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漆黒の竜人となりし者 駆けつける勇気
作者:ゼクス   2012/07/12(木) 22:22公開   ID:sJQoKZ.2Fwk
 現実世界の八神ヒカリが家族と暮らすマンションの一室。
 その部屋の主であるヒカリの兄-八神太一やがみたいちは自身を訪ねに来た友人である泉光子郎いずみこうしろうと対面するように座りながら、、先日光子郎のパーナーデジモンであるテントモンからメールで届いた内容について話し合っていた。

「それじゃ、もうデジタルワールドを護っているって言うホーリーストーンは一個だけになっちまったのかよ?」

「えぇ・・ブラックウォーグレイモンはホーリーストーンを破壊していましたが・・どうやらブラックウォーグレイモンは自分の意思でホーリーストーンを破壊していた訳では無いようです。何者かに操られていたと考えるべきかもしれません・・ですが、今は違うらしいです」

「あぁ・・その件は俺も知っているよ・・ヒカリの奴・・かなり落ち込んでいたからな」

「知らなかったと言う理由は通じないでしょう・・どちらにしてもブラックウォーグレイモンを止めないといけないのは間違いは在りません・・ですが」

「ブラックウォーグレイモンの力は徐々に上がって来ているか」

「はい」

 太一の言葉に光子郎は険しい声を出しながら頷き、自身が持って来たパソコンを起動させて画面を太一に見えるように翳す。

「ブラックウォーグレイモンがアルケニモンに生み出された時よりも、今のブラックウォーグレイモンの反応が間違いなく増しています」

「ヒカリ達の完全体は『パイルドラモン』、『シルフィーモン』、それとタケルと伊織の完全体・・・合わせて三体だけか・・・戦力としては不安が確かに残るな」

「えぇ・・ブラックウォーグレイモンが動揺でもして隙が生まれれば勝算は見えるでしょうが・・・ブラックウォーグレイモンには得体の知れない点が在ります」

「アグモンの究極体の姿・・『ウォーグレイモン』の事を何でか知らないけど・・・ブラックウォーグレイモンは知っていた」

 太一と光子郎はテントモンから届いた情報の中にあった『ブラックウォーグレイモンがアグモンの究極体としての形態を知っている点』に不安を感じていた。
 荒唐無稽に近い考えだが太一と光子郎の脳裏には一つのブラックウォーグレイモンに関する推測が浮かんでいた。しかし、その荒唐無稽な考えが当たっているかもしれない状況証拠が、京の手によって光子郎に届いていた。

「最後のホーリーストーンが眠っている場所は『聖なる中華の泉』か・・・・なぁ、光子郎?俺達二人だけでも何とかデジタルワールドに迎えないか?アグモンやテントモンは成熟期までにしか進化出来ないけど・・今は少しでも戦力が必要なはずだ」

「無理ですよ・・僕らのデジヴァイスは大輔君達のD-3と違ってデジタルワールドのゲートは開けません・・偶然にゲートが開いても居ない限り・・・・・アッ!!」

「如何した?」

「ゲ、ゲートが・・・デジタルワールドへのゲートが・・開いています!!」

「ッ!?何だって!?」

 光子郎の叫びに太一は慌てて立ち上がり、光子郎が覗いていたパソコンの画面を見てみる。
 すると、確かにデジタルワールドに繋がるゲートが光子郎のパソコンに繋がっていることが示されていた。

「ど、どう言う事だ!?俺達のデジヴァイスじゃデジタルワールドへのゲートは開けられない筈なのに!?」

「・・誰かが開いてくれたのかもしれません」

「誰かって・・誰だよ?」

「・・・・・・・・考えられる人物は一人しか居ません・・多分僕の考えているとおり・・“あの人”だったらデジタルワールドに繋がるゲートを開けられるかもしれません」

 そう光子郎は告げながら、太一に“あの人”に正体を告げようとする。
 しかし、光子郎が告げる前にパソコンにメールが届き、太一と光子郎はそのメールを確認すると、迷う事無くデジタルワールドへと向かうのだった。





 デジタルワールドのとある場所に在る中華街。
 其処から程近い場所に存在する竹やぶの中を六つ目のホーリーストーンを破壊し終えたブラックウォーグレイモンは歩きながら、最後のホーリーストーンが隠されている『聖なる中華の泉』を探していた。

(この辺りの何処かに最後のホーリーストーンは存在している・・・・・もうすぐだ。もうすぐ、チンロンモンを消滅させる事が出来る!!その為にこの辺りのダークタワーは破壊せずにいたのだからな!!チンロンモン!!待っていろよ!!)

 ブラックウォーグレイモンは本気でチンロンモンを消滅させるつもりだった。
 その為にチンロンモンの力を封じ込めているダークタワーを破壊しないまま、ホーリーストーンを破壊し続けていた。自身の力に自信が無い訳ではないが、相手は四聖獣の一角を担っている神に匹敵するデジモン。どれだけの準備を行なっても必ず勝てると保証が出来る相手ではない。例え力が落ちているとしても勝てる可能性は良くて五分五分。悪ければ一割近く。更に必ず大輔達が邪魔をして来る。
 既にパイルドラモン、シルフィーモン、そして現れるであろう最後のジョグレス体の完全体に対する対策は充分に練っているが、それでも気を抜ける相手ではない。

“デジモンはパートナーの想いには必ず応える”

 その法則を知識として知っているブラックウォーグレイモンからすれば、大輔達も気が抜ける相手ではない。だからこそ、前回とその前のホーリーストーンの時には、大輔達が動けない状況や作戦を練る事で挑んだ。結果は最高の方へと状況は進んだが、それでも次もまた旨く行くとはブラックウォーグレイモンは思ってはいない。
 次のホーリーストーンは最後のホーリーストーン。大輔達も死力を尽くしてホーリーストーンを護る為に動くのは間違い無い。

(奴らも必ずこの地へと来る。そして俺と戦うだろうが、知識の中に在った連中の唯一の究極体である『インペリアルドラモン』にパイルドラモンが進化する為には、封印されているチンロンモンの力が必要。奴らは完全体までしか進化出来ない。この戦いは俺が必ず勝利し、この世界を必ず消滅させてやるぞ!!)

 そうブラックウォーグレイモンは内心で叫ぶと、ゆっくりと足を前に進ませ、竹やぶの何処かに存在している『聖なる中華の泉』を探索するのだった。





 デジタルワールドに存在する中華街の街中。
 その場所に大輔達はやって来ていた。ブラックウォーグレイモンが告げた最後のホーリーストーンの在り処である『聖なる中華の泉』の情報を調べる為に、先ずは中華に関係する所で情報を集めようとしているのだ。

「此処なら何か情報が、見つかるかも知れないわね」

「“聖なる中華の泉”。中華と言う名前が付いているんですから、中華街に住んでいるデジモン達ならば、何を知っているでしょうね、京さん」

 パートナーである京の言葉にそうホークモンは答えた。
 最後のホーリーストーンの在る場所がブラックウォーグレイモンのおかげで分かったとは言え、正確な位置まではブラックウォーグレイモンは告げていなかった。だからこそ、京達は正確な位置の情報を手に入れるために、中華街へとやって来たのだ。
 その京とホークモンの会話を聞いていたヒカリは僅かに苦笑を浮かべるが、すぐに表情を真剣に戻し、足元にいるテイルモンに声を掛ける。

「ブラックウォーグレイモンはこの辺りの何処かに居る。だけど、如何して私達に最後のホーリーストーンの在り処を教えたのかな、テイルモン?」

「分からないわ。だけど、何かの目的の為に私達を最後のホーリーストーンの下に来させようとしている可能性が高いと考えるべきでしょうね」

「“世界を滅ぼす”事が、今のブラックウォーグレイモンの唯一の目的・・・・・僕達さえも目的の為に利用しようとしているんだろうね」

 ヒカリとテイルモンの会話を横で聞いていたタケルが、落ち込んだ表情をしながら声を出した。
 今のブラックウォーグレイモンの考えを既にタケル達は、ブラックウォーグレイモンと直接会話が出来た伊織とアルマジモンから聞いている。その考えが変わっていなければ、タケル達を最後のホーリーストーンへと導く理由も、自分の目的の為としか思えない。
 その事を改めて思い知らされたタケルとパタモンは、顔を暗くさせながら俯かせてしまう。ブラックウォーグレイモンが今の状態に成ってしまっているのはタケルとパタモンの言葉のせい。しかも、伊織の報告でブラックウォーグレイモンには、もう“心”が存在していないと言う情報を知っている。
 本当ならば分かり合うことが出来たかも知れない存在と、完全に敵同士の関係に成ってしまった。
 その事が分かっているタケルとパタモンは更に深く落ち込むが、その前に伊織がタケルに声を掛ける。

「元気を出して下さい、タケルさん。間違いは誰でもあります。だったら、その間違いを正してブラックウォーグレイモンを救いましょう。それが僕らに出来るブラックウォーグレイモンへの唯一の償いなんです」

「落ち込んでいてもしょうがないダギャア。とにかく、情報を集めてブラックウォーグレイモンの先回りをするんダギャア」

「伊織君、アルマジモン・・・・・・そうだね」

「それが僕達に出来る事だよね」

 タケルとパタモンは伊織とアルマジモンの言葉に僅かに表情が、明るくなった。
 その様子に伊織とアルマジモンは笑みを浮かべ、様子を伺っていた大輔達も笑みを浮かべると、大輔が中華街の街中を指差し始める。

「よっしゃあ!!だったら先ずは情報を集める序でに・・・・・中華街の何処かで飯を食うぞ!!」

「賛成だぜ!!」

ーーードガシャアアアン!!

 大輔とブイモンの言葉を聞いた伊織は地面に転んでしまった。
 その様子に大輔とブイモンが首を傾げて伊織を見つめると、伊織は慌てて立ち上がり大輔に詰め寄る。

「待って下さい!!情報集めは良いんですけど!!何で食事の必要が在るんですか!?今はそんな事よりも、ブラックウォーグレイモンよりも先にホーリーストーンを見つけるのが重要です!!」

「だってよぉ。情報を手に入れる為にも、誰かには聞かないといけないだろう。それなら何処かで飯も食って於いた方が良いと思うぜ。それにブラックウォーグレイモンと戦う事に成った時の為にも、力は蓄えといた方が良いぜ」

「俺も同感だぜ!腹が減ったら、力が出ないからよ!」

 大輔の言葉に同意するようにブイモンは声を上げ、二人は顔を見合わせあうと中華街の方に向かって走り出す。
 その姿を見た伊織は、大輔とブイモンを止めようと声を上げようとするが、その前に京、ホークモン、ヒカリ、テイルモン、タケル、パタモンも大輔の後を追い始めた。

「私達も行きましょう」

「そうだね」

「大輔君とブイモンだけにするのは、心配だからね」

 京、ヒカリ、タケルはそう言い合うと、自分達のパートナーデジモンを伴い大輔とブイモンの後を追い始め、伊織は顔を俯かせ始めてしまう。

「もしかして・・・・この僕の考えのせいでタケルさんとのジョグレス進化が出来ないんじゃ?」

「伊織、元気を出すダギャア。絶対にジョグレス進化では出来る筈ダギャア。その為に伊織は色々と頑張っていたんだからダギャア」

「アルマジモン・・・・」

 アルマジモンの慰めの言葉に、伊織は顔を上げてアルマジモンを見つめた。
 ここ数日の間に、伊織は何故タケルとパタモンが闇の力に対して、何故あそこまで過敏に反応してしまうのかを、タケルの兄である石田ヤマトに聞いていた。二年前の最初の旅の頃に、タケルはパートナーだったエンジェモンが死んでしまい、その為に闇の力に対してだけは冷静でいる事が出来ないという事を、ヤマトから教えられていたのだ。
 その事を知った伊織は、何故ブラックウォーグレイモンの存在にタケルがあそこまで否定的だったのか納得したが、今回のその件がマイナスの方向へと向かってしまったのだ。
 そして伊織はアルマジモンに慰められながら、ゆっくりと大輔達の向かった方向にアルマジモンと共に向かうのだった。

 一方。先に中華街の街中へと入った大輔達は、近くに中華料理店が存在しているのを発見し、店中へと足を踏み入れてみると、卵のようなカラで体を覆い、顔と思われる部分のカラがギザギザに割れた姿をしているデジモン-『デジタマモン』と、空想上の生物バクに似た姿をして、前足に『ホーリーリング』を身に着けたデジモン-『バクモン』が料理や会計などを行なっていた。

デジタマモン、世代/完全体、属性/データ種、種族/パーフェクト型、必殺技/エニグマ、ナイトメアシンドローム
“全ての始まりと終り”『デジタマ』の姿をしたパーフェクト型デジモン。通常のデジモンからは進化することは無く別次元のデータと合わさらないと進化できないといわれている。デジタマそっくりの外骨格は、全ての攻撃を無力化させる。必殺技は、殻の中の本体がハートの形になり、敵の精神を破壊する『エニグマ』と、カラの中の本体が相手に向かって飛んで行き、全てを飲み込む暗黒の球体へと変貌する『ナイトメアシンドローム』だ。

バクモン、世代/成長期、属性/ワクチン種、種族/聖獣型、必殺技/ナイトメアシンドローム
バクの姿をした聖獣型デジモン。デジモンが見ている夢を食べて生きている。ワルい夢が大好物で、うなされているデジモンの夢を食べてくれるぞ。前足には聖なるデジモンの証である“ホーリーリング”をつけている。必殺技は、体内に取り込んだ悪夢を口から吐き出して、相手を恐怖へと落とす『ナイトメアシンドローム』だ。

「いらっしゃいませ〜」

「アレ?デジタマモン?中華店も始めたのか?」

「違いますよ。洋食店をやっているのは、仲間です。私と貴方達は初対面です・・さぁ、それで何にしますか?」

 デジタマモンは大輔の質問に答えると共に、注文を聞こうとする。
 大輔達はそれに答えようと、壁に関わっているメニューに目を向けようとするが、フッと目を店の奥のほうに向けてみると、大量のラーメンを食べているアルケニモンとマミーモンが存在していた。

『アアアッ!!』

『うん?』

 大輔達の大声が耳に届いたアルケニモンとマミーモンは食事を中断して、声の聞こえた方に目を向け、自分達の事を指差している大輔達を目撃し、慌てて椅子から立ち上がる。

「ッ!!子供達!?」

「如何して此処にいるんだぁ!?六つ目のホーリーストーンを護っているんじゃ!?」

「お前ら!!やっぱりお前らも最後のホーリーストーンを探していたんだな!?」

「最後のホーリーストーンだって?・・・・(と言う事は、六つ目のホーリーストーンは既に、ブラックウォーグレイモンの奴が破壊したって事かい。それに子供達がこの辺りに来ているって事は、この近くの何処かにホーリーストーンは存在している。運が向いて来たねぇ!!)」

 アルケニモンは大輔の叫びを聞いて状況を正確に分析した。
 ブラックウォーグレイモンの追跡を止めてから数日。アルケニモンとマミーモンは最後のホーリーストーンを探索し続けていたのだが、結局の所は影も形も見つけられなかった上に、手掛かりさえも掴む事は出来なかったのだ。その腹いせに自棄食いのように中華街に存在する料理店を食べ歩いていたのだが、大輔のおかげで全ての状況が知る事が出来た。
 その事にアルケニモンとマミーモンは喜びの笑みを浮かべながら、体を変化させ始め、アルケニモンは蜘蛛に似た姿をしたデジモンに、マミーモンは全身を包帯で覆って銃を右手に持ったデジモンに変化する。

「最後のホーリーストーンは必ず破壊するよ!!」

「ヘヘヘヘヘヘヘヘッ!!!さぁ、やり合おうか!!」

「クソッ!!ブイモン!!」

「おう!ブイモン進化ッ!!」

 大輔の言葉に答えるようにブイモンは叫び、その身をデータ分解させて、エクスブイモンに進化しようとする。
 その様子を見ていた京と伊織、タケルも自分達のパートナーにそれぞれD-3を掲げ、D-3から発せられる光を当て始める。

「エクスブイモン!!」

「ホークモン進化!!アクィラモン!!」

「アルマジモン進化!!アンキロモン!!」

「パタモン進化!!エンジェモン!!」

 デジモン達はそれぞれ成熟期体へと進化を遂げた。
 アルケニモン、マミーモンはその様子に警戒の構えを行い出し、エクスブイモン達に向かって攻撃を放とうとする。
 しかし、その前にエクスブイモンが胸に描かれているX模様から光線をアルケニモンに向かって発射する。

「エクスレイザーーー!!!」

「フッ!!成熟期のお前の攻撃なんて効かないよ!!」

 エクスブイモンの放ったエクスレイザーをアルケニモンは腕を振るう事で消滅させた。
 その様子をエクスブイモン達の後方で見ていた大輔は悔しそうに顔を歪めて、エクスブイモンの背に向かって叫ぶ。

「エクスブイモン!こうなりゃあパイルドラモンに進化だ!!」

「でも、スティングモンがいない」

「アッ!!しまった!!」

 エクスブイモンの言葉に、大輔は自分達のジョグレスパートナーで在る賢とスティングモンが来ていない事を思い出し、頭を抱え始める。
 その間にヒカリと京は互いに頷きあい、手に持っているD-3を同時に掲げ光を発し始めると、アクィラモンとテイルモンが同時に叫び出す。

「アクィラモン!!」

「テイルモン!!」

『ジョグレス進化ッ!!』

 アクィラモンとテイルモンは同時に叫び合うと、その体を光へと変え、一箇所に集まりシルフィーモンへと進化しようとする。
 しかし、二つの光がぶつかり合おうとした瞬間に、光は下の場所へと戻りだし、アクィラモンとテイルモンが再びその姿を現す。

『なっ!?』

「嘘!何でぇ!?」

「進化が出来ない!?」

「・・・・・そうか!!進化する為のエネルギーが足りないんだ!!お腹が空いているせいで!!」

 タケルはアクィラモンとテイルモンが進化出来なかった理由を叫んだ。
 その事を思い出した京達は焦りを覚え、逆にアルケニモンとマミーモンは笑みを浮かべながら、エクスブイモン達にニジリ寄る。

「コイツは本当に運が向いて来たねぇ。完全体に進化出来ないあんた達なら、私らでも充分に倒せるよ」

「ヘヘヘヘヘヘヘヘッ!!!コイツは本当に最高だぜ!!このまま、最後のホーリーストーンも破壊してやるぜ!!」

「クソッ!!まだ、『聖なる中華の泉』を見つけて無いって言うのによぉ!!・・このままじゃ!ブラックウォーグレイモンに『聖なる中華の泉』が破壊されちまう!!」

『“聖なる中華の泉”ッ!!!!』

 物陰から戦いの様子を伺っていたデジタマモンとバクモンは、大輔の告げた場所の名称に突如として驚きの声を上げた。
 その声に大輔達とアルケニモン、マミーモンは僅かに驚きと困惑を内服したような表情をしながら、デジタマモンとバクモンが隠れている場所を見てみると、デジタマモンとバクモンは慌てて店の外に向かって走り出していた。

「急ぐぞ、バクモン!!『聖なる中華の泉』に危機が迫っている!!あの場所を荒らす事だけは絶対にさせては成らん!!必ず護らなければ!!」

「了解です!!すぐに向かいましょう!!」

「『聖なる中華の泉』?・・・・・・・・・なるほどね。其処に最後のホーリーストーンが在るのかい!!マミーモン!!子供達よりも、先にあいつ等の後を追うよ!!場所が分からないとどうすることも出来ないからね!!」

「了解だぜ!!序でにスープの秘密も聞き出してやる!!」

 アルケニモンは子供達と戦うよりも、ホーリーストーンの探索を優先し、『聖なる中華の泉』が在るであろう場所へと向かったデジタマモンとバクモンの後を急いで追い掛けていく。
 それを見た大輔達も慌ててアルケニモン達を追おうとするが、その直前に伊織が叫ぶ。

「待って下さい!!今の僕達の状態じゃ、ブラックウォーグレイモン所か、アルケニモン達にも勝てません!」

「だけど!あいつ等が『聖なる中華の泉』にッ!!」

「大丈夫です。恐らくブラックウォーグレイモンは、僕達が『聖なる中華の泉』に辿り着くまでは、ホーリーストーンは破壊しない筈です。僕らを利用しようとしているなら、ホーリーストーンの破壊は少しの間は行わない筈です。だから僕達は、アンキロモン達を万全の状態にすべきです!!」

『伊織・・・・』

『伊織君・・・』

 伊織の考えに大輔達は納得の声を出した。
 大輔達も伊織の考えのとおりだと気がついたのだ。ブラックウォーグレイモンとは確実に戦う事に成る。その為にもエクスブイモン達を万全な状態にすべきなのは間違いない。
 相手は強大な力を有しているブラックウォーグレイモン。不完全な状態で勝てる可能性は0。
 だからこそ、伊織は大輔達に提案したのだ。

「先ずはブラックウォーグレイモンを止める為にも、エネルギーを蓄えてジョグレス進化を出来るようにしましょう。その為にも・・・・・食事を取りましょう」

「・・・・・・ヘッ!そうだな!」

「だったら、私は賢君にメールを送って、此処に来るように頼んでみるわね」

「じゃあ、私達は調理場で準備をして来るよ!」

 伊織の言葉に大輔達はそれぞれ動き出し、もうすぐ起きるであろう激闘の為に合流した賢とワームモンと共に英気を養うのだった。





 一方その頃。デジタマモン達を追い掛けていたアルケニモンとマミーモンは近くの竹やぶの中へと足を踏み入れ、見失ったデジタマモン達を捜索し続けていた。

「クソッ!!逃げられた!!折角ホーリーストーンの在り処が分かったのによぉ!!」

「落ち着きな、マミーモン。少なくともこの辺りの何処かにホーリーストーンが隠されている『聖なる中華の泉』って言う場所が在るのは間違いないよ」

「あぁ、そうだな。とにかくこの辺り一帯をくまなく探して…」

ーーーポタッ!!

『ッ!!』

 微かに聞こえて来た水の音にアルケニモンとマミーモンは慌てて顔を見合わせると、水の音が聞こえた方に向かって全力で駆け出す。
 そして駆け出した先には竹やぶの中に不自然なほどの空き地が存在し、その中心と呼べる場所に泉が存在していた。

『“聖なる中華の泉”ッ!!』

 捜し求めていた聖なる中華の泉を発見したアルケニモンとマミーモンは歓喜に満ちた叫びを上げて、急いで聖なる中華の泉に駆け寄り、辺りを注意深く調べ始める。

「間違い無いぜ、アルケニモン!!この泉から匂って来る良い匂いは、あの中華店の店のスープと同じ匂いだ!!」

「そんな事よりもホーリーストーンだよ!?私らはその為にこの場所を探していたんだからね。さっさと捜索するよ!!」

 アルケニモンはそうマミーモンに告げると、辺りを更に注意深く探し始め、ホーリーストーンを見つけようとする。
 しかし、そのアルケニモンとマミーモンに突如として影が被さる。
 そして迷いなど一切無くマミーモンの背に向かって影は蹴りを放ち、マミーモンを泉の中に叩き落す。

「ドアァッ!!」

ーーーバシャン!!

「マミーモン!!一体何処のど・・・・・い・・・・つ・・・・・」

 アルケニモンはマミーモンを蹴り飛ばした犯人の姿を見ようと後ろに振り返り、全身から冷や汗を流しながら体を振るわせ始める。
 アルケニモンの背後に居た者は両手に全身傷だらけの姿に成ったデジタマモンとバクモンを抱えて、アルケニモンとマミーモンを殺気を放ちながら見下ろしていた。その相手はアルケニモンとマミーモンが最も会いたくなかった相手-ブラックウォーグレイモン-が憎しみに染まった瞳でアルケニモンを睨み付けていた。

「やはり貴様らも来ていたか。この雑魚どもから話を聞いてもしやと思っていたが・・・・・・クックックックッ、丁度良いぞ。チンロンモンを消滅させる前に、貴様らを消滅させてやる」

「ア、ア、アァァァァァッ!!」

 アルケニモンは恐怖に染まった声を上げながら、ブラックウォーグレイモンから離れようと後退る。
 しかし、ブラックウォーグレイモンはアルケニモンの怯えた様子を見ても歩みを止めずに、両手に抱えていたデジタマモンとバクモンを近くの竹やぶの中に投げ飛ばし、両手のドラモンキラーの爪先にエネルギーを集め出す。

「消えろ」

「ヒィィィィィィッ!!」

ーーーバシャン!!

『ッ!!!』

 アルケニモンが恐怖の叫びを上げた瞬間に、アルケニモンの背後に存在していた聖なる中華の泉の中から、リングが巻かれた巨大な丸型の石-ホーリーストーンが出現した。
 それと共にホーリーストーンに巻かれていたリングにしがみ付いていたマミーモンが地面に落下する。

「痛っ!ヒェ〜〜、ホーリーストーンが泉の中に眠っているとは予想外だったなアルケニ…」

 マミーモンはアルケニモンに声を掛けようとするが、その視界の中にブラックウォーグレイモンを捉え、アルケニモンと同様に全身から冷や汗を流し出す。
 その様子を見たブラックウォーグレイモンは僅かではあるがホーリーストーンへと目を向ける。
 そしてすぐに視線をアルケニモンとマミーモンに向け、両手の間から連続でエネルギー弾を発射する。

「ウォーーブラスターー!!!」

ーーードドドドドドドドドドドドドドドドドゴオオオオン!!

『ギャアァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 ブラックウォーグレイモンの放ったウォーブラスターはアルケニモンとマミーモンに直撃し、アルケニモンとマミーモンは悲鳴を上げながら遠くへと吹き飛んで行った。

「チィッ!!殺せなかったか!!・・・・・・・まぁ良い。奴らよりも今はチンロンモンだ。そろそろ子供達も来るだろう」

ーーードン!!

 ブラックウォーグレイモンが言葉を言い終わると共に、ブラックウォーグレイモンの背後から複数の何かが降り立つ音が響き、ゆっくりと背後をブラックウォーグレイモンが振り返って見ると、既にジョグレス進化を終えたパイルドラモンにシルフィーモン、そしてエンジェモンとアンキロモンが存在していた。
 その様子にブラックウォーグレイモンは内心で歓喜しながら、パイルドラモン達に向かって構えを行い出すと、パイルドラモン達の背後にいたヒカリがブラックウォーグレイモンに向かって叫んで来る。

「待って!私達は貴方と戦いに来たんじゃないの!!話を聞いて欲しいんだよ!!」

「話だと?・・・・・・今更貴様らと話す事など無い!!俺はこの世界を崩壊させる!それが嫌ならば、俺を倒す事だな!!」

 ブラックウォーグレイモンはヒカリの叫びに対して答えると負の力を両手の間に集中させ始める。
 その様子に大輔達は悲痛さに満ちた表情を浮かべるが、ブラックウォーグレイモンを止める為にも迷わないと心に決め、パイルドラモン達に声を掛け始める。
 その間にタケルと伊織は顔を見合わせあいながら、それぞれ手にD-3を構えだし同時に頷きあう。

「伊織君!力を貸して欲しい!!ブラックウォーグレイモンを助ける為にも!」

「はいタケルさん!!」

 タケルと伊織がそう同意しあった瞬間に、D-3が強く光り輝き始め、エンジェモンとアンキロモンの体が光へと変化し始めた。

「アンキロモン!!」

「エンジェモン!!」

『ジョグレス進化ッ!!!』

 アンキロモンとエンジェモンが同時に叫びあった瞬間に、光へと変わった二体は一箇所に集まり、光が消えた後には土偶のような顔と体を持ち、背中に天使のような羽を持った突然変異型デジモン-シャッコウモンが立っていた。

「シャッコウモン!!」

シャッコウモン、世代/完全体、属性/フリー、種族/突然変異型、必殺技/ニギミタマ、アラミタマ
アンキロモンとエンジェモンがジョグレス進化した土偶の様な姿をした突然変異型デジモン。銀色に輝くボディに白い翼を持っており、一説には古代デジタルワールドに降臨した天使型デジモンではないかと言われている。首や胴が360°回転し、全方位に対して攻撃することができる。必殺技は、両目から最大10万度の光線を放射する『アラミタマ』に、腰部から車輪のような物を発射する『ニギミタマ』だ。

『やったーーー!!!!』

 初めてジョグレス進化に成功したタケルと伊織は、互いに抱き合いながら喜びの声を上げ、大輔達も僅かに希望に満ちた表情をする。
 これでパイルドラモン、シルフィーモン、そしてシャッコウモンの完全体デジモンが三体。ブラックウォーグレイモンを止められるかも知れない戦力が揃ったのだ。
 しかし、ブラックウォーグレイモンはシャッコウモンの姿を見て表情を変える事無く、巨大な赤いエネルギー球を両手の間に作り出し、パイルドラモン達に向かって投げ付ける。

「ガイアフォーースッ!!」

「シャッコウモン!!」

「むん!」

 伊織の叫びに応じるようにシャッコウモンはパイルドラモン達の前に移動し、向かって来るガイアフォースを腹部に存在する穴の中に吸い込み上げ、頭頂部に存在している煙突のような物から煙を噴き上げる。

ーーーピィィィィィィッ!!

「すげぇ!!ブラックウォーグレイモンの攻撃を吸収しやがった!」

「これならいけるわ!!」

 シャッコウモンの力を見た大輔と京は喜びの声を上げ、他の者達も更に希望に満ち溢れた表情をするが、賢だけは訝しげな表情をして、再びガイアフォースを作り出しているブラックウォーグレイモンの姿を見つめる。

(おかしい。自分の技が完全に防がれたのに、動揺した様子は一切無い・・・・・まるでシャッコウモンの力を知って・・・・・知っている!?まさか!?そんな事は在る筈が!?)

「ガイアフォーーース!!!」

 動揺している賢に構わずに、ブラックウォーグレイモンは再びガイアフォースを投げ付けた。
 シャッコウモンはその攻撃に対しても先ほどと同じように吸収しようとするが、突如としてガイアフォースは向かっていく方向を下へと変え、シャッコウモンの目の前の地面に直撃する。

ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオン!!

「ウアワァァァァァァァッ!!」

『シャッコウモン!!』

 ガイアフォースが地面へと直撃した瞬間に発生した衝撃波を、シャッコウモンは吸い込む事も避ける事も出来ずに後方へと吹き飛んで行った。
 それを確認したブラックウォーグレイモンはすぐさまパイルドラモンの目の前に移動し、パイルドラモンの胴体に向かって連続で拳を突き出す。

「オォォォォォォォォーーーー!!!!!」

ーーードガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

「グアァァァァァァァァァッ!!」

「パイルドラモン!!この!!」

 苦痛に苦しむパイルドラモンの姿を見たシルフィーモンは、パイルドラモンを救おうとブラックウォーグレイモンに殴りかかろうとする。
 ブラックウォーグレイモンはそのシルフィーモンの攻撃に気がつくと、腹部を押さえて苦痛に苦しんでいるパイルドラモンの腕を掴み取り、シルフィーモンに向かって投げ付ける。

「フッ!!受け取れ!!」

ーーードオオオオオオオン!!

『ウワァァァァァァァァァァァッ!!』

「そ、そんな!?」

「完全体三体をこうもアッサリ倒すなんて!!反則よ!!」

 パイルドラモン、シルフィーモン、シャッコウモンと、ジョグレス進化体の完全体三体相手に簡単に勝ってしまったブラックウォーグレイモンを見たヒカリと京は恐怖の声を上げ、他の者達も圧倒的なブラックウォーグレイモンの力に恐怖を覚え始める。
 そのブラックウォーグレイモンの姿に賢は自身の中で浮かんだブラックウォーグレイモンに対するある一つの恐ろしい仮説が当たっていた事を確信し、ワナワナと恐怖に体を震わせながら声を出す。

「う、嘘だ・・・・そんな事がある筈は無い・・・・そんな馬鹿げた事が・・・・」

「落ち着けよ、賢!!一体如何したんだよ!?」

「・・・・・ブラックウォーグレイモンは・・・・・・知っていたんだ・・・・この場に新たなジョグレス完全体のシャッコウモンが現れる事を・・・・」

『ッ!!!』

 賢が告げた事実に対して、話を聞いていた大輔達は驚愕に目を見開き、誰もが顔を見合わせあうと、賢は自分がたてたブラックウォーグレイモンに対する仮説を語り出す。

「・・・・・前回の時も・・・・その前の時も・・・・ブラックウォーグレイモンの動きはまるで全てを知っているかのようだった・・・・・・海のホーリーストーンの時には僕達が待ち伏せている事も読み取って、地面の中から姿を現した」

「おい!!それって!?」

「まさか!?」

「そんな事が!?」

「嘘でしょう!?」

「ありえないよ!?」

 賢が告げようとしている事実に気がついた大輔、伊織、ヒカリ、京、タケルは信じられないという声を出した。彼らも気がついてしまった。
 賢が告げようとしている事実について。しかし、それが本当だとすれば自分達ではブラックウォーグレイモンに勝てないと言う事に成る。
 その事に気がついた大輔達は嘘であってくれと賢に悲痛な表情を向け始めるが、賢は顔を俯かせてブラックウォーグレイモンに隠されていた事実を語り出す。

「ブラックウォーグレイモンは、アグモンにこの世界に起きた出来事を全てを知っていると言っていた・・・・・・・・それは、その中に過去だけではなく・・・・・“未来”も。今この時に起きる事さえもブラックウォーグレイモンは知っていると言っていたんだ!!」

『ッ!!!』

 大輔達は賢の言葉を聞いて、信じられないと言う表情をしながらパイルドラモン達を相手に戦い続けているブラックウォーグレイモンの姿を見つめた。
 “未来”。もしそれを知る者が居れば、その人物は正に全ての情報を握っていると言っても過言ではないだろう。しかも、それを持っているのが巨大な力を持っているブラックウォーグレイモンと成ればブラックウォーグレイモンを止める手段など無いと言う事になってしまう。
 その事に気がついてしまった大輔達は全員が絶望に染まった表情をし始めると、パイルドラモン達と戦いながら会話を聞いていたブラックウォーグレイモンが笑みを浮かべて大輔達の方に顔を向ける。

『グアアァァァァァァァァァッ!!』

「フッ・・・・・どうやら、俺の秘密に気がついたようだな」

「じゃあ、本当に貴方は!?」

「そうだ。俺は全てを知っている。この世界にこれから起きる出来事の全てをな!!」

『ッ!!』

 ブラックウォーグレイモンの言葉に、ヒカリ達は自分達が立てた最悪の仮説が当たってしまった事を確信した。
 未来と言う絶対に知る事が出来ない情報を知る存在-ブラックウォーグレイモン。その言葉が事実だとすれば、前回の時にブラックウォーグレイモンが自身の事を“呪わしき異物”と称した事にも納得が出来る。未来の事を知る者など異物以外の何者でもないだろう。

「本来の歴史ならばブラックウォーグレイモンはシャッコウモンの力に動揺し、お前達に敗れる寸前まで追い込まれてしまう。だが、俺は動揺など一切していない。知っている事を目の前で見ても、大抵の事では驚かないからな」

「じゃあっ!!やっぱり私達を此処に呼んだのも!?」

「そうだ。貴様らを追い込み、チンロンモンを無理やり目覚めさせる為だ!貴様らは知らないだろうが、チンロンモンは幾度と無く封印されながらも貴様らに力を貸している。最後のホーリーストーンの目の前で貴様らが危機に陥る事こそが、チンロンモンを目覚めさせる確実な方法だ!」

『ッ!!!』

 ブラックウォーグレイモンが告げたチンロンモンを目覚めさせる方法。それを聞いた大輔達は、自分達がブラックウォーグレイモンにこの場に呼び寄せられた事を確信する。
 しかし、ブラックウォーグレイモンの言葉には実は嘘が存在していた。チンロンモンを目覚めさせる方法は大輔達を危機に陥れるのではなく、大輔達の持つD-3の光をホーリーストーンに当てる事こそが本当の方法。
 だが、其処まで話せば大輔達は絶対にその方法を行わないだろう。だからこそ、あえて嘘の事実を告げたのだ。

「貴様らには絶対にチンロンモンを呼び出して貰う。逃げれば、ホーリーストーンを破壊すると言う方法を取るまでだ。もはや何処にも貴様らの逃げ場は無い!!呼び出して貰うぞ!!」

『クッ!!』

 叫ぶと共に大輔達に向かって駆け出したブラックウォーグレイモンを見たパイルドラモン達は、自分達のパートナーを護る為にブラックウォーグレイモンの前に立ちはだかる。
 その姿を見たブラックウォーグレイモンは先にパイルドラモン達を片付けようと、両手のドラモンキラーを振り上げ、パイルドラモンの達に向かって振り下ろそうとする。
 だが、その直前に左側の竹やぶの中から巨大な影が飛び出し、ブラックウォーグレイモンに体当たりを行う。

「ウオォォォォォォーーーーー!!!!」

「何ッ!?グアア!!」

 突如として竹やぶから飛び出して来た巨大な影の体当たりをブラックォーグレイモンは避ける事が出来ずに、僅かに吹き飛ばされてしまう。
 更に追い討ちを掛けるように空高くから、地面に叩きつけられたブラックウォーグレイモンに向かって、光弾が降って来る。

「メガブラスターーーー!!!!」

「何だと!?」

ーーードゴオオオオン!!

 自身に向かって降って来たメガブラスターに気がついたブラックウォーグレイモンは、メガブラスターを放った者の正体に僅かに動揺し、避けることが出来ずにメガブラスターをその身に食らってしまう。
 突然の事態にブラックウォーグレイモンだけではなく、パイルドラモン達と大輔達も驚きと困惑に満ち溢れながら、ブラックウォーグレイモンを吹き飛ばしたオレンジ色の体色に頭に硬い甲殻を供えた恐竜型デジモン-ヒカリの兄である八神太一のパートナーデジモンであるアグモンの進化系-『グレイモン』と、自分達の前に太一と光子郎を手に乗せながら降り立ったカブト虫を思わせるような姿をしたデジモン-光子郎のパートナーデジモンであるテントモンの進化体『カブテリモン』-がパイルドラモン達と大輔達を護るように立っている姿を見つめる。

グレイモン、世代/成熟期、属性/ワクチン種、種族/恐竜型、必殺技/メガフレイム
頭の皮膚が硬い殻のようになった恐竜型デジモン。攻撃力、防御力ともに高く、体中が凶器のようである。性格は気性が荒く攻撃的だが、頭が良く手なずければ心強いパートナーになるぞ。必殺技は、超高熱の火炎を吐き出し、全てを焼き払う『メガフレイム』だ。

カブテリモン、世代/成熟期、属性/ワクチン種、種族/昆虫型、必殺技/メガブラスター
カブト虫の姿をした昆虫型デジモン。アリのようなパワーと、カブト虫のもつ防御性能とを合わせ持つとされ、攻撃・防御ともに能力値は高い。頭の部分は金属化していて守りは鉄壁に近い。しかし、その反面、知性はかなり低く、人間のパートナーが居なければ本能のままに動くデジモン。必殺技は、羽を羽ばたかせツノに電撃を溜め、プラズマ弾を放つ『メガブラスター』だ。

『グレイモン!!!カブテリモン!!』

「お兄ちゃんに光子郎さん!!ど、どうして此処に!?」

「嫌な予感がしてな・・それにグレイモンの頼みもあった」

 カブテリモンの手から光子郎と共に降りながら太一はそうヒカリに答えて、ブラックウォーグレイモンと対峙しているグレイモンの背に目を向ける。

「馬鹿な!?何故貴様らが此処にいる!?」

 ブラックウォーグレイモンは困惑に目を見開きながら、自身の事を悲しげな視線で見つめているグレイモンと、その背後に居るカブテリモン、太一、光子郎に向かって叫んだ。
 ブラックウォーグレイモンの知る歴史では、この場にグレイモン、カブテリモン、太一、光子郎が姿を現す事など無かった。
 自身の知らない出来事にブラックウォーグレイモンは僅かに動揺を覚えてしまうが、すぐに表情を冷静に戻し、ゆっくりとグレイモンにドラモンキラーを構え出す。

「・・・・・貴様らが何故この場に姿を現したのかは分からんが、貴様も俺の邪魔をするなら敵だ!!」

「・・・・・君との約束を果たす為に僕は此処に来た」

「約束だと?そんな事を、貴様とした覚えは無い!!」

 ブラックウォーグレイモンは怒りに満ちた叫びを上げて、グレイモンの言葉を切り捨てた。
 そのブラックウォーグレイモンの変わり果てた姿にグレイモンは心の底から悲しみを覚えるが、自分も後には退けないと言うように、ブラックウォーグレイモンに向かって足を前へと踏み出す。

「君が世界を滅ぼそうとした時、僕が君を止めると君に僕は誓った。その誓いを今こそ果たす!!」

「笑わせるな。貴様は究極体へ進化する力を失い、成熟期への進化が精一杯だ!その程度の力で俺に勝てると思うな!!」

「確かに・・君の言うとおり・・今の僕じゃ勝てないかもしれない!!だけど、絶対に君を止めて見せる!!」

「グレイモン・・手を貸しまっせ」

「いや・・カブテリモンは皆を護っていてくれ・・パイルドラモン達はかなりのダメージを受けているから」

「分かったわ・・気をつけてや」

 グレイモンの考えにカブテリモンは頷き、ゆっくりと太一達を護れる位置に移動して行く。
 同時にグレイモンはブラックウォーグレイモンに向かって口から超高熱の炎を吐き出す。

「メガフレイムッ!!」

「その程度の技が俺に効くか!!」

ーーーバシュン!!

「ッ!!」

 ブラックウォーグレイモンは自身に向かって来るメガフレイムに対して両腕を高速で振るう事で強烈な風圧を生み出し、メガフレイムを掻き消した。
 その事にグレイモンは僅かに動揺するがすぐに動揺を治めて冷静に立ち返ると、巨大な尻尾を動かし、ブラックウォーグレイモンに向かって振り下ろす。

「テイルクラッシュッ!!」

ーーーガシッ!

「効かないと言っているだろうが!!ウオォォォォォォォーーーーー!!!!!」

 振り下ろされて来た尻尾をブラックウォーグレイモンは掴み取ると、尻尾を掴み上げてグレイモンを自身の後方の地面に叩き付ける。

「ムン!!」

ーーードゴオオオオン!!

「グアアッ!!」

「グレイモン!!」

「クソッ!!パイルドラモン!!グレイモンの援護をするんだ!!」

「分かっ…」

「君達は自分のパートナーを護るんだ!!!」

『ッ!!!』

 突如として上がったグレイモンの叫びにパイルドラモン達と大輔達は目を見開き、グレイモンの姿を見つめると、グレイモンは苦痛に苦しみながらも立ち上がり、パイルドラモン達に向かって声を出す。

「ブラックウォーグレイモンは、君達のパートナーを狙っている。君達はパートナーを護る事に専念するんだ。ブラックウォーグレイモンは僕が救って…」

「力を貸して貰った方が良いぞ!!」

「ガハッ!!」

 ブラックウォーグレイモンはグレイモンが喋っている途中で、グレイモンの顎を蹴り飛ばし、グレイモンを再び地面に伏せさせる。

「貴様一人では、俺には絶対に勝てん。奴らの力も借りるのが、得策だと思うが?」

「グウッ!・・・・・今の君なら、僕一人で充分だ!」

「ほぅ。成らば、貴様から消滅させてやる!!」

「グアアッ!!」

 ブラックウォーグレイモンは叫ぶと共にグレイモンの体を上空に蹴り上げ、グレイモンが飛んだ方向に瞬時に移動すると、その背に向かって左腕のドラモンキラーを振り下ろす。

「ムン!!」

ーーードゴン!

「ガハッ!!」

 背を殴り飛ばされたグレイモンは凄まじい勢いで地面へと落下した。
 それによって僅かに地面に窪みが生まれるが、グレイモンは構わずに立ち上がろうと手足に力を込め始めるが、ブラックウォーグレイモンは容赦なく攻撃を次々とグレイモンに加えて行く。
 大輔達はそのグレイモンの姿に、やはり自分達も加勢しようとパイルドラモン達に指示を飛ばそうとするが、その前にカブテリモンが叫ぶ。

「手を出したらあきまへん!!あんさんらは自分達の体力回復に専念するんや!!」

「だけど!このままじゃ!!」

「大輔君!・・ブラックウォーグレイモンは絶対に止めなければいけません・・それに・・誰よりもグレイモンを助けたいと思っている太一さんが我慢しているんです」

 光子郎はそう告げると、大輔達は手を強く握ってボロボロになっていくグレイモンをジッと見つめている太一に目を向ける。

「信じるんだ・・・グレイモンは確かに究極体に進化出来ない・・だけど!絶対にブラックウォーグレイモンには負けない!!」

 太一はそう大輔達に向かって叫びながら、ブラックウォーグレイモンに尻尾を掴まれて振り回されているグレイモンを歯を食いしばりながら見つめる。

「オオォォォォォォォォォーーーーーー!!!!!」

「ウゥゥゥゥゥッ!!!」

 ブラックウォーグレイモンに振り回されながらもグレイモンは来るであろう衝撃に耐える為に力を全身に込め始めるが、ブラックウォーグレイモンは構わずに再びグレイモンを地面へと叩きつける。

「ガハッ!!」

ーーーシュウン!

「アグモン!!」

 地面に叩きつけられると共に、グレイモンはアグモンへと退化してしまった。
 それを見たヒカリ達はアグモンに駆け寄ろうとするが、その前にブラックウォーグレイモンが立ちはだかり、ゆっくりと両手に装備しているドラモンキラーをヒカリ達に向け始める。

「そろそろ、チンロンモンを呼び寄せて貰うぞ」

『クッ!!』

 パイルドラモン達はブラックウォーグレイモンの言葉を聞くと、大輔達を護るように再び立ち塞がる。
 しかし、ブラックウォーグレイモンはパイルドラモン達の動きを見ても焦らずに力を体に込め始め、パイルドラモン達に向かって飛び掛ろうとするが、その直前に右足がアグモンの両手によって掴まれる。

ーーーガシッ!

「・・・・行かせないぞ・・・・君が止まるまでは」

「いい加減にしろ!!!」

ーーードガッ!!

「ウワアァァァァァァァァァァーーーーー!!!!」

「アグモン!!!」

 ブラックウォーグレイモンは右足にしがみ付いていたアグモンを蹴り飛ばし、アグモンは悲鳴を上げながら吹き飛んで行き、その先に存在していたホーリーストーンに背中から激突する。
 それと共にゆっくりとアグモンは下に存在している泉の方へと落下し始め、ブラックウォーグレイモンの姿を視界の中にいれながら、内心で強く願い始める。

(力が欲しい・・・・彼をあの時の彼に・・・・優しかった彼に戻せるだけの力が・・・・僕は欲しい!!)

『アグモンッ!!』

 泉の中に落下したアグモンの姿を見たヒカリと太一は悲痛な声を上げ、他の者達もヒカリと同様に辛そうに顔をゆがめる。
 その様子を横目で見ていたブラックウォーグレイモンは僅かにアグモンが消えていった泉の方に目を向け、胸に僅かに痛みが生じる。

ーーーズキッ!!

(ッ!!・・・・何だ今の痛みは!?チィッ!!奴の行動に迷いが生じたというのか!!俺は必ずこの世界を破壊する!!それが今の俺の目的!!迷いなど感じるものか!!)

 自身の中に迷いが生まれた事にブラックウォーグレイモンは動揺を覚えたが、すぐに動揺を治め、今度こそヒカリ達に攻撃を始めようとした瞬間。

ーーーピカアァァァァァァァァン!!

「馬鹿な!?」

 突如としてブラックウォーグレイモンの後方でホーリーストーンが光を発し始め、ブラックウォーグレイモンは完全に動揺し始めた。
 その突然のホーリーストーンの異変にパイルドラモン達やヒカリ達も動揺し始めるが、身に覚えのある光景だと思い、顔を見合わせ始める。

「これって、エンジェモンの時と同じなの?」

「太一さんのアグモンが完全体に進化するのか?」

「いや!違う!!」

 ホーリーストーンから発せされた光を見ていた賢は、光が徐々に狭まり一筋の光に変わっていく事に気がついて叫んだ。
 その一筋の光は真っ直ぐに太一へと伸びて行き、太一は迷う事無く自身の持つデジヴァイスを光に向けて掲げて、デジヴァイスに光を宿らせる。
 ブラックウォーグレイモンは光り輝く太一のデジヴァイスの姿に動揺したように足を後方に向かって踏み出し、泉の中に沈んでいるはずのアグモンに目を向ける。

「まさか!?現れるというのか!?」

「アグモン!!!!進化だ!!!!!」

「アグモン!!!!ワーーーープ進化ッ!!!」

ーーーピカァァァァァン!!

『ッ!!!』

 泉の中から聞こえて来たアグモンの叫びと共に泉から発しているオレンジ色の光を見たブラックウォーグレイモンや、パイルドラモン達は驚愕に目を見開き泉を見つめる。
 すると、泉の中から黄金の鎧を身に纏い、銀色に輝く頭部と胸当てを装備し、赤い髪をたなびかせたブラックウォーグレイモンとそっくりな姿をした黄金の竜人型デジモン-『ウォーグレイモン』が飛び出す。

「ウォーーグレイモン!!」

ウォーグレイモン、世代/究極体、属性/ワクチン種、種族/竜人型、必殺技/ガイアフォース
超金属『クロンデジゾイド』の鎧を身にまとった最強の竜戦士であり、グレイモン系デジモンの究極形態である。グレイモン系デジモンに見られた巨大な姿とは違い、人型の形態をしているが、スピード、パワーとも飛躍的に向上しており、完全体デジモンの攻撃程度では倒すことは不可能。両腕に装備している『ドラモンキラー』はドラモン系デジモンには絶大な威力を発揮するが、同時に自らを危険にさらしてしまう諸刃の剣でもある。また、『勇気の紋章』が書かれた背中に装備している外殻を1つに合わせると最強硬度の盾『ブレイブシールド』になる。必殺技は、大気中のエネルギーを凝縮し、巨大な球状に変えて投げ付ける『ガイアフォース』だ。

「ウォ・・ウォーグレイモンだと!?」

 泉の中から姿をあらわしたウォーグレイモンにブラックウォーグレイモンは、完全に動揺しながら、ゆっくりと地面に降り立つウォーグレイモンを見つめる。
 ブラックウォーグレイモンの知る歴史ではウォーグレイモンがその姿を現すのはまだずっと先の筈。それなのにウォーグレイモンは姿を現した。しかも、完全にウォーグレイモンの体からはグレイモンやアグモンの時に負わした筈のダメージも消えている。
 自身の知らない事態にブラックウォーグレイモンは動揺を治める事が出来ず、ウォーグレイモンを見つめていると、ウォーグレイモンはブラックウォーグレイモンに両手のドラモンキラーを構えながら答える。

「君を止める為にホーリーストーンは僕達に力を貸してくれた!そのおかげでホーリーストーンが願っている事も分かった。ホーリーストーンは君を救いたがっている!!」

「・・・・・何だと?・・・・・俺をホーリーストーンが?」

「そうだ!!君の暴走をホーリーストーンも悲しがっているんだ!!だから、僕達に力を貸してくれた!!」

「・・・・・・ふざけるな・・・・ホーリーストーンが俺を救いたがっているだと?・・そんな世迷言を信じられるか!!貴様が究極体に進化してまで俺の目的を阻むと言うなら、やはり貴様から消滅させてやるぞ!!」

 ブラックウォーグレイモンはウォーグレイモンの叫びに否定の叫びを上げると、すぐさま両手のドラモンキラーを構えながらウォーグレイモンに向かって駆け出す。
 それと共にウォーグレイモンもブラックウォーグレイモンに向かって駆け出すと、互いに同時に右腕のドラモンキラーを振り上げる。

『ドラモンキラーーーーーー!!!!!』

 ブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンのドラモンキラーが互いにぶつかり合った瞬間に、大地は爆裂し、その中心でブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンは衝撃波を撒き散らしながら殴り合いを始める。

 絶望に堕ちた漆黒の竜人と、希望を胸に抱いて絶望から漆黒の竜人を救おうとする黄金の竜人の戦いが遂に始まったのだった。


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返信です

ロキ様
・残念ですが、部屋への投稿はちょっと無理です。
申し訳ありません。

ピース様
・ハイスクールの方は悩んでいるところです。
投稿するにしてもちょっと細部を更に固めてからにしようと考えています。
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