冥界にあるサーゼクスの居城。
堅牢で荘厳な造りがなされている居城の一室で、申し訳なさそうに頭を下げている“私服”姿のグレイフィアと、事情を理解して頭を両手で抱えているリンディの姿が在った。
「な、何てことなの・・・一誠君に隠して来た冥界の事情を知ってしまったなんて」
「本当にゴメンなさい、リンディ・・まさか、あそこでライザー・フェニックスが眷属悪魔達を呼ぶなんて、予想外だったのよ」
「じ、事情は理解したから安心してグレイフィア・・・・それに少なくとも一誠君を悪魔に転生させるのは、簡単な事では無いわ」
「そうね・・・確かにリアスの今の実力では一誠君を悪魔に転生させるのは無理ね」
隠していた情報を一誠が知ってしまったのは予想外だったが、リンディもグレイフィアも今のリアスの実力では一誠を悪魔に転生させるのは無理だと理解していた。
元々『
悪魔の駒』には幾つかの制約が存在し、全ての者が悪魔に転生することは不可能なのだ。
例を挙げれば『
無限の龍神』であるオーフィスは悪魔への転生は不可能であり、神格クラスに分類されている者も対象外になっている。『二天龍』と言う伝説に名を残す龍を宿している一誠は、ギリギリのところで悪魔に転生することは可能なのだが、残念ながら一誠の近くに居る上級悪魔リアス・グレモリーでは所持している『
悪魔の駒』を全て使用しても一誠を眷属悪魔にすることは“今”は出来ない。
『
悪魔の駒』には使用者で在る者の実力を基準にして悪魔へと転生出来る者が決められる識別機能のようなモノが宿っている。開発者である四大魔王の一人『アジュカ・ベルゼブブ』が少しでも転生悪魔になった者の反乱を抑える為に考案したシステムである。
当然ながら『
禁手化』に至っている一誠の実力はリアスを超えている。無論、リアスが実力を上げれば基準が変わるので一誠を悪魔へと転生させることは不可能では無いが、今現在は少なくとも一誠を悪魔に転生させるのはリアスでは無理なのだ。
「フリートさんが発見した“裏技”を使用しない限り、一誠君をリアスさんが悪魔に転生させることは出来ないから気にしないで良いわ、グレイフィア」
「それを聞けて少し心が軽くなったわ・・・それにしてもあの人ったら・・・オーフィスが戻って来ているのを隠していたなんて・・・ライザー・フェニックスも知らないからと言って、オーフィスに敵意を向けていたし・・あの時は内心では生きた心地がしなかったわ」
「でしょうね」
冷や汗を流しているグレイフィアの様子に、リンディもその気持ちが充分に理解出来た。
オーフィスがその気になっていれば、ライザー・フェニックスは今頃消滅しているか、或いは冥界の精神病院に永住しているかのどちらかしかない。ライザーとオーフィスでは天と地どころか、世界の壁を十数個以上潜り抜けなければならないほどの実力の差が在るのだ。
最強の『
女王』であるグレイフィアでもオーフィスに一矢報いることは不可能なのだから。
「その様子だとサーゼクスさんにはお仕置きをしたようね」
「えぇ・・貴女から貰った『お仕置き道具』は本当に助かっているわ」
「気にしないで・・同じ苦労を味わっている者なのだから」
「そうね・・・フリートとサーゼクス・・・あの二人は本当に良く似ているわ・・・特に自分の欲求に素直な所なんか」
「本当ね・・・『使い魔の森』に行ったきり、連絡も無いし・・確実に研究が楽しくてこっちの現状を忘れているんでしょうね、フリートさんは」
「?・・・・・リンディ?一体如何したの?何時もだったらフリートを連れ戻しているのに?」
グレイフィアは勝手に行動をしているフリートに対して怒りを持っていないリンディの様子に疑問を覚えて質問した。
何時もならばフリートが勝手に行動すればリンディが動いて止める筈なのだが、今回は『使い魔の森』に行って勝手に研究やら何やらを行なっているフリートに対してリンディは怒りを見せていない。寧ろこのまま戻って来ない方が助かると言う雰囲気を放っているリンディに様子に、グレイフィアは疑問が募る。
リンディはグレイフィアの疑問を理解しているのか、ゆっくりと自分が今動いている“依頼”の内容に関わらない程度の情報を教える。
「今私が動いている依頼にフリートが関われば、とんでもなく不味い事態に発展するわ。あの人が絶対に暴走するような代物が関わっているのよ。だから、このまま解決するまで戻って来ない方が本当に助かるの」
「そう・・・・」
何処と無く悟りきったようなリンディの表情に、グレイフィアは僅かに頭が痛くなった。
フリートは仕事はしっかりやるが、その仕事の範囲内で自身の研究の為に動く面が在る。それ関係で頭が痛くなるような目に在っていたリンディは、今回の依頼の中で調べた情報によって確実にフリートが暴走すると理解し、サーゼクスの依頼の為に『使い魔の森』に行ったまま帰って来ないフリートを放置しているのだ。
グレイフィアはそんなリンディの心情を察し、一先ずその話は終わりにして此処にリンディを呼んだ要件の為に一枚のディスクをテーブルの上に置く。
「それでリンディ・・・呼んだ要件は謝罪だけじゃなくて、このディスクを貴女経由でリアス達に渡して貰いたいの。ディスクの中身は『ライザー・フェニックスのレーティングゲーム内容』よ」
「・・・良いのかしら?グレイフィア」
「メイドとしての私はグレモリー家を尊重するわ。だけど、個人としてはリアスには望んだ幸せを得て欲しいの。今回の件で敗北するなら其処までだけどね」
「・・・複雑ね。でも、分かったわ。このディスクは私経由でリアスさん達に渡しておくわ」
「頼むわね、リンディ」
ディスクを服の中に仕舞ったリンディにグレイフィアはそう告げ、リンディは頷くと共に部屋を出て行くのだった。
白く、何処までも広がっていると思えてしまえるような空間内部。
その空間の中で二つの“赤”が激突し在っていた。両者とも同じ格好をし、空間の中を縦横無尽に動き回って激突を繰り返し、相手を屠ろうと動き回る。
同じ“赤”。だが、良く見てみればその戦い方は大きく違っていた。片方の“赤”は己の腕を持って戦うのに対して、もう一つの“赤”は自身の周りにいる多種多様な生物を使役して苛烈に挑んで来る“赤”を翻弄していた。
「クソッ!!」
一向に戦況が有利にならない現状に苛烈に攻めていた“赤”は悔しげに声を上げた。
それに対してもう一方の“赤”が自身の横にいた一頭の竜に手を翳し、次の瞬間、竜の体を覆うように赤いオーラが溢れる。
それと共に竜の口に力が集まり、他の生物達がもう片方の“赤”を取り囲むように動き包囲が完成した瞬間、竜の口から閃光が放たれる。
「グルオオオオオオオオォォッ!!!!」
ーーードウゥゥゥゥゥーーン!!!!
「クソオォォォォォォォッ!!!」
竜から放たれた閃光を目にした“赤”は閃光を弾き返そうと手を伸ばす。
だが、反応するのが遅かった閃光は“赤”へと直撃し、“赤”の意識は闇の中に飲み込まれた。
「ウォッ!!」
自身のベットの上で横になっていた一誠は突如として起き上がり、荒い息を吐きながら左手に顕現している『
赤龍帝の篭手』に目を向ける。すると、手の甲に在る宝玉の部分からドライグの声が響く。
『どうだった相棒?相棒のように直接的な戦闘の戦い方じゃなく、他の者の力を強化して戦う赤龍帝の戦い方は?』
「あぁ・・・かなり勉強になった。やっぱそれぞれの代で色々な戦い方が在るんだな?・・基本的に俺に近い戦い方の先輩方としか訓練して来なかったら、今回のは本当に勉強になったぜ」
『あぁ、相棒のように直接戦闘を主に行なう者や、先ほど相棒が“精神世界で戦った歴代の赤龍帝”のように上がった力を譲渡して戦わせるサポート主体の者も居た。しかし、説得出来た歴代の赤龍帝の残留思念の中に相棒が今回求めているような戦いが出来る者が居たのは助かったな』
「あぁ・・・先輩に力を貸して貰うのは本当に助かるぜ」
一誠はそう呟きながら自身の左手に顕現している『
赤龍帝の篭手』を眺める。
『
神器』の中でも『
神滅具』に分類されている『
赤龍帝の篭手』。真の力を発揮すれば絶大な力を発揮出来るが、歴代の『
赤龍帝の篭手』の所有者達はその絶大な力に飲み込まれて悲惨な死を迎えてしまった。
それ故に『
赤龍帝の篭手』の深層と呼ぶべき部分には歴代の所有者達の負の思念が満ち溢れている。その負の思念のせいで『赤龍帝・ドライグ』の本質と呼ぶべき力が変質してしまっているのだ。『
赤龍帝の篭手』を調査したフリートが得た情報であり、負の思念のせいでドライグの真の力を発揮しようとすれば暴走してしまうと言う重大過ぎる欠点が存在しているのだ。しかも、現持ち主の生命力を吸い取ってしまうと言う最悪な欠点付きで。
生命力の代わりとなれる代価を支払えば、短時間は真の力を発揮してもある程度は使用出来るが、やはり暴走と隣り合わせには違いない。何よりも一誠には生命力の代わりに支払えるモノなど無いのだから、本質の力を使用すれば先ず間違いなく死亡するとフリートから断言されている。
当然ながら死にたくない一誠は本質の力を使用しないようにして来たが、ブラックとフリートが折角持っている力なのだから使用出来るようにしろと命じ、一誠は『
赤龍帝の篭手』に宿っている歴代の赤龍帝の残留思念の説得を頑張っているのだ。
「もう二年だけど・・・・まだ半分も説得出来て無いんだよな」
『そう簡単に奴らの説得は出来んさ。あいつらはそれぞれ形は違っても悲惨な最後を迎えた。それ故に俺でさえも奴らの暗黒の思念には迂闊には接触出来ない。寧ろ説得に成功している奴らが居る方が俺としては驚きだ』
「まぁ、地道な努力はやっぱり無駄じゃないって事だな・・・・・ドライグ・・俺は絶対に覇道なんて進まないぞ。ブラック師匠もフリート先生も言っていたけど・・『自分の道は自分で決めろ』ってな」
『相棒・・お、俺は!俺は嬉しいぞ!!!相棒もちゃんと成長して…』
「そうさ・・俺は見つけたんだ!!俺の子供の頃からの夢!!!『ハーレム王』になれる手段を!!!地球の法律じゃ無理だから諦めかけたけど!冥界の法では『ハーレム』がOKなんだからな!!!!!俺は『ハーレム王』になる!!!」
『うおぉぉぉん!!!うわあぁぁぁぁぁぁん!!!!ウオオオオオン!!!ライザー・フェニックスの馬鹿野郎!!!!!!!・・・(不味い!!不味いぞ!!こ、このままでは!本当に『変態龍帝』なんて称号が付いてしまう!!!いや、それよりも!!!フ、フリートの実験室行きが確定してしまう!!な、何とかしなければ!!)』
自分の恐れていた未来が少しずつ近づいて来ていることを察したドライグは、一誠の内で悲しみにくれながら悶え苦しんでいた。
フリートはやると言ったら絶対にやる。一誠が悪魔になったらドラゴンの力を宿す悪魔が誕生するのだから、絶対に暴走して徹底的に一誠の人間から悪魔への変化を調べ上げるに違いない。それは絶対に避けたい未来である為に、ドライグは内心で何とか今の危機的状況を避ける為の策を考える。
その間にベットから立ち上がった一誠は、先ほどリンディから送られて来た『ライザー・フェニックスのレーティングゲームに関する資料』が入っているディスクを取り出して、パソコンにセットして中身を確認する。
「う〜ん・・・やっぱり言うだけ在って戦績はかなり良いんだな、ライザーの奴」
『あぁ、確かにな。十戦中八勝・・・二敗の方も家関係の配慮の為の敗北。実質の全勝・・フム、奴の特性も考えれば久々の強敵だ。今回の件がリアス・グレモリーの婚約での戦いで無ければ付け入る隙は在ったが…』
「無理だよな。アイツ絶対本気で挑んで来るだろうし・・・・・ん?」
『どうした、相棒?』
「いや、ちょっとライザーの野郎の眷属悪魔の中に気になる子がいたんだ・・・いや、でも、まさかな」
『誰だ?』
「いや、この子・・部室の時に居たライザーに似た金髪のお姫様みたいな女の子なんだけど・・え〜と、名前は・・・『レイヴェル・フェニックス』だと!?」
『ムッ!フェニックスと言う事は奴の関係者か!?』
「クッ!!ライザーの野郎!!!」
『相棒も気がついたか?もしもこの情報が間違っていないのならば、対戦の時にライザーとこの小娘二人の不死鳥を相手にしなければならな…』
「妹までハーレムの中に居るなんて羨ましいぞ!!!!」
(・・・・・・・・リ、リンディにカウンセラーを探すように頼もう・・・『アルビオン』・・・俺はお前と今代で会う前に壊れるかもしれない)
嘗て天使、悪魔、堕天使の三大勢力の戦争に介入した『二天龍』と称された『
赤い龍』ドライグ。
彼の精神は今代の赤龍帝・兵藤一誠のせいで、かなり追いつめられていたのだった。
翌日の朝頃。早朝に行き成り訪れた兵藤家に訪れたリアスによって残された九日の時間を全て、訓練に当てることが決まった事を伝えられた一誠とアーシアは、とある山の山頂付近に在るグレモリーの別荘を目指して山登りを行なっていた。
因みにオーフィスとベルフェモンは訓練には全く興味が無く、今頃はまだ兵藤家で安眠している。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・山登りって疲れます」
「大丈夫か、アーシア?何だったら背負って上げるけど?」
「いえ!!大丈夫です!!何よりも、もう一誠さんに荷物を持たせられません」
「そうか?別段重く無いんだけどな?」
そう一誠はアーシアの言葉に疑問を覚えて首を傾げるが、アーシアと共に山を登っていた祐斗、小猫、朱乃、リアスは僅かに目を見開く。
今、一誠の背には三つの巨大なリュックサックが折り重なるように背負われ、右肩にはアーシアの荷物が、左肩には朱乃の荷物が、そして一誠の両手には大量の飲み物が入ったクーラーボックスが一つずつ持っていた。
明らかに人間が持てるような重量では無いとしか思えない荷物を汗も流さずに一誠の姿に、リアス達はリンディが言っていた人外レベルの体力は本当だったのだと理解した。
「イッセー君は力持ちなんですね・・一体どんな訓練をして来たんですか?」
「・・・・朱乃さん・・・・・・お願いです、聞かないで下さい・・・お、思い出したくもない・・じ、地獄の日々だったんです」
「ご、ゴメンなさい!!」
大粒の涙を流して全身を震わせ、恐怖に顔を青褪めさせている一誠の様子に、聞いてはいけないことを聞いたのだと理解した朱乃は即座に一誠に頭を下げた。
様子を見ていたリアス、小猫、アーシア、祐斗も、一誠に『アルード』での訓練の内容は禁句だと理解し、絶対に聞かないと誓いながら山道を進み、グレモリー家が所有している別荘へと辿り着く。
そして訓練の為に全員が自分達の荷物を片付け、動き易い服装に着替える為にそれぞれの部屋へと向かおうとすると一誠がリアスを呼び止める。
「アッ!そうだ!部長!!」
「何、イッセー?」
「コレを受け取って下さい」
一誠は服の中から取り出した例の『ライザー・フェニックスのレーティングゲームの内容』が記録されているディスクをリアスに差し出した。
それをリアスは首を傾げながらディスクを受け取ると、一誠がグレイフィアの件を内緒にしたまま内容を話す。
「そのディスクの中には、俺がリンディさんに頼んで送って貰った『ライザー・フェニックスのレーティングゲーム』に関することが記録されています」
「本当なの!?」
「はい・・・部長も資料とかは持っているかもしれませんけど、やっぱり映像で見るのと資料で読むのとじゃ全然違いますから」
「そうね・・・確かに資料じゃ分からない部分は在るけれど・・・イッセー・・“この資料は本当にあのリンディって人から渡されたの”?」
「はい、リンディさんが送って来てくれました」
「・・・・そう」
何処と無く納得が行かないと言う顔をしながらも、リアスは一誠から渡されたディスクを服のポケットの中に仕舞って階段の方へと歩き、階段を登る前に一誠に振り返る。
「イッセー、資料は感謝するわ」
「相手は『フェニックス』なんですから、少しでも情報は必要ですよ、部長。絶対に勝って婚約なんて破棄しましょう!」
「ありがとう、イッセー」
リアスはそう礼を一誠に告げると共に階段を上がって行った。
一誠も自分にあてがわれている部屋に向かい、訓練を行なう為に動き易い服装で在る赤いジャージを荷物の中から取り出して着替える。
そして部屋から出て、先に着替え終えたのか、リビングに居たアーシアに気がつく。
「アーシア・・着替えは終わったのか?」
「はい!!イッセーさん!今日から訓練頑張りましょう!」
「あぁ・・・だけど・・アーシア・・本当に参加する気なのか?俺はともかく、アーシアが今回のライザーとのレーティングゲームに参加する理由は…」
「理由なら在ります!!・・・・私・・・オーフィスさんと同じようにオカルト部が好きなんです・・教会に居た時は経験出来なかったことも沢山経験出来て・・毎日が楽しいんです!!だから、それを奪われるかもしれないリアスお姉さまに力を貸したいんです!!」
「そうか・・・・・だったら、部長をライザーに渡さない為に頑張らないとな」
「はい!!」
一誠の言葉にアーシアは元気良く頷き、一誠は今回の戦いはやはり負けられない戦いなのだと理解し、絶対にライザーに勝つ事を誓うのだった。
「リアスがフェニックス家の三男と結婚を賭けて『レーティングゲーム』を行うだと?」
冥界の自身の屋敷の一室でバンチョーレオモンの指示で戻って来ていたサイラオーグは、自身の眷属悪魔の中の『
女王』である『クィーシャ・アバドン』と、『
僧侶』である『コリアナ・アンドレアルフス』から現在グレモリー家とフェニックス家の間で起きている現状を聞き終えていた。
全てを聞き終えたサイラオーグは悩むような表情をしながら、クイーシャに目を向けて質問する。
「クイーシャ・・すまないが魔王サーゼクス様、グレモリーの現当主、そしてフェニックス家の当主に、俺もレーティングゲームの観戦が出来るかどうか確認して貰えるか?」
「構いませんが・・サイラオーグ様?」
「何だ?」
「この度のレーティングゲームで興味が在るのは、やはりタイトル奪取候補に挙がっているライザー・フェニックス様でしょうか?若手最強のサイラオーグ様が興味を覚えるとしたらやはり…」
「クイーシャ・・・・二度と『最強』などと俺の前で呼ぶな」
「ッ!!も、申し訳ありません!!」
僅かに怒気を含んだサイラオーグの様子に、クイーシャは自身がサイラオーグの琴線に触れた事を理解して深々と頭を下げた。
その様子にサイラオーグは知らぬうちに威圧してしまった事に気がつき、首を横に振るって発していた威圧感を消失させる。
「・・・クイーシャ・・俺はまだまだ未熟者だ。『最強』なとど言う称号を得るには未熟過ぎる。俺が目指す頂は遥か遠い。そして俺達の夢もな・・『若手最強』などと言う称号は俺には不要だ」
「サイラオーグ様・・・(修業前よりも一段とサイラオーグ様は成長なされている・・やはり、この方こそ私達が仕えるべきお方・・この身の全ては貴方様の為に)」
「では、サイラオーグ様。ご指示のとおりにグレモリー家とフェニックス家のレーティングゲームの観戦許可を得てまいります」
「頼むぞ」
サイラオーグが頷くと共にクイーシャとコリアナは立ち上がり、部屋から退出して行く。
それを確認したサイラオーグは椅子から立ち上がり、窓の外から冥界の紫色の空を眺める。そのサイラオーグの横に部屋の隅で丸くなっていた五、六メートルは在る巨大な獅子が並び立つ。
『サイラオーグ様・・それで興味は本当のところはどちらに在るのですか?』
「リアスの方だ。確かにライザー・フェニックスの戦いも興味は在るが、あの男には慢心が在る。『慢心は己の実力を下げる天敵』だと師は言っていた」
『バンチョーレオモンですか・・・もしや今回の件もあの漢が何か関わっているのですか?』
僅かに恐れを含んだような声で、獅子-『
神滅具』の一つ『
獅子王の戦斧』-通称『レグルス』-はサイラオーグに質問した。
数年前にサイラオーグが人間界を眷属集めの為に旅して居た時に出会ったサイラオーグが心の底から尊敬する師。その力は最上級悪魔に匹敵するか、或いは上回るほどの実力者。元々若手の中でも抜きん出ていたサイラオーグの実力は、バンチョーレオモンの教えを受けてから更に上がった。もしもレーティングゲームに年齢制限の決まりが無ければ、サイラオーグは間違いなく上位陣に短期間で入り込んでいただろう。
だが、レグルスは逆にそれこそが不幸に近いとも考えていた。今のサイラオーグには最も必要な相手がいない。自身の実力と同等の相手。宿敵と言う名の存在がサイラオーグには居ないのだ。
その事を長年存在し続けていたレグルスは察し、もしやと思いながらサイラオーグの答えを待っていると、サイラオーグは深く頷きながら答える。
「うむ・・・師の話ではリアスの下に『俺を奮い立たせてくれる者』が居るらしい。どのような男なのか楽しみだ」
『そうですか・・・その男、私を使用しなければならないほどの相手で在る事を願います』
「お前には不憫な思いをさせてしまっているからな・・・・師の言葉を疑う気は無いが、俺も出来ればそれほどの相手で在る事を願うぞ」
サイラオーグはそう呟きながら今だ会った事も無い強者を思って口元を楽しげに歪め、レグルスもバンチョーレオモンが告げた相手が自身の力を使うほどの相手で在る事を願う。
一誠の全く知らないところで冥界の強者は、一誠に対して思いを馳せているのだった。