17歳ですよ、17歳。青春まっただ中な歳です。ちなみに、西暦でいくと1991年な。
BETA大戦の戦況なのだが、守勢一辺倒だった人類が今や互角どころか、攻勢ぎみな活動をおこなっている。
間引き作戦も部隊の損耗率がここ数年で飛躍的に低下し、前線の兵士の練度は確実に高まってきている。
そのため間引き作戦の性質も、BETAの進行を押さえるためというよりも、将来的なハイヴ攻略を見越した積極的な個体数削減の側面が強くなっている。
そしてここにきて昨年の秋、米国が新型ミサイルと新型爆薬による驚異的な戦果をたたき出した。
その戦果に一部のBETA研究者達から、BETAが対応するのでは、との懸念が出たが幸いBETA側の戦術に大きな変化は見られなかった。
ただ、重光線級が少なくなり、代わりに光線級の数が増えたという報告が各戦線から上がってきているらしい。
まあ、考えて見れば今までも戦術核をさんざん使ってきているにもかかわらずに、それに対応したBETAとかが出てきていないことから、BETAの対応能力にも限界はあるのだろう。
ちなみ合成食材の味改革は大成功だったらしい。
おいしいものを食べればやる気も出るって言う物だ。うむ、やはり胃袋を制する物は世界を制するだな。
おれの近況としては、整備学科では立派な不良生徒として認識されている今日この頃。
まあ、実技と筆記で十分な成績を出しているのと、出席日数をぎりぎりクリアしているので、なんとか進級はできた。
ちなみにまりもは、テストがあるたびにぶっちぎりの成績をたたき出して、教員連中の度肝を抜きまくっている。
これについては、小塚さんに手を回してもらって、卒業後に帝国軍技術廠の実証実戦部隊に引き抜いてもらうことが内定しているから、自重をある程度止めさせた結果だ。
とはいっても、筋力は同世代の平均男性レベルまでしか出させないようにしている。ただ俊敏性は、一流アスリートレベル、スタミナについては人類の限界レベルまでの制約にしている。
おかげで、日本帝国の同世代のもつ陸上競技のかなりの記録をまりもが塗り替えてしまった。
斯衛の介入についてだが、声が掛かったら小塚さんの名前を利用させてもらうことになっている。要するに、まりもに手を出したいのなら、まずは小塚さんに話を通してからにしろ、と言うわけだ。
ちなみにまりもの素の戦術機適正を見せたら、小塚さん目が点になっていた。
まあ通常適正値の20倍だからな。無理もない。
夕呼は平常運転で、帝都大学の気にくわないお偉い教授を敵に回して大暴れしているらしい。なにをやっているんだ、とは思うが、なにせ夕呼だからな…
そこまではまあいいんだが、問題はまりもが受けている衛士育成学科のカリキュラムだ。
まず最初の1年。この間全く戦術機に触る機会なし。ひたすら座学と、基礎体力向上のためのトレーニング、歩兵としての訓練、そして一般教養。
いや、なんで戦術機に触らせないんだよ。歩兵としての訓練が重要なのも分かるが、戦術機の間接思考制御は蓄積した情報がものをいう。
まあ、確かに訓練中の変な癖を戦術機に蓄積させるのはよろしくない、というのもわかるが、その辺りは処理を最適化するなり方法はいくらでもあるしな。
とにかく今は戦術機とかに長時間触って、慣れたもん勝ちだろうが。
なんでも、徴兵された衛士候補の連中はもっとひどいらしい。
まず半年に及ぶ歩兵としての基礎訓練。その後に総合戦闘技術演習という実戦さながらの歩兵としての演習をクリアして、ようやく戦術機の教程へと進めるらしい。
ちなみに総合戦闘技術演習に落ちると、またも半年間の歩兵としての基礎訓練がまっているとか。
なんか、意味が分からん。
なんでわざわざ衛士適正がある人間を選び出して、歩兵として鍛え上げたのに、総合戦闘技術演習に落ちたら半年間のインターバルを置くんだ?
基準値を突破してれば充分だろうに。チームワークが重要だとか訳の分からない理由じゃないよな?そもそも、任官したら別々の部隊に配属されるんだからそんなことが理由だと、優秀なのに周りが駄目なばかりにいつまでたっても衛士になれない人間がでてくる、という訳のわからない事態になりかねないし。
たぶん旧日本軍の体質を引きずっているんじゃないかと予測するんだが、それにしてもひどい。
というわけで、カリキュラムの変更を打診した。
徴兵された衛士候補のカリキュラムはさすがに無理だったが、衛士育成学科のカリキュラムは何とか変更させることに成功。
一日一時間でも最初の年から戦術機に乗れるようになった。まあ、機体の制限とかもあって初年度はシミュレーターだけなんだが、それでもだいぶ違うはずだ。
ちなみにBETAの情報開示も衛士育成学科を卒業して、正式に任官してからという脅威の事実が明らかになった。
ををい、一体何を考えてらっしゃるのでしょうか。
敵を知るのは初歩の初歩でしょうが。
BETAの情報が重要機密?ちょ、おま、最前線では現地の民間人がその重要機密をもろに目撃しているんだが。
教練自体は厳しいんだろうが、何かが致命的にお間抜けだな。
しかたないので、このあたりも衛士育成学科に在学中に学ぶことができるように手配をしておくか。もちろん対BETA戦を主軸に置いた模擬戦を徹底的にさせる。
ちゅーか、おれが手を入れる前のカリキュラム、対人戦が殆どなんだよな。なんちゅーあほな。
つっこみ疲れたおれは、癒しをもとめるために恒例のBETA狩りに出かけることにした。
弱兵相手にヒャッハー、は結構なストレス解消になるのだよ。おまけに経験も入るし良いことずくめだ。
といわけで毎度恒例のBETA狩り。
こちらの装備は、いつもの特殊強化装備と気増幅機関を積んだ戦闘用強化外骨格、武器は重機関銃2丁と、特殊スーパーカーボン製日本刀2本。
重機関銃は12.7mmNATO弾を使用。弾が切れたら、気増幅機関から供給される気弾を打ち出す仕様になっている。
あと、気増幅機関のおかげで、強化外骨格ごとの飛翔が可能になっている。
最高速度はマッハ1.4、ここまで速度を上げると気で強化外骨格ごと周囲を覆っていないと、ソニックブームでひどいことになってしまうので注意が必要だ。
そんなこんなでいつもの狩り場、カシュガルハイヴの中をうろうろしていた。
え?なにそれ怖い、って?
いや、だって外だと人目につくし、監視衛星に見られるとも限らないし。ハイヴ内だとそう言う心配もないし、なによりもBETAに不自由しないから、絶好の狩り場なんだよな。
別に深い意味はなく憂さ晴らしのめに潜ったのだが、どうやら想像以上にストレスが貯まっていたらしく、BETAをいじめるのに夢中になっていつの間にやら最深部まで到達していた。
稼いだ経験から、ここにくるまでにいつもまにやら1万近い数のBETAを狩っているようだ。ちなみに得られる経験について、小型種、大型種では違いはなく、10匹で1の比率は変わらない。
道理で疲れたと思った。まあ、ハイヴ内ではレーザー照射がないので、帰りはひとっ飛びで戻れるのでいいんだけど。
まあ、折角初めて最深部まできたんだ、少々探検していこうか。
大広間というのがふさわしい開けた空間をきょろきょろ見回していると、面白い物を発見した。
通路をふさぐ扉みたいな部分があるんだが、これから気が検知できる。
ようするに、こいつBETAなのだ。
面白いな。壁型?それとも扉型?まあ、とにかく新種のBETAなのは確かだ。
ぺたぺた触っていたが、こいつ、全然反応しないな。面白くないので、とりあえず日本刀でさくっとおれが通れるだけの大きさの穴を開けるとそこをくぐり抜けた。
行き着いた先も広大な広間。
言い忘れていたが、こうやっている間も襲いかかってくる、小型種やら大型種やらをハンティングしている。
穴を開けたちょうど対面に、同じ種類のBETAがいる。
なんだこの構造?減圧室みたいな物か?うーむ、よくわからん。
とはいえ、隠されていると見てみたくなるのが人情だよな。
と言うわけで、さあ、その隠された扉の向こう側を見せてごらん。
ほらほら、怖くないよ〜。
何となく楽しくなってきたな。
と思っていると、後ろからなにやら物が動く気配が。振り返ってみると、さっき穴を開けた扉が徐々に下がっていく。扉、というよりは門だったか。
しばらく見ていると、完全に下がりきった門から、BETAがうぞうぞとこちらに向かってきた。なるほど、侵入者を防ぐためのものだったわけだな。
もし突破されても、もう一枚あるから時間は稼げるというわけね。なるほど。
まあ、おれには関係ないね。
というわけで、もう一つの閉じている門型BETAに向かっていくと、さっきと同じように日本刀をざっくりと差し込んで穴を開けると、さっさとその広間を後にした。
一言いっていいですか?
いや、駄目でも言うぞ。
なんでこんなところにおてぃむてぃむがあるんだよ。
しかもご本尊のごとく広間の中央に鎮座しているんだよ。
なんのギャグだ、これは?
っと、いかん、取り乱した。
門型BETAをくぐり抜けた先に広がった光景に度肝を抜かれてしまったよ、おじさんは。
天井がなく開けた広間、その中心になにやらでかい物体が存在を主張していた。なにやらぼうっと輝きを放っていることから、こいつがなにかの特殊な装置的なものだと思わせる。
気を探ってみると、こいつもBETAの一種らしく、気を持っていたのだが、ほかの有象無象のBETAとはちょっとばかり性質が違う。
存在感がある、とでも言えばいいのか。
で、ふと気づいてしまった。こいつの形、どうみてもでっかいおてぃむてぃむじゃねーか!
最初はなんの冗談かと思って自分の目を疑ったが、どうも幻覚でもなんでもないらしい。
その先っぽに目をこらしてみると、なにやら妙なものがにょろっとでいた。
六つのつぶらな瞳はどこか光線属種のそれを思わせるが、なによりもその位置がねえ。
なんだろう、卑猥なイメージしか浮かんでこない。
なんかさっきまでの気分が著しく萎えたおれは、資料採集だけして返ろうとしたんだが、おてぃむてぃむの先っぽにいる奴の根本から触手みたいな物がにょろにょろと出てきて、おれに迫ってきた。
なんかもう、やだ、こいつら。
あれか、触手プレイでも楽しめってか?
しかもおてぃむてぃむの先端から生えたやつ相手に!
とりあえず情報収集が完了するまでは我慢して付き合ってやるが、それ以上はもう一秒たりともこの場に居たくない。
迫り来る触手を叩き斬りながら、情報収集、うーん、でかいだけあってちょっと時間が掛かるな。
あ、今気づいたけど、先端から生えているやつ、どうも自意識を持っているような感じがする。気の感じがそうなんだよな。ちなみにおてぃむてぃむと先端のやつは一体となっており、気の感じからするに本体は先端のやつっぽい。
うーん、場所的にこいつが反応炉なのか?
だが、反応炉がおてぃむてぃむとは…
BETA、恐ろしい子!
などとやっているうちに、情報収集完了。これでいつでも脳内シミュレーターで再現可能だ。
とはいえ、おてぃむてぃむの再現なんてあんまり気が進まないな…
まあいい。今は一刻もこの場を後にしないと。
これ以上こんな猥褻物どもの相手なんてしていられるか!
そんなこんなで、おれの初めての反応炉との対面は終わった。
帰る途中で、あれを見たらまりもがどう反応するかな、などと呑気に考えながら、おれは最短距離でカシュガルハイヴを脱出して家路についたのだった。