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IS インフィニットストラトス〜黒騎士は織斑一夏〜 第二十三話 前編
作者:AST   2012/08/05(日) 00:31公開   ID:GaMBFwOFFuY
 夏休みのある日、鳳鈴音は寮の廊下を歩いていた

 “あいつ、いるんでしょうね。全く。何であたしから誘わなきゃいけないのよ……”

 そう思いながら廊下を歩く鈴の手にはレジャー施設のチケットがあった




              第二十三話 前編




 元々、遊び歩く事をしない一夏は、誘われた時でしか遊ばないのだ

 すると彼女の背後から声が掛った

 「………鈴」

 「い、一夏!?何でアンタここに居んのよ!へ、部屋じゃないの!?」

 「レポートの提出をしてきた所だ」

 淡々と言う一夏はエアコンが入っていない炎天下の中でも、平然としていた

 「きょ、今日は暑いわね」

 「そうか?」

 「暑いのよ!この国の夏は昔から!」

 「昔から暑いのは苦手だったな、お前は」

 昔を覚えていてくれた事に嬉しく思う鈴

 「部屋に来るか?」

 「ま、まぁ、そうね。じゃああんたの部屋に行ってあげる。飲み物出しなさいよ?」

 「ああ……」

 閑散とした寮内を二人で並んで歩く

 “これって二人っきりよね……?”

 ふと、そう思った鈴は自分の状態を確認した

“汗臭くないわよね?”

 そんなことが気になってしまい、半歩ほど一夏から離れる鈴
 
 「鈴?」
 
 「な、何よ!」

 「着いたぞ」

 何時の間にやら一夏の部屋の前についていた

 鈴は一夏のベッドに腰掛けながらドキドキしていた

 “あー……うー……何よ、もう……”

 鈴は部屋に入ってから、漂ってくる『一夏の匂い』に落ち着かなかった

 “一夏って何か……いい匂いがするわよね……”

 “あ〜………うう……”

 落ち着かなくて、足をバタバタさせて悶えたい衝動に襲われるが一夏の前なので、体をもぞもぞさせるに留まった

 「最近はこうして二人きりで話すのも久々だな」
 
 「____ッ!?」

一夏の言葉に赤くなる鈴

そんな鈴に追撃を仕掛けるかのように、鈴の隣に座る一夏

ドキン!と鈴の心拍数が跳ね上がった

“え、あ、う………え、えーと、汗臭くないわよね?……ていうか、ベッドで二人並んで座るって言うのは………えーと……えーと……”

思考回路がショートして、ドキドキが止まらない鈴

「鈴」

「ふぇっ!?」

上の空状態で一夏から声を掛けられ、上ずった声になる鈴

「大丈夫か、顔が紅いぞ?」

ずいっ!と顔を寄せてくる一夏に鈴の思考回路はショートどころか発火し始めた

“ああああああッ!!近い!一夏の顔が近い!”

出火した鈴の思考回路は現在、『爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之』となっております

「本当に大丈夫か?」

ぴとっと鈴の額に一夏の額が当てられた

“〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!???”

それを認識した瞬間、鈴の思考回路は『太極・無間焦熱地獄』へと引き上げられてしまった

結果として

「_________きゅう」

「鈴!?」

顔から蒸気をボォォォォォォッ!と吹き出してブッ倒れた





鈴は自分の近くから漂ってくる『いい匂い』を感じた

“いい匂い…………”

どうやら自分の近くにある何かの匂いらしい

何の匂いであるかは思い出せない、思考が上手く纏まらないのだ

彼女はその匂いをもっと嗅ぎたくて、その匂いの元をガッチリと両腕でホールドする

そしていい匂いがする何かに顔を摺り寄せ、すぅぅぅっと大きく匂いを吸い込む

“えへぇ……”

鼻腔内に広がる芳醇な香りに酔いしれる鈴

この匂いに酔いしれたくて、すると何やら妙な感触があった

“………?”

何だろうと思い、片方の手でソレを握ってみた

「ぐおッ!?」

すると自分の真上から声が聞こえた

何だろうと思った鈴がゆっくりと瞼を開くと………

「起きたか………」

「………ふぇ?」

視界一杯に一夏の顔があった

「とりあえず………手を離せ」

若干、引き攣った様な一夏の表情に鈴は己の右手が握りしめているソレを見た

「……………ぞうさん?」

鈴は自分の現状を確認する

自分は一夏に膝枕されている

『いい匂い』の正体は一夏のたいしゅ……匂い

一夏の腰に腕を回し、顔を一夏の腹に摺り寄せただけで無く、匂いを嗅いで幸せそうにしていた

止めに右手で一夏の大事な男を握りしめている




直後、鈴の絶叫が部屋に響き渡った




「……気にするな、俺は気にしていない」

「いいから……そっとしておいて…………」

ずぅぅぅぅん……と部屋の隅で体育座りをして落ち込む鈴

まぁ、年頃の乙女が、好きな男の匂いを嗅いで興奮したのを本人に見られたり、男の象徴を握ったりすれば……そうなるだろう

どうしたものか……と一夏は困り果てていた

 とにかく何か話そうと話題を探した

 「お前、遊びに行かないのか?」

 その言葉にピクリと反応した鈴は

 「う、うん……」

 「そうか……偶には遊びに行くのも良いかもな」

 ピンと鈴の頭からネコミミが生えた

 「じゃ、じゃあさ……一緒に行かない?」

 その誘いに一夏は

 「構わん」

 迷うことなく乗った




 「いよっしゃぁぁぁぁッ!!」

 鈴は自分の部屋に戻るなり、渾身のガッツポーズをした

 「!?」

 いきなりハイテンションで帰って来た鈴に、ルームメイトのティナ・ハミルトンは何事かと目をパチクリさせるのだった

 「ふ、ふっ、ふっふっふっ……遂に私の時代がキタ――――――ッ!!!!」

 「え、あの、鈴?遂に暑さでおかしくなった?」

 「そうよねー」

 鈴は適当に返事を返すと、自分のベッドにダイブ。

 そのまま布団をぎゅうううう!と抱きしめる

 「うへっ……うへへ……ぬふふふふふふ……!!」

 涎を垂らさんばかりにニヘラ〜と笑う鈴

 「うわぁ………」

 そんな様子の鈴にティナは引いていた

 “ああ〜〜早く明日になんないかしらね〜〜”

 『我が世の春が来た!!』又は『最高にハイって奴だぜ!!』とでも言わんばかりに浮かれきっている鈴

 “水着は大丈夫、服も新しく買ったやつを出して、それからそれから______”

 __________それから、下着、とか

 “いや、うん、ほら、夏だし?ひと夏のアバンチュールってやつ?”

 うっひゃあああああああ!!と人生で最高に妄想が膨らむ鈴

 ベッドの上で布団を抱きしめながら、何か、こう……ぐねぐねうにょうにょしている

 「…………夏は暑いわね」

 そんな鈴の様子から、現実逃避するかの様にティナは呟くのだった






 「さて、やっと戻ってこられましたわ」

 IS学園の正面ゲート前で、白のロールスロイスから降りた少女はセシリア・オルコット

 彼女は実家に帰省していた間、様々な激務を果たしていた

 そして両親の墓参りにも行っていた

 「……………」

 彼女の脳裏には様々な疑問が残る

 “いつか分かる時が来るのかしら……”

 それに福音と交戦した時に聞こえた声

彼女はどこかで聞いた気がした

 「お嬢様」

 色々と考え事をしていると、後ろから声を掛けられた

 彼女が振り向くと、彼女の幼馴染であり、専属のメイドでもあるチェルシー・ブランケットが微笑を浮かべて控えていた

 「どうかされましたか?」

 「い、いえ、何でもなくてよ」

 「そうですか。それでは、お荷物の方は私どもがお部屋まで運んでおきますので」

 そう言ってチェルシーは恭しく頭を垂れ、もう一人のメイドを連れて荷物を運び始めた

 “さてと私は”

 「織斑様に会いに行かれますか?」

 「ちぇ、チェルシー!?荷物を運びに行ったのでは無かったの?」

 いきなり掛けられた声に吃驚するセシリア

 「実は一つ確認しておくことを恥ずかしながら失念しておりまして、戻って参りました」

 「そ、そう。それで、確認とは?」

 「あの白いレースの下着は織斑様用ですか?」

 「_______」

 チェルシーの言葉にフリーズするセシリア

 「お嬢様、派手すぎる下着は却って逆効果と思われます」

 「あ、あの、あれは____」

 「では、これで」

 セシリアに言い訳する暇も与えずに、去って行くチェルシー

 恥ずかしさで悶えるセシリア

 そこへ

 「む、セシリア」

 その声に胸をキュンキュンさせながら、声の主へと向くセシリア

 「一夏さん、一週間ぶりですわね。ごきげんよう」

 片手を上げながら近づいてくる一夏へ優雅に挨拶をする

 “ああっ、本当に一夏さんでしたわ!やはり、私を想ってわざわざ出迎えに……?きゃあっ、そんな、一夏さんったら!”

セシリアも何処かの中華娘の如く妄想が膨らむ

『お前が帰ってくると思ったら、居てもたってもいられなかった』

『そんな、一夏さんったら……お上手ですわ』

『ウソでは無い。お前と離れて過ごす一週間は、永劫の時にも等しかった』

『一夏さん……あっ____』

『もう離さない。マイ・プリンセス』

『一夏さん!』

“ああっ、ああっ!いけませんわ、いけませんわ!この様な場所で!誰かが見ているかも知れませんのに!私の総てを見せて良いのは一夏さんだけですわ〜〜〜〜〜”

「セシリア?」

「______はっ!?」

イヤンイヤンと妄想に耽っていたセシリアの意識が一夏によって現実へと引き戻される

「大丈夫か?熱中症は危ないぞ」

一夏が心配する声をかけてくるので、慌てるセシリア

「い、いえっ!大丈夫です!その、さっきまで車の中でしたから、少し立ちくらみをしただけです!」

「そうか、なら良かった」

「ええ、全くです」

「「ッ!!?」」

突然掛けられた声に一夏はセシリアを庇う様にして、身構える

“この俺が察知出来なかっただと……”

内心で戦慄を覚え、警戒した様子で一夏は目の前のメイドに聞く

「何者だ?」

「お初にお目にかかります。セシリア様にお仕えするメイドで、チェルシー・ブランケットと申します。以後、お見知りおきを」

荷物を運び終えたのか、いつの間にか戻って来ていたチェルシーは、一夏に丁寧なお辞儀と自己紹介をする

「そうか………織斑一夏だ」

「はい。織斑様、時にご無礼を承知の上でお尋ねしますが、私の事をお嬢様はなんと?」

「とても良く気が利いて、優秀で優しく、美人だと言っていた」

「まあ」

にっこりとした柔らかな笑み。お世辞のしようが無いくらい綺麗でいて、嫌味では無く人を包み込むような優しさで満ちている

“一夏さんったら、私は一度も美人だなんて言ってくれませんのに!”

セシリアのちょっとした焼きもちさえも見透かしたように、チェルシーが微笑む

“うう……チェルシーもチェルシーですわ……”

「私も織斑様のお話は良くお嬢様から耳にしております」

その言葉にギョッとするセシリア

「そうか……それで俺の事を如何言っていた?」

“ああああっ!チェルシー!その話はッ!!”

突然、訪れた内心暴露されそうな展開に、セシリアが羞恥で真っ赤になる

己の総てを見て欲しいという渇望を持つ彼女だが、第三者、それも自分の憧れであり目標でもあるチェルシーに暴露されるのは流石に恥ずかしい

「くすっ。それは……」

セシリアの動揺を感じ取ったようで、先程よりも茶目っ気のある笑みを浮かべるチェルシーは、ゆっくりと人差し指を唇に持って行く

「女同士の秘密、です」

その笑みは同性さえドキッとさせる程、魅力的だった

「……セシリアの言う通りだな」

それは一夏も例外では無かった

相変わらずの無表情だが、その言葉からは感嘆している事が伝わってくる

「織斑様にそう言って頂けるなんて光栄です」

無自覚ジゴロな一夏の発言にも余裕そうに返すチェルシー

「俺の事は一夏で構わん」

「では……一夏様とお呼びさせてもらいますね。一夏様」

「む〜〜〜〜〜」

一夏の横で不機嫌そうにジト〜と彼を睨むセシリア

そんなセシリアを見て、くすりと微笑むチェルシー

「お嬢様にも可愛らしい所があるでしょう?一夏様」

「そうだな」

何時の間にか二人がセシリアを見て、楽しそうにしていたのだった






場所は変わり、食堂に隣接しているカフェ

冷房完備、年中無休のここでは駅前のスイーツショップ等、目では無い位に本格的なドリンク、それに四季折々のスイーツが楽しめるとあって、いつでも学園生の姿が絶えない

「ね、ね、あれ、一年の織斑君じゃない?」

「ホントだ!初めて生で見た!」

「やーん、カッコいい。年下なのに大人っぽいよね〜」

そんな女子達のおしゃべりがにわかに聞こえてくる

普段なら一夏とのツーショットなのだから、何より嬉しいし自慢したくなるシチュエーションなのだが……

「…………」

ぷくぅぅぅと頬を膨らませたセシリアはアイス・カフェラテをかき回していた

子供っぽいと分かっていても、そうせずには居られなかった

「………悪かった。少し悪戯が過ぎた」

謝る一夏をジト目で見るセシリア


あの後

『お嬢様の可愛らしい所は沢山あるのですよ?』

『ほう……だが、貴方も綺麗だ』

『まぁ、一夏様はお上手ですね』

『俺は思った事を言ったまでだ。そこに世辞など無い』

『そうですか。ふふっ』

相変わらずのジゴロな一夏に褒められて、満更でも無さそうなチェルシー

『そういえば、お嬢様の可愛らしい所について聞きたいですか?』

『……聞かせて貰おう』

そして自分の恥ずかしい過去をちょっと暴露されたりしたのだから、セシリアは恥ずかしさに焼かれ続けた

そして危機感を感じていた

その内、チェルシーまで一夏に惚れたら……と考えると恐ろしい

「少し、席を外すぞ」

そんなセシリアの様子をやれやれ……と思いながら、一夏は少し席を外した



二、三分して戻って来た一夏、その手にはケーキがあった

「セシリア」

「……はい」

一夏の手にはフォークに刺さったケーキがあり、セシリアへと差し出されていた

所謂アーンである

その様子に周囲の女子達がきゃあきゃあ騒いでいる

「い、一夏さん!?」

「食べないのか?」

「い、いえ!頂きますわ!!」

そのまま差し出された一口大のケーキをパクリと食べるセシリア

「どうだ?」

「お、美味しいですわ」

そう答えるが、セシリアは一夏にアーンされた嬉しさで味なんて分からなかった

「そうか」

とりあえず機嫌が直った事から良かったと思う一夏

少し前、一夏はリザに恋の質問をした事があった

質問をした時、彼女は“貴方が恋に悩むなんてね……”と心底驚いた様な表情をされた

そして“人を好きになるのに理由なんて無い。恋もまた色んな形があるのだ”と教えられた

「セシリア、ここに行く気は無いか?」

「……え?」


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