地球で中国、インドの問題が解決した頃。
ピエモンとの邂逅を終えたブラックとゲンナイは一先ず浜辺付近に降りて、地球に居るゲンナイの仲間から届く情報も考慮して今後の行動について話し合っていた。
究極体であり、嘗てデジタルワールドを変貌させたピエモンと言う強敵の復活。
更に七大魔王の一体である憤怒のデーモンとその配下の暗黒デジモン達の地球への襲撃が間近に迫っている。
それだけではなく、ブラックウォーグレイモンからの情報で選ばれし子供達のデジモンの半分以上が戦闘不能に陥ってしまうことも明らかになった。
早急に対策を取らなければならないと、ゲンナイは少しでも現状を良くしようとする為に対抗策を模索する。
「君の話に在ったアグモン立ちの不調についてだが、やはりアグモン達の不調は環境が原因なのは間違い無いだろう・・・基本的にアグモン達はデジタルワールドを護らねばならないから、現実世界にアグモン達が長期に滞在したのは二年前の時だけ・・まさか、ピエモンまでも復活して攻めて来るとは」
「ピエモンに関しては俺も知らんことだ。どうやらこの世界は確実に俺の知る世界の流れとは異なる流れに進みだしたようだな」
「・・・・私としては喜んで良いのか、悩んで良いのか悩むところだがね」
ゲンナイとしては複雑な心境だった。
ブラックウォーグレイモンの持つ知識と世界の流れが変わってきているとすれば、この世界は完全に独立した流れに進むと言う事になる。自らが確固とした世界に居ると言うのはゲンナイとしては嬉しいが、逆にブラックウォーグレイモンの持つ知識を超える現象が起きると言う事にも繋がる。
それが自分達にとって好転する事柄ならば喜べるが、逆に逆境に追い込まれる可能性も出ている。
何せ既にピエモンと言う予想を遥かに超える強敵に復活と言う現象まで起きているのだから、尚更に今後は注意して動かなければならない。
その事を理解しているゲンナイは少しでも状況を好転させようと、地球に居る仲間達から送られて来る情報を整理しながらブラックウォーグレイモンに尋ねる。
「ブラックウォーグレイモン・・・・君にとっては尋ねられるのは不愉快かもしれないが・・・デーモン達の目的は『一乗寺賢の体内に存在する暗黒の種』で間違いないのか?」
「・・・・その通りだ。正確に言えば、俺が狙っている奴も同じ物を狙っている・・・そうだ。思い出したぞ。奴らは確か子供達に手を出させないようにする為に沢山の子供を連れていた。その子供達に『暗黒の種』を植え付けてデジタルワールドへのゲートを開かせる作戦だったはずだ」
「なるほど・・・・だとすれば、私達が向かうべき場所は…」
「日本の東京だ。奴らは其処で動いている」
ブラックウォーグレイモンとゲンナイは自分達が向かうべき場所を悟った。
そもそもブラックウォーグレイモンの怨敵とその配下であるアルケニモン、マミーモンが世界中にダークタワーを出現させたのは、日本から選ばれし子供達を引き離すのが目的。ならば、地球の日本、特に東京近辺を探せば、必ずアルケニモンかマミーモンのどちらかを見つける事は出来る。更に言えば憎んでも憎み足りないほど怨敵の気配をブラックウォーグレイモンが見逃す筈が無い。
だが、ブラックウォーグレイモンとゲンナイには一つの不安点が存在していた。
「・・・ゲンナイ・・・今のところ地球の方は順調なのか?」
「あぁ・・・順調だ。だが、どうにも順調過ぎる様な気がする。これが何も知らない状況ならば喜ぶべきところなのだが」
「俺が未来の知識を持っていることは連中も知っているはず・・・とすれば、何らかの変化が起きない方が不自然だ」
アルケニモン達側はブラックウォーグレイモンが未来の知識を持っていることを知っている。
となれば、必ずやブラックウォーグレイモンの知識と現在の状況に何らかのズレが生じるはずなのだ。しかし、現在の地球で起きている出来事はブラックウォーグレイモンの知識の通りに進んでいる。
デーモン側にはピエモンと言う変化が現れたのにも関わらず。
(・・俺の知識も考慮して今の作戦を実行したのか?・・或いは俺を日本に誘き寄せる罠か・・)
地球にダークタワーを大量に出現させる作戦は、かなり前から準備されていた作戦。
この世界の知識を持っているブラックウォーグレイモンでも何時から地球中にダークタワーの準備がされていたのかは分からない。だが、もしもブラックウォーグレイモンの故郷である“異界”に怨敵が干渉したのが、地球にダークタワーを出現させる作戦を決めた後だとすれば、相手側はブラックウォーグレイモンに策が読まれてしまうことを理解しているはず。
幾つかの推測がブラックウォーグレイモンの脳裏に過ぎり、最終的に決めた意見をゲンナイに告げる。
「ゲンナイ・・・地球に居る貴様の仲間達の誰でも良い。現在地球に存在しているダークタワーが全て破壊し終わったら報告を送るように伝えろ」
「では、私達が地球に向かうのは最後のダークタワーの後で良いんだな?」
「あぁ、そうだ・・・どうにも嫌な予感がする。この体の本能なのか理由は分からんが・・・漠然とだが“動くな”と言っている。俺自身も同意見だ。デーモンの動きに変化が在った時点で、奴らにも俺の知識とは違う行動を行う可能性が増えた。ならば、それを見極めてから地球に向かう」
「分かった・・・しかし、随分と冷静だ。君ならば、即座に奴らを殺しに向かうと思ったが」
「フン・・・・奴らを殺す事は決めている・・・だが、油断だけは絶対にしてはならん相手だ・・・何せ、俺の知識では・・・奴は本来のブラックウォーグレイモンを一撃で倒した。インペリアルドラモンとウォーグレイモンの二体と互角以上に戦っても倒せなかった、本来のブラックウォーグレイモンをな」
「なっ!?・・インペリアルドラモンとウォーグレイモンの二体を相手にした本来のブラックウォーグレイモンを一撃で倒しただと!?」
告げられた事実にゲンナイは驚愕を隠し切れなかった。
幾多の激闘を乗り越えて来たウォーグレイモンと四聖獣の一体であるチンロンモンから力を与えられたインペリアルドラモンの二体と互角以上に戦った本来のブラックウォーグレイモン。
そのブラックウォーグレイモンを一撃で倒したのだとすれば、ブラックウォーグレイモンが追っている怨敵の力はゲンナイの予想を遥かに超えている。
「今の俺の実力は本来のブラックウォーグレイモンには及ばん。本来のブラックウォーグレイモンは俺と違い、他の多くの世界を渡り歩いていた。それだけ戦いも経験し実力も上がっていた」
世界を渡り歩いた本来のブラックウォーグレイモンと違い、ブラックウォーグレイモンは直接怨敵が居るはずだった世界に向かった後、すぐさまデジタルワールドに戻って来た。その為に現在のブラックウォーグレイモンの実力は本来のブラックウォーグレイモンをよりも下に位置している。
それでもかなりの実力だが、ブラックウォーグレイモンは怨敵の事を過小評価する気は無かった。
「無論、今の奴には本来のブラックウォーグレイモンを倒した時の力は無いだろう・・だが、気に入らんが奴は俺以上にこの体の事を知っている」
「なるほど・・・君と奴は相性が悪いと言う事か」
「あぁ・・・罷り間違って再び奴の意思の欠片でも入れられたりすれば、俺の目的が果たせんどころか・・奴の良いように動かされる」
それはブラックウォーグレイモンにとって絶対に我慢ならない最悪の未来。
好き勝手に利用されただけでも赦す事が出来ないというのに、この上、更に利用されるなどブラックウォーグレイモンにとっては死んでも我慢が出来ない。故にブラックウォーグレイモンは現在は情報収集に専念する方針で動くつもりだった。
無論、全ての元凶である怨敵を抹殺すると言う方針を変えるつもりは無い。確実に出会ったらこの世にいたと言う痕跡を一切残さずに消滅させる。
何に於いても、誰に邪魔をされてもブラックウォーグレイモンは怨敵を殺すつもりだった。
ゲンナイはブラックウォーグレイモンの放つ雰囲気からそれを感じるが、少なくとも今だけはブラックウォーグレイモンが味方に近い形で動いてくれる事実に安堵する。
(此処でブラックウォーグレイモンが四つ目の勢力として動けば、状況は更に混迷になる・・・少なくとも今は味方として動いてくれる事実を喜ぶべきだ。それにブラックウォーグレイモンの方針も間違ってはいない。恐らくアルケニモン達の方はブラックウォーグレイモンが帰還している事実は知らない筈だ。ならば、今は状況を利用すべきだな)
敵側がどのような策で動くのかを知るためにも、今は確かに情報を集めることに専念すべき。
ゲンナイはそう考えて地球にいる仲間達に連絡を行い出す。その横でブラックウォーグレイモンはいずれ戦うことになるデーモンとピエモンに対する策と、自らの怨敵に対する有効な動きを模索するのだった。
その頃、各地のダークタワーの在る場所にそれぞれのメンバーを送り届け終えたインペリアルドラモンは、大輔、賢、ヤマト、ガブモン、そしてベンジャミンを乗せてアメリカに辿り着いていた。
そしてとある海岸に辿り着き、インペリアルドラモンは進化を解いてブイモンとワームモンへと退化する。
ーーーシュウゥン!!
「アレ!?何で俺、成長期に?」
「ボクもだ・・何でだろう?」
進化を解いたブイモンとワームモンは自身の状態に少なからず驚いた。
地球ではブイモンとワームモンは幼年期の形態に退化してしまっていた。しかし、今は成長期のままでいる事が出来る。
その事にブイモンとワームモンが困惑して顔を見合わせていると、大輔が自身の推測したことを話す。
「多分、チンロンモンの力を手に入れて究極体に進化出来るようになったからだろうぜ」
「ホークモンもアルマジモンも成長期で居られるようになっていたから、多分そうだよ」
「そうか・・でも、これで一々進化せずに済むなワームモン」
「そうだね、ブイモン。僕達は何時も成長期に進化しないといけなかったからね」
互いにブイモンとワームモンは、これから成長期で居られる事実を喜んだ。
その様子に大輔達が笑みを浮かべていると、ベンジャミンがこれからの予定を全員に説明する。
「では、これからの事を話す。先ずは賢、ワームモン、ヤマト、ガブモンは空港についたらメキシコに向かってくれ。その場所にも私の仲間が居る。合流してダークタワーを破壊し、その後にデジモン達の帰還を頼む」
「おう」
「任せて!」
「必ずデジモン達は戻します」
「僕らに任せて!」
ヤマト、ガブモン、賢、ワームモンはそれぞれベンジャミンの指示に頷く。
ベンジャミンはそれを確認すると、次に大輔とブイモンに顔を向けて自分達の行動を話す。
「大輔とブイモンは私と一緒に空港からニューヨークに向かってくれ。既に空港には迎えが来ているはずだ?」
「迎えって?」
「君達の知っている人物だ。とにかく急ごう」
ベンジャミンはそう告げると、空港が在る方へと走り出し、大輔達もベンジャミンの後を追って走り出す。
そのままベンジャミン達は空港へと辿り着き、賢、ヤマト、ワームモン、ガブモンと一先ず分かれて、事前に待機されていた一機の飛行機の方へとベンジャミンは向かい、大輔とブイモンもそれに付いて行くと懐かしい顔が大輔とブイモンを向かえる。
「やぁ!大輔!」
「久しぶり!」
「マイケル!!それに!」
「ベタモンも!!」
飛行機の中で迎えてくれた金髪の少年-マイケル-と、そのパートナーデジモンの緑色の身体と背中の大きな赤いヒレを持った四足歩行の両性類型デジモン-ベタモン-の姿に大輔とブイモンは驚きと喜びが混じった声で叫んだ。
ベタモン、世代/成長期、属性/ウィルス種、種族/両性類型、必殺技/電撃ビリリン
四足歩行の両生類型デジモン。性格は基本的に温厚で、大人しいデジモンだが、ひとたびベタモンを怒らせると体から100万ボルト以上の電流を放ち、外敵を攻撃する面も在る成長期デジモン。必殺技は相手に100万ボルトの電流を放つ『電撃ビリリン』だ。マイケルのパートナーデジモン
「本当に久しぶりだな!」
「あぁ、こうして現実世界で会えるのを待っていたよ」
大輔の言葉にマイケルも頷き、二人は本当に久しぶりの再会を喜び合う。
マイケルとベタモンは以前デジタルワールドで大輔達と出会っていた。その時に襲い掛かって来た脅威も共に乗り越えた事で大輔達とマイケルは友になっている。
故に大輔、マイケル、ブイモン、ベタモンは再会を喜び合うが、状況がそれを赦してはくれなかった。
「大輔。君が来てくれた事は本当に助かるよ。他のアメリカの選ばれし子供達もデジモンの暴走を止める為に動いてはいてくれているんだけど」
「デジタルワールドへのゲートが開けられないんだろう?」
「あぁ・・・そのせいで帰られないことに不満を持っているデジモン達が苛立ちを募らせている・・だから、君の助けは本当に助かるよ」
「それでマイケル・・・デジモン達は何処に集合させる予定なんだい?」
「アメリカの象徴。『自由の女神』です、ベンジャミンさん。あそこなら海も近いから、泳がないと辿り着けないデジモン達も集められます」
「よし!!だったら、すぐに向かおうぜ!!」
「うん!!父さん!離陸をお願い!!」
「OKッ!!」
マイケルの呼びかけに操縦席に座っていたマイケルに何処と無く似ている男性は頷いて飛行機の発進準備を行いだす。
その様子に大輔は何気なく椅子に座りながら操縦席の方に目を向け、目を見開いた。
「えぇっ!?」
「どうしたんだよ?大輔」
「お、俺!?あの人知ってるぞ!?アメリカのハリウッドスターだ!?」
「僕の父さんだよ」
「えぇぇっ!?嘘だろう!?マイケルのお父さんって、ハリウッドスターだったのかよ!?」
身近のところで凄い人物との繋がりがあった事に、大輔は驚愕が隠せなかった。
知っていたら以前会った時にサインを頼んでおけばよかったと内心で思いながら、大輔達はニューヨークへと向かう。
そして暫らく空の旅をしながらニューヨークへと向かっていると、フッと大輔は一つのことが気に掛かり、横に座っているマイケルに質問する。
「なぁ、マイケル?他のアメリカの選ばれし子供って、お前と同年代の奴らなのか?」
「そう言う子も居るし、知らない子も居るよ。僕は確かにミミさんと知り合いだから沢山の他の子達を知っているけど、全員は流石に知らないんだ」
「そうか・・・そういや、ミミさんは?」
「後から合流するって話だったけど・・・・噂をすればみたいだよ」
「何?」
大輔の質問にマイケルは窓の外を指差し、大輔が窓の外を見てみると、明かりの無いはずの道路に小さな明かりが灯って、飛行機を下ろす滑走路のようになっていた。
その様子にミミが事前に飛行機を着陸させる予定だった場所に来ていることに大輔は笑みを浮かべ、横から覗いていたブイモンも嬉しそうに笑みを浮かべる。
そして飛行機は用意された滑走路へと着陸し、大輔、マイケル、ブイモン、ベタモン、そしてベンジャミンが外に下りてみると、中学生ぐらいの少女-ミミ-と、そのパートナーデジモンの頭にトロピカルな花を咲かせた二足歩行の植物型デジモンーパルモン-が大輔達を迎える。
パルモン、世代/成長期、属性/データ種、種族/植物型、必殺技/ポイズンアイビー
爬虫類的に進化した筈なのだが、外見や特性上から植物型と分類される珍しいタイプの植物型デジモン。昼間は花と葉の様な腕を広げ光合成をしている。普段は地中に根の様な足を埋め、養分を吸っているが、歩行することも可能。頭部の花は、楽しい時や嬉しい時は甘い香りを漂わせ、怒った時や危険を感じた時は大型デジモンも逃げ出すほどの臭い匂いを放出する。必殺技は強烈な毒性を帯びたツタを敵に絡ませて相手を麻痺させる『ポイズンアイビー』だ。
「大輔君!ブイモン!!久しぶりだね!」
「はい!!ミミさん!!」
「パルモンのことを送ってくれてありがとうね・・こんな状況じゃなければ、最高のクリスマスプレゼントだったわ」
大輔達は太一達とアグモン達を再会させたように、ミミのパートナーデジモンであるパルモンもミミの下に送り届けていたのだ。
こんな状況にならなければ、確かに最高のクリスマスプレゼントだったのだが、それでもミミはパルモンを送ってくれた事を大輔に感謝する。ある意味では、大輔達がパルモンをアメリカに送っていたのは正解だっただろう。もしも送っていなければ、ミミは早急に対策を取って動くことが出来なかったのだから。
皮肉としか言えないかも知れないが、大輔達の行動は早急に動けるようになったと言う点では最善の行動だったのだ。
「それでミミ君・・・他の選ばれし子供達から連絡は届いているかい?」
「はい。もう殆どのデジモン達がこっちに向かっているようです」
「アメリカに在ったダークタワーも破壊してあるから、もうデジモン達が来る事は無いわ。後はデジモン達を送り返すだけね」
「そうか・・・となれば、私達は集合地点である自由の女神を目指そう。集合場所に既に辿り着いている者が居るかもしれな…」
「待って下さい!!」
『ん?』
ベンジャミンの言葉を遮るように響いたマイケルの声に、ベンジャミン達が目を向けてみると、携帯を握ったマイケルが届いて来た情報を報告する。
「今、知り合いのマリアって子から連絡が届いたんだけど。一緒に移動して来たデジモンが一体、興奮して暴れだしたらしいんだ」
「何だって!?」
「イルミネーションが付いたクリスマスツリーを見て興奮しているだけだから、本当は問題ないかもしれないんだけど。悪い事に興奮しているのが完全体のデジモンらしいんだ。手を貸して欲しいって連絡が来た」
「完全体か・・・確かに興奮しているとなったら危険だ・・ミミ君。パルモンと一緒に大輔達を連れて援護に向かってくれ。マイケルとベタモンは私と共に自由の女神に急ごう」
『はいッ!!』
ベンジャミンの指示に大輔達はそれぞれ動き出そうとする。
その直前にベンジャミンは、フッと忘れていたと言うように急いで服の中に仕舞っておいたチンロンモンの
電脳核を取り出して、パルモンを呼び止める。
「おっと!!・・・パルモン!!」
「ん?何か用なの?」
「忘れるところだった。君にもチンロンモンから送りモノが在るんだ。君もブイモン達同様にこの
電脳核の光を浴びれば、力を得られる」
「それって!?もしかして!?私も完全体に!?」
「あぁ、進化出来るようになれる。さぁ、受け取ってくれ」
ーーーピカァァァァァァァーーン!!
ベンジャミンが持っていたチンロンモンの
電脳核(デジコア)が光り輝き、その光を浴びたパルモンは全身から力が漲って来るのを感じる。
「力が溢れて来るわ!これなら、完全体にも進化が出来る!」
「良かったわね、パルモン・・・それじゃ、今度こそ急いで向かいましょう!!」
「はい!!」
「応ッ!!」
「うん!!」
ミミの呼びかけに大輔、ブイモン、パルモンはそれぞれ応じて、デジモンが暴れている場所へと急いで向かうのだった。
ニューヨーク市内のとある場所。
その場所にはアメリカの選ばれし子供達の何人かが集まり、クリスマスツリーに備わっていたイルミネーションを見て興奮して暴れている巨木を思わせるようなデジモン-ジュレイモン-の暴走を押さえようと奮闘していた。
ジュレイモン、世代/完全体、属性/ウィルス種、種族/植物型。必殺技/チェリーボム
ウッドモンと言うデジモンが長く生きると進化する植物型デジモン。世界の大概のことは知っていて、“樹海の主”と呼ばれている。性格は見かけによらず凶悪で、森に入ったデジモンに幻覚をみせて、さまよわせてはエネルギーを吸い取ってしまう。必殺技は、頭の部分の木の実を相手に投げつけ爆発させる『チェリーボム』だ。
「ハハハハッ!!ガハハハハハハハハッ!!」
興奮しているジュレイモンは足の根を踏み鳴らして、周りに衝撃波を放ち続けている。
その様子にマイケルと連絡を取り合っていた少女-マリア-は自らのパートナーデジモンである上半身が人型で、下半身が馬を思わせる半獣人型デジモン-『ケンタルモン』-に向かって叫ぶ。
ケンタルモン、世代/成熟期、属性/データ種、種族/半獣人型、必殺技/ハンティングキャノン
上半身が人型、下半身が獣型の半獣半人のデジモン。体の内部から浮き出している硬質の物質で身を守り、右腕は武器と一体化している。さらに背中から突き出たダクトからは超高圧で気体を噴出し、一瞬だが音速に近いスピードで移動することができる。防御力、攻撃力、スピード全てにおいて優れている。必殺技は必殺技は右腕と一体化している銃口かエネルギー弾を放つ『ハンティングキャノン』だ。
「ケンタルモン!!気をつけて!酷く興奮しているみたい!」
「分かっている!!・・・とは言っても、完全体を大人しくさせるのは手間が掛かる」
未だに興奮が冷めずに暴れているジュレイモンに、ケンタルモンは険しい声を出さずには居られなかった。
倒すことならば、今此処に集まっているパートナーデジモン達と他の連れて来たデジモン達の協力が在れば出来る。だが、その行動は確実に他のデジモン達への不審に繋がってしまう。それに加え、今此処に集まっているパートナーデジモンは成熟期までしか居ない。
幾ら相手は興奮して周りが見えていないジュレイモンとは言え、この場に居るデジモン達よりも一世代上の完全体には違いない。
どうすればジュレイモンの目を頭を冷やせるのかと、ケンタルモン達が頭を悩ませていると、ビルの上に登ったジュレイモンが突然に頭に生えていた木の実を手に取り始める。
「ハハハハハハハハハハハッ!!」
「ッ!!不味い!?伏せろ!?」
ジュレイモンがチェリーボムを放とうとしていることに気がついたケンタルモンは叫び、自身のパートナーであるマリアを護ろうとする。
他のパートナーデジモン達も来るであろうジュレイモンのチェリーボムからそれぞれのパートナーを護るために動き、ジュレイモンはゆっくりとチェリーボムを地上に向かって-投げられなかった。
「フラウカノン!!」
「グハッ!!」
ジュレイモンがチェリーボムを投げる直前、空からエネルギー弾が飛んで来て、ジュレイモンに直撃した。
その衝撃にジュレイモンは僅かに苦痛に呻き、エネルギー弾が飛んで来た方に目を向けてみると、背中に葉っぱのような四枚の羽を生やした妖精のようなデジモン-パルモンの完全体の姿であるリリモン-が空を飛んでいた。
リリモン、世代/完全体、属性/データ種、種族/妖精型、必殺技/フラウカノン、花の首飾り
美しく咲いた花弁から生まれた妖精型デジモン。見た目は人間の子供のような姿をしているが、計り知れないパワーを秘めている完全体のデジモンである。気まぐれでお転婆な性格で、同じような気質を持っている人間の少女には心を開くと言われている。背中に生えた4枚の葉状の羽で空を飛ぶことができ、リリモンが飛んだ後は、爽やかな微風が吹くという。必殺技は両腕を前に突き出し、手首の花弁を銃口にして、エネルギー弾を撃ち出す『フラウカノン』と、悪性のウィルスを浄化させる力を宿した首飾りを生み出す『花の首飾り』だ。パルモンが完全体へと進化した姿。
「これ以上!暴れさせないわ!!『花の首飾り』ッ!!」
リリモンは叫ぶと同時に素早くジュレイモンに向かって飛び掛り、花で出来た飾りをジュレイモンの体に巻きつけた。
しかし、ジュレイモンは簡単に自身の体に巻きついている花の飾りを引き千切り、手に持っていたチェリーボムをリリモンに向かって投げつける。
「チェリーーボム!!」
「キャッ!!」
ジュレイモンが投げつけて来たチェリーボムをリリモンは悲鳴を上げながらも避け、そのまま僅かに困惑した瞳をジュレイモンに向ける。
「ど、どうして花の首飾りが効かないの!?」
「リリモン!!相手は悪性のウィルスに感染している訳じゃないのよ!?ただ興奮しているだけなの!!」
リリモンの疑問に地上に居るミミが説明し、横に居る大輔と、既に成熟期への進化を終えているエクスブイモンと共にますます興奮しているジュレイモンに険しい目を向ける。
「ガハハハハハハハハハハハハハッ!!」
「不味いわ。このままだと、木の実を辺りに向かって投げつける」
「だったら!エクスブイモン!!あいつの頭を冷やすんだ!?」
「冷やす?」
大輔の叫びにエクスブイモンは疑問を覚えて辺りを見回し、丁度ジュレイモンが居る場所の真下に噴水が在る事に気が付く。
「・・・・そうか!!分かった!任せてくれ!!」
噴水を見て策を思いついたエクスブイモンは、素早くジュレイモンに向かって飛び立ち、背後から渾身の力を込めた蹴りをジュレイモンに向かって叩きつける。
「ハァッ!!」
背後からの奇襲をジュレイモンは避けることが出来ず、地上へと落下し、その先に在った噴水に頭から突っ込む。
「グガ・・・ガッ・・・」
「これで良いか?大輔」
「ま、まぁ、結果的にジュレイモンの暴走は止まったから・・良いですよね、ミミさん」
「そ、そうね・・・・運ぶのがちょっと大変そうだけど」
隣に降り立ったエクスブイモンの言葉に、大輔とミミは冷や汗を流しながら、噴水に頭を突っ込んだまま気絶しているジュレイモンを見つめるのだった。
こうして一番厄介だったジュレイモンの暴走も止まり、この後集合場所である自由の女神を目指し、アメリカに現れたデジモン達は、デジタルワールドへと帰還したのだった。