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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史改変の章その13
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2012/07/29(日) 21:56公開   ID:eoF2Dat1HnA
1991年 晩冬 インド戦線

 「相変わらず倒しても倒してもうじゃうじゃと湧いて出てくる奴らだ。CP、第二中隊の奴らが、少し前に出すぎだ、第一、第三との連携をおろそかにするなといっとけ」

 小塚次郎少佐の張りのある声が、CPに待機する竹中大尉の鼓膜を心地よく震わす。

 「CP竹中大尉、了解しました。第二中隊の無能ども、隊長のお声が聞こえたのなら、さっさと連携を取れる位置にまでさがりやがれ、この駄犬が!」

 小塚少佐の命令通りに竹中大尉が第二中隊に向かって指示を飛ばす。なにやら小塚少佐が出した指示と本質的には同じでありながら、ひどく侮辱的な響きがするが気のせいだろうか。

 「あー、Eナイト1より、CP?」

 ちなみにEナイトのEはエンペラー、皇帝である。すなわち日本帝国の皇帝を守護すると言う意味合いのコードネームである。Gナイトという案もあったのだが、斯衛がうるさく言ってきそうだから、という小塚少佐の一言で没になった。
 実際のところ皇帝の方が位が高いのだが、将軍に比べて皇帝は雲の上過ぎて今ひとつなじみがないのが現状の日本帝国民である。

 「なんでしょうか、Eナイト1?」

 「俺、そんな過激な命令だしてないよな?」

 「小塚次郎少佐の意に反して動くような無能な中隊員は、本来なら我らが帝国陸軍大陸派遣第13大隊には存在しません。ですので、やつらの扱いは犬で問題ありません」

 竹中大尉の平然とした回答に、小塚少佐は彼女の機嫌の悪さを見てとった。
 原因は、あれだろう。本来なら今日は休日で、一日デートだったところをBETA襲来でパーになったことだろう。
 小塚次郎少佐、37歳。竹中冷子大尉、29歳。いつのまにやら結婚を前提としたお付き合いを始めていた2人だった。

 「いや、あの、まあ、ほら、あれだ。奴らだって、血気盛んな年頃なんだし」

 小塚少佐がフォローを入れるが、冷徹な表情でそのフォローを却下する竹中大尉。

 「だとしたらなおさらです。BETA戦での敵中孤立がどれほど危険なのかもわきまえない若造ごとき、犬以下です。それを御し得ない中隊長など、ゴミですね」

 「ひでぇよ姉さん、俺の方が階級は同じでも先任なのに」

 「だまれ、Eナイト2」

 「ひぃ、すいみません、直ちに連携を取り直します!」

 ただでさえ小塚次郎少佐が中隊を率いていたころからの熟練CPだ。それが今では大尉階級を持って、大隊のCPを担当している。
 古人曰く、お局様を怒らせるな、その後には不幸しか待っていない、だ。Eナイト2を冠する、第二中隊を率いる大尉はあっという間に白旗を挙げて、全面降伏をした
 軽くため息をついた小塚次郎少佐は、ここ数ヶ月での身辺の激変具合に思いをはせていた。



 きっかけはなんだったろう。
 確か、インド軍の要請を受けてインド戦線を主戦場とし始めた半年ほど前のことだろうか。
 小塚らしくもない、へまをやらかして、大けがを負ってしまったのだ。
 その看病に当たったのが竹中大尉だ。ちなみに帝国軍の派遣に伴い、大隊付きCPということで、竹中の階級は中尉から大尉に昇格している。

 「なんか、ずいぶんと甲斐甲斐しいな。もしかして、俺が好きだったりとか?」

 冗談交じりの小塚の言葉に、竹中は顔を真っ赤にしながら首を縦に振った。

 「え?うそ、ほんとうに?」

 「はい、小塚少佐が死ぬかと思ったとき、自分の心がようやく分かりました。お恥ずかしながら、恋をしたことがないので、気づくのに時間がかかったようです」

 などと恥じらった様子の竹中に、小塚は今までの長い付き合いの中でも感じたことのない女を見てしまった。
 それ以降、2人の仲睦まじい様子が隊内で頻繁に目撃される、といえば、そうでもなかった。
 竹中は基本、公私混同をしない。逆に2人きりになったときのギャップが凄いのだが、それは小塚だけの秘密だ。
 隊内の誰にも教えてやる気はない。
 そんな竹中が不機嫌を露わにしている。これはよほど頭に来ているに違いない。
 まあ、その分夜の甘えっぷりがすごいのだろうが、などと小塚が考えているとは、大隊各員の誰一人として予想はしていなかった。



 「各中隊、状況を知らせろ!」

 「第一中隊、損耗0、銃弾にもまだ余裕があります」

 「第二中隊、小破1、ただし戦闘行動に支障はありません。銃弾ですが、120mmの補給を具申します」

 「第三中隊、中破1,小破2。中破した機体については後方へ下げることを具申します。なお、銃弾については36mm、および120mmの補給を具申します」

 「Eナイト1、了解した。第三中隊の中破した機体については、後方へと下げることを許可する。あと、各中隊、弾薬は全て満タンにしておけ。どうやら今回のBETA侵攻、いつもとひと味違うようだ」

 小塚が戦域マップに目を落としながら指示を飛ばす。

 「「「了解」」」

 各員が補給コンテナに群がるのを見つつ、小塚次郎少佐はCPへの秘匿回線を開く。

 「Eナイト1より、CPへ」

 「こちらCP、Eナイト1、なにか?」

 「今回のBETAの侵攻、いつもと違う気がする。なにか情報は入っていないか?」

 「さすがですね、Eナイト1。つい先ほど連絡が入りました。こちらに向かってくるBETAの規模およそ3軍団規模。小型種を会わせると7〜8万規模でしょうか?」

 「え?なにそれ、怖い」

 「ネタに走っている場合ではありません。補足すると、地下侵攻検知用振動計にて、カシュガルハイヴ方面から30以上の母艦級の接近を感知。このままだとわれわれは壊滅必死ですね」

 「司令部の見解は?」

 「攻勢防御を行いつつ時間を稼ぎ撤退。第四次防衛ラインまでの後退を許可する、だそうです」

 「実質、この当たりはBETAに明け渡すことになるのか」

 小塚の顔に無念がよぎる。なんだかんだといって、半年近く死守して生きた戦線だ。それをBETAにむざむざと明け渡すのに悔しさを感じているのだろう。

 「指揮所の撤退にはどれくらい時間が掛かりそうだ?」

 「1時間もあれば十分かと」

 「わかった、1時間だな」

 「Eナイト1、あまり無茶は…」

 「CP、俺はEナイトなんて偉そうに名乗っているが、本当に守りたいのはたかが知れている。俺は、お前を守れるナイトであればそれでいい。そのための無茶なら、喜んでするさ」

 小塚は秘匿回線を良いことに、竹中に甘い言葉を贈っていた。

 「Eナイト1、お言葉大変嬉しいです。その言質、隊のみんなでしっかりととらせてもらいました」

 「へ?」

 見ると、秘匿回線を示すステータスが、通常回線に切り替わっていた・

 「ひゅーひゅー、やるねー隊長」

 「ちっ、リア充め、爆発しろ」

 「男やもめがなかったからな、隊長も」

 「以外と熱血派ですね、隊長」

 「いちゃいちゃして、死ねばいいのに」

 一気に通信が飛び込んできた。中にはなにやら物騒な発言が混ざっているが、小塚次郎少佐にとってはそれどころではない。

 「た、竹中!お、おまえ!」

 「Eナイト1、今は任務中です。文句は、全て終わり、生きて会ったときに言い合いましょう」

 網膜投影に映し出される竹中冷子大尉の表情を見て、小塚次郎少佐は口に含んでいた文句を飲み干した。

 「ああ、帰ったらたっぷりとお話ししてやるからな」

 「はい。一足先にお帰りをお待ちしています」

 やれやれ、死ねない理由ができちまったな、と内心でぼやく小塚の回線には、冷やかしと呪詛の言葉がひっきりなしに飛び込んでくる。

 「だー、やかましいわい、この独り身どもが!くやしいなら、俺みたいに良い相手捕まえてみろってんだ」

 敵の規模は今まで対峙したことがないほどの規模。おまけに地下侵攻部隊も接近中ときた。
 本来なら非常事態にもかかわらずに、小塚の精神はすんでいた。
 これも彼女を持ち、リア充に至ったが故か。
 などと、お馬鹿なことを考えながらも、大隊員に現状と、今後の方針を的確に飛ばしてく。
 最低でも、後方の支援部隊が撤退するまでの時間を稼ぐのが小塚の使命だ。
 もちろん、それで自分の命を落としては、竹中との約束が果たせない。部下も無駄に死なせはしない。
 やることは多く、それは多くの苦難に満ちている。だが、小塚は不思議とそれを不可能とは思わなかった。
 撃震弐型、89式兵装、それらの組み合わせがいかに優れているかはすでに身をもって経験している。
 さすがに今回の数のBETA相手には蟷螂の斧だろうが、撤退戦を行う分にはおつりが来るほどだろう。
 東アジア、インドでの戦績は、それを如実に表していた。
 国連や、前線国家の軍で、帝国の死の第十三大隊と呼ばれているのは伊達ではない。
 ちなみに、死とはBETAに死をもたらす者、という意味の死で、隊員がひっきりなしに死ぬというわけではない。

 こうして、AL因果律が正しく支配する世界から1年おくれて、インドのボパールにハイヴの建設が始まる。
 この一年が今後どう影響してくるのか。
 仮に順当に1992から1年遅れでスワラージ作戦が発動した場合、面白い事が起こるかも知れない。
 つまり神宮司まりもが正式に帝国軍技術廠付きのテストパイロットになっていること。
 つまり概念実証用撃震参型がロールアウトしていること。
 つまり実戦検証の名の下に概念実証用撃震参型に乗った神宮司まりもが最前線に派遣されること。
 世界の因果は確実に歪んでいく、蝕まれていく。
 それは良いことなのか、悪いことなのか。
 人々はそれを歴史として紐解いたときに、初めてそれを知ることになるだろう。


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