ブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンが戦っている場所から程近い竹やぶの中。
その場所にはブラックウォーグレイモンに寄って吹き飛ばされたアルケニモンとマミーモンが、ボロボロな姿に成って地面に倒れ伏していた。
「・・・・・クソ〜〜、ブラックウォーグレイモンの野郎・・・・本気で攻撃して来やがった」
「そうだね・・・・・命があっただけ、運が良かったけど・・・・・本気でアイツにはムカついて来るよ!!」
マミーモンの言葉に答えると共にアルケニモンは怒りの叫びを上げながら立ち上がり、マミーモンと共にブラックウォーグレイモンがいるであろう方向を睨み付けた瞬間。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
『ッ!!!』
凄まじいほどの激突音が鳴り響き、周りの竹やぶが衝撃によって撓る。
アルケニモンとマミーモンは自分達の下にまで届いた衝撃波に顔を見合わせる。
「・・・・・なぁ、やばくねえかアルケニモン?今の激突音は如何聞いても、ブラックウォーグレイモンと互角に戦っている奴が居るって事だぜ・・・・・俺達が勝てる相手じゃねぇよ。此処は逃げようぜ」
「嫌だね。少しでもアイツに借りを返さないと、私の気が済まないんだよ」
「だけどよぉ・・・・どうやってアイツに借りを返すんだよ」
「それを今から考えるんだよ!!」
「ヒェ〜〜!!(ブラックウォーグレイモンも怖いけど!アルケニモンも怖い!!)」
怒りをあらわにするアルケニモンの姿にマミーモンは怯え始めた。
アルケニモンはそのマミーモンの様子には構わずに、ブラックウォーグレイモンを痛い目にあわす方法は無いのかと、指の爪を噛みながら考えていると、竹やぶの中から声が聞こえて来る。
「あっちだよ!!あっちから音が聞こえる!!」
「うん!!きっとあのデジモンがこの先にいるんだ!!今度こそ謝らないとね!!」
「うん!!今度こそ謝ろうね。あの黒いデジモンに!」
『黒いデジモン?』
聞こえて来た声にアルケニモンとマミーモンは顔を見合わせ、竹やぶの影に隠れながら声の聞こえて来た方を見て見ると、激突音が鳴り響き続けている場所に向かって走って行く、エレキモンとツノモンの後姿を目撃する。
その姿を見たアルケニモンは邪悪な笑みを口元に浮かべ始め、マミーモンを伴い、ゆっくりとエレキモンとツノモンの後を追って行くのだった。
「ウオォォォォォーーーーー!!!!」
「ハアァァァァァァァーーーーー!!!!」
ホーリーストーンの存在する聖なる中華の泉の前に存在する空き地。
その場所では漆黒の竜人-ブラックウォーグレイモンと黄金の竜人-ウォーグレイモンが、辺りに凄まじい衝撃波を撒き散らしながら殴り合っていた。
「ムン!!」
ーーーブン!!
「フッ!!」
ブラックウォーグレイモンが渾身の力を込めて振り抜いた右拳を、ウォーグレイモンが一瞬で見極めて拳を避けた。
それと共に今度はウォーグレイモンがブラックウォーグレイモンに向かって右足蹴りを放とうとする。
だが、瞬時にブラックウォーグレイモンも同様に右足を振り上げ、ウォーグレイモンの足と激突させる。
「ムッ!!」
「オォォォォーーーー!!!ドラモンキラーー!!」
蹴りの激突の衝撃で僅かにバランスを崩しているブラックウォーグレイモンに向かって、ウォーグレイモンは左腕のドラモンキラーを、ブラックウォーグレイモンに向かって突き出す。
その攻撃に対してブラックウォーグレイモンは瞬時にかわせないと判断すると、左腕を瞬時に背中に回し、翼のように備わっていた『ブラックシールド』の片側を左腕に装着させ、ウォーグレイモンのドラモンキラーを受け止める。
ーーーガキィィィン!!
「クッ!!」
「食らえ!!」
動きが一瞬止まったウォーグレイモンに向かってブラックウォーグレイモンは左足を振り抜く。
それに対してウォーグレイモンは瞬時に体を回転させ、ブラックウォーグレイモンの攻撃を流れるように避ける。
「何だと!?」
「ハァァァァァーーーーーー!!!」
ーーードガッ!
「ガハッ!!」
ウォーグレイモンは動揺しているブラックウォーグレイモンの胴体に遠心力を加えた左腕のドラモンキラーの一撃を叩き込んだ。
その衝撃に苦痛を感じながらもブラックウォーグレイモンは後方に飛び去り、左腕に装着していた『ブラックシールド』を背中に戻す。
ウォーグレイモンはその動きに対してブラックウォーグレイモン同様に背後に飛び去る。同時にブラックウォーグレイモンは両手をウォーグレイモンに向かって突き出し、両手の間から連続でエネルギー弾を撃ち出す。
「ウォーーブラスターー!!!」
ーーードドドドドドドドドドドドオン!!
「ブレイブシールド!!!」
ーーーガガガガガガガガガガガガガッ!!!
ブラックウォーグレイモンのウォーブラスターに対して、ウォーグレイモンは背に装着していた『ブレイブシールド』を両手に装着し、前方に向かって盾の様に合わせることでウォーブラスターを防いだ。
ウォーグレイモンはエネルギー弾が止むと共に背中にブレイブシールドを戻そうとするが、ブレイブシールドを再び二つに分けた瞬間に、ブラックウォーグレイモンがウォーグレイモンの目の前に姿を現す。
「なっ!?」
「ドラモンキラーー!!」
ーーードゴン!!
ーーービキッ!
「ガハッ!!」
驚きに動きが止まってしまっているウォーグレイモンの胴体に向かって、ブラックウォーグレイモンは右腕のドラモンキラーを突き出し、ウォーグレイモンを吹き飛ばした
それと共にウォーグレイモンの胸当てに罅が入り始めるが、ブラックウォーグレイモンは追撃を行わず警戒するようにウォーグレイモンを見ながら自身の中から湧き上がって来た感情に戸惑いを覚える。
(何だ?・・・・・この感覚は?・・・・何故俺は奴と戦うのを楽しんでいる?・・・・今まで何度も戦っても湧き上がって来なかった高揚感が何故湧き上がって来る!?奴は俺の邪魔をしているのだぞ!?なのに何故だ!?)
「オォォォォォーーー!!!」
「ハッ!」
ブラックウォーグレイモンが戸惑いを覚えている隙に、ウォーグレイモンはブラックウォーグレイモンに向かって突撃する。
その姿にブラックウォーグレイモンは瞬時に冷静に返り、すぐさま防御を行なおうとするが、その前にウォーグレイモンの拳がブラックウォーグレイモンの胴体に叩き込まれる。
ーーードゴン!!
ーーービキッ!
「グアアッ!!」
ウォーグレイモンの拳を食らったブラックォーグレイモンは、先ほどのウォーグレイモンと同様に胸当てに罅を入れながら後方へと吹き飛んだ。
しかし、瞬時に空中で体勢を整えると、両足を地面につけてブレーキ代わりにしながら吹き飛ばされるのを押さえ、罅が入っている胸当てを右手で押さえながらウォーグレイモンを睨み付ける
「ハァ・・ハァ・・傷を負わされたのは初めてだ・・・・やはり、貴様が一番の邪魔者だ・・・・この場で必ず消滅させてやるぞ!!」
「なら僕は!君が止まるまで戦うまでだ!!」
「面白い!!チンロンモンと戦う前の準備運動などとは思わず、貴様には全力で挑んでやるぞ!!ウオォォォォォォーーーー!!!!!」
「オォォォォォォーーー!!!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!!
ブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンは再び同時に駆け出し、最初の時と同じように凄まじい衝撃波を巻き起こす殴り合いを始めるのだった。
そしてその様子を離れた所でパイルドラモン、シルフィーモン、シャッコウモンの三体の完全体デジモン達に護られながら戦いの様子を伺っていた大輔達は、目の前で繰り広げられている規格外としか言えない戦いを呆然とした表情で見つめていた。
大輔達もデジモンに関する力や、ブラックウォーグレイモンの規格外の力は分かってはいたが、目の前で殴り合っているブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンの戦いは、完全に彼らが今まで見て来た戦いのレベルを遥かに超えている。常識など簡単に捻じ伏せてしまう究極体同士の戦い。まさに究極の戦いの領域だろう。
「・・・・スゲェッ!!これが太一さんのパートナーのアグモンの力!!あのブラックウォーグレイモンと互角にやり合っているぜ!!」
「あぁ。ブラックウォーグレイモンはウォーグレイモンの力も知っているようだが、それでもこの場に置いては完全に予想外だったんだろう」
「ブラックウォーグレイモンの知る歴史と今の歴史が変わったって事なの、賢君?」
「そうです、京さん。多分、ブラックウォーグレイモンの知る歴史では、ウォーグレイモンはこの場に現れる事は無かった。だから、さっきまであんなに困惑していたんだ。“自分の知る歴史との変化”に」
京の質問に賢は真剣な表情をしながら答え、全員が身に纏っている鎧に傷が付きながらも戦い続けているブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンの姿を見つめ始める。
本来ならば此処でパイルドラモン達を向かわせて、ウォーグレイモンを援護すると言う方法も存在しているが、ブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンの周りに発生し続けている衝撃波の威力は完全体でもかなりのダメージを受けてしまうほどの力が宿っている。そんな場所にパイルドラモン達が足を踏み入れれば、ウォーグレイモンの足手纏いにしか成らない。だからこそ、パイルドラモン達はウォーグレイモンの言葉のとおり、自分達のパートナーを護る事に専念しているのだ。
そしてそのまま大輔達がブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンの戦いを見つめていると、徐々にでは在るがウォーグレイモンが、ブラックウォーグレイモンの猛攻に押され始めていく。
「ウオォォォォォォォーーーーー!!!!」
ーーービキビキビキッ!!
「クゥッ!!オォォォォォォォォーー!!!!」
ーーービキビキビキッ!!
ブラックウォーグレイモンの全力を込めた連打が、徐々にウォーグレイモンの金色に輝く鎧に罅を入れ始め、ウォーグレイモンも負けじとブラックウォーグレイモンに攻撃を繰り出し、ブラックウォーグレイモンの鎧にも罅が入っていくが、ウォーグレイモンの鎧の方が損傷は多かった。
その様子を見ていた光子郎は持って来ていたパソコンの画面に映っているブラックウォーグレイモンの反応の変化に対して驚愕に目を見開く。
「こ、これは!?・・こんな事が!?」
「どうしたんですか!?光子郎さん!?」
光子郎の様子に疑問を覚えた京は叫びながら質問した。
それに対して光子郎は自身のパソコンの画面を京達に見えるように翳しながら、画面に映っているデータに関して皆に説明する。
「ブラックウォーグレイモンの反応がウォーグレイモンと戦い続けることで徐々に強まって来ているんです!!」
「どう言う事ですか!?」
「・・・・信じられませんが・・ブラックウォーグレイモンはウォーグレイモンとの戦いによって急激に力が増大して来ているんです・・・ブラックウォーグレイモンは戦いの中で成長しているとしか考えられません」
『ッ!!!』
光子郎が告げた事実にその場にいる全員が目を見開き、ウォーグレイモンと戦い続けているブラックウォーグレイモンを凝視する。
「・・・・ブラックウォーグレイモンの今まで戦って来た相手は、ブラックウォーグレイモンよりも遥かに力が劣るデジモン達でした・・だけど、ウォーグレイモンと言うブラックウォーグレイモンと同等まで戦える敵が現れた事で、ブラックウォーグレイモンの中で眠っていた戦いの本能が目覚めたのかもしれません。眠っていた本能が目覚めた事によってブラックウォーグレイモンの力はウォーグレイモンに対抗しようと急激に増大して来ている」
「ちょっと待って下さい!!!!ブラックウォーグレイモンはダークタワーデジモンなんですよ!?普通のデジモンと違って物から生まれた存在です!!それなのに何で成長なんてするんですか!?物が成長出来る筈は無いですよ!!」
「・・・・・それこそがブラックウォーグレイモンと、他のダークタワーデジモンの最も違う所なのかもしれません・・突き詰めればデジモンはデータの集合体です・・・・そのデジモンが成長を行なえる最大の要素は…」
「“心”・・・・本当ならダークタワーから生まれたブラックウォーグレイモンは“心”なんて持っていなかった。だけど、“心”を得たブラックウォーグレイモンはもうダークタワーデジモンと違う・・・普通のデジモンと同じように成長出来るって事だよな、光子郎?」
「はい・・・もはやブラックウォーグレイモンはダークタワーデジモンの枠組みから外れた存在としか言えません・・成長がどの程度終わるか分かりませんが・・ウォーグレイモンの敗北も充分に考えられます」
『ッ!!!』
光子郎が告げた事実に、再びその場にいる者達は目を見開いた。
ブラックウォーグレイモンの急激な力の増長の原因。その原因こそが、ブラックウォーグレイモンの異常さそのもので在ったのだ。心は誰しもが強くなる為に最も必要なもの。それが無ければ強くなる事など出来ない。
今まで大輔達が戦い続けていたダークタワーデジモン達には心が無かった為に強さは一定以上を超える事が無かった。しかし、ブラックウォーグレイモンは違う。
ブラックウォーグレイモンには成長に最も必要な要素である心が宿っている。
その為にブラックウォーグレイモンは他のダークタワーデジモンとは違って成長する事が出来る。ホーリーエンジェモンに否定された時の急激なパワーアップもそれが原因だった。
“ウォーグレイモンを倒すと言う想い”。それこそが今、ブラックウォーグレイモンの力を上げている決定的な理由だった。
「このまま行けば純粋な力と言う点でブラックウォーグレイモンがウォーグレイモンを超える可能性は充分に在ります・・無論・・ウォーグレイモンが敗北するとは思えませんが…」
「ウォーグレイモンはブラックウォーグレイモンを“倒せない”・・ウォーグレイモンの願いはブラックウォーグレイモンが止まることだ・・例え・・自分の命が危なくてもウォーグレイモンはブラックウォーグレイモンを殺せない・・・ウォーグレイモンはそう言う奴だ」
『・・・・・・』
太一の言葉に誰もが言葉を発する事が出来ず、傷付け合いながら戦い続けているブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンの姿を表情を暗くさせながら見つめる。
既にブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンの体はボロボロに近い状態に成っているが、一目見て明らかにウォーグレイモンの方がダメージが多いと分かるほどに、ウォーグレイモンの方が傷付いてる。
その事はブラックウォーグレイモンも分かっているのか、更なる猛攻を繰り出し、ウォーグレイモンを追い詰めていく。ウォーグレイモンもブラックウォーグレイモンを止めようと死に物狂いで猛攻を繰り出しているが、ブラックウォーグレイモンはその攻撃を自身に致命傷を与える攻撃以外は無視して、攻撃を放っている。
既に無傷でウォーグレイモンには勝てないと判断しているからこそ、その戦法に戦い方を変えたのだ。それだけウォーグレイモンの事を認めていると言う事だが、本人で在るブラックウォーグレイモンはその事など気づかずに戦っている。自身の目的の為なら自分の身さえも意図は無いと言う考えの表れだった。
その事に気がついたヒカリは無意識の内に涙を零し始め、傷付きながらも戦い続けているブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンを見つめる。
『ウオォォォォォォォーーーーーー!!!!!』
「・・・・・もう、嫌だよ・・・・・こんな、こんな悲しいだけの戦いは・・・・見たくないよ・・・・悲しみだけしか生まれない戦いなんて」
『ヒカリちゃん・・・・』
『ヒカリさん・・・・』
『ヒカリ・・・・』
ヒカリが呟いた悲しみに満ちた声を聞いた大輔達とパイルドラモン達は、ヒカリ同様に悲しみに満ちた表情を浮かべながらブラックウォーグレイモンとウォーグレイモンの戦いを見つめる。
そして戦いを見つめていた大輔は突如として決意に満ちた表情に顔を変えると、迷わずにホーリーストーンの在る方向に向かって駆け出そうとする。
突然の大輔の行動にタケルが大輔の背に向かって叫ぶ。
「大輔君!?一体何を!?」
「決まってんだろう!!ブラックウォーグレイモンは此処で俺達がホーリーストーンの前で危機になれば、チンロンモンが現れるって言っていた!!だったら、この場所からホーリーストーンを移動させるんだよ!!」
「どうやってですか!?あんな巨大な物をブラックウォーグレイモンの目から隠して移動させるなんて、シャッコウモン達が居ても無理ですよ!!」
「何が何でも移動させるんだ!!そうすれば、ブラックウォーグレイモンは此処での戦いは少なくとも止める筈だ!!もうこんな戦いは俺だって見たくねぇんだよ!!」
伊織の質問に対して大輔は表情を決意に固めながら叫び返した。
ホーリーストーンを移動させるなど、不可能に近い事だろう。そもそも移動出来る物ならば、さっさと移動させて、安全な場所へと運んでいた筈だ。出来ないからこそ、ホーリーストーンを今まで護っていたデジモン達はホーリーストーンの前で護り続けていたのだ。
大輔にもその事は既に分かっている。だが、目の前で起きている戦いを止める為には、もはやそれ以外に方法は無いと判断して動こうとしているのだ。
その大輔の考えを聞いた伊織達は大輔の決意を感じ取り、聖なる中華の泉の中心に浮かんでいるホーリーストーンに目を向ける。
「確かに、もうそれ以外にこの戦いを止める方法は無い・・・・・ホーリーストーンを移動させよう!!」
「了解!!」
「はい!!」
「うん!!」
「絶対に戦いを止める!!」
賢が叫ぶと共に京、伊織、タケル、ヒカリも決意に満ちた声を上げ、大輔と共にホーリーストーンの在る方向に向かって走り出す。
その様子を見ていた太一と光子郎は互いに頷き合い、自分達を護っていたカブテリモンに指示を出す。
「カブテリモン!!君は大輔君達の護衛を!!」
「まかしてぇな!!」
「頼んだぞ!!」
ホーリーストーンの下へと向かった大輔達の後を追って行くカブテリモンの背に向かって太一は叫んだ。
その様子を横目で目撃したブラックウォーグレイモンは内心で笑みを浮かべながらも、焦りに満ちた表情をしながらウォーグレイモンから離れると、大輔達の方に両手を向ける。
「クッ!!何をする気だ!?邪魔はさせんぞ!!ウォーブラス…」
「大輔達の邪魔はさせない!!デスペラードブラスターーー!!!!」
ーーードドドドドドドドドドッ!!
「ムッ!!」
ブラックウォーグレイモンがウォーブラスターを発射しようとする直前に大輔達を護るようにパイルドラモンが飛び出し、両腰に装着している生体砲からデスペラードブラスターを発射してブラックウォーグレイモンの攻撃を止めさせた。
それと共にシルフィーモンとシャッコウモンもブラックウォーグレイモンに向かって飛び掛かり、シルフィーモンは両手からエネルギー弾を、シャッコウモンは目から光線をブラックウォーグレイモンに向かって撃ち出す。
「トップガンッ!!」
「アラミタマッ!!」
「クッ!!ブラックシーールドッ!!」
ーーードゴオオオオオン!!
シルフィーモンとシャッコウモンが放った『トップガン』と『アラミタマ』に対してブラックウォーグレイモンは、背に装着していた『ブラックシールド』を瞬時にウォーグレイモンと同様に前面で合わせ盾のように構えて防御した。
そのままブラックウォーグレイモンは『ブラックシールド』を背に戻そうとする。だが、その前にウォーグレイモンがブラックウォーグレイモンの隙をつき、瞬時にブラックウォーグレイモンの懐に入り込んでブラックウォーグレイモンの『ブラックシールド』を内側から弾き飛ばす。
「ハアッ!!」
ーーーガアァァァァァーーン!!
「チィッ!!おのれッ!!!」
ブラックウォーグレイモンは自身の最大の防御手段である『ブラックシールド』が手元から離れた事に怒りを覚えるが、ウォーグレイモンから離れるように後方に飛び去る。
そしてブラックウォーグレイモンがウォーグレイモンの横に立つパイルドラモン、シャッコウモン、シルフィーモンが並ぶ姿を忌々しげに睨んでいると、パイルドラモン達が叫ぶ。
「ヒカリ達の邪魔はさせない!!」
「お前は此処で止めて見せるぞ!!」
「・・・・良いだろう。貴様らもウォーグレイモンと同様にこの世から消滅させてやる!!・・・・(最も、その前にチンロンモンが現れるだろうがな。貴様らのパートナー達が行なおうとしている行動こそ、俺が望んでいる事!!チンロンモンとの戦いの邪魔をされない為にも、貴様らは戦闘が出来ない体にしてやるぞ!!)」
今の状況はブラックウォーグレイモンが心から望んでいる状況だった。
チンロンモンが現れれば確実にウォーグレイモン、パイルドラモン、シルフィーモン、シャッコウモンの四体は確実に邪魔をして来る。既にボロボロな状態のウォーグレイモンも脅威だが、ダメージから回復したパイルドラモン達も厄介な存在。傷付いた状態の自分では、苦戦するのは確実だとブラックウォーグレイモンは気がついていた。だが、今ならばまだ体力は充分に残っている。
今の状態ならパイルドラモン達を戦闘不能に追い込むには充分だとブラックウォーグレイモンは判断したからこそ、大輔達には追撃を行わずにパイルドラモン達と先に戦うと言うように構えを取っていた。
「行くぞ!!ウオォォォォォォーーーーー!!!」
『ハアァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!』
ブラックウォーグレイモンとウォーグレイモン、そしてパイルドラモン達は同時に走り出し、再び激闘を繰り広げ始めた。
その間にカブテリモンに護られながらホーリーストーンの前に辿り着いた大輔達は、それぞれ自身のD-3を構えてホーリーストーンに向け始める。
「とにかく、D-3の光をホーリーストーンに当てるんだ!!そうすりゃあ!きっと何かが起きる!!」
「了解!!」
「分かったわ!」
「はい!!」
「やってみよう!」
「絶対に戦いを止めてみせる!!」
大輔の叫びに賢、京、伊織、タケル、ヒカリは頷き、それぞれD-3から光を発し始め、大輔も自身のD-3をホーリーストーンに向かって光を放ち始める。
そして六つの光はホーリーストーンの表面に当たった瞬間、ホーリーストーンは突如として輝き始める。
ーーーピカアァァァァァァァァァァァン!!
「何だ!?」
「何が起きてるの!?」
光り輝き続けるホーリーストーンの眩しさに大輔と京は顔を手の影で覆いながらホーリーストーンを見つめていると、ホーリーストーンの発した光は突如として空へと昇り、地面が激しく揺れ出す。
ーーーズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「これは?一体何が起きているんだ!?」
「わ、分かりません!!だけど、これはただ事じゃないですよ!!」
ウォーグレイモン達の戦いを見ていた太一と光子郎も、突然の事態にうろたえてホーリーストーンが発している光に目を向ける。
すると、空へと昇っていた光が雲を幾重にも突き破りながら再び地上に向かって何かを描くように落下し始める。いや、それは光では無かった。鎖を巻いた白く輝く長い体。地球に伝わる東洋の龍を思わせるような体が、光が消えて行くと共にその姿を晒して行く。
その姿を見た大輔達は、自分達の知る者に似た姿をしたソレの存在に気がつき、その存在の名を震えながら呟く。
『チ、チンロンモンッ!!!』
「ウオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーー!!!!!!」
大輔達が名を叫ぶと共に光は完全に消え失せ、その中から巨大で長い半透明な体を持ち、その体の周りに十二個のデジコアを備え、四つの瞳を持ち、長い鬚を棚引かせ、蒼く輝く角を供えた巨大なデジモンが咆哮を轟かせた。
そのデジモンこそ四聖獣と言う称号を持ち、『四大竜デジモン』と言う四体の竜型デジモンの一体に数えられている最強の存在の一角。
デジタルワールドの東方の守護獣デジモン-『チンロンモン』が、遂にその姿を大輔達の前に現した。
チンロンモン、世代/究極体、属性/データ種、種族/聖竜型、必殺技/
蒼雷デジタルワールドを守護するスーツェーモン、バイフーモンと同じ四聖獣デジモンの1匹であり、東方を守護し強烈な雷撃を放つ。他の四聖獣デジモンと同じく伝説の存在であり、その強さは神にも匹敵すると言われている。またチンロンモンは『ホーリードラモン』、『ゴッドドラモン』、『メギドラモン』と共に四大竜デジモンの1匹としても数えられており、もっとも神格化された存在である。しかし、神のような存在とはいえ、簡単に人間や弱者に協力をするようなものではなく、余程の事が無い限り味方にする事は無い。必殺技は、雷雲を呼び寄せ、神の怒りを思わせるような激しい雷を落とす『
蒼雷』だ。
「何で!?何でチンロンモンが現れるんだよ!!ホーリーストーンを移動させるつもりだったのに!?」
「・・・・・しまった!?ブラックウォーグレイモンの言葉は嘘だったんだ!?チンロンモンを呼び寄せる本当の方法は、今僕達が行なった方法だったんだ!!」
「・・・・・そのとおりだ」
『ッ!!!』
賢の叫びに答える様に背後から声が響き、賢達がゆっくりと背後を振り向いて見ると、地面に倒れ伏しているウォーグレイモンとパイルドラモン達の前に立っている傷だらけに成りながらも凄まじい覇気を放ち続けているブラックウォーグレイモンが存在していた。
そのブラックウォーグレイモンと背後で地面に倒れ付しながら苦痛に苦しんでいるウォーグレイモンとパイルドラモンの姿を大輔達は震えながら見つめると、ブラックウォーグレイモンは嬉しそうに目を細めて、上空を滞空しているチンロンモンの姿に目を向ける。
「遂にこの時が来た。この時の為だけに俺は貴様らをこの場に呼び寄せた。チンロンモンを消滅させるこ…」
「『異界の魂をその身に宿す呪わしき者』よ」
「ッ!!!」
上空から響いて来た声にブラックウォーグレイモンは言葉を出すのを止め、困惑に目を見開きながら上空に滞空しているチンロンモンを見つめる。
ブラックウォーグレイモンの知る知識ではチンロンモンが最初にブラックウォーグレイモンの事を呼ぶのは『呪わしき暗黒の魂を宿すもの』の筈。しかし、今のチンロンモンは確かに『異界の魂をその身に宿す呪わしき者』とブラックウォーグレイモンを呼んだ。
それが意味するのはチンロンモンはブラックウォーグレイモン自身さえも知らない、己に関する何かを知っていると言う事に成る。
その事にブラックウォーグレイモンが困惑を覚えていると、チンロンモンはゆっくりと四つの瞳をブラックウォーグレイモンに向ける。
「私は見ていた。ホーリーストーンを通してお前の行動を。苦しんだ果てにデジタルワールドの消滅を願ったお前の悲劇を」
「だからなんだ?俺に同情でもするつもりか?俺はそんな事を望んではいない!!俺の望みは一つ・・・貴様の消滅だけだ!!チンロンモン!!」
ブラックウォーグレイモンは叫ぶと共にチンロンモンに向かって飛び出し、罅だらけに成っている右腕のドラモンキラーを振り上げ、チンロンモンに突き刺そうとする。
しかし、その直前にブラックウォーグレイモンが飛び出すと同時に起き上がっていたウォーグレイモンがブラックウォーグレイモンの背後に姿を現し、ブラックウォーグレイモンを羽交い絞めにする。
ーーーガシッ!!
「グッ!!ウォーグレイモン!?貴様まだ動けたのか!?」
「言ったはずだ・・・・・君が止まるまで、僕は何度でも立ち上がるって」
「おのれ!!離せ!!」
ウォーグレイモンの拘束から逃れようとブラックウォーグレイモンは暴れるが、ウォーグレイモンは死力を振り絞ってブラックウォーグレイモンを押さえ込む。
その事にブラックウォーグレイモンはますます苛立ちを募らせてウォーグレイモンに攻撃しようとするが、その前に再びチンロンモンがブラックウォーグレイモンに声を掛ける。
「やはり気がついていないのか?」
「・・・・・何だと?」
「お前は自分の意思と関係なく、ホーリーストーンを破壊していた。だが、何故お前は今は自分の意思でホーリーストーンを破壊することを行なえる?意思など関係なくホーリーストーンを破壊していたお前が?」
「・・・・・・」
チンロンモンの質問にブラックウォーグレイモンは答える事が出来なかった。
確かにチンロンモンの言うとおり、四つ目のホーリーストーンまでは自身の意思と関係なくホーリーストーンを破壊し続けていた。自身の意思でホーリーストーンを破壊すると決めてからは意識が無くなることなど無かったので気にしなくなっていたが、チンロンモンに質問されてみると確かに疑念が募る。
そして四つ目のホーリーストーンの時に起きた出来事と、フッとウォーグレイモンが告げた言葉を思い出す。
「(あの時は確か・・・・・そうだホーリーストーンの光が溢れた時に、俺は意識が戻った・・・・ッ!?ウォーグレイモンはホーリーストーンは俺を救おうとしていると告げた・・・)ッ!!・・・ま、まさか!?」
「気が付いたようだな。そう、今お前が自分の意識を保っていられるのは、ホーリーストーンの放った光によって、お前の中に存在していた悪しき存在の意思の欠片が消滅したおかげだ」
『ッ!!!』
チンロンモンが告げた事実にブラックウォーグレイモンだけではなく、地上で話を聞いていた大輔達とパイルドラモン達も驚愕に目を見開いた。
チンロンモンの話が事実だとすれば、あの時にホーリーストーンが救おうとしていたのは、エンジェモンではなくブラックウォーグレイモンだったと言う事に成る。しかし、聖なる存在だったエンジェモンはともかく、デジタルワールドや他の世界に多大な悪影響を及ぼすブラックウォーグレイモンを世界の安定を保つ石-ホーリーストーンが救おうとしている理由など無い筈。
寧ろブラックウォーグレイモンとホーリーストーンは相容れる事の無い敵でしかない。世界の安定を保つ物と世界を滅ぼすほどの悪影響を与える存在なのだから。
「・・・・それが事実だったとしても、俺には関係ない!!俺と言う存在を生み出した世界に俺がする事など一つだ!!この世界を崩壊させる!!それだけが今俺が存在する意味だ!!世界に否定されている俺に…」
「貴方が助けたエレキモンとツノモンは、貴方に会う為に危険な場所まで向かったんだよ!!」
「ッ!!」
聞こえて来た声にブラックウォーグレイモンは叫ぶのを止め、ゆっくりと声の聞こえて来た方に目を向けてみると、ヒカリが目に涙を浮かべながらブラックウォーグレイモンを見つめていた。
「貴方がその身を使ってまで庇ったエレキモンとツノモンは、貴方から逃げた事を後悔して危ない場所まで貴方を探しに向かっていた!!貴方にお礼と逃げた事を謝る為に!!」
「・・・・・だから何だ!?そいつ等の為に俺が止まると思っているのか!?俺はもう止まらん!!止まる訳には行かないのだ!!!」
「グアッ!!」
ブラックウォーグレイモンは叫ぶと共にウォーグレイモンの拘束から逃れ、チンロンモンの方に体を向けると、両手の間に負の力を集中させ始め、巨大な赤いエネルギー球を作り始める。
「消えろチンロンモン!!!ガイアッ!!」
「哀れな・・・・
蒼雷ッ!!」
ーーーピッシャーーーーーーーーーーン!!!
「なっ!?ガアァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
ブラックウォーグレイモンがガイアフォースを放つ前にチンロンモンが天空から凄まじい雷-『
蒼雷』をブラックウォーグレイモンに向かって降らせ、ブラックウォーグレイモンは苦痛の叫びを上げながら
蒼雷に飲み込まれた。
そして蒼雷《そうらい》の影響が収まった後には、体から煙を噴かせているブラックウォーグレイモンがいた。ブラックウォーグレイモンはゆっくりと体を前に傾かせ、地面に激突する。
ーーードサ!!
「ブラックウォーグレイモン!?」
「案ずるな『勇気ある者』よ。今の私の力では傷付いていたブラックウォーグレイモンを気絶させるのが精一杯だ。ブラックウォーグレイモンが死ぬ事は無い」
「チンロンモン・・・・」
「今の内にお前と選ばれし子供達には語らねば成るまい。ブラックウォーグレイモンが呪わしき者と呼ばれる理由を。それが分からなければ、お前達が真の意味でブラックウォーグレイモンを止める事は出来ぬからな」
チンロンモンはそうウォーグレイモンに告げると、地上に居るヒカリ達の方に体を向け、ヒカリ達に語り出す。ブラックウォーグレイモンが存在する本当の理由を。