲートは一エリアで一つだけなんです。他の場所のゲートを開くとしたら、他のエリアに向かわないと」

「それだと間に合わないと言う事か。クソッ!」

 タケルとヒカリの説明にヤマトは現状の悪さに悪態をつかざるをえなかった。
 何せゲートが開いていると言う事はデジモン達が現れると言う事である。一つの国でデジモンを戻している間に、他の国でデジモン達が暴れたら人々に被害が出てしまう。
 一体如何したらこの現状を打破出来るのかと全員が考え込んでいると、光子郎のパソコンにメールが次々と届き始める。

ーーーピコン!

「ハッ!!」

ーーーカタカタカタッ!!

「良かった!皆さん!この状況をもしかしたら打破出来るかもしれない希望が届きましたよ!」

『えっ!?』

 光子郎の突然の発言にヤマト達が疑問の声を上げながら顔を向けると、光子郎は自信に満ちた顔をしてパソコンを操作しながら説明を始める。

「“世界中の選ばれし子供達”が動き始めたんです!それにもうすぐこの状況を打破出来る方法を持った人が来てくれます!」

 そう光子郎はヤマト達に向かって簡単に説明しながらパソコンを操作し、その場に居る全員が困惑しながらも光子郎の言う人物が来るまで静かに待つのだった。





 賢が住んでいる場所。
 その場所は今、ダークタワーから現れた頭に角が二本生えたトリケラトプスの様な姿をした二足歩行のデジモン-完全体に分類されるトリケラモンから逃げ惑う人々で溢れていた。

トリケラモン、世代/完全体、属性/データ種、種族/角竜型、必殺技/トライホーンアタック
草食の恐竜系では1、2を争う攻撃力の持ち主の角竜型デジモン。表皮の強靭さも生物系トップクラス。戦闘スタイルは相手に突進しながら超硬度の角で串刺しにするというもので、この攻撃を受けると、鉱物系のデジモンでさえコナゴナになってしまうといわれている。しかし性格はとても優しく、よほどのことがないかぎり自ら戦闘を仕掛ける事はない。必殺技の『トライホーンアタック』は、額の二本角と鼻先の角で相手に向かって突進攻撃する技だ。

 トリケラモン自身は突然にやって来てしまった現実世界に興奮しているだけなのだが、生憎とトリケラモンは十メートル以上の大きさを巨体である。それ故に興奮しているだけでも充分に凶悪に変わってしまうのだ。
 そしてその様子を路地裏の影から見ていたワームモンと賢は、トリケラモンの暴走を止めなければいけないと思い、賢はD-3を右手に持ちながらワームモンに声を掛ける。

「ワームモン・・どうだい?」

「・・・う〜ん!・・・ゴメン賢ちゃん・・・やっぱり進化出来ないよ」

「・・・と言う事は!」

 ワームモンの様子に賢は険しい顔をしながら視線の感じられる方向に顔を向ける。
 その先には余裕そうな笑みを浮かべたアルケニモンとマミーモンが屋上の端の方に腰掛けて、賢とワームモンを見つめていた。

「やっぱり生きていたんだ!」

「あいつ等が居るから進化出来ないんだよ!」

 生きているアルケニモンとマミーモンを見つけた賢とワームモンは自分達の考えが間違っていなかった事を確信して思わず声を荒げてしまった。
 可能性としては充分に考えられていた事だが、アルケニモンとマミーモンが現実世界にダークタワーを撒き散らした犯人だったのだ。
 今すぐにアルケニモンとマミーモンを止めなければいけないと賢とワームモンは思って、アルケニモンとマミーモンが居る方へと走り出す。
 その様子を横目で見ていたアルケニモンは余裕そうな笑みを浮かべ、マミーモンは愉快そうに暴れ回っているトリケラモンに向かって叫ぶ。

「良いぞ!良いぞ!トリケラモン!」

「アンタが何を言っても無駄だよ。アイツはダークタワーデジモンじゃなくて、デジタルワールドから現実世界に急にやって来て興奮しているだけの迷いデジモンなんだからね・・・それよりもあの小僧に死なれたら不味いのを忘れたのかい、マミーモン?」

「アッ!そういやそうだったな!」

「まぁ、その心配は無いんだけどね」

「えっ?」

「見な。お仲間のご到着だよ」

 アルケニモンはそう言いながら自身の視線の先を指差し、マミーモンがそちらの方に目を向けると、大輔を背に乗せたライドラモンが道路を素早く駆けていた。
 ライドラモンはその速さを維持したままダークタワーに向かって飛び掛かり、自身の頭部のツノをダークタワーに向かって振り下ろし、ダークタワーを雷の刃で切り裂く。

「ライトニングブレーード!!」

ーーーブザン!!

ーーーバリィィィィィーーン!!

「賢!無事か!」

「ワームモンも!」

 ダークタワーを破壊すると同時にライドラモンは賢とワームモンの下に走り出す。
 その声を聞いた賢とワームモンは顔を向け、喜びに満ちた笑みを心の底から思わず浮かべる。

「大輔!」

「ライドラモン!」

「無事で良かったぜ!」

「あぁ・・・それよりも二人とも!あそこを見てくれ!」

『えっ!?・・・ッ!!』

 賢が叫びながら指差した方に大輔とライドラモンが揃って目を向け、驚愕に目を見開いた。
 二人の視線の先には無事な姿で確かに生きているアルケニモンとマミーモンがマンションの屋上の端に腰掛けていた。
 その事に対して大輔とライドラモンが思わず動きを止めた瞬間、大輔達の背後から猛スピードでトリケラモンが走って来る。

「グガアァァァァァァァァァーーーー!!」

『ッ!!』

 聞こえて来たトリケラモンの咆哮に慌てて大輔達は身構えながら顔を向けるが、既に時遅くトリケラモンは大輔達を射程圏内に納めていた。
 そのままトリケラモンの突進が大輔達に直撃すると思われた瞬間、トリケラモンの走っていた道の横道からトリケラモンと同じ大きさぐらいの恐竜-グレイモンが現れ、トリケラモンと横合いから体当たりを食らわす。

「ウオオォォォォォォォーーー!!」

ーーードガッ!!

「グガッ!!」

 横からの奇襲をトリケラモンは自身も突進していた事もあって避ける事が出来ず、そのままビルの外壁に直撃した。
 グレイモンはそれを確認すると、大輔達を護るように立ちながら油断なくトリケラモンが直撃したビルの外壁を見つめる。それを目撃した賢はグレイモンの姿に驚愕する。

「グレイモン!それじゃ!?」

「無事か!二人とも!」

「太一さん!」

 聞こえて来た声に賢が顔を向けてみると、賢達の下へと走って来る太一の姿が存在していた。

「無事で良かった」

「えぇ、危ないところを助けて貰ってありがとうございます」

「気にすんなって・・・それよりもパソコンを持っているか?」

「はい、家から出る時にノートパソコンを」

 太一の質問の意味が分かった賢は服の中に隠していたノートパソコンを取り出した。
 それを確認した太一は頷き、大輔に目を向けると、大輔は自身のD-3を取り出してパソコンに向けようとする。
 しかし、その直前にビルの外壁に埋もれていたトリケラモンが立ち上がり、グレイモンに怒りと興奮に満ちた目を向ける。

「グガアァァァァァァァァァーーーー!!」

「クッ!!もう起きたのか!」

「相手は完全体だ。幾ら太一さんのグレイモンでもキツイ」

 咆哮を上げてグレイモンを威嚇しているトリケラモンを目にした大輔と賢はそれぞれ叫び、自身のパートナーであるワームモンとライドラモンから元に戻ったブイモンに目を向ける。

「ブイモン!行くぜ!」

「ワームモンも!」

「応ッ!!」

「うん!!」

 大輔と賢の叫びにブイモンとワームモンはそれぞれ応じると二人が手に持っていたD-3が光り輝き、ブイモンとワームモンは進化する。

「ブイモン進化!!エクスブイモン!!」

「ワームモン進化!!スティングモン!!」

『ジョグレス進化!!』

 成熟期への進化を終えると同時にエクスブイモンとスティングモンは光へと変わり、交わるように一箇所へと集まって光が満ち溢れる。
 そして光が消えた後には竜と昆虫が合わさった容姿をして、腰の部分に二本の砲門を備えた竜人型デジモン-パイルドラモンが立っていた。

「パイルドラモン!!」

「パイルドラモン!!グレイモンと一緒にトリケラモンを押さえるんだ!」

「分かった!任せてくれ!」

 大輔の言葉にパイルドラモンは即座に応じ、グレイモンと力比べを始めたトリケラモンに向かって飛び掛かる。

「オオオォォォォォーーー!!!」

「グガッ!!」

ーーーブン!ーードガ!!

『グアッ!!』

 突撃して来たパイルドラモンに対してトリケラモンは力を一気に解放して、グレイモンを投げ飛ばすと同時にパイルドラモンに向かって叩きつけた。
 その一撃にグレイモンとパイルドラモンは苦痛の声を上げながらビルに叩きつけられた。
 トリケラモンはそれでは済まさないと言うように苦痛に呻いているパイルドラモンとグレイモンに向かって頭部に生えている三本の角を構えて、全速力で突進する。

「トライホーーンアタック!!」

「不味い!!メガフレイム!!」

 凄まじい速さで突進して来るトリケラモンに気がついたグレイモンは、慌てて口からメガフレイムを撃ち出した。
 メガフレイムはそのままトリケラモンに直撃するが、トリケラモンはダメージを受けていないのか、パイルドラモンとグレイモンに向かって突進し続ける。
 パイルドラモンはそれに気がつくと、急いで両手をトリケラモンに向かって伸ばし、ワイヤーと共に爪を撃ち出す。

「エスグリーーマ!!」

ーーーーガシイィィィィィーーーン!!

「グガッ!!」

 体に巻き付いて来たワイヤーにトリケラモンは驚いて思わず足を止めてしまう。
 その隙を逃さずにパイルドラモンはワイヤーを伝って電流をトリケラモンに流す。

「エレメンタルボルト!!!」

ーーービリビリビリビリビリッ!!

「グガァァァァァァァァーーーー!!・・・・・グゥッ!」

「何!?」

 エレメンタルボルトを食らいながらも力強い瞳をしているトリケラモンに気がついたパイルドラモンは、声を上げてしまった。
 しかし、トリケラモンは構わずに自身に巻きついているワイヤーを握り締めて、パイルドラモンをビルに叩きつける。

「グガアアァァァァッ!!」

ーーーブン!

「ウワァァァァァァァァーーーー!!」

ーーードオオオォン!!

「グゥッ!・・・このデジモン強い」

 ビルに勢いよく叩きつけられたパイルドラモンは、自身が相手をしているトリケラモンの強さに声を出してしまった。
 グレイモンのメガフレイムだけではなく、パイルドラモンのエレメンタルボルトを受けてもトリケラモンはまだ動いている。
 流石は完全体と言うべきなのだが、パイルドラモン自身にも実は問題が在った。今までパイルドラモンが倒して来た敵は意思や命が無いダークタワーデジモン。グレイモンと違ってデジモンの命を奪った事が無いパイルドラモンは、無意識の内にトリケラモンに対する攻撃を弱めてしまっているのだ。
 予想外の強敵の出現に大輔は焦りを覚えて、自身の横に立っている太一に向かって叫ぶ。

「太一さん!この前のようにグレイモンを究極体のウォーグレイモンに!?」

「駄目だ・・ホーリーストーンから貰った力はもう俺のデジヴァイスには宿っていない」

 大輔の言葉に悔しげに太一は自身のデジヴァイスを握りながら答えた。
 前回のウォーグレイモンへの進化は、あくまでホーリーストーンが太一とグレイモンに力を貸してくれたおかげでしかない。その証拠に幾ら太一が望んでも、グレイモンは完全体の形態である『メタルグレイモン』への進化が出来なかった。完全体への進化が無理なのだから、ワープ進化に寄る究極体の『ウォーグレイモン』への進化は尚更に不可能だった。
 故にグレイモンでも完全体であり、実力者であるトリケラモンの相手は流石に難しいのか、二体がかりでもトリケラモンの動きを止める決定打を作り出す事が出来ずに、徐々に体力を失って行くのだった。





 一方、現状を打破する可能性を持った来る人物を待っていた光子郎達は、漸くその人物からのメールがパソコンに届いていた。

ーーーピコン!

「よし!これで開く事が出来る!」

「・・・一体誰なんですか?この状況を打破出来る人って?」

「この前のブラックウォーグレイモンの戦いの時に、僕と太一さんがデジタルワールドに行くのに協力してくれた人ですよ」

 何かの作業を始めた光子郎の背に京はそう質問するが、光子郎は答えながらパソコンの作業に集中する。
 その様子に全員が一体誰なのかと顔を見合わせると、突如として光子郎は椅子から立ち上がり顔を向ける。

「皆さん、少し其処を開けて貰って良いですか?」

 その質問にヒカリ達は疑問を覚えながら動き、人一人が入れるだけのスペースを作り出す。
 光子郎はそれを確認すると、パソコンのキーボードに手を伸ばしてエンターキーを力強く押す。

ーーーピカァァァーーン!!

『ッ!!』

 光子郎がスイッチを押すと同時にパソコンの画面が光り輝いた。
 その光景に誰もが目を見開きながら驚いていると、開いているスペースの場所に大人の男性と思われるフードで顔を覆い、手に白く丸い宝石のような物を持った人物が現れる。
 その人物が誰なのかと疑問の視線を光子郎に誰もが向けると、光子郎は件の人物を手で示しながら説明する。

「彼はゲンナイさんの仲間の人物です」

「ゲンナイさんだって!?」

 懐かしき名前にヤマトは声を上げ、タケル、ヒカリ、ジュン、空などの1999年の選らばれし子供だったメンバーは嬉しそうに顔を綻ばせた。
 ゲンナイとは三年前の時にヤマト達がデジタルワールドに訪れた時に世話になった人物なのだ。
 その事は京と伊織も知っているのか、確かにゲンナイの仲間ならばと思って件の人物に顔を向けると、男性は右手でフードを取り払いながら素顔を晒して自身の名を名乗る。

「始めまして選ばれし子供達。私の名前はベンジャミン。ゲンナイの代わりに君達にチンロンモンからの贈り物を届けに来た」

『チンロンモン!?』

 ベンジャミンの言葉にヒカリ、タケル、パタモン、テイルモン、京、伊織、ポロモン、そして体の両側から耳のようなエラを生やしたデジモン-ウパモンは声を上げてしまった。

ウパモン、世代/幼年期U、属性/なし、種族/両生類型、必殺技/ショックシャウト
体の両側から耳のようなエラを生やした両生類型デジモン。陸上・水中のどちらにも適応出来る順応性を持っているが、基本は陸上で生活している。必殺技は、超高音の鳴き声で相手を威嚇する『ショックシャウト』だ。

 ベンジャミンはその様子に無言で真剣な顔をしながら頷き、手に持っていた白く丸い宝石のような物を示す。
 その不可思議な宝石のような物にその場に居る全員が思わず魅入られてしまい、テイルモンは代表するようにベンジャミンに質問する。

「それは一体?」

「これはチンロンモンが持っている十二個の電脳核デジコアの一つだ。今回の事態に対抗する為に、君達に届けるようにチンロンモンからゲンナイに頼まれたんだ」

「アレ?でも持って来たのはベンジャミンさんですよね?」

「あぁ・・・ゲンナイは今、別の用件を片付けに向かっている。其方の方も出来るだけ早く片付けなければいけない用件なのでね・・・・さて、時間が無いので手早く済ませるぞ。受け取ってくれ。チンロンモンからの贈り物だ」

ーーーピカアァァァァァン!!

 ベンジャミンが電脳核デジコアを掲げると共に、電脳核デジコアは強く光り輝き、テイルモン達の体に温かい力が流れ込んで来る。

「・・・何だろう?この光は、何処か安らぎを感じるわ」

「ポロモン進化!!ホークモン!!」

「ウパモン進化!!アルマジモン!!」

「嘘!?」

「如何して急に進化が!?」

 自分達のパートナーの突然の進化に京と伊織はそれぞれ疑問に満ちた声を上げるが、電脳核デジコアは構わずに更に光を強く発して二つの光が何処へとも無く飛んで行く。

「・・・あの光は一体何処に?」

「・・・チンロンモンは言っていた。一つはパイルドラモンの下に。そしてもう一つの光は『勇気ある者』の下へと」

「『勇気ある者』・・・・それってもしかして!?」

 ヒカリはベンジャミンの言葉に思い浮かぶ二人の姿が脳裏に過ぎり、ベンジャミンに質問するように顔を向けると、ベンジャミンは無言で頷くのだった。





「グアッ!!」

「パイルドラモン!!」

 トリケラモンにビルに叩きつけられたパイルドラモンを目撃した大輔は、心配するように名を叫んだ。
 その声にパイルドラモンは立ち上がろうとするが、そうはさせないとトリケラモンは頭部の三本の角を構えて突進しようとする。
 それを見たグレイモンは瞬時に背後からトリケラモンを羽交い絞めにするが、トリケラモンの力の前に弾き飛ばされてしまう。

「ガァッ!!」

ーーードオオォン!!

「ウアァッ!!」

「ヘヘヘヘッ!アルケニモンよぉ。如何やら此処に来たのはパイルドラモンとグレイモンだけのようだぜ」

「みたいだね。それにしてもダークタワーデジモンじゃないってだけで、こんなにパイルドラモンの力が落ちるとは思っても見なかったよ」

「お前に操られていた昆虫型デジモン達にも攻撃はあんまりして来なかったな、そう言えば」

「そんな事も在ったね」

 マミーモンの言葉にアルケニモンは気の無い返事で答えた。
 そのアルケニモンの様子にマミーモンは違和感を覚える。目の前に広がっている光景は、幾度と無く自分達に屈辱を味合わせてくれたパイルドラモンの不様な姿。
 本来ならば喜んでも可笑しくない光景なのだが、アルケニモンは全く喜びなどなかった。
 寧ろこのままでは不味いと言うように思わず爪を噛んでしまう。

(全く何て不様な姿なんだい!?このままだと不味いね!あんた等には私らの黒幕を倒して貰わないと困るんだよ!私の安全の為にもね!)

 アルケニモンは大輔達に自分達の黒幕を倒して貰う気だった。
 このまま全てが黒幕の思惑通りに進めば、確実に待っているのは自身とマミーモンの死。
 それから逃れる為には、大輔達に自分達の黒幕を倒して貰う以外に無いとアルケニモンは思っている。
 他に倒せる可能性を持っているブラックウォーグレイモンは、アルケニモンとマミーモンの事も憎んでいるので問題外としか言えなかった。
 頼んだ瞬間に殺されるなどゴメンだと思いながら、トリケラモンと戦っているパイルドラモンとグレイモンを見つめていると、アルケニモンの様子を勘違いしたマミーモンが声を掛けて来る。

「なぁ、此処でパイルドラモンとグレイモンを倒したら如何だ?邪魔者が居ない方が計画は進行し易いからよ」

「・・・・好きにしな・・・(少しは動いてないと怪しまれるからね。マミーモンの行動を隠れ蓑になって貰おうかね)」

「ヘヘヘヘヘッ!!見ていてくれよ!アルケニモン!!」

 アルケニモンの許しを貰ったマミーモンは嬉しそうに笑いながら叫び、屋上から飛び降りる。
 同時に来ていた蒼いコートを脱ぎ去り、自身の真の姿である包帯を全身に巻いて銃を持ったデジモン-マミーモンへと変わってパイルドラモンに向かって包帯を伸ばす。

「ヒャハハハハハハハハハハッ!!スネークバンデージッ!!」

ーーーガシィィィン!!

「グゥッ!!マミーモンか!?」

 背後から伸びて来た包帯に四肢を拘束されたパイルドラモンは叫び、何とか拘束から逃れようと暴れる。
 マミーモンはそうはさせないと右手に握った愛銃であるオベリスクをパイルドラモンの背に構え、銃の引き金を引いて発射する。

「食らいやがれ!!」

ーーービリリリリリッ!!

「グアァァァァァァーーーー!!!」

「パイルドラモン!!」

 オベリスクから発射された閃光を背に受けたパイルドラモンは、苦痛に満ちた叫びを上げた。
 それを目撃したグレイモンはパイルドラモンの救出に向かおうと駆け出すが、その直前にトリケラモンがグレイモンに向かって突進して来る。

「トライホーーンアタック!!」

ーーードゴォン!!

「ガアァァァァァァァァーーーー!!!」

「グレイモン!!」

 トリケラモンの必殺技であるトライホーンアタックをまともに受けてビルに激突したグレイモンを目撃した太一が叫んだ。
 しかし、グレイモンはダメージが深いのか、答える事が出来ずに全身が光に包まれてアグモンへと退化してしまう。
 それを目撃した太一、大輔、賢は状況が不利になった事を悟るが、マミーモンは構わずに拘束したままのパイルドラモンを上空に投げ飛ばして、オベリクスの銃口を太一達に向かって構える。

「ヒャハハハハハハハハハハッ!!これで終わりだぜ!!」

「大輔!!」

「賢!!」

「・・・・太一」

 マミーモンに大輔達が狙われている事に気がついたパイルドラモンと、ビルの瓦礫に背を預けているアグモンはそれぞれパートナーの名を呼ぶが、マミーモンは気にせずにオベリスクの引き金に指をかける。
 そのままオベリクスの銃口から閃光を発射しようとするが、その直前に空から二つの光が降り注ぎ、一つはパイルドラモンに、もう一つはアグモンへと降り注ぐ。

ーーーピカァァァァン!!

「な、何だ!?こりゃ!?」

 突然の事態にマミーモンは驚愕と困惑に満ち溢れた声を出しながら光を見ていると、光を浴びたパイルドラモンとアグモンが進化を開始する。

「パイルドラモン!!究極進化!!インペリアルドラモン!!」

「アグモン!!ワープ進化!!ウォーグレイモン!!」

『なっ!?』

 同時に響いたパイルドラモンとアグモンの叫びに、マミーモンだけではなく太一達も驚愕に満ちた叫びを上げた。
 しかし、アルケニモンだけは何処と無く口元を綻ばせながら、パイルドラモンの居た場所から現れた全長数十メートルほどの大きさを持った四足歩行の巨大な古代竜型デジモン-インペリアルドラモン・ドラゴンモードと、アグモンが居た場所に現れた黄金の竜人-ウォーグレイモンを見つめるのだった。


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