ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

白き剣姫の聖杯戦争 第二話 〜魔術師達の日常・中編〜
作者:たまも   2012/09/20(木) 00:37公開   ID:79GucnjyPpk
早朝の穂群原学園の一角に、異様な熱気を持った人だかりが出来ていた。
ちらほらと登校する生徒が増え、朝練をしている部活は終盤を迎える時間。決まって、この時間と放課後に人だかりが出来る。
その一団を見て、またか、と嘆息する者。何だろう、と見に行く者など反応は様々だった。

そして今日も、また一人。
何事かと、人だかりへと向かう、赤いコートを羽織った女子生徒の姿があった。

女子生徒の向かう先にあったのは弓道場。
その入り口に、大勢の生徒が押し寄せていた。心なしか、女子の比率が高い。
彼らは大声で騒ぐようなことはせず、小声でやりとりをしていた。
前にいる生徒達は、一定時間が経つと脇にずれ、後ろにいる生徒と交代している。このローテーションがあればこそ、彼らは騒がず公平に目的を達せられる。
彼らがここまでの統制を獲得するには、弓道部顧問や主将との闘いがあったわけだが、それはまた別の話。

そんなこととは露知らず、女子生徒、遠坂凛は困り果てていた。

遠坂凛。穂群原学園二年A組、文武両道の優等生。
漆黒の髪をツーサイドアップにし、整った顔立ちと均整の取れた肉体をもつ、文句なしの美少女。
志保と並び、穂群原学園のアイドルと称される凛だが、実は裏の顔がある。
そう、凛は魔術師なのだ。
それも魔術の名門遠坂家の当主であり、|冬木市の管理人(セカンドオーナー)という肩書きを持つ言わばエリート魔術師だ。無論、普段は一般生徒として魔術師の顔を隠し普通に過ごしている。
そんな凛だったが、目の前の光景に、どうしたものかと頭を悩ませていた。

この一団が、どうやらローテーションを組んでいることは分かった。
だが果たして、興味本位の自分がそこに加わっていいものか。また、この異様な熱気に包まれた一団の中に自分が紛れ込むというのも、常に優雅たれ、を家訓にしている凛にとっては躊躇われるのだった。

しかし、そこに救いの手が差し伸べられる。
それは、凛にも聞き覚えのある声だった。

「おや、遠坂じゃないか。どうしたんだ、こんな時間に?」

凛はその声を聞くと、表情にこそ出しはしなかったが、内心舌打ちをした。
面倒な奴に見つかった。
その人物、弓道部主将、美綴綾子はクツクツと意地の悪い笑みを浮かべていた。

凛と綾子は友人である。友人であるからこそ、綾子は凛の優等生ではない、"素の遠坂凛"を知る数少ない人間だった。
いつもの調子で話して、ボロを出すわけにはいかない。
凛はなるべく笑顔を装って、綾子へ視線を向けた。

「おはようございます、美綴さん」

綾子は、肩まで伸びた茶髪を揺らしながら、入り口までやってきた。
すると、凛と綾子の間を空けるように、集まっていた生徒達が左右へ割れた。
まるで、旧約聖書の一場面を彷彿とさせる光景だった。

「ああ、おはよう。で、お前さんがこんな時間に来てるなんて珍しいじゃないか。何かあったのか?」

「いえ。たまたま、いつもより早く起きたので、早めに登校しただけですが」

気軽な口調の綾子に対して、丁寧な口調で返す凛。
これは、半分は本当だった。
今朝は夢見が悪く、通常よりもかなり早めの時間に起きてしまった。もう一度寝るにしても微妙な時間であり、目も冴えていた。いつも通りの時間に家を出ても良かったのだが、夢のせいか、あまり家にいたくなかったのだ。

綾子は、そういうことじゃないんだが、と苦笑する。
どうもこの友人は、弱みを他人に見せたがらない。こんなに人が大勢いる所で言う事ではないのだろうが、凛の態度からは、頑なに他者を拒絶する意思が感じられる。
決して、他者そのものを拒絶しているわけではない。ある一線より内側を見せないようにしているのだ。
何故なのかは分からない。だが、それが遠坂凛を遠坂凛たらしめている"何か"であると綾子は感じていた。
出来ることなら教えて欲しいが、それで友人付き合いまで変わるわけではないだろう、と割り切れる辺り、綾子も大物である。

「ま、いいや。そんな所に立ってないで中に入れよ。どうせ、見に来たんだろ?・・・・・・と、そうだ。遠坂を中に入れてもいいか?」

「え?いや、あのっ」

綾子の言葉に戸惑う凛を余所に、問いかけられた生徒達は、首をブンブンと縦に振って応えた。
それを確認し、満足げに凛を見やる綾子。
自分を見つめる無数の視線の前に、凛も仕方ないとばかりに音を上げた。
凛は、ごめんなさい、失礼しますね、と言い弓道場へと足を踏み入れた。



−遠坂凛IN−

私が弓道場に入ると、それまで感じていた無数の視線は次第に減っていき、やがて完全になくなった。恐らく、元々見ていた対象に視線を戻したのだろう。
それを確認してから、横でにやにやと笑みを浮かべている綾子を横目で見やり、他の生徒達には聞こえないように小声で言った。

「・・・どういうつもりですか?」

「何のことだ?」

綾子は、前を向いたまま恍けるような口調で言った。
まったく、この女はそれで誤魔化せると思っているのだろうか。どう考えても私に対しての嫌がらせ、楽しんでいるとしか思えない。悪意からの行いではなく、たとえ軽い悪戯心だったとしても、こちらにとっては傍迷惑だ。
そりゃ、あのまま晒し者になるよりはマシだけど、そもそもの原因を作ったのは綾子だ。綾子が話しかけたりしなければ、他の生徒達に気付かれることもなかっただろう。
とはいえ、それをここで追求しようと綾子は何も言うまい。文句は、後でたっぷりと聞かせてやるとしよう。

「まあ、今は、いいです。それより・・・・・・」

私はもう一度、彼等、弓道場の入り口に屯している生徒達へと目を向ける。
よくもまあ、飽きもせずこうやって集まってくるものだ。先ほどの綾子の言葉や、ローテーション等を見ても分かる通り、これが初めてではないのだろう。下手をすれば、毎日集まっているのかもしれない。

「いつも、こうなのですか?」

「ん?ああ、そうだな。何時からだったかは忘れたけど、決まってアイツが部活に出る日に群がってくる・・・・・・いや、今はアイツ等、か」

「アイツ等?」

ようは、彼等が集まってくるのは、目当ての、目的の人間がいるから、ということか。
まるでアイドルだ。
まあ、それくらいしか理由が思いつかないのも事実だが。
案外、ファンクラブとかがあるかもしれない。

「そう。あの二人だよ。みんな、あの二人が目当てで来てるんだ」

綾子は、少し呆れた様に、悔しそうに、でもどこか誇らしそうな声で呟いた。
私は、綾子の視線の先を追う。
それほどの人物というなら、私も興味があった。熱狂的なファンを持つ人間とは、いったいどんな人なのだろう、と。
だから私は、何の躊躇もせず件の人物を視界に収め



声を、失った。



「一年のエース、間桐。それと副部長の衛宮・・・は知ってるか。最初は衛宮目当てだったんだが、間桐の奴が段々と頭角を現し始めて・・・」

綾子が何か言っているが、まったく頭に入ってこない。言葉を処理仕切れない。

不意打ちだった。

さくら、サクラ、桜・・・・・・私の・・・私、の・・・・・・

「どうした、遠坂?」

「っ!・・・い、いえ。何でもないです。何でも、ないですから」

綾子は、不審げに私を見つめていたが、それ以上追求してこなかった。
危なかった。どうにか綾子の声に反応できたから良かったが、そうでなければ余計に不審がられていただろう。
変に私と桜の関係を勘繰られるわけにはいかない。
綾子は、いや、誰も私と桜の関係を知らない。知られてはいけない。

あの子が、桜が、私の妹だということ。間桐桜が、十数年前まで遠坂桜だったということは、隠し通さなければならない。あの子のためにも。

「・・・・・・そう、か。ま、せっかくだから、お前もアイツ等の射を見てみろよ。一見の価値はあるぞ」

綾子に言われ、自然と桜に焦点を合わせる私がいた。それまで呆然と視界に収めていた桜を、真直ぐ中央に見据える。

その瞬間、胸が軋んだ。

普段であれば、ここまで動揺することはない。
原因は分かっている。今朝の夢だ。
忘れたことはない。
桜が、間桐の家に引き取られた日のことは。
私と桜が、離れ離れになった、他人になった、あの忌まわしい日の記憶は、脳裏にこびり付いて離れなかった。幼い頃は、何度も夢に見た。
最後に見た遠坂桜の姿は、今でも鮮明に思い出せる。

久々に、何年ぶりかに見たあの夢が、私に桜という存在を異常に意識させてしまっていた。

これは私の失策だ。桜が弓道部に所属していることは知っていたのに。頭の隅には、幼い桜の姿がチラついていたのに、それを失念するなんて。
遠坂の"うっかり"も、何もこんな形で作用しなくてもいいではないか。

お陰で、今すぐにでもここから逃げ出したい衝動に駆られる。
でもそれは許されない。
この私が、遠坂凛が間桐桜の前から逃げ出すなんて、あってはならないのだ。
そんな、雑念と情念が入り混じり濁った私の心を



一本の矢が打ち祓った。



その矢を放ったのは、他ならぬ、桜だった。

その姿に、私の目は釘付けになった。
余計な雑念が取り払われ、心なし桜の姿が先刻よりも鮮明に見える。
最早、動揺はなかった。穏やかな心で、桜を見ることが出来る。

ああ、こんなにも桜は立派になったんだ。
私は、改めてそう感じた。

意外と弓道着姿も様になっているな、と俗的なことを考えている私を余所に、桜は弓に矢を番えた。
私は桜の射どころか、あまりまともに射というものを見たことがない。
前に綾子から、射法八節やら何やらを聞いたような気がするが、当の昔に忘れてしまった。
それ故に、その射が弓道という武道において、どれほどのものなのか分からない。

桜は凛々しい表情で的を見据え、ゆっくりと弦を引き絞る。
すると、途端に弓道場がしんと静まり返り、心地よい緊張が場を満たす。
そして、場の緊張が頂点にまで上り詰めたその刹那、矢が手から離れる。

トンッ

的中。それも的のど真ん中。
私はそれを確認すると、ほう、と息を吐いた。どうやら、無意識に息を止めていたらしい。
周りを見ると、その反応は私と同じようで、各所から溜息が漏れる。その溜息が、全てを物語っていた。
なるほど、これなら彼らが通い詰めるのも頷ける。
弓道の心得の無い私でさえ、素晴らしいと思うのだから。

「凄いだろ?」

「え、ええ」

いきなり綾子に話しかけられて、少しうろたえてしまった。
それを、あざとくも見ていたのか、綾子はニヤリと口端を上げた。
恥ずかしいやら腹立たしいやらで綾子を睨むが、綾子は気にした風でもなく不適に笑った。

「でも、次はもっと凄い。いや、普通じゃない」

「え?」

綾子の言葉の意味は測りかねるが、私は視線を射場へと戻した。

そこにいたのは、桜よりも小柄な私の友人。白髪と紅い瞳が特徴的な美少女。衛宮志保だった。
志保とは綾子経由で知り合ったのだが、それ以前に彼女のことは噂で知っていた。
曰く、人形のように可愛らしい女子がいる、と。
私はあまり興味が沸かず無視していたのだが、実際に会ってみると噂が真実であったのだと思い知らされた。
その時に、あまりの可愛らしさに声を失い、それを志保に心配され、綾子に笑われたのは苦い思い出だ。
そういったこともあり、志保は綾子と同じく"素の遠坂凛"を知るもう一人の友人だ。
志保の射が凄いというのは、何度も聞いたことがある。最も、私が見てみたい、と言っても志保が恥ずかしいのか何なのか、大したものじゃないからと謙遜して頑なに断り、今まで見る機会が無かった。
そういえば、先刻桜と志保がどうとか綾子が言っていたが、そういうことか。あの時は混乱していてよく聞き取れなかったが、これはいい機会だ。

「へぇ。お手並み拝見といこうじゃない」

「地が出てるぞ、遠坂」

「いいのよ。どうせ、誰も私のことなんか見てやしないわ」

そう。今や、弓道場中の視線が志保に集まっているといっても過言ではなかった。いいや、最初からそうだったのかもしれない。ただ、私が気付かなかっただけで。
何れにせよ、私に注意を払っている者など、綾子の他にはいないだろう。

そんな暢気なことを考えていると、突然

「っ!」

空気が、変わった。

志保は、射場に立ち真直ぐに的を見据えていた。
たった、それだけ。
それだけで、全員が志保に呑まれていた。まるで、異界に迷い込んでしまったかのようだ。それでいて、一切不快感がないのは、気配が清浄に満たされているからか。

怖いくらいの静寂が弓道場を包み込む。
全てが静止した世界で、志保だけが動くことを許されていた。
自然な動作で、弓に矢を番える。
視線が的を捉え、ゆっくりと弦を引き絞る。
弦から手が離れると、矢は微かな風切音と共に飛んでいく。
矢は、吸い込まれるように的の中心に中っていた。

志保は、同じような動作で二本目の矢を番え・・・・・・
気付くと、いつの間にか二本の矢が的の中心に、当然のように刺さっていた。

志保が構えを解き、目を閉じて息を吐くと、止まっていた世界が動き出した。

「っはぁ、はぁ・・・・・・」

私は、慌てたように肺に空気を送り込んだ。長い間、呼吸をしなかったせいで、少し苦しかった。
綾子が、普通じゃない、と評したのも納得だ。アレは、桁が違う。
何と言葉で表せばいいのか分からないが、私は圧倒されっぱなしだった。今思うと、まるで最初から矢が中ることが決まっていたかのようにさえ感じた。

志保の射には、魔術師が魔術回路をもって生成する魔力とは違うが、人を惹き付ける"魔"的という意味での魔力があるのかもしれない。
先刻の桜にも人を惹き付ける力はあったが、志保のそれには遠く及ばない。
まったく、何てデタラメ。

「何よ、アレ・・・」

思わず口から出た言葉に、綾子が反応する。

「遠坂もそう思うだろ。アレが衛宮志保だよ。私じゃ、あの境地には辿り着けそうもない」

「あら、綾子にしては弱気な発言ね?」

私は、今までのお返しとばかりに皮肉な笑みを浮かべた。
それに対して、綾子は苦虫を噛み潰したような表情で言った。

「・・・何とでも言え。頭では負けないって意地張ってても、心の何処かで負けを認めてしまっているんだ。間桐も、衛宮の域に近づきつつあるが、全然程遠い」

確かにそうだ。
仮に桜の射が完璧だったとして、志保の射はどうなのか。完成系、究極、至高、どれもしっくりこない。極端な話、二人の射は同じ武道なのかどうかさえ疑わしいほどにかけ離れている。それほどの差だ。

「ま、いつか吠え面かかせてやるさ。たとえ、万が一でも何でも可能性が無いわけじゃない。一回だけだろうが、勝ちは勝ちだ」

そう言って、綾子はとても晴れやかな笑みを浮かべた。決して、諦めている者の顔じゃない。
うん。やはり、美綴綾子はそうでなければ。

「・・・って、人がせっかく意気込んでるのにアイツ等は、何いちゃいちゃしてんだか」

呆れたような声音の綾子の視線の先には、桜と志保の二人の姿。

いちゃいちゃしているのかは知らないが、志保の隣には満面の笑みの桜がいた。
桜は楽しそうに笑っている。志保に、楽しそうに、嬉しそうに笑いかけている。
それを見ると、ほんの少し、胸がチクリと痛んだ。

あの笑みが私に向けられることはない。
勿論、同じ学校に通っているのだから、いくら気を遣っていても鉢合わせすることはあり、笑みを見せてくれることもある。だが、その笑みは今の桜のそれとは違うのだ。
どこか余所余所しいような、気まずい笑み。
それが当然であることは、重々承知している。仲が良いことも知っていた。それでも、偽り無い笑みを向けられる志保が、羨ましいと感じてしまう。
これが、嫉妬なのだろうか。

志保のことは嫌いではない。むしろ友人として好いている。
だから、余計に自分に嫌気が差した。

「・・・・・・・・・・・・ふぅ」

心を切り替える。
感傷に浸る時間は終わり。女々しく弱い心を胸の奥に押し込める。
過去の自分に背を向ける。桜を想う遠坂凛に背を向ける。
常に優雅たれ。
また、優等生の遠坂凛に戻るとしよう。桜にとっての、遠坂先輩に。
それが、私なりのけじめだ。

「さて、そろそろいい時間だな・・・」

時計を見て呟くと、綾子は私から離れていった。

恐らく、朝練を終わらせるのだろう。
となると、いつまでも留まっているのはよくない。
色々揺り動かされた後では、余計に顔を合わせ辛い。加えて、綾子にからかわれる姿が目に浮かぶ。
指示を飛ばす綾子を見ると、こちらを気にしてる様子も無い。
ならば、この機を逃す手は無い。
私は、後ろ髪を引かれつつ、こっそりと弓道場を後にした。

−遠坂凛OUT−



凛が弓道場から逃げ出して数分後。
綾子は、思い出したように先刻まで凛がいた場所を見るが、そこに凛の姿はなかった。

(アイツ、何も言わずに行きやがったな・・・・・・まぁ、何も言わなかった私のミスか)

待っててくれ、等のように、勝手に帰るなと釘を刺しておけば良かったのだが、時既に遅し。
からかってやるつもりだったのに、と無念そうに頭を抱える綾子の下に、志保と桜が駆け寄ってきた。

「どうした美綴。具合でも悪いのか?」

志保は心配そうな表情を浮かべ、綾子はそれに苦笑で返した。

「いや、獲物を逃がした」

「獲物、ですか?」

綾子の言葉に疑問を浮かべる桜。

「ああ。先刻まで遠坂がいたんだが、逃げられた」

「遠坂先輩が来てたんですか?」

桜は素直に驚き、目を丸くする。
凛に対する想いは複雑なれど、毛嫌いしてるわけではない。
ただ純粋に、自分のいる弓道場へ足を運んだことに驚いていた。
今まで互いに素っ気無い態度を取っていたのに、何かあったのだろうか、と。

その隣の志保は、あの遠坂が?と、綾子と同じくこの時間に凛が登校していることに疑問を感じていた。
流石は遠坂凛の友人である。

「お前等のファンの後ろに立っていたから、無理矢理中に入れたんだ。ったく、もっとからかってやるつもりだったのに」

「美綴・・・・・・」

私、呆れてます、という表情を一切隠さずに綾子に向ける志保。
綾子は拗ねたように口を尖らせる。が、何かを思いついたのか、次の瞬間には口は弧を描いていた。

「いいじゃないか、アイツをからかういい機会だったんだ・・・・・・・・・そういや、遠坂の奴、お前に見惚れていたぞ」

と言い、志保を指差す綾子。
当の志保は、憮然とした表情を浮かべて言った。

「そんなわけないだろう。遠坂は美人なんだから、私なんかに見惚れるわけがない」

そんな、明らかに的外れな志保の発言に、弓道場全体の空気が止まった。
次に聞こえてきたのは、志保以外の全員分の溜息だった。

その反応に、志保もうろたえるしかない。

「え?な、な、何?」

「先輩は、もう少しご自分という存在を自覚なさった方が良いと思います」

皆の思いを代弁して語った桜に、志保以外の全員が、うんうん、と力強く頷いた。

「な、なんでさ?」

困惑顔で口癖を呟く志保。
その姿に、弓道場に笑いが広がっていった。
何か釈然としない志保だったが、口元には自然と笑みが浮かんでいた。

これは、何気ない日常風景。
しかし、遠坂凛の来訪は、日常が終わりを告げる兆しなのかもしれない。
戦いの足音は、すぐそこまで迫っていた。














NGシーン

「そんなわけないだろう。遠坂は美人なんだから、私なんかに見惚れるわけがない」

そんな、明らかに的外れな志保の発言に、弓道場全体の空気が止まった。
次に聞こえてきたのは、志保以外の全員分の溜息だった。

その反応に、志保もうろたえるしかない。

「え?な、な、何?」

「先輩は、もう少しご自分という存在を自覚なさった方が良いと思います」

皆の思いを代弁して語った桜に、志保以外の全員が、うんうん、と力強く頷いた。

「そうだぞ。お前は可愛い、美人だし、肌は白いし、何より・・・・・・」

「な、何を」

綾子は志保の背後へと回りこみ、キラーン、という効果音がつきそうなほどに瞳を光らせる。

「こんなに胸がでかいんだからな。チビで巨乳で美乳って何なんだお前は?」

「ちょ、美綴、やめてっ!、いや、あぅん!?・・・助けて、さく、らぁ」

綾子に胸を揉みしだかれている志保は、息絶え絶えに桜に助けを求める。
だが、助けを請う相手を間違えていた。

「ずるいです美綴先輩!私にもやらせて下さい!!」

「ええっ!?」

「胸はやらん。尻でも揉んどけ」

「むぅ、仕方ありません。では、失礼して・・・」

「だ、誰か助けてぇ〜・・・・・・・遠坂ぁぁぁあああ、カムバァァァァァァァック!!!!!」

その痴態は、見るに見かねて他の女子生徒が止めに入るまで続くのだった。
その間、男子生徒全員が前屈みになっていたのはいうまでもない。

おわり

■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。
テキストサイズ:16k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.