ライザー・フェニックスとのレーティングゲームが終わり、リアス達が一誠の先生であるフリートとの邂逅を終えて治療を受けてから一週間後の放課後のオカルト部の部室。
リアス達グレモリー眷属が集まるオカルト部の部室に、『アルード』の交渉担当を行なっているリンディがリアス達を訪ねて来ていた。
「こんにちは、リアスさん」
「此方こそ・・レーティングゲームの時にはライザーに関する情報の提供をありがとうございました、リンディさん」
「気にしないで良いわ・・家のフリートがご迷惑をかけたようだし・・ゴメンなさいね」
「い、いえ・・どうしてアレだけ一誠が逃げ出そうとしたのか・・よ、良く理解出来ましたから」
リンディの謝罪にフリートから受けた治療の時の出来事を思い出したのか、リアスと、部屋の中に居た小猫は体を僅かに震わせた。
嬉々して自身の体を楽しげに治療して行くフリートの様子に、リアスと子猫は本能的な恐怖を感じたのは言うまでもない。何故腕が凄いと言われるフリートの治療を受けようとする者が殆ど居ないのか、嫌と言うほどにリアス達は理解することが出来た。
体を恐怖に震わせているリアスと小猫にリンディは申し訳無いと言う気持ちを持つが、今は此処に訪れた用件をリアスに説明する。
「今日此処に来たのは、数日から数週間の間に私達、『アルード』の者がこの街で戦う事になるかもしれないと言う事を事前にこの地の管理者であるリアス・グレモリーさんに説明に来たのです」
『ッ!!!』
「リンディさん!?それは本当ですか!?」
リンディが伝えた事実にリアス、朱乃、小猫、祐斗、アーシアは目を見開き、一応『アルード』に所属していることになっている一誠も驚いた。
その様子にリンディは神妙な顔をしながら頷き、現在この街で起きている情報の幾つかをリアスに話す。
「『
神の子を見張る者』の上層部の考えと異なる考えを持った堕天使が動き、教会の人間達をこの街に運ばせようとしています」
「堕天使が教会の者を・・・なるほどね・・確かに見過ごせない問題だけど、私達が関わる訳には行かないわね」
「えぇ・・その堕天使の目的は簡単に言ってしまえば・・・・『三勢力の戦争の再開』」
『なっ!?』
告げられた堕天使の目的にリアス達は驚愕の叫びを上げた。
嘗ての三勢力との戦争で泣きを見たのはどの陣営も同じ。だからこそ、緊張状態に続いていても決定的な戦争の勃発の引き金だけはどの陣営も行なわないように注意されていた。だが、現在リアス達が住んでいる街に紛れ込んだ堕天使は、戦争を勃発させる事だけを目的として動いている。
「私達『アルード』に入った依頼は、その堕天使の捕縛。出来ない場合は抹殺さえも視野に入れられています」
「・・なるほどね。だから、事前に私のところに来たと言う訳ね」
「えぇ・・私達が暴れるのは間違いないので、事前に連絡に来たと言う訳です・・一誠君」
「はい!」
「・・今回の件の堕天使はブラックが獲物として認識しているわ」
「ブゥッ!!」
告げられた事実に一誠は口から息を吐き出し、リアス達は何事かと一誠に目を向けるが、一誠はそれどころでは無かった。
街に潜んでいる堕天使をブラックが獲物として認識している。それが意味することはブラックが本気で暴れると言う事に他ならない。ブラックの戦いの恐ろしさを嫌と言うほど理解している一誠は、全身が恐怖でガタガタと震える。本気のブラックの戦いの後には一つしかその場に感情を残さないのだから。
「出来るだけ手を出さないようにね・・・(それと、家に帰ったら『アルハザード』に来るように)」
「は、はい!!」
脳裏に届いて来たリンディの念話に恐々としながら一誠は返事した。
その様子に満足げにリンディは頷きながら、座っていたソファーから立ち上がり部屋を出て行こうとする。しかし、リンディが部屋を出て行く前にその背にリアスが声をかけて呼び止める。
「アッ!!・・ねぇ、リンディさん?少し個人的な事で用が在るのだけど良いかしら?」
「?・・何かしら?」
「こ、此処じゃ、ちょっとねぇ」
何処と無く顔を赤らめながら、リアスは一誠に横目を目を向けた。
その視線の意味を察したリンディはリアスに対して頷き、二人はそのまま並んで一緒に外へ出て行った。
ーーーガチャッ!
「・・部長・・どうしたんでしょうか?」
「あらあら・・リアスは本気みたいね」
リアスの行動の意味が分からない小猫は首を傾げ、意味を察した朱乃は頬に手をやりながら微笑んだ。
残りのアーシア、一誠、祐斗も小猫同様にリアスの行動が意味が分からず首を傾げるが、何れこの時のリアスの行動の意味を理解することが出来るのだった。
その日の深夜近く、一誠はリンディの指示に従って『アルハザード』に訪れていた。
急に呼び出された事に戦々恐々としていた一誠だったが、神妙な顔をして待っていたリンディとフリートの様子にかなり重要な話なのだと理解して椅子に座り話を聞いていた。
話を聞き終えた一誠はまさかと言う気持ちだったが、色々と教会側の行動の意味に納得出来る部分も多く、真剣な顔をして説明したリンディとフリートの様子に教えられたことは全て事実なのだとハッキリと理解した。
「・・そ、それじゃ・・教会がアーシアを切り捨てたのも・・・今教えられた『聖剣計画』なんて最低な事を行なったのも全部・・・“いないからなんですか”!?」
「そうよ・・教会にとって最も重要な存在は、既にこの世の何処にもいない。だからこそ、教会の人間が行なう暴走も全て把握することが出来ない」
「『システム』に対して不都合が起きることは、“彼ら”にとって生命線を失うような状況ですからね。更に言えば一部の連中は『聖剣計画』を推進していたと言う情報も在ります。因みに裏を取ったらやっぱり繋がっていましたよ・・『
禍の団』とね」
「なっ!?」
告げられた事実に一誠は力無く椅子に座り込んだ。
次々と告げられた教会の真実に一誠の精神はかなりすり減らされた。同時に何故自身が今まで教会が隠していた真実をリンディ達から教えられなかったのも理解出来た。教えられた事実が明るみになれば、一瞬にして教会はかなりの大打撃を受けるどころか、失敗すれば自棄になって行動する者が出て来るのは間違いない。
特に信仰心が強い者、一誠達の下に身を寄せているアーシアが真実を知ったら確実にショックを受ける。だからこそ、今の今まで一誠には教えることが出来なかったのだ。
「一誠君も分かっているでしょうけど、アーシアさんがこの事実を知ったら、今までの人生そのものが崩壊する事に繋がる可能性が高いわ」
「だから、話せなかったんです。一誠君は隠し事が出来る性格じゃ無いですからね・・でも、今回の件はそうも言ってられない事態に発展するでしょう」
「木場祐斗君が動いた時にどうするかは、一誠君に判断を委ねるわ。止めるにしても協力するにしても、戦うことになるわね」
「・・・・分かりました・・・失礼します」
一誠はそう落ち込みながら椅子から立ち上がり、家に戻る為に転移装置が在る部屋へと向かって行った。
リンディ、フリートは何時に無くショックを受けている一誠の様子に無理もないと思っていた。今回一誠に教えた件はそれだけ重要な事実。教会の上位に位置する者が必死に隠し、リアス達さえも知らない真実。
本来ならば一誠に教えるのはもう少し先の予定だったが、今回のコカビエルの動きを考えれば隠しておくことは出来ないと判断して真実を一誠に伝えたのだ。
「やっぱり、教えるのはもう少し先の方が良かったかしら?」
「それは無理でしょう、リンディさん・・一誠君の性格を考えれば、木場祐斗君が行動するとすれば放っておけないでしょうし・・遅いか早いかの違いですよ」
「・・そうね・・・それで・・教会はどう言う動きをしているの?」
「・・教会が保管している残りの三本のエクスカリバーの内、二本の使用者が日本に向かったようです。しかも、驚いた事にですよ・・エクスカリバーの所有者の内の一名が、何と一誠君の幼馴染だったんですよ」
「本当なの!?それは!?」
「えぇ・・私達と一誠君が出会う前に日本を離れたようですけど・・とにかく、これで益々一誠君が今回の件に関わる可能性は増えましたね」
「そうね」
一誠の性格を知っているリンディとフリートは、更に一誠が今回の件に関わる可能性が増えたことを理解した。
だが、今回の最終的な相手であるコカビエルには一誠の実力では勝てない。切り札を使用すれば可能性は在るが、その切り札には時間制限と言う弱点が在る。そう簡単に使用出来る切り札では無いのだ。
故にリンディとフリートは確実に今回の件に関わるであろう一誠の行動に不安が募るのだった。
家へと続く帰り道。一誠は直接自身の家に転移するのではなく、離れた場所に転移して家に向かって歩いていた。
伝えられた情報に色々と一誠の中では感情が渦巻いていたが、最終的に募る感情は一つしか無かった。その感情の名前は“怒り”。その感情を読み取ったドライグは、一誠に話しかける。
(随分と苛立っているな、相棒)
(・・・・・当然だろう・・俺は元々神なんて嫌いだった・・・アーシアには悪いと思うけど、今は大嫌いだ・・・ふざけんなよ!!色々と問題を世の中に残しておいてよぉ!!)
(確かに・・俺もあの事実には驚いた。だが、確かにあの戦争の規模を考えるならば有り得ん話ではない。いや、寧ろ相棒の中で目覚めてから知った天界の連中の行動に納得が出来た)
(・・・ドライグ・・俺はどうしたら良いんだろうな?)
(こればかりは俺にも答えは出せん・・相棒自身が決める事だ。今回の件を木場祐斗が知った時にどうすれば良いのかどうかをな・・・だが、とにかく、相棒の下に居るアーシア・アルジェントには知られないようにしなければな)
(分かってるさ)
ドライグの言葉に一誠は応じ、そのまま家へと向かおうとする。
だが、その足は突如として止まり、何かに気がついたかのようにゆっくりと路地裏の方に険しい視線を向ける。
「・・・ドライグ」
(あぁ・・・血の匂いだ)
僅かに漂って来た匂いに一誠とドライグは気を張り詰め、警戒しながら路地裏の奥へと進んで行く。
その先に立つ黒い長身の影と、地面に倒れ伏している神父服を纏い、腹部から血を大量に流している男性の姿を捉えるが、一誠は長身の影の正体を察して警戒心を弱める。
「・・・師匠」
「一誠か」
一誠の声に応じるように人間体のブラックは見下ろしていた神父服を纏った男性-エクソシスト-の死体から視線を逸らして、一誠に目を向けた。
「・・例の堕天使がやったんですか?」
「違うな・・羽は残っているが、恐らく部下の『はぐれ悪魔祓い』辺りだろう・・切り口から見て鋭利な刃で認識される事も無く、斬られたような傷だ。奪われたエクスカリバーの三本の内の一本に、速度を極限にまで上げる能力を持ったエクスカリバーが在ったはずだ・・恐らくはそれだろう」
「・・街中で平然と殺人をやる奴ですか・・・厄介ですね」
「フン・・・一誠・・今お前が働いているところの主である小娘に『聖剣』が入り込んだ事を伝えておけ・・・・『はぐれ悪魔祓い』が『聖剣』などと言う武器を持った今、嬉々してその剣を使って暴れるからな・・対策ぐらいは考えておいて損は無いだろう」
「・・分かりました・・明日、部室に行った時に部長に話します」
ブラックの言いたい事を察した一誠は、地面に倒れ伏して事切れている神父を見つめる。
『聖剣』は悪魔にとって猛毒どころの騒ぎではない最悪の武器。例え上級悪魔で在ろうと斬られただけで致命傷に至り、消滅へと向かってしまう。そんな悪魔にとって最悪過ぎる武器を持った『はぐれ悪魔祓い』が街に潜んでいる。
リアス達を仲間だと思っている一誠にとっては、何よりも警戒しなければならない事実。ブラックの考えを理解した一誠は頷くと共に、この場から去ろうとしているブラックに質問する。
「師匠」
「何だ?」
「・・・師匠も昔、復讐の為に動いた事が在るんですよね?」
「・・・・・あぁ・・・俺を世に生み出した相手・・今思い出しても奴らには憎しみ以外の感情が抱けんな」
「・・・・復讐の手助けをすることは不味い事ですか?」
「・・・・・・さてな・・俺にも其処までは分からん。だが、復讐心を持つ奴はそう簡単には止まらんだろう。何かしらの決着がつかん限り、その身がどうなろうと動く。もしもお前が誰かの復讐心の為に動く気なら・・覚悟して動け。復讐心と言うのは、抱いた事の無いお前では分からんだろうが、お前が思っている以上に恐ろしいものだ。それを成し遂げる為ならば今手に入れたモノを全て捨てる可能性も在る」
「ッ!!」
「一誠・・・お前がどう動こうと構わんが、堕天使は俺がこの手で潰す。久々に苛立ちを覚えさせられた相手だからな」
そうブラックは宣言すると共にゆっくりと一誠の横を通り過ぎて、夜の闇の中にその姿を消した。
残された一誠は物言わぬ躯と化した神父の姿を見下ろす。何れ遺体は教会関係者が回収するだろう。
だが、今一誠の目の前に在る遺体は、一誠が住んでいる街が戦場になって来ていることを何よりも表していたのだった。
翌日の放課後。一誠は昨夜発見した神父の遺体の事をリアス達に説明していた。
流石に祐斗の前でエクスカリバーが関わっている事実は知らせられないので、何かしらの『聖剣』が関わっていることで情報を誤魔化したが、それでも祐斗の雰囲気は殺気立っていた。
アーシアは神父が殺された事実に悲しみを覚え、朱乃、小猫は『はぐれ悪魔祓い』が関わっている情報に顔を険しくし、リアスは情報を吟味するように顎に手をやる。
そして考えが纏まったのか、座っていた椅子から立ち上がると朱乃に指示を出す。
「朱乃・・“ソーナ”を呼んで頂戴」
「分かりました」
リアスの指示に朱乃は即座に頷くと共に部室から出て行った。
それを確認したリアスは再び椅子に座りなおすと、そのまま部屋に残っているメンバーに自分達の対応を伝える。
「暫らくの間は、悪魔としての仕事は一誠とアーシアと同じように二人で行動するようにするわ。『聖剣』なんて恐ろしい物が関わってくるなら、此方もそれ相応の対応をしないと不味いわ」
」
「片方が時間を稼いでいる間に、もう一人が連絡を取れます」
「小猫の考えの通りよ・・祐斗」
「・・・はい」
リアスの呼びかけに何処と無く殺気を抑えている様子の祐斗が返事を返した。
その様子にリアスは視線を険しくするが、表面上は何でも無いと言う様に装いながら祐斗に指示を出す。
「貴方の『聖剣』に対する想いは分かっているけど・・今回の『聖剣』が貴方が最も恨んでいる『聖剣』だとは限らないわ・・だから、勝手な行動はしないようにね」
「・・・・・分かりました」
何処と無く納得出来ていないようでは在るが、祐斗はリアスに無表情のまま返事を返した。
アーシア、小猫は何時もと明らかに違う様子の祐斗に不安そうに目を向けるが、事情が分かっているリアスは憂いを込めた視線を祐斗に向け、一誠は悩むように顔を下に俯けた。
この場で街にエクスカリバーが入り込んでいると言う情報を祐斗が知れば、確実に祐斗は主であるリアスが止めたとしても部室から飛び出してエクスカリバーの捜索に乗り出す。その考えは幾度と無く祐斗の殺気と憎しみを感じた一誠には容易に想像が出来た。
(・・・木場)
そう一誠は自身がどう行動すべきなのか悩んでいると、部室の扉が開き、朱乃が連れて来た駒王学園の生徒会メンバーが部屋の中に入って来る。
その中にリーダーである黒髪でスレンダーな体をして眼鏡をかけている女性-駒王学園三年生の生徒会長『
支取蒼那』、本名ソーナ・シトリー-が怜悧な眼差しをリアスに向けていた。
「リアス・・貴女の『
女王』から緊急の要件が在ると聞いたのだけど、一体何が起きているの?」
「良く来てくれたわ、ソーナ・・・この街に『聖剣』を所持している堕天使の部下の『はぐれ悪魔祓い』が居る事が分かったのよ」
「何ですって!?」
予想以上の事態にソーナは声を上げ、他の生徒会メンバーも顔を見合わせる。
その様子にリアスは真剣な顔をしながら、自身の眷属候補とされている一誠からの情報をソーナや生徒会メンバーに説明する。
「昨日の夜に私の眷属候補である一誠が、街の路地裏で殺されている神父を発見したわ。その現場には堕天使の仕業を思わせる黒い羽が業とらしく残されていたのよ」
「それだけでは『聖剣』が関わっていると言う確証は無いと思いますけど?」
「もう一つの情報を提供してくれた場所が在るのよ・・ソーナ・・貴女も知っているでしょう?『アルード』からの情報提供よ」
「ッ!!ア・・『アルード』・・で、ですって」
「会長!?」
突然に眩暈を覚えたと言うように背後に倒れかけたソーナを、生徒会の副会長である黒髪長髪眼鏡の女性-『
真羅椿姫』と、最近書記に任命された男性-『
匙元士郎』が慌ててその背を支えた。
「ア・・『アルード』・・・あの蒼髪の天災が居る場所・・・・」
「ソ、ソーナ?だ、大丈夫?」
虚ろな声で呟いているソーナを心配したリアスは声を掛けるが、ソーナは精神の安定を図るようにゆっくりと額を押さえながら声を出す。
「だ、大丈夫よ、リアス・・とても嫌な事を思い出してしまったの」
「そ、そう・・・(あの人、セラフォルー様と一緒にソーナに何をしたのかしら?・・これじゃ、イッセーが『アルード』の関係者だとは話せないわね)」
「・・と、とにかく・・確かにあの場所からの情報なら間違いないでしょうね・・どうして貴女が個人的に『アルード』との付き合いが在るかは分からないけど・・事情は理解しました。私達も対策を練るように動きます」
「そうして頂戴」
ソーナの言葉にリアスは頷きながら、これで自分達が現状で出来る事は終わりだと思った。
すると、ソーナを支えていた元士郎がリアスに向かって手を上げながら一誠とアーシアに視線を向けて質問する。
「あの〜、グレモリー先輩?」
「貴方は確か、最近ソーナの『
兵士』になった『
匙元士郎君』だったわね?何かしら?」
「いや、少し気になったんですけど・・其処に居るアーシア・アルジェントさんと、兵藤一誠は人間ですよね?」
「えぇ・・二人は私の眷属候補なの・・何れは二人には悪魔に転生して貰いたいと思っているわ。もちろん、二人が同意してくれたらだけどね」
「なるほど・・・でも、アーシアさんはともかく・・スケベで有名な兵藤を眷属にするんですか?」
「こら!どう言う意味だ!?」
黙って話を聞いていた一誠は、ゆっくりと顔を上げて元士郎に目を向けた。
自身でもスケベで在ることは分かっているが、それでも学園では出来るだけ一誠は抑えて行動している。ウッカリやり過ぎて、リンディ達に怒られるのは嫌だからこそ、一誠は自重して行動しているのである。
詰め寄って来た一誠に対して元士郎は身構えるように拳を構えて、挑発的に一誠に声を掛ける。
「おっ!やる気か?こう見えても俺は駒四つ消費で『
兵士』になったんだぜ?」
「・・・上等だ。色々と苛立つことが在って、苛立ちを晴らしたいと思っていたんだ。悪いがお前で解消させてもら…」
「懐かしい気配がする」
『ッ!!』
突然に入り口の方から聞こえて来た声に全員が目を向けて見ると、ベルフェモンを腕に抱いてお菓子が入っている箱を持ったオーフィスが立っていた。
ゆっくりとオーフィスは自身に向けられている視線に構わず、元士郎の前に移動し、その視線を細める。
「・・・・やっぱり」
「オーフィス?どうしたんだ?」
「少し懐かしい気配がした・・イッセー・・落ち着く」
「お、俺は!?」
「我、イッセーが怒っている理由が分からない・・だけど、その怒り、ぶつける相手・・きっと違う」
「・・・そうだな・・悪かったな、匙」
「あ・・あぁ・・俺も悪かった」
謝って来た一誠に対して元士郎も自身が調子に乗っていた事を理解して、一誠に謝った。
それを確認したオーフィスは満足そうに頷くと共に、ゆっくりと自身を見つめている生徒会メンバーとソーナに視線を向け、何かに気がついたかのようにソーナの顔をジッと見つめる。
「な、何かしら?」
「・・・・・・あっ、思い出した・・セラフォルーと一緒に魔法少…」
「か、帰りますよ!皆!?」
オーフィスの発言を遮るようにソーナは顔を真っ赤にしながら叫び、慌ててオカルト部の部室から出て行った。
何時もと明らかに違う様子のソーナに生徒会メンバーだけではなく、リアス達も疑問を覚えてオーフィスに質問する。
「ねぇ、オーフィス?・・どうしてソーナはあんなに顔を赤くしていたの?」
「我分からない・・だけど、あの女の人、セラフォルーと一緒に写真に写っていた」
『写真?』
オーフィスが告げた内容にリアス、朱乃、小猫、アーシアは首を傾げた。
何時もクールなソーナが慌てて顔を真っ赤にして逃げるほどなのだから、てっきりもっと重要なモノだと付き合いの長いリアス、朱乃は考えていた。一体あの急なソーナの行動は何だったのかとリアスが頭を悩ませていると、フッと冥界の病院でグレイフィアが告げた言葉を思い出す。
『一番酷かったのは『セラフォルー・レヴィアタン』様の願いを叶えた時でした。その時は妹君である『ソーナ・シトリー』様が三日三晩寝込んだほどです』
「もしかしてさっきのソーナが顔を真っ赤にしたのは、あのフリートさんとセラフォルー様が一緒に何かしたのが関係しているのかしら?」
「そう言えば、グレイフィアさんが病院で言ってましたわね・・でも、一体何をしたのかしら?」
「・・・セラフォルーがくれた写真、家に在る」
「本当なの?オーフィス?」
リアスがそう質問するとオーフィスはコクリと頷き、リアスと朱乃は楽しげに顔を見合わせる。
「気になるわよね、朱乃?」
「えぇ、気になりますわ」
「なら、決まりね・・丁度一度尋ねたいと思ってたし・・イッセー!」
「何ですか?」
「これから貴方の家に行くわ?構わないかしら?」
「俺は構いませんよ・・アーシアはどうだ?」
「はい、私も大丈夫です」
「それじゃ、皆でイッセーの家に行くわよ!」
こうしてオカルト部のメンバーは一誠の家へと向かうことになった。
だが、その家で現在の状況で絶対に会ってはならない者達と一誠達が出会う事になるとは、誰も夢にも思ってなかったのだった。