ーーーガタン!!
「馬鹿な!?アレはまさか!?」
自身の本拠地である生徒会室で使い魔の目を通して戦いを見ていたライザー・フェニックスは小猫の力を数段パワーアップさせた一誠の姿に、自身が一誠の持つ『
神器』を見誤っていたことを理解し、狼狽しながら椅子から立ち上がった。
突然の自分達の主の行動に陣地内に待機していたライザーの残りの眷属である『
兵士』二名、『
僧侶』一名、『
騎士』一名はライザーの姿に困惑を覚えるが、ライザーはそれどころでは無かった。
「『
赤龍帝の籠手』だと!?十三種の『
神滅具』の一つをあんなガキが!?」
予想以上の一誠の『
神器』の強大さにライザーは僅かに焦りを覚えた。
最もその焦りは扱っている一誠自身に対してではなく、使い魔の目を通して見た『
赤龍帝からの贈り物』の力に対する焦り。子猫の力を数段パワーアップさせたように、一誠がその気になればリアス・グレモリーの力も数段パワーアップさせる事が出来る。
ライザーはリアス個人の実力に関しては認めている。今はまだ自身には及ばないが、リアスがその身に宿している『滅び』の魔力は脅威。その力を小猫と同じように強化されてしまえば、一時的にしても魔王クラスの力をリアスが揮える可能性が在る。
「(サーゼクス様の妹なんだ!?リアスにはそれだけの潜在的な可能性が在る!あの小僧とリアスを一緒にさせる訳には行かない!!)・・・お前達、すぐにあの小僧を撃破して来るんだ」
「ライザー様?」
「あの小僧自体は脅威じゃないが奴の『
神器』、『
赤龍帝の籠手』は別だ。あの『
戦車』の小娘と同じようにリアスを強化させる事だけは絶対にさせる訳には行かない!行け!!」
『ハッ!!』
ライザーの指示に本陣に残っていた全ての眷属達は、一誠達が居る運動場に向かって駆け出した。
それを確認したライザーもゆっくりと窓際により、窓を開けると共にその背から炎の翼を広げて宙に浮かび上がる。
「ゆっくりと楽しむつもりだったが、『
赤龍帝の籠手』なんて代物が出て来たなら話は別だ。リアス!!勝負を急がせて貰うぞ!!」
ライザーは叫ぶと共にその背に広がる炎の翼を羽ばたかせて、リアスとアーシアが居る筈の旧校舎へと向かい出すのだった。
「・・・・・行ったわね・・・ライザーは」
「はい」
朱乃が発生させた雷の柱で吹き飛んだ体育館の跡地。
その場所から新校舎を監視していたリアスとアーシアは、遠目からでもライザーだと確認出来る炎の翼を視認し、一誠の『
神器』が『
赤龍帝の籠手』だと知られた事を察知した。
旧校舎にリアスとアーシアが居ると思っているのはライザーの勘違い。リアスとアーシアは体育館の破壊を確認すると共に密かに旧校舎から離れ、ライザー側が意味が無くなったと思っていた体育館の跡地に潜んだのだ。
今回のレーティングゲームはどちらかの『
王』が投了するか、撃破されるかで勝負が決まる戦い。故にリアスが何よりも優先しなければならないのは身の安全。事前に取り決めで旧校舎は最初から一時的な陣地としてしか使用しないと言う取り決めだったのだ。
そしてライザーはリアス達の策どおりにトラップが仕掛けられている旧校舎へと向かって行った。
「これで私達も運動場の方に向かえるわね・・朱乃の方はまだ時間が掛かりそうだし」
リアスはそう呟きながら、今だ上空で鳴り響く雷鳴と爆発音に顔を険しく歪める。
『
爆弾王妃』と言う二つ名を持つだけあってユーベルーナは朱乃と互角にやりあっている。此処は朱乃を手助けすべきなのかとリアスは考えるが、その前に耳に付いているイヤホン型の通信機から朱乃の声が届いて来る。
『部長』
「朱乃!そっちはどうなの!?」
『少し厄介かもしれませんわね・・彼女、私に出来るだけ魔力を消費させる戦いを行なっています』
「と言う事は・・ライザー側が持っている『フェニックスの涙』の一つが」
『はい・・彼女が持っている可能性が在りますわ・・・だから、部長・・“限界越え”をイッセー君に伝えて下さい』
「ッ!?そ、それは!?」
朱乃の言葉の意味を理解したリアスは目を見開き、傍で聞いていたアーシアも上空に居る朱乃の姿を震えながら見つめる。
『約束をしましたの。負けるなんて恥ずかしい真似は出来ませんわ・・お願いね、リアス』
「・・・分かったわ・・イッセーに連絡はするから、合図はそっちに任せるわ」
告げられた言葉の中に在る朱乃の決意を察したリアスは唇を噛み締めながらも了承する。
それと共に運動場の方へと体を向け、心配そうな顔をしているアーシアに声を掛ける。
「アーシア、行きましょう。私達は負けないわ」
「はい!!」
リアスの言葉にアーシアは頷き、二人は一誠達と合流する為に運動場に向かって駆け出すのだった。
「・・ぶっ飛べ」
ーーードゴオオオオォン!!
「ガッ!!」
「イザベラ!?」
『
騎士』に迫るほどの速さで懐に飛び込んで来た小猫にイザベラは対応する事が出来ず、イザベラの胴体に小猫の渾身の力を篭もった拳が叩き込まれた。
その威力にイザベラは息を吐き出しながら吹き飛び、レイヴェルは同じ『
戦車』である筈のイザベラを討ち破る小猫の腕力に目を見開く。
『ライザー・フェニックス様の『
戦車』一名、リタイヤ』
「イザベラが一撃で倒されただと!?」
祐斗と剣戟を繰り広げながら小猫の動きを見ていたカーラマインは、突然の小猫の圧倒的と言う言葉が相応しいパワーアップに目を見開きながら叫んだ。
同じ『
戦車』で在るのだから、イザベラも当然ながら腕力と防御力が高い。それらを一撃で討ち破った小猫の力は少なくとも、『
戦車』の特性さえも無意味にしてしまう力を持っていると言う事に他ならない。
それを理解したカーラマインは祐斗と剣戟を繰り広げていた剣を投げ捨て、腰に差していた短剣を抜き放ち天に翳す。
「尋常な勝負と言っている状況では無くなった!あの人間の男は危険だ!倒させて貰う!!」
ーーーゴウゥゥゥゥゥゥゥッ!!
「・・・これは」
カーラマインが叫ぶと共に発生した炎の渦が巻き起こす熱い風を手で庇いながら、祐斗は渦の中心に立つカーラマインに目を向ける。
「我ら誇り高きフェニックスの眷族は炎と風を司る!受けよ!炎の旋風を!!」
「・・なるほど、熱波で僕らを蒸し焼きにするという策か」
「感心している場合か!!木場!!早く何とかしろ!!」
感心している様子の祐斗に向かって一誠は慌てながら叫んだ。
通常の状態ならば熱波が届かない場所まで一誠は逃げられるが、今は背中に火傷を負っているので思うように体が動かない。何よりもバリアジャケット化している制服を超えてまで届いて来る熱波に焦りを一誠は覚えていた。
その様子を横目で確認した祐斗は頷くと共に持っていた剣を突き出すように構え、力強い言葉を吐き出す。
「熱風よ・・・止まれ」
ーーーヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
「な、何だと!?」
豪快な音と共に発生していた熱風が祐斗の持つ剣に向かって吸い込まれて行く様子にカーラマインは叫びながら、先ほどまでとは形状が明らかに変わっている祐斗が持つ剣を驚愕と困惑の眼差しで見つめる。
祐斗の持つ剣は刀身が円状と言う特殊な形状をし、熱風は円の中心に出来ている不可思議な渦の中に吸い込まれていた。
「・・まさか、貴様・・他の『
神器』所有者から獲物を奪って自身に移植した、後天的な『
神器』所持者か?」
「残念だけど、僕は複数の『
神器』を所持していないし、後天的な『
神器』所持者でもないよ。僕の『
神器』は最初から一つだけ。この剣、『
風凪剣』もさっきの剣も創ったのさ」
「創った・・だと?」
「そう、『
魔剣創造』。任意で魔剣を創り出せる能力。それが僕の『
神器』の能力だよ!!」
ーーーザザザザザザザザザザザザザッ!!!!!!
「クッ!!」
祐斗が地面に手の平を向けると共に叫ぶと、地面から色々な形状と刀身の魔剣群が出現し、カーラマインは慌てて後方に飛び去った。
そのまま地面に投げ捨てていた己の剣と、元々持っていた短剣を逆手に持ち直しながら地面から生えていた魔剣を一振り握る祐斗の姿を見つめる。
「まさか、魔剣を創りだす能力を持つ『
神器』所持者だったとは・・・しかし、魔剣か・・・数奇なものだ。どうやら私は特殊な剣使いとぶつかりあう運命なのかもしれん」
「へぇ、僕以外にも魔剣を扱う者がいたのかな?」
「いや、魔剣ではない・・・・・・『聖剣』だ」
「ッ!!!」
(何だ!?)
カーラマインの一言と共に祐斗の表情と雰囲気がガラリと変わったのを感じた一誠は、底知れない殺気を全身から発し出した祐斗を見つめる。
牽制し合っていた小猫とレイヴェルも、突然の祐斗の殺意の波動に牽制を止めて祐斗に目を向ける。すると、祐斗は冷淡な光を瞳に乗せながら、カーラマインに低い声で問う。
「その聖剣使いについて訊かせて貰おうか?」
「ほう、あの聖剣使いと貴様は縁が在るようだな。だが、剣士同士、剣にて応えよう!」
「・・・そうかい・・口が動けば、瀕死でも問題ないか」
(おいおい・・木場の奴、こんな憎しみを隠していたのかよ・・しかも、聖剣絡みで)
雰囲気が変わっている祐斗の様子に一誠は内心で警戒するように祐斗を見つめていた。
今の祐斗は完全な抜き身の刃。触れれば仲間でさえも確実に傷つける。それだけの雰囲気を感じた一誠はこの場を如何治めるか悩む。
一応小猫に譲渡すると共に再び力の倍加を行なっているが、その力はリアスから届いた通信の内容に使用しなければならない。この膠着してしまった状態をどうすべきなのかと悩んでいると、一誠は自身に向かって近づいて来ている複数の気配に気がつく。
「此処ね」
「イザベラお姉さまがいない」
「やられちゃったみたいだね」
(来たか!!)
聞こえて来たライザーの残りの眷属達の声に一誠は声のした方に振り向き、自身に向かってそれぞれの獲物を構えているライザーの眷属悪魔達の姿を確認する。
「ライザー様の命に従って、其処の人間!貴方を撃破します!!」
「させない」
ライザーの眷属の一人が叫ぶと同時に、小猫は一誠を護るように立つ。
その様子を見ていたレイヴェルは嫌味な笑みを浮かべながら、小猫と一誠に向かって話しかける。
「見事な動きでしたけど、此処までですわね。『
神滅具』がまさか紛れ込んでいるとは思って居ませんでしたけど、その使い手は悪魔ではなく人間。そして負傷を負っている」
「先輩は私が護る」
「ホホホッ、確かにパワーアップした貴女の力は凄まじいですけど、こっちには数の利が在りますわ。第一、貴女達には『不死身』に勝てる武器がありませんわ・・『不死身』とは、それだけ貴方がたにとって絶望的なモノなのですよ?」
「・・・・・・ククククククッ!!!プハハハハハハハハハハッ!!!」
「兵藤先輩?」
突然に大爆笑し始めた一誠に小猫は疑問に声をかけるが、一誠は構わずに腹を押さえながら笑い続ける。
その様子にレイヴェルは馬鹿にされたと思い、目を不機嫌そうに細めながら一誠に向かって怒りが篭もった声で叫ぶ。
「何が可笑しいんですの!?」
「クククッ!!・・い、いや、あんまりにも世間知らずでちょっと笑えてな、ごめん」
「何ですって!?」
「なぁ、金髪のお嬢さん・・確かに『不死身』ってのはとんでもないと思うぜ。だけどな、この世に本当の意味での『不死身』なんて無いんだよ」
「なっ!?侮辱しますの!?」
「いや、事実を言っただけだ」
一誠は知っている。フェニックス家の持つ『不死身』にも限界が在ることを。
その証拠にフェニックスの不死身には二つも弱点がある。精神が尽きれば戦うことが出来なくなり、圧倒的な力には敗北すると言う二つの弱点。普通に考えれば無理な話だが、一誠はそれを行なえる者達に鍛えられ、また戦って来た。ブラックとフリートに連れて行かれた『デジタルワールド』では、『不死身』よりも厄介な能力を持っている敵とも戦った。
故に自身の能力を過信し過ぎているライザーには、決定的と呼べる弱点が在る。
「俺の師匠なら言うぜ。『なら、その『不死身』、何処までも持つか確かめてやる』ってな」
「これ以上の侮辱は赦せませんわ!!!やりなさい!!」
ーーードン!!
レイヴェルが指示を発すると共に一誠と子猫に向かって、カーラマインを除いた眷族悪魔達が飛び掛った。
しかし、絶対的な危機にも関わらず小猫と一誠は慌てた様子を見せない。何故なら既に次の策は終わっていたからだ。“時間稼ぎと言う策が”。
「悪いけど、其処までよ」
『ッ!!!』
ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
突如として聞こえて来た声にライザーの眷属悪魔の足が止まった瞬間、一誠と小猫を避けるように『滅び』の力が篭もった魔力の閃光が運動場を走り、ライザーの眷属達は飲み込まれた。
その攻撃をギリギリのところで察知し、背中から炎の翼を出現させて上空に逃れていたレイヴェルは魔力が走った方に立っている人物の姿を、グレイフィアの放送を聞きながら目を見開く。
『ライザー・フェニックス様の『
兵士』二名、『
騎士』一名、『
僧侶』一名、リタイヤ』
「まさか!?リ、リアス・グレモリーさま」
「正解よ、レイヴェル・・イッセー、時間稼ぎありがとね」
「ハハハハッ、これぐらい何でも在りませんよ」
「イッセーさん!」
リアスの言葉に笑いながら一誠が答えていると、リアスの横に居たアーシアが慌てて一誠に駆け寄り、背中の火傷に手を当てながら治療を始める。
その様子を見ていたレイヴェルは自身が完全に一誠に謀られた事を悟り、怒りが篭もった視線でアーシアの治療を受けている一誠を睨む。
「私達を挑発したのは、近づいて来ていたリアス様の存在を感知されない為でしたのね!?」
「その通り。流石に私も四人も同時に倒すには力を集めないといけないわ。私とアーシアが近づいて来ている事を悟ったイッセーは、私が力を集める為に時間を稼いでいてくれたの・・祐斗!!貴方もそろそろ決めないさい!!」
「はい!!」
ーーーガキィン!!
「クッ!!」
リアスの指示に祐斗は即座に動き、相手をしていたカーラマインに鋭く剣を振り抜き剣戟を再開する。
レイヴェルはその状況にこの場に残っている最後の仲間であるカーラマインを援護しようと自身の周りに炎を発生させ、そのまま祐斗を攻撃しようとする。
だが、その前にまだ譲渡された力が残っている小猫がレイヴェルに向かって襲い掛かる。
「・・・祐斗先輩の邪魔はさせない」
「クッ!!・・良いですわ・・お兄様には及ばなくとも、私もフェニックス家の者・・・・我が一族の炎!その身に受けなさい!!」
レイヴェルは叫ぶと共に小猫に向かって炎を放ち、子猫を炎で飲み込もうとする。
それを目にしたリアスは小猫を援護しようとするが、小猫はリアスの援護を待たずに顔を庇うように手を交差させながら自ら炎を中に飛び込む。
ーーーゴオオォォォォォォッ!!!
「小猫ッ!?」
炎に飲み込まれた小猫の姿を目にしたリアスは心配さに満ち溢れた声で叫び、一誠とアーシアも心配そうに小猫を飲み込んだ炎が渦巻く場所を見つめる。
逆にレイヴェルは勝ち誇った顔をして自身が発生した炎を見つめるが、炎の中に動く影の姿をその目に捉える。
「まさか!?」
「この戦いは・・・負けられません!!」
何時に無く強い決意に満ちた瞳をしながら着ていた服が全て焼け焦げ、護っていた顔を除いた殆どに火傷を負った小猫が炎の中から飛び出した。
レイヴェルはその姿に一瞬畏怖するが、すぐにその顔は笑みに歪む。小猫の状態はどう考えてもリタイヤ寸前。ただ叩くだけでも小猫はリタイヤしてフィールドから退場する。何をして来るにしろ、自身にはフェニックス家の『不死身』が在る。故にレイヴェルは余裕そうに笑みを浮かべるが、その笑みは小猫が手に握っている瓶らしき物を目にした瞬間に強張る。
「そ、それは!?『聖水』!?」
「火を消すのに必要なのは水」
小猫が手に持っているのは事前に、『
赤龍帝からの贈り物』の力によって強化しておいた『聖水』。
本来ならば上級悪魔には殆ど効果が期待出来ない代物だが、『
赤龍帝からの贈り物』の効果によって強化されている『聖水』は上級悪魔にも絶大な効果を与えられる。当然ながらレイヴェル達と同じように悪魔である子猫達にとっても諸刃の剣となる武器。
しかし、その諸刃の刃の武器である『聖水』をリアス達は全員所持していた。フェニックスの精神を討ち破るのにこれ以上に無いほど効果が期待出来る代物なのだから。
その武器を炎の中で服の中から取り出していた小猫は、残された最後の力を込めてレイヴェルの胸元に聖水が入っている小瓶を握っている右手を叩きつける。
「・・・・終わり!!!」
ーーーバキィン!!
ーーージュワァァァァァァァァッ!!!
「キャアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
子猫が握っていた『聖水』の小瓶が砕けると共に中身がレイヴェルの体と小猫の腕にふりかかり、水が蒸発するような音と共に地面をのたうち回る。
それを確認した小猫は『聖水』とレイヴェルの炎によって負ったダメージによって遂に体が限界を向かえ、体が光に包まれながらその身が薄れて行く。
「小猫!!!」
「・・・・・部長・・・・勝って・・・・下さい」
ーーーシュゥン
リアスに消え入りそうな声で小猫は言葉を告げると共に、運動場からその姿は完全に消え去った。
同時にグレイフィアのアナウンスが無情にも運動場内に鳴り響く。
『リアス・グレモリー様の『
戦車』一名、リタイヤ』
「・・・小猫」
自身の目の前で消え去った小猫の姿にリアスは胸に痛みを覚えるが、毅然とした顔をして地面に倒れ伏しているレイヴェルに顔を向ける。
「レイヴェル・・貴女の負けよ」
「・・ウゥゥ・・・ま、まだ・・負けていませんわ!!」
「それは!?」
胸に走る激痛に呻きながらレイヴェルがボロボロに成った服のポケットの中から取り出した小瓶を目にしたリアスは叫び、カーラマインと鍔迫り合いを行なっていた祐斗も小瓶の中身の正体を察して目を見開く。
「アレは!?まさか、『フェニックスの涙』!?彼女が持っていたのか!?」
「そう言う事だ!?レイヴェル様!早く使用を!?」
「言われるまでもありませんわ!!」
レイヴェルはカーラマインの声に応じると即座に自身に向かって『フェニックスの涙』をふりかけた。
それと共に『フェニックスの涙』の効果が発揮され、『聖水』によって負った怪我は煙を立てながら消失し、服以外の負傷は完全に治癒される。
「クッ!!ライザーじゃなくて、貴女が持っていたなんて!?」
「危ないところでしたわ・・・・でも、次は同じ手は食らいませんわよ!?」
ーーーゴオオオォォォッ!!
レイヴェルは叫ぶと共に自身の周りに炎を発生させ、リアス達を威嚇する。
『聖水』によってダメージを受けた事によって本気になったのだとリアスと祐斗は焦りを覚え、カーラマインは本気になったレイヴェルに歓喜し、アーシアは一誠の服を強く握るが、一誠だけはレイヴェルを見ながら呟く。
「・・・小猫ちゃんの勝ちだ・・・レイヴェル・フェニックス」
「なっ!?ま、負けていませんわ!わ、私は!?」
「だったら何で・・・・“足が震えているんだ”?」
「ッ!?」
(しまった!?『聖水』の使用の本当の狙いはコレだったのか!?少なくともレイヴェル様はこのレーティングゲームの最中は戦う事が出来ない!?)
一誠に指摘を受けたレイヴェルは、自身の足がガクガクと震え続けていることに漸く気がつき、カーラマインもレイヴェルの状態を理解して苦虫を噛み潰したような顔をする。
『不死身』と言う絶対的な自信が討ち破られたことによってレイヴェルの精神は完全に折れてしまったのだ。絶対と信じていたモノが砕けた時、何者であろうと心は折れる。『聖水』の効果によって体力と精神を同時に大量に消耗したレイヴェルの心は小猫の一撃によって完全に折れたのだ。
最終的には確実に勝てると考えていたレーティングゲームが完全に様相を変えたと理解したカーラマインは、自身と対峙している祐斗に視線を向ける。
「恐ろしい武器を持っているな、お前達は」
「悪いかい?」
「いや・・・・元々今回の勝負は出来レース染みていた・・それを変えたのは間違いなくお前達の頑張りだ・・賞賛しよう」
「嬉しいね・・だけど、勝負はそろそろつけさせて貰うよ」
「良かろう」
腰を深く落としながら告げた祐斗の言葉にカーラマインは自身の持つ炎が渦巻いている剣を正眼に構え、互いの戦意が最高潮に達した瞬間、その姿は運動場から一瞬消え去り甲高い金属音が鳴り響く。
ーーーガキィィィーーン!!
金属音が消えると共に祐斗とカーラマインは先ほどまで互いが立っていた位置に姿を現し、祐斗は制服のポケット部分が焼き切られ、カーラマインは脇腹から血を流し、その体は光に包まれていた。
「・・・・見事だ」
「君こそね・・おかげで切り札が一つなくなったよ」
祐斗は消え行くカーラマインにそう告げながら、地面に落ちている祐斗が所持していた『聖水』が入った小瓶の破片を見つめる。
カーラマインは最後のぶつかり合いの時に、祐斗を倒すのではなく『聖水』の入った小瓶の破壊を優先したのだ。主であるライザーが敗れる要因を一つでも無くす為に。
そのカーラマインの目論見は成功し、祐斗の上着のポケットが焼かれると共に外に飛び出てしまった小瓶は地面に落下して割れたのだ。
「今回は勝負には勝てたけど・・・『
騎士』としての行動じゃ、君の勝ちだよ、カーラマイン」
「・・次は勝負にも勝たせて貰うぞ、木場祐斗」
ーーーシュウゥン!!
最後に言葉を告げると共にカーラマインの姿は運動場から消失した。
それを確認したリアス、一誠、アーシアは今だ上空で鳴り響き続けている雷鳴と爆音に目を向けて見ると、魔力を集めた右手をローブが多少ボロボロになっているユーベルーナに向かって構えている朱乃の姿が在った。
「終わりですわ!!!」
ーーーガアァァァァァァァーーーーン!!!!
朱乃が叫ぶと同時に魔力を集めていた右手から凄まじい轟音と共に雷の一閃が空中を走り、ユーベルーナを飲み込んで大爆発を起こした。
それと共に朱乃は残っている魔力で防御を固めると同時に、朱乃に今までに無いほどの高威力の爆発が襲い掛かり、運動場の方に向かって吹き飛んで行く。
ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
「・・・最大の威力では無かったと言う訳ね」
雷の爆発によって発生していた煙の中から負傷が完全に癒えた姿で現れたユーベルーナは、不満そうに声を漏らしながらリアスに抱えられているボロボロの状態になっている朱乃を僅かに忌々しげに睨む。
本来ならば先ほどの一撃で決めるつもりだったのに、『フェニックスの涙』を所持していることがばれていたのか、朱乃はギリギリのところで防御の為の魔法陣を形成してダメージを抑えた。
「でも、もう戦闘不能ね・・あの状態では動く事さえもままらな・・・・ッ!!」
突如として膨れ上がった力を感知したユーベルーナは慌てて運動場に目を向けて見ると、一誠に支えられながら立ち上がる朱乃の姿が存在していた。
「・・朱乃さん・・・三十段階の倍加です」
「ありがとうございますわ・・・・一誠君・・これなら、残っている僅かな魔力でも彼女を倒せるだけの一撃を充分に撃てますわ!!!」
ーーーゴロゴロッ!!
朱乃が宣言すると共にユーベルーナの上空に凄まじい稲光が鳴り響く雷雲が現れた。
途轍もない一撃が来るのだと察したユーベルーナは慌てて防御する為に魔力を集めるが、充分な魔力が集まる前に雷雲から特大の雷柱が降り注ぐ。
「終わりですわ!!!」
ーーーズガァァァァァァァァァーーーーーン!!!!
「わ、私は・・私は負けられ…」
全ての言葉を言い終える前にユーベルーナは雷の柱に飲み込まれた。
それと共に発生した煙をリアス達が見つめていると、グレイフィアのアナウンスの声が響く。
『ライザー・フェニックスさまの『
女王』一名、リタイヤ』
「ユ、ユーベルーナまでも・・倒すなんて」
グレイフィアのアナウンスを地面に座り込みながら聞いていたレイヴェルは、一誠の腕の中で光に包まれている朱乃を心配そうに見ているリアス、祐斗、アーシアに目を向ける。
「朱乃さん!?」
「・・や・・約束は・・果たしましたわ・・・リアス」
「何?」
「・・・・・勝って・・ね」
そうリアスに朱乃が告げると共に朱乃の姿は一誠の腕の中から消失し、再びグレイフィアのアナウンスが響く。
『リアス・グレモリー様の『
女王』一名、リタイヤ』
「・・朱乃・・・」
「・・部長、すぐにこの場所から離れましょう・・ライザーの野郎を倒すにはさっきと同じぐらいの倍加の力が必要です」
「・・大丈夫なのかい、一誠君・・君は既にかなりの倍加の力を使用している・・朱乃さんに使用したほどの倍加まで体が持つのかい?」
「何とかな・・俺の体力は人外だぜ」
「なら、すぐに姿を隠しましょう。力が集まるまでライザーから姿を隠して…」
「悪いがそれをさせる気は無いぞ、リアス」
『ッ!?』
「イッセー君、アーシアさん、部長!!」
ーーードン!!
空から聞こえて来た声に祐斗は即座に反応し、一誠、アーシア、リアスを突き飛ばした。
同時に直前まで一誠達が居た地点に凄まじいまでの業火が降り注ぎ、祐斗はその業火の中に飲み込まれた。
『リアス・グレモリー様の『
騎士』一名、リタイヤ』
「木場!!ク、クソッ!!」
運動場に鳴り響いたグレイフィアのアナウンスに一誠が空を見上げてみると、背中から炎の翼を広げているライザーの姿が在った。
レイヴェルも自身の兄であるライザーの姿を確認すると、自身が知った自分達『フェニックス』を倒す手段の事をライザーに向かって叫ぶ。
「お兄様!!リアス様達は強力な『聖水』を所持していますわ!!!」
「・・なるほど・・その『聖水』で俺の精神を消耗させて倒す策だった訳か、リアス」
「クッ!!」
最悪のタイミングで自分達の切り札を知られてしまったリアスは悔しげに唇を噛む。
レイヴェルから、ライザーに情報が伝わるのは予測済みだったが、それは一誠の『
赤龍帝の籠手』に充分な力が集まってからの筈だった。だが、予想よりも速い段階でライザーが旧校舎から戻って来てしまった。
今の『
赤龍帝の籠手』には一切倍加した力が集まっていない。つまり、一誠がリアスに力を譲渡出来たとしても一段階か、二段階が限界なのだ。更に言えば力の譲渡などライザーがさせる訳が無い。
「正直予想以上だ。『
赤龍帝の籠手』なんて代物が紛れ込んでいたとしても、リアス、お前は充分すぎるほどに健闘した。自分達にとっても、諸刃の刃になる『聖水』まで使用して来るとは・・・だが、チェックメイトだ。切り札を全て知られたお前は負けだ」
「黙りなさいライザー!私は諦めない!詰んだ?まだ『
王』である私は健在だし、イッセーとアーシアも居るわ!!!」
「そうか・・・なら、先に回復役の小娘から撃破させて貰うか」
「ヒッ!!」
右手に赤く燃える炎を発生させながら殺気の篭もった視線を向けられたアーシアは恐怖に震える。
リアスはアーシアと一誠を護るように立つが、一誠は恐怖に震えているアーシアの頭を優しく撫でると共にリアスに声を掛ける。
「・・・部長・・赦して下さい」
「イッセー?」
突然の一誠の発言にリアスは困惑した声を上げるが、一誠は構わずに左手に顕現している『
赤龍帝の籠手』を輝かせながら前へと進み、上空で炎の翼を広げながら浮かんでいるライザーに怒りが篭もった視線を向ける。
「ライザー・フェニックス・・・やっぱり、無理だったわ」
「何だ?今更敗北宣言か、小僧?」
「いや、違う・・無理だったのは、お前を全力で殴らないと気が治まらないって事だ」
《V》
一誠が言葉を告げると共にカウント音らしきモノが『
赤龍帝の籠手』から鳴り響く。
ライザーは一誠が何かをやろうとしている事に気がつくが、不敵な笑みを浮かべたまま地上に居る一誠を見下ろす。
「ほう、笑わせてくれるな。確かにお前の『
神器』、『
赤龍帝の籠手』には驚いたが、今の状況じゃ脅威ではない。溜めていた倍加の力は『雷の巫女』に使用して残っていない。今から俺を一撃で倒せるだけの力を溜める事など無理だ」
《U》
「あぁ、お前の言うとおりだ。もう通常の『
赤龍帝の籠手』の力じゃ、お前を倒せるだけの力を集めている時間は無い」
「分かってるじゃないか。正直に言えばお前の参加を許可したのは俺のミスだった。素直に認めてやる。だが、人間であるお前は空を飛べない。空に浮かぶ俺を殴るなんてお前には出来ないのさ。更に言えば倍化の時間など与える気も無い」
《T》
「・・・なら、見せてやるぜ、ライザー・フェニックス・・・・・人間の可能性ってやつをなぁ!!!!『
禁手化』ッ!!!!」
《
Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!》
『ッ!!!』
一誠が叫ぶと共に籠手の宝玉から赤い閃光が解き放たれ、運動場を赤い光が覆い尽くし、一誠の体を真紅のオーラが覆って行く。
突然発生した赤いオーラにライザー、リアス、レイヴェル、アーシアは驚愕しながら顔を手で覆い、一誠を中心に発生している赤い光を手で遮っていると、自身が発生させた赤い光を吹き飛ばすように一誠は右手を振るい、自身の姿をリアス達に晒す。
赤い光の中から姿を現した一誠の姿は先ほどまでとは全く変わり、全体的に鋭角なフォルムでドラゴンを模した赤い全身鎧を身に纏い、籠手の状態の時に在った宝玉を両手の甲、両腕、両肩、両膝、胴体中央にも出現させていた。
そしてその背中にはロケットブースターのような推進装置が備わり、ドラゴンの赤い両翼が広がっていた。その姿こそ『
赤龍帝の籠手』の『
禁手』である『
赤龍帝の鎧』。
「鎧だと!?『赤龍帝』の力を具現化させたのか!?」
「その通りだ。これが俺の全力の姿・・・『禁じられし忌々しい外法』『
赤龍帝の鎧』ッ!!」
「クッ!!だが、それだけの力!?人間であるお前が長時間持つ筈が…」
「俺が『
禁手化』していられる時間は・・・・全力戦闘さえしなければ“三日”だ」
「・・・何だと?」
「流石に今の体力じゃ、其処までは無理だが、俺の師匠も先生も使い手の俺以上に『
赤龍帝の籠手』の弱点を把握していてな。その弱点克服の為に地獄の訓練をやらされた・・・・正直あの世とこの世を何度も往復したぜ・・・ライザー・フェニックス・・・部長を、オカルト部の皆を悲しませるお前は、俺の『敵』だ!!!全力で殴り飛ばしてやる!!!」
ーーーゴオオオォォォォッ!!
一誠が叫ぶと共に鎧の背部にある噴射口から赤いオーラが噴き出す。
その凄まじい力を発揮しようとしている一誠の姿にライザーは警戒心を強め、全身から凄まじい熱量の炎が噴き上がる。
「化け物が・・・・良いだろう、ドラゴンの力を全力で使うと言うのなら、火の鳥と鳳凰! そして不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火でその身を燃やし尽くしてやる!!」
ライザーが叫ぶと共に更に炎の勢いは増し、凄まじい熱気が運動場に吹き荒れる。
一誠はその凄まじい熱気を浴びながら足を前に一歩踏み出すと共に、背後に居るリアスに小声で話しかける。
「部長・・・・・チャンスは作ります」
「イッセー!貴方!?」
「アーシアを頼みます!!!」
ーーードゴオオオオオオオオオオン!!
一誠が叫ぶと共に背部の噴射口に集まっていたオーラが爆発し、ライザーが居る上空へと一誠は舞い上がる。
「行くぞ!!!『不死鳥』!!!」
「骨も残さずに焼き尽くしてやるぞ!!『赤龍帝』ッ!!!」
互いに叫ぶ合うと、一誠は全身から赤いオーラを、ライザーは炎を吹き上げながら空中で激突を開始したのだった。