「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
休み時間にセシリアが一夏に話しかけてきた。
「まあ? 一応勝負は見えていますけど? さすがにフェアではありませんものね」
「まぁ、専用機と訓練機……ISのコアも500位しかないのによく学園の生徒全員用意できるね」
「あなた、そんなこともわからないとは。正真正銘の馬鹿ですわね」
「うん。馬鹿は馬鹿でも野球馬鹿だけどね」
セシリアの皮肉たいし普通に答え返す一夏。
「もういいですわ! 馬鹿にしてますのね!」
「いやいや、で、つまり何なの?」
一夏はセシリアを落ち着かせるように話しかける。
「とにもかくにも、特例の男性を除けば専用機を持っているものは少ないのですわ。つまり全人類六十億人超の中でもエリート中のエリートなのですわ」
「へぇー、そうなの」
「そうなのですわ」
そう言って腰に手を当て胸を張る。
「まぁそう言うことってわけだね」
「ふふ、このクラス代表にふさわしいのは私ですわ。お忘れなく」
そう言ってセシリアはその場を去って行った。
「さて、昼でやんすし学食に行くでやんす」
「男子寮の食堂はガラガラだろうし急がなくてもいけると思うけどね……」
そう言って二人は立ち上がり食堂に向かった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「で、ISの特訓はどうするんでやんす?」
「って、言っても俺が動かせるISがないんじゃすることもないよ……」
「そうでやんすね〜」
男子寮の食堂で二人は今後について話し合っていた。
「まぁ、ビギナーズラックっていうのに頼るしかないね」
「それ、意味わかって言ってるでやんすよね?」
「ん、なんか初心者が勝つ的な」
「まぁ、大体そうでやんすけど……」
そう言いながら二人は黙々とご飯を食べる。
「そう言えば一夏君。この学園、学園近くの町から外へは出るのは禁止らしいでやんす」
「え?」
「つまりは実家に帰ったりは禁止なのでやんす」
「と言われても一人暮らしの俺には関係ないね」
そう言いながら黙々と目の前の日替わり定食を食べる一夏。
「オイラは兄ちゃんに会いに行くことができなくて少しさびしいのでやんす〜」
「でもなんでそんな決まりがあるんだろう……」
「なんでも生徒による協力が何とかかんとかと」
「ふぅん」
一夏はやはり黙々と食べ続け……
「あー弾とも会えなくなるのか」
「誰でやんす?」
「ん、友達だよ友達」
「ほぉ〜」
平次が興味心身の顔になる。
「中学からの友人でさ、一緒に野球をしてたんだ」
「へぇ〜」
「でもあいつは推薦でいい高校に行った……」
「そうでやんすか……」
黙々と食べていた一夏の行動は止まる。
「妹もいてな、蘭って言うんだけど……」
「? どうしたでやんす」
「すごいやつなんだよ……」
「すごい? どんなふうにでやんすか?」
一夏の言葉の意味がわからずに平次は首をかしげる。
「いや、いろいろとね……突然現れてリーダーになる奴だよ」
「まったくもってよく分からないでやんす」
「会えばわかるんだろうけどね……」
そう言って一夏は残っていた分を食べ始めた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■【改ページ】
それから放課後、ISの特訓ができることもないので
一夏はとにかく野球をすることにした。
「おーし、ノック行くぞー」
「おー」
着々と練習は進み後半のノックまで進んでいた。
《カキーン》
一真がボールを打つ。
それを一夏が取りに行く。
「よーし」
そして飛びつく。
《バキッ!》
「へぐぅ!」
一夏はボールを取ることに失敗した。
《バタッ!》
「わっ、一夏君が大変でやんす!」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
一夏は保健室のベットの上で寝かされていて気がついて、どうしてここに来たかを先生に質問されていた。
「野球部の練習中にノックの直撃を受けて気絶した、と? 打球というのは、時速300キロ近くになることもありますからね。当たり所が悪くて亡くなった人もいますから、注意してください」
「はい、桧垣先生」
保健室の担当医である桧垣先生(男性)の言うことに深くうなづいた。
「ふうむ。しかし……キミはなかなかいい身体をしていますね」
「はいっ!?」
突然の言葉に一夏は桧垣先生から離れる。
「……おや、これは失礼。僕の専門分野は運動科学でね。ついついアスリートの筋肉構造は研究者の目で見てしまうんですよ。それにこの学校に来る男子は珍しいからね」
「はぁ、よくわからないですけど科学なんですね」
「そういうものなので別に逃げなくてもかまいません」
そう言われて安心した一夏は再び椅子に座る。
「それで、俺はどうなんです?」
「有望ですね、実に。ま、あくまでも可能性ですが」
一夏の運動能力には可能性がある。
そう桧垣は答える。
(ま、努力すれば何とかなるってことだな)
そう言って一夏は結論づけようとした。
「しかし、その可能性を高めることができるかもしれませんよ……この薬で」
「なんですか、それは」
一夏は桧垣の差し出した薬を見て首をかしげる。
「この学校のスポンサーの一つであるジャジメントグループの新薬です。政府の認可を受けるために臨床試験を行っているのですよ。これは潜在能力を開花させる薬です」
「ま、マジですか!」
桧垣の言葉にただただ一夏は驚く。
「……でも、副作用とかは大丈夫なんですか?」
「だから、試験中の薬ですからね。なんとも言えません」
「えっと……禁止されている成分とかは……」
一夏は不安になり恐る恐る桧垣に尋ねる。
「それは大丈夫です。これは、あのしあわせ草が主成分になっているのですから」
「しあわせ草?」
一夏は聞いたことのない言葉に疑問を持つ。
「ああ、そういう名前の天然植物ですよ。ま、天然ものでも猛毒のものも禁止成分を含むものもありますがこれは大丈夫です」
「そうなんですか」
そう言われ一夏は納得する。
「さて、どうします?」
「よし、試してみましょう」
そう言って一夏は薬を試してみることにした。
「それでは、この書類に目を通してから署名を」
「……契約書に同意所? 結構面倒くさいんですね…………はい」
そして一夏は書類にサインをし終わる。
「では、どうぞ」
《ゴクン!》
一夏は渡された薬を飲む。
「………………?」
「ま、すぐに効き目があるとは限りませんから」
「じゃあ、失礼します」
そう言って一夏は保健室を後にした。
「…………ISを動かせる男子は少ない。可能性はあると思いましたが……彼は、違うようですね」
そう言って桧垣は自分の机にある書類を手に取った。
「やはり可能性があるとすれば依然断られた……」
そして書類に書かれた名前を見る。
「篠ノ之 箒……」
彼はそうつぶやいた。
続く