多くの白い雪が降り積もり、一面が白銀に覆われた雪山。
しかし、本来ならば幻想ささえも感じさせる場所であるに関わらず、今その場所は白い体毛で覆われ、骨のようなものを握り締め、体と顔が一体と成っている珍獣型デジモン-『モジャモン』達が全身に重傷の傷を負いながら倒れ伏していた。
そのモジャモン達の倒れている間には何が通ったような足跡が真っ直ぐに続いている。
モジャモン、世代/成熟期、、属性/ワクチン種、種族/珍獣型、必殺技/アイスクルロッド、骨骨ブーメラン
白い毛に包まれた珍獣型デジモン。雪山に生息していて、なかなか出会えないので長い間空想上の存在とされていた。聖地と考えている自分の縄張りを荒らしたものは絶対に許す事は無い。必殺技は、大気中の水分を凍らせて作り上げたつららで攻撃する『アイスクルロッド』と、氷づけにされていた古代デジモンの骨を投げつける『骨骨ブーメラン』だ。
「酷いもんだねぇ」
雪に刻まれている誰かが歩いたような後を追うようにアルケニモンとマミーモンは歩き続けながら、全身を襲う苦痛に苦しみ続けているモジャモン達の姿を見て、恐怖を覚えていた。
「ヒエェ〜〜、コイツは本気でやばいぜ。手加減もくそもねぇ。完全に暴走していやがる」
「そうさね。この様子だと、何体かのモジャモンは死んだと見て間違いないねぇ・・・・・絶対に私達の姿を、今の奴だけには見られる訳にはいかないよ、マミーモン」
「あぁ、アイツは俺達を心の底から憎んでいる。俺達の姿を見た瞬間に、殺しに来るからな。絶対に見つからねぇようにしないとな」
「そう言う事さ。とにかく、ホーリーストーンの破壊だけでも確認…」
ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
『ッ!!!』
突如として響いて来た大音量の爆発音に、アルケニモンとマミーモンは目を見開き、顔を見合わせると同時に頷き、ソッと忍び足で大音量の聞こえた場所の方に向かって歩き出す。
そして近くの岩場の影から様子を覗いて見ると、リングが巻かれた巨大な石-ホーリーストーンを護るように立ち塞がる透き通るような青い炎で全身を覆い、赤い目をした火炎型デジモン-ブルーメラモンと戦っているブラックウォーグレイモンの姿を目にする。
ブルーメラモン、世代/完全体、属性/データ、ウィルス種、種族/火炎型、必殺技/アイスファントム
超高温で全身が透き通るような青い炎で燃えている火炎型デジモン。とても荒々しい性格で、触れるもの全てを焼き尽くすため、手なづけるのは不可能に近い。寒い地域でも全然平気だ。赤く燃える目はブルーメラモンの熱い性格を表している。必殺技の『アイスファントム』は、冷たい炎のつまった不気味な黒い球体を敵に撃ちこみ、相手の心と体を凍りつかせる技だ。
「ハァ、ハァ、ハァ、化け物が!」
「どけ。俺はホーリーストーンを破壊しに来た。退かないのなら、貴様は消える事に成るぞ」
「させん!!ホーリーストーンはこの世界の安定を護る物!!それを破壊する事など!絶対にさせん!!増してや!貴様のような闇の存在などには、絶対に破壊させんぞ!!」
「・・・・・」
ブルーメラモンの宣言を聞いたブラックウォーグレイモンは無言でブルーメラモンと、その背後に存在しているホーリストーンを睨みつけた。
この瞬間に、ブルーメラモンの命運は決まった。ただでさえ暴走している状態の上にブラックウォーグレイモンの神経を完全に逆撫でするような言葉を言ってしまったのだ。現在のブラックウォーグレイモンの状態を知っているアルケニモンとマミーモンは、この後に起きる惨劇を予想し、顔を青くしながら神など信じてもいないくせに、本気でブルーメラモンの冥福を祈ってしまう。
しかし、その様な危機が自身に迫っている事を知らないブルーメラモンは、両手から冷たい冷気を発している青い炎を出現させ、ブラックウォーグレイモンに向かって放つ。
「食らえ!!コールドフレイムッ!!!」
ーーーガキィィィィィン!!
ブルーメラモンの放ったコールドフレイムをブラックウォーグレイモンは避ける行動も取らずにその身に受け、左腕が凍り付いてしまう。
その様子を確認したブルーメラモンは、自身の体の炎を突如として燃焼をし始め、次々と自分と同様の姿をした幻影をブラックウォーグレイモンの周りに生み出していく。
「ビジョンバインドッ!!フフフフフフッ!!どれが本物かわか…」
「貴様だろう?ムン!!」
ーーードゴン!!
「ガハッ!!」
全ての言葉をブルーメラモンが言い終わる前に、ブラックウォーグレイモンは迷わずに自身の周りに動き回っていたブルーメラモンの一体を右腕で殴り飛ばした。
それと共にブルーメラモンが作り上げて幻影は全て消失してしまい、ブラックウォーグレイモンは倒れているブルーメラモンを見下ろす。
「つまらん小細工は止めろ。例え幻影を生み出しても、その者が気配を隠していなければ、無意味なものでしかない」
「馬鹿な・・・・・・私は気配を消していた筈だ・・・・なのに、何故私の位置が!?」
「貴様の気配の消し方が、幼稚だからだ。さて、もう気は済んだな」
ーーーバキィィィン!!
「ッ!!!」
ブラックウォーグレイモンは言葉と共に凍り付いていた左腕を動かし、一瞬の内に左腕に纏わり付いていた氷を粉砕した。
その事にブルーメラモンは驚いた表情をするが、ブラックウォーグレイモンは構わずにブルーメラモンは目の前に瞬時に移動し、ブルーメラモンの顔面を横合いから両手で掴み上げる。
ーーーガシッ!!ギリギリギリッ!!
「ガアァァァァァァァァァッ!!!」
掴み上げられると同時にまるで万力に締め付けられているような苦痛を感じたブルーメラモンは悲鳴を上げ、何とか苦痛から逃れようとブラックウォーグレイモンに拳や足などぶつけ始める。
しかし、ブルーメラモンの渾身の力を込めた打撃を食らっても、ブラックウォーグレイモンは平然とし続け、ゆっくりとブルーメラモンの顔を掴みながら空に上昇し始める。
「なっ!何をする気だ!?」
「貴様はホーリーストーンが大切な物だと言っていたな。成らば、ホーリーストーンと共に消滅させてやろう」
「な、何だと!?止めろ!!ホーリーストーンが砕けたら、どうなると思っているんだ!?」
「知っている。だが、もはや関係ない!ホーリーストーンを護りたいのならば、その身でホーリーストーンを護るが良い!!」
「ウワァァァァァァァッ!!」
ブラックウォーグレイモンは叫ぶと共に掴み上げていたブルーメラモンを、ホーリーストーンに向かって勢い良く投げ付け、ブルーメラモンは悲鳴を上げながらホーリーストーンに背中からホーリーストーンに激突する。
「ガアッ!!」
「消えろ。ガイアフォーーース!!!」
「ウワアァァァァァァァァァーーーーーーー!!!!」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
ブルーメラモンを投げると同時に作り上げていた巨大な赤いエネルギー球-ガイアフォースをブラックウォーグレイモンは、ホーリーストーンとブルーメラモンに向かって投げ付け、ブルーメラモンは悲鳴を上げながらホーリーストーンと共にその身をガイアフォースに飲み込まれた。
同時に巨大な爆発が起こり、爆発の後にはホーリーストーンもブルーメラモンも存在せず、巨大な穴だけが地面に広がっていた。
それを確認したブラックウォーグレイモンはゆっくりと自身の両手に目を向ける。
「・・・・・何も感じない・・・・・命を奪ったのにも関わらず、俺の心は何も感じない・・・・・・異物か・・・・・俺はこの世界に置ける本当の異物・・・・・・成らば、異物らしく、この世界を破壊しつくしてやる!!次は海のホーリーストーンだ!!すぐに破壊してやるぞ!!」
ーーービュン!!
ブラックウォーグレイモンは叫ぶと共に、海の在る方角へと衝撃波を引き起こしながら向かい出した。
その後姿を岩場に隠れて見ていたアルケニモンとマミーモンは、ブラックウォーグレイモンが作り上げた巨大な穴の方に目を向け、体を恐怖に振るわせる。
「容赦が無さ過ぎるぜアイツ・・・・・間違いねぇよ。アイツは完全に暴走してやがる」
「そうだねぇ・・・・・今のアイツに取って、自分の邪魔をする者は全部敵だよ。特に私らはアイツに憎まれてる・・・・・こうなれば、マミーモン!私らは最後のホーリーストーンを探すよ!!」
「エッ?」
「少しでも今のアイツの視界に入るのは本気で不味いんだよ!どうもアイツは次のホーリーストーンの場所も知っているみたいだし。だったら、私らは最後のホーリーストーンの探索に力を入れた方が良いからね」
「あぁ、成るほど」
マミーモンはアルケニモンの言葉に納得の声を出した。
現在のブラックウォーグレイモンは歩く核爆弾並みに危険な存在に成っている。特にアルケニモンとマミーモンに対する憎悪は生半可なものではない。自分と言う“呪わしき異物”を生み出したアルケニモンとマミーモンの事を、ブラックウォーグレイモンは本気で消滅させたいと思っている。
そんなブラックウォーグレイモンの前にアルケニモンとマミーモンが姿を見せれば、確実に抹殺されるだろう。だからこそ、アルケニモンはブラックウォーグレイモンの後を追わずに、最後のホーリーストーンを探索する事を決めたのだ。
既にブラックウォーグレイモンが大輔達の味方をする確立は限りなく低い。世界を滅ぼす事しか考えてない今のブラックウォーグレイモンが、今更大輔達の言葉で止まるとはアルケニモンとマミーモンも思えない。その上、今の状態にブラックウォーグレイモンが成った原因はタケルとパタモンに在る。其処から考えても、ブラックウォーグレイモンが大輔達の仲間に成る可能性は存在しない。
その事が在るからこそ、アルケニモンは安心して最後のホーリーストーンを探索する事を選んだのだ。
「行くよ。手っ取り早く最後のホーリーストーンも探し出して、ブラックウォーグレイモンに破壊して貰わないとね」
「ヘヘヘッ!了解だぜ。じゃあ行くかアルケニモン」
アルケニモンとマミーモンはそう言い合うと、苦痛に苦しみ続けているモジャモン達の間を素早く駆け抜け、後にはブラックウォーグレイモンが作り上げた惨劇の光景だけが、雪山に色濃く残されるのだった。
一方その頃。新たにホーリーストーンが破壊された事も知らずに、大輔達はブラックウォーグレイモンと直に話をしたアグモンに会う為にアグモンが護っているエリアへと来ていた。
しかし、そのアグモンが護っているエリアにはアグモンの姿は影も形も存在せず、代わりに武之内空(たけのうちそら)のパートナーデジモンであるピンク色の色合いに、鳥のような体と羽を持ったデジモン-『ピヨモン』がエリアを護っていた。
ピヨモン、世代/成長期、属性/ワクチン種、種族/雛鳥型、必殺技/マジカルファイヤー
翼を腕のように器用扱い、物を掴む事が出来る雛鳥型デジモン。普段は地上で生活しているが、危険がせまると飛んで逃げようとする。しかし飛行能力はほとんどなく、パタモンと良いとこ勝負である。必殺技の『マジカルファイヤー』は、相手を幻影の炎で攻撃し、精神的ダメージを与える技だ。
「アグモンなら居ないわよ」
「何処に行ったか分からないか!?」
「・・・・・約束を果たしに行くって言っていたわ。その為に私に代わりにこのエリアの事を頼んだのよ」
『約束?』
ピヨモンが告げたアグモンの行き先に、大輔達は疑問の声を上げた。
エリアを護る筈の任務が在るアグモンに、どんな約束が在るのか分からなかったのだ。アグモンもエリアを護る任務の重要性は承知している筈。しかも、アグモンは責任感がかなり強い。ちょっとした理由ならば、エリアを護る事を重要視する筈だ。にも関わらず、アグモンはエリアを離れて行方不明に近い状態に成っている。
アグモンの性格を知っている大輔達からすれば、アグモンの今の行動は疑問を覚えるのに充分な事だった。
その事はピヨモンも分かっているのか表情を険しく変えて、大輔達に顔を向ける。
「・・・・・アグモンに会いに来た理由の予想はついているわ・・・・ブラックウォーグレイモンの事よね?」
「・・・・・あぁ、俺達はブラックウォーグレイモンを暴走させてしまったんだ・・・・・苦しんでいた事も知らずに、一方的に否定してしまった」
ピヨモンの質問に対して、大輔は顔を暗くしながら答え、他の者達も同様に、特に暴走の切欠を作ってしまったタケルとパタモンは他の者達よりも更に顔を暗くしながら俯かせていた。
自分達があの時にブラックウォーグレイモンを否定しなければ、ブラックウォーグレイモンは暴走する事は無かったのではと思いながら。しかし、もはや後悔しても遅い。既にブラックウォーグレイモンは暴走し、大輔達は知らないが更にホーリーストーンを消滅させてしまった。ブラックウォーグレイモンの暴走はもう止まらないのだ。
その事に改めて気がついた大輔達は更に表情を暗くし、ピヨモンはその様子に最悪な方向へと現状が移動した事を確信した。
「・・・・詳しいことは良く私も分からないんだけど・・・・ブラックウォーグレイモンはデジタルワールドに害を及ぼすのは間違いないみたいなの・・・本人がアグモンにそう言っていたらしいわ」
「知っているの、ピヨモン?ブラックウォーグレイモンの正体を?」
「・・・・・全部では無いけど・・・ブラックウォーグレイモンがアグモンに教えた事を全て聞いたわ・・だけど、どうしても分からない事が在るの」
ヒカリの質問に対してピヨモンは険しい声を出しながら答えた。
ブラックウォーグレイモンに関する重要な部分の話だと大輔達は感じ、真剣な顔をしてピヨモンの言葉を待つ。
「彼はどう言う訳なのか分からないけど・・・三年前の私達の旅の事を知っているみたいなのよ。このデジタルワールドで起きた出来事を全て知っているとアグモンに言ったみたいなの」
「ッ!!あの旅の事を!?」
「そんな!在りえない!!あの旅を僕達以外に知る者はいない筈だ!?」
ピヨモンが告げた事実に対してヒカリとタケルは声を荒げ、他の者達も信じられないと言う表情をしながら困惑し始める。
ピヨモンの言葉が事実だとすれば、ブラックウォーグレイモンはヒカリ達-1999年の選ばれし子供達しか知らない旅の内容を知っていると言う事になる。しかし、あの旅の詳細を知る者はヒカリ達だけしかいない筈。大輔達ですら知らないヒカリ達の詳細な旅の出来事を、少し前に生まれた筈のブラックウォーグレイモンが知っている筈が無いのだ。にも関わらず、ブラックウォーグレイモンは全てを知っているとアグモンに告げた。
それが事実だとすれば、ブラックウォーグレイモンにはダークタワーデジモンと言う事に関する秘密以外の何かしらが存在していると言う事に成る。
「それに彼はアグモンに倒されようとした時に、気に成ることをアグモンに告げていたみたいなの。『自分が存在する限り、この世界を守護しているデジモンは目覚めない』と、言っていたらしいのよ」
「この世界を守護しているデジモン?何だそれ?」
「そんなデジモンが存在しているのか?」
大輔とブイモンはピヨモンが告げた更なる事実に対して疑問の声を上げた。
この世界を守護しているデジモン。その様なデジモンの存在は長くこの世界に関わっているヒカリとタケル、テイルモン、パタモンも聞いた事はない。デジタルワールドの存在を知って日が浅い大輔、京、伊織にしても知らないのは当然だろう。
では、賢ならばどうなのかと思い、全員が賢の方に顔を向けてみると、賢とワームモンも知らないと言うように首を横に振るい、一同は尚更深まった謎に対して首を傾げ始めてしまう。
その様に大輔達が更に現れた謎に対して考えを巡らせていると、前回の時にブラックウォーグレイモンが叫んだ言葉の中に在った言葉を京は思い出す。
「アッ!!もしかして!あの時のホーリーストーンを破壊された後に映し出されたデジモンがそうなんじゃないの!ほら!ブラックウォーグレイモンはチンロンモンって言うデジモンを消滅させて、この世界を消滅させるとかって言っていたじゃないの!!」
『アッ!!』
京の言葉にピヨモンを除いた全員が声を上げ、ブラックウォーグレイモンの宣言を思い出した。
確かにあの時にブラックウォーグレイモンはチンロンモンを消滅させると宣言していた。その事を思い出した全員がブラックウォーグレイモンの真の狙いに気がつき、顔を見合わせ始めるが、伊織だけは疑問の表情を浮かべて、京に声を掛ける。
「待って下さい。ブラックウォーグレイモンの狙いが本当にそれだとして、如何してホーリーストーンを破壊するんですか?自分が倒されない限り、目覚めないと断言していたのに?」
「・・・・・多分、他にもあのデジモンを、チンロンモンを目覚めさせる方法が在るんだ。そしてその方法の為にはホーリーストーンの破壊が必要なんだよ。その為にブラックウォーグレイモンはホーリーストーンの破壊に向かったんだ」
伊織の疑問に対してタケルが表情を暗くしながら答えた。
今のブラックウォーグレイモンの目的がチンロンモンを消滅させる事ならば、それ以外にホーリーストーンを破壊する理由は存在しない。暴走しているブラックウォーグレイモンの最終目的は“デジタルワールドの完全消滅”。それ以外にはホーリーストーンを破壊する理由は存在しないだろう。
その事に改めて気がついた大輔達は、更に表情を暗くし、自分達がこれから如何すべきなのかと考え始めていると、空からテントウ虫に似た姿をした昆虫型デジモン-泉光子郎(いずみこうしろう)のパートナーデジモンであるテントモンが、慌てながら大輔達に向かって飛んで来た。
テントモン、世代/成長期、属性/ワクチン種、種族/昆虫型、必殺技/プチサンダー
テントウ虫のような昆虫型デジモン。てんとう虫のような昆虫型デジモン。全身が硬い殻に覆われている。鋭いツメと、その他の昆虫型デジモンを見る限り狂暴そうなイメージを持ちがちだが、このデジモンは攻撃性は低い。中肢を人間の手のように器用に扱い 物を掴んだりする事が出来る。必殺技は羽を擦って、増幅させた静電気を敵に飛ばす『プチサンダー』だ。
「大変や!!雪山に存在していたホーリーストーンがブラックウォーグレイモンに破壊されてしもうた!!しかも護りについていたモジャモン達やブルーメラモンが、ブラックウォーグレイモンに倒されたそうや!!」
『ッ!!!』
テントモンが告げた事実に大輔達はギョッと目を見開き、テントモンを見つめ始めると、テントモンはゆっくりとピヨモンの傍に降り立ち、事情を説明し出す。
「ほんの数時間前ぐらいに、ブラックウォーグレイモンがホーリーストーンの在った雪山に姿を現し、ホーリーストーンを破壊したそうや。しかも、ホーリーストーンを護っていたモジャモン達とブルーメラモンを容赦なく攻撃して、ブルーメラモンと何体かのモジャモンを・・・・・・“殺した”見たいや」
「そ、そんな!?」
「マジかよ!?」
「まだ、二日しか経っていないのよ!?それなのに如何してブラックウォーグレイモンがホーリーストーンの在った場所を見つけられたの!?」
テントモンが告げた事実に対して、ヒカリ、大輔は声を上げ、京は疑問の叫びを上げた。
今までホーリーストーンをブラックウォーグレイモンが破壊するのには、数日間の猶予が存在していた。しかし、今回は前回のホーリーストーン破壊から二日しか経っていない上に、見つけるのが困難な筈のホーリーストーンをブラックウォーグレイモンは簡単に察知した。いかにホーリーストーンの探知能力がブラックウォーグレイモンに備わっていたとしても、時間的に考えても早過ぎるのだ。
その事に気がついた者達全員がブラックウォーグレイモンの異常さを改めて認識すると、テントモンがブラックウォーグレイモンの行方を語り出す。
「ブラックウォーグレイモンはホーリーストーンを破壊した後に、迷わずにイッカクモンがホーリーストーンを探索している方向に向かったみたいなんや・・・・ブラックウォーグレイモンは探知能力とは別に、大まかにやけど、ホーリーストーンの存在する場所を知っている可能性が在るって、光子郎はんは言っとりましたわ」
「何だって!?」
「不味いぞ!!もし本当にブラックウォーグレイモンがホーリーストーンの在り処を知っていると成れば、僕達がホーリーストーンを見つける前に破壊されてしまう可能性が高過ぎる!!そうなれば、このデジタルワールドは崩壊してしまう!!」
『ッ!!』
賢の告げた可能性に対して全員が目を見開いた。
もし本当にブラックウォーグレイモンが残っている全てのホーリーストーンの在り処を知っていると成れば、大輔達がホーリーストーンを発見する前に、全てのホーリーストーンが破壊されてしまう可能性が高い。そうなれば、デジタルワールドの消滅も時間の問題だろう。
その事に気がついた大輔達は表情を更に暗くし始めると、ヒカリがゆっくりと顔を上げ、その場に居る全員に声を掛ける。
「・・・・・止めよう・・・・今更ブラックウォーグレイモンからすれば、何を言っているかと思われるかも知れないけど、ブラックウォーグレイモンを止めよう!!」
「ヒカリ・・・・」
「・・・・ヒカリちゃん」
ヒカリの宣言に対して、テイルモン、京はゆっくりと顔を上げ、他の者達もヒカリの姿を見つめ始める。
「私達のせいでブラックウォーグレイモンは暴走してしまった・・・・・だけど、このままブラックウォーグレイモンを暴走させ続ける訳にはいかないよ・・・・・今のブラックウォーグレイモンの進んでいる先には、悲しみしか待っていない。ブラックウォーグレイモンも更に苦しんでしまう・・・・・だから!ブラックウォーグレイモンを倒すんじゃなくて!助けよう!!それが今の私達に出来るブラックウォーグレイモンへの償いだよ!!」
「・・・・・そうだな。ヒカリちゃんの言うとおり、ブラックウォーグレイモンは止めるしかない」
「知らなかった事では、僕らがブラックウォーグレイモンにした事は赦されない・・・・・だったら、ブラックウォーグレイモンにこれ以上罪を重ねさせないのが、僕らに出来る償いだ」
ヒカリの言葉に対して、大輔と賢はそれぞれ言葉を言い、他の者達も頷き出す。
今のブラックウォーグレイモンの暴走の原因は全て大輔達の行いこそが原因。特にタケルとパタモンは、自分達の考えこそが原因だったと深く反省し、ブラックウォーグレイモンを止めなければと考えていた。
そして全員がブラックウォーグレイモンに対する考えを固めると、すぐさまテントモンにイッカクモンがホーリーストーンを探索している場所の詳細を聞き、全員が急いでその場所へと向かい出した。
「・・・・・ねえ、テントモン?アグモンは間に合うと思う?」
「・・・・難しいやろうな・・・・・ブラックウォーグレイモンの移動速度は異常や・・・・・例え間に合ったとしても、ブラックウォーグレイモンにアグモンは勝てへん。太一はんが居っても成熟期への進化が精一杯のアグモンじゃ、ブラックウォーグレイモンに勝てる可能性は無いとしかいえへん」
「・・・・・・『ウォーグレイモン』にさえ、アグモンが進化出来れば・・・・」
走り去って行く大輔達の背を見ながら、ピヨモンとテントモンは自分達の仲間であるアグモンの事を心配するのだった。
三日後。大輔達はイッカクモンが発見したホーリーストーンの存在する海底の近くへと移動し、その海岸付近に存在する岩場で、ブラックウォーグレイモンが来るのをパイルドラモン、シルフィーモン、エンジェモンと共に待ち構えていた。
そしてホーリーストーンが存在する海の中には、多数の海系デジモン-イルカのような姿をした『ルカモン』の群れと、赤い色合いの体で、頭部には巨大なブレードを生やした海蛇のような姿をしたデジモン-『メガシードラモン』と、頭部にツノを生やし、白い体毛で体を覆ったデジモン-『イッカクモン』、そして伊織を体の中に乗せている潜水艦に似た姿をして、キザキザの長いツノのような鼻を生やしたアルマジモンが誠実のデジメンタルで進化した『サブマリモン』が配置されていた。
ルカモン、世代/成熟期、属性/ワクチン種、種族/水棲哺乳類型、必殺技/シェイキングパルス
会話を研究するソフトの特殊な信号から発生したイルカのような姿をした水棲哺乳類型デジモン。海の中でしか生活できないが、高速で泳ぐことが出来る。仲間同士では超音波で会話をする。必殺技の『シェイキングパルス』は、口から発する超音波を最高出力で発射する攻撃技だ。また、超音波を使い通信手段としても使えるぞ。
メガシードラモン、世代/完全体、属性/データ種、種族/水棲型、必殺技/サンダージャベリン、メイルシュトローム
シードラモン種が規則的進化して、体も一回り大きくなった形態の水棲型デジモン。頭部を覆う外殻が硬度を増し、頭頂部にイナズマ型のブレードが生えたことで兜の役割を果たし、防御力が増した他、ブレードには発電装置が仕込まれており、電撃を放つことも可能になった。知性や泳ぐスピードも発達し相手を執念深く追い回し仕留めるぞ。必殺技は頭部のブレードから放つ強力なイナズマ『サンダージャベリン』と、物凄い冷たい津波を起こし、敵を凍りつかせる『メイルシュトローム』だ。
イッカクモン、世代/成熟期、属性/ワクチン種、種族/海獣型、必殺技/パープーンパルカン
海獣型で頭部にツノを生やし、体を白い体毛で覆っているデジモン。吠える声はライオンに似ている。頑丈なカラダで、極寒の地でも生活できる。氷の上にいるときは、高熱を発してで足場をとかし、ツメをくいこませて安定させる。そのため足をすべらせることはない。頭のツノは伝説のレアメタル“ミスリル”で出来ており、何度でも再生可能。必殺技の『パープーンバルカン』は、ツノからミサイルを発射する技だ。
サブマリモン、世代/アーマー体、成熟期、属性/ワクチン種、フリー、種族/水棲型、必殺技/オキシジェンホーミング、サブマリンアタック
古代種のアルマジモンが誠実のデジメンタルで進化した水棲型デジモン。中に1人乗れるようになっていて、操縦も可能な為に、“乗り物デジモン”とも言われている。誠実のデジメンタルの力を100%発揮しており。水中では、どんな敵も寄せ付けない。余程の水棲型デジモンで無い限り敵わない相手だ。必殺技の『オキシジェントホーミング』は、超高圧の酸素を相手に向かって発射する技であり、もう一つの『サブマリンアタック』は、鼻先に存在するドリルを回転させながらもの凄いスピードで相手に突進する技だ。
「・・・・・反応が近付いて来てるわ」
岩場の影に隠れながらディーターミナルでブラックウォーグレイモンの反応を調べていた京は、ブラックウォーグレイモンが近付いて来ている事を同じように岩場に隠れている大輔達に報告した。
その京の報告を聞いた大輔達は表情を硬くし、ブラックウォーグレイモンの姿を見ようと岩場から様子を伺い始める。今の大輔達は出来る事ならば、ブラックウォーグレイモンとは戦いたくない。だが、暴走しているブラックウォーグレイモンを説得する為には、先ずは動きを止めなければ成らない。それにホーリーストーンも破壊される訳にはいかないので、何が在っても動ける状態にしているのだ。
そして遂に京の持つディーターミナルに映るブラックウォーグレイモンの反応が、間近に迫った瞬間、京はパイルドラモン達に向かって叫ぶ。
「来た!!」
『オォォォォォォーーーーーー!!!!』
京の言葉にパイルドラモン達は、ブラックウォーグレイモンを止めようと岩場から飛び出し、居るはずのブラックウォーグレイモンに向かって構えを取ろうとする。
しかし、反応が在るにも関わらず、ブラックウォーグレイモンの姿は地上にも空にも全く存在していなかった。
「なっ!?」
「一体何処に!?」
「京!!本当に反応は在るんだよな!?」
「在るわよ!!光子郎さんが作ってくれた機能よ!!間違う筈は無いわ!!」
「じゃあ、ブラックウォーグレイモンは一体何処に!?」
京の叫びにタケルは慌てて辺りを見回し始め、パイルドラモン達と大輔達も辺りを見回すが、ブラックウォーグレイモンの姿は影も形も存在していなかった。
その間にも京の持つディーターミナルにはブラックウォーグレイモンの反応が示され続け、遂に京達のいる場所を反応は通り過ぎるが、それでもブラックウォーグレイモンの姿は見えなかった。
「クソッ!!一体何処に居るんだ!?何で反応が在るのに!ブラックウォーグレイモンの姿が見えないんだよ!!」
「見えない・?・・・・・ッ!!まさか!?」
大輔の叫びを聞いた賢は何かに気がついたように慌てて地面に耳を押し付け、他の者達が賢の行動に疑問を覚え始めると、賢の耳に地面を掘るような音が届き始める。
ーーーガガガガガガガガガガガガガッ!!!
「ッ!!京さん!!すぐに伊織君に連絡を!!ブラックウォーグレイモンは地面を掘り進んで、ホーリーストーンを目指しているんだ!!」
『何だって!?』
賢の報告にパイルドラモン達は驚きの声を上げ、他の者達も信じられないと言う表情をするなか、京は急いで海中に存在している伊織にメールを送るのだった。
海の中。その場所では海面から来るであろうブラックウォーグレイモンに攻撃を行えるように、イッカクモン達とサブマリモンは海面を見つめていたが、突如としてサブマリモンの中に乗っている伊織の持つディーターミナルに京からのメールが届き、急いで内容を読んでみると、『ブラックウォーグレイモンは、地面の中を進んでいる』とメールには書かれていた。
それが分かった伊織は、すぐさまブラックウォーグレイモンの所在をイッカクモン達とサブマリモンに告げようとするが、その直前に海底の地面の中から黒い竜巻が飛び出して来る。
ーーードゴオオオオオオオオン!!
「ブラックトルネーードッ!!」
『なっ!?』
海底の地面から飛び出して来た黒い竜巻-ブラックウォーグレイモンの姿を見たイッカクモン達とサブマリモンは目を見開きながら声を上げた。
海面から来ると思っていたのにも関わらず、海底の地面の中からブラックウォーグレイモンが姿を現したのだから、予想外の事態に驚くのは当然の事だろう。
しかし、ブラックウォーグレイモンはイッカクモン達やサブマリモンの驚きなど一切構わずに、自身の体に力を集め始め、海底なのにも関わらずに自身の周辺に凄まじい勢いの炎を竜巻を発生させ始める。
「吹き飛べ!!!ブラックストームトルネーーードッ!!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
『ウワアァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!』
ブラックウォーグレイモンの発生させたブラックストームトルネードは、その凄まじい勢いを持って辺りの海水を蒸発させたばかりか、ホーリーストーンの周りを護っていたイッカクモン達を遠くへと吹き飛ばした。
そしてブラックストームトルネードの影響が治まった後には、ホーリーストーンの周りから約500メートルの範囲には海水が一切存在しない状況が作り上げられていた。
「嘘だろう・・・・・海を吹き飛ばしやがった・・・・」
ブラックウォーグレイモンが作り上げた状況を、陸の方から見ていた大輔は体を恐怖に震わせながら声を出し、他の者達も同様にブラックウォーグレイモンに恐怖を覚え始める。
しかし、ブラックウォーグレイモンはそんな大輔達の姿など気にせずに、ホーリーストーンを破壊しようとゆっくり前に進み始めるが、その足は突如として止まり、険しい表情をホーリーストーンの前に立っている伊織とアルマジモンに向ける。
「・・・・ほぅ。ホーリーストーンを盾にして、俺の技から逃れたか・・・・・随分と頭が回る」
「もう止めて下さい!!こんな事をしても貴方の心は救われない!!」
「心か・・・・・・下らん。そんなものはもうない。それに救いなどもう俺には必要ない」
『エッ!?』
伊織とアルマジモンはブラックウォーグレイモンの呟いた言葉に疑問の声を出した。
ブラックウォーグレイモンには心が宿っている。前回の事と、ピヨモンやガブモンの言葉からその事実を知った伊織とアルマジモンは、ブラックウォーグレイモンに声を掛けたのだが、ブラックウォーグレイモンはまるでもう心など存在していないと言うように伊織の言葉に答えた。心が存在していると思っていた伊織達からすれば、驚く以外には無いだろう。
しかし、ブラックウォーグレイモンからすれば当然の事だった。既に自分には心など存在していないと、ブラックウォーグレイモンは判断していた。
「俺にはもう心など存在しない・・・・・貴様の仲間が完全に俺の心を破壊した・・・・それに俺はこの世に生まれてから、ずっと考えていた。自らの存在が何なのかを・・・その答えがお前達のおかげで理解出来た。だから、俺はこの世界を崩壊させるのだ!!俺自身と言う“呪わしき異物”を創り出した世界を!!」
「“呪わしき異物”?」
「どう言う事ダギャア?」
ブラックウォーグレイモンが告げた言葉の意味が分からず、伊織とアルマジモンは首を傾げながら疑問の声を上げた。
“呪わしき異物”。その言葉こそがブラックウォーグレイモンに最も相応しい称号なのだ。しかし、今の伊織とアルマジモンには、ダークタワーが存在している理由も分かっていないので、ブラックウォーグレイモンの言葉の意味が全く分からなかった。
その伊織とアルマジモンの様子にブラックウォーグレイモンは、伊織達が真実まで辿り着いていない事を確信するが、ブラックウォーグレイモンはそれ以上伊織とアルマジモンの疑問には答えずに、ホーリーストーンに向かって足を進め始める。
「俺はホーリーストーンを破壊する。其処を退かなければ、貴様らも消滅させるぞ」
「止めて!そんな事をしても貴方は救われない!!」
「そうダギャア!!お前が進んでいる道に救いなんて無いダギャアッ!!」
「俺はそれこそを望んでいるんだ!!オォォォォォォーーーーーー!!!!」
アルマジモンの言葉にブラックウォーグレイモンは答えると共に、ホーリーストーンに向かって駆け出した。
それを見た伊織とアルマジモンはブラックウォーグレイモンを止めようと、ホーリーストーンの前で腕を広げ始めるが、その直前に上空からエンジェモンが伊織達の前に降り立ち、伊織とアルマジモンを腕の中に抱えて上空へと退避して行った。
しかし、ブラックウォーグレイモンはエンジェモンの行動を見ても走るのを止めずに、両手のドラモンキラーを前方に向かって構えながら、体を高速回転させ始め、再びその身を黒い竜巻に変えながらホーリーストーンに向かって突撃する。
「ブラックトルネーード!!!!」
黒い竜巻と化したブラックウォーグレイモンの突撃に寄って、ホーリーストーンは打ち砕かれた。
それと共にブラックウォーグレイモンが吹き飛ばしていた海水が一気に戻り、ホーリーストーンの残骸は海底へと沈んで行く。
ブラックウォーグレイモンはその間に空へと浮かび上がりながら、海岸で自分の姿を見つめている大輔達に顔を向ける。
「・・・・俺を救う気が本当に在るのならば、『聖なる中華の泉』を探すんだな。其処に最後のホーリーストーンが眠っている」
「ッ!!何でそんな事を私達に!?」
「さぁな。ただの気まぐれだ・・・・(貴様らにはチンロンモンを呼ぶと言う役割が存在している。奴を確実に呼ぶ為にも、貴様らには最後のホーリーストーンの下に来て貰わないと不味い。奴を確実に消滅させる為にも!!!)」
ヒカリの疑問の叫びに答えながら、ブラックウォーグレイモンは内心で策略を練っていた。
ホーリーストーンを全て破壊しただけでは、チンロンモンは目覚めない可能性が存在する。だからこそ、ブラックウォーグレイモンは知識どおり、ヒカリ達にチンロンモンを呼び寄せて貰うつもりだった。
最後のホーリーストーンの場所をヒカリ達に教えたのも、全ては“チンロンモンを消滅させるため”。
そして情報を伝え終えたブラックウォーグレイモンは、陸の方に向かって凄まじい勢いで向かいだし、ヒカリ達はその後姿を困惑した表情で見つめるのだった。