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正義の紅い魔王 第九話 王と魔女と魔術師達の考察
作者:愚か者   2012/07/26(木) 18:07公開   ID:a7PKEAuTavI

 現在、士郎・凛・アルトリア・ルディアの四人はイギリスの【魔王】アレクサンドル・ガスコインに案内されてサルデーニャ島へ向かっている。

 因みに航路は空の為に、『飛べないオランダ人』ことサー・アイスマンは陸路を使ってサルデーニャ島へ向かう事になっている。

 そして今現在、飛行機の中は何とも言えない雰囲気が漂っていた。

 何が原因かと言われれば、アーサー王伝説に話が及んだ事だろう。

 最初は“まつろわぬエミヤ”が何故、鋼の軍神かと言う話題だった。

「まず、俺と言う生まれは――正しく、地獄と呼べる光景だと言える。燃え盛る街と失われて行く命。その中で俺を助けだした養父の笑顔――それが俺、衛宮士郎の始まりだ」

 アレクはその言葉を聞き、士郎へ気遣いの言葉を述べ
「生まれが炎の中と言うのは、鋼の軍神に良く見られる特徴だな」
 と続けて話す。

「次に気が付いた時は、病院の一室だった。そこで俺は養父の子と成り、魔術を学び。転機となる、聖杯戦争が始まるまでは平凡だが平和な生活だった」

 ここで、凛が士郎を睨んで言う。

「良く言うわよ、十年以上も間違った鍛練を続けていた癖に」

「その間違った、鍛練とは一体?」

「聞いてよ、コイツ――十年以上も、一歩間違えれば死んで当然の鍛練を続けていたのよ」

「まぁ、そんなに危険な鍛練でしたの!?」

「ええ、そりゃもう――何時死んでも可笑しくない、鍛練だったわよ」

 その凛の言葉を聞いて
「なるほど……でも、そういった方でも無ければ――人知を超えた相手に挑もうなどと思いもしませんものね、納得ですわ」
 と、一人納得する――一人の少女。

 凛は気付かずに一人増えた同行者と会話を続けるが、この場で一人――彼女を知っていると思われるアレクが堪らずに少女へ向けて言う。

「何をしている――貴様」

「あら、酷いですわね。異色の経緯を持つ新たな王が、貴方の案内でおばさまの元へ向かうと言うのを聞き付け――私も随伴させて頂こうと思っただけですのに」

「何故、俺が士郎と共にサルデーニャ島へ向かう事を貴様に教えなければならん」

「まぁ、酷いですわ。あの時、アレだけ熱く語り合ったと言うのに……」

「誤解を招く発言はよせ、語り合ったのは『アーサー王伝説』についてだろ」

 凛もアレクの最初の言葉で、今まで自分が話していた相手が見ず知らずの相手である事に気付いて警戒する。

「ええ、そうでしたわね」

 アレクの言葉にも全く動じずに、笑みを絶やさずに返す少女。

 そして彼女は士郎に向き合うと、徐に一礼をして自己紹介を始めた。

「極東の、新たな王。先程までの失礼をお許し下さい。私の名前はアリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールと申します。以後、お見知り置きを」

「士郎、この女には気を付けろ。コイツは、私に買収と談合を持ちかけて来るような奴だ。信頼はするな。信頼すれば、良い様に利用されるだけだぞ」

 アレクのその言葉に
「まぁ、酷い! 確かに私は貴方に買収と談合を持ちかけましたが、その翌年には貴方が|賢人議会《わたくしたち》を中心とするイングランドの魔術師達に宣戦布告して――魔導杯争奪戦などと言う大きな大抗争を起こした癖に!」
 と反論の声を上げた。

 アレクは小さく舌打ちをし、言葉続ける。

「未知の物に興味を惹かれるのは、人として当然だと思うが。その上で、要る物なら手元に置いて置くだけだ」

 それを聞き
「衛宮さま、お聞きになられましたか! アレクサンドルはこう言う人物なのです! 貴方が経験した、『聖杯戦争』にもきっと興味を持っていらしている筈ですわ!」
 そう、士郎に向って語る。

「フン、あんな悪質な聖杯など――要らん。呪いに侵される前の聖杯とやらには、興味は在るがな」

「ほら、聞きました――衛宮さま」

 そう言った所で、プリンセス・アリスは在る一言に気が付いた。

「アレクサンドル、貴方――今、呪いに侵されたと言いましたね」

 アレクは内心で、目の前の少女が自分の持つ情報より少ない事を悟り――迂闊な一言だったと思わざるをえなかった。

「提出されたレポートでは、古代ウルクの王――ギルガメッシュが、不完全な聖杯を作り出したとだけ書かれています。その不完全な聖杯の効果が、全ての悪性を解き放つと言うのでは無いのですか――衛宮さま」

 その問い掛けに溜息を一つ吐くと、
「はぁ、仕方がない。但し、此れから言う事は君個人の中で伏せてられるか?」
 そう言って、プリンセス・アリスに問う。

 それは半分以上、聞くのなら誰にも語るなと言っているのと同じだった。

 同族である【魔王カンピオーネ】に対しては、大して強制力を持たないがそれ以外となれば――その言に途轍もない強制力が伴う。

 故に、
「このプリンセス・アリス、王の命と在らば――この場での話を、一個人の胸の中で生涯終い続けましょう」
 と答えさせるに十分だった。

 そして語られる、聖杯の真実の姿。

 同時にアレクが語る、プリンセス・アリスの正体。

 そう、此処まではそう重苦しい雰囲気では無かった。

 ――◆◇◆――

 それはある意味、予測出来る事態だった。

 聖杯の真実を語った後、アルトリアが徐に口を開きアレクとアリスに訊ねる。

「すみませんが、以前に語っていた『アーサー王伝説』について教えて貰えないでしょうか?」

 俺も興味が出たので
「構わないか、アレク?」
 と訊ねる。

「別に構わないが。サルデーニャに付いた時、幾分か譲歩して貰うぞ?」

「全てとはいかないが、最大限譲歩すると約束しよう」

 この時、俺は気付かなかった。この直後に起こる事態を……。

 其処から語られるのは、「イングランド王家が縁戚を捏造した、無能な王」や「戦記物語の君主様としては、ちょっとダメダメ」、「結局は内乱を鎮圧できなかった」に「政治家、君主、夫としては、どれも最低ランク」、果ては「無能の復活を望む輩の気が知れない」とまで言い切る言葉の数々。

 それらの言葉が出る度に、アルトリアの方から目に見えない何かが指し貫いている音が聞こえて来ていた。

 そして、無言で席を立つアルトリア。

「ア、アルトリア。急に、席を立って如何したのよ」

「士郎、凛。今まで、迷惑を掛けて申し訳ない」

 そう言って一礼をすると飛行機の扉に向って歩き出す。

「待て、何をする気だ!」

 そこで嫌な予感がし、アルトリアの手を掴んで訊ねる。

「放して下さい、士郎。私は所詮、無能。なら、死んで民に詫びなければ!」

「待て、早まるな!」

「放して下さい! 私は飛行機ここから飛び降りて、詫びなければならない! そうでなければ、死んでいった者達に示しが付かない!」

「少しは、落ち着きなさいよセイバー・・・・!」

 俺がアルトリアを羽負い固目で抑え、凛がアルトリアの前方に出て行く手を阻む。

 この時の俺達は、凛の失言にも気付かないほどアルトリアを抑えるのが大変だった。

 そうして、アルトリアを何とか諌めるとアレクが
「……士郎、そこに居るアルトリアと呼ばれる女性がアーサー王なのか?」
 と訊いて来た。

「アルトリア……アルトリウスの女性読みでしたね」

「アルトリアに凛、説明して貰えるか」

 内心、何故バレた。と思いながら
「何を言っているんだね、君達は?」
 と逆に訊ねた。

 しかし、これに対してアレクが
「先程、Ms,遠坂がアルトリアの事をセイバーと呼んでいたぞ」
 と返してくる。

「更に言わせて貰うのでしたら、何故アーサー王の事でアルトリアさんが自殺を図ろうとするのですか? 現に今もナイフを突き刺そうとしていますし」

 その声で、アルトリアの方を向けば食器用のナイフを手に
「皆、今から其方へ参ります。無能な王ですが、円卓に名を連ねる事を許して欲しい」
 と言って、今、まさに自分の胸にナイフを突き刺そうとしていた。

「一寸待った、アルトリア!」

「待てって、アルトリア!」

「止めないで下さい! 士郎、凛。今まで、ありがとうございます。貴方方と共に過ごした時間は、決して忘れません」

 そうして再び始まった、「死なせて下さい」「落ち着け」や「一寸待ちなさい」などの言葉が応酬する。

 そんな何とも言えない重い空気の中、飛行機はサルデーニャ島へ辿り着く。

 もう、何を言わずとも彼女――アルトリア――がアーサー王である事は機内に居た三人には理解出来た。

 ――◆◇◆――

 サルデーニャ島、オリエーナ。

 のどかに森や畑が広がる田舎町、此処に士郎達の目的である人物が住んでいる。

 ルクレチア・ゾラ。士郎が護堂に聞いた、高名な魔女の名前。

 彼女を訊ねた理由は、彼女との面識を作って置く事と必要になれば知恵を借りる為だった。

「士郎、此処が魔女殿の住み家だ」

 アレクがそこまで言うと、ドアから妙齢の美女が現れる。

「ほう、黒王子殿じゃないか。ご壮健で何より。それで其方の方は?」

「始めまして、ルクレチア・ゾラ。この度、護堂を通して連絡した衛宮士郎です」

「おやおや、驚いたね。此処まで常識に沿った行動を取る王は、何時以来だろう」

 その後、プリンセスが何時アポイメントを取ったのかを訊ねた。

「何、数日前には連絡を貰っていたよ。今日、私に会いに来るとね」

「それで、用件に関してだが……アレクやプリンセスを同伴しても構わないだろうか?」

「ああ、私は貴方さえ構わなければ問題無い」

「すまない、ゾラ氏」

「では、中で話そうじゃないか」

 そうして、屋敷のリビングに通される。

「それで、此度の来訪は――“まつろわぬエミヤ”に鋼以外の特性が存在するかと言う事だったが、自身の事は武具の王と呼ばれる貴方自身が知っているのでは?」

「ハッキリ言ってしまえば、私達は“まつろわぬ神”についての情報が無いに等しい。鋼の特性を持っているのは事実だが、思いもよらぬ所で鋼以外の特性を持っている可能性も存在する。故に、御高名なゾラ氏の力を借りたい」

「ふむ。其方の魔術師・・・には、“まつろわぬ神”の情報は無かったのかい?」

「それについては……如何だろうな? 元々私達魔術師・・・・・は、根源と呼ばれる不確かなモノを足掛かりに魔法へと至る事が目的だ」

「魔法?」

 ルディアの疑問に答える様に凛が
「科学では、決して再現する事の出来ない事象。それを私達は魔法と呼んでいるわ。それに至る為なら、私達魔術師は街の一つ二つ平然と犠牲にする輩も居る」
 と答え、続けて士郎が
「付け加えて言うのなら、基本研究者に近い性質で――自身の成果を他者に開示する事はほぼ無い」
 と言った。

「それでは、如何やって成果を残す?」

 アレクの質問に凛が、腕の魔術刻印を見せて魔術刻印の説明を行う。

「なるほど、仮に存在したとしても――その成果は公開されない訳か」

 そして、本題に戻って士郎が“まつろわぬエミヤ”について話し終えると――ルクレチア・ゾラは
「ハッキリ言って、“まつろわぬエミヤ”に鋼以外の特性は無い。むしろ、今の話を聞いて――そこに居る、遠坂女史すら“まつろわぬ神”として顕現する可能性が在ると考えられる」
 と言った後に、鋼の征服神と、自然を現す大地母神の密接な関係を説明した。

 そしてこれによって、頭を抱えたのは当然の事ながら当事者の凛だった。

 ――◆◇◆――

 士郎達がサルデーニャ島でルクレチア・ゾラを訪ねている時同じくして、“まつろわぬエミヤ”は“まつろわぬアテナ”と邂逅した。

「ほぉ、巨大な力に惹かれて来てみたが――まさか、同胞たる君に逢えるとは思いもしなかったよ」

「同胞? 面白い事を言うな、鋼の顕神。だが、妾の中のメドゥーサがそなたを懐かしく感じておる。鋼の顕神よ、そなたは何者だ?」

「ふむ、君に【座】の記録が伝わっているか分からないが……ライダーと言えば分かるかね?」

「残念な事に妾では、理解しかねる」

「そうか。仕方がないと言えば、仕方がないのだろう」

 エミヤはそう言うと自分が何者であるのか、アテナに正体を告げた。

「なるほど。しかし、その話では――妾の中のメドゥーサが懐かしがる理由が解せん。何より、貴様の話では敵対はしていても――親しく声をかける理由が分からぬ」

「何、【英霊の座】に取り込まれると言う事は、君も知っての通り――英霊と成る過程を経た知識と記録が、座の本体に流れて来る。その過程の中に、偶々親しい記録が在ったに過ぎないがね」

「して、此処で妾と事を構えるか“まつろわぬシロウ・・・”よ」

 その言葉にニヤリと笑みを浮かべると、エミヤは
「そのつもりは無いよ、ライダー――いや、アテナ。私は世界に対して、害悪にしかならん神殺ししか相手にする気は無い」
 と言い、少しの間を開けて言葉を続けた。

「ただ、まぁ――こうして会ったのも何かの縁、旅は道連れと言う言葉も在る。如何だ、不可侵の協定を結び、暫く間は行動を共にしないか?」

 それに暫しの間、考え込んだアテナが
「ふむ。妾からの条件を呑むのなら、その話に乗ろう」
 と言いだす。

「それで、其方の言う条件とは?」

「極東の島に住む、神殺し――草薙護堂には手を出さぬと誓えるか」

 その言葉に、キョトンとした顔をした後
「何、それ位なら構わん。此方としても、同じく極東に居を構えるに手を出さないのなら」
 と答えた。

 こうして此処に、本来なら敵対する筈の鋼の顕神と大地母神が行動を共にするという奇妙な光景が出来上がった。

 ――◆◇◆――

 つい先日のサルデーニャ島で異色の経緯を持つ王――衛宮士郎――との会話は、プリンセス・アリスにとって貴重な体験になった。

 また、情報の少ない魔術師の知識を得られた事も良かった。

 しかし、その情報自体も王――衛宮士郎――直々に他者へ知らせる事を禁じられた事も在って賢人議会の収穫は0と言って良い。

 そんな折、一方が届く。

 その内容は、インドにて“まつろわぬ神”の顕現を確認した。と言うモノだった。

 プリンセス・アリスはその方を受けると、部下が他の王に連絡を入れない様に手配する。

 何故なら、今頃――食欲旺盛な騎士王が本場のインドカレーを食べたいと言っている事も在って、インドには武具の王が滞在しているからだった。


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“まつろまぬエミヤ”の考察、少し入ります。
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