世界と世界の狭間に存在する空間。
後の事では在るが『次元空間』と言う名称を知る事になる空間でブラックウォーグレイモンは静かに目を瞑り、自身の体の修復を行い続けていた。
先の戦いの時にウォーグレイモンに負わされた傷は幾ら戦う為にダークタワーから生み出されたブラックウォーグレイモンでも、今までのようにすぐに回復するような傷ではなかった。これから向かう先の世界に存在している筈の“真に憎むべき敵”の力を考えるならば万全な状態で向かうべきだと判断した為に、今は治療を優先する事にブラックウォーグレイモンはしていた。
しかし、その胸の内では自身の魂を今の体に埋め込んだ元凶に対する凄まじいまでの、それこそ永久凍土でさえも溶かしてしまうほどの憎しみの炎が燃え上がっていた。
(・・・・・チンロンモンが言っていた悪しき者・・・・・・先ず間違いなく奴だ!!ダークタワーに干渉し、この体を支配する事が出来るのはアイツしかいない!!・・・・・赦さん!絶対に赦さんぞ!!)
ブラックウォーグレイモンは自身の体を操り、自身の魂を今の体に植え付けた犯人が推測出来ていた。
今の世界に関する知識を持っているブラックウォーグレイモンからすれば、チンロンモンの言葉からでも充分過ぎるほどに推測する事が出来る。
そしてそれが真実だとすれば、何故本来ならば開くはずの無い世界-ブラックウォーグレイモンの本当の故郷-異界の扉を開く事が出来たのかも推測する事が出来る。
(奴が居る世界・・・・・あの世界の力を最大限に発揮する事が出来れば・・・・四聖獣の力を一瞬とは言え超える事が出来るかも知れん・・・・・もしかすれば、それを使って俺も本当の故郷に帰還出来る可能性が在る・・・最も今更このような身になった俺が故郷に帰ることなど出来ぬからな・・・・とにかく、先ずは俺の記憶と知識だ!俺は俺を知りたい・・・この体に成る前の俺がどんな人生を歩み死んでしまったのかを・・・必ず取り戻して見せるぞ!!)
そうブラックウォーグレイモンは内心で誓いの宣言を上げると、自身の意識を深く眠りにつかせ、体の修復を急がせるのだった。しかし、ブラックウォーグレイモンは知らなかった。
既に向かう先の世界には自身が求めている“真に憎むべき敵”が存在せず、地球に危機が迫っている事をブラックウォーグレイモンは知る事も無く深い眠りの中へと落ちて行くのだった。
ブラックウォーグレイモンとの戦いを終えてから数週間後の現実世界の学校の屋上。
デジタルワールドに存在するダークタワーが存在しているエリアの一つ、その場所に存在しているダークタワーを全て大輔達と共に破壊し終えたヒカリは、一足先に現実世界へと戻り、物思いにふけていた。
思い出すのは数週間前のブラックウォーグレイモンと別れた後のチンロンモンの言葉。
『子供達よ。ブラックウォーグレイモンがこの世界を去ったおかげで、何れは私の力も完全に元に戻るだろう。。そしてそれと共に私はブラックウォーグレイモンが破壊してしまったホーリーストーンの在った場所に“光の種”を植えるつもりだ。“光の種”は成長すれば、新たなホーリーストーンとしての役割を行なってくれる・・・・だが、気をつけるのだ。ブラックウォーグレイモンを操り、ホーリーストーンを破壊していた悪しき者も必ず何かしらの動きを行なうだろう。ブラックウォーグレイモンにアソコまでの非道を行なった者だ。油断をすれば、今のお前達では敗北してしまうやも知れん。これからの戦いには覚悟をして挑むのだ・・・・では、何れまた会おう』
「・・・・・ブラックウォーグレイモンを操っていた存在が動く・・・・・誰なんだろう?・・・・・それに結局ブラックウォーグレイモンはデジタルワールドから去ってしまったし・・・・本当のブラックウォーグレイモンの救いって何なのかな?」
ヒカリはそう去り際のチンロンモンの言葉を思い出しながら呟くが、結局答えは出ずに悩み続けるのだった。
そしてそのヒカリの様子を屋上の扉の方から隠れて眺めていた大輔達は、ヒカリの様子にそれぞれ心配そうな顔をしながら見合わせる。
「・・・・やっぱヒカリちゃん、元気ないよな」
「ブラックウォーグレイモンの事がありますからね・・・・結局僕らは彼を救う事は出来なかった」
大輔が呟いた言葉に同意するように伊織も声を出し、京、タケル、そしてデジモン達も悲しげに顔を俯かせてしまう。
結局ブラックウォーグレイモンを救う事は大輔達には出来なかった。確かに世界を破壊する暴走は止まったが、ブラックウォーグレイモンはデジタルワールドから去ってしまった。
“ブラックウォーグレイモンの救い”。それが本当は何なのかと大輔達は考えるが、答えは出る事無く頭を悩ませていると、フッと大輔は一つの事に気がつく。
「そういやよ。ブラックウォーグレイモンがデジタルワールドを出て行ったのは、自分の記憶と知識を取り戻す為だよな?」
「えぇ、その筈よ」
「って事はさ?俺達が本当に戦う敵は、デジタルワールドにも地球にもいないって事じゃねぇのか?」
『アッ!!』
大輔の言葉にタケル達はハッとしたように声を上げ、顔を見合わせる。
そう大輔の言う通り、ブラックウォーグレイモンはデジタルワールドから人間界に移動したのではなく、完全に別世界へと旅立って行った。それが意味する事は大輔の言葉どおり“大輔達の本当に戦うべき敵は、異世界に潜んでいると言う事に他ならない”。
その事に気がついたその場にいる全員が顔を驚愕に染め、京は訳が分からないと言うように声を出す。
「あ〜もう!!それじゃ!私達の本当の敵はデジモンじゃないって事なの!?」
「あん?どう言う事だよ、京?」
「アンタね!少し考えれば分かるでしょうが!?」
「大輔さん、京さんが言いたい事はこう言う事ですよ。デジモンはデジタルワールドにしか生息していない。それなのに本当の僕らの敵はデジタルワールドとは別世界に潜んでいるんです」
「つまり、最終的に僕らが戦う敵はデジモンじゃないのかも知れないんだよ」
「そう言う事か・・・・・でも、デジモンじゃない敵か・・・・どんな奴なんだろうな?」
京、伊織、タケルのそれぞれの言葉に大輔は納得した声を出すが、結局その場にいる全員が“真の敵”の正体が分からず悩み続けるのだった。
お台場に存在する空き地の一角。
その場所で人間の姿に変身したアルケニモンとマミーモンが何かの作業を行なっていた。
しかし、積極的に作業をしているのはマミーモンだけでアルケニモンは何かを悩むような顔をしながら考え込み、服の中から取り出した黒い宝玉をジッと見つめ、その宝玉を渡された時の事を思い出す。
(ソレヲツカイ・・・・・ヤツヲリヨウシロ・・・・ドウヤラ・・・・ワタシタチイガイノ・・・・レンチュウモ・・・ウゴキダシテイル・・・・・ケイカクノジャマヲスルモノヲ・・・・・ヤツヲ・・・リヨウシテ・・・ハイジョスルノダ)
「・・・・・ハン!アイツを利用だって?・・・・・本気で馬鹿なんじゃないのかね・・・・(もうアイツを利用とか言っていられないんだよ。私らも何時抹殺されるか分からないんだからね)」
アルケニモンは既に自身とマミーモンの命が危ない事を分かっていた。
本当の自分達の主がブラックウォーグレイモンに対する失敗を赦す筈は無い。何せかなりの力を消費して呼び出した存在なのだ。それなのに最終的には最も欲していた知識は手に入らなかった上に、ブラックウォーグレイモンは現在の状況では最強の敵になってしまっている。
あのブラックウォーグレイモンが自身を利用した存在を赦す筈は無い。それこそ世界の隔たりさえも無視して、確実に自身を利用した存在を抹消するだろう。
そのような敵を生み出す原因の一角を担ってしまったアルケニモンとマミーモンの事を本当の二人の主が赦す訳が無い。今はまだ自分達は必要だから罰を与えないだけで、全てが終わった時には確実に何らかの処罰が待っているとアルケニモンは確信していた。
(とにかく、今は従っている振りをして油断させるしかないね。それにブラックウォーグレイモンは当分は地球には戻ってこない筈だよ。何せアイツは自分の敵が異世界にいると思っているからね。少なくとも後一、二週間は安全だね。準備が終わって計画を開始するクリスマスイブまで後五日。何としても生き残る方法を見つけないとね!!)
そうアルケニモンは内心で生き残る決意を固めると、作業を終えて休んでいるマミーモンに顔を向ける。
「マミーモン!準備は終わったのかい?」
「あぁ、あの人に言われた作業は全部終わったぜ。これで日本での準備は終わりだ」
「そうかい。なら次は外国での作業だね・・・・ッ!閃いたよ!マミーモン!出来るだけ厚手の防寒着を買って来な!」
「あん?何でそんな物が必要なんだよ、アルケニモン?俺達が行く場所ならそんなに寒くねぇし、そもそも俺達は寒さには負けねぇぞ?」
「いいから買って来な!二箇所、とんでもない場所にダークタワーを建てるからね。そしてその場所のダークタワーを放って置いたら、とんでもない事が起きる。フフフフフフッ、連中も確実に慌てるだろうさ」
そうアルケニモンは残忍さに満ちた低い笑い声を漏らし、マミーモンはその笑みに恐怖を覚えながらアルケニモンの言葉どおり厚手の防寒着を急いで買いに向かうのだった。
そして四日後のデジタルワールドに存在するエリアの一つ。
大輔達は遂にデジタルワールドに存在するダークタワーの破壊をほぼ終え、最後のダークタワーが残っているエリアのダークタワーを破壊していた。
「エクスレイザーー!!!」
「スパイキングフィニッシュ!!」
「ヘブンズナックル!!」
「カースオブクイーン!!」
「ブラストレーザーー!!」
「テイルハンマーー!!」
次々とエクスブイモン、スティングモン、エンジェモン、ネフェルティモン、アクィラモン、アンキロモンが放つ技によってダークタワーは消滅していく。
その様子を離れた所で大輔達は見ていたが、誰もダークタワーが消滅していくにも関わらず喜びは僅かにしか無かった。目の前で消滅していくダークタワーは確かにデジタルワールドを危機に晒し、多くのダークタワーデジモンを、そしてブラックウォーグレイモンを世に生み出した元凶の物質。だが、大輔達もまたダークタワーと同じように自分達の行動で世界を危機に追い込んでしまった。
だからこそ、ダークタワーがデジタルワールドから無くなっても、それはブラックウォーグレイモンに対する罪滅ぼし程度にしか今の大輔達は考える事が出来なかった。
そしてその想いはエクスブイモン達も同じだった。
“せめてブラックウォーグレイモンの様な悲しき命を二度と世に生み出させない”。
その想いを抱きながらエクスブイモン達はダークタワーを破壊し続け、遂にダークタワーは最後の一本になる。それに向かってエクスブイモンが飛び掛かり、胸のX文字からレーザーを撃ち出す。
「これで終わりだ!!エクスレイザーーー!!!!」
エクスブイモンが放ったエクスレイザーによって最後のダークタワーは貫かれ消滅した。
それを確認したエクスブイモン達は背を翻し、自身のパートナーの下にそれぞれ辿り着くと、全員が成長期へと退化する。
それと共に大輔達もダークタワーの破壊が全て終わった事を確信し、それぞれ安堵の息を吐きながら顔を見合わせあう。
「・・・これで終わったな」
「・・・うん、これで少なくともデジタルワールドではダークタワーデジモンが生まれる事は無いよ」
「えぇ、アルケニモンとマミーモンも、もう居ませんし、少なくても本当の敵が現れるまではデジタルワールドには動きは無いでしょう」
「あぁ、それだけが唯一の救いだよ」
大輔、タケル、伊織、賢はそれぞれ言葉を交し合った。
その会話に参加せずにダークタワーが在った場所を静かに見つめ続けているヒカリに、テイルモンと京が声を掛ける。
「これでブラックウォーグレイモンの様な悲しみは生まれなくなったわ」
「だから、ヒカリちゃんも少しは元気を出してよ・・・・何時までも悩んでいたら調子が悪くなるし、ブラックウォーグレイモンも救ってくれたヒカリちゃんに元気が無いと落ち込むかもしれないわよ?」
「・・・・・うん。そうだね」
ヒカリはそうテイルモンと京の言葉に答えるが、やはり何時もの元気を見せる事は無くダークタワーが在った場所を見つめ続ける。
京とテイルモンはその様子に僅かに顔を暗くしながら、ヒカリからソッと離れて大輔達に声を掛ける。
「フゥ〜、ねぇ、皆?何か気分転換になる事は無いかしら?このままだとヒカリちゃん、本気で今のままよ」
「太一やお父さんに、お母さんも色々と頑張ってくれているけど・・・・効果はあんまり無いのよ」
「そうなると、やっぱり皆で集まって騒ぐのがいいよな?・・・・良し!それじゃ!クリスマスに皆で集まってパーティーしようぜ!賢の家でな!」
「えっ!?僕の家って!?」
「良いだろう別に?それにそろそろお前ん家に行って見たかったし、駄目だったら俺ん家でも良いけどよ?」
「・・・・・いや、僕の家で良いよ。父さんと母さんには説明すれば準備もしてくれるだろう・・・・皆が良ければだけど?」
「僕は良いよ」
「私も賢君の家に行って見たかったし、私もOKよ!」
タケル、京はそれぞれ大輔と賢の提案に頷き、賢はその様子に笑みを浮かべると、伊織の方へと顔を向け、右手をソッと伊織に差し出す。
「・・・・いいかな?」
「・・・はい、喜んで行かせて貰います」
賢の差し出して来た手を伊織は迷う事無く握り返し、大輔達は嬉しそうな顔をしながら賢と伊織の姿を見つめる。
「よし!それじゃ!ヒカリちゃんも誘って、前から考えていた事を実行しようぜ!」
『うん!』
大輔の言葉にその場にいる全員が頷き、離れた所で落ち込んでいるヒカリを誘い、何処かへと全員で向かい出すのだった。
そしてそれから一日後のクリスマスイブの日。
大輔達は五つの大きな袋を足元に置いて、とある空き地で人を待っていた。
大輔達が待っている人達は常日頃お世話になっている、大輔達の先輩に当たる1999年の選ばれし子供達だったメンバー、神太一、石田ヤマト、
武之内空、
泉光子郎、そして
城戸丈だった。ブラックウォーグレイモンとの戦いの時に駆けつけてくれた太一と光子郎を含め、他のヤマト達も戦いには参加出来なくても自分達に出来るだけの事で大輔達を支援していてくれた。
そんな太一達に恩返しをしようと大輔達は最高のクリスマスプレゼントを用意し、太一達が来るのを待っていた。因みに現在はアメリカで暮らしている
太刀川ミミにも、既にプレゼントを贈り終えている。
「お〜い!大輔!皆!!」
「アッ!太一さん!それに他の皆も!」
走って来た太一達の姿を目にした大輔は喜びの声を上げ、他のメンバーも嬉しそうな顔をしながら太一達を待つ。
「遅れてすまない。だけど、いきなり何の用だ?」
「実は今日は俺達から日頃お世話になっている太一さん達にプレゼントが在るんですよ」
『プレゼント?』
「太一!!」
「ヤマト!!」
「空!!」
「光子郎はん!」
「丈!!」
大輔が告げた言葉に太一達が疑問の声を上げると、大輔達の足元に存在していた大きな袋が一斉に開いた。
その中から太一のパートナーデジモンのアグモン、石田ヤマトのパートナーデジモンのガブモン、
武之内空のパートナーデジモンのピヨモン、泉光子郎のパートナーデジモンのテントモン、そして
城戸丈のパートナーデジモンのアザラシの子供を思わせる姿をしたデジモン-ゴマモンが嬉しそうな声を上げながら、それぞれパートナーに抱きついた。
ゴマモン、世代/成長期、属性/ワクチン種、種族/海獣型、必殺技/マーチングフィッシーズ
アザラシの子供を思わせる姿をした海獣型デジモン。好奇心が強くやんちゃな所が多い。しかし、かわいらしい外見に油断して近づくと、赤い髪を逆立てて怒り、硬い氷も一撃で砕くツメで攻撃して来る。必殺技は、子分にしている狂暴な小魚達を操り敵を襲わせる『マーチングフィッシーズ』だ。しかし、この小魚達は何処にでも現れるので、ある意味謎が多い小魚である。
「アグモン!」
「ガブモンじゃないか!!」
「元気そうね!」
「本当に久しぶりだな!!」
抱きついて来たアグモン達に太一達も喜びの声を上げながら抱き返した。
その様子を見ていた大輔達は、プレゼントは大成功だと喜び、ヒカリも嬉しそうな顔をして太一達とアグモン達の姿を見つめる。
そして太一達は大輔達にそれぞれ感謝の言葉を告げると、今夜行われるヤマトのコンサート会場の方へと向かって行くが、その前に太一は大輔とタケルに声を掛ける。
「大輔、タケル。今日はヒカリの事ありがとな」
「いや、気にしないで下さいよ、太一さん」
「そうですよ。今回の件は僕らに原因がありますから」
「いや、それでもお前達には感謝しているんだ。此処の所、ヒカリの奴。本当に元気が無くてな。今日のパーティーの話をした時には元気が少し戻っていたんだよ」
「やっぱ、家でも元気が無いんですか?ヒカリちゃんは?」
「あぁ、ブラックウォーグレイモンの事で落ち込んでいるんだ。ヒカリの奴は自分よりも他人の事を優先する所が在るから・・・・・とにかく、お前達には感謝している。パーティー楽しんで来いよ!」
そう太一は大輔達に感謝の言葉を言い終えると、アグモンと共に先に進んでいるヤマト達を追いかけ、大輔達も賢の家へとそれぞれ向かって行くのだった。
しかし、彼らは知らなかった。
本来は楽しい事が起きるクリスマスイブ。だが、その日が大輔達と太一達の新たな戦いを告げる日になるとは知らずに、大輔達と太一達は束の間の平和を謳歌するのだった。
お台場に存在するとあるビルの屋上。
既に日が落ち、誰も本来ならば訪れない屋上。
しかし、その場所から一人の黒いコートを着た男性がアルケニモンとマミーモンが作業を行なっていた場所を静かに見つめ続けていた。その顔にはアルケニモンとマミーモンの作業に満足しているかのような喜びが存在し、深く静かに頷きながら声を出す。
「・・・・もうすぐだ・・・・・もうすぐ私の願いが叶う・・・・・その為に長い時間を掛けて準備をして来たんだ・・・・絶対に叶えて見せるよ!■■君!!僕らの願いを!」
(ダガ・・・・ソノタメニハ・・・・モウヒトツ・・・・ヒツヨウナモノガ・・・・ソンザイシテイル)
「そう、僕らの願いを叶える為にはお前の持つ知識が必要だ!早く戻って来い、ブラックウォーグレイモン!!お前こそが私と彼の長年の願いを叶える鍵なんだ!!そのお前が居なくては困る!だから、早くこの世界にやって来い!僕らの願いを叶える為に!!」
自身の心の中から聞こえて来た悪意に満ちた声に同意するように男性は空に向かって叫んだ。
それと同時に男性が見つめていた場所から突如として前触れも無く黒い塔-ダークタワーが出現する。
それと共に出現した空間の歪みの中から巨大な影が幾つも現れ、お台場の大地に足を踏み出すのだった。
不可思議な光景が広がる異世界。
その場所は地球の人間やデジタルワールドのデジモン達でさえも不可思議としか言えない光景が広がる世界。本来ならば誰も訪れる事が出来ない世界。しかし、今その世界で凄まじい破壊活動が行われていた。
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
「出て来い!!!出て来なければこの世界を崩壊させるぞ!!」
次々とエネルギー球を放ち、その場所に存在する物質を破壊し続ける黒き竜人-ブラックウォーグレイモン。その顔は言葉では表現出来ないほどの憎しみに満ち溢れ、もしその場所に生物が居ても構わずに破壊活動を行い続けると誰もが一目見て判断するだろう。
だが、その憎しみを本来受ける筈の存在は一向に姿を現す事は無く、ブラックウォーグレイモンは更に苛立ちと憎しみに溢れさせ、巨大な赤いエネルギー球を両手の間に作り上げる。
「オオオォォォォーーーーーーーー!!!!ガイアフォーーース!!!!」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
ブラックウォーグレイモンの投げつけたガイアフォースによって巨大な大爆発が起きて、幾つもの物質が赤い光の中に消えていった。
しかし、それを行なった張本人であるブラックウォーグレイモンの怒りは晴れず、逆に更に怒りと憎しみを心から溢れさせるが、何とかそれを押さえ込み破壊し尽くされた世界を睨む。
「此処までやっても出て来ないか・・・・・と言う事は・・奴め、俺が来る事を知って逃げ出したな・・・赦さん!!絶対に何処までも追い掛けてこの手で消滅させてやる!!」
そうブラックウォーグレイモンは怒りに満ちた宣言を放つと、更に深い怒りと憎しみを募らせながらその世界から去ろうとする。
だが、その足は突然止まり、何かを考え込むような顔をすると、突然自身の足元に向かって右手のドラモンキラーを深く突き刺す。
「・・・・・・万が一・・・・俺が奴に敗れた時の保険は掛けておくか・・・・・最もこれが必要になる事は無いだろうがな」
ブラックウォーグレイモンはそう言葉を呟くと共にゆっくりとドラモンキラーを地面から抜き去り、自身の目的の敵が逃げ出したであろう場所-地球に急ぎ向かうのだった。