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とある科学の光学兵器 Episode.肆 『幻想御手』
作者:じゅげむ◆Uf7gFQ5PIt2   2012/07/27(金) 02:57公開   ID:Kf9s3H9ikhs




「全く・・・幻想御手レベルアッパーを手に入れるのがここまでめんどくさいだなんて・・・」


「ヒャハッ!また今回も外れ見たいですしね?」


光がダルそうにボヤく中、潤馬は地面に転がった不良を踏みつけながら言った。
2人の周りには数十人の不良がされており、皆地面の上でボコボコで呻いていた。
辺りの建物のコンクリート壁はいくつもの穴があき、地面にはクレーターがいくつかできている。
勿論やったのは潤馬と光で、手っ取り早く幻想御手レベルアッパーを手に入れようと、ネットで調べた取引場所らしきところを片っ端から潰しているのだ。
どうやらこの不良たちは幻想御手レベルアッパーを餌に金を巻き上げてる連中だったらしい。


「向こうは上手くやってますかね?」


「確かに七海の読心能力サイコメトリーは戦闘向きではないけど、冬那がいるから大丈夫だと思うよ」


「ヒャハハ・・・そうっすね・・・」


潤馬は何かを思い出したように身震いをした。
なにやらよっぽど冬那から痛い目に遭わされたらしい。


「まぁ風紀委員ジャッジメントとか警備員アンチスキルが来る前に退散しますか」


「らじゃー!」


光がそう言って踵を返し、その場を後にすると、潤馬はビシッと敬礼をして彼の後を追った。






  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「どうだい?手掛かりは?」


「全然見つかんないッす。そっちはどうなんッすか?」


「ヒャハ!空振りばっかし。つかいっそお前の読心能力サイコメトリーで探した方が早いんじゃね?」


「無理ッすよ。こんなに大勢の“声”が重なっちゃ、流石に全部が全部聞き取れねぇッすから」


長点上機生徒会のメンバーは第7学区のとあるファミレスで落ちあい、それぞれが好き勝手なことをしながら喋っていた。
まず光は当たり前のようにパフェとショートケーキとミルクティーを頼み、あまつさえそのミルクティーに大量のガムシロップを投入すると、それらをおいしそうに飲食していた。
そして七海はそんな光の膝の上に頭を乗せてごろんと寝転がって幸せそうな顔をしている。
潤馬はドリンクバーをミックスしてオリジナルのジュースを作るという幼稚なことをして、何度も試作した失敗作が彼の前にずらりと並んでいた。
最後に冬那だが、彼女はいたって普通に紅茶を啜っていた。
そんな異様な光景に、店員のみならず、他の客も若干引いた目で彼らを見ていたが、それを4人気にするはずもない。


「でもさぁ〜、どうやって音楽なんかで能力が上がるんです?」


「さぁね。今それを調べるために幻想御手レベルアッパーの現物を手に入れようと躍起になっているわけだけど・・・使ったっぽい奴はいても、肝心の物を持ってなくちゃ意味がないもんね」


「それならネットで探せばいいんじゃないッすか?」


「「あっ・・・」」


七海がふと思ったことを口にすると、光と潤馬が間抜けな声をあげた。
なぜ今までそんなことにすら気がつかなかったのか。
光と潤馬は己の不甲斐なさを感じて落ち込み、七海はそんな彼らの心境を知ってか知らずか首を傾げた。
そして冬那はそんな2人(特に光を)冷めた目で見ているのであった。






  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





目の下に隈を作っているこの残念美人の女性はどこか常識が欠けている。
光は自分の目の前で上着を脱ぎだす彼女を目にしてそう思った。
ことの発端は、4人がファミレスを出てしばらく歩いた後に始まった。
生徒会一行は、ネットで幻想御手レベルアッパーを手に入れようと、ここから一番近い光の自宅へと行くことになったのだ。
そんな中、光はファミレスで注文したソフトクリームを食べながら3人と犯人や、幻想御手レベルアッパーの使用法についての議論をしていたところ、よそ見をしていたため、その女性にぶつかってしまい、彼女の着ていた上着に、べっとりとソフトクリームをつけてしまった。
慌てて光が謝ると、女性は「大丈夫だ。洗えばすぐにとれる。それに今日は暑いからちょうど良かった」などどわけのわからないことを言って彼らの目の前で脱ぎだしたのだ。


「HEY!!YOU!!STOP!!STOP!!」


「ちょっ!あんた何やってんッすかっ!!」


それを見て慌てて止めに入る光と七海。
隣で何故か爆笑している潤馬。
冬那はそんな様子を無表情で見ながらやけに声を張り上げて言った。


「偶然を装って女性に衣服を脱がせるように仕向けるとは、下種げすの極みですね。会長」


「えぇぇぇぇぇぇ――――――っっっ!?!?!?!?僕のせいぃぃぃぃ――――っっ!?!?」


この状況を光の責任に仕立て上げようとする冬那に、無駄に焦る光。


「そうか。君は私のこの起伏のない身体を見て欲情するのか・・・変わってるな」


「いやいやいやいや!!!!何勝手に僕のキャラをそんな変態思考に持ってってるんですかっ!?てかあなたの方が100倍変わってますからっ!!それに早く服を着てくださいっ!!」


なぜか上半身下着姿で怪訝な目をを光に向けながらそう言うその女性の言葉を、彼は必死に否定する。
別に女性の裸体を見て顔を真っ赤にするような彼ではなかったが、なにぶん先ほど冬那が元も子もないことをわざと周りに聞こえるように吹聴したため、周りの視線が突き刺さるように痛い。
そして光の家は今いる場所から近かったので、仕方なく服を洗濯するために彼女を家に連れて行くことにした。


「はぁ〜・・・なんでこんなことになったのか・・・」


リビングでソファに座りながら光はため息を吐いた。
部屋の片隅から出した折りたたみ式のテーブルでは、冬那が幻想御手レベルアッパーを探しており、その横で潤馬はよだれを垂らしながら寝ている。
そして先ほどの女性のと七海は洗面所で、洗濯し終わった上着を乾燥機にかけていた。


「どうだい?幻想御手レベルアッパーは・・・」


「それらしい音楽データはダウンロードしましたが、実際に聴いてみるわけにもいきませんし・・・」


光がきくと冬那が少し眉をひそめて言う。
確かに皆が大能力者レベル4以上の彼らにとっては必要もないし、昏倒するのもまっぴら御免だろう。
そんなことを話しているうちに、上着を乾燥させてた女性と七海が戻って来た。


「すまなかったね・・助かったよ」


「いえ、元はと言えば僕の不注意が原因ですから」


「そうか・・・そういえばまだ名乗っていなかったな?私は木山春生。大脳生理学・・特にAIM拡散力場について研究している」


「へぇ、すごいですね?あっ、僕は光明慈光。そんでそっちでパソコンを弄ってるのが南条冬那で、あなたと洗濯をしていたのが藤苑七海。最後にここで寝てる馬鹿が根瑞潤馬」


木山が名乗り、光がこの場にいる全員の自己紹介を終えると、七海が少し興奮して言った。


「木山さんはAIM拡散力場の専門家なんッすよね?ならちょうど良かったッす!!」


そんな彼女に木山は「ん?」と首を傾げる。


「木山さんは幻想御手レベルアッパーというものをご存じですか?」


幻想御手レベルアッパー?なんだねそれは?」


パソコンの画面から目を逸らして冬那がきくと、木山は興味深そうにきき返す。


「名前の通り、使用者のレベルを上げるんですよ。共感覚性を利用したであろう音楽データってことまではわかってるんですが、いまいち仕組みがわからなくて・・・」


「ほう・・研究者としては興味深い話だな」


「AIM拡散力場の権威である木山さんから見て、どう思います?」


「そうだな・・・確かにAIM拡散力場が強ければ強いほど能力者のLevelも高いのだが、AIM拡散力場を増幅させる、なんて効果は学習装置テスタメントでも得られはしないだろうな」


「はぁ〜・・・やっぱりそうですよねぇ〜」


木山が暗にわからないと言っているのを感じた光は、落胆したように肩を落とす。
そしていつの間にか七海はキッチンで人数分の紅茶を淹れてきたらしく、5人分のティーカップとお茶受けのケーキをお盆に載せて現れた。


「まぁ無理に考えてもわかることでもないッすし、ちょっと休憩しないッすか?」


「あら、気がきくのね」


「あぁ・・すまない」


「てかそれ僕のケーキ・・・」


そう言って笑顔で皆にケーキと紅茶を配る七海とそれを受け取る冬那と木山を見ながら、光は恨みがましく呟いた。


「会長はケーキ1つ他人に分け与えることも出来ないのですか?相変わらずの器の小ささと言い、先ほどの露出プレイ趣味の変態症と言い、本当、同じ人類として生きていると思うだけで悪寒がします」


「・・・・・・・・・・・僕死にます」


冬那の強烈な言葉の暴力に耐えられなかった光は、どこからともなく天井から吊るしたロープを出現させて、椅子の上に立ちながら首をかけようとする。
そんな彼を七海は必死で止め、潤馬は相変わらず床で涎を垂らしながら寝ている。
木山はそんな彼らを見ながら、昔の教員時代を少し思い出しながら、思わず苦笑いをしてしまった。






  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「今日はすまなかったな。いろいろと楽しかった」


「楽しい?あれがですか・・・?」


光は今日一日の散々な出来ごとのせいで、疲れた顔をしている。
あの後、光と木山を除く3人は、完全下校時刻が近いと言ってそそくさと帰ってしまった。
なので仕方なく光がマンションの前で木山を見送ることとなったのだ。


「本当に大丈夫です?」


「あぁ、車もそこに止めてあるしな」


そう言って木山が指差した先にある近くの駐車場には、ブルーのランボルギーニ・ガヤルドが一台、ぽつんと止まっていた。


「(そんな近くに車があるなら、家に入れないでそのままお帰りになっていただいた方が良かったんじゃ・・・)」


そんなことを思いながら光は「そうですか」と少し曖昧な返事をする。


「君たちの言っていた件、なかなか面白そうだからこちらでも調べておくよ。しかし明日からは少し忙しくなりそうだから、調べる時間が取れるかどうかはわからないが・・・」


「何か予定でも?」


「あぁ、水穂機構病院で意識不明の患者が大勢運びこまれているらしくてね・・専門家として呼ばれたんだ」


「それって幻想御手レベルアッパーの副作用ですよね?」


「君達の話を聞いた限りだと、そう考えるのが妥当だな」


「とりあえず頑張ってください」


「すまないな・・それじゃあ私はここで・・・」


木山はふと笑いながらその場で踵を返し、手を振りながら去って行っていく。


「木山春生ねぇ・・・」


光はそんな後姿を見ながら、少し目を細めた。





  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





太陽はすでに地平線の彼方に沈み、学園都市は夜の闇に覆われていた。
その中で、光は空中で静止しながら、眼下で行われている戦い・・・というよりもむしろ一歩的な虐殺を見ていた。


「ぎゃはははは――っ!!!愉快にケツ振って逃げてばっかねェで少しはオレを楽しませくてれよォォ―――っ!!!」


そう言って狂気の笑みを浮かべながら、目の前で血まみれになって座りながら後ずさる少女に近づいてく一方通行アクセラレータ
しかし光は少女を助けようとも、一方通行アクセラレータを止めようともしない。
それが彼の役割・・・
するとその少女は立ち上がりながら近くに落ちていた銃を右手だけで構えた。
どうやら左手はもう使い物にならないらしく、力なく垂れ下っている。


「おいおいおい・・・まさか馬鹿正直にンなもんオレにぶっ放そうって思っちゃいねェよなァ?もしンなこと考えてンなら、欲求不満も甚だしいだろうがよォォっっ!!!」


一方通行はそう言ってへこむほど地面を思い切り蹴り上げると、その少女が発砲する隙すら与えずに殴り飛ばす。
とっさに銃を盾にしてそれを防いだ少女だったが、銃は見事に粉々に粉砕された。
そして少女は背後にあったビルに強く身体を叩きつけられ壁に大きなクレーターを作ると、血反吐を吐き、そのままズルズルと崩れ落て、動かなくなった。
それを見た一方通行は忌々しそうに舌打ちをすると、踵を返して地上に降りてきた光の方へ歩み寄る。


「ったくよォ・・やり過ぎちまったじゃねェか」


「そう思うならもう少し力を加減することだな」


「簡単に壊れる“あれ”が悪りィんだよ」


一方通行は、そう言って先ほどの少女を壁に叩きつけて殺した壁を顎で指す。
そこにはその少女と全く同じ容姿をした少女たちが、その遺体をファスナーのついた黒い袋にしまっている異様な光景が目に入った。

――――――“妹達《シスターズ》”

そう呼ばれる彼女たち。
絶対能力進化レベル6シフト計画のために生み出された、量産型能力者。
序列第3位のLevel5である御坂美琴の遺伝子から作られたLevel3の欠陥電気レディオノイズ
20000通りの戦闘環境でその欠陥電気レディオノイズを20000回殺害することによって一方通行アクセラレータをLevel6とする計画を成就させるためだけに作られたクローン。
光は絶対能力進化レベル6シフト計画を最初に聞いたときは正直馬鹿げていると思った。
彼は確かに目的のためなら人を殺すこともいとわない。
だがそれはいつも最小限度の人間に留めているつもりだし、彼にこれといった殺人願望があるわけでもないのだ。
だから最初この話が自分に来た時は即断った。
そしてその代わりと言う形で、アレイスターからこの計画の監督役と、もう1つ、あることを頼まれ、それを引き受けた。
その際、この計画の本当の意味・・・・・を知ったのだが、光はそれを一方通行アクセラレータに言ってはいない。
そんなことを知ったら、彼はこの計画に参加しなくなるだろう。
“10000体ほどを殺し終えたら、実験を中止に追い込む”―・・・
それがアレイスターが光に与えた命令。
彼の計画プランの重要な要となるもの・・・


「まァ、後は頼ンだ」


何も知らない一方通行は、そう言ってそのままその場から去っていく。
自分が利用されてると知ったら、彼は怒り狂うだろう。
そんなことを思いながら、光は妹達シスターズと向きあう。


「もう今日はいいよ。後始末は僕がやっておく」


「ではこれはどうすれば良いでしょうか?とミサカはあなたに問いかけます」


死体の入った黒い袋を担ぎながら1人の妹達は感情の無い虚ろな表情で言う。
その中身が自分たちのクローンだと知っていても、そしていつかは自分がその末路をたどると知っていても、彼女たちの目には恐怖という感情すら見受けられない。


「こっちで処分しておく」


「わかりました。では周りで見張りに立っているミサカにもそのむねを伝達してもよろしいですか?と、ミサカはあなたに許可を求めます」


「うん、そうしてくれ。というより便利だなそのミサカネットワークってのは」


光はそう言って苦笑いをすると、ミサカは不思議そうに首を傾げた。


「(同じ周波数の電気信号を利用した脳波ネットワークか・・・・・・・・ん?脳波ネットワーク・・・)」


その時ふと光は考えた。
もし共感覚性を使って擬似的な学習装置テスタメントを作り、人の脳波を無理やり変えることができるとしたら?
もしその脳波がある一定の波長に統一され、巨大な演算装置ができるとしたら?
もしそれで1人1人の演算の処理能力が上がったとしたら?



結果的に能力者のLevelは上がる―・・・




「(それが幻想御手レベルアッパーの正体ってことか・・・でもそれだけじゃ犯人は推測できないな)」


「急にどうしたのですか?と、ミサカは少し心配な様子であなたの顔を覗き込みます」


「えっ・・ってうぉっ!顔が近い近い!」


ふと光が気づいて顔を上げると、そこには1人のミサカがじーっとこちらを見ている顔が間近にあった。
慌てて彼女を引き離す光。
不覚にも一瞬ドキッとしてしまったことは心の中にしまっておこうと、彼は密に決意していた。


「(確かにお姉さんキャラより妹キャラの方が僕の好みではあるけどもっ!!しかし僕の理想は胸の豊かな妹キャラであって、こんなちんけな貧乳ぺちゃパイ系の妹キャラではないっ!!)」


「・・・・・あなたは今とても失礼で卑猥なことを考えてはいませんでしたか?とミサカはあなたを大層軽蔑した眼差しを向けながら質問します」


「い・・っ!いやっ!全然っ!!」


ミサカの指摘に引きつった笑顔で対応する光。
必死な彼には、もはやその顔は肯定しているようなものだとは気付かないだろう。
もしここにシスコン軍曹がいれば、妹至上主義という点では、よい友となれたことであろう。


「とにかくお前たちはさっさとどっか行け!こんな多人数の同一人物が見つかったらいろいろめんどくさい」


「わかりました」


光がそう指示すると、妹達シスターズは皆散り散りになってその場から去って行った。
残された光も、そこに置かれた黒いビニール袋を担いぐと突然、まるでその場の空気に溶け込むかのようにその場から姿を消した。








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HBえんぴつ様

わざわざ訂正ありがとうございますw
とりあえず作者に文法能力が著しく書けていることをお詫び申し上げますm(__;)m
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