レーティングゲームの為に作り出された駒王学園を模したフィールド内部。
その場所はフリートの細工によって現実世界と何も変わらない空間へと変じ、街並みを学園から覗く事も出来ていた。空には青空が広がり、一見すれば擬似的な空間だとは気づけないほどの空間へと変貌していた。
その作られた駒王学園の正門から堂々とリンディを先頭にリアス達は足を踏み入れ、校庭の中心で起きている現象にリンディを除いた誰もが言葉を失う。
学生が本来ならば部活動や授業で使う筈の校庭には、神々しい光を発する『
天閃の聖剣』、『
擬態の聖剣』、『
破壊の聖剣』、『
透明の聖剣』の四本のエクスカリバーが宙に浮かび上がり、ソレを中心にして怪しい輝きを放っている魔法陣が校庭全体に描かれていた。
「コレは・・・・一体を何をしているの?」
「・・・やっぱり、七つに別れたエクスカリバーを狙った理由はコレだったのね・・・・フリートさんが言っていた可能性は当たっていたわ」
「リンディさん?」
意味深なリンディの言葉に横に立っていたリアスが疑問に満ち溢れた声で質問し、他のメンバーもリンディに顔を向けると、リンディは今起きている現象について話し出す。
「バルパー・ガリレイがエクスカリバーを狙った理由は、自身の研究目的も在ったのでしょうけど・・もう一つ・・七本に別れたエクスカリバーを統合して再び失われる前のエクスカリバーを世に蘇らせる目的も在ったの」
『ッ!!!』
「七つに別れた事によってエクスカリバーは本来の力を失って、大幅に力は落ちているわ・・・・コカビエル、正確に言えばバルパーは、行方不明の七本目以外に教会が保管していた六本のエクスカリバーを統合し、統合されたエクスカリバーを中心として教会に戦争を仕掛ける気だったんでしょうね。だから、コカビエルと手を組んだ」
「・・ほう・・其処まで私の計画を知っているとは」
リンディの言葉に四本のエクスカリバーの統合の儀式を行なっていたバルパーは興味深そうにリンディに視線を向けた。
その視線に対してリンディは無表情にバルパーの視線を睨み返すと、空中から楽しげな声が響く。
「バルパー、あとどれぐらいでエクスカリバーの統合は終わる?」
『ッ!!』
空中から響いた声にリンディを除いた全員が目を向けて見ると、宙に浮かぶ装飾が施された椅子に腰掛けて足を組みながら座っている十枚の漆黒の翼を背に広げている男-堕天使コカビエル-がリンディ達を見下ろしていた。
コカビエルに質問されたバルパーも宙に浮かぶ椅子に座っているコカビエルに目を向け、質問に答える。
「後、五分もいらんよ」
「そうか・・では、頼むぞ」
そうコカビエルはバルパーに言葉を告げると、今度はリアスとソーナに視線を移して質問する。
「宣戦布告の時に伝えたが・・サーゼクスは来るのか?それともセラフォルーか?」
「・・・堕天使コカビエル・・お兄様に今回の件を全て伝えた時の言葉を伝えるわ・・『自分達が行く間でもない。堕天使コカビエルは、今日この世から消え去るだろう』・・それがお兄様の答えよ」
ーーーヒュン!!
《
Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』
「オラアァァァァァァッ!!!」
ーーーバシィィィィィーーン!!!
リアスがサーゼクスからの伝言を言い終えると共に鳴り響いた風切り音と同時に、瞬時に『
禁手』を終えて『
赤龍帝の鎧』を纏った一誠がコカビエルが瞬時に投げつけた極大の光の槍に殴りかかり、右腕部分の鎧を破損させながらも極大の光の槍を霧散させた。
『
赤龍帝の鎧』を纏っている一誠の姿にコカビエルの眉は僅かに動き、一誠はリアス達を護るように立ちながら、破損した右腕部の鎧を修復してコカビエルを睨みつける。
「部長達にお前の光の槍なんか食らわせるかよ!!」
「・・『赤龍帝』・・・しかもその姿は・・『
赤龍帝の籠手』の
禁手状態である『
赤龍帝の鎧』・・・なるほど、サーゼクスが強気で居る理由はお前か・・・・俺も舐められたものだ」
僅かに怒気を含んだ声を出しながら、自身に向かって拳を構えている一誠をコカビエルは睨むが、一誠は不思議とコカビエルの怒気に対して恐怖は湧かなかった。
(おいおい・・聖書に名を残す大物の怒気を受けても恐怖を感じていない俺って・・・やっぱり、変だよな?ドライグ)
(ククククッ!!相棒・・お前は既に堕天使コカビエル以上の相手と死に物狂いの訓練を受け続けた・・・更に今の相棒には護りたい連中も居るんだ。奴の怒気程度では恐怖は感じられんさ)
(そりゃ、良かったぜ)
ドライグの声に一誠は軽く答えながら、戦闘を始めると言うように全身から赤いオーラを発し出す。
リアス達もそれに続くと言うようにそれぞれ魔力を集中したり、各々の武器をコカビエルに対して構えるが、その前にリンディがコカビエルに声をかける。
「堕天使コカビエル!『
神の子を見張る者』の総督!アザゼルからの伝言が在るわ!!」
「アザゼルだと!?」
「『今すぐに教会から奪ったエクスカリバーを返還し、『
神の子を見張る者』の軍法会議に出席するなら、『
地獄の最下層』での永久冷凍の刑で済ませてやる』・・それが総督アザゼルからの最後通達よ!!受けるか、受けないか!答えなさい!!!」
「・・・・・・そうか・・サーゼクスと言い、アザゼルと言い・・・どちらも俺を侮辱するか!!!」
ーーービキッ!!
コカビエルが怒りに満ちた叫びを上げると共に、腰掛けていた椅子の取っ手を握り潰してリンディに怒りに満ちた視線を向けた。
先ほど以上の怒りにリアス達は警戒するようにコカビエルを見つめるが、リンディと一誠は逆にコカビエルに対して哀れみを持った。今のリンディからの通達を受けていれば、少なくとも命は助かっていた。だが、その最後通達をコカビエルは拒絶した。
自身に伸ばされた最後の救いの糸を切り捨てた事にもコカビエルが気がつかずに、怒気に染まり切った瞳でリンディ達を睨みつけながら右手を掲げる。
「・・良いだろう・・貴様ら全員の首とこの街の消滅を持って、アザゼルとサーゼクスに自分達の愚かしさを知らしめてやる!!!」
ーーーバチン!!
『・・・・グルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥ・・・』
ーーーズシン!ズシン!!
『ッ!!』
コカビエルが指を鳴らすと共に、低く獰猛な唸り声と重たい足音がリアス達を囲むように四方から響いた。
全員がその唸り声に目を向けて見ると、突如として発生した黒い霧のようなものから全長十メートルほどの大きさを持った四足歩行の巨大生物が四匹現れる。
黒い巨体に、それに見合うほどの大きさを持った鋭い爪を生やした四つの足。ギラギラと輝く六つの真紅の双眸。突き出た口から覗くのは凶悪極まりないと思えるほどの鋭利な牙。その牙と牙の隙間から白い息が吐き出され、三つの在る首がリアス達に向けられると共に咆哮が放たれる。
『ギャオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!』
「ケルベロス!?」
「しかも、一匹ではなく四匹も一度に!?」
三つの首から獰猛な咆哮を辺り一帯に轟かせた四匹の魔獣ケルベロスの姿に、リアスとソーナは警戒しながら叫んだ。
ケルベロス。地獄の番犬の異名を持つ魔獣であり、神話にさえもその名が刻まれている生物。本来ならば冥界へと続く門の周辺に生息している魔獣なのだが、今その魔獣が一度に四匹現れて、リアス達の四方を取り囲むように立っていた。
それぞれが四匹のケルベロスに対して身構える中、ゆっくりとリンディは前方に立っているケルベロスに向かって歩いて行き、その姿を目にした朱乃が叫ぶ。
「リンディさん!?」
「・・前のケルベロスと左側のケルベロスは私がやるわ・・一誠君!貴方は皆をサポートしながら右側のケルベロスを相手にしなさい!!」
「はい!!」
リンディの指示に一誠は返事を返し、リアス達は目を見開いて二匹のケルベロスに向かって歩いて行くリンディに目を向ける。
ケルベロスを嗾けたコカビエルも、二匹のケルベロスを相手にすると言ったリンディに僅かに興味を持ったように瞳を向ける。
どれほどの実力者なのかとコカビエルが値踏みするような視線をリンディに向いていると、リンディが歩く方向に居る二匹のケルベロスがまるで何かを恐れるかのようにリンディから少しでも離れようとするように後方に足を動かしていた。
いや、良く見てみれば四方に居た全てのケルベロスがリンディに対して怯えているような様子を見せていた。
『グゥゥゥゥッ・・・』
「?・・・まさか・・ケルベロスが怯えていると言うの?」
「会長・・・・私にもそう見えます・・ですが、四匹とも怯えていると言うのは・・一体どう言う事でしょう?」
少しでもリンディから逃れようとしている四匹のケルベロスの姿を目にしたソーナと椿姫は、疑問と困惑に満ちた視線をリンディに向ける。
リアス、朱乃、子猫、アーシア、祐斗もリンディの背に困惑に満ちた視線を向けていた。彼らはリンディとは良く会うが、戦う姿を一度も目にした事はない。交渉担当と雑務担当と言う言葉から、てっきりリンディは後方支援担当なのだとリアス達は思い込んでいたのだ。
ソレは重大な勘違いだった。『アルード』のメンバーがメンバーな為にリンディが主として交渉や雑務を取り仕切っていたが、リンディもまたその身に凄まじい力を宿している実力者の一人だった。
「・・・ゴメンなさいね。私も今回の件には色々と怒りを覚えているの・・・・だから、存分に暴れさせて貰うわ!!!ダークエヴォリューシュン!!」
ーーーギュルルルルルルルルルルルッッッ!!!!!
『ッ!!!』
リンディが叫ぶと同時にその身を覆うように黒いコードのようなモノが覆い尽くした。
突然の現象にリアス達だけではなく、様子を伺っていたコカビエル、バルパー、フリードも目を見開くが、彼らの驚愕に構わずに黒いコードの塊は繭のような形状で巨大化して行き、遂にケルベロス達と同等の大きさにまで至った。
その中に潜む自分達を屠れるほどの力を持った気配を感じた二匹のケルベロスは、湧き上がる恐怖を振り払うように六つの首が一斉に黒い繭に向けられると共に口から火炎球を撃ち出す。
『グガアァァァァァァァァァァァッ!!!!』
ーーードゴン!!ドゴン!!ドゴン!!ドゴン!!ドゴン!!ドゴン!!
轟音と共に撃ち出された六つの火炎球は真っ直ぐに黒い繭へと向かう。
しかし、黒い繭に火炎球が直撃する直前に、黒い繭の中から凄まじい風切り音と共に巨大な鋼鉄のハンマーが横薙ぎに振るわれ、火炎球を全て霧散させる。
ーーーバシュウゥゥゥゥゥーーン!!!
「・・・出ますよ・・部長・・・リンディさんの戦闘形態の一つが」
「イッセー?」
僅かに体を震わせている一誠の様子にリアスは疑問の声を上げるが、すぐにその疑問は吹き飛んだ。
黒い繭の中から現れた巨大な鋼鉄のハンマーが切り裂いた場所から、繭は徐々に消え去り、リアス達とコカビエル達は繭の中に居た者の姿を目にする。
背に巨大な甲羅を背負い、鋭く尖った角を頭部の頂点から生やした二足歩行の巨大生物。その手には身の丈に合うほどの巨大なハンマーが握られ、力強い視線が二匹のケルベロスを捉えていた。その姿こそ、リンディが宿す異能の力によって進化を遂げた姿。その名も。
「バイオ・ズドモン!!!!!」
「・・な、何なの・・あの姿は?」
悪魔である自身さえも見たことがない姿にリアスは呆然と声を出し、一誠を除いた他のメンバーも呆然とバイオ・ズドモンに進化を遂げたリンディの姿を見つめる。
しかし、リアス達の驚愕などに構わずに進化を終えたリンディは図体に似合わないほどの素早さで前方に居るケルベロスに向かって瞬時に近寄り、両手で握っている巨大なハンマーを叩きつける。
「ハンマーーースパーーク!!!」
ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
「ギャウゥン!!」
凄まじい激突音と共にケルベロスの胴体にハンマーが叩き落され、三つの首から血を吐き出しながら一匹のケルベロスは地面に倒れ伏した。
その時の轟音と共にケルベロスが地面に倒れ伏すと、校庭に描かれていた魔法陣の一部に罅のようなものが走り、バルパーは慌てて叫ぶ。
ーーービキッ!!
「いかん!!統合用の陣に罅が!?」
「クッ!!ケルベロスども!?その巨大な生物を早く倒せ!!!」
『ギャオォォォォォォォォン!!!!』
コカビエルの指示に残っている三匹のケルベロスはリアス達の包囲網を崩して、リンディに襲い掛かろうとする。
リアスとソーナはその隙を逃さずに互いに目を合わせて頷き合うと、即座に背から黒い翼を広げてケルベロスに向かって飛び立つ。
ーーーバサッ!!
「イッセー!!!私とソーナに五段階分の譲渡をお願い!!」
「はい!!」
《
BoostBoostBoostBoostBoostッ!!!》
《
Transfer!!!》
リアスの指示に即座に一誠は力を倍化させながら、両手の先をリアスとソーナにそれぞれ合わせてオーラを放出し、リアスとソーナはその光を浴びた。
「これが・・兵藤君の・・・・『赤龍帝』の力!!」
「よし!!朱乃!!右側からリンディさんを襲おうとしているケルベロスの視界を塞いで!!祐斗は足止めを!!」
『はい!!!』
リアスの指示に朱乃と祐斗は即座に返事を返しながら、右側からリンディを襲おうとしていたケルベロスに向かって駆け出した。
空を翔る朱乃と地を走る祐斗は互いに頷き合うと、祐斗は右手を地面に向けて自身の『神器』の名を叫ぶ。
「『
魔剣創造』ッ!!!」
ーーーザシュ!!ザシュッ!ザシュッ!!ザシュッ!!
「ギャウゥン!!」
リンディに気を取られていたケルベロスは足元からの攻撃に対処することが出来ず、地面から生えた無数の剣が刺し貫いた。
その攻撃と痛みによってケルベロスの動きが止まった瞬間、朱乃が指先を天に掲げて稲光を夜空に発生させてケルベロスの三つの頭部に集中させて雷撃を降らせる。
「食らいなさい!!!」
ーーービガァァァァァーーン!!
「ギャッ!!」
「部長!!」
「えぇっ!!」
朱乃の声に滅びの魔力の塊を作り上げていたリアスが返事を返して、雷撃によって視界を封じられているケルベロスに向かって放とうとする。
しかし、リアスが放つ前に三つ在る首の内の左側の首がリアスに向けられて口から火炎を覗かせる。
「気づかれた!?」
「リアス!!貴女は構わずに魔力を集めて!!」
「グガッ!!」
ーーードゴォン!!
ソーナは叫ぶと共にケルベロスの口から火炎球が放たれた。
それに対してソーナは瞬時に大気中に在る水を魔力で操り、リアスの前に水で出来た巨大な盾を形成し、火炎球を防ぐ。
ーーーバシュゥゥゥゥゥーーン!!
「・・・『赤龍帝』の力・・・凄まじいですね」
自らの倍化された力にソーナは驚きながら声を出した。
リアスはその様子に苦笑を浮かべながら、作り上げた巨大な魔力球を掲げてケルベロスの胴体に向かって放つ。
「ハァッ!!」
ーーードゴオオオオオォン!!
「グガアッ!!」
直撃した魔力球によってケルベロスの胴体が半分以上消滅し、力なくケルベロスは地面に倒れ込む。
これで二匹目だとリアスとソーナが考えた瞬間、倒したと思われたケルベロスの右側の首が動き、リアスとソーナに口の照準を合わせる。
それに気がついたリアスとソーナはまだ動けたのかと驚くが、ケルベロスは残された力を振り絞ると言うように巨大な火炎球を作り上げて放とうとする。だが、そうはさせないと横合いから小猫が飛び掛かってケルベロスの頭部に拳打を叩き込む。
「させない!」
ーーードゴン!!
「グガッ!!」
小猫の拳打を受けたことによってリアスとソーナに向けられていた口の照準がずらされ、ケルベロスの口から放たれた火炎球は見当違いの方へと飛んで行った。
ソレと共に空中で別のケルベロスをかく乱するように飛び回っていた一誠が、地面に倒れ伏しているケルベロスに右手を向けると共に叫ぶ。
「皆!!離れろ!!」
その一誠の指示に即座に地面に倒れ伏しているケルベロスの傍に居た者達が離れて行く。
一誠はそれを確認すると、右手の先にオーラを集中させて赤い閃光をケルベロスに向かって撃ち出す。
「これで終わりだ!!ドラゴンショット!!」
ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
一誠が放ったドラゴンショットは倒れ伏していたケルベロスに直撃し、爆発と共にケルベロスの姿は消え去った。
その様子を見ていたバルパーは、更に統合の魔法陣が削られた事に焦りと怒りを覚えて宙に浮かんでいた『
破壊の聖剣』を掴み取る。
ーーーガシッ!!
「このままでは統合の儀式が出来ん!小娘!!『
破壊の聖剣』を使って奴らを殺せ!!」
「おいおい!バルパーのじいさん!!四本全部統合するんじゃなかったのかよ!?」
「うるさいわ!フリード!!このままでは統合前に陣が破壊されて、統合自体が頓挫してしまう!後からでも統合は可能だ!今は統合の陣を護る事を優先するのだ!!」
バルパーはそう叫ぶと共に光を失っている目をして無表情のイリナに向かって『
破壊の聖剣』を投げ渡した。
イリナは『
破壊の聖剣』を受け取ると共に異常な速度で駆け出し、後方に待機していた長刀を持った椿姫とアーシアに襲い掛かる。
ーーードン!!
「速い!!」
明らかに異常としか思えない速度で走って来たイリナの姿に椿姫は驚きながらも、長刀を構えてイリナが振り下ろして来た『
破壊の聖剣』を受け流す。
ーーードゴオォォォン!!
「クッ!!事前に聞いていましたが、凄まじい破壊力ですね!!フッ!!」
椿姫は素早く長刀をイリナに向かって振り抜くが、イリナはその攻撃を体を深く落とす事で避ける。
ーーーシュン!!
(何と言う動き!?・・しかし、この動きには何か違和感を感じます?・・一体?)
異常としか言えないイリナの動きに椿姫は戦いながら疑問を持っていた。
洗脳されているとは言え、イリナ自身の実力は変わっていないはず。なのに、イリナの動きは明らかに一誠と戦った時よりも洗練されていた。意思の無い者に出来る戦いではないと椿姫が疑問に思っていると、戦いを見ていたアーシアが何かに気がついて目を見開く。
「真羅先輩!!イリナさんの服を見てください!!」
「アーシアさん?・・・彼女の服?・・・・・ッ!!」
アーシアの声に疑問を覚えながら注意深くイリナの着ている白いローブに椿姫は目を向け、内側から徐々に赤く染まって行く白いローブを目にする。
「まさか!?・・彼女は自分の限界を超えて力を振るっていると言うの!?」
「何だって!?」
椿姫の声を耳にした一誠は慌てて血で赤く染まり始めた白いローブを着ているイリナに目を向け、他のメンバーも驚いていると、バルパーの笑い声が響く。
「ククククッ!!!その娘には私が保管していた『因子』を更に与え、コカビエルに術をかけて貰ったのだ。自らの潜在能力を限界を超えて発揮する禁忌の術をな!!」
「テメエ!!!」
バルパーの言葉に一誠は怒りを覚えてバルパーを睨みつけ、他の者達も程度の差は在れ、侮蔑と怒りの視線をバルパーに向ける。
すると、バルパーの背後に浮かんでいた『
天閃の聖剣』、『
透明の聖剣』、『
擬態の聖剣』の三本が眩いほどに光り輝き、バルパーは改心の笑みと共に叫ぶ。
「完成だ!!!」
ーーーパチパチパチッ!!
「フフフッ・・・・一本は後回しになったが三本のエクスカリバーが一つになる」
空中でコカビエルが拍手を鳴らすと共に三本のエクスカリバーが一つになるように重なり、校庭全体を神々しい光が覆い尽くす。
その光に誰もが目を手で覆い隠し、光が消え去った後には青白いオーラを発している一本の聖剣の姿が在った。同時に校庭に描かれていた術式の陣に光が走り、力を帯び始めてバルパーは哄笑しながら告げる。
「ククククッ!!全てでは無かったが、エクスカリバーが統合された事によって術式は起動した!!後二十分もしないでこの街は消滅する!!解除するにはコカビエルを倒すしかないのだ!!フフフッ!!ハハハハハハハハハハハハハッ!!」
バルパーはそう哄笑を轟かせ、隣に立っている左腕が無いフリードも口元を楽しげに歪める。
自分達に苦渋を与えた相手に報いを与えたとバルパーとフリードは思い込んでいる。リンディ達は必ず怒りに燃えて叫んで来ると二人は思うが、それに対するリンディ達の答えは嘲笑だった。
「・・・・・クスクス・・そう・・じゃあ倒さないといけないわね・・“貴方達はコカビエルを”」
「?・・何を言っている?」
「あら?・・まだ、気がついていなかったの?・・此処は駒王学園では無いのよ・・此処は」
ーーーパチン!!
ーーービキビキビキビキビキッ!!!
『ッ!!!』
リンディが指を鳴らすと共に駒王学園の敷地内以外の周りの空間がひび割れるような音を立てながら割れて行き、空は青空ではなくオーロラのような色の空へと変貌した。
その事実にバルパーとフリードが驚愕と困惑に包まれた顔をしながら辺りを見回すと、リアスが代表して叫ぶ。
「此処は私達悪魔の技術で作り出されたフィールドよ!!貴方達はその場所で儀式を執り行っていたに過ぎないわ!!!」
「現実世界では無いこの空間で行なわれた儀式が影響を及ぼすのは、このフィールドのみです。私達はともかく、貴方がたはこのフィールドに入った瞬間に逃げ道など在りません!!」
「馬鹿な!?」
「じょ、冗談しょ!?話が違うっての!?ボス!?」
告げられた事実にバルパーとフリードは青褪めた顔をしながら宙に浮かぶ椅子に座ったままのコカビエルに目を向けた。
彼らの予定では儀式が行なわれた後に、影響が及ばない範囲まで逃げる手筈だった。だが、それは不可能なのだとリアスとソーナに告げられた。その事実にバルパーとフリードが話が違うと言うような視線をコカビエルに向けると、コカビエルはつまらないと言うようにバルパーとフリードに視線を返す。
「生き残りたいのなら連中を倒せば良い。俺が本気になれば、この程度の空間からの脱出は簡単に出来る。これからも共同戦線を行ないたいと言うなら、力を見せるんだな」
「クゥッ!!・・フリード!!統合した聖剣を使え!!」
「へい!俺様死ぬのなんて絶対嫌だからね!!特にクソッたれな悪魔の罠で死ぬなんて絶対に嫌ってぇの!!」
フリードはそう叫ぶと共に宙に浮かんでいたエクスカリバーを残っている右手で掴み取り、リアス達に向かって構える。
バルパーは残り二体のボロボロになっているケルベロスと戦っている一誠とリンディに目を向けて、焦りを覚えながら椿姫と剣戟を繰り広げているイリナに向かって叫ぶ。
「小娘!!連中をさっさと殺せ!!後先など構わずに全力で『
破壊の聖剣』を振るえ!!」
「・・・・・」
「不味い!!」
バルパーの指示に無言のまま『
破壊の聖剣』を頭上に構えるイリナの姿に椿姫は焦りを覚えて攻撃しようとするが、攻撃が届く前にイリナは構えていた『
破壊の聖剣』を地面に向かって全力で振り下ろして地面を爆裂させる。
ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
「クッ!!」
「キャッ!!」
地面の破壊から椿姫は背から黒い翼を出現させることで退避したが、空を飛ぶ事が出来ないアーシアは地面の破壊の衝撃に尻餅をついてしまう。
それを感じ取ったイリナは破壊した地面を両足が傷つきながらもアーシアに向かって駆け出す。
ーーービュン!!
「しまった!!アーシアさん!!」
イリナの狙いに気がついた椿姫は急いでアーシアを助けようと背の翼を羽ばたかせるが、イリナの方が速くアーシアの前に到着してしまう。
そのままイリナはアーシアに向かって『
破壊の聖剣』を振り下ろそうとするが、振り下ろす前に横合いから蹴りがイリナの両手に向かって振り抜かれる。
ーーードゴォッ!!
「えっ!?」
突然の事にアーシアは驚きながら声を上げると、自身を護るように立つこの場に居ないはずのゼノヴィアの姿を目にする。
「ゼノヴィアさん!?」
「・・傷の礼をしに来た」
驚くアーシアに素っ気無くゼノヴィアは答えながら、アーシアの体を抱えてイリナの傍から離れる。
突然の奇襲にイリナの動きは止まるが、瞬時に態勢を整えなおしてアーシアを抱えながら離れて行くゼノヴィアを追う。しかし、イリナが駆け出す前に横合いを何かが通り過ぎてイリナの四肢から血が噴き出してイリナは地面に倒れ伏す。
ーーーザン!!
ーーーブシュゥゥゥゥゥッ!!
「今の君を殺さずに止めるにはコレしかなかったからね」
ゼノヴィアとアーシアを護るように祐斗はそう動かない四肢を動かそうと、人形のように無表情なまま地面に倒れ伏しているイリナに告げた。
ケルベロスの方が終わりに近いと感じた祐斗は、リアスの指示もあって椿姫の援護に駆けつけた。完全に人形のように動いているイリナを止める為に、祐斗はイリナの四肢の腱を切って動きを完全に取れなくしたのだ。
ゆっくりといた堪れないような視線を無表情のイリナに向けながら、祐斗はアーシアを抱えているゼノヴィアに視線を向ける。
「・・どうして君が此処に居るんだ?」
「・・・・この空間の外でいたん・・・いや・・フリート・・・アルハザードに出会い入れて貰った・・・・アーシア・アルジェントには昨夜の傷の礼が在ったから助けた」
「・・・そうかい」
ゼノヴィアの質問の答えに祐斗は頷きながら、ゆっくりと自分達に苦虫を噛み潰したような顔を向けているバルパーとフリードに、フリードが握っている統合されたエクスカリバーを睨む。
「・・・バルパー・ガリレイ・・・『聖剣計画』での被験者達と言い、今も街に住む大勢の人々を殺そうした事と言い、貴方はエクスカリバーの為にどれだけの犠牲を出せば気が済むんだ!!」
「・・・無論、私の研究が認められるまでだ。こうしてエクスカリバーは三本統合した。そしてソレを扱える者も私は生み出したのだ!!『聖剣計画』での被験者達のおかげで研究は完成へと近づいたのだ!!」
「完成だって?・・・何を言っているんだ?・・お前は被験者達を失敗作と断じて処分したんじゃなかったのか!?」
「それは違うのう・・・聖剣を研究している内に私は聖剣を扱う為には必要な『因子』が在ることを調べ上げた。『聖剣計画』の被験者達にはほぼ全員にその『因子』が宿っていたが、エクスカリバーを扱えるだけの『因子』を持っている者は一人も居なかった。其処で私は一つの結論に至った。『必要な因子を被験者達から抽出出来ないか』とね」
「・・・まさか・・・いや・・それならば・・・分かったぞ。教会が人工的に聖剣使いを生み出す時に祝福として体に入れられるものの正体は!?」
バルパーの話から予測がついたゼノヴィアは忌々しげに歯噛みしながら声を出した。
自身さえも知らなかった人工的な聖剣使い達の誕生の事実。もしもそれが真実だとすれば、教会が真実を明らかに出来る筈が無い。どんな形で在れ、人工的な聖剣使いの誕生の為には犠牲が必要なのだから。
その事実に行き着いたゼノヴィアが苦虫を噛み潰したような顔をしていると、バルパーが楽しげに真実を語る。
「フフフッ!気がついたようだな聖剣使いの少女よ・・・そう、『因子』を宿している者達から聖なる因子を抜き出し、結晶の形にした物を身の内に宿す事こそが人工的な聖剣使いを生み出す方法なのだ!!」
「結晶だって?・・・(まさか)」
バルパーが告げた『聖剣計画』の真実に祐斗は思わず、フリートから渡された光り輝く球体が入っている内ポケットを制服の上から押さえ、同時にフリートの言葉を思い出す。
『恐らくバルパーは結界内で自慢げに自身の研究の成果を話すでしょう・・その時に貴方はその球体の正体を知る筈です』
(この球体は!?同志たちの!・・皆の因子の結晶!?)
自身が持つ結晶の正体に至った祐斗は憎悪と怒りに満ちた視線を愉快そうに笑っているバルパーに向ける。
「・・・『聖剣計画』の被験者達を・・・いや、同志達を殺して聖剣適正の因子を抜いたのか?」
「同志達?・・・そうか!・・お前は『聖剣計画』の生き残りか!よもや悪魔となり、このような極東の地で再会するとは数奇な運命よのぅ・・・・その通りだ。おかげで聖剣研究は飛躍的に向上した・・なのに、教会の連中は私だけを異端として排除したのだ!!研究資料をご大層に保管しながらな・・其処で倒れている小娘と、其処の小娘から見てどうやら私の研究は誰かに引き継がれたようだ・・・あの『
夢幻の聖剣』を従えた男と言い、私の研究は聖剣使いに多大な貢献を与えた!!!にも関わらずに、私を愚かな天使どもと信徒どもは排除したのだ!!だから、見せ付けてやるのだ!!私の研究を世に見せ付けて…」
「黙れ!!!!」
バルパーの演説を遮るように祐斗は怒りに満ちた叫びを上げて、ゆっくりと内ポケットの中からフリートから渡された光り輝く球体を取り出す。
祐斗の持つ球体にバルパーは何故それを持っているのかと疑問と困惑に満ち溢れた視線を祐斗に向けるが、祐斗は構わずに大切そうに球体を手に持ちながら声を出す。
「・・バルパー・ガリレイ・・お前は知っているか?・・皆辛くても頑張っていたんだ・・何時か自分達の頑張りが実を結んで、自分達の夢に向かって歩いて行けるって・・・なのに、お前は自分の勝手な欲望と研究の為だけに皆の命を今も弄んでいる・・・ふざけるな!!!僕らはお前の身勝手な思いの為に辛い日々を過ごしたんじゃないんだ!!」
ーーー・・・ポワン!!
『ッ!!!』
祐斗が涙を流しながらも力強い叫びを上げると同時に、祐斗の手の中に在った球体が淡い光を放ちながら校庭へと広がって行った。
その突然の現象にケルベロスを倒し終えたリアス達だけは無く、バルパー達も困惑に満ちた顔をしながら校庭の地面から光が宙に浮かび上がり、次々と人の形を形成して行く。
(ドライグ!?コイツは!?)
(・・・今この場所には様々な力が集っていた・・恐らくそれによって形成された力場と因子に宿っていた球体の魂・・そして木場祐斗の想いが反応し合い、球体に宿っていた魂が解き放たれたのかもしれん・・・相棒・・コレは至るぞ!!)
(マジか!?)
ドライグから告げられた事実に一誠が驚きながら目を向けて見ると、青白く輝きながら祐斗を囲むように立つ少年少女達の姿を目にする。
自身を取り囲む者達の顔に、祐斗は悲しくとも懐かしそうな顔を向ける。彼らこそ祐斗と共に『聖剣計画』に身を投じられた者達。そしてバルパーが作り上げた聖なる因子の結晶の中に魂を閉じ込められていた者達なのだ。
ブラックが殺した『はぐれ悪魔祓い』を調べたフリートは、『はぐれ悪魔祓い』の体内に聖なる因子の結晶が宿っている事を発見して遺体の内部から因子の結晶を取り出して祐斗に渡したのだ。その因子の結晶が様々な力の集う場の影響によって封じられていた魂が解放された。
祐斗は自身を取り囲む者達に目を向けて、口を震わせながら彼らに声を掛ける。
「・・・・ずっと・・・ずっと・・思っていたんだ。僕だけが・・僕だけが生きていていいのかって・・」
それはリアスの手によって悪魔として転生させられて生きていた祐斗がずっと悩んでいた事だった。
『聖剣計画』の悲劇が起きた時、被験者達は毒ガスを浴びせられて殺された。次々と血反吐を吐き出しながらもがき苦しむ者の中で祐斗が生き残れたのは、神の救いなどではなく仲間達のおかげだった。
同じように毒ガスによって苦しみながらも祐斗は仲間達の手によって実験場から逃げ出す事が出来た。その時にリアスと出会い、祐斗は悪魔へと転生した。
「・・僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた・・・だから、僕だけが平和な暮らしを過ごして良いのかって・・・」
その祐斗の問いに対して一人の年長と思える少年が微笑みながら、声なき声で祐斗に訴える。
その声に対してアーシアを護る為に移動していた椿姫が読唇術を用いて、声無き声の言葉を祐斗に伝える。
「・・・木場君・・・彼はこう言っています・・『自分達の事はもういい。キミだけでも生きてくれ』・・彼はそう貴方に」
「ッ!!」
椿姫が伝えてくれた言葉に、祐斗の双眸から涙を溢れさせて少年少女達を見つめる。
すると、魂の少年少女達が口をパクパクさせてリズミカルに同調させて声無き声で歌い出す。彼らが歌っている歌の正体に気がついたのは、アーシアだった。
「・・・聖歌・・・・彼らは聖歌を歌っています」
アーシアの言葉が正しいと言うように、祐斗も少年少女達の歌に続くように『聖歌』を歌い出す。
悪魔である筈の祐斗が『聖歌』を歌っていてもダメージを受けている様子はなく、その異常に気がついたバルパーが横に立っているフリードに向かって叫ぶ。
「フリード!!この現象を止めろ!!この現象は不味い!!早くしろ!!」
「ヘイヘイ!!俺様もこの大嫌いな歌を歌っているって奴だけで鳥肌ものなんでね!!エクスカリバーちゃんで切り刻んでやるって…」
ーーードスゥゥゥゥゥーーン!!!
『ッ!!』
祐斗達の邪魔をしようとしていたバルパーとフリードの目の前に、突如として上空から黒い閃光が凄まじいスピードで落下し、二人の動きを無理やり止めさせた。
一体何が落下して来たのかとバルパーとフリードが目を凝らしてみると、黒く染まった『
夢幻の聖剣』が祐斗達を護るように聖なる波動を発しながら、落下した衝撃によって地面に出来たクレーターの中心に突き刺さっていた。
「『
夢幻の聖剣』ッ!?まさか!?」
目の前に落下して来た物の正体を悟ったバルパーは、慌てて『
夢幻の聖剣』が飛んで来た方に目を向けて見ると、凍えるような冷たい殺気をバルパーとフリードに向けながら宙に浮かんでいる人間体のブラックがいた。
「下らん横槍をするな・・・・・この状況は面白い・・・その邪魔をする気なら、先にこの世から消えるか?」
「クッ!!」
自らの全てを否定するようなブラックの姿に、バルパーは恐怖に体を震わせながら悔しげに声を漏らした。
横に立っているフリードも昨夜の出来事を思い出して恐怖に体を震わせて動くことが出来なかった。バルパーとフリードの二人が動けずにいる間に、祐斗と少年少女達の魂を中心に眩しく光が広がって行く。
『行こう!』
『うん!!聖剣なんて怖くない!!』
『僕ら一人一人じゃ足りなかった!だけど!!』
『皆が集まれば出来る!!』
『聖剣を受け入れて!』
『怖くない!例え神がいなくても!』
『神が見てなくても!私達の心は!』
「一つだ!」
少年少女達の思いを束ねるように祐斗が叫んだ。
それと共に祐斗を囲んでいた少年少女達の魂は天へと昇って行き、優しくも神々しい光が祐斗を包み込む。
ゆっくりと祐斗を祝福するかのように天へと昇っていた光が治まると、迷いが晴れたような顔をした祐斗がバルパーに目を向ける。
「・・・バルパー・ガリレイ・・・貴方を滅ぼさせて貰う。第二、第三の僕らを生み出さない為に」
「フン・・・研究に犠牲はつきものだと昔から言うではないか。ただそれだけのことだぞ?」
「・・やはり・・貴方は邪悪過ぎる」
バルパーの宣言に祐斗は目を細めながら何も持っていない両手を構える。
その様子を見ていた一誠達は祐斗に向かって、強い思いが篭もった声で叫ぶ。
「木場あぁぁぁぁぁぁっ!!!そいつらにお前のとあいつらの力の結晶を見せてやれ!!!お前はもうソレが出来るぞぉぉぉっ!!!」
「祐斗さん!!!天に昇って行った彼らの想いを見せて上げて下さい!!!!」
「祐斗やりなさい!!!自分で決着をつけるの!!貴方はこのリアス・グレモリーの眷属なのだから!!エクスカリバーごときに私が選んだ『
騎士』は負けはしないわ!!」
「祐斗君!!信じてますわよ!!」
「祐斗先輩・・ファイトです!!」
「・・イッセー君・・アーシアさん・・・リアス部長・・朱乃さん・・・小猫ちゃん」
自分を応援してくれる仲間達の声に祐斗は嬉し涙を零し、ゆっくりと決意に満ちた顔をしながらフリードとバルパーに目を向けて宣言する。
「・・僕は剣になる・・部長達を・・仲間達を・・そして今度こそ大切な人達を護る為の剣に!!今こそ僕の想いに応えてくれ!!『
魔剣創造』ッ!!」
ーーードックン!!
祐斗の声に応じるように何かが祐斗の内で鼓動を奏でた。
ソレは祐斗の『
魔剣創造』と少年少女達が遺していった『因子』が同調した事を告げる音。祐斗が元々持っていた『魔なる力』と、少年少女達の『聖なる力』が融合して行き、遂に一つの昇華へと辿り着く。
祐斗の手の中に神々しい輝きと禍々しいオーラを放つ一振りの剣が現れた。初めて見る筈の剣で在りながらも、祐斗はその剣の銘を知っていた。これこそが祐斗の『
魔剣創造』の『
禁手』。その名も。
「『
禁手』、『
双覇の聖魔剣』。聖と魔を有する剣の力、その身で受けて見るが良い!!」
ーーービュン!!
「チィッ!!」
ーーーガキィィィーーン!!
自身に目掛けて走って来た祐斗の『聖魔剣』に寄る斬撃を、フリードは右手に持っていたエクスカリバーで辛うじて受け止めた。
しかし、受け止めると同時にエクスカリバーを覆っていたオーラが、祐斗の持つ『聖魔剣』によってかき消されて行く。
ーーーシュゥゥッ!!
「ッ!!本家本元の聖剣を凌駕するのかよ!?その駄剣が!?」
「違うね。確かに七本に別れたから力を落としているだろうけど、至ったばかりの僕の『聖魔剣』じゃ勝てる可能性は低い。だから、もっと簡単な答えさ!キミはそのエクスカリバーに使い手として認められていないんだ!!!」
ーーーガキィィーーン!!
「んなっ!?そんな筈が在るかよ!!伸びろォォォッ!!!!!」
祐斗の宣言を否定するようにフリードは叫び返しながら、エクスカリバーに向かって命じた。
その命に応えるようにエクスカリバーの刀身が意思を持ったようにうねり始め、宙を無軌道に動きながら祐斗に向かって迫る。
更に剣の先端が枝分かれし、神速の速さで祐斗に襲い掛かるが、祐斗は焦りを見せずに『聖魔剣』を構える。
「『
擬態の聖剣』と『
天閃の聖剣』の能力かい?確かに三本のエクスカリバーが統合したんだから使えるだろうけど、担い手がキミだったら」
ーーーキィン!!ガキィ!ガキィィィン!!
「殺気が丸分かりだから防ぐのは容易い!!」
四方八方から縦横無尽に襲い掛かったエクスカリバーの先端を全て防ぎながら、祐斗はフリードに向かって叫んだ。
まるで昨夜の出来事が繰り返されているような現実に、フリードは顔を青ざめさせて半狂乱になりながら叫ぶ。
「なんでさ!!なんで昨日も今日も当たらねぇんだよぉぉぉぉぉぉっ!!無敵の聖剣様なんだろう!?昔から最強伝説を語り継がれていただろうがよぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「言っただろう?君はエクスカリバーに主として認められていないって・・・キミがエクスカリバーを扱えるのは、僕の同志達のおかげでしかない。借り物の力でエクスカリバーのような伝説級の剣に認められる筈がないんだ!!!」
「・・ざけんなぁ・・・ふざけてんじゃねぇぞ!!!俺はバルパーの爺さんから三つも『因子』を宿らされたスペシャルな存在なんだ!!エクスカリバーだって!!使い故なせるってぇの!!死にやがれ!!!」
焦りに満ちたフリードの叫びと共に枝分かれしていた全てのエクスカリバーの先端がふいに消え去った。
最後の『
透明の聖剣』の能力だと悟った祐斗は『聖魔剣』を構えて、フリードの殺気の方向を読み取ろうとするが、殺気が自身に向いて居ない事に気がつく。
「まさか!?」
「ヒャハハハハハハハハハッ!!テメエの宣言が嘘っぱちだったって事にしてやるぜ!!死にやがれ!!」
叫ぶと共に透明に成っていたエクスカリバーの先端が全てアーシア、ゼノヴィア、椿姫の方へと向かい出す。
完全に不意を付かれた形になった祐斗は、このままでは全てを防ぎきれないと考えて自分の身も盾にすることを考えるが、その前にゼノヴィアが突如として右手を宙に広げる。
「ペテロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ。この刃にセイントの御名において、我は解放する・・・デュランダル!!!」
ーーーザン!!
ゼノヴィアの宣言と共に右手の先に空間の歪みを発生し、ゼノヴィアは空間の狭間からエクスカリバーを超えるほどの聖なるオーラを発している聖剣-『デュランダル』-を抜き去った。
聖剣デュランダルの出現にリンディ、ブラックを除いた全員が目を見開いた。
『聖剣デュランダル』。エクスカリバーに並ぶほどの伝説の聖剣であり、切れ味だけを考えればエクスカリバーを上回るほどだとも伝えられている聖剣。
その伝説の聖剣をゼノヴィアは透明になって迫って来ているエクスカリバーの先端に向かって構え、全力で横薙ぎに振るう。
「ハァァァァァァァァァァッ!!!」
ーーーガギィィィィィィィーーーン!!!
激しい金属音が鳴り響いたと思われた瞬間、枝分かれして透明になっていたエクスカリバーが全て砕かれて姿を現したばかりか、校庭の地面を大きく抉っていた。
凄まじいデュランダルの力にフリードは声を完全に失い、バルパーも信じられないと言うようにゼノヴィアの握るデュランダルを見つめる。
「デュランダルだと!?貴様はエクスカリバーの使い手では無かったのか!?」
「昨夜は使う暇も与えられなかったから見せられなかったが、私はデュランダルの使い手だ・・・残念ながら担い手ではないがね。何せ使い手の私にも牙を剥く暴君なのだから」
「馬鹿な!?私の研究ではデュランダルを扱える領域にまで至っていないぞ!?」
「ソレは当然だ・・・私はイリナ達人工的な聖剣使いではなく、数少ない天然ものさ」
『ッ!!!』
告げられた事実にバルバーとフリードは完全に言葉を失った。
ゼノヴィアは苦笑を浮かびながら、アーシアを護ると言う様にデュランダルを構えて祐斗に向かって叫ぶ。
「やれ!!!木場祐斗!!」
「言われなくても!!!」
ーーービュン!!!
「ッ!!」
一瞬にして目の前に現れた祐斗の姿にフリードは目を見開いて右手に持っているエクスカリバーを構えるが、祐斗は構わずに『聖魔剣』を全力で振り下ろす。
ーーーバキィィィィーーン!!!
「エ、エクスカリバーが・・・」
自身の右手の中で甲高い金属音を響かせながら砕け散ったエクスカリバーの姿に、フリードは呆然と声を出すしかなかった。
その様子に哀れみも憐憫も抱く事無く、祐斗は『聖魔剣』の刃でフリードを肩口からわき腹に掛けて斬り払う。
ーーーブザァァァァァァァン!!!
「チ・・・チ・・ク・・ショウ」
「君はやり過ぎた・・地獄の底に落ちるんだね」
悔しげな声を漏らしながら地面に大量の血を流しながら倒れ伏したフリードに祐斗は冷たい声でそう告げると、フリードは口から大量に血を吐き出すと共に完全に動かなくなったのだった。