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インフィニット・ストラトス・クン・ポケット 第八球 野球と決意と本能と
作者:作者   2012/07/28(土) 13:06公開   ID:Kj5KwqVsk/2
「未知なるパワーが!」
「特に何も変わってないでやんす」
「ですよね〜」

あれから一週間が経過した。
野球の腕は上がったかもしれないが何も変わっていない。

「まったく。今まで何をしていたのだ」
「いや、箒。ISが来なければ何もできないぞ」

幼馴染ということでいろいろと心配してくれていた箒も応援としてピットに来ていた。

「まぁ、麻耶ちゃんがここに持ってきてくれる話らしいぜ」
「姉ちゃんが? 不安で仕方がないでやんす」

気になって見に来ていた一真が言った言葉に平次は不安になる。

「信用してないの?」
「え? ……いや、そうかもしれないでやんすね」

そう言いながら平次は下にうつむく。

「一夏、本当に大丈夫か?」
「大丈夫たと思いたいです……」

心配する箒とただただ下に俯く一夏。

「お、織斑君織斑君織斑君っ!」

ピットに響く声とともに麻耶が入ってくる。
転びそうな勢いである。

「ね、姉ちゃん。落ち着くでやんす。ほら、深呼吸」
「えっ!? え〜と。す〜〜は〜〜、す〜〜は〜〜」

平次が心配そうに背中をさすっている。

「それで、届いたんですか?」
「ああ、届いている」

その言葉に答えたのは千冬だった。

「なんだよ千冬ちゃん。一緒に来てるなら麻耶ちゃんの手綱を握ってないと」
「おに……一真さん、しかしいきなりで……」
「千冬ちゃん、今また昔のような呼び名で言おうとしたね」
「あ、ええと……」

近寄る一真から千冬は顔を赤らめてたじろぐ

「昔の活発的少女千冬ちゃんはどこに行ったのかな」
「あ、そう言うのはここでは……」
「夫婦漫才はいらないからとにかくIS!」

一夏は目の前の漫才を見ていられなくなった。

「っこほん。とにかくすぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。まぁぶっつけだが……ものにしろ」
「ぶっつけ本番かぁ。野球じゃないけど大丈夫かな」
「やるしかないだろう一夏」
「箒……」

近寄ってくる箒の言葉に一夏は背中を押される。

「よし」

そう言って一夏は歩いていく。
そしてピットの搬入口が開く。
そこには純白のISがあった。

「これか……」

目の前のISに一夏は目を光らせる。

「はい! 織斑君の専用IS『白式』です!」

後ろで平次に心配そうに見られていた麻耶が叫ぶ。

「へぇ、なんかこいつ。俺を待ってたみたいだ」
「いきなり何を言っている」
「面白いことを言う」
「でやんす」

一夏の言葉にそれぞれがいろいろな感想を持つ。

「ISを人間のように扱う……か。きっとそのISもあいつみたいに人間なのかもしれないな」
「あいつ?」
「ん、いや、あいつは自分が人間といえば……だったな……」
「一真兄?」
「ん、ま、まぁおまえはこの試合に集中しろ」

一真は一夏の背中をはたき気合を入れる。

「お前はあのエリートさまに喧嘩を売ったんだろ? 言ったことは実現しないとな」
「そうだ、実現しろ。一夏」
「そうだ、男子たるもの……」
「有言実行でやんす!」

一真、千冬、箒そして平次が一夏を応援する。
麻耶は置いていかれている。

「よし」

そう言って一夏は白式に触れる。

「……何にも起きないな」
「馬鹿者、背中を預けるように……そう、座るようにしろ」

一夏は言われたとおりにする。

そして、一夏と白式は一体化する。

「……この右手のバットはなんだ?」
「きっと武器でやんすね」
「野球なのかこの戦いは……」

白式の装備。
それはバット一本のみ。

「まぁ、俺らしいよ。武器にするっていうのは引けるけど」
「一夏おまえはやはり剣道ではなく野球が似合う」
「箒……わかってたんだな」
「ああ、おまえは優しい馬鹿だ」

一夏と箒は笑う。

「……もう剣道はいい」

箒はぽつりとそう呟く。

「ん? 箒、今何か言ったか?」
「いや、何も……おまえは今から戦いに行くのだ。小さいことは気にするな」
「そうか」

一夏には箒のつぶやきは聞こえなかったが気にしないことにした。

「な、なんだかいい雰囲気だったでやんすよ?」
「近づいちゃだめよ、平次!」
「何息荒げてるんだ麻耶ちゃん……」
「候補としておこう……」

それを離れてみる外野組の感想はそれぞれである。

「よし、箒」
「なんだ」
「楽しんでくる」
「ああ、楽しんで来い……それでこそお前だ」

そう言って一夏はピット・ゲートに進む。

「楽しんで勝ってみる……野球を馬鹿にしたんだ。きっと楽しめるさ、この対決も!」

そして一夏はセシリアの元へと向かう。

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「あら、逃げずに来ましたのね」

鼻を鳴らしながら腰に手を当てポーズをとるセシリア。

「ああ、有言は実行しないとだめ……一真兄の教え……何か平治君も言ってたけど」

平次はバットを振り回す。

「あら、野球帽をかぶったままの上にバットまで持って、野蛮なスポーツをやりに来たのならお帰りなさい」
「違うな。おれは楽しみに来た……お前の言う、誇れるものに!」

そう言ってホームラン予告のごとくセシリアにバットを向ける。

「ふふ、そんな面白いことをいうあなたにチャンスを差し上げますわ」
「チャンス?」
「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」

そう言ってセシリアは目を細め笑う。

「ボロボロな姿は惨めじゃないさ……」

《――警戒、敵IS操縦者の左目が射撃モードに移行。セーフティのロック解除を確認》

「ボロボロってのは楽しんだって証拠だ」
「変なことを。なら、ボロボロに……」

《――警告! 敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填》

「――して差し上げますわ!」

セシリアの射撃攻撃が一夏に向かう。

「うおっ……これがIS……」

攻撃を受けて初めてわかるISと言うもの。
セシリアのいう誇り……

「やるしか無いってんだろ……セシリアの誇りを汚さないためにも野球を汚さないためにもさぁ!」

一夏は気合を入れる。

しかしそんなのお構いなしにセシリアは何か恥ずかしいセリフを言いながら射撃攻撃をしてくる。

「バット一本でどこまでできるか……とにかく頑張る!」

そして激戦が始った……

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「――27分。もった方ですわねぇ〜。褒めて差し上げますわよ」
「エリートに褒められるほど光栄なことはないね……素人がさ」

一夏のシールドエネルギー残量は残り少ない。

「ま、少しは認めてあげてもよろしいですが……結局そこまでですわ」

そしてセシリアのIS。
ブルーディアーズのフィン状のレーザー武器が一夏に照準を合わせる。

「では、閉幕【フィナーレ】と参りましょう。サーカスとしてはまあまあでしたわ」

いやな笑顔を一夏に向けるセシリア。
そしてセシリアの右腕がかざされるとともにピットから攻撃が発射される。

「野球は……野球はサーカスじゃ!」

そもそもこの勝負で野球の何が伝えられるのか。
何も伝えられない。
でも伝えないといけない。
野球……野球を

「う、うぉぉおぉおぉぉぉおぉおぉぉ!」

一夏は加速してセシリアのライフルめがけて攻撃する。
それにより砲口がそれ、攻撃を受けずに済む。

「なんとっ! さすがはサーカス団員」
「サーカスなんかじゃっ!」

セシリアが左腕を上げる。
そして振る。
そして待機していたピットが一夏に向かう。

「……馬鹿でも理解できることはある」

レーザーを潜り抜け、一夏は構えてピットを打つ!

「なっ!」

一夏が打ったピットは衝撃に耐えられず爆発する。

「動きが単調だ。読める……お前の考えが」

一夏は不敵に笑う。

「何を馬鹿な……」

《ドカッン!》

さらに飛んできたピットも一夏は打ちとばす。

「教科書通りに動くだけじゃダメなんだ! 教科書なんてめったに読まないけど!」

一夏はビットの軌道を読んだ。
セシリアはビット攻撃中無防備になりピットを指揮するだけ。
軌道さえ読めば邪魔が入らないし破壊も簡単だ。

「っ!」

セシリアの右目じりが引きつる。

「…………」

一夏は黙る。

(野球で育った感……それは馬鹿でも軟化できる感じがする感だ)

一夏は笑う。

(なんとかなる……なんとか!)

一夏はバットを振る。
ただ、楽しむために。

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「一夏の野郎。マジで勝ちそうだな」
「浮かれていますけどね……さっきから左手を……」
「ああ、開いたり閉じたり……浮かれてんなぁ〜」

千冬と一真は笑う。

「にしてもさ、千冬ちゃんかたくなったよな」
「今言うことではありません……」
「昔はお兄ちゃんって言って慕ってくれてたのにな」
「今は一夏を見守りましょう……」
「あいあい……勝つといいな。」
「ええ……」

そう言いながら二人は一夏を見守る。

「夫婦っていいなぁ……」
「姉ちゃんも早く相手を探すでやんす。いつまでも兄ちゃんが好きとか言っちゃだめでやんす」
「だ、だって! 父親が違うし……かっこいいし……」
「多分補正ってやつでやんす……」

そして見守る二人を見つめる二人もいた。

「オイラはちゃんと試合を見てるでやんす!」
「黙れ、試合に集中できん」
「ごめんなさいでやんす、箒さん……」

平次は謝る。
ちなみに名前で呼ぶのはそう呼ぶように言われたからだ。

「一夏……」

箒はそう小さく呟き、試合を見守るだけだった。

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「とりあえず勝つ!」

セシリアの三機目のピットを破壊し、近くにいた4機目は蹴り飛ばす。
さすがに蹴り飛ばした分は爆発しないがセシリアに隙ができる。

「よし、喰らえ!」
「―――かかりましたわ」
「!?」

一夏の頭に何かが浮かぶ。
しかし時すでに遅し。

「おあいにく様、ブルー・ディアーズは6機あってよ!」

一夏はブルー・ディアーズと言うのが何なのかはよく分からなかったが
攻撃が来るのは理解できた。
空にその攻撃はレーザーではない。

「軌道が違う……ミサイル!?」

《ドキュゥゥゥゥゥン!》

そして一夏周辺が爆発する……そのとき一夏は光に包まれる。

《――フォーマットとフィッテンィグが終了しました。確認ボタンを押してください》

「あれ、俺……」

目の前に確認というボタンが現れる。

「な、なんだ……難しいことが分かる?」

そう言いながら一夏はボタンを押す。

「これは!」

高周波な金属音が響く。
そして一夏の姿が変わる……

「ま、まさか……一次移行【ファーストシフト】!? あ、あなた、今まで初期設定だけで戦っていたって言うの!?」

セシリアが叫ぶ。
しかしその声は一夏には届かない。

「理解できる。馬鹿でも理解できる……俺の野球魂が!」
「何を言ってますの!? やはり唯の馬鹿ですの!?」

一夏のISはまるで野球のユニフォームかの如く変化を遂げる。
そう、それが一夏にとっての正装……

「戦うためのボロボロになるための本当の格好!」

《特殊能力 内野安打発動》

白式から響く声。

「俺の野球はISをも野球にする」
「……は? あなた、何を言って――」
「とりあえずは打つ」

一夏は不敵に笑う。

「野球魂見せてやる!」
「もう、意味がわかりませんわ!」

そして我慢の限界が来たのか、ビットからミサイルが飛んでくる。

「近くの距離から来るものなら……うてる!」

その声とともにミサイルは真っ二つになる。

「うぉおぉぉぉぉぉおおぉ!」

そして一夏はセシリアに突撃する。

《特殊能力 走塁○発動 及びボール出現》

その音声とともに一夏は加速。
そして左手にエネルギー体のボールが現れる。
そして、セシリアの懐に飛び込む!

「アウトだぁあぁぁぁぁぁぁぁあ!」

そしてセシリアにボールを当てる!

「あっあぁぁぁああぁぁぁ!」

それとともにセシリアは落下を始める。

《―――試合終了。勝者――織斑一夏》

「勝った……って喜んでる場合じゃない」

そう言って落下していくセシリアを受け止め一夏はピットに戻る。

「ただいま」
「ああ、おかえり……一夏。それはどうする」

一夏の言葉を聞き答えを返した箒はセシリアを指差す。

「オルコットをそれ、か……まぁ保健室に連れて行ってもらっておこう」
「担架を手配しておこう」

千冬はすぐさま連絡を始めた。

「オルコットは俺よりダメージは少ないはずなんだが……」
「ふ、それだけおまえの攻撃がすごかったのだろう」
「そうかな」
「すごかったでやんす!」

平次と箒の声が一夏を元気づける。

「これで一組の代表でやんす」
「あ、あ〜うん。頑張る」

そう言って一夏は顔を引きつる。

「て言うかもう疲れた……」
「今日は練習休んでいいから。ゆっくり寝ろ一夏」
「一真兄……」
「肩、貸してやるでやんす」

そう言って平治の方に腕を置く一夏。

「じゃ寝に行くとするか!」

そう言って一夏は寮へと帰って行った。

「……一夏も野球を頑張っているのだな……うむ」

箒はそれをただ見つめていた。


続く

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