深夜、普通の人ならば静かに寝静まる時間帯。
そのような時間帯で在りながら、とある民家の中で打撃音や銃撃音などが鳴り響き続けていた。
しかし、不思議とその音は他の家々に届く事は無く、人々は何事も無く眠り続けている。だが、間違いなく戦闘は行なわれていた。その戦闘を繰り広げているのは小柄な体格に白い髪を肩口辺りで切り揃えている少女-塔城小猫-と、神父服を着て手に光の剣と銃をそれぞれ持っている白髪の十代ぐらいと思われる少年だった。
そして其処から離れた位置には青褪めた顔をして震えている、今日の昼頃に一誠とオーフィスが出会った少女-アーシアの姿が在った。
状況を説明すれば悪魔としての仕事の為に依頼主の下に小猫は訪れたのだが、既に依頼主だった人物は少年-フリード・セルゼンによって殺されていたのだ。
フリード・セルゼンの正体は『悪魔祓い』と言う悪魔を刈る者。だが、『悪魔祓い』とは言ってもフリートは教会に正式に認められている『悪魔祓い』ではなく、『はぐれ悪魔祓い』と言う危険指定を受けている者だった。
『はぐれ悪魔祓い』とは『悪魔』を狩っている内に何時の間にか殺人などに快楽を覚えてしまった者達の事で、殆どが狂人であり、時には罪も無い一般人にさえも襲い掛かる事さえも在る。
そして悪魔を殺すことに喜びを感じるフリードは転移して来た小猫に襲い掛かり、已む無く小猫は応戦し、戦いが始まったと言う訳である。
アーシアはそのフリードに惨殺された小猫の依頼主の姿を見て恐怖に固まってしまっているのだ。
「ヒャハハハハハハハハハハッ!!ちっちぇくせにやるじゃねぇの!クソ悪魔!!その足でよう!!」
ーーードォン!!
「クッ!!」
ーーズザザザザザザザザザザ!!
フリードが撃って来た銃弾を、小猫は地面を転がるように避けた。
小猫の右足には銃による銃傷が在り、血が右足から流れていた。魔法陣で移動して来たところを撃ち抜かれてしまったのである。突然の事態に対処を小猫は行なえず、それでも何とか善戦していたが、相性が悪いとしか言えなかった。
狂人で在るフリード・セルゼンは『はぐれ悪魔祓い』。本来の『悪魔祓い』が力を借りる天使ではなく、堕天使から力を得ている。故に悪魔にとっての天敵である光の力をフリードは使える。それ故に銃から発射された光の弾-通称『
祓魔弾』は、悪魔である小猫にとって猛毒。
それを身に受けた小猫の全身には激痛が襲い掛かっていた。
『
悪魔の駒』の駒の一つである『
戦車』によって悪魔に転生した小猫には、特性として馬鹿げた腕力と強靭な耐久力が在るので耐えられているが、悪魔としての弱点によって足に負った傷のせいで思うように小猫は動くことが出来ず少しずつ追い込まれて来ていた。
(このままだと!?)
「オラオラ!考えごとなんてしている暇は在りませんよぉぉーーーっと!」
ーーードォン!!
「グゥッ!!」
一瞬の隙をつかれて傷ついた右足とは別の左足を
祓魔弾で撃ち抜かれた小猫は苦痛の声を上げて、地面を転がりながら倒れ伏してしまう。
その様子にフリードは嗜虐芯に溢れた笑みを浮かべて、ゆっくりと左手に握っている銃を小猫の額に合わせる。
「悪魔さんは近くに寄る方が強そうですからねぇぇ・・ジワジワとこいつで嬲って上げますよぉぉっ!!・・あぁん?」
「フリード神父様!!もう止めて下さい!!こんなの・・こんなの・・酷すぎます!!」
子猫に止めをさそうとするフリードの前にアーシアが立ち塞がり、小猫とフリードは面を食らったようにアーシアを見つめる。
「君?・・自分が何しているのか・・分かってんの?ソイツはクソ悪魔なんだよ?俺達の宿敵だぜ?」
「・・そうかもしれません・・だけど!!こんな事は主が赦す筈が無いです!!悪魔を魅入られたからって・・それだけで殺す理由にはならないはずです!!」
「はぁあああああああああああああああ!!!お前ばっかじゃないのぉおおおおッ!?悪魔は敵!!教会の教義でも教えられただろうがよぉ!!」
ーーーズバッ!!
「きゃあっ!?」
苛立ちが篭もった声と共にフリードは光剣を一閃し、アーシアの着ていたシスター服を下着ごと切り裂いて裸同然の状態にした。
突然に裸にされてしまい、羞恥心から身を隠すようにアーシアは手で両胸を隠す。その隙にフリードは左手に持っていた銃を振るってアーシアを殴り飛ばす。
ーーードガッ!!
「あうっ!!」
殴り飛ばされたアーシアは吹き飛び、顔に遠目から見ても分かるほどの痣が顔に出来て地面に倒れ伏した。
「ハァ〜、駄目だ駄目だ・・あの堕天使の姉さんからは殺すなって言われているから・・・でもさ、殺さなきゃいいみたいなんで、ちょっとレイープまがいな事してもいいですかい? 本当、それくらいしないと、俺の傷心は癒えそうにないんでござんす」
「・・最低です」
「それじゃ、クソアマ。少し待っていてくだせいよぉ・・このクソッタレな悪魔を細切れにしたら、相手をしますんで!」
そうフリードは叫ぶと共に右手に握っていた光剣をこれ見よがしに翳す。
自身の前に掲げられた光の剣に小猫は悔しげにフリードを睨みつけるが、構わずフリードは光剣を振り下ろす。
しかし、小猫に光剣の刃が届く直前にフリードの背後から誰かが凄まじい速さで走って来て、そのままフリードの背に向かってドロップキックを叩きつける。
「女の子を傷つけてんじゃねぇ!!この狂人!!」
ーーードガッ!!
「ガアァッ!!」
背後からの強烈な一撃にフリードは苦痛の叫びを上げながら吹き飛び、そのまま頭部が前に在った壁に頭から激突した。
突然の事態に小猫は思わず呆然として先ほどのフリードの一撃を叩きつけた相手に顔を向けて見ると、見覚えの在る仮面を付けた男性が小猫を護るように立っていた。
「昨日の!?」
「無事だったかい、お嬢さん?」
自身に驚いている小猫に向かって、仮面の男-一誠-は出来るだけ自分なりにカッコいいと思っている言葉を掛けた。
何故一誠がこの場に現れたのかと言うとアーシアと別れた後にオーフィスに頼んで生み出して貰った一匹の蛇を使って教会を監視していたところ、深夜近くの時間帯に明らかにまともではないフリードとアーシアが共に教会から出て行くのを発見し、何か在ると思って急いで家から飛び出したのである。
しかし、運が悪い事にフリードとアーシアが向かった民家の場所は一誠の家からかなり離れていたので、到着するのが遅れてしまったのだ。
そして一誠は両足から血を流している小猫の姿に怒りを募らせ、服の中から一つの小瓶を取り出して小猫に手渡す。
「受け取ってくれ。これは薬だ。これを傷口にかければ傷は治る」
「えっ?」
いきなり薬を渡された小猫は意味が分からずに疑問の声を上げるが、一誠は構わずに小猫の手の中に小瓶を握らせて立ち上がり、地面に倒れている裸同然のアーシアを発見する。
「ハッ!!アーーシア!!」
「・・・うん・・もしかして・・その声は?・・・一誠さんですか?」
「その頬は!?」
一誠は急いでアーシアに駆け寄り、その腫れている頬を目撃して目を見開く。
その間に壁に叩きつけられたフリードは頭から血を流しながらも立ち上がり、一誠の背を射殺さんばかりに睨みつける。
「てめぇ!よくも俺様に傷を!!殺す殺す殺す殺す!!泣き叫ぼうが、命乞いしようが、その体細切れにして苦しめて殺してや…」
《
Explosion!!》
ーーードゴン!!
「ガァッ!!」
フリードが叫んでいる途中で一誠の左手から音声が鳴り響くと同時に赤い閃光が走り、フリードの顔面に一誠の右拳が突き刺さった。
「今の一発はアーシアの頬に痣を作った一撃だ。女の子の顔に傷をつけてんじゃねぇよ!神父さんよ!!」
ーーードガッ!!
「グゥッ!!・・」
続くように『
赤龍帝の篭手』が顕現している左拳がフリードの胴体に突き刺さり、フリードは言葉も出せずにそのまま壁に向かって再び吹き飛び、壁にめり込んで気絶した。
その様子をつまらなそうに一誠は眺めるが、すぐに背後を振り向いてアーシアに駆け寄る。
「アーシア!だ、大丈夫か?」
「は、はい!・・で、でも一誠さんがどうして此処に?それに・・その仮面は?」
「アッ・・い、いや、それは・・それよりもコレを着てくれ・・お、俺としては嬉しいんだけど」
「えっ?」
一誠は告げると共に自身が羽織っていたジャケットを脱いでアーシアに差し出し、渡されたアーシアは改めて自身の今の姿を思い出す。
アーシアが着ていたシスター服はフリードに切り裂かれて引き締まった腰や、発展途上の膨らみに、一誠的に最高な太もも。真面目に戦闘でのシリアスモードで無ければ仮面を被っていても赤い鼻血で一誠の顔が血まみれになっていただろう。因みに既にアーシアの今の姿は一誠の脳内に保存されている。『複数思考』と言う技術までも使用した脳内保存技術を総動員していたりする。思いっきり別世界の魔導師と呼ばれる者達が泣けて来るほどの技術の無駄遣いである。
そして改めて自身の姿を思い出したアーシアは顔を一瞬にして真っ赤に染めて、一誠が差し出して来たジャケットで前を隠しながら膝を着く。
「はうぅぅぅぅぅっ!!!も、もう!お嫁にいけません!!」
「い、いや、其処まで言うことじゃないんじゃ」
「・・最低です、兵藤一誠先輩」
「えぇぇぇっ!!・・・・ってアレ?・・・もしかして・・俺の正体ばれてします?塔城小猫さん?」
ーーーコクリ
一誠の質問に両足の傷を渡された薬で治した小猫は立ち上がりながら頷き、一誠は一気に顔が青ざめた。
「ゴメンなさい!!昨日の件はどうかお赦しを!!いや、本当に反省しています!!」
土下座せんばかりに一誠は子猫に向かって頭を下げた。
その様子に小猫は苦笑を浮かべながら答える。
「助けられた件でチャラにします・・でも、次は殴ります」
「は、はい!小猫さん!」
「小猫!!」
一誠と小猫が会話していると、突然に真紅の魔法陣が出現し、リアス・グレモリーとその眷属である木場祐斗と姫島朱乃が慌てながら転移して来た。
リアスは即座に小猫のそばに駆け寄り、その体に傷が無いかどうかを確認して安堵の息を吐く。
「良かった、無事だったのね・・急に貴女の魔力の気配が消えて、結界も張られていたから心配したのよ?」
「心配を掛けました・・はぐれ悪魔祓いが待ち構えていたんですけど・・此方の方々に助けられたんです」
「そう・・・って!貴方は昨日の
神器所持者!?」
「ど、どうも」
驚くリアスに一誠は右手を上げて挨拶をした。
昨晩の事で祐斗と朱乃は一誠を警戒するように視線を向けるが、一誠は戦う気が無いと言うように両手を上げる。
その様子に本気で戦う気が無いのだと悟ったリアスは頷くと共に祐斗と朱乃に声を掛ける。
「止めなさい、二人とも・・どうも敵対する気は無いみたいだし、何よりも小猫を助けて貰った借りが在るわ・・・・それと其処のシスター」
「は、はい!!」
リアスの呼びかけに一誠のジャケットを着ているアーシアは返事を返した。
そのままリアスはアーシアに質問しようと口を開きかけるが、その前に何かに気がついたかのように朱乃が辺りを見回し出す。
「部長!!こっちに堕天使が数名向かって来ています!!恐らくは其処に気絶しているはぐれ悪魔祓いの回収でしょう!?」
「何ですって?・・だとしたら、一度帰還するしか無いわね」
リアスはそう朱乃の報告に険しい声を出した。
悪魔と堕天使の戦いになれば、それが切っ掛けで戦争になる可能性が在るのだ。
現在の悪魔、堕天使、天使の三勢力はかなり危ういバランスでなりたっているのだから。故にリアスは一先ずは自分達の拠点に戻るしか無いのだが、戻った場合、運良く再会出来た謎の
神器保持者を逃してしまうかもしれない。最も既にその正体を子猫は知っているのだが、その事を知らないリアスは悩むようにアーシアと共に立っている一誠を見つめる。
それに気がついた一誠はリアスに向かって声を掛ける。
「リアス・グレモリーさん・・俺の正体は塔城小猫さんが既に知っている。俺は人間だから問題は無いが、悪魔で在る貴女と堕天使が接触するのは今は不味いだろう。だから、後日会いに行く」
「・・・分かったわ・・詳しい話はその時にしましょう、皆!一先ず戻るわよ!!」
「君とは一度正面から話がしたいからね・・無事に逃げてくれ」
「小猫ちゃんを助けてくれたこと、感謝します。どうかご無事で」
「本当にありがとうございました」
祐斗、朱乃、小猫はそれぞれ一誠に言葉を告げると、リアスが敷いた魔法陣に飛び込んで自分達のアジトへと帰還して行った。
その様子に一誠は安堵の息を吐いて、自身を不安そうに見つめているアーシアに声を掛ける。
「アーシア」
「はい」
「・・・その・・質問だけど・・君は連中のところに戻りたいかい?」
「そ、それは・・」
一誠の質問にアーシアの翡翠の瞳は揺らめき、壁に背を預けたまま気絶しているフリードに視線を向ける。
アーシアは行き場の無くなった自身を受け入れてくれた堕天使に感謝していた。だが、今日フリードが平然と人を殺すのを目撃した。優しいが故にアーシアにとってその事実は受け入れがたいことだった。
「・・・わ、私は・・その・・・」
「・・・ゴメン、アーシア・・・・すぐに離れないと不味くなった」
ーーーガシッ!!
「フェッ?」
言葉と共に腰を掴んだ一誠にアーシアは疑問の声を上げるが、一誠は構わずに左手に顕現させたままだった『
赤龍帝の篭手』に溜めていた力を脚力に全て注ぎ込む。
《
Explosion!!》
「オオオォォォォォォォォーーーーーーーーー!!!!!!」
「キャァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!」
音声と共に土煙を上げながら一誠は凄まじい速さで走り出し、アーシアの悲鳴が辺りに木霊する。
その悲鳴に気がついた堕天使達は即座に土煙を上げながら走っている一誠を追いかけるが、堕天使が空を飛んでいるのにも関わらずに一誠と堕天使達の距離は離れて行く。
此処で説明するが、兵藤一誠の逃げ足は既に人外でさえも及ばないレベルに発展している。この世界の上位レベルでさえも及ばない実力を持つブラックとフリートと言う、常識を軽く踏み越えた二人の師を持つ一誠は日夜命がけの訓練を行なわされて来た。
それ故に一誠の逃げ足は下級や中級のレベルでは追いつけないほどに成長していた。しかし、今一誠はその力を限界を超えて振り絞っていた。何故なら凄まじく危険な出来事がもうすぐ起きると鍛え抜かれた危機感が叫んでいるのだ。
故に一誠は全速力でその場から離れて行く。堕天使勢は自分達の計画に必要なアーシアを連れて逃げ去ろうとする一誠を捕まえようと必死に追いかけるが、その前にアニメキャラのプリントが入っているパジャマを着て、腕の中にベルフェモンを抱いているオーフィスが立ち塞がる。
「なっ!?誰よ!貴女!?」
突然に自分達の前に立ち塞がったオーフィスの姿に、堕天使達のリーダー格である腰ぐらいまで伸ばしている黒髪のスタイルが良い女性-レイナーレは警戒するように叫んだ。
その問いにオーフィスは眠そうに目を擦りながらも、パジャマのポケットの中から数枚の写真を取り出して、レイナーレ達が目的の堕天使達だと確認する。
「・・・眠いけど・・お仕事・・・アザゼルからの依頼を完遂する」
「アザゼル?・・・まさか!?アザゼル様のこと!?」
「そう・・・悪魔の陣地内で勝手に動く堕天使の回収・・・・お仕事完遂・・ベルフェやる」
「フワァァァ〜〜〜」
オーフィスの指示に腕の中で眠っていたベルフェモンが欠伸と共に薄目を開けて、レイナーレとその他三人の堕天使勢の姿を確認する。
レイナーレとその他三名の堕天使-カラワーナ、ドーナシーク、ミッテルト-は自分達が秘密裏に計画していた事が上層部に、しかも彼らが所属している組織のトップに知られている事実に完全に固まっていた。
彼らの計画は一誠にフリートが伝えたように、アーシア・アルジェントがその身に保有している
神器『
聖母の微笑』を奪い取る事だった。
『
聖母の微笑』は
神器の中でも『
神滅具』には及ばないが希少な
神器。しかも希少と言われるだけあって、本来ならば神に敵対している堕天使や悪魔さえも回復させてしまう力を宿している。だからこそ、レイナーレ達は教会から追放されて行き場を失ったアーシアに接触して仲間に引き入れようとした。そして準備が整い次第にアーシアから『
聖母の微笑』を抜き去る計画だった。
それは誰にも知られないようにレイナーレ達が四人だけで計画していた事。だが、寄りにもよって自分達の所属している組織のトップに知られている。
「レイナーレお姉さま!!このままだと!?」
「う、うろたえないで!!・・こうなったら、何としても『
聖母の微笑』を手に入れるわよ!!アレは私達の件を有耶無耶に出来る価値が在る
神器なのだから!きっと持ち帰ればアザゼル様もお許し下さるわ!」
「・・そうだな・・もはや俺達は戻れん!ならば、『
聖母の微笑』を手に入れるしか道は無い!!」
「行くぞ!!」
そう最後のスーツを服を着ている堕天使-ドーナシーク-は叫ぶと幾つもの光の槍を出現させ、他の堕天使も次々に光の槍を出現させてオーフィスとベルフェモンを取り囲むように陣取る。
彼らはオーフィスとベルフェモンも倒せるとは思っていない。幾ら何でも自分達のトップであるアザゼルから依頼を受けるオーフィスとベルフェモンの実力が低いなどと考えられる筈が無い。故に全力で攻撃を行ない、少しでも防御している隙に逃げ去った一誠とアーシアを捕まえる作戦だった。
そしてレイナーレ達が一斉に攻撃を仕掛けようとした瞬間、オーフィスの腕の中に居たベルフェモンが背中の小さな翼を動かしてオーフィスの頭上に移動する。
その様子に何か攻撃が来ると直感したレイナーレ達は攻撃される前に自分達が発生した光の槍を投げようとする。だが、次の瞬間にカラワーナ、ドーナシーク、ミッテルトの鳩尾に黒い一筋の閃光が走り、三人は地上に向かって声も出せずに吹き飛ぶ。
ーーバコォン!!!
『ガッ!!』
「ッ!!ドーナシーク!!カラワーナ!!ミッテルト!!一体何が!?」
「フワァァァァッ」
「ッ!!」
聞こえて来た大きな欠伸の音にレイナーレが目を向けて見ると、体に巻きついていた鎖を解放させて揺らめくように動かしているベルフェモンを目撃する。
同時に自身を除いた三人はベルフェモンの鎖の一撃によって戦闘不能に追い込まれて地上に激突させられたのだとレイナーレは気がつき、全身から冷や汗を流しながら眠そうに目を動かしているベルフェモンを見つめる。
「・・な・・何なのよ?・・何なのよ!?その生物は!?」
「ん・・ベルフェ・・我の家族」
「そんな事を聞いているんじゃないわ!?こ、こんな生物!?居るはずが…」
「・・・・うるさいの・・安眠の邪魔」
ーーードガッ!!
「ガハッ!!」
初めてベルフェモンが言葉を発すると同時に、レイナーレの腹部にベルフェモンの鎖が直撃した。
その凄まじい威力に内臓を打ちのめされたレイナーレは、苦痛に滲んだような顔をしながら地上へと落下して行き、地面に激突すると共に完全に意識を失う。
それを確認したオーフィスはゆっくりと腕を伸ばして、腕の中に戻って来たベルフェモンを抱えながら、ポケットから取り出した携帯を耳に当てる。
『はいは〜い!!フリートさんですよ!!』
「仕事終わった・・・一誠の方も多分完遂した」
『ご苦労様です、オーフィスちゃん・・で、殺してしまいました?』
「・・ベルフェ・・かなり手加減した・・・一応生きてる」
『了解ですよ。すぐに回収しますんで、今日はもう帰って良いです』
「うん・・お休み」
オーフィスはフリートとの通話を切ると、携帯をパジャマのポケットの中に戻してベルフェモンを抱えなおす。
「・・お仕事終わり?オーフィス」
「終わり・・ベルフェ、頑張った・・良い子」
オーフィスはそうベルフェモンに告げながらベルフェモンの頭を優しく撫でた。
ベルフェモンはそれが気持ち良いのか、嬉しそうに口元を笑みで歪ませていると、ゆっくりとまどろんで深い眠りの内に付く。それを確認したオーフィスは、ゆっくりと地上で気絶しているレイナーレ達に背を向けて、自分達が暮らしている一誠の家へと戻って行く。
後に残されたのは地面に頭から突っ込んで、下半身をピクピクと痙攣させている四人の堕天使が残され、フリートが回収に現れるまで彼らはそのままだったのだった。
レイナーレ達が拠点として扱っていた教会内部。
教会の中にはレイナーレ達と手を結んでいた『はぐれ悪魔祓い』達がいたが、今は全員床で苦痛に呻きながら転がっていた。
それを成した人物-翡翠色の髪をポニーテルにして纏めて、私服を着ているリンディ-は、ゆっくりと全身に襲い掛かる激痛に苦しんでいる『はぐれ悪魔祓い』達をつまらなそうに見下ろしていた。
「・・た・・助け・・て・・くれ」
「フゥ〜・・今まで他にも『はぐれ悪魔祓い』達を倒して来たけど・・大抵の連中は今のような状態になったら命乞いを絶対にするのよね・・・質問して良いかしら?貴方達は些細な願いの為に悪魔を召喚した人を殺す時に・・その時に助けを願っても叶えた事は在るかしら?」
「あぁ・・・・・あぁ・・た・頼む・・もう・・このままだと・・・死・・」
「死なないわよ。ゆっくりと自分達のして来た事を後悔しながら苦しみなさい・・さてと・・・そろそろお迎えが来る時間よ。正式な教会からお迎えがね」
『ッ!!』
リンディが告げた事実に『はぐれ悪魔祓い』達は苦痛に苦しみながらも目を見開いた。
『はぐれ』と名が付くだけに、彼らは例外なく教会から異端の烙印を受けた者達。本来ならば処分を受ける筈なのだが、彼らは運が良く処分を免れて教会から逃亡した者達。
当然教会から追っ手も出されているのだが、堕天使の勢力に入り込む事で追っ手からも免れていた。
微妙な三勢力の現状、小競り合いも出来るだけ逃れたいと三勢力とも思っている現状ゆえに、堕天使勢力に逃げ込んだ『はぐれ悪魔祓い』達に対して教会は手が出せなかった。だが、どの三勢力に所属していないリンディは別だった。
平然と殺人まで引き起こした者が居る集団などリンディが赦す筈も無く、こうしてレイナーレ達を捕らえたとフリートから連絡を受けると共に教会に潜んでいた『はぐれ悪魔祓い』達を一掃したのである。
序でに教会に対しては既に連絡済みであり、報酬の件でも話がついている。余り宗教関係は好きではないリンディだが、仕事としての関係では完全に別なのである。
「一誠君とオーフィスちゃんもそれぞれ依頼を果たした見たいね。ベルフェモン君もちゃんと手加減出来ていたようだし、これからはオーフィスちゃんも私達の仕事に参加させて大丈夫ね。一誠君はちゃんとリアスさん達に対して謝罪をさせないといけないし・・・・当分は忙しくなるかもしれないわ」
そうリンディは教会内部にある座席に深く座り込みながら呟き、ゆっくりと正式な教会の者が来るまで静かに今後の事を考えるのだった。