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竜人とマッドの弟子は赤龍帝 レーティングゲーム中盤
作者:ゼクス   2012/08/06(月) 01:23公開   ID:sJQoKZ.2Fwk
 旧校舎のオカルト部の部室でレーティングゲームの開始時間が来るのを待っていた一誠達は、今回のレーティングゲームの審判役であるグレイフィアに促され、転移魔法陣を使用してフィールドに転移して来た。
 転移を終えると共にアーシアは僅かに困惑したように辺りを見回す。グレイフィアに促されて転移して来た先は、先ほどまでリアス達と共に一緒に居た部室と何も変わっていなかった。まさか、転移に失敗したのかとアーシアは不安になりながら一誠に目を向けるが、一誠はアーシアを安心させるように頭を撫でる。
 それと共に校内放送に近い形で、先ほどまで一緒にいた筈のグレイフィアの声が部室内に響いて来る。

『皆様。このたびグレモリー家、フェニックス家の『レーティングゲーム』の審判役を担うことになりました、グレモリー家の使用人グレイフィアでございます。さっそくですが、今回のバトルフィールドはリアス様とライザー様のご意見を参考にした結果、リアス様が人間界で通う学び舎の『駒王学園』のレプリカを異空間に再現いたしました』

「えッ!!じゃ、此処って!?全部レプリカなんですか!?」

「そうですわ、アーシアちゃん。今回のレーティングゲームのフィールドの為だけに作られた空間。全てレプリカなのですよ」

「朱乃の言うとおり、ライザーはトコトンまで私に敗北を認めさせたいようだから、私が通っている『駒王学園』をフィールドに指定して来たわ」

「逆に僕らにとっては慣れ親しんだ場所だから、戦略を練る面として有利と言う事ですね、部長」

「祐斗の考えの通りよ」

 自身の『騎士ナイト』である祐斗の言葉に答えながら、朱乃が子猫と共に広げている学園の地図を眺めていると、再びグレイフィアの放送が部室内に鳴り響く。

『両陣営が転移した先が『本陣』となります。リアス様の本陣が旧校舎のオカルト部の部室。ライザー様の本陣が新校舎の生徒会室。『兵士ポーン』の方は『プロモーション』をする際は、相手側の本陣周囲まで赴いて下さい』

「『プロモーション』って確か、『兵士ポーン』の方が他の駒の特性を得られると言う能力でしたよね?」

「そうですわ、アーシアちゃん・・・最も残念ながら私達には『兵士ポーン』が居ませんので、相手側の『兵士ポーン』の『プロモーション』を警戒しなければなりませんわね」

 アーシアの質問に朱乃は答えながら、テーブルの上に広げたマスで区切られた地図を確認する。
 『悪魔の駒イーヴィル・ピース』にはそれぞれの駒によって特性があり、『騎士ナイト』の駒は速さを重点的に強化し、『戦車ルーク』の駒は馬鹿げた腕力に凄まじいまでの防御力、そして『キャスリング』と呼ばれる特殊能力を与える。
 『僧侶ビショップ』の駒は魔力面を強化し、最強の駒である『女王クイーン』は『騎士ナイト』、『戦車ルーク』、『僧侶ビショップ』の特性を全て得られる。そして最後の駒である『兵士ポーン』には『プロモーション』と呼ばれる特性が与えられ、『キング』以外の駒に変化することが出来る。
 つまり、『兵士ポーン』が居ないリアス達と違って、『兵士ポーン』が八人居るライザーは最大九名の『女王クイーン』を自身の陣営に組み込むことが出来るのだ。

「最初に私達が行なうべきなのは、ライザー側の『兵士ポーン』の撃破よ・・朱乃」

「はい、皆さん、これを身に着けて下さい」

 朱乃はそう言いながらイヤホンマイクタイプの通信機をそれぞれに配る。
 配られた皆は、即座に通信機を身に着ける。戦いにおいて通信手段が在ると無いとでは戦況が大きく変わる。特に今回の戦いでは元々数の差が在るのだから、尚更に通信手段の存在は必須だった。

「戦場ではこれを使って戦況を常に確認するように・・・・始まるわ」

ーーーキンコンカンコーン

『開始時間となりました。今回のゲームの制限時間は人間界の夜明けまで。なお、時間内に決着が着かなかった場合はリアス・グレモリー様の敗北となります」

 学園内に開始の音である鐘の音が鳴り響くと共に、グレイフィアが告げた放送の内容に一誠、祐斗、小猫、アーシアは目を見開き、毅然としているリアスと顔を僅かに暗くしている朱乃に目を向ける。

「部長ッ!?今のは!?」

「此処までお膳立てされたのよ。こっちにとっても不利な事項を取り入れないと、フェニックス家側に不満が生まれるわ」

「でも、相手はフェニックスです、部長」

「分かってるわ、小猫」

 リアスは小猫が言いたい事を察して、小猫の頭を撫でながら頷く。
 ライザーには『不死』と言う特性がある。その特性を利用して時間切れを待って勝利すると言う選択がライザー側には在るのだ。無論、そのような逃げのような手段をライザーが望むとは限らないが、それでも一つの手段としてライザー側は勝利する方法を得た。
 逆にリアス側は時間切れと言う手段が使えなくなり、再戦なども行なえない。今回の勝負の結果で全てが決まると改めて誰もが理解する。

「さて、先ずは序盤の私達の戦略よ。先ずは祐斗、子猫、そして一誠で森の中にトラップを仕掛けるわ。一誠はそのトラップの二つか、三つに『赤龍帝からの贈り物ブーステッド・ギア・ギフト』を使用してトラップを強化して頂戴。相手側に強力なトラップを短時間で掛けたと思わせるの」

『はい!!』

「予備の地図を渡すから、それにトラップの設置場所に印をつけて於いてね。後でコピーして全員に配るから」

 リアスの指示に一誠、祐斗、小猫は頷き、即座に部室内に在った怪しげなトラップグッズを持って外へと出て行く。
 それを確認したリアスは自身の背後に付き従っていた朱乃に次の指示を送る。

「朱乃、貴方は一誠、祐斗、小猫が戻って来たらライザー側だけに反応する霧と幻術を森周辺と空にかけておいてちょうだい」

「はい」

「さて、皆が戻って来るまでは待機ね。アーシア・・貴女の力は私達の大切な回復手段だから、私と基本的に待機よ」

「分かりました!」

 リアスの指示にアーシアは頷き、一誠達が戻って来るのを静かに待つ。
 暫らくすると、トラップの設置を終えた一誠達が戻って来て、再びテーブルに広がっている地図を見ながらそれぞれ意見を出し、最終的に先ずは体育館を攻めると言う事で決まる。
 攻めるメンバーは一誠と小猫。既に一誠の腕には『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』が顕現し、何時でも倍加を始められる状態になっている。途中まで一緒だった祐斗と分かれ、一誠と小猫は警戒しながら先に進み、体育館の裏口から中に入り込む。

「・・数は四人・・双子の女の子達二人に、俺と少しやりあった棍使いの女の子、それとチャイナドレスの女の子が体育館の中に居るよ、小猫ちゃん」

「よ、良く分かりますね、兵藤先輩・・私には其処までは分かりませんでした」

「俺の場合、気配を読める訓練を嫌と言うほどやらされたし・・(何よりも女の子の気配を読めれば、その子がどんな行動を行なっているのかも分かる!!これほど素晴らしい気配読み技術は無いよな!)」

 そう一誠は内心で言葉にしていたら確実に『変態』の称号を得られることを考えながら小猫と共に先へと進む。すると、体育館内に一誠と小猫とは別の女の子の声が朗々と鳴り響く。

「其処に居るのは分かっているわよ、グレモリーの下僕さん達!貴方達が此処に入り込むのを確認していたんだから!!」

「・・行くよ、小猫ちゃん」

「はい、兵藤先輩」

 隠れる必要がなくなったのを知った一誠と小猫は堂々と壇上に姿を現し、体育館内のコートに立っている女性悪魔四人の姿を確認する。
 一誠が小猫に告げたとおり、体育館内に居たのは双子の『兵士ポーン』である女の子が二人に、部室で一誠と僅かにぶつかり合った棍使いの少女『兵士ポーン』のミラに、『戦車ルーク』のチャイナドレスの女の子だった。
 『兵士ポーン』が三人もこの場に居る事実に一誠は内心で喜び、自身に左手に顕現している『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』を構えて叫ぶ。

「小猫ちゃん!!『戦車ルーク』の子を頼む!!」

「はい!!」

Boostブースト!!》

《Explosion《エクスプロージョン》!!》

 一誠と小猫が同時にそれぞれの相手に向かって飛び出すと共に『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』から音声が鳴り響き、一誠は倍加を一段階で爆発させた。
 その音声を耳にしたライザー側の『兵士ポーン』の女の子達は、一誠の左手に顕現している『神器セイクリッド・ギア』の形状から『龍の手トウワイス・クリティカル』だと思い込み、棍使いの女の子が先んじて一誠に向かって突撃する。

「この前の借り・・・返させて貰います!!ハッ!!」

「よっと!!」

「クッ!!」

 鋭く突き出した棍を軽やかな動きで避けた一誠の姿にミラは苛立ちを深め、次々と棍を突き出すが、一誠は最小限の動きで避けて行く。
 その様子にミラは益々怒りが込み上げて来た。以前の時には主であるライザーの目の前で醜態を晒し、今も人間である一誠に対して一撃も攻撃が当たらない。その事実に悔しさが募っていき、攻撃が荒々しくなって行く。

「この!!人間のくせに!!」

ーーーガシッ!!

「ッ!?」

 全力で突き出した棍を一誠に右手で掴み取られたらミラは、驚愕に目を見開いて不敵な笑みを浮かべている一誠を見つめる。

「ミラだったかな?言っただろう。人間だって必死で努力したら、悪魔にだって勝てるぜ!!オラァァァァァァァッ!!」

ーーーバシッ!!

「キャッ!」

 一誠は雄叫びと共に右手に握っていたミラの棍を逆に振り回し、ミラから棍を奪い取った。
 同時に床に倒れ伏したミラに追撃を加えようとするが、その前に一誠に耳に物騒な駆動音が二つ届いて来る。

ーーードルッ!ドルルルルルルルッ!!

「ま、まさか?」

 聞こえて来た駆動音の正体を悟った一誠は急いで音が聞こえて来る方に目を向けて見ると、小型のチェーンソーを構えた双子の体操着姿の女の子が迫って来ていた。

「この!良くもミラちゃんを!」

「バラバラに解体しちゃうんだから!!」

「解体なんてされたくないわ!!」

Resetリセット

『えっ?』

 一誠の左手に顕現していた『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』から響いた音声は、双子は思わず疑問の声を上げてしまう。
 今の音声は力の倍加を解除する音声。自分達の武器である小型のチェーンソーをその身に受ければ、悪魔ではない一誠など真っ二つになってしまう。にも関わらずに倍加を解除した一誠の行動に双子の女の子の動きが僅かに鈍ってしまう。
 その隙を逃さずに一誠は再び『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』の力を解放し、一段階目の倍加を行ない、右手に持ったままだったミラの棍を構える。

Boostブースト!!》

「よし!!強化!!」

Transferトランスファー!!!》

「何がしたいのよ!!」

 一誠の一連の行動の意味が分からなかった双子の少女の姉の方が苛立ちを込めながら持っていた小型のチェーンソーを一誠に向かって振り下ろす。
 その動きに対して一誠は右手に持っていたミラの棍を使って防御するように構えを取る。双子の姉の方はミラの棍ごと一誠を真っ二つにしようとするが、彼女の予想に反して棍はチェーンソーを受け止める。

ーーーギィィィィィーーン!!

「う、嘘!?」

「ミ、ミラちゃんの棍ってこんなに硬かったの!?」

 火花を散らしながらチェーンソーと拮抗しているミラの棍の姿に、双子の姉は叫び、追撃を行なおうとしていた妹の方も信じられないと言うように声を上げて思わず動きを止めてしまう。
 その隙を一誠は見逃さず、自由に動く『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』が顕現している左拳を目の前に居る女の子の胸に向かって叩き込む。

「行くぞ!!」

ーーードン!!

「キャアッ!!」

「お姉ちゃん!この!!」

 殴り飛ばされた姉の姿を目にした妹は叫びながら姉と同じようにチェーンソーを一誠に向かって横薙ぎに振るう。
 それに対して一誠はミラの棍を盾にするように構え、チェーンソーを先ほどと同じように受け止める。

ーーーガキィン!!

「そ、そんな!?何で!?」

「教えては上げられないんだよね!悪いけど、君も吹き飛んで貰うよ!ハッ!!」

ーーードン!!

「キャッ!」

 言葉と共に拳を叩き込まれた双子の妹は姉と同じように吹き飛ばされた。
 その様子を子猫と戦いながら見ていたチャイナドレスの女の子は信じられないと言うように、双子の女の子達とミラを油断無く警戒している一誠を見つめる。

「や、奴は本当に人間か?」

「その部分には少し同意します」

「いや!!小猫ちゃん!!其処は否定してくれよ!!」

 仲間であるはずの小猫からの非人間の発言に一誠は思わず叫んだ。
 自身でも人間の道を踏み外しかけているような気がしている一誠だが、改めてそれを言われるのは何気に傷つく。
 そんな時に一誠と小猫の耳に付いている通信機からリアスの声が届く。

『イッセー!子猫!朱乃の準備は終わったわ!!例の作戦通りに動いて!!』

『了解!!』

 リアスの指示が届くと共に一誠と小猫は一瞬だけ視線を交し合い、即座に体育館の中央口に向かって駆け出した。
 その突然の動きにライザーの眷属の女の子達は驚愕と困惑に包まれるが、即座に一誠と小猫の後を追いかける。

「逃がさないわよ!!」

「・・・悪いけど・・君達には此処に残って貰う!!発動!!『洋服崩壊ドレス・ブレイク』」

ーーーパチン!!

ーーービリッ!

 一誠が指を鳴らすと同時に一誠と戦っていた双子の女の子二人と、棍使いの少女ミラの服が下着さえも粉々に弾け飛び、それぞれの少々発育不足だが女性としての裸体が体育館内に姿を晒した。
 自分達の服が弾け飛んだ事実を認識した一瞬にして顔を真っ赤に染め、大事な部分を隠しながら体育館内に響き渡らせる。

『イ、イヤァァァァァァァァァァァーーーーーーー!!!!!!!!』

「こ、これは一体!?」

 自身の仲間である少女達に突然起きた出来事に、チャイナドレスの少女は思わず足を止めてしまう。
 そして一瞬閃光が走り、次の瞬間、轟音と共に巨大な雷の柱が体育館に降り注ぎ、体育館内に居た少女達を飲み込んで根こそぎ体育館は消失する。

ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

『ライザー・フェニックス様の『兵士ポーン』三名、『戦車ルーク』一名、戦闘不能!』

「よっしゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 体育館から脱出していた一誠は、聞こえて来たグレイフィアの放送に策が上手く行った事を知り、喜びの声を上げて上空に居る朱乃に手を振る。
 一誠達が使用した策は重要なポイントである体育館を利用して、ライザー・フェニックスの眷属悪魔を何名か巻き込んで破壊すると言う策。あのまま戦っても勝つ事は出来たかもしれないが、出来るだけ消耗は控えなければならない。まだ、戦いは続くのだから最小限の犠牲サクリファイスで最大限の効果を発揮することが重要なのだ。

「やったね、小猫ちゃん」

「・・・・・・兵藤先輩・・あの技を使用しましたね?」

「い、いや・・そ、それは・・ほ、ほら・・あのままだったら脱出されそうだから」

 ジト目で自身を睨んでいる小猫の姿に、一誠はバツ悪そうに声を出しながら顔を逸らした。
 本来ならば突然に逃げ出した一誠と小猫の動きに戸惑っている隙に体育館から脱出する予定だったのだが、予想に反してミラ達は追い駆けて来たので万が一の為に仕掛けておいた『洋服崩壊ドレス・ブレイク』を一誠は使用したのだ。

「・・・余りあの最低な技を使用しないで下さい」

「あぁ、分かってる・・お、俺も出来るだけ使用する気は無いからさ」

「・・・アレさえ使用しなければ格好よかったのに」

「ん?子猫ちゃん・・何か言ったかい?」

「何でも在りません」

 一誠の質問に小猫はそっぽ向きながら答え、一誠は困ったように頭を掻く。
 だが、突如として一誠の鍛えられた危機感知能力が警報を上げ、一誠は小猫の体を護るように抱えながらその場から飛び退く。

ーーードオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

「グゥッ!!」

「せ、先輩!?」

 一誠が小猫を抱えながら直前まで居た場所から飛び退くとほぼ同時に爆発が起きた。
 その時に漏れた一誠の苦痛の声に小猫は心配そうに叫ぶが、一誠は構わずに新たに現れた気配が在る空中に目を向け、フードを被っている魔導師風の格好をしているライザー・フェニックス側の『女王クイーン』である『ユーベルーナ』の姿を目にする。

「なるほど・・リアス・グレモリーが眷属悪魔候補にするだけあって、かなりの実力者のようね。今ので『戦車ルーク』の小娘を撃破するつもりだったのに」

「ハァ、ハァ・・クソッ!!」

「兵藤先輩!!背中が!?」

 不満そうに言葉を漏らしているユーベルーナの声を聞きながら、一誠は僅かに気を逸らしてしまった自分に苛立ちげに舌打ちする。
 小猫はそんな一誠の腕から抜け出て、爆発の衝撃で火傷を負っている一誠の背を見つめるが、一誠は構わずに立ち上がり、地面に落ちたままのミラの棍に僅かに視線を向け、次に自分と小猫を見下ろしているユーベルーナに目を向ける。
 明らかに戦闘に支障が出るだけのダメージを負った一誠の姿に、ユーベルーナは嘲笑を浮かべる。

「フフッ、所詮は人間ですわね。悪魔ならばその程度の負傷など気にせずに戦えますものね」

「良くも兵藤先輩を!!」

ーーーバサッ!!

 一誠を負傷された怒りに小猫は背中から黒い翼を広げるが、その前にユーベルーナと子猫の間に朱乃が割り込む。

「あらあら、貴女のお相手は私がいたしますわ。ライザー・フェニックス様の『女王クイーン』ユーベルーナさん。それとも『爆弾王妃ボム・クイーン』と言う呼び名で呼んだ方が良いのかしら?」

「その二つ名はセンスがなくて好きではないわ、リアス・グレモリー様の『女王クイーン』姫島朱乃・・いいえ、『雷の巫女』。貴女とは戦って見たいと思っていたのよ」

「あらあら・・それは嬉しいですわね・・小猫ちゃん、イッセー君と一緒に祐斗君の下へ向かいなさい。此処は私が引き受けますわ」

「朱乃さん・・・」

「小猫ちゃんの分もイッセー君を傷つけてくれたお礼はしますから、安心してね」

「・・・分かりました、イッセー先輩・・行きましょう」

「あぁ・・ゴメン、小猫ちゃん」

 地面に落ちているミラの棍を左手に持ちながら、一誠は小猫に支えられながら祐斗と合流する地点を目指して歩き出す。
 朱乃はそれを確認すると何時ものニコニコ笑顔をではなく、真顔でユーベルーナに迫力が篭もった視線を向けるが、ユーベルーナは嘲笑を浮かべたまま子猫に支えられながら歩き去って行く一誠の背を見つめる。

「クスクス、無様な姿ね。アレだけ粋がっていたのに、私の一撃で戦闘不能直前なのだからね。所詮は人…」

「それ以上のイッセー君への侮辱はこの私が赦しません」

「あら、怖いわね・・でも、私は事実しか言っていないわよ?」

「あらあら・・貴女、男を見る目がありませんわね。イッセー君は素敵な男性ですわ。私が独り立ちしたら、駒を全部消費しても欲しいと思えるぐらいのね」

 リアスから一誠が自分達の為にボロボロになるほどの訓練を行なってくれていたことを朱乃は聞いている。
 実際に修行の最終日に朱乃自身もボロボロの状態になっていた一誠をその目にしている。故に自分達の仲間である一誠を侮辱したユーベルーナに対して朱乃は苛立ち、両手の間に電撃を発生させる。

ーーービシッ!!

「お礼をいたしますわ。私達の仲間を傷つけ、侮辱してくれたお礼を」

 朱乃がそうユーベルーナに告げると共に朱乃の全身を金色のオーラが包み、その両手に雷を迸らせながらユーベルーナを睨みつける。

「全力を持って貴女を打ち倒させて貰います!!イッセー君を馬鹿にした罪!!その身で償いなさい!『爆弾王妃ボム・クイーン』!!」

「その名は嫌いだと言ったでしょう!!『雷の巫女』!!」

 朱乃とユーベルーナは互いに叫びあうと激突を開始し、作られた駒王学園の空に雷鳴と爆発音が鳴り響くのだった。





(兵藤一誠か・・・一連の流れがもしも全て計算どおりだとすれば、恐ろしい男かもしれん)

 観戦室でレーティングゲームの内容を観戦していたサイラオーグは、子猫に支えられながら歩いている一誠を僅かに畏怖が篭もった視線で見ていた。
 体育館爆破の策を考えたのはリアスには違いないが、それに対応して策を成功させる流れに持っていたのは間違いなく一誠だった。リアスの考えでは重要拠点の筈の体育館を放棄して逃げ出した子猫と一誠の動きにライザー側の眷属達が困惑している隙に体育館を消滅させる予定だったのだろうが、予定に反してライザー側の眷属達は即座に反応して一誠と子猫を追いかけた。
 あのままではライザー側も体育館から脱出していた可能性が高い。その予想外の動きに対して一誠は即座に動き、リアスの考えた策を成功させた。それが相手の服を破壊する『洋服崩壊ドレス・ブレイク』だったことには流石にサイラオーグも言葉を失ったが、それ以外の行動に対しては見事としか言えなかった。
 その後のユーベルーナの奇襲で負傷を負った事もサイラオーグは一誠の策では無いのかと考えていた。このまま一誠が中心となって戦いを進めていけば、今回のレーティングゲームは一誠が居たからこそリアスが勝利者となったと思われ、グレモリー家にマイナスな面が生まれる可能性が在る。

(それを理解して負傷を負う事をあの男は意図は無いとなれば、確かに師が言うだけの男かもしれんな)

(馬鹿が僅かに気を抜き過ぎだ)

 サイラオーグと同様にモニターに映っていた一誠の戦いぶりを見ていたブラックは、一誠の負傷が一誠自身が想定していたよりも深い事を察知していた。
 戦いの中で一誠が負傷を負うつもりだったのをブラックは動きから察していたが、その負傷が想定していたよりも深いとなれば確実に動きに支障が出る。何よりも一誠の『神器セイクリッド・ギア』』である『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』にとって最も重要なのは体力。火傷を負ったと成ればジワジワと一誠は体力を失って行く。

(奴は一段階だけの強化しか使っていないから、敵側に『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』の事は知られていない。戦いの中で知られたにしても、負傷を『聖母の微笑トワイライト・ヒーリング』を持つ小娘に癒して貰うまでは譲渡の力だけを中心にして戦うしかないな)

「イッセー・・頑張る」

(フッ・・・おい、馬鹿・・此処にもお前を思っている奴が居るんだ。無様な結果だけは生み出すなよ)

 モニターに映っている一誠にエールを送っているオーフィスの姿を確認したブラックは、自身の弟子の頑張りを少しだけ期待するのだった。





『ライザー・フェニックス様の『兵士ポーン』三名、リタイヤ』

「兵藤先輩!!」

「あぁ・・多分、木場がやったんだろうな」

 祐斗と合流する地点である運動場をミラの棍を支えにしながら目指していた一誠は、聞こえて来たグレイフィアのアナウンスに口元を笑みで歪めて隣を歩いていた小猫に答えた。
 これでライザー側の十五名居た眷族悪魔の内七名が倒れた。その内の六名は『プロモーション』されることを恐れていた『兵士ポーン』。自身は予想よりも深い負傷を負ったが、まだ戦況は充分に有利と呼べる現状。
 二人はそのまま運動場に歩いていると、運動場の死角になっている体育用具を入れる小屋から自分達を手招くように振られている手に気がつく。
 その手の正体を悟った一誠と小猫は互いに頷きあって近づいてみると、予想通り祐斗が運動場を伺っていた。

「やぁ、二人とも・・・無事って訳じゃなさそうだけど来てくれて助かったよ」

「すまん、木場・・俺は前線に出るのはちょっと無理だ。だから、予定どおり」

「分かってる・・『譲渡』だね」

「あぁ」

 祐斗の言葉に答えながら一誠は左手に顕現している『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』を構え、倍加を開始する。

Boostブースト!!》

「修行の時に説明したとおり、譲渡出来るのは同時に二人まで。倍増分に関しても七割から八割が限界だ」

「充分さ」

「それだけ在れば戦えます」

Boostブースト!!》

 祐斗と小猫が一誠に声に答えると共に二段階目の倍加が終わる。
 それを確認した祐斗は運動場の方を警戒しながら、自身が知っている情報を一誠と小猫に説明する。

「此処に僕が最初に来た時に居たのは、倒した『兵士ポーン』三名に、『騎士ナイト』、『戦車ルーク』、『僧侶ビショップ』がそれぞれ一名ずつ。『兵士ポーン』三人は何とか集めて一網打尽にしたけど・・一つ厄介なことが在る」

「何ですか、祐斗先輩?」

「・・・・ライザー様側の『僧侶ビショップ』として登録されているライザー様の実の妹、レイヴェル・フェニックスがこの場には居るんだ」

『ッ!?』

 祐斗が告げた情報に一誠と小猫は驚愕に目を見開き、運動場の方に顔を向ける。
 今回のレーティングゲームでリアス側がライザー以外に最も警戒しているのはライザーの実の妹であるレイヴェル・フェニックスの存在だった。ただでさえライザー一人でも厄介なのに、レイヴェルと言うもう一人の『不死』の能力を持つ相手が居るのだから。
 その二人目の警戒人物が居ると言う祐斗からの情報に一誠と小猫は警戒心を強めるが、レイヴェルが居ると告げた祐斗は何処か困惑したようにしながら話を続ける。

「そのレイヴェル・フェニックスの事なんだけど・・・どうも彼女から戦意をあまり感じないんだ」

「どう言うことですか?祐斗先輩?」

「・・・『自分が動かなくても勝敗は決まっている』・・そんな雰囲気が彼女からは感じられた」

「・・・なるほどな・・ライザーと同じで自分達の持つ特性を信じきっているんだろうぜ。なら、レイヴェル・フェニックスは挑発しない方がいいだろうな」

Boostブースト!!》

「同感だね・・ライザー様だけでも厄介な状況なんだ。もう一人の不死鳥には眠っていて貰った方が良いからね」

 三段階目の倍加が終わったのを確認しながら祐斗は頷き、小猫も同感だと言うように頷いていると、勇んだ女性の声が野球部のグラウンドの方から聞こえて来る。

「私はライザー様に仕える『騎士ナイト』のカーラマイン!!こそこそと腹を探り合うのは飽きた!!リアス・グレモリーの『騎士ナイト』よ!!いざ尋常に剣を交えようぞ!!」

「ご指名が来たぞ、木場」

「丁度良いね・・こっちもそろそろ動く時だろう、一誠君?」

「あぁ、倍加の時間は終わりだ」

Boostブースト!!》

 遂に四段階目の倍加が終わったのを確認した一誠は棍を杖代わりしながら立ち上がり、祐斗、小猫と共に物陰から出て野球部のグラウンドの中心に堂々と立っている甲冑を装備した女性騎士の下に向かって行く。
 そして互いの顔が確認出来る位置で立ち止まり、一誠達はカーラマインの名乗りに応じるように自分達の名前を告げる。

「僕はリアス・グレモリーの眷属、『騎士ナイト』の木場祐斗」

「同じく『戦車ルーク』の搭城小猫」

「眷属候補の兵藤一誠だ」

 一誠達はそれぞれ自分達の名を名乗り、カーラマインは嬉しげに口元を歪め、鞘に納まっている自身の剣に手を伸ばす。

「リアス・グレモリーの眷属悪魔にお前達のような者が居て嬉しく思うぞ。堂々と正面から出てくるなど、正気の沙汰では無いから・・・そして私はそう言う馬鹿が大好きだ」

「イッセー君・・悪いけど、倍加の力は小猫ちゃんに全部譲渡してくれるかい?」

「・・・・ハァ〜・・負けるなよ、木場」

「もちろんさ」

 自身の思いを察してくれた一誠に祐斗は感謝しながらカーラマインと共に銀光を煌かせる剣を鞘から抜き去る。

「『騎士ナイト』同士の戦い・・・待ち望んでいたよ。個人的には尋常じゃない斬り合いを演じたいね」

「良くぞ言った!グレモリーの『騎士ナイト』よ!!行くぞ!!」

ーーービュン!!

 カーラマインが叫ぶと同時に祐斗とカーラマインの姿が消失し、火花を散らしながら剣と剣がぶつかり合う神速の剣戟が繰り広げられた。
 『騎士ナイト』同士の目で追いきれない戦いに小猫は目を瞬かせるが、隣に居る一誠の目が目まぐるしく動いている事に気がつき、一誠は祐斗とカーラマインの戦いを見ているのだと悟り、僅かに悔しさが心に浮かぶ。

(修行の時も・・さっきも私は兵藤先輩に助けられてばかり・・・はぐれ悪魔祓いの時も兵藤先輩に助けられた・・・私は)

「ヒマそうだな」

「ッ!!」

 背後から聞こえて来た声に小猫が慌てて振り向いてみると、ライザー側の二人目の『戦車ルーク』である仮面を付けた女性-イザベラと、お嬢様風のドレスを着ているレイヴェル・フェニックスの姿が在った。

「まったく、頭の中まで剣剣剣で塗り潰された者同士、泥臭くてたまりませんわ。カーラマインたら、『兵士ポーン』を『犠牲サクリファイス』にする時も渋い顔をしていたし、主である『キング』の戦略が嫌いなのかしら?」

「やっぱり、最初から俺と子猫ちゃんが戦った女の子達は『犠牲サクリファイス』の為の配置だったんだな」

Boostブースト!!》

「あら?分かってましたの?」

「あぁ、体育館に居たのが四人ってところでな。しかも、その内の三人が『プロモーション』が出来る『兵士ポーン』だった。しかも、俺達が侵入して来ていたのを見ていたのにも関わらず、体育館に残っていた。『プロモーション』を目指すチャンスだったのにも関わらずな」

(兵藤先輩!?あの時からもうライザー・フェニックスの策を見抜いていたんですか!?)

 レイヴェルと一誠の会話を聞いていた小猫は、目を見開きながら隣に立っている一誠の横顔を眺める。
 其処には何時もの何処と無くスケベさが混じっているような顔は一切無く、一つの目的の為に動くというような真剣な顔をした一誠が居た。その始めて見る一誠の男としての横顔に我知らず小猫の胸は動悸する。
 そして一誠の内に居るドライグも自身の相棒である一誠のスイッチが入った事を感じて、楽しげに口元を歪める。

(漸く相棒のスイッチが入ったな。ライザー・フェニックスの戦略が相棒の琴線に触れた。これからが本領だ)

 ドライグはそう内心で呟きながら、これからどのような戦いが始まるのか楽しげに待つ。
 レイヴェルとイザベラは僅かに雰囲気が変わった一誠の様子に首を傾げるが、一誠は構わずに左手の『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』を小猫の肩に乗せて質問する。

「小猫ちゃん・・そろそろ六段階だ。行けるかい?」

「・・・先輩・・・『戦車ルーク』の特性は馬鹿げた腕力と在り得ない防御力です」

「そっか・・・聞くまでも無かったよな」

「ボロボロになったら責任を取って貰います」

「ハハハハッ、そん時は本当に責任を取るよ」

「何の話をしていますの?」

「先ほどから意味の分からない会話をしているが?」

 一誠と小猫の会話の意味が分からないレイヴェルとイザベラは疑問に満ち溢れた声で質問した。
 その質問に対して一誠は『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』に在る二つの宝玉を輝かせながら叫ぶ。

「・・意味ならすぐに分かるぜ。行くぞ!!小猫ちゃん!!」

「はい!!!」

Boostブースト!!》

「力の譲渡!!対象は小猫ちゃん全体だ!!」

Transferトランスファー!!!》

『なっ!?』

 『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』から音声が鳴り響くと共に力が幾重にも膨れ上がったとしか思えない小猫の姿に、レイヴェルとイザベラは思わず叫びを上げた。
 小猫はそれに対して高まった自身の力を確認するように右手を開いたり閉じたりすると、ゆっくりとレイヴェルとイザベラに向かって拳を構える。

「リアス・グレモリー眷属、『戦車ルーク』の塔城小猫・・・貴女達を倒させて貰います!」

 叫ぶと共に小猫はイザベラとレイヴェルに向かって突撃する。
 レーティングゲームの戦いは序盤を過ぎて、中盤へと差し掛かったのだった。


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武者丸様
・はい、全力は出せません。最終的に一誠が勝負を決めるわけには行かないので、かなり力をセーブして戦っています。
兄貴は残念ながら一誠と会ったことは在りません。彼も忙しいですからね。話には聞いた事があっても、あう事は出来ませんでした。基本的に此方の一誠の相手はハイスクールだけです。

とある見習い小説家様
・少なくとも一誠はグレモリーの誰よりも強いですが、万全の歴史に名を残している強者には一人では勝てません。ライザーよりは確実に強いですけどね。

羊羽様
・純粋な経験では一誠はかなりの修羅場を越えていますからね
リアス達はまだブラック達の恐ろしさを知りませんなからね。知っていたら利用なんて考え自体浮かびません。次回も頑張ります!
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