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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第15話:捧ぐ愛と果たされた約束―前編―
作者:蓬莱   2012/08/14(火) 16:51公開   ID:.dsW6wyhJEM
ホライゾンの<悲嘆の怠惰>により、天人軍の艦隊に風穴を開けたところで、待機していたメンバーに、ネシンバラからのモニター付きの通神が映し出された。

『じゃあ、銀時さん達の道をホライゾンが切り開いたところで、プロットを示そうか』

まず、モニターに映し出されたのは、艦長代理である鈴によって再現された戦場の簡易立体図だった。
この立体図は、鈴自身の能力によって、風や音などを感じ取ることで、天人軍の戦艦の位置などを、半径30qという広大な空間を完全に把握したうえで作られているため、見た目もかなり忠実に再現されていた。
さすがに、大量のNSA砲を再現する際は、鈴も色々と嫌だったのか、ちょっとだけ涙目になっていたが…

『まず、全体の目標としては、銀時さんの師匠を救出することだ。だけど、処刑場にたどり着くまで、善悪相殺の誓約で一切攻撃手段のない銀時さんにあの艦隊を突破するのは不可能に近い。だから、僕たちはその援護に回るが僕たちの仕事だよ。』

そう告げたネシンバラは、立体図に再現された天人軍の艦隊に目を向けた。
現在、ホライゾンの<悲嘆の怠惰>によって、中央に展開していた天人軍の戦艦を多数撃沈したことで、銀時らの通り道を切り開き、混乱した天人軍の艦隊の布陣を左右に分断することに成功していた。
故に、ネシンバラは、天人軍の艦隊が混乱している今こそ絶好の機会であると確信していた。

『ただ、いくら、敵が混乱しているとはいえ、このまま、銀時さんや武蔵を突貫させるのは危険すぎるだろうね』

とはいえ、ネシンバラも、銀時や武蔵を単独で天人軍の艦隊が展開する布陣を突っ切るというは無謀だと分かっていた。
すでに数十隻を撃ち落とされたとはいえ、未だに百数十隻近くの天人軍の戦艦が健在なのだ。
しかも、武蔵ほどではないにしても、天人軍の戦艦の多くは宇宙での戦闘を意識した巨大な船体に堅固な装甲によって防護されていた。
そして、主砲であるネオアームストロング・サイクロンジェット・アームストロング砲(以下NSA砲で略)も見た目の最悪さと裏腹に、サーヴァントであるセイバーにダメージを負わせる威力を持っていた(ニートの嫌がらせの性で)。
もし、銀時や武蔵が中央を突破する途中で、天人軍の艦隊が混乱から立ち直ったならば、左右からの挟撃によって撃破される可能性があった。
ならば、この鉄壁の盾と強力な矛を搭載した天人軍の戦艦による大艦隊を相手に取るべき方法は―――

『だけど、今まで彼らが想定したことのない相手ならば話は別だ。―――さぁ、出番だよ、登場人物たち!!』
「「「「Jud.!!」」」」

―――その巨大さゆえに鈍重となった天人軍の戦艦では対応できない武神による近接戦闘と二人の魔女による高速戦闘に引きずり込めばいい!!
次の瞬間、ネシンバラがGOサインを出すと同時に、了解の言葉を口にしながら、二体の武神と二人の白と黒の魔女は戦場へと向かっていった。



第15話:捧ぐ愛と果たされた約束―前編―



最初に左側の敵陣へと切りこんだのは、肩に自身の使い手―――キセルを喰えた右腕が義腕の少女<直政>を乗せた、十字架のような翼をもつ赤と黒を纏った女性型の武神と倉庫街での一戦で姿を見せた、ペタ子こと里見義康が乗り手である、犬のような頭部装甲を持った青色の女性型の武神だった。

「第六特務:直政―――“地摺朱雀”、いくさね!!」
「里見義康―――武神“義”出るぞ!!」

直正と義康が名乗りを上げると同時に、“地摺朱雀”と武神“義”は、こちらに気付いて、砲撃を仕掛けようとした天人軍の戦艦に取りついた。
その様子を目撃することになった、甲板にいた天人軍の兵士たちは、初めて見る兵器にたじろぎながら、慌てて武器を手にこちらを取り囲み始めた。

「どうやら、この世界には武神みたなもんは無いみたいさね」
「そのようだな…周りの戦艦も手も出せずにいるようだ。ならば…!!」

そんな天人軍の兵士達を見ていた直政は、銀時らの世界では、武神のような機動兵器を存在しない事を確認すると、“地摺朱雀”は手にした大型工具―――何やらネシンバラがこの世界で買い込んだゲームを参考に、機関部の連中が面白半分で作り上げた<ライアット・ジャレンチ>を天人軍の兵士に突き付けた。
一方、周囲にいる戦艦たちも同士討ちを避けようとしているのか、自分たちを迎撃する気配がない事を確認した義康が、背後にいる直政の言葉に頷くと同時に、“義”も赤拵えの鞘から巨大な日本刀を抜いた。
もはや、この二機の武神に乗り込まれてしまった時点で、この艦の運命はただ一つだけだった。

「向こうが手も足も出ない懐に潜り込めば、こっちのもんさね!!」
「その通りだ!!」

直政と義康がそう言った直後、“地摺朱雀”と“義”が自分たちを取り囲む天人軍の兵士たちを蹴散らしながら、手当り次第に自分たちが乗り込んだ船を壊し始めた。
すぐさま、これから何をするつもりなのか気付いた天人軍の兵士たちも武器を手に戦おうとするが、武神を相手に生身で戦うなど無理な話だった。

「よっしゃぁ…派手に解体していくよ!!」
「とりあえず、その卑猥な主砲は徹底的に潰すぞ!!」

そんな天人軍の兵士たちのささやかな抵抗を無視しながら、直政の指示に合わせて、“地摺朱雀”は巨大な工具によって次々と甲板や船体を引きはがしながら解体していった。
一方、義康の駆る“義”は手にした巨大な日本刀を振るいながら、艦の主砲であるNSA砲や副砲を切り捨てつつ、艦の攻撃手段を奪っていった。
とここに来て、この様子を見ていた周囲の戦艦は、勝利のために―――本音は自分たちの身を守るために多少の犠牲もやむなしと、“地摺朱雀”と“義”に蹂躙される同胞の艦にむけて、NSA砲を発射し始めた。

「おいおい、そいつは最悪だろうさね」
「ああ、そうだな。どうやら、仲間意識というのは薄いようだな」

呆れるようにぼやいた直政と義康は、味方の攻撃によって、いずれ沈むこの戦艦に見切りをつけると、艦の動力炉が爆発すると同時に、爆炎と煙に紛れながら艦から離脱した。
一方、味方の艦を沈めたとある戦艦の艦長は、自分たちを切り捨てた味方に対しての罵声と死の直前まで助けを求める声をかき消すように轟沈した戦艦を目の当たりにしながら、厄介な敵を仕留めたことを安堵しながら―――

「残念だったさね」
「まぁ、味方の艦さえ犠牲にするような相手に情けは無用だがな」

―――先ほどの戦艦の爆発に紛れて、こちらに乗り込んできた“地摺朱雀”と“義”を前にして、次は自分たちの番であることを思い知らされた。


一方、左側の敵陣が直政と義康の二機の武神によって、味方との同士討ちを始めていたころ、右側の敵陣に対しても、<武蔵>の甲板で待機していた六枚翼を持つ二人の魔女―――第四特務であるマルガ・ナルゼと第三特務であるマルゴット・ナイトによる攻撃が始まろうとしていた。

「派手にやっているわね…こっちも行くわよ、マルゴット」
「はいはいガッちゃん、急ぐと危ないよー」

直政達によって切り崩されていく左側の敵陣を見ていたナルゼは、いよいよ自分たちの番だと一歩一歩前へと進んでいった。
気持ちを高ぶらせるナルゼに対し、相方のナイトはナルゼを落ち着かせながら、愛用の放棄を手に、相方に合わせるようにして一緒に歩を進めた。
ゆっくりと、だが、徐々に足を速め、ナルゼとナイトは一緒に並びながら、<武蔵>の甲板を勢いよく駆け抜けていった。

「じゃ、マルゴット―――」
「うん、ガッちゃん―――」

そして、<武蔵>の甲板から空に飛び出したナルゼとナイトは、互いに目を配らせながら、声を合わせた。

「「―――Verwandlung!!」」

次の瞬間、ナルゼとナイトの声に応じるかのように、二人の背後にあたる空間から白と黒の棺桶が出現した。
同時に、黒の翼を開いたナルゼと金の翼を開いたナイトは、棺桶に収められた自分たちの戦装束を身にまとうために叫んだ。

「…黒嬢!!」
「…白嬢!!」

直後、白と黒の、二つの棺桶から、ナルゼとナイトの魔女衣装が宙にはためきながら、自動展開された。
―――白い棺桶から飛び出した白い魔女衣装はナルゼに。
―――黒い棺桶から飛びした黒い魔女装束はナイトに。
ナルゼとナイトがそれまで着ていた衣服が剥がれた瞬間、ナルゼとナイトは瞬時に魔女衣装を身にまとていった。
続けて、ナイトとナルゼが同じタイミングで二人の装備―――ナイトの木箒とナルゼのペンを翳しながら叫んだ。

「来てよね、黒嬢…!!」
「来なさい、白嬢…!!」

その二人の声にこたえるかのように、棺桶から鋼の追加装備―――魔女装備用の強化機殻が出現した。
―――ナイトの木箒には、後部のブラシ部をバーニアとする船殻が。
―――ナルゼのペンには、長い槍のような白い鉄が。
それぞれが宙に射出された四角のボトルで、次々にパーツを固定させていった。
最後に、ナルゼとナイトの肩に大型の接続パーツを兼ねた装甲が、腰には二枚のレールウィングを重ねた大型の加速器が取り付けられた。
魔女としての完全装備となったナルゼとナイトは互いに顔を見合わせながら頷き合った。

「高く飛ぶわよ、マルゴット」
「速く飛ぼうか、ガッちゃん」

そして、ナルゼとナイトは、言葉と共に、NJA砲をこちらに向けた天人軍の戦艦がひしめく右側の敵陣へと空に跳ね上がるようにして突っ込んだ。

「「行くわよ…遠隔魔術師の白と黒、堕天と墜天のアンサンブル!!」」

長い槍のようなペンに跨ったナルゼと細い船のような箒に跨ったナイトが、こちらに向かってきた事に気付いた複数の戦艦はすぐさま、主砲であるNJA砲を発射し、この正体不明の敵を撃ち落とさんとした。
先ほど、左側の陣が正体不明の兵器―――直政と義康の“地摺朱雀”と“義”によって蹂躙されていることを知ったため、この天人軍の戦艦らは、ナルゼとナイトによって被害を受ける前に前に倒すべきだと判断したのだ。
主砲を向けて一斉射撃を仕掛けたとする天人軍の戦艦達に対し、ナイトとナルゼは―――

「向こうも、こっちに気付いたみたいだよ!!」
「そうみたいね。けど、そんな大雑把な弾幕を張ったって、私たちを止められないわよ!!」

―――停止するどころか、かまうことなくさらに加速した。
右に、左に、上に、下に―――ナイトとナルゼは、まるでサーカスの曲芸を思わせるかのような動きで、次々と発射されるNSA砲の砲弾を潜り抜けた。
もはや、戦艦を指揮する艦長らも、自分たちの戦艦では加速性能と旋回瀬能に特化したナイトとナルゼを撃ち落とせないことを理解せざるをえなかった。
それと同時に、砲弾の嵐を潜り抜けたナイトとナルゼは、天人軍の戦艦がひしめく敵陣の中に入り込んだ。
ただ、この時点においても、銃を手にし、戦艦の縁に集まった天人軍の兵士たちは、自分たちは安全だという余裕があった。
確かに、主砲であるNSA砲が当たらない以上、ナイトとナルゼを撃ち落とすことはできない。
だが、重火器はおろか、武器のようなものを持っていないナイトとナルゼを見て、天人軍の兵士たちは失笑しながら思った―――こいつらに、この分厚い装甲に守られた戦艦を撃ち落とすすべはないはずと。

「―――なんて、考えているみたいだけど、残念ね」

そんな甘い考えをすぐさま打ち砕くべく、ナルゼは操縦板についたペンを抜くと、宙にペンでラインを描いた。
ナルゼの使用する魔術は白魔術―――物を作って回復させることに特化した魔術で、ナルゼはペン先から加速力を空に生み出すことで飛翔するのだ。
今、ナルゼはペンで宙にラインを描いたことで、天人軍の戦艦に向けての二つの誘導弾軌道を生み出した。
それに合わせるのは、黒い魔女―――ナイトの砲弾だった。

「こっちにはその戦艦を撃ち落とすための魔術式準対艦砲があるんだからね!!」

ナイトは側部の弾倉から棒金弾二本を取り出し、内部にストックすると、不意に後部加速器を閉じた。
ナイトの使用する魔術は黒魔術―――物を消し、減衰させることに特化した魔術で、ナイトは木箒のブラシ部分にマイナス化した重力を展開し、その反発力で飛翔しているのだ。
そして、ナイトの木箒の中央部から先端部にかけて、いくつものスピード・メーター型の魔術陣―――加速力を内部爆発させることで、砲弾をさらに加速させる魔術式準対艦砲が現れた。
そして、ナイトの発射した弾丸は二つとも、同時に宙にほどけるように分かれて、誘導ラインに乗りながら、天人軍の戦艦へと襲いかかった。

「―――Herrlich!!」

戦艦に向けて突っ込んできたナルゼとナイトがすれ違った瞬間、主砲であるNSA砲と戦艦のメインエンジンを撃ち抜かれた天人軍の戦艦は誘爆した砲弾の爆音とともに、爆発を繰り返しながら、大地へと落ちていった。
ここにおいて、天人軍の兵士たちは、自分たちの立場を理解せざるを得なかった。

「さぁ、相手をしてもらうわよ」
「まだまだ、私たちはやれるからね」

―――すでに自分たちが、天空を疾走する二人の魔女にとって、鈍重な的でしかない事に。
そして、再び飛翔したナルゼとナイトは、右側の敵陣を縦横無尽に駆け巡りながら、次々に天人軍の戦艦に襲いかかった。



ここにおいて、左右に分断された天人軍の艦隊は、二体の武神と二人の魔女によって蹂躙され、もはや陣形を立て直す余裕など何処にもなかった。
まして、今、<武蔵>から中央に空いた通り道を突破しようとする深紅の剱冑に気付くことなどできる状況ではなかった。。

「さぁ、道を開けたさね!!」
「ここは私たちに任せろ!!」

同士討ちを引き起こしながら、源義経の八艘飛びのごとく敵艦に次々と飛び移りながら、奮戦する直政と義康の声に答えるように親指を立て―――

「だから、さっさと行ってきなさい!!」
「こっちは抑えておくから!!」

高速戦闘を繰り広げながら、敵艦を撃ち落としていくナルゼとナイトの声援には、深紅の剱冑の中で獰猛な獣を思わせるような笑みを浮かべて―――

「行って救けてこいよ、銀時!!」
「―――任せとけよ!! セイバー、ここまでお膳立てしてくれたんだ、限界までぶっ飛ばすぞ!! 辰気加速!!」
「諒解!!」

笑みを浮かべながら、自分を送り出すアーチャーにむかって、天に届くような大声で答えた銀時は、セイバーの辰気加速を最大出力で発揮しながら、<武蔵>から飛び立っていった。
目指すは松陽先生のいる処刑場―――師を助けんとする銀時は、行く手を阻むモノがいない中央を堂々と突破していった。

「え、援護も、お、お願い、し、します!!」
「Jud.これより、武蔵主砲“兼定”、ショートバレル、“小兼定”モードから―――」
「発、射…!!」

途中で、疾走するセイバーに気付いた戦艦もいくつかあったが、艦長代理である鈴の指示のもと、<武蔵>からの援護射撃により、撃ち散らされていった。
もはや、アーチャー達の援護を受けた、今の銀時とセイバーの行く手を阻むモノは何処にもなかった。

「結構速く飛わね・・・私達とどっちが速いと思う?」
「そんなの決まっているよ。私とガッちゃんのほうが―――ナイト、すまん!!―――きゃ!!」

ちょうど、その頃、ナルゼとナイトは、<武蔵>からの援護を受けて、天人軍の戦艦を翻弄しつつ、中央に空いた一気に駆け抜けるセイバーらを見ていた。
とここで、ナルゼは、ふと気まぐれで、自分たちとセイバー、どちらが速度に勝るかをナイトに向かって尋ねた。
セイバーに何やら対抗心を燃やしたナルゼをほほえましく思いながら、ナイトは答えを返そうとした瞬間、突然、何やら自分に向かって謝ってくる正純の声が聞こえてきた。
何事かとナイトが首をかしげようとした直前、ルビーの力で別の平行世界の正純の力を借りたのか、両足に飛行用と思われる推進装置を取り付け、ブロンドのストレート長髪を前髪で切りそろえたカツラを被り、メガネをかけた正純と、その正純を背中に乗せた戒がナイトの木箒に飛び込んできた。
ちなみに、この時、なぜか、正純本人は不本意であるものの、とある事情により、ズボンを履いていなかった(ここ重要)。

「突然ですまない…!! 頼みたい事があるんだ!! 」
「あ、はい…ど、どうぞ…」

すぐさま、何事か慌てた様子の戒は、呆然とするナイトの肩をつかみながら、何かを頼み込んできた。
戒の尋常じゃない焦り様と、それさえも子女を魅了させる戒の甘いマスクにドキリと胸の中に何か高まりを感じたナイトは、少しだけ口をごもらせながら頷いた。
ちなみに、いつもなら、この色々とネタ的においしい場面をネームに追加しようとするナルゼであったが、自分の恋人であるナイトに色目を使う(?)戒に向けて殺意を込めた睨みを利かせていた。



一方、時間停止の理に支配されたアインツベルンの森では、キャスターと青年の戦いが続いていた。
否―――

「…まだ、やるのか?」
「…っ!! この、バビロンの魔女を舐めるなぁ!!」

―――それはすでに戦いではなく、常に無傷の青年が、致命傷を負いながらも再生し続けるキャスターを圧倒し続けるだけの、一方的な蹂躙が続いているだけだった。
この時点で、キャスターが、青年に殺された回数は、すでに数十回を超えようとしていた。
だが、それでも戦いをやめようとしないキャスターに対し、青年は、傷ついた体を再生するキャスターにむけて確認するかのように呟いた。
こちらを見下すような青年の口調に対し、体を再生させたキャスターは殺意と憤怒を織り交ぜた叫びと共に高速詠唱するとともに、キャスターの前に、それぞれの文様が違う複数もの魔法陣を展開した。
高速詠唱による複数の、そのどれもが属性の異なる魔法陣の展開―――それは、数百年もの研鑽の果てに魔導の境地にたどり着いた最強の魔術師であるキャスターのみに許された絶技だった。
そして、キャスターは、防御すらとっていない青年にむけて、全てを焼き尽くさんと燃え盛る火球、高速で打ち出された水の弾丸など数百にも及ぶ魔法弾を一斉に発射した。
並みのサーヴァントならば確実に仕留めることのできる、キャスターの放った魔法弾の嵐に対し、翼のように展開していた背中の刃を起き上がらせた青年は避けることもせず―――

「バビロンの魔女? それがどうした? 笑わせるなよ、小娘!!」
「ぎぃ…あああああああああああ!!」

―――光速さえも超えるような速度で、数千もを超える刃の群れを繰り出しながら迎え撃った!!
その斬撃の嵐を前に、数百もの魔法弾は全て断ち切られて、その全てがキャスターの身体、骨を、内臓を再生する隙も与えないまま切り飛ばされた。
終わることのない激痛の嵐を前に絶叫の声を上げるキャスターだったが、青年の攻撃はそれだけで終わらなかった。

「血、血、血…血が欲しい。ギロチンに注ごう、飲み物を。ギロチンの渇きを癒す為」

キャスターに向けて、全方位から斬撃の刃を繰り出しながら、青年はまるで歌うかのように不吉な言葉が紡がれていた。

「欲しいのは、血、血、血…!!」

同時に、その青年の歌に呼応するかのように、青年の分身である随神相も動き出していた。

「罪姫・正義の柱(マルグリット・ボア・ジュスティス)!!」
「がぁ…!!」

そして、青年の詠唱が終わった瞬間、随神相の口が開き、切り刻まれながら再生を続けるキャスターに向けて咆哮と共に、時間停止の理が付随した破壊の光を放った。
本来ならば、天さえも崩落させる一撃をまともに受けたキャスターの身体に激痛が走るが、それだけではなかった。
時間停止の影響を受けたことで、キャスターはところどころで負傷した箇所で時が止まり、再生することができなかった。
そして、さらに最悪なのは―――

「不死の身体か…ならば、俺が容赦する必要などまったくないという事だ」
「ぐっ…!!」

―――これだけの力を見せつけながらも、青年はキャスターに対しまったく情けをかけるどころか、慢心さえもしていない事だった。
そして、キャスターにつけ入る隙などまるで与えないまま、青年は次の攻撃に移った。

「Ira furor brevis est.(怒りは短い狂気である)―――Sequere naturam.(自然に従え)」
「うわああああああああああああああああああああ!!」

再び、青年によって紡がれた詠唱によって、随神相の鱗が次々と剥がれ落ち、流星の如く降り注いだ。
燃え盛る無数の流星は、容赦なくキャスターに向けて墜落しながら、森の木々を地表ごと吹き飛ばしていった。
キャスターになす術などあるはずがない―――キャスターが最強の魔術師であるならば、青年は、バーサーカーを除く歴代の神格全てを凌駕する存在だったのだから。

「ぅ、あ…」
「…」

もはや、キャスターの身体は、時間停止による影響で完全に再生することもままならない状態だった。
だが、キャスターは、動くことすら激痛にさいなまれるほどの傷だらけの身体を震わせながら立ち上がろうとしていた。

「立てよ…死ねない自分を憐れんでほしいと泣けば、俺が手を抜いてくれると思っているのか? 」
「く、あっ…」

だが、青年は、キャスターを見下しながら、汚らわしいものを見るような口調でキャスターを見透かすように挑発した。
そんな青年に対し、必死になって立ち上がろうとするキャスターは、青年に向かってあらん限りの憎悪を滾らせながら睨み付けた。
理不尽ともいえる力を振るう青年の姿は、キャスターがもっとも憎んでいる悪辣な神と世界そのものに見えた。
だが、青年はキャスターの殺意のこもった視線を涼しげに受け流しながら、キャスターに向かって挑発を続けた。

「結局、お前のような人間として生きる事を止めた奴ができる事なんて、一つだってないんだよ!!」
「…黙れぇえええええ!!」

次の瞬間、キャスターの全てを否定するような青年の言葉に対し、頭の中で何かが弾け飛んだキャスターは絶叫を上げながら立ち上がった。
そして、キャスターは、何度も殺され、何度も復活し続けながら、圧倒的な力を誇る青年に立ち向かっていった。



一方、青年に届けられた浅間と合流した喜美とランサーは、離れた場所からキャスターと青年との戦いを見守っていた。

「すごい…」

キャスターと青年との、一連の戦いを見ていた浅間は、自分たちを苦戦に追い込んだキャスターを圧倒的な力で打ちのめす青年の姿に唖然としていた。
サーヴァントとしての枠にはめられたことで弱体化しているとはいえ、元々、神格である青年は、サーヴァントとして、まさしく桁違いの実力を有していた。

「それでも、汚れ系幼女は諦めないみたいね」
『如何にあの不死性といえど、あの圧倒的な実力差では勝ち目などないはずだ。だが、なぜ、まだ戦おうとするのか…』
「話を聞く限りだと、キャスターは聖杯に人類を滅ぼす事を願うみたいですけど…」

だが、呆れたように言う喜美の言葉通り、キャスターは何度殺されても、宝具である<虚無の魔石>の力で何度も復活し、青年に向かって戦いを何度も続けていた。
キャスターにすでに勝ち目など皆無に等しい―――キャスターと青年との戦いをそう判断したアラストールから見ても、死に続けながら戦うキャスターの戦い振りは異常だった。
キャスターと青年の会話を聞いていた浅間は、キャスターの願い―――人類を鏖殺することで、魂の救済とするであることを口にした。
そんな狂信ともいえる願いの為に戦うキャスターに対し、浅間は背筋を冷やされたのか、そら恐ろしいものを感じていた。

「けど…それだけなのかしらね」
「あの汚れ系幼女…純情みたいね。ほんと…馬鹿みたいに」
「え?」
『どういうことなのだ、ランサー?』

しかし、何か険しい表情をしたランサーと珍しく表情を曇らせた喜美は、キャスターが戦い続けるのはそれだけでないという口ぶりでつぶやいた。
思いもよろないランサーと喜美の言葉に、浅間とアラストールはどういう事なのか尋ねるが、ランサーと喜美はあえて黙したままでいた。
この時、ランサーと喜美の二人は、先ほどまでのキャスターとの戦闘の中で、キャスターが怨念や復讐心だけで人類鏖殺の願いの為に戦っているのではないと気付きかけていた。
そして−−−

「分かりやすすぎるのよ、あんた」
「演技が下手ね…後でちゃんと体で教えてあげないとねv」

―――青年が下手くそな演技で悪役を演じながら、何とかキャスターを正しく導こうと戦っていることも!!
演技バレバレの青年を見ながら、呆れたように呟くランサーと拙い演技を微笑ましそうに笑う喜美は、キャスターと青年との戦いの行方をしばし見守ることにした。



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