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竜人とマッドの弟子は赤龍帝 グレモリーと赤龍帝
作者:ゼクス   2012/07/19(木) 00:08公開   ID:sJQoKZ.2Fwk
 青空ではなく紫色の空に覆われた世界。
 『冥界』とその世界は称され、悪魔や堕天使、そして死神と呼ばれる種族が『冥界』で暮らしていた。
 基本的に『冥界』は人間世界と変わらない構造をして、木々や森、川などの独特の自然で彩られている。
 その世界に住む種族の内、悪魔の種族を統べている四人の魔王の一角である『サーゼクス・ルシファー』の居城にリンディは一誠の件での謝罪の為に訪れていた。

「先日は私どもの下に居る者が、サーゼクス様の妹様には本当に失礼をいたしました。この度はその件に関する謝罪をしたく…」

「リンディ・・その件は私個人に関する部分だ。そう畏まった言葉は必要ない」

「・・・・それじゃそうさせて貰うわ、サーゼクスさん」

 サーゼクスの言葉にリンディは姿勢を直しながら答え、サーゼクスは手で椅子に座るように促し、テーブルを挟んで二人は対面する。

「リアスから不審な神器セイクリッド・ギア保持者の報告は聞いていたが・・まさか、君達の下に居た『赤龍帝』だったと君から聞いた時は驚いたよ」

「本当に妹さんとその眷属の方々には失礼を働いてしまったみたいで、ゴメンなさいね」

「何、君達には色々と助けられている。今回の件は不幸な事故だったと言うところだろう・・・しかし、随分と今回は大盤振る舞いだね。君達が保護していた『赤龍帝』を謝罪としてリアスの下で働かせると言うのは」

「一誠君にはそろそろ私達の所以外での経験もして欲しいと思っていましたので」

「なるほど・・・・・分かった。リアスの下で『赤龍帝』が働くのを許可しよう」

「ありがとうございます」

 リンディはサーゼクスに向かって深々と頭を下げた。
 穏便に今回の件の処理が終わったことにリンディは内心で安堵の息を吐きながら、ゆっくりとフリートからサーゼクスに渡すように頼まれた資料を持って来ていた鞄の中から取り出す。
 リンディ本人としてはその資料を渡したくはないのだが、ちゃんとした依頼の為に苦渋に塗れた顔をしながら、テーブルの上に資料を置いてサーゼクスに向かって差し出す。

「こ・・此方が・・ご依頼されていた件に関する資料です・・す、既に八十パーセント近く完成しているので、近々此方に例の物は送られて来ます」

「そうかね・・いや、君達なら、特にフリートならばコレを完成させてくれると思っていたよ・・“戦隊物にはやはり巨大ロボット”が必要だからね」

(あ、頭が痛いわ・・フ、フリートさんのお馬鹿!!!何でサーゼクスさんに趣味で作っていた巨大ロボットを見せたのよ!!)

 以前サーゼクスがアルハザードに見学に来た時に、サーゼクスはフリートが趣味で作り上げたロボット軍団を見たのだ。
 そしてサーゼクスはフリートに自身が乗る為の巨大ロボットの作製を依頼したのだ。興味を持ったフリートは当然サーゼクスの依頼を了承し、『マオウガー』と言う巨大合体ロボットの製作を行ない、既に完成度は八十パーセントにまで達していた。
 当然ながらソレを知ったリンディは即座にフリートを止めようとしたが、既に正式な依頼として受理されてしまっていたので、リンディも止めることが出来ずに、自身と同じ気持ちを抱いたサーゼクスの妻であるグレイフィアと共に頭痛を覚えた。
 その他にもサーゼクスと同じ魔王の一角で在る『セラフォルー・レヴィアタン』に魔法少女らしい衣装を登録されたデバイスの作製を依頼されたりと、正直頭が痛くなるような依頼をリンディは処理して来たのだ。

(ハァ〜・・・・こんな方々が魔王だなんて・・真面目になっている時の彼らを知っているけど・・・・『冥界』の行く末が心配になるわね)

「フフッ、ミリキャスもこれを見れば喜ぶだろう。そうそう、この件での報酬として渡す予定だった『使い魔の森』の自由な行き来に関する許可証の件なのだが・・その件で実は依頼が在る」

「依頼となれば仕事の話になるわね。それでどのような依頼なのでしょうか?」

「うむ・・・実は此処最近『使い魔の森』に生息しているスライムが大量発生して使い魔を手に入れる為に訪れた女性悪魔達に多数の被害を出しているらしい。無論、弱点は変わっていないので処理は簡単なのだが、どうやらスライムの大量発生には環境に関する問題が何かしらあるらしい。だが、調査に出向いた者が幾ら森を調査しても原因は究明出来なかった」

「なるほど・・では、そのスライムの大量発生の原因の究明と解決が依頼と言うことで間違いは無いでしょうか?」

「話が早くて助かる。スライム自体に関しては実害は女性悪魔だけにしかないが、此処のところは他の生物達も増え続けるスライムにストレスを感じて来ているらしい・・・ストレスが爆発する前にスライムの問題は解決しないと、他の生物達が争いを始めて大変な事態を引き起こす恐れが充分に考えられる。万が一、ヒュドラが暴れたりすれば犠牲者が出てしまう」

「分かりました。早急に『使い魔の森』にフリートさんを送り込んで調査に当たらせます」

 そうリンディは今回の件に最も適任な人物であるフリートを『使い魔の森』に向かわせる事を決めた。
 生物の発生の調査などを出来るのはリンディ達の中ではフリート以外に居ない。ブラックではスライムの発生などに構わず、強い生物を探して戦いを挑むに違いない。ルインはスライムと相対すれば一誠に服を破壊された時の事を思い出して暴走する可能性がある。
 リンディは人間だった頃に生態調査などの任務をこなした事は在るが、本職の者が調べても分からなかった原因を判明させるのは無理である。故に自分達の中で今回のサーゼクスの依頼を迅速に解決へと運べるのは、マッド研究者であるフリート以外には居ない。
 サーゼクスもフリートの技術力の高さを理解しているのでリンディの考えに頷き、次に資料の中にある一枚の封書を開けながらリンディに話しかける。

「フム・・・・・ほぉ〜・・・これは驚いた。リンディ・・この封書に間違いは無いのかね?」

「はい・・近々此方の世界に四聖獣の一体であるチンロンモンさんが訪れたいとの願いに関する資料です。此方の世界の『冥界』にとある事情で赴きたいので、その許可を頂きたいとの事です」

「チンロンモン・・君達の話では別世界のデジモンと呼ばれる種族の中で“神”と呼称される存在・・・・この件に関しては流石に私一人では判断出来ない・・少し時間を貰っても構わないかね?」

「はい・・チンロンモンさんから何時でも構わないと言伝を受けていますので、時間に関しては構いません」

「そうか・・出来るだけ早く答えを返せるようにするよ・・・それともう一つ良いかね?」

「えぇ、構いませんが?」

「・・・もしもリアスが『赤龍帝』を眷属に加えたいと言っても、別に構わないかね?」

「その件の関しては無理やりとかで無ければ、別段一誠君を悪魔に転生させるのは構いません。ですが、もしも本人の意思を無視して転生悪魔に無理やりさせようとするなら…」

「君達を敵に回す気は無いさ。何よりも私の一族はそう言うやり方が嫌いだからね」

 サーゼクスの血筋である『グレモリー』は七十二柱の悪魔の中でも、情が厚い悪魔の家系。
 悪魔の中には実力や神器セイクリッド・ギアを持つと言う理由で無理やりに眷属悪魔にしようと言う連中も居るが、グレモリーはその中でも情が厚く眷属悪魔を大切にする一族。それ故に無理やり一誠を眷属悪魔にしようとは考えていない。
 サーゼクスと言うグレモリーの血を引く人物の性格を知っているリンディは、それ故に一誠を安心してリアス・グレモリーの下に送れるのだ。

「では、私は人間界に戻って一誠君にこの度の件を伝えて来ます」

「もっとゆっくり話がしたかったがね・・次はプライベートの時にでも会おう」

「そうね。次はグレイフィアさんがオフの時にでも会いましょう」

 そうリンディはサーゼクスに告げると、ゆっくりと椅子から立ち上がり、部屋を出て行く。
 残されたサーゼクスはリンディが置いていった資料を注意深く読みながら、内容について吟味するのだった。





 リンディがサーゼクスの下に訪れた夕方頃の駒王学園くおうがくえん内の一誠が学んでいる教室。
 教室内では放課後になったことで学生達がそれぞれ帰り支度や部活動の準備を行なっていた。そしてこれからの事を思って帰り支度を一誠が行なっていると、友人である坊主頭の男子-『松田』とメガネを掛けた男子-『元浜』が声を掛けて来る。

「イッセー、一緒に帰ろうぜ」

「実は素晴らしいブツが手に入ったんだ。三人で見ようぜ」

「あぁ・・悪い・・実はこれから人と会う約束があるんだ」

 松田の提案に一誠は残念そうな声を出しながら答えて、椅子から立ち上がると同時に、教室の扉が開いてゴスロリ服を着てベルフェモンを抱えた黒髪の美少女-オーフィスと、間に合わせとして新しく用意されたシスター服を着た金髪の美少女-アーシア・アルジェントが教室内に足を踏み入れる。
 学校内で見かけない可愛らしい二人の美少女の姿に、教室内に残っていた者達は呆然とオーフィスとアーシアを見つめる。
 一誠の友人である元浜と松田もアーシアとオーフィスを呆然としながら見ていると、教室内を見回していたアーシアが一誠の姿を捉える。

「アッ!イッセーさん!!迎えに来ましたよ!!」

「ん・・イッセー・・迎えに来た」

『なにぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーー!!!!!!??????』

 アーシアとオーフィスが紡いだ言葉に教室内に残っていた全員が信じられないというような叫びを放ち、一誠とアーシア、オーフィスをそれぞれ見回す。
 言うまでも無いが、一誠は学園内でスケベな人物として知れ渡っている。覗きなどは流石に行なっていないが、エロと言う共通の思いを持っている友人である松田と元浜との会話のせいで、女子からはかなり嫌われている。
 それ故に浮いた話など一度も無かった一誠に、神秘的な雰囲気を放つゴスロリ美少女であるオーフィスとシスター服を着た純粋さを感じさせるアーシアが迎えに訪れたのだから、彼らの中にあった一誠に対する認識が崩壊し掛けていた。
 特に友人である松田と元浜は、悔しさと怒りに満ち溢れた目をしながら一誠に詰め寄る。

「イッセェェェェェェェーーーーーーー!!!!!」

「な、なんだよ!?」

「あの黒いゴスロリ服を着た美少女とシスター服を着た美少女は誰だ!?」

「そうだぞ、イッセー!!お前にあんな二人の美少女の知り合いがいるなんて聞いた覚えは無い!!・・ハッ!!き、貴様!まさか!遂に誘拐をしたのか!?」

「人聞きの悪い事を言うな!!!アーシアは事情が在って家に居るだけで!オーフィスは家族なだけだ!!!」

『何だと!?』

「・・・アッ・・・しまった」

 在る意味で最もばれては不味い事実を話してしまったことに一誠は口元に手をやりながら、自身に嫉妬と怒りに満ち溢れた視線を向けて来ている元浜と松田、そして教室の残っていた他の男子達を見つめる。
 常ならばその視線を向けて来る者達に愉悦感を覚えるところだが、今この場では不味すぎる。何せ松田と元浜以外にも男子がこの場に居るのだから。どうやってこの場を切り抜けようかと一誠が悩んでいると、再び教室の扉が開き、今度は小柄な銀髪の少女-搭城小猫とうじょう こねこが教室内に入って来る。

「失礼します。あの・・・・兵藤先輩は居ますか?」

『また一誠か!?』

「えっ?」

 教室内の男子の叫びに小猫は首を傾げる。
 それを目撃した一誠は逃げるチャンスだと思い、即座にオーフィスを背中に背負い、アーシアを横抱きに抱えると、小猫の下に瞬時に移動する。

「小猫ちゃん!!グレモリー先輩の呼び出しだよね!!」

「は、はい!」

「じゃ、すぐに行こう!!即座に行こう!!」

「あの、一誠さん!ちょっと!」

「イッセー・・少しま…」

「さぁ、行くぞ!!」

 止めるオーフィスとアーシアに構わずに一誠はアーシアとオーフィスを抱えながら教室から飛び出し、小猫も慌てて一誠を追いかけて旧校舎へと向かって行く。
 教室に残されたのは一誠に嫉妬の念を抱く男子達と、“オーフィスが一誠に背負われた時に机の上に載せたまま眠っているベルフェモン”だけだった。





「ゼェ・・ゼェ・・ゼェ・・・ウッカリ全速力で逃げてしまった」

 駒王学園くおうがくえんの旧校舎に在るグレモリー眷属の集会場である『オカルト研究部』の部室の前で、体力的にではなく精神的に消耗した一誠は荒い息を吐いていた。
 その横でアーシアが心配そうに一誠の背中を擦り、オーフィスは教室に残して来てしまったベルフェモンが気になるのか、校舎の方を窓から心配そうに眺めていた。そして後から追って来た小猫は荒い息を吐いている一誠の様子が気になって質問する。

「兵藤先輩?一体如何したんですか?」

「い、いや・・ちょっと嫉妬に燃えている男子達の姿に恐怖を覚えてね」

「ハァ?」

「気にしないで良いよ・・さて、それじゃグレモリー先輩にご挨拶を…」

「イッセー・・ベルフェ・・・教室においてきたまま」

「・・・・・・・・・えっ?マジ?」

 一瞬にして全身が冷や汗だらけになった一誠の質問に、オーフィスはコクリと頷き返した。
 その事実に一誠は目の前が真っ暗になるような感じを受けた。凄まじいベルフェモンの力を距離が離れていてもオーフィスは封じている事が出来るが、問題はオーフィスから離れたベルフェモンの心情の方。
 間違いなく一誠のせいでオーフィスの手から離れることになったと分かればベルフェモンは怒る。ただでさえ嫌われていると言うのに、オーフィスの下から引き離されたと分かってしまえばベルフェモンが一誠の抹殺に乗り出さない筈が無いのだ。

「ウオォォォォッ!!やばい!!やばすぎる!!!」

「だから、待つと言おうとした」

「一誠さんが聞いてくれなかったので・・ベルフェちゃん・・教室に置いてきちゃいました」

「おぉぉまぃぃぃがぁぁぁっ!!!クソ!!この年で俺は死ぬのか!!いやだぁぁぁぁぁぁ!!まだ!彼女も居ないんだぞ!!クゥゥゥッ!!アイツ!何時も寝てるから忘れるんだ!!」

「一誠君。自分のミスを人のせいにしたら駄目よ」

「ッ!!」

 聞こえて来た静かに諭すような声に一誠はビキッと音を立てながら固まった。
 そしてギリギリと音が聞こえて来そうなぐらいに錆び付いた動きで背後を振り向いて見ると、眠っているベルフェモンを抱いたリンディが立っていた。
 リンディは抱いていたベルフェモンをオーフィスに渡しながら、一誠に声を掛ける。

「教室に行ってみたら、机の上で眠っていたベルフェモン君に驚いたわ」

「いや・・・そ、そのですね」

「昨日の夜に動いたのが助かったわね。もしもオーフィスちゃんから引き離されたと分かったら・・・・今頃一誠君の胴体はミンチになって四散していたでしょうから」

 リンディはそう言いながら、オーフィスの腕の中で静かに眠り続けているベルフェモンを眺める。
 デジタルワールドに封印されているベルフェモンよりも、オーフィスのベルフェモンは手加減などかなり高度な技術を使いこなせるが、その反面一度本格的に動いたら一ヶ月以上はオーフィスが何をやっても眠り続ける。
 怠惰の称号を持つに相応しく、僅か数分でも本気で動けばベルフェモンはずっと眠り続けるのである。
 今回、一誠はそのベルフェモンの特性に本気で命を助けられたのである。

「た・・・助かった」

「兵藤先輩?・・さっきから如何したんですか?その・・ぬいぐるみ見たいな生物がどうかしたんですか?」

「・・小猫ちゃん・・知らないというのは本当に幸せな事なんだよ」

「ハァ?」

 要領の得ない一誠の言葉に小猫は首を傾げながら声を出すが、事情を知っているリンディは苦笑を浮かべながら子猫に声を掛ける。

「搭城さんで良いかしら?」

「は、はい・・・あの・・貴女はどちら様でしょうか?」

「そうね・・一誠君とオーフィスさん・・それにアーシアさんの裏での保護者に当たる人物の一人かしらね」

「えぇぇぇぇぇっ!!!わ、私もですか!?」

「今日はその件でも私は来たの・・詳しい話は中でしましょう・・それじゃ入りましょうか」

 リンディはそう告げると共にオカルト部の部室の扉に手を掛けて中に入り込む。
 一誠達も慌ててリンディに続いて部室の中に入ってみると、既に部室の中には『騎士ナイト』である木場祐斗、『女王クイーン』である姫島朱乃、そして彼らの主であるリアス・グレモリーが待っていた。
 緊張するように一誠とアーシアは固まるが、オーフィスとリンディは全く緊張せずにゆっくりと前に進み、リアスにリンディが挨拶する。

「始めましてリアス・グレモリーさん・・私は『アルード』の交渉担当と実務を取り仕切っているリンディと申します」

「・・フゥ〜・・お兄様から連絡が届いた時には驚いたけど・・まさか、『アルード』の関係者がこんな近くに住んでいたとは驚いたわ」

 リンディの挨拶にリアスは僅かに頭が痛そうにしながら額に手をやり、リンディの背後に立っている一誠に目を向ける。
 その何時もと明らかに違う様子のリアスの姿に事情が分かっていない祐斗、朱乃、小猫は首を傾げ、代表して朱乃がリアスに質問する。

「部長・・『アルード』とは一体?」

「朱乃が知らないのは無理ないわ。私だってお兄様やグレイフィアから少し話を聞いているだけですもの・・ただ・・絶対に敵対してはならないとお兄様から言われている連中なのよ。何せ、三勢力それぞれのトップが一目を置く『何でも屋』なのだからね」

「三勢力のトップがですが!?部長!?」

「えぇ、そうよ」

 祐斗の叫びにリアスは真剣な顔をしながら答え、用意されていら椅子に腰掛けているリンディとオーフィスに、その後ろで緊張に固まっている一誠とアーシアを眺める。

「そんな風に言われたちょっと困るわね、リアスさん。確かに私達は三勢力のトップから依頼を受けているけど、ちゃんと守秘義務は護っているわ」

 朱乃から差し出されたお茶にリンディは自分で用意して来た角砂糖を数個入れながら答えた。
 その明らかに普通のお茶の飲み方と違うやり方に、リアス達だけではなくアーシアも目を見開くが、一誠とオーフィスは既に慣れたモノで、リンディのお茶の飲み方にとやかく言うつもりはない。寧ろ自分達に不用意に被害が及ばない事を強く心の中で願っていると、リンディの飲み方に興味を覚えた小猫が質問する。

「あの・・そのお茶の飲み方は?」

「ゴメンなさいね。これは私のお茶の飲み方なのよ・・良かったら、飲んでみる?」

「い、いえ・・その・・」

 何処と無く迫力を発しながらリンディが差し出したお茶に小猫はうろたえるが、リンディは構わずに子猫の手の中にお茶を渡そうとする。
 しかし、小猫の手にお茶が渡る前に、背後にいた一誠がリンディに向かって叫ぶ。

「リ、リンディさん!!きょ、今日はお茶の飲み方を勧めに来たんじゃないですよね!!今日はあくまで先日の俺の件でしょう!!」

「・・・そうだったわね」

 一誠の叫びに残念そうにしながらリンディはお茶を自身の手元に戻した。
 その様子にオーフィスと一誠は人知れず安堵の息を漏らす。基本的にブラック達の中で最もまともなリンディだが、唯一リンディ特製の『リンディ茶』だけに関しては完全に別だった。
 一年前に一誠とオーフィスは興味本位に『リンディ茶』に手を出してしまったことが在るのだ。その結果は言うまでも無く、一誠とオーフィスは揃ってフリートの集中治療室行きになった。バイオダークタワーデジモン化した影響によって、糖尿病と言う病気になる心配がなくなったリンディは『リンディ茶』を更に進化させてしまったのだ。
 因みに先ほどリンディが使用した角砂糖も特別品で、一粒だけで砂糖百杯分に匹敵する甘さが在るのだ。甘い物好きのオーフィスでさえも嫌がるほどの甘さのお茶を平然とリンディは飲み終えると、真剣な眼差しをリアスに向ける。

「それでは本題に入りますが・・・先日は本当にうちの一誠君が大変失礼をいたしました!この子は本当に困った子で」

 リンディはそう謝罪を告げると共に深々とリアス達に頭を下げた。
 同時に一誠も先日の『洋服崩壊ドレス・ブレイク』の件に対する謝罪の為に頭を深々と下げる。

「あ、アレ以外に方法が無かったとは言え・・ほ、本当にグレモリー先輩達にはすいませんでした!!」

「・・・その件に関しては・・昨夜私の眷属を助けてくれたことで無しで構わないわ・・後から子猫に確かめたけど、本当に危ない状況だったようね・・私達もウッカリしていたわ・・まさか、『はぐれ悪魔祓い』が街に潜んでいたなんて」

「あ、あの」

「何かしら、アーシアさん?」

 何処と無く不安そうに声を掛けて来たアーシアに、リンディは優しげに質問した。
 他の者達もアーシアが声を出すのをジッと待っていると、恐る恐るアーシアはずっと考えていた事を質問する。

「・・あ、悪魔祓いって・・その・・あんな事をするんですか?」

「あんな事?」

「部長・・多分アーシアさんが言っているのは・・依頼人の事です・・昨日の依頼人は、私が着いた時にはもう『はぐれ悪魔祓い』に惨殺されていましたから」

「そういや・・今朝のニュースでやっていたな・・あの『はぐれ悪魔祓い』の奴・・・小猫ちゃんを襲っただけじゃなくて、ただ悪魔を呼んだだけで惨殺しやがったのか」

 小猫の報告を補足するように、一誠は今朝見たニュースの内容を苦々しげに語った。
 フリードが起こした事件は当然ながら一般に報道されている。しかし、犯人であるフリードは既に逃げ出しているので、昨夜の事件の真相が世に明るみに出ることは無い。
 人間世界で悪魔、天使、堕天使の存在を知っている者は限られている。故に残念な事では在るが、フリードが一般社会の法で裁かれる事は無いのだ。
 アーシアもその辺りの事を理解しているのか、昨夜の件は真摯に神を信仰して来た彼女にはショックな出来事だった。

「・・・・アーシアさんの質問に関してだけど・・残念ながら『はぐれ悪魔祓い』に関しては全員とは言えないけど、大半はYESとしか言えないわね。昨日貴女と一緒に居た『はぐれ悪魔祓い』と同じように悪魔を召喚したと言う理由だけで惨殺を働く輩は間違いなく居るわ」

「私も同じ答えよ。事実『はぐれ悪魔祓い』に依頼主が殺された事は数え切れないほどあるわ」

「そ、そんな・・・」

 自身が知らなかった同じ神を信仰している筈の者達が行なって来た所業にアーシアはショックを受けてよろめく。
 一誠はそんなアーシアを背後から支えて、少しでも安心させようとアーシアの両肩を両手で掴む。
 リンディはその様子を横目で確認しながら、再び前に顔を向けて一先ずアーシアがショックから抜け出せるまで待つ為に此処に来た用件を話し出す。

「それでは此処に来た用件なのですが・・・・この度の一件の謝罪として一年ほど一誠君を、其方のお仕事に貸し出したいと考えています」

『えっ?』

「リ、リンディさん!?マジですか!?」

「真面目な話よ・・昨夜堕天使達から逃げ延びた一誠君は見てのとおり、スケベな部分は多分に在りますが、体力だけは人外レベルになっていますので、存分に扱き使っても構いません」

「・・・・いきなりな話ね・・・だけども・・確かに興味は在るわね、彼には」

 リアスはそう言いながら、改めて一誠を興味深そうな瞳で眺める。
 二日前に自分達から逃げ延びた事と、昨夜堕天使から逃げ延びた事を考えても一誠の実力はかなりの者だとリアスは悟っていた。正直に言えば自身の眷族悪魔にしたいともリアスは考えている。
 無論、まだ一誠の人となりは詳しくは分かっていないので判断は保留にすべき。故にリンディからの提案は一誠の人となりを知る機会であり、同時に自分達の悪魔としての仕事にも雑用として扱える。

「・・・・・・良いわ。兵藤一誠君を我がオカルト部の部員候補として受け入れます」

「部長」

「朱乃。彼女達・・『アルード』は信じられるわ。どの勢力に対しても不利になる事は行なわず。得た情報も全て秘匿して絶対に外部には漏らさない『何でも屋』・・魔王の方々からも信頼が厚い彼女達の場所に居た兵藤君は、私達に不利になることはしないでしょう?」

「は、はい!!絶対にしません!!」

 リアスの質問に対して一誠は敬礼を行いながら答えた。
 その様子に朱乃は一先ずはリアスの考えに従うというように頷いて、後ろに下がる。
 リンディは納得してくれたのだと内心で安堵の息を吐きながら、次にアーシアに関する事を話し出す。

「それじゃ、一誠君に関しては此処までとして・・・・次にアーシアさん?」

「は、はい!!」

「・・・その・・言い難いのだけど・・アーシアさんは残念ながら教会には戻れないわ」

「あ、・・・や、やっぱりそうですよね」

「どう言う事かしら?」

 暗く顔を俯かせたアーシアの様子に疑問を覚えたリアスがリンディに質問した。
 その質問に対してリンディは困ったような顔をしながらアーシアを見ていると、アーシアはゆっくりと顔を上げて自分の事情を話し出す。

「・・実は私・・・・教会から追放されているんです・・そ、その・・・え〜と・・・・悪魔を私の力で治療したので」

「な、なんですって!?ほ、本当なの!?貴女の力で悪魔を治療したと言うのは!?」

「は、はい」

 心底驚いている様子のリアスに疑問を覚えながらも、アーシアは頷いた。
 アーシアの様子に嘘ではないと悟ったリアス、朱乃、祐斗、小猫はそれぞれ差は在るが驚いた風にアーシアを見つめる。
 本来、悪魔などの神に敵対している者に対して神の加護を受けているシスターが持つ治癒の力は効かないはず。もしも悪魔など神に敵対する者をシスターなどの治癒の力を持つ者が治癒出来た場合は、そのシスターは異端の烙印と共に『魔女』と呼ばれてしまうのだ。

「貴女・・受けたのね?・・『魔女』の烙印を?」

「・・・・はい・・・私は『魔女』アーシア・アルジェントと呼ばれています」

「そう」

「・・・教会は残念だけど・・アーシアさんを受け入れる事は出来ないわ・・・其処でアーシアさん・・・一誠君の家にホームスティする気は無いかしら?」

「えっ?・・ホームスティですか?」

「えぇ、そうよ・・実を言えば正体は話せないけど、私達はとある人からアーシアさんを護ってくれと言う依頼を受けているの。正確に言えばアーシアさんが一人で暮らせるようになるまでだけど・・その間まで一誠君の家でホームスティする気は無い?」

「で、でも!?ご迷惑じゃ!?」

「俺は構わないぜ。父さんや母さんもアーシアなら構わないって言ってたぜ。もちろんオーフィスもな」

「ん・・アーシア一緒に暮らす。ベルフェもアーシアを気にいってる」

「一誠さん!?オーフィスさん!?」

 一誠とオーフィスの言葉にアーシアは戸惑ったような声を上げた。
 本当に好意に甘えて良いのかとアーシアは戸惑う。今まで誰かを助ける事だけに力を注いで来た故に、アーシアは初めて自身に向けられる好意にどうすれば良いのか分からなかった。
 そのアーシアの様子に一誠が声を出そうとするが、その前にオーフィスがアーシアの前に立つ。

「アーシア・・・我も同じだった・・我も迷っていた・・だから、“静寂”に帰ろうとした・・だけど、リンディ達と出会った・・・一誠に出会った・・・・ベルフェと言う家族出来た」

「オーフィスさん」

「一人・・寂しい・・・・一緒に居る・・友達・・家族出来る・・楽しい・・我とアーシア・・もう友達」

 オーフィスはそう告げると共にゆっくりとアーシアに向かって右手を差し出す。
 それが握手を意味するものだと理解したアーシアは真っ直ぐに自身を見つめてくるオーフィスと向かい合い、そしてその手をゆっくりと握る。

「・・よ、宜しくお願いします!!」

「ん・・宜しく」

(オーフィスちゃん・・ほ、本当に成長したわね・・私、本当に嬉しいわ)

(オーフィス・・お前本当に偉いよ・・俺も負けないように頑張らないとな)

 リンディと一誠はアーシアと友達になったオーフィスの姿に喜び、人知れずハンカチで目から零れる涙を拭いていた。
 しかし、リアス達は驚いたようにオーフィスを見つめ、リアスが僅かに体を震わせながらオーフィスに質問する。

「オ・・オ、オーフィスって・・・・ま、まさか?」

「ん・・・・我はオーフィス・・ただそれだけ・・宜しく」

「リアスさん・・彼女は・・・オーフィスちゃんは貴女が“思っているような相手”では無いから安心して頂戴」

「そ、そう・・そうよね・・・まさか・・あの『無限の龍神ウロボロス・ドラゴン』な訳が無いわよね・・ゴメンなさい・・名前が同じだったから警戒してしまったわ」

「気にしてない」

「神も恐れるなんて困った通り名よね・・オーフィスちゃんも誤解されて困っているのよ・・(そう・・オーフィスちゃんはただの寂しがりやなドラゴンなだけよ、リアスさん)」

 何処と無く苦笑いを浮かべているリアスを見ながら、リンディは内心で呟くと、そのまま一誠に目配せを行なう。
 その意味を理解した一誠は頷くと共にオーフィスの横に立って、リアス達に見えるように左手を差し出す。

「それじゃグレモリー部長・・これからお世話になるんで・・もう一人紹介したい相手がいます」

「紹介した相手?・・まだ、他にも誰か居るのかしら?」

「今会わせますんで・・出ろ!」

 一誠が気合いを込めると共に一誠の左手が赤く輝き、光が消えた後には赤い籠手が一誠の左手に顕現した。
 顕現した一誠の神器セイクリッド・ギアの姿にやはり一誠の神器セイクリッド・ギアは『龍の手トウワイス・クリティカル』だったのだと思うが、その考えは宝玉にドラゴンの紋様が浮かぶと共に響く声によって改めさせられる。

『やれやれ、漸く俺の紹介か?相棒』

「あぁ、そうだ、ドライグ」

「ドライグですって!?まさか!?貴方の神器セイクリッド・ギアは!?」

「『赤龍帝の籠手ブーステット・ギア』・・・・俺が今代の『赤龍帝』って事です、グレモリー部長」

『相棒共々宜しく頼むぞ、グレモリーにその眷属達』

 驚愕して固まっているリアス達に一誠とドライグはそれぞれ言葉を告げ、リアス達の驚愕が治まるのを待つのだった。


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■作者からのメッセージ
『アルード』に関して。
・ハイスクールD×Dの世界でリンディ達が行なっている『何でも屋』の名称。
三勢力のどの陣営の依頼も受け、本来ならばその陣営が行なえない事を叶えるので、三勢力の上層部はかなりの頻度でリンディ達に依頼を行なっている。
以前に一度だけ他の陣営の情報を手に入れようと一部の者達がリンディ達を襲ったが、ブラックの手によってボコボコにされて以来、絶対に敵対してはならない集団だと三勢力に認識されている『何でも屋』である。
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