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漆黒の竜人となりし者 悪しき存在の胎動
作者:ゼクス   2012/07/14(土) 20:18公開   ID:EwNqc733l4I
 ホーリーストーンが浮かんでいる聖なる中華の泉の前。
 其処には困惑した表情をしている大輔達にパイルドラモン達、そして空に浮かんでいるウォーグレイモンが、上空で滞空しながら険しい表情をしているチンロンモンを見つめていた。

「選ばれし子供達にそのパートナーデジモン達、そして勇気ある者よ。改めて名乗ろう。我が名はチンロンモン。この東方の地を見守る役目を持っている四聖獣の一体だ」

「やはり、ブラックウォーグレイモンが言っていた事は真実だったんですね?」

「その通りだ。ブラックウォーグレイモンがお前達に話した事は全て事実だ。だが、例え私がこの地から消えても、この世界自体が消滅する事は無い。最も安定が崩れ、徐々に世界は荒廃して行くだろうがな」

『・・・・・・』

 チンロンモンが告げた事実に大輔達は言葉を出す事が出来ず、地面に倒れ伏して気絶しているブラックウォーグレイモンに目を向ける。
 ブラックウォーグレイモンが大輔達に告げた事は全て真実だった。例えすぐには世界が滅びなくても、チンロンモンが消滅した瞬間に世界は荒廃へと向かって行く。
 それを知っていたからこそ、ブラックウォーグレイモンはアレほどまでチンロンモンの存在に固執していたのだ。世界を滅びへと向わせる為に。

「私はホーリーストーンを通してお前達と異界の魂をその身に宿す呪わしき者-ブラックウォーグレイモンを見ていた。ブラックウォーグレイモンが悲しき運命を背負って生み出されてしまった事も私は知っている」

「・・・・そのさ、ブラックウォーグレイモンが何でこの世界の未来を知っているかって、チンロンモンは知っているのか?」

「知っている」

「それじゃあお願いです!!ブラックウォーグレイモンが如何して未来を知っていて、自分の事を“呪わしき異物”なんて呼んでいたのかを教えて下さい!!ブラックウォーグレイモンを本当に救う為にも!!」

「もとよりそのつもりだ。お前達は全てを知らねば成らない。ブラックウォーグレイモンの心を救う為に」

 ヒカリの叫びに対してチンロンモンは僅かに悲しみを含めた視線を、ブラックウォーグレイモンに向けながら答えた。
 そのチンロンモンの言葉にヒカリ達は喜びの表情を浮かべてチンロンモンを見つめ始め、チンロンモンは語り出す。ブラックウォーグレイモンに隠されていた全ての真実を。

「先ずはブラックウォーグレイモンの体に隠された秘密から話そう。この東方の地に存在する無数の暗黒の塔。あの暗黒の塔には、世界のバランスを崩してしまう働きと、私の力を-デジタルワールドを守護している力を弱める働きが存在していた」

『ッ!!』

 チンロンモンが告げたダークタワーの更なる能力に大輔達は目を見開き、ダークタワーを建てた張本人である賢を見つめ始めるが、賢もその様な能力が在った事は知らなかったのか首を横に振るう。
 賢自身、ダークタワーに存在する能力は“デジモンの通常進化を抑制する機能と暗黒のデジヴァイスに寄るデジモンの洗脳機能”だけだと思っていた。後はアルケニモンの能力であるダークタワーデジモンを作成するぐらいの力しかないと思っていたのに、まさか、デジタルワールドを守護する力を弱める能力まで持っていたとは、完全に大輔達からすれば予想外の事だった。
 しかし、チンロンモンの言葉を聞いていたウォーグレイモンはブラックウォーグレイモンが心を失う前に自身に告げていた言葉を、フッと思い出す。

『俺を倒せばこの世界を守護しているデジモンが、目覚めるかも知れんぞ』

(ブラックウォーグレイモンはあの時から全部知っていたんだ!!何で自分が存在しているのかを!!だから、あんなに苦しそうにしていたんだ!!)

 ウォーグレイモンは漸くブラックウォーグレイモンが初めて出会った時に、伝えた言葉の意味を真に理解する事が出来た。
 全てを知っていたからこそ自身に殺すように頼み、アレほどまでブラックウォーグレイモンは苦しんでいたのだ。存在している理由が世界を荒廃へと導く存在だと分かれば、誰もが苦しむだろう。いっそ心や知識など要らないと思うぐらいに。
 その様にウォーグレイモンがブラックウォーグレイモンが苦しんでいた理由に気が付いている間にも、チンロンモンはゆっくりと話を進める。

「あの暗黒の塔から生み出されたブラックウォーグレイモンは正に呪わしき存在。その上、暗黒の塔が百本集まって生まれたブラックウォーグレイモンは、存在するだけで世界に悪影響を及ぼす特性さえも得て生まれて来てしまった。それ故にブラックウォーグレイモンは、自身の存在理由に深く悩み続け、自身の消滅さえも願っていたのだ」

「・・・俺達はそんなブラックウォーグレイモンの気持ちも知らずに、一方的に否定してしまっていたのかよ」

「僕達は何て事を・・・・」

 大輔と賢は気絶しているブラックウォーグレイモンを見ながら暗い声を出し、他の者達も深く暗い表情を浮かべ始める。
 特にブラックウォーグレイモンの存在を一番に否定してしまったタケルは、本当に心から苦悩していると言う表情で、ブラックウォーグレイモンを見つめていた。
 その大輔達の姿にチンロンモンも僅かに目を伏せるが、すぐに表情を真剣に戻し話を続きを再開する。

「更にブラックウォーグレイモンには、異界の魂までもが宿っていた。異界の者がこの地に現れるのは、禁忌に属する事柄。その事も在ってブラックウォーグレイモンは、この世界に置いての真の“異物”と呼べる存在なのだ」

『異界?』

「先ほどから何度と無く出て来る言葉ですが・・『異界』とはデジタルワールドや地球以外の世界の事なのでしょうか?」

「その通りだ、知恵ある者よ。異界とはデジタルワールドでも、人間界でも無い世界の事だ」

 光子郎の質問に対してチンロンモンは険しい声を出しながら答え、異界に関して光子郎達に説明する。

「『異界』。彼の世界は、常識では考えられない世界ゆえに異界と呼ばれている地。私達、四聖獣デジモン達でさえも、干渉を行う事が不可能な世界。その世界には信じ難きものが存在し、まるで世界を監視しているかのような様相を見せている世界。故にその世界の存在を知った者達は全員がこう呼んでいる。“在り得ざる世界であり、異物と称すべき世界”だと」

「世界の異物?そんな世界が存在しているんですか?」

「そうだ。あの世界は多くの他の世界にとって、禁忌としか呼べない世界なのだ。だが、同時にあの世界に干渉出来たとき、その者は世界を意のままに統べる事さえも可能になるやも知れない世界だ」

『ッ!!!!』

「あの世界には多くの世界の情報が存在している。何故その様な情報が存在しているのかは、私にも分からない。あの世界だけが持つ特性と呼ぶべきなのかも知れんが、詳しい事は分かっていない。だが、あの世界にはこの世界に関する情報も確かに存在していると、私は聞いた事が在る・・・・・“物語”として」

『物語ッ!?』

 チンロンモンの告げた言葉に、その場に居た全員が驚愕に目を見開き、顔を見合わせあう。
 自分達の事が物語として語られている世界-異界。その世界の出身者と思われる者の魂を持ったブラックウォーグレイモン。真実が如何あれ、物語として自分達の事が語られているなど、大輔達からすれば夢にも思ってなかった驚天動地の事実だろう。

「待てよ!!俺達の事が物語として語られてる!?そんなの在り得ないだろうが!?」

「そうですよ!!第一、僕らが経験していない事が、如何して物語として語られているんですか!?経験した事ならともかく、未来の出来事なんて語られる筈は無いですよ!!」

 大輔と伊織が否定の叫びを上げるのも当然だろう。
 ただでさえ自分達の事が物語として語られているだけではなく、ブラックウォーグレイモンは未来の出来事まで知っていた。自分達の経験していない事が、知られるなど本来ならば絶対に在り得ない事であろう。しかし、ブラックウォーグレイモンは未来の出来事を知っていた。知る事の出来ない筈の未来の事を知っているといたと言う矛盾した事実。
 その事実を知っている大輔達は困惑した表情をしながら顔を見合わせ始め、疑問の答えをチンロンモンに質問しようとした瞬間に、チンロンモンから得られた情報を吟味にしていた光子郎がポツリと呟く。

「・・まさか・・その異界と呼ばれる場所には・・平行世界の僕達に関する事が語られているんですか?」

『エッ!?』

「・・・・以前、君達は『パラレルモン』と言うデジモンに襲われた事が在りましたよね?」

「アッ!!そうだよ!!光子郎さんの言うとおり、前に『パラレルモン』に襲われて俺とブイモンは確かに別世界の太一さんと出会った事が在る!!」

「えぇ・・・つまり、ブラックウォーグレイモンの持っていた知識とは・・限りなく僕達が経験した事に近い世界の平行世界の知識だったんです」

「その通りだ」

 光子郎の考えた仮設にチンロンモンは深く頷きながら同意の声を上げ、大輔達は再びチンロンモンに目を向ける。

「『パラレルモン』の存在を知っているのならば話は早い・・・彼の世界に存在する情報の多くは物語として語られている。それらの多くは、平行世界の我らに関する事だと判断している。しかし、それは同時に危険を呼ぶ事実だった。ただ起きた出来事を物語として語られるのならばまだ問題は少なかったが、存在する情報の中には未来の出来事さえも語られている。無論、その通りに事が進む可能性は低いやもしれぬが・・・危険すぎる事には変わらぬ」

「・・・・確かに不味い。未来の情報が悪人なんかの手に渡れば、それだけで脅威だ。ブラックウォーグレイモンが僕らの戦法を読んで対策を練っていたように」

『・・・・・・』

 賢の言葉に大輔達は言葉も出す事が出来ずに、気絶しているブラックウォーグレイモンの姿を見つめ始めた。
 確かに賢の言う通り、未来の情報が自分達の敵の手に渡れば、それだけで状況は圧倒的に不利に成る。シャッコウモンの特性を知っていたブラックウォーグレイモンの行動しかり、チンロンモンを呼び出す為に最適な戦術しかり、ブラックウォーグレイモンの行動を考えれば、未来の情報を知られる危険性は計り知れないだろう。そしてその情報を知り、自らの体の特性に寄って世界に悪影響を及ぼすブラックウォーグレイモンの存在は、正にブラックウォーグレイモンが告げていたように“呪わしき異物”としか言えないだろう。

「・・・・だけど、如何して?如何してブラックウォーグレイモンのような存在が突如として現れたの?チンロンモンでさえも、干渉出来ない世界である異界の存在の魂がブラックウォーグレイモンに宿っているの?」

「そうだよ!!此方から干渉出来ないんだったら、その世界からも他の世界に干渉する事は出来ない筈!!それなのに如何してブラックウォーグレイモンはこの世界に!?」

「・・・・・それこそが、ブラックウォーグレイモンの真の悲劇に繋がる事に関わる事なのだ」

『ッ!!!』

ーーーギシッ

 ヒカリとタケルの言葉に答えるように言葉を告げたチンロンモンに、大輔達は再びチンロンモンに顔を向けた。僅かにブラックウォーグレイモンの方から音が響いた事に気が付かずに。
 そして目を向けられたチンロンモンは、ブラックウォーグレイモンに心の底から悲しみに満ちた視線を向けながら語り出す。

「・・・・ブラックウォーグレイモンが、異界の者がこの世界に現れたのは、一つの悪しき意思を持つ者が、異界に干渉し、異界よりその世界に生きる者の魂を連れ去り、今のブラックウォーグレイモンの体へと埋め込んだのだ!!」

『ッ!!』

「禁断の行い。その全ての理由は一つ。“異界に存在するこの世界の情報を手に入れる為”にブラックウォーグレイモンの中に埋め込まれた魂は、この世界へと連れ去られてしまったのだ」

「チンロンモン・・・質問ですが、その連れ去られた魂とは何の生物の魂なんですか?・・まさか・・」

「・・・・・・知恵ある者よ・・もうお前はその正体に行き着いて居る筈だ・・・ブラックウォーグレイモンの体に宿っている魂の正体は・・それは・・お前達と同じ種族・・・“人間”の魂だ」

『人間の魂!?』

 チンロンモンが告げた事実に大輔達は困惑と驚愕に満ちた叫びを上げて、倒れ伏しているブラックウォーグレイモンを信じられないという視線を見つめる。
 もはやブラックウォーグレイモンがダークタワーデジモンとは明らかに違う存在なのはチンロンモンからの話で分かったが、それらを上回る衝撃が大輔達の中を走っていた。
 ブラックウォーグレイモンの中に宿っている魂。その正体は自分達と同じ人間。

「汝らに分かりやすく『異界』の特性を説明したが、『異界』に住む者達もまた汝らの住まう世界・・『地球』となんら変わらぬ世界だ。だが、唯一違うところは、多くの平行世界にまつわる話が存在すること・・そして干渉を行なうことが出来ない事こそが、『異界』と呼ばれる世界なのだ」

「・・・・ちょっと待てよ・・・・・異界って言われる世界はチンロンモンでも干渉出来ないんだろう?何でその世界に住んでいた人間の魂を連れて来られるんだよ?」

 大輔がそうチンロンモンに質問するのも当然だろう。
 チンロンモンと言う最強の一角に数えられているデジモンでさえも干渉出来ない世界だからこそ、異界と呼ばれている世界。なのに、その世界に干渉してブラックウォーグレイモンと言う存在を生み出した者がいる。もしチンロンモンの言葉が全て真実だとすれば、大輔達の本当の敵の力はチンロンモンを遥かに超えている事に成る。
 その事に気が付いた大輔達は体を恐怖に震わせながら青ざめた表情で顔を見合わせるが、チンロンモンはゆっくりと首を横に振るう。

「違う。異界に干渉した悪しき者も確かに巨大な力を持っているようだが、異界は力だけで干渉出来る世界ではない。何か別の、もっと世界のバランスさえも歪める力。それこそが異界の扉を抉じ開け、ブラックウォーグレイモンの魂がこの世界に現れた原因なのだ・・・・・そしてブラックウォーグレイモンは多くの記憶と知識を奪われている」

「ッ!!そうか!ブラックウォーグレイモンはこの世界の知識は知っていたけど、自分に何故知識が在るのか分かっていなかった!!アレは記憶と知識が奪われていたからなのか!?」

「その通りだ。その為にブラックウォーグレイモンの精神は徐々に不安定に成って行き、自身に関する知識が在るが故に、ブラックウォーグレイモンは己の存在を赦されない存在だと思うように成っていった。しかし、此処で悪しき者に取って予想外の事態が起きたのだ」

『予想外の事態?』

 チンロンモンの言葉に大輔達は疑問の声を上げ、顔を見合わせる。
 ブラックウォーグレイモンを生み出し、異界の魂をその身に埋め込んだ存在でも予想だにしなかった事態。それが何なのかと全員が考え始めると、賢がチンロンモンの言葉を良く思い出し、一つの事実に気が付き叫ぶ。

「そうか!!ブラックウォーグレイモンの知識だ!!ブラックウォーグレイモンを生み出した存在は、この世界の情報をブラックウォーグレイモンから奪い取ろうとしたのに、その情報はブラックウォーグレイモンの中に残っていた!!」

「そうだ。悪しき者が予想だにしなかった事態。自身が最も欲していた情報が、ブラックウォーグレイモンの中に残っていた事だ。悪しき者とて万能ではない。更に異界に干渉した為に、力もかなり失っていたのであろう。ブラックウォーグレイモンから全ての知識を奪い取る事が出来ず、僅かに残されていたブラックウォーグレイモンの記憶と知識を今の体に埋め込んだのだ」

「それって・・・・・」

「要らないから残っていた魂をブラックウォーグレイモンに埋め込んだって言うの!!何よそれ!?最低じゃないのよ!!」

 チンロンモンが告げた事実に隠された意味に気が付いたヒカリは悲痛な表情を浮かべ、同じように意味に気がついた京は憤りに満ちた叫びを上げた。
 今のブラックウォーグレイモンの生まれた理由。用済みに成ったから、世界を歪めてしまう性質を持った体に魂を埋め込まれた。それが事実だとすれば、ブラックウォーグレイモンの生まれた理由は悲劇としか言えないだろう。偶然にも選ばれて、異世界に連れ去られ、自身に関する知識と記憶の殆どを奪われた結果が今のブラックウォーグレイモンの姿なのだから。
 ブラックウォーグレイモンの悲しさと絶望に満ちた咆哮を聞いた大輔達からすれば、ブラックウォーグレイモンを生み出した存在には怒りしか覚える事が出来ず、全員が怒りの表情を浮かべ始めると、チンロンモンが更なる事実を告げ始める。

「それだけならば、まだブラックウォーグレイモンには救いが在ったやも知れない・・・・悪しき者はブラックウォーグレイモンの中に己が最も欲していた知識が残っていると分かった瞬間に、ブラックウォーグレイモンの中にもしもの時の事を考えて残して置いた自身の意識の欠片を使い、ブラックウォーグレイモンの心を完全に破壊しようとし始めたのだ・・・・・完全に知識を手に入れるために」

『ッ!!!』

「魂だけの状態ならば記憶や知識を奪い取るのは、巨大な力を持つ者ならば在る程度は可能だ。だが、既にブラックウォーグレイモンは肉体と心を手に入れていた。その為に、知識だけを奪い取るのは不可能だったのだ。そして記憶を奪い取る為には、ブラックウォーグレイモンの心こそが最も邪魔なもの。故に、悪しき者は自身の意思の欠片を使い、ブラックウォーグレイモンの意思を乗っ取り、ホーリーストーンを破壊していたのだ。ホーリーストーンに関する知識もブラックウォーグレイモンは当然持っていた。それを自身の意思と関係無く破壊し続けていたブラックウォーグレイモンにとっては、拷問に近い事で在っただろう」

「・・・・・だから、ブラックウォーグレイモンは苦しんでいたのか・・・・・ホーリーストーンの役目をこの世界の誰よりも知っていたから・・・・」

 チンロンモンの言葉に太一は険しい声を出して、他の者達も暗く顔を俯かせる。
 自分の意思と関係なく、世界に対して重要な物を破壊し続ける行為を行わされる。やらされた者からすれば拷問としか言えない行為だろう。
 そしてその行為をブラックウォーグレイモンは一度ではなく、三度も行わされた。心が限界へと向かって行くのも当然の事だ。しかもブラックウォーグレイモンには知識として、この世界に関する事も存在していた。その苦痛は大輔達が想像する何十倍も辛い事であろう。

「ブラックウォーグレイモンがその様な存在だと私やホーリーストーンが気が付いたのは、三度目のホーリーストーンの破壊の時。あの時に私は僅かでは在るが、外の世界を覗く事が出来た。そしてブラックウォーグレイモンの苦痛を知り、私とホーリーストーンはブラックウォーグレイモンを救う事を決めたのだ。そしてその機会はすぐに訪れた。四つ目のホーリーストーンの力を解放し、ブラックウォーグレイモンの心の中に巣食っていた悪しき意思の欠片を消滅させる事が出来た。だが、此処で私達に取って予想外の事態が起きてしまった」

「・・・・・僕とパタモンが・・・・・正気に返っていたブラックウォーグレイモンの存在を否定してしまった事・・・・」

「その通りだ。希望の紋章に選ばれし子供よ」

 顔を俯かせながら呟いたタケルの言葉に、チンロンモンは肯定の声を出しながら、タケルとシャッコウモンに険しい視線を向ける。

「希望の紋章に選ばれし子供とそのパートナーデジモンよ。汝らが闇の力を受け入れられないのには、何かしらの理由が在るのであろう。だが、闇の力を一方的に否定してはならない!!闇と光は互いに存在してこそ意味が出来るもの!!闇の力も光の力も、根源的には変わりない力でしかない!!片方だけを一方的に否定するのは悲劇を呼ぶ事態になるやも知れない事を、ブラックウォーグレイモンの事でお前たちは学んだであろう!?」

『・・・・・・・』

「時には、お前達の行いも最悪を呼ぶ道しるべに成る。その事だけは忘れ無きようにするのだな」

 そうチンロンモンは顔を俯けているタケル達に告げると、今度は自身の横に浮かんでいるウォーグレイモンにゆっくりと視線を向け始める。

「勇気ある者よ。お前はブラックウォーグレイモンの真実を知っても、ブラックウォーグレイモンを救う気持ちは残っているか?」

「もちろんだ!!彼が何者であろうと、僕は絶対に彼を救って…」

「ソイツは困るんだよ!!ブラックウォーグレイモンの奴を救うなんてね!!」

『ッ!!』

 突如としてウォーグレイモンの叫びに覆い被さるように、叫び声が響き、全員が驚愕に目を見開きながら声の聞こえた方を見て見ると、真の姿に戻ったアルケニモンとマミーモンが森の木に体を預けながら立っていた。

「お前ら!?今頃何しにきやがったんだ!?」

「ハッ!最初はブラックウォーグレイモンの奴を痛い目に合わせてやるつもりだったんだけどね。其処のチンロンモンのおかげで、ブラックウォーグレイモンの正体が漸く分かったよ。そして、ブラックウォーグレイモンの知識を私達の物にする方法もね!!」

『ッ!!!』

 アルケニモンの言葉を聞いた大輔達とパイルドラモン達、そしてウォーグレイモンとチンロンモンは驚愕に目を見開いた。
 ブラックウォーグレイモンの知識を手に入れる方法。もし本当にその方法をアルケニモン達が持っていると成れば、これから先の戦いで大輔達は圧倒的にアルケニモン達に不利に成る。既に歴史は変わっているとは言え、それでも未来の知識の有効性は高過ぎる。
 その事が分かっているパイルドラモン達とウォーグレイモンは、傷付いた体を押して未だに地面に倒れ付したままのブラックウォーグレイモンを護るように移動しようとするが、その前にアルケニモンが右手を上に掲げ、ワイヤーに体を縛られているエレキモンとツノモンを大輔達に良く見えるようにする。

『フェェェェェェェェェン!!フエェェェェェェェェェン!!』

「ッ!!まさか、そのエレキモンとツノモンは!?」

「そうさ。ブラックウォーグレイモンが体を張って、護った奴らみたいだよ」

『ッ!!』

 アルケニモンが告げたエレキモンとツノモンの正体に、大輔達は再び目を見開き、ワイヤーに縛られながら泣き続けているエレキモンとツノモンを姿を見つめ始める。
 その様子にアルケニモンは嬉しそうな笑みを浮かべながら、マミーモンと共に地面に倒れ付したままのブラックウォーグレイモンにゆっくりと近づき始める。

「ちょっとでも動いたら、このエレキモンとツノモンはお陀仏だよ。其処の守護デジモンも動くんじゃないよ!!」

「クッ!!」

 チンロンモンは悔しげな声を出して、エレキモンとツノモンをワイヤーで縛っているアルケニモンの姿を見つめた。
 本来のチンロンモンの力ならば、アルケニモンとマミーモンを消滅させる事など一瞬で出来る。しかし、今はダークタワーとブラックウォーグレイモンの存在が在る為に、力の大半は失っている状態。その状態では力を使う為にも、タイムラグが生じてしまう。アルケニモンがエレキモンとツノモンを殺せる時間ぐらいは出来てしまうぐらいのタイムラグが。
 更にチンロンモンは世界を護る役割を持ったデジモン。幼年期や成長期のデジモンを見捨てる事は出来ないのだ。
 そしてチンロンモンの様子にアルケニモンとマミーモンは寄り笑みを深めながら、ゆっくりとブラックウォーグレイモンに近づいて行き、マミーモンがブラックウォーグレイモンの胴体を蹴り飛ばす。

「ヘヘヘヘヘヘヘヘッ!!随分と無様に倒れているじゃねえか。ブラックウォーグレイモンよ!!」

ーーードガッ!!

「ッ!!止めろ!!」

 気絶しているブラックウォーグレイモンを蹴り飛ばす、マミーモンの姿を見たウォーグレイモンはマミーモンの行動を止めようとするが、その前にアルケニモンが今度はウォーグレイモンの方にエレキモンとツノモンを掲げ、ウォーグレイモンの動きを止める。

「クソッ!!」

「ハハハハハハハハハッ!!正義の味方は大変だよな!!」

ーーーガッ!!ガッ!!

「もう止めて!!ブラックウォーグレイモンをこれ以上傷つけないで!!」

 ブラックウォーグレイモンを蹴り続けるマミーモンの姿を見たヒカリは悲痛な叫びを上げ、マミーモンを止めようとする。
 しかし、マミーモンは逆にヒカリの悲痛な叫びを聞けて嬉しいのかブラックウォーグレイモンの体を更に強く蹴り飛ばし続け、アルケニモンがヒカリに声を掛ける。

「笑えるね小娘。あんた等が原因で、ブラックウォーグレイモンは暴走したんだよ?ソレを今更ブラックウォーグレイモンを救う?其処の金色の奴はともかく、あんた等、子供達にブラックウォーグレイモンを救うなんて言葉を言う資格は無いんだよ!!」

「アルケニモンの言うとおりだぜ。ヘヘヘヘヘヘヘヘッ!!!お前らが否定しなけりゃ、ブラックウォーグレイモンの奴を味方に出来たのかも知れねぇな!!」

『・・・・・・』

 アルケニモンとマミーモンの言葉にヒカリ達は声も出す事が出来ず、太一と光子郎を除いた全員が顔を俯け始める。
 この場では少なくともアルケニモンとマミーモンの言葉は正しかった。もしヒカリ達が最初から、チビモンが告げていたようにブラックウォーグレイモンを他のダークタワーデジモンとは違った目で見ていれば、ブラックウォーグレイモンは心を失わずにヒカリ達と共に戦っていた可能性が高かっただろう。
 しかし、ヒカリ達は一時的とは言えブラックウォーグレイモンを完全に否定し、ブラックウォーグレイモンを暴走への道へと進ませてしまった。少なくともブラックウォーグレイモンが暴走した原因は、ヒカリ達の方にも確かに存在しているのだ。

「それに私らはブラックウォーグレイモンを救おうとしているんだよ。コイツの中に私らの主の意思を入れれば、今のブラックウォーグレイモンは完全に消滅するんだからね」

「なっ!!そんなのは救いじゃない!!ブラックウォーグレイモンを更に苦しめるだけだ!!」

「救いだよ。コイツの意識が完全に消えれば、コイツはもう今味わっている苦しみからは解放される。まぁ、死ぬのと同じだけど、私らにとっちゃそっちの方が良いね。強力な仲間も手にいれられるしねぇ!!」

「ヘヘヘヘヘヘヘヘヘッ!!!更にこの世界の未来の知識まで付いて来やがる!!これ以上に無い程に俺達にとっては嬉しい事だぜ!!」

 ウォーグレイモンの言葉に対してアルケニモンとマミーモンはそれぞれ意見を述べた。
 それに対してウォーグレイモンは怒りの表情を強めて、アルケニモンとマミーモンの隙を窺うが、アルケニモンとマミーモンは最もこの場で危険なウォーグレイモンとチンロンモンの事を警戒し、隙を一切見せないようにしていた。
 その様子にウォーグレイモンとチンロンモンは悔しそうな表情を浮かべてアルケニモンとマミーモンを見つめるが、アルケニモンとマミーモンは気にせずにブラックウォーグレイモンの体にワイヤーを巻き付け、この場からゆっくりと離れようとした瞬間に、顔を俯けていたヒカリがポツリと呟く。

「・・・・・めだよ」

「あん?」

「ブラックウォーグレイモンをこれ以上利用するのだけは絶対に赦さない!!」

「ハッ!!笑える言葉を言うね小娘!!奇麗事をほざいていても、お前の狙いは分かっているよ!!どうせ、私らと同じようにブラックウォーグレイモンの持つ知識が狙いなんだろう!?そりゃそうさね!!ブラックウォーグレイモンの持つ知識は、正に無敵の力を与えるに相応しいもんだからね!!アンタが欲しがるのも…」

「私はそんな要らないよ!!!」

『ッ!!!』

 ヒカリの叫びを聞いたアルケニモンとマミーモンは信じられないと言う目でヒカリの姿を見つめた。
 未来の情報。それを知る事が出来れば、世界を意のままに操る事も可能だと言うのにヒカリはそれを要らないと宣言した。アルケニモンとマミーモンのように、長い時間を掛けてブラックウォーグレイモンの秘密を知ろうとしていた者達からすれば、ヒカリの言動は異常に思える事だった。しかし、ヒカリからすれば本当に未来の情報など要らないと思っていた。
 未来の情報などと言うものよりもヒカリからすれば、ブラックウォーグレイモンが叫んだ全てに絶望したと言う咆哮の方が重要だった。

「ブラックウォーグレイモンは、本当に苦しんでいた。なのに私は、私達はその事にも気が付かずに、ただブラックウォーグレイモンを倒せば、全てが救われると考えていた・・・・・だけど違う。沢山のデジモンが救われても、一番苦しんでいたブラックウォーグレイモンだけが救われない・・・・だから!!私は本当にブラックウォーグレイモンを助けたい!!何が出来るかは分からないけど、ブラックウォーグレイモンに私は生きて欲しい!!」

『ヒカリちゃん・・・・』

『ヒカリさん・・・・』

『ヒカリ・・・・・』

(やはりあの者こそ、光の紋章を受け継ぐに真に相応しき者・・・・デジタルワールドの安定を望む者が選んだ者だ)

 ヒカリの心からの叫びを聞いた大輔達とパイルドラモン、そしてウォーグレイモンは、ヒカリの心からの思いに心が打たれ、チンロンモンはヒカリこそが“光”の紋章を受け継ぐに相応しい者だと確信した。
 そしてヒカリの叫びを聞いたアルケニモンとマミーモンは、僅かにヒカリの気迫に押され後退りし始めるが、すぐに表情を強気に戻し、ヒカリを睨み付ける。

「ヘッ!!お前みたいな小娘に何が出来るんだよ!!ブラックウォーグレイモンの体は、世界に悪影響を起こすんだ!!お前がどうのこうの出来る事じゃねぇよ!!」

「そうだぜ!!第一!お前がどれだけ叫ぼうと、ブラックウォーグレイモンのや…」

「スパークリングサンダーーッ!!!」

ーーービリビリビリビリッ!!

「アアァァァァァァァッ!!」

「アルケニモン!!」

 突如としてワイヤーに縛られていたエレキモンが、尻尾の先から強烈な電撃-スパークリングサンダーを放ち、ワイヤーから体に電撃を直接流されたアルケニモンは苦痛の叫びを上げた。
 それと共にマミーモンがアルケニモンの傍に寄り始めると、その隙にエレキモンとツノモンはワイヤーから逃げ出し、ヒカリ達の方に向かって走り出す。

「クソッ!!逃がすか!!」」

 逃げ出していくエレキモンとツノモンの姿を見たマミーモンは、人質を逃がすわけには行かないと思い、右手に持っているオベリスクをエレキモンとツノモンに向けて発砲しようとするが、その直前にマミーモンの体に巨大な影が覆い被さり、マミーモンの頭に拳が振り下ろされる。

「・・・・邪魔だ」

ーーードオオオン!!

「ヘギャアアッ!!」

「マミー・・・・モ・・・ン・・・・」

 地面に埋め込まれてしまったマミーモンに向かって、アルケニモンは声を上げようとするが、その声は窄まり体を恐怖に震わせてマミーモンを地面の中に押し込んだ影-ブラックウォーグレイモンの姿を見つめる。
 しかし、ブラックウォーグレイモンは恐怖に震えるアルケニモンには構わずに両手の間に巨大な赤いエネルギー球を作り出し、その場から浮かび上がると、上空からアルケニモンとマミーモンに向かってエネルギー球を全力で投擲する。

「失せろ!!!ガイアフォーーーーースッ!!!」

『イヤアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!!』

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 ブラックウォーグレイモンの放ったガイアフォースを避けようと、アルケニモンは地面に埋め込まれていたマミーモンの体にワイヤーを巻き付けてガイアフォースの着弾地点から全速力で駆け出す。だが、影響範囲から逃れる事が出来ず、アルケニモンとマミーモンの姿は爆発の中に飲み込まれていった。
 そして自身の放ったガイアフォースの影響が治まると、ブラックウォーグレイモンは静かに地面に降り立ち、自身の姿を見つめているヒカリ達とウォーグレイモン、そしてチンロンモンに顔を向ける。

「・・・・・・決着を付けるぞウォーグレイモン!!!!」

「待って!!私達はもう貴方とは…」

「関係ない!!俺にとっての戦いは終わってはいない!!!この世界を滅ぼす事こそが俺の望みだ!!それ以外の目的など、俺はいらん!!」

 ヒカリの言葉に覆い被さるようにブラックウォーグレイモンは叫び、ヒカリ達やその足元にいるエレキモンとツノモンは悲しげな表情をしてブラックウォーグレイモンの姿を見つめ始める。
 しかし、ウォーグレイモンだけは迷い無くブラックウォーグレイモンの方に足を進め、ブラックウォーグレイモン同様に構えを行い出す。

「・・・・・それが君の望みか?」

「そうだ!!俺は何が在ってもこの世界を滅ぼす!!それを止めたければ、俺を殺す気で掛かって来い!!」

「・・・・・分かった。次の一撃は、君を倒すつもりで全力で放つ!!」

『ウォーグレイモン!!!』

 ウォーグレイモンの宣言を聞いたヒカリ達は信じられないと言う表情でウォーグレイモンの背を見つめる。
 その前に太一が立ち塞がり、ウォーグレイモンの背に向かって質問する。

「やれるか?ウォーグレイモン」

「大丈夫だよ、太一」

「よし!なら、絶対に勝て!!」

「お兄ちゃん!!」

 太一の言葉にヒカリは叫ぶが、様子を伺っていたブラックウォーグレイモンは逆に嬉しそうな笑みを浮かべながら、先ほどのように負の力を両手の間に集中させ始める。
 それと同時にウォーグレイモンも大気中の存在しているエネルギーを両手の間に集中させ始め、ブラックウォーグレイモンは赤く光る巨大なエネルギー球を、ウォーグレイモンは黄金に輝く巨大なエネルギー球を作り出し、同時に相手に向かって投げ付ける。

『ガイアフォーーーーースッ!!!』

ズッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 負の力を凝縮したガイアフォースと、正と呼べる力のガイアフォースは激突し合い、互いを撃ち破ろうと鬩ぎ合うが、決着は付かずに同時に爆発を起こし、ブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンに同等に衝撃波が襲ってくる。
 しかし、二体は向かって来る衝撃波などには一切構わずに飛び出し、爆煙を吹き散らしながら互いに同時に右手を再び突き出し合う。

『ドラモンキラーーーーー!!!!!』

ーーーキィィィィィィィィン!!

 ブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンは同時に右手のドラモンキラーを突き出し合いながら体を交差させ、互いがガイアフォースを投げた場所で立ち止まる。
 そのまま互いに背を向け合っていると、突如としてウォーグレイモンが地面に膝をつく。

「グウッ!!!」

『ウォーグレイモン!!』

 地面に膝をついたウォーグレイモンにヒカリ達は急ぎ駆け寄ろうとするが、その前にブラックウォーグレイモンの両腕のドラモンキラーが甲高い音を立てながら粉々に砕け散る。

ーーーバキィィィィィィンッッ!!!

「・・・・・・俺の負けか・・お前が殺す気だったら・・俺は死んでいた」

 自らの武器が完全に粉々に砕け散った事実に、ブラックウォーグレイモンは自らが敗北したことを悟った。
 もしも最後の一撃をウォーグレイモンが殺す気で放っていたならば、ドラモンキラーの破壊だけでは済まずにブラックウォーグレイモンの胴体を貫いていただろう。
 自身は殺す気だったにも関わらず、最後の最後まで自分を止めようとしたウォーグレイモンに悔しさを覚えると同時にブラックウォーグレイモンは何処か晴れ晴れとした気持ちが持てていた。

「・・・・・ウォーグレイモン・・・・・感謝するぞ・・・・お前のおかげで・・・・俺は止まる事が出来た・・・・・約束をお前は果たしてくれた」

「・・・・やっぱり君は意識をもっと前から取り戻していたのか?」

「・・・・隙を見て、チンロンモンを消滅させる気だったが、その気も其処の小娘の言葉を聞いて失せてしまった・・・・」

 ウォーグレイモンの質問に対して、ブラックウォーグレイモンは背を向けながら答えると、上空に浮かんでいるチンロンモンに顔をゆっくりと向ける。

「チンロンモン・・奪われた俺の記憶と知識が戻った時に・・・俺は元の居た世界には帰れるのか?」

「・・・・・済まない・・・・私でも異界には干渉する事が出来ないのだ・・・・・お前が元の世界に戻る事は、二度とないだろう」

「・・・・・そうか」

 ブラックウォーグレイモンはチンロンモンの言葉に僅かに目を悲しげに伏せながら答えると、ゆっくりと前に向かって歩き出す。

「ッ!!何処に行くの!?」

「・・・・・俺は・・・・・俺を探しに行く・・・・・・ありがとうヒカリ」

「エッ!?」

 ブラックウォーグレイモンがポツリと呟いた言葉にヒカリは目を見開き、他の者達も目を見開いてブラックウォーグレイモンの背を見つめるが、ブラックウォーグレイモンはもはや何も答える事無く、上空へと浮かび上がる。
 そのまま次元に穴を開けようとするが、その前に地上に居たエレキモンとツノモンがブラックウォーグレイモンに向かって叫ぶ。

「あ、あの!!!助けてくれてありがとう!!」

「逃げちゃってごめんなさい!!助けてくれて!本当にありがとう!!!」

「・・・・・・・・・勝手に体が動いただけだ・・お前達が気にすることはない」

 素っ気無くエレキモンとツノモンに向かってブラックウォーグレイモンは答えると、今度こそ次元に穴を開き、デジタルワールドを去って行った。
 そしてブラックウォーグレイモンが消えた場所を少しの間、誰もが言葉を発する事無く見つめ続けるのだった。





 デジタルワールドでも人間界でも無い不可思議な世界。
 その世界の中でデジタルワールドの様子を見ていた存在は、自身の思い通りに事態が進まなかった事に怒りを覚えていた。

(オノレッ!!アトイッポトイウトコロデ・・・・ヤツノチシキヲ・・・・テニイレルコトガデキタトイウノニ!!!・・・・ヤクタダズドモガ!!)

 デジタルワールドの様子を見ていた存在は自身の横で傷だらけに成りながら倒れているアルケニモンとマミーモンの姿に、ますます怒りを覚え、アルケニモンとマミーモンを消滅させようとする。
 だが、フッと思い止まり、黒い光を放っている宝石のような石に目を向ける。

(・・・・ヤツハカナラズ・・・・・コノチニクル・・・・ソウナレバ・・・・イマノワタシデハ・・・ヤツニショウメツサセラレテシマウ・・・・・・イチジコノセカイカラ・・・・・ヒナンシナケレバ・・ダガ、イズレハテニイレテミセルゾ・・・・デジタルワールドノチシキ!!カナラズ、テニイレテミセル!!)

 悪しき者はそう叫ぶと共に、自身の体を分割させて空間の中へと溶け込んで行くのだった。
 ブラックウォーグレイモンを生み出した悪しき存在。その者もまた、己の目的の為に動き始めたのだった。


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kusari様
・此方のブラックは歴史の流れには余り影響を及ぼしませんが、其処に至るまでの内容は大幅に違いますね。次回も頑張ります!!
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