深い崖と岩山に覆われたとあるデジタルワールドの山岳地帯。
本来ならば鉱物系や岩石系のデジモン達が暮らす地帯だったが、そのデジモン達は全て自分達の住居を捨てて逃げ出していた。その代わりに連続で岩が砕け散る音と、悲痛の叫びが山岳地帯に鳴り響き続けていた。
「何故なんだァァァァァァァーーーー!!!!!」
ーーーズッガアアアアアアアアアン!!
目の前に聳え立っていた巨大な岩山を一撃の下に粉々に砕きながら、ブラックウォーグレイモンは悲痛の声を上げ続け、次々と自身の周りにある岩山を破壊して行く。
その様子を遠く離れた場所から車に乗りながら見ていた赤い服の女-アルケニモンと片目の青い服の男-マミーモンは、ブラックウォーグレイモンの叫びと次々と岩山を破壊して行く行動に恐怖を覚えながら話し合う。
「一体どう言う事なんだい?アイツはアタシらを殺そうとした筈なのに、ホーリーストーンを破壊した。しかも、その事で苦しむなんて?」
「さあ、俺にも分からないけどよ・・・・・アイツ本当にダークタワーデジモンなのかアルケニモン?何か他のダークタワーデジモンとは違う気がするんだけどよ」
「それはアタシも思っていたよ。アイツは他のダークタワーデジモンとは何か違う」
アルケニモンとマミーモンは気がついていた。
“ブラックウォーグレイモンが普通のダークタワーデジモンとは違う事に”
本来のダークタワーデジモンには心が無い上に、アルケニモンとマミーモンの命令には絶対服従する筈。
だが、ブラックウォーグレイモンはアルケニモン達の命令を聞く所か、殺そうとする行動までした。その事からも明らかにブラックウォーグレイモンが、普通のダークタワーデジモンとは違うと言う事が分かる。
「アイツは心がどうこう言っていたけど、心だけじゃないね。アイツには他に何か在る。アタシらの計画を進ませる何かがね」
「エッ?如何言う事だよアルケニモン?」
「考えてもみな。アイツは早い段階で自分が生まれた真の理由を知っていた。話してもいない自分の存在理由をね。それだけじゃないよ・・まだ、話してもいなかった『ホーリーストーン』の重要性も理解している。その事から考えるに、アイツは何かを知っているんだよ。このデジタルワールドの根幹に関する事を」
アルケニモンは気が付いていた。
ブラックウォーグレイモンの苦悩の叫びの裏には、自分達でさえも知る事が出来なかったデジタルワールドの秘密を知っている可能性が在る事に。
ホーリーストーンをブラックウォーグレイモンが破壊した時。自分達を殺そうとした時。
その他にもブラックウォーグレイモンの行動には、まるで何かを知っていると思えるような行動が幾つか在った。その事に気がついたアルケニモンは嬉しそうに口元を笑みで歪める。
「フフフフフフッ!とんだ失敗作だと思っていたけど、マミーモン!これはもしかしたら最高の切り札かもしれないよ!!アイツが知っているデジタルワールドの秘密!!それが分かればあたし等の計画も進むに違いないからね!!しばらくはブラックウォーグレイモンを監視するよ!!それと選ばれし子供達には気付かれないようにしないとね。何としてもアイツが握っている秘密は、アタシらが手に入れるよ!!」
「了解だ。ヘヘヘヘヘヘ、デジタルワールドの秘密か。面白くなって来たぜ」
「ウオォォォォォォォォォーーーーーー!!!!」
アルケニモンとマミーモンが密談を繰り返す中、ブラックウォーグレイモンの悲痛の叫びが、夜空に木霊し続けた。
一方、現実世界でもブラックウォーグレイモンに付いて、選ばれし子供達-本宮大輔、高石タケル、火田伊織、八神ヒカリが学校のパソコン室にパートナーデジモン達と共に集まり話し合っていた。
「京さんは修学旅行の準備が在るそうで、やっぱり来れないそうです」
「仕方がねえ。俺達だけで話し始めるか」
伊織の報告に大輔が言葉を言うと、全員が顔を見合わせ頷き合い話を始める。
「やっぱり究極体だけは在るよ。完全体二体と成熟期二体が同時に掛かっても、ブラックウォーグレイモンには勝てなかった。しかも力が更に増している様だったし」
「ええ、ブラックウォーグレイモンの目的もホーリーストーンの破壊みたいですし、これからは気を付けないと行けませんね」
タケルの言葉に伊織は同意を示し、他の者達も同意しようとするが、大輔のパートナーで在るチビモンだけは否定の声を上げる。
「待ってくれ。やっぱりアイツは何かが違うんだよ」
「この前も同じ事言っていたけどよ。何が違うんだ?」
「俺が最初に戦った時は、アイツはこの前みたいな機械的な言葉じゃなかった。もっと感情が在った気がするんだよ」
「感情?ダークタワーデジモンなのに?」
「ああ、確かにアイツには感情が在った。この前の時とは違って」
テイルモンの質問にチビモンは深く頷きながら答え、大輔達の間に疑問が浮かび始める。
ダークタワーデジモンの筈のブラックウォーグレイモンに感情が存在する。それは今までの大輔達のダークタワーデジモンに対する認識を変えるには充分な事だった。
「ダークタワーデジモンに心が本当に生まれるんでしょうか?今までのダークタワーデジモン達には感情らしいものは見えませんでしたが」
「うん。だけど、もしかしたらあのブラックウォーグレイモンは違うのかも知れない。もし本当に感情が在るんだったら、分かり合えるかもしれないよ」
伊織の言葉にヒカリはブラックウォーグレイモンとの和解を進言し始めるが、タケルが首を横に振るう。
「確かにブラックウォーグレイモンは普通のダークタワーデジモンじゃないのかも知れないけど、ホーリーストーンを破壊した事実が在るよ」
「彼が何の為にホーリーストーンを破壊したのかは分かりませんが、ホーリーストーンが破壊され続ければ、デジタルワールドだけではなく、僕らの世界も崩壊してしまいます」
「それを止めないとやべえからな。ブラックウォーグレイモンとは戦うしかない」
タケル、伊織、大輔はそれぞれ自分達の意見を告げ、ヒカリは落ち込んだように顔を俯かせた。
しかし、彼らは知らなかった。ブラックウォーグレイモンは自らの意思で、ホーリーストーンを破壊したのではない事を、彼らはまだ知らなかった。
数日後、辺りが岩山と荒野しかない場所で再びその瞳を赤く光らせたブラックウォーグレイモンが、一つの岩山-二つ目のホーリーストーンに向かって赤い巨大なエネルギー球-ガイアフォースを投げつけていた。
「・・・・ガイアフォース」
ーーードゴオオオオオオオオオオオン!!!
ーーービキビキッ!!
ブラックウォーグレイモンが投げ付けたガイアフォースは巨大な爆発を起こし、ホーリーストーンに罅が入り始める。
その様子を遠くから眺めていたアルケニモン達は、ブラックウォーグレイモンの行動に益々疑問を覚えていた。
「行きなり飛び立ったと思ったら、ホーリーストーンに攻撃を始めるなんて。一体如何したんだい?」
「さあ、俺にも分からねえけど、良いじゃねえか。元々ホーリーストーンは破壊する予定だったんだし、アイツが変わりに破壊してくれるのは嬉しいからよ」
「まあ、そうだね」
マミーモンの言葉に、アルケニモンは嬉しそうに頷いた。
ブラックウォーグレイモンがホーリーストーンを壊すのには支障は無い。いや、寧ろアルケニモンやマミーモンからすれば嬉しい事態だった。
元々ホーリーストーンは全て破壊する予定だったのだが、前回の時にホーリーストーンの異常な頑丈さには気がついていた。自分達の攻撃ではビクともしない頑丈さをホーリーストーンは持っている。
しかし、ブラックウォーグレイモンの攻撃は別だった。多少の時間は掛かるが、ブラックウォーグレイモンならばホーリーストーンを破壊する事が出来る。アルケニモンとマミーモンにとって、ブラックウォーグレイモンの行動は自分達にとってプラスに働く行動なのだ。
そしてその間にもブラックウォーグレイモンが連続で放つガイアフォースに寄って、徐々にホーリーストーンは罅が大きく成っていき、それを確認したブラックウォーグレイモンは最後のガイアフォースをホーリーストーンに向かって投げつける。
「ガイアフォース・・・・」
ーーーバリィィィィィッィン!!
ガイアフォースを食らったホーリーストーンは甲高い音を立てながら砕け散り、跡形も無く消滅した。
それと共に空間の歪みが発生し出すが、ブラックウォーグレイモンは移動もせずにその場に膝を着き、ワナワナと震えながら自身の両手を金色の瞳で見つめ始める。
「・・・・・何故だ?・・・・・・何故俺はホーリーストーンを破壊してしまうのだ?・・・・・何故だアァァァァァァァァーーーーー!!!!????」
ーーーシュウウン!!
『オッ!!!』
ブラックウォーグレイモンが悲しみの叫び声を上げた瞬間に、ブラックウォーグレイモンの体は空間の歪みに飲み込まれ、その場から消失してしまった。
その様子を離れた所で見ていたアルケニモン達は、ブラックウォーグレイモンが消えた事に僅かに驚くが、すぐさま捜索しようと乗っているバギーのエンジンを入れようとし、遠くから向かって来る大輔達に気がつく。
「チィッ!!不味いね。連中に今のブラックウォーグレイモンの姿は見せられないね。マミーモン!!アイツが戻って来る前に、子供達をこの場から離れさせるよ!!」
「了解だぜぇ。ブラックウォーグレイモンの秘密は、俺達が手に入れるんだからよ」
「そう言う事さ。行くよ!」
「オウッ!!」
アルケニモンとマミーモンはバギーを大輔達の方に向かって走らせ始める。
今のブラックウォーグレイモンの姿を、知られない様にする為に。
そして空間の歪みに飲み込まれたブラックウォーグレイモンは、黒と白の入り混じった何処とも知れない場所をただ無言で歩き続けていた。
しかし、その表情は酷く辛そうに歪み続け、自身の存在について考え続けていた。
(何故だ?何故俺は自分の意思と関係無くホーリーストーンを破壊してしまう?それがこの体に課せられた運命だと言うのか!?意思など関係なくホーリーストーンを破壊するのならば、心など、魂など要らないはずだ!?それなのに何故俺には意思が宿っているんだ!?)
ブラックウォーグレイモンは自身の存在が本当に分からなくなり始めていた。
ホーリーストーンを破壊し続ければ、この世界がどうなってしまうのかは、この世界の知識を持っているブラックウォーグレイモンには分かりきっている。
だからこそ、何が在ってもホーリーストーンだけは破壊する気は無かったと言うのに、ブラックウォーグレイモンの意思とは関係なく、ホーリーストーンを破壊し続けている。まるで、それが己の役割だと言うように、ブラックウォーグレイモンの体は勝手にホーリーストーンを破壊していくのだ。
その先に待っている結末を知っているブラックウォーグレイモンからすれば、苦悩する以外の何ものでもないだろう。
(俺は如何すればいいのだ!?)
(・・・・・ウケイレロ・・・・・オノレノシュクメイヲ)
(ッ!!)
突如として頭の中に響いて来た声に、ブラックウォーグレイモンは目を見開き、空間の中を見渡すが、自身以外には誰も存在せず、気のせいかと思うが再び声が響いてくる。
(オマエハダレニモ・・・・・ウケイレラレル・・・・コトハナイ・・・・・オマエハセカイヲ、ユガマセルソンザイ・・・・・・ソンナオマエヲ・・・・・ウケイレルモノナドソンザイシナイ)
(黙れ!!それ以上言うのならば!!)
(スグニワカル・・・・・タトエオマエヲ・・・・ミトメルソンザイガイテモ・・・・・オマエノカラダハ・・・・・スベテヲハカイスル・・・・・イシナドカンケイナクナ・・・・・ハハハハハハハハハッ!!!・・・・・・ナゼナラバ!オマエハコノセカイデノ!!シンノ“異物”ナノダカラナ!!)
「ウオオォォォォォォォーーーーー!!!!ガイアフォーースッ!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
聞こえて来た声を否定するかのように、ブラックウォーグレイモンは空間内部でガイアフォースを炸裂させ、空間内部に大爆発を起こさせた。
「グウッ!!」
突如として発生した空間の歪みの内部から、ブラックウォーグレイモンは何処かの森の中に姿を現すと膝を地面に着き、体を震わせながら両手のドラモンキラーを見つめ始める。
「・・・・異物だと?・・・・・俺はこの世界での真の異物・・・・・赦されない異物だと言うのか?」
告げられた自身の正体と言える言葉に、ブラックウォーグレイモンは苦悩に満ち溢れた顔をしながら、自身の両手を静かに見つめ続けるのだった。
そして数日後。
ブラックウォーグレイモンは再び目を赤く光らせながら、砂漠の中を歩き続け、その先に存在している一つの遺跡に向かっていた。
そのブラックウォーグレイモンの背後には密かにバギーに乗りながら、ブラックウォーグレイモンを追い掛けてきたアルケニモンとマミーモンが存在し、無言で歩き続けるブラックウォーグレイモンの背を見つめていた。
「漸く見つけたけど、やっぱりホーリーストーンの在る場所を目指しているね」
「あぁ、どうもアイツにはホーリーストーンを探知出来る能力が在るみたいだ。俺達としては良い事だぜ」
「そうさね。まぁ、流石に目の前に姿を見せたら、殺されるだろうけど」
アルケニモンとマミーモンは出来るだけ、ブラックウォーグレイモンの視界に自分達の姿を入れる気は無かった。
何せブラックウォーグレイモンはこれ以上に無いと言うほどに、アルケニモンとマミーモンを憎んでいる。姿を見れば、問答無用で攻撃してくるのは先ず間違いないと、確信出来る行動を既にブラックウォーグレイモンは取っている。だからこそ、出来るだけ、ブラックウォーグレイモンの視界には入らないように動いているのだ。
そのおかげで早い段階で大輔達の姿を発見する事が可能なので、ブラックウォーグレイモンと引き合わせる事を阻止する事が出来ていた。今のブラックウォーグレイモンの姿を見れば、大輔達は必ずブラックウォーグレイモンの正体に近づいてしまう。そうなると、アルケニモン達の計画に必ず支障が現れてしまう。故に、大輔達をブラックウォーグレイモンに近づかせない事が、今のアルケニモン達に取って最も重要な事だった。
そしてその間にブラックウォーグレイモンは、上空に飛び立ち、遺跡の中で一際聳え立つ大きな塔に向かってガイアフォースを投げ始める。
「ガイアフォース・・・・ガイアフォース」
ーーードゴオオオオオオオオン!!
次々と投げつけられるガイアフォースに寄って、塔は激しく揺れ動き、その内部から神聖な文字が書かれたリングが巻かれている巨大石-ホーリーストーンが姿を現し、ブラックウォーグレイモンは渾身の力を込めたガイアフォースをホーリーストーンに向かって投げ付ける。
「ガイアフォーース」
ーーーバリィィィィィン!!
ーーーブオオン!!
『うん?』
渾身の力が込められたガイアフォースがホーリストーンに激突すると、ホーリストーンは完全に砕け散り、再び空間の位相がずれ始めた。
しかし、今回は前回までと違い、位相のずれの中に白い巨体を持った竜の姿が映し出された。その白い竜の姿にアルケニモンとマミーモンは疑問の声を上げるが、金色の瞳に戻ったブラックウォーグレイモンは静かに空間の歪みの中に映し出されている竜の姿を静かに見つめる。
「・・・・・・・チンロンモン・・・・・・」
位相のずれの中に映し出された竜-チンロンモンを見たブラックウォーグレイモンは、静かに苦しんでいるチンロンモンを見つめ、チンロンモンの姿が消えるまで黙ってその場に佇み続ける。
そして空間の歪みの中に映っていたチンロンモンの映像が消えると、静かに砂漠に降り立ち、何処へとも無く足を進め始める。
(・・・・・三つめ・・・・・これで残るホーリーストーンは四つ・・・・俺は後四度意識が無くホーリーストーンを破壊してしまうのか・・・・・・それが俺の宿命だと・・・・・・認めん!!認めて堪るか!!これ以上のホーリーストーンの破壊だけは絶対に行わん!!!宿命が敵だと言うのならば!!俺は宿命に打ち勝って見せるぞ!!誰かの意思で動くなど!!俺は絶対に認めん!!それが世界だろうとな!!)
ブラックウォーグレイモンは誓った。自身の意思の力で、宿命を乗り込める事を。
しかし、この時の誓いこそが、ブラックウォーグレイモンの心を決定的に憎しみの方向へと傾けてしまう事に成るとは、この時のブラックウォーグレイモンは思っても見なかったのだった。
そして数日後。深い谷に覆われた岩山の場所に大輔、ブイモン、京、ホークモン、伊織、アルマジモン、光、テイルモン、賢、ワームモン、そしてタケル、パタモンがいた。
この場所に大輔達がいる理由は一つ。ブラックウォーグレイモンよりも先にホーリーストーンを発見し、何としてもホーリーストーンを護り抜く為だった。既に三つのホーリーストーンがブラックウォーグレイモンの手によって破壊されている。
このままではデジタルワールドが崩壊してしまうと思った大輔達は、何としてもブラックウォーグレイモンよりも先にホーリーストーンを見つける為に、この場所へと訪れていたのだ。
ワームモン、世代/成長期、属性/フリー、種族/幼虫型、必殺技/ネバネバネット、シルクスレッド
気弱で臆病な性格の幼虫型デジモン。ブイモン等と同じ古代種族の末裔で、特殊なアーマー進化をすることができるが、単体でのワームモンは非力で、大型のデジモンには到底かなわない。しかし、デジメンタルの力でアーマー進化することで、信じられないようなパワーを発揮することができる。賢のパートナーデジモン。必殺技は、口からネバネバの糸を吐き出し、敵の動きを封じる『ネバネバネット』に、絹糸のような細く、先が針のように硬い糸を吐き出す『シルクスレッド』だ。
アルマジモン、世代/成長期、属性/フリー、種族/哺乳類型、必殺技/スクラッチビート、ローリングストーン
硬い甲殻で体を覆われたアルマジロの様な哺乳類型デジモン。のん気で愛嬌のある性格だが、お調子者なところがたまに傷である。アルマジモンはブイモン等と同じように古代種族の末裔であるため、特殊なアーマー進化をすることができる。名古屋弁を話す。伊織のパートナーデジモン。必殺技は、体を丸めて、相手に向かって猛スピードで突進する『ローリングストーン』に、前足のツメで乱れひっかきする『スクラッチビート』だ。
ホークモン、世代/成長期、属性/フリー、種族/鳥型、必殺技/フェザースラッシュ
礼儀正しく、冷静沈着な鳥型デジモン。古代に栄えた特殊な種族の末裔で、ブイモン、アルマジモン、ワームモンと同様に“デジメンタル”の力で“アーマー進化”ができるデジモン。メカが得意な京と違ってメカは大の苦手。京のパートナーデジモンである。必殺技は、頭部の羽飾りをブーメランのように敵に向けて投げる『フェザースラッシュ』だ。
「それでヒカリちゃん?この場所の何処かに間違いなくホーリーストーンは在るんだよね?」
「うん。このエリアを護っているガブモンからの情報だから、先ず間違いないよ」
「それなら、メンバーを分けて探そう。一緒に探すよりは効率が上がる」
「賢君の言うとおりね。それじゃあ、メンバーは、私とホークモンに、ヒカリちゃんとテイルモン。大輔とブイモンには、賢君とワームモンが。それで最後に伊織とアルマジモンに、タケル君とパタモンが同行で良いわね」
「うん。そのメンバーの方が良いね」
京が告げたメンバーの編成に、ヒカリは納得の声を上げ、他の者達も同様に頷く。
京の考えたメンバー編成はジョグレス進化の事も考えるとベストなメンバーの編成であり、ブラックウォーグレイモンと直接出会ってしまった時の事も考えてのメンバーだった。完全体一体程度ではブラックウォーグレイモンを倒す事など絶対に出来ないが、他の仲間が来るまでの時間稼ぎぐらいは出来る。だからこそ、京はジョグレス進化出来るメンバーで編成を行なったのだ。
未だにジョグレス進化出来ないアルマジモンとパタモンにしても、何かの切欠で進化出来るようになるかも知れない。その為に伊織とタケルを一緒のメンバーに京はしたのだ。
その京の考えを読み取った大輔達は、それぞれのパートナーと共に別々の場所を歩き始め、最後にタケルが伊織に声を掛ける。
「それじゃあ、僕らも向かおうか、伊織君」
「はい、タケルさん」
「行くダギャアッ!!」
タケルの言葉に伊織とアルマジモンはそれぞれ頷き、前へと歩き出そうとするが、その直前に背後から声が聞こえて来る。
「オーイ!!」
「うん?・・・・ガブモン!!」
聞こえて来た声にタケルは背後を振り返ってみると、タケルの兄である石田ヤマトのパートナーデジモンであるガブモンがタケル達に向かって走り寄って来た。
ガブモン、世代/成長期、属性/データ種、分類/爬虫類型、必殺技/プチファイヤー
毛皮を被っているが、れっきとした爬虫類型デジモン。とても臆病で恥ずかしがりやな性格でいつもガルルモンが残していったデータをかき集めて毛皮状にしてかぶっている。必殺技の『プチファイヤー』は小さな青色の火炎弾を放つ技だ。タケルの兄であるヤマトのパートナーデジモン。
「探したよ、タケル!!」
「ガブモンこそ、如何したの?」
「うん・・・・・実はアグモンからタケル達に伝えて欲しいって言われている事が在るんだ」
「アグモンから?」
ガブモンの言葉にタケルは疑問の声を出し、伊織、アルマジモン、パタモンも首を傾げた。
アグモンと言われれば、ヒカリの兄である太一のパートナーデジモンしか思いつかない。現在は他のエリアの護衛を行なっている筈のアグモンが、自分達に何の用なのかと思い、詳しく話を聞こうとするとガブモンは説明を始める。
「アグモンが言っていたんだけど、ブラックウォーグレイモンを否定しないでくれって言っていたんだよ。彼には普通のダークタワーデジモンと違って、“心”が在るみたいなんだ」
「ブラックウォーグレイモンに心が!?」
伊織はガブモンが告げた事実に目を見開きながら叫び、タケル達も信じられないと言う顔をする。
心が存在しない筈のダークタワーデジモンで在るブラックウォーグレイモンに、心が宿っていた。以前に学校で話し合っていた事が真実だと明らかに成ったのだ。だが、本来ならば心が宿らないはずのダークタワーデジモンであるブラックウォーグレイモンに心が宿っていたと成れば、かなり話は変わるだろう。
今まで伊織達が戦って来ていたダークタワーデジモンには、心など存在せず、ただ命令だけで動く存在だった。それなのにブラックウォーグレイモンには心が存在している。
伊織やアルマジモンは知らされた事実に躊躇いを僅かに覚えてしまうと、ガブモンは説明を続ける。
「詳しくは良く僕も知らないんだけど。ブラックウォーグレイモンはアグモンに倒されようとしていたらしいんだ」
「何だって!?」
「ブラックウォーグレイモンが自分を倒させようとしていた!?」
「うん。だけど、突如としてブラックウォーグレイモンは飛び立って、アグモンの前から姿を消したらしい。その後の事は分からない見たいだけど、会話をしていた時のブラックウォーグレイモンは本当に苦しそうだったらしいよ。自分がどんな存在なのかって、悩み続けているらしいんだ」
「そんな・・・・・・だったら、どうしてホーリーストーンを!?」
ガブモンの告げた事実に、伊織は疑問の叫びを出すしかなかった。
もしガブモンの言葉が真実だとすれば、ブラックウォーグレイモンにはホーリーストーンを破壊する理由など無いと言う事に成る。しかし、現にブラックウォーグレイモンは三つものホーリーストーンを破壊して、デジタルワールドの位相を大きく崩壊させた。
死のうとしたブラックウォーグレイモンと、世界を崩壊させる動きを行なっているブラックウォーグレイモン。如何考えても二つの行動は矛盾している。
その様な行動を行うブラックウォーグレイモンに伊織達は疑問を覚え始めるが、タケルだけは決意を固めた顔をしながら言葉を言う。
「いや、ブラックウォーグレイモンは倒そう。それが闇の力を必要以上に増大させて生まれた存在なら、倒さなくちゃいけないんだ」
「タケルさん・・・・」
タケルの断言するような言葉に、伊織は動揺するように声を上げた。
何時もは冷静で落ち着きを持ち、優しい雰囲気を放っている筈のタケルだが、今のタケルからは僅かに闇の力に対する憎しみのようなものを伊織は感じたのだ。
その常に無いタケルの様子に伊織は動揺するが、タケルとパタモンは構わずに歩き出し、伊織とアルマジモンは慌てて追いかけ始め、そのタケルの背を見ながらガブモンは内心で呟く。
(タケル・・・・君が闇の力を憎んでいる理由は良く知っているよ・・・・・だけど、もしかしたら今回はソレが裏目に出るかもしれないんだよ)
無言で歩き続けるタケルの背を見つめながら、ガブモンは内心でそう呟き、タケル達の姿が見えなくなるまで心配そうにその場に立ち続けたのだった。
一方その頃。大輔達と別れた京、ホークモン、ヒカリ、テイルモンは岩で出来た道を歩き続けていた。
しかし、その足の動きは突如として止まり、京が前方に存在している二体のデジモン-九本の尻尾を生やした四足歩行のエレキモンと、飛び跳ねるように歩いている頭にツノを生やしたツノモンの姿を見つめ、エレキモン達に向かって手を向けながら、ヒカリに声を掛ける。
「ねぇ、あのデジモン達に少し情報を聞いてみましょう。もしかしたら、何か知っているかもしれないしさ」
「そうですね。では、聞いてみましょう!オーイ!!」
『エッ?』
背後から聞こえて来たホークモンの声に、エレキモンとツノモンは足を止めて背後を振り返って見ると、京達がエレキモン達に駆け寄って来た。
「何の用?」
「僕ら忙しいんだけど」
「ゴメンね。少し聞きたいんだけど?この辺りでリングを巻いた巨大な石を見なかった?」
「リングを巻いた巨大な石?・・・・・そう言えば、さっきそんな形の石を見つけたよね?」
「うん!」
「本当ッ!?」
エレキモンの質問にツノモンは頷き、話を聞いていた京は喜びの声を上げ、ホークモン、ヒカリ、テイルモンも喜びの表情を浮かべ始める。
漸くブラックウォーグレイモンよりも先に、ホーリーストーンを見つけられるかも知れない状況に成った事に喜んだのだ。
そして京達は詳しい場所をエレキモンとツノモンに聞き、その場所へと向かおうとするが、その前にヒカリがエレキモン達に質問する。
「そう言えば、君達?どうしてこんな場所にいるの?」
「そう言えばそうね。この場所はかなり危険な場所。普通のデジモンは滅多な事では訪れないのに?」
ヒカリとテイルモンは今更ながらエレキモンとツノモンがいる理由に疑問を覚えた。
現在、ヒカリ達がいる場所はかなりの危険を伴う場所であり、普通のデジモンでも滅多に訪れない場所なのだ。しかし、その場所に成長期のデジモンであるエレキモンと、幼年期のデジモンであるツノモンが存在している。何か理由が在ると思うのが当然だろう。
それを肯定するかのように、エレキモンは顔を暗くし、ツノモンは目に涙を溜め始める。
「・・・・僕達は黒いデジモンを探しているんです」
「この辺りで見たって言う噂が在って、ずっと探しているんだけど」
「黒いデジモン?」
「如何してそのデジモンを探しているの?」
「・・・・・ヒック、ヒック、僕達そのデジモンに命を助けて貰ったんです・・・・だけど・・・僕達はそのデジモンから逃げてしまったの」
『エッ?』
ツノモンが涙を流しながら呟いた言葉に、ヒカリとテイルモンは僅かに驚いた表情をして顔を見合わせると、エレキモンが説明し出す。
「僕達が荒野の方で遊んでいる時に、沢山のマンモンが暴れていたんだ・・・・逃げようとしたけど、怖くて動けなくて震えていると、一体のマンモンが僕達を踏み潰そうとして来たんだ」
「それで、死んじゃうと思った瞬間に、黒いデジモンが僕らを助けてくれたの・・・・それでその後にマンモン達を全部倒してくれたんだけど・・・・・僕達はそのデジモンの事も怖くなって、逃げ出してしまった・・・・助けてくれたのに、僕らはお礼も言えなかったの」
「だから、謝りたいんだ・・・・・『助けてくれてありがとう。怖がってゴメンなさい』って」
「そうなんだ。それじゃあ私達もそのデジモンを用事が終わったら、一緒に探して上げるね」
『本当!?』
「本当よ。ホーリーストーンの場所を教えてくれたお礼に協力する。だから、用事が終わるまで此処で待っていて」
『うん!』
テイルモンの言葉にエレキモンとツノモンは元気良く頷いた。
実を言えば、エレキモンとツノモンも内心ではかなり不安だったのだ。
この辺りの危険性はエレキモンとツノモンにも充分すぎるほどに分かっている。だからこそ、ヒカリとテイルモンの提案に乗る事を選んだ。
そしてエレキモンとツノモンは近くの岩場に腰掛けながら、離れているヒカリ達に手を振るい、ヒカリ達もエレキモン達に手を振り返した。
この時にもしヒカリとテイルモンが詳しくエレキモンとツノモンが探しているデジモンについて詳しく聞いておけば、後に起きる悲劇は回避出来ていたのかもしれなかった。
切り立った崖の間。その僅かな間の中を赤く目を光らせたブラックウォーグレイモンは無言で飛び続け、辺りの岩肌を見つめ続けると、突如として近くの地面に着陸し、前方に向かって歩き始める。
「・・・・・・ホーリーストーン・・・・・ハカイスル」
機械的な言葉を出しながら、ブラックウォーグレイモンは迷わずに先へと進み、リングを巻いた菱形の青い石-ホーリーストーンを発見する。
「ホーリーストーン・・・・・・ハカイ…」
『其処までだ!!!』
突如として声が響き、ブラックウォーグレイモンは無言で前方を見てみると、背に白と青の翼を生やして、腰の部分に二体の生体砲を備えたデジモン-パイルドラモンと、目の部分にバイザーを備え、腰の部分にベルトを装着し、翼のような腕を持ったデジモン-シルフィーモンが降り立って来る。
パイルドラモンとシルフィーモンはホーリーストーンを護るように立ち塞がりながら、ブラックウォーグレイモンに向かってそれぞれ構えを取る。
「これ以上!ホーリストーンは破壊させないぞ!!」
「お前は此処で倒す!!」
「・・・・・・ホーリーストーン・・・・ハカイスル」
パイルドラモンとシルフィーモンの宣言を聞いても、ブラックウォーグレイモンは機械的な声を上げるだけで、立ち塞がるパイルドラモン達には構わずにホーリーストーンだけを目指す。
しかし、そうはさせないと言うように、パイルドラモンが両腰に装着している生体砲をブラックウォーグレイモンに向かって構え、シルフィーモンは両手を回転させながら赤いエネルギー球を作り出し、前方に向かって両手を合わせながら突き出し、同時に攻撃を放つ。
「デスペラードブラスターー!!!」
「トップガン!!」
ーーードドドドドドドドドドドドン!!
ーーードゴオオオオオオオン!!!
パイルドラモンのデスペラードブラスターと、シルフィーモンのトップガンは、ブラックウォーグレイモンの体に直撃し、僅かにでは在るが、ブラックウォーグレイモンは後ろに吹き飛ばされた。
だが、ブラックウォーグレイモンはまるでダメージを受けてないのか、無言で立ち上がり、パイルドラモン達の後ろに存在しているホーリーストーンだけを目指し続ける。
「ホーリーストーン・・・・ハカイスル」
「させるか!!エスグリーーマ!!」
向かって来るブラックウォーグレイモンに対して、パイルドラモンは両手の甲から鋭いツノを生やし、ブラックウォーグレイモンに突撃する。
それに対してブラックウォーグレイモンも無言で両手のドラモンキラーを構え、パイルドラモンに対して攻撃しようとするが、その直前にパイルドラモンの体に包帯のような布が巻き付いて来る。
ーーーガシィィィィィン!!
「何ッ!?」
「ヒャハハハハハハハハハハッ!!ブラックウォーグレイモンの邪魔はさせないぜ!!」
『マミーモン!!』
パイルドラモンを拘束した主-全身に包帯を巻いて、右手に銃-『オベリスク』を持ったマミーモンの姿を岩場の影から隠れながら見た大輔達は驚きの声を上げた。
シルフィーモンはパイルドラモンを助けようとマミーモンに向かって飛び掛るが、背後から無数のワイヤーが飛んで来る。
「スパイダーースレット!!!」
「クウッ!!しまった!!!」
何時の間にかシルフィーモンの背後に存在していたアルケニモンの放ったスパイダースレットを、シルフィーモンはかわす事が出来ずに地面に拘束されてしまう。
その隙にマミーモンがパイルドラモンを拘束しながら、赤い目をしたままのブラックウォーグレイモンに向かって叫ぶ。
「ブラックウォーグレイモン!!今の内にホーリーストーンを破壊しろ!!・・・(ヘヘヘヘヘヘッ!!今の状態のブラックウォーグレイモンは、ホーリーストーンを破壊する事が優先だ!!元の瞳に戻ったら、すぐさま逃げれば良い!!)」
「・・・・・ハカイスル」
マミーモンが内心で呟いた言葉のとおり、ブラックウォーグレイモンは最も憎んでいる筈のマミーモンとアルケニモンに構わずに、ホーリーストーンに向かって歩き始める。
その姿にマミーモンとアルケニモンは歓喜するが、逆に大輔達は慌て始め、何とかパイルドラモン達を救う方法を考え始めると、上の方の道を歩いているタケル達をヒカリは発見し、タケルに向かって叫ぶ。
「タケルくぅぅぅぅぅーーーーん!!!!」
「うん?」
聞こえて来たヒカリの声にタケル達が下の方を見てみると、無言でホーリーストーンに向かって歩き続けるブラックウォーグレイモンと、マミーモン、アルケニモンに拘束されているパイルドラモン達を発見し、パタモンに慌ててD-3を取り出しながら声を掛ける。
「パタモン!!!」
「うん!!パタモン進化!!エンジェモン!!」
タケルの持つD-3から発せされた光を浴びたパタモンは、その体を一度データ分解させ、新たに再構成を行うと、背に六枚の白き翼を生やし、顔を仮面で覆い、手に金色に輝くロッド-“ホーリーロッド”を持った天使型デジモン-エンジェモンへと進化した。
エンジェモン、世代/成熟期、属性/ワクチン種、種族/天使型、必殺技ヘブンズナックル
光り輝く六枚の翼と、神々しい白き衣を纏った天使型デジモン、完全に善なる存在で、幸福を齎すデジモンと言われているが、反面、悪に対しては冷徹に非常で完全に消滅するまで攻撃を止めない。必殺技は、黄金に輝く拳の波動で相手を攻撃する『ヘブンズナックル』だ。
進化を終えたエンジェモンは、手に持っているホーリーロッドをブラックウォーグレイモンに構えながら接近し、ブラックウォーグレイモンに向かってホーリーロッドを全力で振り下ろす。
「ハアッ!!」
ーーーガアアン!!
エンジェモンが振り下ろしてホーリーロッドを、ブラックウォーグレイモンは無言で掲げたドラモンキラーで受け止め、感情の篭っていない視線をエンジェモンへと向け、右手のドラモンキラーを構え出す。
「・・・・・ジャマヲ・・・・・スルナ」
ーーードゴン!!
「ガハッ!!」
「エンジェモン!!」
ブラックウォーグレイモンのドラモンキラーで、殴り飛ばされたエンジェモンを見たタケルは叫ぶが、ブラックウォーグレイモンはタケルの叫びになど構わずに、両手のドラモンキラーをエンジェモンに向かって連続で振りぬき、次々とエンジェモンに向かって攻撃を繰り出して行く。
ーーードガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
「ウワァァァァァァァッ!!」
「エンジェモン!!」
「こんな奴に本当に心が在るんですか!?」
ブラックウォーグレイモンに連続で殴り続けられるエンジェモンの姿を見たタケルは、悲痛な声でエンジェモンの名を呼び、タケルの横で戦いを見ていた伊織は、ブラックウォーグレイモンの無慈悲な連続攻撃に、ブラックウォーグレイモンには本当に心が在るのかと疑問の叫びを上げた。
今のエンジェモンに対して攻撃を加えるブラックウォーグレイモンには、ガブモンが言っていた心の存在など一切感じられない。寧ろ今まで倒して来たダークタワーデジモンを思わせる。
しかし、逆に伊織の言葉を聞いたマミーモンとアルケニモンは焦りを覚えて、エンジェモンを攻撃し続けるブラックウォーグレイモンの姿を見始める。
(不味い!!何でアイツらがブラックウォーグレイモンの心の事を知ってんだよ!?)
(ブラックウォーグレイモンを受け入れでもされれば、計画に支障が出るどこじゃないよ!?本気で不味い!!)
マミーモンとアルケニモンに取ってブラックウォーグレイモンが大輔達の仲間に成るのだけは、本気で避けたかった。
何せブラックウォーグレイモンの実力は、完全体が二十体集まっても勝てないレベルだ。そんな存在が敵に回りでもすれば計画に支障が出る所か、計画自体の崩壊に繋がるのは先ず間違いない。
それだけは何としても阻止すべくマミーモンとアルケニモンはタケル達に向かって攻撃を放とうとするが、タケルが呟いている言葉を耳にして足を止める。
「・・・・・赦さない!赦さない!!こんな奴の存在は認めちゃいけないんだ!!」
「タケル・・・・・・私も同じ思いだ・・・・・コイツの存在だけは認める訳にはいかない!!」
(これは!!)
(大チャンス!!)
タケルとブラックウォーグレイモンに首を締め上げられているエンジェモンの考えを知ったマミーモンとアルケニモンは、内心で歓喜の声を上げた。
此処で一部でも大輔達の中にブラックウォーグレイモンの存在を認めない者がいれば、ブラックウォーグレイモンが大輔達の仲間に成る事は先ず無い。何せ自身の存在を深く悩んでいると言うのに、その考えも知らずに否定されれば、仲間に成る者など先ずいない。
その事をタケルとエンジェモンの言葉で瞬時に判断したマミーモンとアルケニモンは、ブラックウォーグレイモンとエンジェモンの戦いの様子を静かに見始めると、ブラックウォーグレイモンが締め上げていたエンジェモンを突如としてホーリーストーンの方に向かって投げ付け、エンジェモンはホーリーストーンに背中から激突する。
「ガハッ!!」
ーーーピカアァァァァァァァン!!
「この光は!?」
ホーリーストーンの前にエンジェモンが倒れ伏すと共に、ホーリーストーンは光り輝き辺りを照らし始める。
そのホーリーストーンの異変に誰もが驚くが、顔を俯かせていたタケルが突如として顔を上げる。
「ジョグレスッ!!いや!違う!」
「エンジェモン超進化ッ!!!」
タケルが叫ぶと共に、エンジェモンは立ち上がり、再びその体を進化させ始め、体を新たに再構成し、左腕に盾を備え、右手に剣-エクスキャリバーを持ち、背中に八枚の白き翼を生やした大天使デジモン-完全体のホーリーエンジェモンが姿を現す。
ホーリーエンジェモン、世代/完全体、属性/ワクチン種、必殺技/ヘブンズゲート
輝く8枚の銀翼を持った大天使型デジモン。ホーリーエンジェモンのデジタルワールドでの使命は法の執行官であり、多くの天使型デジモンを監督監視する役目を持っている。さらに、デジタルワールドの秩序を保とうとする“光”の意識の代弁者であり普段は神官の姿をしているが、“闇”の意識がデジタルワールドを覆った時、戦闘形態『バトルモード』に変化し悪を討つ。戦闘形態時には左腕のビームシールドと右腕に装備された”聖剣エクスキャリバー”で敵を葬り去る。必殺技は、右手の聖剣で亜空間への扉を出現させ、敵を吸い込む『ヘブンズゲート』だ。
「ホーリーエンジェモン!!」
「エンジェモンが完全体に進化した!!」
ホーリーエンジェモンの姿を目撃した大輔は喜びの声を上げ、他の者達も嬉しそうに顔を笑みで歪める。
これで完全体が三体、大輔達の仲間に成った。旨くいけば、究極体で在るブラックウォーグレイモンにも勝てる可能性が出て来たのだ。
その事に気がついたマミーモンとアルケニモンは大輔達とは逆に焦りを覚え始め、慌ててブラックウォーグレイモンの背に向かって叫ぶ。
「ブラックウォーグレイモン!!さっさと倒しちまいな!!他の連中は私とマミーモンが押さえてやるから!」
「そうだぜ!ヘヘヘヘヘヘヘッ!!お前はその隙にホーリーストーンを破壊しろよ!!」
「・・・・・・・」
「何して・・・・・ん・・・・ま・・・さ・・・か?」
「アルケニモン?どうしたんだよ」
突如として怯え始めたアルケニモンの姿にマミーモンは質問するが、アルケニモンは答えずに怯えながら体を震わせ、後退りし始める。
同時にブラックウォーグレイモンはゆっくりと振り返り、アルケニモン達に“金色に輝く瞳”を憎しみに染めながらアルケニモンとマミーモンを睨みつける。
「ゲェッ!?・・ま・・マジかよ」
「・・・・貴様ら・・・・良く俺の前に姿を見せられたな?」
「いや・・・・その・・・・ちょっと待ちなよ!私らに構っている場合じゃないんだよ!!」
ブラックウォーグレイモンの質問に対して、アルケニモンは両手を前に出しながら声を出すが、ブラックウォーグレイモンは一切構わずに両手のドラモンキラーの爪先に赤いエネルギー球を作り出し、今度こそアルケニモンとマミーモンを抹殺しようとする
その姿にますますアルケニモンとマミーモンは焦りを覚え、何とかブラックウォーグレイモンを説得しようとしていると、ブラックウォーグレイモンの背後からホーリーエンジェモンが叫んで来る。
「ブラックウォーグレイモン!!私は、闇から生まれた貴様の存在を認めない!!」
ーーーギシッ!!
「・・・・・な・・・・・ん・・・・・だ・・・・と?」
ホーリーエンジェモンの言葉に、ブラックウォーグレイモンは自身の心が軋むのを感じながらホーリーエンジェモンへと振り返る。
命の危機が減ったことにアルケニモンとマミーモンは安堵の息を吐きながら、静かにホーリーエンジェモンとブラックウォーグレイモンを見つめ始める。
「・・・・・・貴様・・・・・今何と言った?」
「お前の存在を認めないと言ったんだ!!お前は闇の力と意識から生まれた存在!!お前が存在しているだけで、この世界は危機にさらされてしまう!!」
「・・・・・止めろ・・・・・・貴様に俺の存在を否定される覚えなど無い・・・・・何も知らない貴様に俺を否定する権利などない!!」
ホーリーエンジェモンの告げる否定の言葉を否定するように、ブラックウォーグレイモンは声を荒げた。
自身の心の軋みが限界に至ろうとしている事を、ブラックウォーグレイモンは本能的に理解していた。だからこそ、ホーリーエンジェモンの言葉を否定するように声を荒げている上に、僅かに後方へと下がり始めている。
何故ホーリーストーンの破壊の前に意識が取り戻せたのかブラックウォーグレイモン自身にも分からない。だが、この場でホーリーエンジェモンの言葉だけは聞いてはいけないと思い、すぐにでも離脱出来るように構えを取り出すが、その前に遂にホーリーエンジェモンがブラックウォーグレイモンに取っての、死刑判決と同様の意味を持つ言葉を叫ぶ。
「お前には心と魂が在ると聞いた。ダークタワーデジモンには無い筈の心が。だが!!例え心を持とうと闇の力で生まれたお前はッ!!!」
「止めろ!!!それ以上言うなァァァァァァァァーーーーーー!!!!」
ホーリーエンジェモンの紡ごうとしている言葉に気がついたブラックウォーグレイモンは、ホーリーエンジェモンの言葉を止める為に飛び掛かり、無理やり止めさせようとするが、言葉は無常にも紡がれる。
「お前は!!“赦されない存在”だッ!!!」
ーーーバキィィィィィィン!!!!
「・・・・・・・」
ホーリーエンジェモンが言葉を言い終えた瞬間に、ブラックウォーグレイモンは自身の心が砕け散るのを感じ取り、顔を俯け始める。
そのブラックウォーグレイモンを見た大輔達は今までとは全く違うブラックウォーグレイモンの様子に首を傾げ始めるが、ヒカリだけはブラックウォーグレイモンから放たれている感情を敏感に感じ取った。
(何?何であんなに悲しげな雰囲気を纏っているの?何か違う!?何かがさっきまでとは違う!?)
ガブモンから話を聞いていないヒカリは、ブラックウォーグレイモンが纏い始めた悲しみに満ちた雰囲気の意味が分からず、内心で考え続ける。
しかし、ホーリーエンジェモンはそんなブラックウォーグレイモンの放っている雰囲気に気がつかず、右手に持っているエクスキャリバーを構え始める。
ーーースチャッ!!
「世界の為にも!私はお前を此処で…」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッッ!!!!!!!!!!」
『ッ!!!!』
ホーリーエンジェモンが言葉を全て言い終わる前に、突如としてブラックウォーグレイモンは顔を空に向け、形容する事が不可能なほどの大音量の咆哮を辺りに響かせた。
その咆哮には当て嵌める事が出来る意味を持つ言葉は存在していなかった。しいて言うのならば、憎しみと悲しみに、そして変える事が出来ないほどの絶望を心から味わった者だけが放てる咆哮だろう。
その咆哮を聞いた者達全員がその咆哮に含まれている感情に気がつき、体を震わせながらブラックウォーグレイモンを見つめるが、ブラックウォーグレイモンは構わずに咆哮を上げ続け、突如として糸の切れた人形のように力を脱力させ、低い笑い声を上げ始める。
「・・・・・ククククククッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ」
「お、お前は誰だ!?」
まるで幽鬼のような雰囲気を放ち出したブラックウォーグレイモンに、ホーリーエンジェモンは僅かに怯えながら質問した。
目の前に存在しているブラックウォーグレイモンは、先ほどまでの機械のような印象を受けたブラックウォーグレイモンとも、ホーリーエンジェモンの言葉を否定していたブラックウォーグレイモンとも違っていた。まるでこの世界の全てに絶望したと言う雰囲気だけしか、今のブラックウォーグレイモンは放っていない。
一瞬にして雰囲気がガラリと変わってしまった事にアルケニモンとマミーモンさえも恐怖を覚えながらブラックウォーグレイモンを見つめると、ブラックウォーグレイモンは突如としてその姿を全員の視界から消失させる。
『なっ!?』
完全に視界から消失したブラックウォーグレイモンに、その場にいる全員が目を見開き、慌ててブラックウォーグレイモンの姿を探そうと辺りを見回そうとした瞬間、ホーリーエンジェモン、アルケニモン、マミーモンが一瞬の内に岩山の四方に向かって吹き飛んでいく。
ーーードオオオオオオン!!
『ガハッ!!』
「ホーリーエンジェモン!!」
「何が、一体何が起きたんだ!?」
突如として吹き飛んだホーリーエンジェモン達に、タケル、大輔は叫び、ホーリーエンジェモン達を吹き飛ばした犯人を捜そうとする。
そして目から完全に光が消え失せたブラックウォーグレイモンが静かにホーリーストーンに向かって歩いているのを目撃する
「なっ!?何時の間にあそこまで移動していたんだ!?」
「分からないけど!!不味いわ!!」
賢の疑問の叫びに京は声を荒げながら叫ぶが、ブラックウォーグレイモンは止まらずにホーリーストーンの前まで移動すると、両手の間に巨大な赤いエネルギー球を作り出し、ホーリーストーンに向かって渾身の力を込めて投げ付ける。
「ガイアフォーーーーーースッ!!!!」
ーーーバキィィィィィン!!!
「そんな!?一撃でホーリーストーンが!?」
ブラックウォーグレイモンの放ったガイアフォースに寄って、一撃の下にホーリーストーンは砕け散り、それを見ていた伊織は信じられないと言うようにブラックウォーグレイモンの姿を見つめた。
それと共に、他の者達も同様にブラックウォーグレイモンを見つめていると、ホーリーストーンの在った場所から空間の歪みが起こり始め、再びチンロンモンの姿が映し出され始める。
ーーーシュウウン!!
「何だ!?」
「あのデジモンは一体何!?」
位相のずれの中に映し出されたチンロンモンを見つめた大輔と京は、見た事も無いチンロンモンに驚きと疑問の声を上げながら映像を見ていると、答えは大輔達に取って意外な所から放たれる。
「・・・・・チンロンモン」
『チンロンモン?』
ブラックウォーグレイモンが位相の中に映し出されているチンロンモンを見ながら名を呟くと、その場に居る全員が疑問の表情を浮かべながらブラックウォーグレイモンに目を向けた。
だが、ブラックウォーグレイモンは構わずに位相の中に映し出されているチンロンモンを見つめ、宣言を放つ。
「チンロンモン・・・・・俺は決めたぞ・・・・・このデジタルワールドを跡形も無く消滅させることを!!!!」
『ッ!!!!!』
ブラックウォーグレイモンの宣言を聞いた大輔達は眼を見開き、ブラックウォーグレイモンを見つめるが、ブラックウォーグレイモンは一切構わずに位相の中に映し出されているチンロンモンに向かって叫ぶ。
「手始めに貴様を消滅させる!!!その後に残りの四聖獣どもを殺し!!このデジタルワールドを跡形も無く消滅させてやる!!!!俺の宿命などもはや関係ない!!!俺は!俺自身の意思でこの世界を滅ぼす!!待っていろ!!」
ーーービュン!!!!
憎しみの決意に満ちた宣言をブラックウォーグレイモンは放つと、すぐさま空へと飛び立ち、音速を超えるスピードで次のホーリーストーンが在る場所に向かい出した。
そのブラックウォーグレイモンの後姿を見つめていた大輔達は、ブラックウォーグレイモンの宣言に恐怖を覚え始め、すぐさまブラックウォーグレイモンの後を追おうとするが、その背に向かって人間の姿に変化したアルケニモンとマミーモンが声を掛ける。
「ご苦労様だよ子供達」
「ヘヘヘヘヘヘヘッ!!感謝するぜ。お前達のおかげで、ブラックウォーグレイモンの奴は自分の意思でホーリーストーンを破壊する気になった。もうアイツはとまんねぇよ」
「自分の意思!?まさか!!ブラックウォーグレイモンは今まで自分の意思とは関係なくホーリーストーンを破壊していたのか!?」
「正解。アイツはね。自分の意思と関係なく、ホーリーストーンを破壊し続けていたのさ。序でに良い事を教えてやるよ。ホーリーストーンを破壊した後のアイツはね。悲痛さに満ちた叫びを上げ続けてたのさ。私らに邪魔されていたあんた達は知らないだろうけどね」
『ッ!!!!!』
アルケニモンが告げたブラックウォーグレイモンの真実に大輔達は目を見開き、ブラックウォーグレイモンが飛び立っていた空を見上げるが、既にブラックウォーグレイモンの姿は影も形も存在していなかった。
その様子を見ていたアルケニモンは笑いを堪えるように口元に手をやりながら、大輔達に背を向け、マミーモンと共にその場を去って行った。
そして十数分後。告げられたブラックウォーグレイモンの真実に誰もが落ち込み、顔を暗くしながら歩いていると、エレキモンとツノモンが前方から現れ、ヒカリとテイルモンに声を掛ける。
「用事終わったの?」
「・・・・・・うん・・・・・終わったから、約束を果たすね」
「じゃあっ!こっちに来て!!待っている間にね!僕達が探しているデジモンの絵を地面に描いたんだ。姿が分かった方が良いからね!!」
そうツノモンはヒカリ達に告げると、エレキモンと共に前に進みだし、ヒカリ達は顔を俯かせながらエレキモンとツノモンの描いた絵の在る場所へと辿り着き、困惑した表情をしながらエレキモンとツノモンの描いた絵に目を向ける。
「・・・・・そ、そんなッ!?」
「本当に!本当にこのデジモンがお前達を助けたんだな!?」
「本当だよ!!僕達はこのデジモンに命を助けて貰ったの!!」
「そうだよ!!この黒い姿をしたデジモンに間違いないよ!!」
大輔の叫びに対してエレキモンとツノモンは力強く宣言し、大輔達は悲痛さに満ちた表情をして地面に描かれている絵を見つめ始める。
地面に描かれたエレキモンとツノモンの絵。
上手とは決して言えないが、それでも助けたデジモンの正体はハッキリと大輔達は分かった。
襲い掛かるマンモスのようなデジモンから、エレキモンとツノモンを護る様に立ち塞がるブラックウォーグレイモンの姿が、地面には描かれていたのだった。