レーティングゲームの為に作られた空。
その空で赤いオーラを全身から発して『
赤龍帝の籠手』の『
禁手』である『
赤龍帝の鎧』を纏った一誠と、凄まじい熱量を放っている業火を纏ったライザーが殴り合っていた。
「オラアァァァァァァッ!!!」
ーーードゴッ!!
「グゥッ!!オォォォォッ!!」
ーーードゴッ!!
「ガッ!!」
互いに相手の顔面に向かって拳を振るい、相手の戦意を刈り取ろうと殴り合いは続く。
(グゥッ!!何て重い拳だ!?『赤龍帝』の力を使いこなしてやがる!?)
(熱いッ!!鎧を纏っていてもこの熱さか!!生身だったら倍加していても触れるだけでやばいな!!)
ライザーと一誠は互いに拳を振るいながら、目の前の相手の強さを拳がぶつかるごとに感じていた。
特に一誠は『
禁手』状態で在りながらも伝わって来る熱さに、ライザーの炎は予想以上に強力だった事を悟り、内心で苦々しい思いを持っていると、ドライグが一誠に声をかける。
(相棒!フェニックスの炎はドラゴンの鱗にさえも傷を残す!!このまま近くに居るのは不味い!!少し距離を取れ!!)
「アァッ!!」
「逃がすか!!」
ドライグの指示に反応して後方に向かって瞬時に移動した一誠を、ライザーは背中の巨大な炎の翼を羽ばたかせて一誠に追い縋る。
その動きに対して一誠は背中に在るドラゴンの両翼をライザーと同様に羽ばたかせると共に、右手を追って来ているライザーに向かって構えると同時に赤い閃光を撃ち出す。
「食らえ!!!」
ーーードグゥゥゥゥゥゥン!!
「何ッ!?」
一誠が撃ち出した赤い閃光を目撃したライザーは慌てて身を翻し、閃光に片翼を吹き飛ばされながらも避けた。
同時にライザーが避けた赤い閃光は新校舎の一箇所に直撃し、刹那の瞬間に新校舎は爆発と共に完全に消え去る。
ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
「な、何て威力だ!?」
一瞬で新校舎を完全に消し去った一誠の力に、ライザーは自身が対峙している相手の力を悟り、畏怖が篭もった視線を赤い鎧を纏ってドラゴンの両翼を雄々しく広げている一誠に向ける。
ライザーは此処に至って漸く自身がもう一つミスを犯していたことに気がついた。『
赤龍帝の籠手』だけではなかったのだ。最大のミスは“兵藤一誠”と言う人間をレーティングゲームに参加させた事だったのだと、ライザーは完全に悟った。
自身がライザーに畏怖が篭もった視線で見つめられている事を悟った一誠は、ゆっくりと両拳をライザーに向かって構えると共に背中の噴射口を噴かせてライザーに急接近する。
「オオォォォォォォーーーーーーーーーッ!!!」
「チィッ!!正面からだと!?ふざけるな!!焼き尽くしてやる!!」
ーーーゴオオォォォォォッ!!
ライザーは叫ぶと共に膨大な炎が形を持ち始め、神々しくも禍禍しく感じる巨大な炎の鳥が出現した。
自身に向かって炎で作られた嘴を獰猛そうに向けている炎の鳥の姿に、一誠とドライグは内心で苦笑する。
(おいおい、ドライグ・・“バードラモン”が現れたぞ?)
(クククッ!丁度良いじゃないか、相棒・・確かめたかった技を使う時だ!)
「応ッ!!」
ーーーギュルルルルルルッ!!!
「なっ!?」
突如として高速回転を始めた一誠の姿にライザーは驚愕の叫びを上げるが、一誠は構わずに体を更に高速回転させ、その回転速度を更に倍加させる。
《
BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostッ!!!!》
『ウェルシュトルネーード!!!!!』
ーーーゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
一誠とドライグの咆哮と共に巨大な竜巻が発生し、辺りに暴風が吹き荒れる。
それと共にライザーが発生させていた巨大な炎の鳥は暴れ狂う竜巻に吸い込まれ、炎さえも伴った竜巻へと変化した。
「馬鹿な!?お、俺の炎を利用しただと!?」
自身の発生させた炎さえも利用する一誠の技にライザーは驚愕と困惑に包まれた叫びを上げながら、目の前で荒れ狂っている巨大な竜巻を見つめる。
そのまま空中で固まっていると、竜巻の一部が吹き飛び、炎と風を纏った一誠がライザーに向かって飛び掛り、右拳をライザーの顔面に叩き込む。
「ハアァァァァァァァッ!!!」
ーーードゴォン!!
「ガハッ!!」
「今のはお前にやられた木場の分だ!!」
顔面に拳を叩き込みながら一誠はライザーに向かって叫ぶと、今度は左拳を振り上げてライザーの胴体に叩き込む。
「これが!お前に不愉快な思いをさせられたオーフィスの分!!」
ーーードゴオォッ!!
「グガッ!!」
「そして!!コイツが!俺の分だ!!」
咆哮と共に一誠は渾身の力を込めた右拳をライザーの顔面に向かって振り抜く。
だが、一誠の拳がライザーの顔面に届こうとした瞬間、炎を纏ったライザーの右腕が一誠の右拳を受け止める。
ーーーガシッ!!
「ッ!!」
「・・・・初めてだ・・・心の底から負けたくないと思ったのはな!!」
ーーードゴッ!!
「グッ!!」
鎧を纏っているにも関わらず自身に伝わって来たダメージに一誠は僅かに声を上げた。
だが、ライザーは構わずに今度は自身がと言うように炎を纏った拳を一誠に向かって連続で叩き込む。
「悔しいが認めてやるぞ!!小僧!!お前は強い!!種族の違いなど関係なく!!強い奴だと!!」
「グッ!!」
炎の熱さと共に拳から自身に伝わってくるライザーの『負けたくない』と言う意思を感じた一誠は、苦痛の声を上げながらも拳を振るい、再び殴り合いが空中で始まった。
ーーードガッ!!
「小僧!!一つ聞くが!お前は今回の婚約がどれだけ悪魔にとって重要なモノなのか分かっているのか!?」
ーーードゴッ!!
「純血な悪魔の血を保護する為だろう!!転生悪魔のおかげで種としての数は大丈夫でも、本当の意味での純血な悪魔はこれから先減って行く可能性が在る!!」
ーーードグッ!!
「分かっているじゃないか!転生悪魔達のおかげで悪魔は種としては存続出来るだろうが!純血の悪魔は別だ!!だからこそ、この婚約は重要な悪魔の未来を担う一端なんだ!!」
ーーードゴッ!!
「そうだろうな・・・・お前が本当の意味で部長を思っていたら、俺も認めてたかもしれない!だけど、お前は部長を!リアス・グレモリーとして見ていない!!グレモリーのリアスとしてしか見ていない!!だから、俺はお前を倒す!!」
《
BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!》
一誠の咆哮と共に『
赤龍帝の鎧』の各所に在る宝玉から音声が幾重にも鳴り響き、一誠の力が数段以上パワーアップした。
最大の一撃が来る事を悟ったライザーは一瞬離れるべきかと考えるが、すぐさま全身から炎を発生させ一誠を迎え撃つように構える。此処で逃げたら自身の何かが終わってしまうとライザーは漠然と感じたのだ。
故にライザーは全力で迎え撃つと言う意思を表すように一誠を見つめ、互いにぶつかり合う。
ーーードゴオオオオオオオオオオオオン!!!
「・・・・・俺の勝ちだ!『赤龍帝』ッ!!」
ギリギリのところで一誠が振り抜いた左拳を避けたライザーは、衝撃によって左半身から炎を吹き上げながらも右拳が『
赤龍帝の鎧』を貫いて一誠の胴体に突き刺さっていた。
堅牢な防御力を誇る『
赤龍帝の鎧』を撃ち破る為にライザーは自らの左半身を犠牲にして、一誠にカウンターを叩き込んだのだ。ゆっくりと自身の勝利を確信したライザーは右拳を一誠から引き抜こうとするが、その前に一誠がポツリと小声で呟く。
「・・・勝負は俺達の勝ちだ、ライザー」
《
Transfer!!!》
「なっ!?」
左腕に在る宝玉から鳴り響いた音声にライザーは驚愕の声を上げながら慌てて一誠の左拳が向いている方に目を向けて見ると、左拳の宝玉から発せられている赤い光を浴びているリアスの姿が存在していた。
「『赤龍帝』ッ!?お前は最初からコレを!?」
「悪いな・・・・・次に戦う時が在ったら・・・本気でやらせて貰う・・・後を頼みます・・部長」
倍加させた力を全て送り終えた一誠はフゥッと体の力が抜けて、地面へと真っ直ぐに落ちて行った。
その姿を背中から黒い翼を広げながら見ていたリアスは、自身の為に頑張ってくれた一誠、祐斗、アーシア、朱乃、子猫の事を思って一瞬だけ目を閉じるが、すぐに両目は見開き、凄まじい魔力を全身から発する。
その魔力を感じたライザーは左半身を再生させながら、僅かに体を震わせて目の前に浮かんでいるリアスを見つめる。
「こ、この魔力・・最上級悪魔クラス・・いや!魔王クラスに匹敵している!?」
「・・決着をつけましょう・・・・ライザーー!!!」
「・・・良いだろう、リアス・・・このレーティングゲームの勝者を決めよう!!」
リアスと同様にライザーも全身から魔力を発し、互いに空中で睨みあいを続けていると、リアスは倍加した自身の魔力を両腕に魔力弾として形成すると共にライザーに向かって放つ。
「ハァッ!!」
ーーードオォン!!
「デカいッ!!チィッ!!」
リアスが放った二つの魔力弾の予想以上の大きさに驚きながらも、ライザーは背中の炎の翼を羽ばたかせて避けた。
そのままライザーはリアスへと突撃する。リアスの攻撃方法は最終的に言えば遠距離から中距離を主とする。近接用の技も在るが、今の膨れ上がったリアスの力でソレを使用すれば自身にも降りかかる。
力の倍増とはそれほどまでに影響を及ぼすのだ。特に『
禁手化』した一誠と戦ったライザーはその脅威を充分に味わった。
「(出来ることならばリアスへの傷は最小で押さえたかったが、そうも言ってはいられない!)・・・早々に終わらせて貰うぞ!!リアス!!」
ライザーはその言葉と共にリアスの懐に飛び込み、炎を纏った左拳を構える。
そのままリアスに拳を叩き込もうとするが、リアスはライザーの行動に驚かずに制服の右ポケットに手を入れて二つの小瓶を瞬時に取り出す。
リアスが取り出した小瓶を目にした瞬間、ライザーは自身の失策を悟った。『赤龍帝』と言う恐ろしい脅威を目にした為にライザーは忘れていたが、もう一つこのレーティングゲームにはフェニックスにとっての脅威が残っていた。『
赤龍帝からの贈り物』によって強化された『聖水』と言う脅威が。
その脅威をリアスは右手に握り締めながら接近して来たライザーに向かって叩き込む。
「食らいなさい!!ライザーーー!!!」
ーーージュワァァァァァァァァァッ!!!
「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「グゥッ!!」
水が蒸発するような音と共にライザーの炎の翼はグニャリと音を立てるように翼が捩じれ、ライザーは『聖水』の効果に体を焼かれながら空中で暴れる。
『聖水』を叩きつけたリアスも右手を『聖水』の効果に焼かれて煙が上がり激痛を感じるが、その激痛に構わずに左手に『滅び』の力を込めた魔力を集約させ、同時に一誠から受け取った力も全て込めるように赤いオーラが集まって行く。
「ライザー・・貴方の敗北よ・・レイヴェルに告げられながらも、貴方は別の脅威に捕らわれてしまった」
「ガアァァァッ・・・(そ、そうか・・・『赤龍帝』が『
禁手化』した本当の狙いは・・・・瞬時に力を倍増させる為と・・『聖水』の脅威から俺の目を逸らす為だったのか!?)」
全身を走る激痛に苦しみながらも、ライザーは一誠が『
禁手化』した本当の狙いを悟った。
子猫によって強化された『聖水』を浴びたレイヴェルと違って、ライザーはその身に『聖水』を食らっていない為にその脅威が図りきれて居なかった。レイヴェルが『フェニックスの涙』によって負傷を全て癒していたことも大きい。
故に脅威とは知っていても実際に受けていなかったライザーは別の脅威として現れた『赤龍帝』の方に意識が向いてしまった為に、『聖水』の存在を忘れてしまっていたのだ。
その事を理解したライザーはもはや自身が勝利する機会を完全に失ってしまった事を理解し、リアスに無念ながらも満足げな視線を向ける。
「・・・・あぁ・・お前の勝ちだ、リアス・・・・だが、決して忘れるな・・今回のレーティングゲームでお前が勝てたのは・・あの小僧・・いや、兵藤一誠が居たからだと言うことをな」
「えぇ・・・イッセーが居なかったら私は敗北していたわ」
「・・それが分かっているなら良いさ」
「・・終わりよ!!ライザーーーー!!!」
ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
リアスが叫ぶと共に左手の先から凄まじい魔力砲が放たれ、ライザーはその中に消え去った。
『ライザー・フェニックス様のリタイヤを確認。リアス・グレモリーさまの勝利です』
レーティングゲームの為に作られた空間内部に、グレイフィアのリアスが勝利者だと告げるアナウンスが鳴り響いた。
それを確認したリアスは焼け焦げた右手を左手で押さえながら地上に着地し、涙目になっているアーシアの治療を受けている『
赤龍帝の鎧』を解除した一誠に近寄る。
「・・イッセー・・怪我は大丈夫なの?」
「・・は、はい!アーシアのおかげで傷の方は大丈夫です・・ありがとな、アーシア」
「い、いえ!わ、私・・これぐらいしか出来ませんでしたから」
「いやいや、アーシアが居なかったら俺は『
禁手化』も出来なかったから、本当に助かったよ」
一誠はそうアーシアに告げながらリアスの焼け焦げた右手に目を向け、心配そうにしながらアーシアに声をかける。
「アーシア、俺はもう大丈夫だから、部長の方を頼…」
「いいえ、アーシア・・先に一誠を完治させて上げて・・私はその後でも構わないから」
「部長!!待って下さいよ!!アーシアと自分が持っていた聖水を同時に浴びたんですよ!早く治療しないと不味いですって!!」
「今回の最大の功労者を疎かにする方がずっと不味いわよ・・それともう一つ、言っておきたいことが在るの、イッセー」
「な、何ですか?」
ゆっくりと顔を近づけて来るリアスに一誠は困惑しながらリアスの顔を見つめていると、一誠とリアスの唇が触れ合う。
「ッ!!」
「・・んっ」
(え、何?何?俺・・部長にキスされてる?・・マジで?)
自身の唇とリアスの唇が触れ合っている事実に一誠は混乱しながら辺りを見回すと、呆然と自分達を見つめているアーシアとレイヴェルの姿を確認し、今起きていることが現実なのだと悟った。
そのまま一誠とリアスの唇はキスを続け、一分ほど経つとリアスの唇が離れ、恥ずかしさが在りながらも嬉しそうに笑いながらリアスは一誠に宣言する。
「イッセー・・絶対に貴方を私のモノにしてみせるわ」
そう告げるリアスの顔にはオカルト部で見せていた以上の笑顔が広がっていて、一誠はその笑顔に見ほれてリアスを見つめるのだった。
別の空間に設置されていたレーティングゲームの観戦席。
その場所でレーティングゲームを観戦していたリアスの父とライザーの父は互いに顔を見合わせながら、今回の縁談の結果について話し合っていた。
「フェニックス卿・・今回の縁談、このような形で終わってしまい大変申し訳なくありますが」
「言う必要はありませんよ、グレモリー卿・・今回の縁談が破談になってしまったのは残念な部分が在りますが、それ以上に収穫もありました。息子は敗北したにしても成長することが出来ましたし、娘もフェニックスが絶対では無いと知ることが出来た。今回の婚約は破談になったにしても二人にとって収穫となるモノが大きかった・・・確か兵藤一誠君でしたかな、貴方の娘の眷属候補になっている人間は?」
「えぇ・・最も今の娘の実力では悪魔に転生させるのは難しく、眷属候補と言うだけなのですが」
「私としては是非とも彼には悪魔に転生して貰いたいと思っている。転生するかどうかはともかく、彼が居ると冥界は退屈しそうにないですからな」
「その点は同感ですな」
フェニックス卿とグレモリー卿はそう楽しげに会話し、婦人の方も楽しそうに会話をしていた。
そして上段に座っていたオーフィスは僅かに不機嫌そうに目を細めていた。映像の中でリアスが一誠とキスをしている場面が映し出されていたのだ。その光景を見た瞬間、オーフィスの中で自身にも訳が分からない苛立ちが湧き上がり、今は腕の中に居るベルフェモンを強く抱き締めながらモニターを不機嫌そうに見つめていた。
その横に座っているサーゼクスは頭を下げているサイラオーグと楽しげに会話をしていた。
「良い試合でした・・俺が此処に来た目的も果たせましたよ・・今回の観戦のご許可ありがとうございました」
「私も此処まで良い試合が見られるとは思って無かったよ。一誠君の実力は確実に上がってるようだね、ブラック」
「フン・・・・・確かに中々に楽しめたが・・まだまだだ。気を緩めすぎて予想よりも深い負傷を負った点と言い、もしもライザー・フェニックスと言う小僧に過信が無ければ結果は変わっていた可能性が在る」
サーゼクスの質問に答えるように壁に背を預けながらレーティングゲームを見ていたブラックは、手厳しい意見を告げた。
「だが、本気を出せない状況では中々の動きだった。その点は評価出来るな」
「フフッ、相変わらずだな、ブラック・・しかし、リアスは本気で一誠君を自分の眷属に加えたいと思ったようだが」
「奴が同意するなら、俺は構わん。寧ろ悪魔に転生すれば体が頑丈になるから、今までよりも訓練が出来るようになるから構わんさ・・最も無理やりさせるつもりだったら、俺も黙っていないぞ、サーゼクス」
「その点は分かっているから、安心してくれ、ブラック」
僅かに殺気を放っているブラックに対してサーゼクスは涼しげな笑みを浮かべながら答えた。
それと共にサイラオーグは観戦席から出る為に魔法陣が在る方へと歩き出し、サーゼクスはその背に質問する。
「リアスや一誠君には会っていかないのかい?」
「・・充分に俺が知りたかったことは分かりました。何れは合間見える日が来る事を願っていますが、今はこの高ぶる気持ちを抑えようと思います」
(そうか・・・この男がバンチョーレオモンが言っていた男か・・・・面白そうな相手だ)
戦意が溢れているような声音で告げられたサイラオーグの言葉に、ブラックは心の底から楽しげに口元を歪めた。
抑えていても満ち溢れているサイラオーグの闘気をブラックの鋭敏な感覚が捉えたのだ。出来ることならばこの場で戦ってみたいとブラックは思うが、今はその時ではないと自身の高揚感を抑える。
(バンチョーレオモンの奴がこの場にコイツを送ったと考えれば、奴もまた伸び悩んでいる可能性が高い・・・・楽しみは後にとっておくとするか)
ブラックはそう判断すると転移して行くサイラオーグから目を逸らし、不機嫌そうにしているオーフィスに声を掛ける。
「オーフィス・・そろそろ行くぞ」
「・・・分かった」
「あぁ、待ってくれ、ブラック」
「ん?」
自身を呼び止めたサーゼクスに疑問を覚えてブラックは振り向くと、サーゼクスはグレイフィアから届いた報告に困ったような顔をしながら話し出す。
「今、グレイフィアから報告が入ったのだが、どうもリアスの眷属である塔城小猫君の治療が芳しくなくてね。どうも『赤龍帝』の力で強化した状態で、同じように『赤龍帝』の力で強化した『聖水』を浴びた事が影響しているのか、このままでは傷が痕として残ってしまう可能性が在るらしい。同じようにリアスも傷が痕として残ってしまうかもしれん」
「だからなんだ?」
「・・・『赤龍帝』の力に関して解析したフリートなら、痕を残さずに治癒出来るだろう?」
「・・なるほどな・・・フリートならお前の依頼を受けた後『使い魔の森』に行ってから音信不通だ。リンディとしても呼び戻したくない事情が在るらしいから、連絡は行なえん。治療させたいのなら、自分達で向かわせるんだな」
「分かった、リアスにそう伝えよう」
ブラックの言葉にサーゼクスは頷くと、今度こそ用は終わったと思ったブラックは、オーフィスとベルフェモンと共に観戦席から転移して行った。
サーゼクスはそれを確認すると、ゆっくりと腰を深く椅子に落としてリアス達がフリートと邂逅した時どうなるのか僅かな楽しさと不安を感じるのだった。