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白き剣姫の聖杯戦争 第二話 〜魔術師達の日常・後編〜
作者:たまも   2012/09/20(木) 00:43公開   ID:79GucnjyPpk
朝練を終え、制服に着替えた志保は、真直ぐ自分の教室へと向かっていた。
その歩みは、思いのほかゆったりしている。その理由とは

「おはよう、衛宮さん」

「おはよう、衛宮!」

「エミヤン、おっはよう!!」

「衛宮さん、おはようございます」

という擦れ違うほとんどの生徒達からの挨拶だ。
志保は、その一つ一つに、おはよう、と返しながら廊下を進む。
普通に歩いていては、相手に満足に返事をすることが出来ない。そのため、自然とゆったりとした速度で歩くことが習慣となっていた。

声をかけてくる生徒は、ほとんどが女子。それも志保と同じ二年生以上の生徒が主だった。一年生や男子だと、気恥ずかしくて声をかけることが出来ないらしい。
その光景は、どこぞの女学院の"お姉さま"の登校風景を彷彿とさせた。惜しむらくは、志保が若干男性口調なところか。
驚いたことに、これが志保が入学してからの穂群原学園の朝の日常風景なのである。
志保も、最初は戸惑っていたし、当然疑問もあった。何故自分が、と。
暫くして出した結論は、自分の容姿が普通と少し変わっているから意識しているのだろう、という勘違いも甚だしいものだった。ここまでくると、鈍感では言い表せないものがある。
ともあれ。
志保は、これを日常の一部として受け入れていた。





ほどなくして、志保は二年C組の教室に到着した。

「志保さん。おはよう!」

「おはよう・・・・・・毎朝言うのもなんだけど、さん付けしなくてもいいんだぞ?」

という、毎度お約束の台詞を言う志保。
相手の女子生徒は、志保の苦笑を見て嬉しそうな笑みを浮かべた。
このやり取りは、毎朝恒例このクラスの名物である。

いつから始まったのかは定かではないが、志保が毎度苦笑しながら同じことをいうので、それを面白がったクラスの女子生徒が、入れ替わり立ち代り志保をさん付けで呼んだことが始まりらしい。
クラスの女子生徒曰く、なんかクセになる、志保さん(一部生徒は志保様)の苦笑可愛い、とのこと。

無論、この微笑ましい習慣の裏にも、そこに到る経緯というものがある。つまりは、彼女達がこれほどまでに志保に親しみを覚える切欠になった出来事。

それは、入学してから暫く時が経った頃。志保は、目に見えて気落ちしている時期があった。
クラスの皆が優しくしてくれるのだが、彼等の様子はどこか余所余所しいもので、深く踏み込んでくることもなく、友達らしい友達も出来なかったのである。
実際は、彼等も何かが普通とは"違う"と感じさせられる志保に対して、どう接したものかと攻めあぐねいていただけで、それを志保は持ち前の鈍感さで避けれているものと思い込んでいた、という訳だ。
だがある時、志保がそのことをクラスの女子との会話中にうっかり零し、クラスの女子生徒全員に誤解だと必死な形相で詰め寄られたことで、悩んでいた期間の割りに至極あっさりと問題が解決したのである。
この時志保は、良かった、と潤んだ瞳で嬉しそうに微笑んだという。
その笑顔はまるで、聖女のようだったと、ある生徒が語っている。何でも、その笑顔で鼻血を噴出して倒れた生徒が数人いたとかいないとか。
このエピソードが、志保の人気に繋がっていることはいうまでもない。
ちなみに、志保を名前で呼ぶのは一部の例外を除き、このクラスの女子生徒のみだったりする。
クラスの大半は、志保のことをマスコットのように思い親しげにしているのだが、問題はそれ以上の感情を抱く"女子"がいるらしいということ。今はまだ表立った行動はしていないが、それが桜の耳に入った日はどうなることか。
志保の日常は順風満帆のように見えて、割と地雷がそこかしこに転がっているらしい。

それはさておき。

志保は、他のクラスメイトとも軽く挨拶を交わし、自分の席に着いた。
そして自然に、志保の席の周りに数名の女子生徒が集まる。他愛ない女子同士の会話。いつもなら楽しそうに会話に興じる志保だが、今日は違った。

「ねえ、志保さんは知ってる?あの噂!」

「噂って?」

志保は首を傾げる。噂話など、興味も無いから例え聞いていたとしても聞き流して覚えていない。
詳しく聞いてみると、それは可笑しな都市伝説のようなものらしい。
例えば、気持ちの悪い得体の知れない怪物、空を翔ける牛車、何所からとも無く聞こえる高笑い、道路を疾走するモンスターバイク、天才的な殺人鬼、長い得物を携えた美青年、等々。
内容は、怪談の様なものから、荒唐無稽な冒険譚じみたものまであり、如何にも作り話という印象を受けた。
そういった都市伝説が、最近流行っているとのことだった。

志保は話を聞きながら、何かその都市伝説に引っかかるものがあると感じていた。妙な違和感といってもいい。
何かとても、嫌な感じだ。
大体、怪談や都市伝説ならば季節が違う。今は、夏ではなく冬なのだ。
誰かが意図的に流した噂というならばいい。真意は分からずとも犯人はいる。
けれどもし、犯人がいないのだとしたら。噂の元になったナニカが、本当にいるのだとしたら。
下手をしたら、聖杯戦争どころではなくなる。噂通りなら、どれも人智を超えた化け物だ。

「あれ?志保さんどうかしたの?こういうの駄目だっけ?」

「い、いや。大丈夫何でもない」

「そう?」

栗毛の女子生徒は、心配そうな表情を浮かべるも、志保が笑みを浮かべると安心したように笑みを返した。

いけない。表情に出ていたようだ。まだまだ精進が足りない。
そう思いながら、志保は誤魔化すように、他にはどんなものがあるの、と言った。

栗毛の女子生徒は腕を組みながら、うーん、と唸った。
他のはあんまり面白くないからなぁ、と呟いている姿は真剣そのもの。
志保はそこまで本気で言ったわけではなかったので、考え込んでいる様子に苦笑した。

「あの、別にない」

ならいいよ、と続けようとしたが、栗毛の女子生徒の言葉に遮られた。

「もし興味があるんなら、もっと話仕入れて来るよ?っていうか自主的に調べる!!良いよね!!!」

何故か爛々と瞳を輝かせる女子生徒に、志保も押されぎみだった。思わず、了承の言葉を口にしていた。

「・・・あ、ああ、うん。じゃあ、お願い」

何にせよ、気になることは事実。少し悪い気もしたが、本人が妙に乗り気なのだし任せようと志保は思っていた。

「よしきた!志保さんの頼みとあらば、たとえ火の中水の中!!」

何が彼女をそこまで駆り立てるのかは定かではないが、異様にテンションが高い。普段はここまで振り切れていないので、同じ机を囲んで話を聞いていた他の女生徒も目を丸くしていた。どちらかといえば、大人しめの娘だった筈なのに。

「それじゃ、さっそく行ってきます。楽しみにしててねー!!!」

というと、栗毛の女子生徒は教室を飛び出していった。

「な、何だったんだ・・・・・・」

(っていうか、行動早っ!?)

呆然と、栗毛の女子生徒を見送る志保達。
何となく、そのまま話を続けるのは気まずかったため、その場はお開きとなった。
その後、彼女は予鈴が鳴る直前に戻ってきたが、授業間の休みになる度に何処かへ出かけていった。





暫くして、予鈴が鳴る数分前に柳洞一成が教室に入ってきた。この所、生徒会の仕事が詰まっているらしく、朝は生徒会室で仕事をしているのだ。
まあ、本当の理由は志保に対する気持ちを自覚してしまったために、志保と顔を会わせ辛いというのが大部分を占めているのだが。そのため、一成は志保が仕事を手伝うと言っても大丈夫だからと断り、志保との会話も以前より減った。
気持ちに気付く前は、生徒会の仕事を手伝ってもらったり、一緒に昼食を取っていたこともあっただけに、一成の異変はその理由も含め、志保以外のクラス全員の知る所となった。
それに対するクラスの対応は、とりあえず見守ること。一成が積極的な行動を起こさない限り、志保が悲しむことが無い限り、手を出さないという事で意見が一致していた。
幸いなのは、志保がその変化に気付いていないことだろう。一成の気持ちが志保に届くことは、決してないのだから。

「あ、おはよう、一成。今朝も生徒会?」

一成に気付いた志保が声をかける。
一成は、高鳴る鼓動を押し殺し、平静を装って答えた。

「ああ、おはよう、衛宮。何、大したことではないさ。もう暫くすれば落ち着くであろう」

「言ってくれれば手伝うのに」

「いや、衛宮に手伝ってもらうような内容ではないのでな。必要な時にはこちらから頼る」

「ん、いつでも言ってね。私と一成の仲なんだから」

「な、なななななな」

そう言って、朗らかに微笑む志保の前に、一成は顔を茹蛸のように真っ赤にして仰け反った。

「ん?どうしたんだ、一成?」

「い、いや、何でもない・・・」

不思議そうに首を傾げる志保。一成は、軽く咳払いをして取り繕うように言った。
それから、一言二言簡単な言葉を交わして、志保は自分の席に戻った。

「・・・・・・・・・・・・喝!」

志保が自分の席に着いたのを確認した一成は、誰にも聞こえないような小さな声で、自分を戒めるように呟いた。
その一連の様子を、静かに伺い見てた生徒達の思いは一つだった。

――――――不憫な

誰がどう見ても、志保にその気はないのは明らか。そのくせ、志保も思わせぶりな台詞を吐くものだから、始末に終えない。

実らぬ恋というものは、傍から見ていても切ないものだ。
一成に憐れみの視線を向けていた生徒達は、心の中で合掌した。
それに、志保に好意をよせる生徒は他にもいる。彼等も同じ穴の狢。明日は我が身、ではないにしても立場は一成と同じようなものだ。その姿を想像して、彼等は人知れず溜息を零すのだった。





それから瞬く間に時は過ぎ、昼休み。
志保の机の周りには数名の生徒が集まっていた。

「やっほー志保さん!都市伝説の新ネタ仕入れてきたから一緒にご飯食べよー!!!」

「早いな、おい・・・・・・」

という訳で、志保は栗毛の女子生徒を筆頭として、朝に都市伝説の話をしていたメンバーと共に昼食を取ることになった。

「もごもご・・・という感じで、あっ、志保さんこれ頂戴!」

「あ、私も!!」

「いいなー。志保さん、私もいい?」

「・・・・・・いいけど、交換だぞ?」

都市伝説もそこそこに、志保の弁当からおかずが消えていく。否、盗られていく。
志保が料理が得意であることは、周知の事実。それ故に、教室で弁当を食べるといつもこうなる。
志保もそれには慣れたもので、苦笑しながら相手の弁当からおかずを分けてもらう。
相手の女子生徒は、ある者は喜んで、ある者は戦々恐々としながら志保の様子を伺う。

「ん、美味しい。ちょっとかたいかもしれないけど、弁当ならこれくらいで調度いいかな」

「よし!」

志保による品評。
その評価は公平で事実しか言わないため、自分で弁当を作ってくる生徒にとっては良い腕試しとなる。
どうやら、今日の弁当の出来はどれも上々らしい。みんなの顔がほころんでいた。

関係ない話だが、志保の弁当は、クラスの女子生徒がバリケードを作り―――囲んでいる―――男子生徒に奪われないようにしていた。これは単純に、彼女達の食い意地が原因である。
何せ、男子高校生といったら食欲の権化、とは言わないが食べる量は女子とは違うだろうし、何より志保の料理の腕はクラスに知れ渡っており、病み付きになる程美味しいと評判なのだ。更に志保ならば文句を言いながらも「少しなら」と分けてしまうだろう。となれば、こうして死守しない限り彼女達が分けて貰える可能性が減ってしまう。それ故の措置だった。
あと少数派ではあるが、クラスの中で付き合っている男女がいるらしく、その彼氏に"志保の料理の味を覚えられては大変だ"という理由で必死になっている女子生徒も何名かいるとのこと。

「でさ、次の話なんだけど・・・・・・」

志保は、栗毛の女子生徒の話を聞きながら思う。
よくあれだけの短時間で、ここまでの話を集めてきたものだ。何所の誰に聞いてきたかは知らないが、話を聞く時間だけを考えても相当時間がかかる。どうやって仕入れてきたのやら。ある意味、彼女の方が都市伝説と言っても過言ではないかもしれない。決して言わないが。

(幹也さん並かも・・・・・・ジャンルは違うけど)

「志保さん、聞いてる?」

「え?・・・あぁ、うん。聞いてる聞いてる」

身を乗り出し、頬を膨らませて言う栗毛の女子生徒。凄く顔が近い。少し動くだけで唇が触れそうなくらいに。
志保は、若干怯みながらも笑顔で答える。
これは、考えごとをしている暇はなさそうだ。自分が頼んだのだし、誠意をもって聞かねばなるまい。
志保は、近いよ、と言いながら相手の唇に人差指をあて、少し押した。すると彼女は身を引いて、頬を真っ赤に染めて俯いた。

「ほえっ!?いや、これはその、そんなつもりはなくて!ただ、その、えと、勢いというか、そのつもりが無いわけでは、って違う!だから・・・あぅ〜〜〜」

目を回す彼女に、みんなは生暖かい視線を送り、笑いが広がる。
その中でただ一人、首を傾げる志保は事態を呑み込めないでいたが、何かそれに温かい空気を感じ柔らかい笑みを浮かべた。

その話は、昼休みが終わるまで続けられたという。





それからさらに時は過ぎ、放課後。志保と桜は部活を終え、二人並んで帰宅の戸についていた。

「桜、今日の夕飯、何かリクエストある?」

「・・・・・・そうですね〜、先輩が作るものなら何でも好きですし・・・・・・・・・先輩を食べ」

「ていっ」

「あぅっ!?」

志保は、桜の後頭部に手刀を見舞った。桜は頭を押さえ涙目だ。
今日も今日とて、志保と桜はいつもの如く漫才を繰り広げていた。観客はいないが。

「で、何が食べたい?・・・次ふざけたら夕飯ぬきだからね?」

「むぅ・・・・・・じゃあ、シチューなんてどうですか?材料はあったと思いますけど」

「・・・・・・はじめからそう言おうよ」

まともな提案をする桜を横目で見て、志保は呆れたように溜息をついた。
対して桜は、ぐっと拳を握り締めて正面から志保を見つめて言った。ここだけ見ると、告白シーンに見えなくもない。

「嫌です!私、本心から先輩を」

「てりゃ」

「きゃん!」

志保は桜の正面に回り、素早く額に照準を定め、デコピンを放った。
手加減されていたにせよ、結構いい音がした。桜は本気で痛そうに額を押さえ、抗議する。

「い、痛いですよ先輩!私、目覚めますよ!?」

「その返しはどうなの!?っていうか、何で私が逆に脅されてるの!?」

桜の意味不明な言動に狼狽する志保。
最近桜が何かに目覚めそうなので、志保は気が気でない。何に目覚めるのかは知らないが、絶対に碌なことにはならないだろう。

桜は、勝ち誇ったように高らかに告げた。

「フッ、勝利!」

「何が!?」

志保の叫びは寒空に消えていく。
だんだん桜が遠くに行ってしまうような気がして、志保は虚しく空を仰いだ。

曇天。

もう、手遅れかもしれない。
志保は乾いた笑みを浮かべ、桜は満面の笑みを浮かべながら家路についた。





「都市伝説、ですか?・・・はい、知ってますけど。それが、どうかしたんですか?」

帰宅し、居間で茶を飲んで一服しながら、志保は桜に最近流行っている都市伝説を知っているかと尋ねた。
桜にも聞いてみたかった。違和感を感じているのが自分だけなのか、知りたかった。

「いや、別に何かあるって訳じゃないんだけど・・・・・・何か、引っかかるんだ。桜は、何か違和感を感じなかった?」

「いえ・・・まあ、怪談や都市伝説の季節じゃないですし、そこは変だなとは思いましたけど。それ以外は別に」

「そっか・・・・・・・・・うん。ならいいんだ。ごめんね、桜」

志保は笑みを浮かべ、茶を口に含む。その表情には、まだ憂いが感じられた。
桜は、相談事があったら言ってくださいねと言い、志保は、うん、と申し訳なさそうに答えた。

そんな、どこか気まずい空気が流れる居間に、一本の電話の音が鳴り響いた。

「あ、私が」

「いや、私が出るよ」

志保は、桜を制してこれ幸いと席を立った。
妙な空気を一度断ち切るには調度よかった。志保は、タイミングよくかかってきた電話に感謝しつつ、受話器を取った。
電話の相手は、志保の思いも寄らぬ人物だった。

「はい、もしもし・・・・・・っアル!?・・・・・・・・・はい、うん・・・・・・・・・・え?本当に?・・・・・・・・・・・・・・ああ、うん分かった・・・・・・・・・・・うん。で、本題は?・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう。うん、気をつけるよ。ありがとう。そっちも気をつけてね。うん、じゃあ、またね」

志保は受話器を置き、何か思いつめたような表情をしていた。無言で電話を見つめ、微動だにしない。

「先輩?」

桜は、声が聞こえなくなっても中々姿を見せない志保を不審に思い、こっそり様子を見に来た。志保は、桜が来たことには気付いていないようだった。
思いつめたような表情の志保を見て、桜はたまらず声をかけた。

「先輩!!」

「あ、桜。どうしたの?」

「えと、中々戻ってこないみたいだったので・・・・・・・・・あの、どなたからですか?」

その桜の問いに、志保は嬉しそうな、でも困ったような、複雑な表情を浮かべた。

「う〜ん・・・・・・仲の良い知り合い、かな?大丈夫。私に関して何か言われた訳じゃないから、そんな顔しないで?」

「あ、その、すいません」

優しく笑いかける志保に、桜は少し頬を染めて視線を逸らした。
表情に出ていたことが少しだけ恥ずかしかったけど、少し、嬉しかった。

「じゃあ、その、どういった内容だったんですか?」

おずおずと尋ねる桜に、志保は困ったような表情を浮かべた。

「それは・・・・・・秘密。確定した情報じゃないし、私達に関係するかどうか"まだ"分からないからね。気にする必要はないよ」

笑顔で言う志保に、桜は何か言いたそうにしていたが、諦めたような表情で言った。

「わかりました。でも、何かあったら絶対言ってくださいね?」

「うん、分かってる」

志保も、桜が言いたいことは十分に理解している。だからこそ、桜に感謝し苦笑を零す。

(ありがとう、桜。私は、いい後輩をもったな。時々暴走するのが玉に瑕だけど・・・・・・)

尤も、志保が本当に知られたくないのは先刻の電話相手の方なのだが、桜がそれを知る由も無い。

志保と桜は顔を見合わせ、ぷっと揃って吹き出した。
そして、どちらともなく居間に戻ろうとした時、またもや電話が鳴った。

志保は桜に、視線で私が出ると言って、受話器を取った。

「もしもし・・・・・・とう・・・師匠。はい、私も・・・ええ、はい・・・・・・・・・・・・・・・はあ!?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お願いします」

ガチャ!!!

「ど、どうしたんですか先輩!?」

先に居間に戻っていた桜は、突然響き渡った大きな音に驚き、慌てて駆けつけた。

そこには、静かな怒気を全身に滲ませた志保が立っていた。
先刻の音は、志保が受話器を乱暴に叩き付けた音らしい。
さしもの桜も、一瞬たじろいだ。これほど怒っている志保は、桜もほとんど見たことは無かった。

志保はゆっくりと桜に向き直り、顔には似合わない底冷えのするような恐ろしい声音で言った。

「・・・・・・桜。今夜、サーヴァントを召喚するよ」

かくして、魔術師たちの日常は終わりを告げる。
その夜、衛宮邸に赤い光が灯った。
それは、戦いの狼煙。戦争の始まりは刻々と近づいていた。


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■作者からのメッセージ
栗毛の女生徒は重要キャラでもなんでもありません。恐らく、もう出番もないでしょう。

感想返し

>鈴木ダイキチ 様
白の姫君ではありませんよ。メルブラで名前だけ出てくる別の姫君です。
どちらにしても本編での出番は多分ないですね。(今のところの予定では)
テキストサイズ:15k

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