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竜人とマッドの弟子は赤龍帝 二人の聖剣使い
作者:ゼクス   2012/08/18(土) 13:56公開   ID:sJQoKZ.2Fwk
 一誠、オーフィス、アーシアが住む家に向かうことになったオカルト部の面々は、それぞれ会話しながら道を歩いていた。
 小猫はオーフィスが持っているお菓子が入った箱を買った場所を聞いたり、朱乃、リアスは一誠の家でオーフィスが持っていると言うソーナの写真に想像を巡らし、アーシアと一誠は今日の学校での出来事を何処か暗い雰囲気を放っている祐斗と会話し、それぞれ楽しげに会話をしていた。
 そんな中、先ほどの部室での出来事の中で少し気になったことを思い出した一誠は、ゆっくりと顔を小猫と会話しているオーフィスに向ける。

「そういや、オーフィス」

「何、イッセー?」

「さっき・・生徒会メンバーの匙を見て懐かしい気配がどうとか言っていたけど・・アレはどう言う意味だったんだ?」

「そうね・・イッセーの言うとおり、私も少し気になったわ・・オーフィス、貴女、匙君と知り合いだったの?」

「違う・・我が感じた気配はあの男の内から感じた気配・・・龍王ヴリトラの気配を我は感じた」

「龍王ヴリトラですって!?・・・そう言えば彼、自分は『兵士ポーン』の駒を四つ使用して悪魔に転生したって言っていたわね」

「龍王の一角を担っている『神器セイクリッド・ギア』の保有者ならば納得出来ますわね」

 オーフィスの説明にリアスと朱乃はそれぞれ驚きながらも意見を述べた。
 『神器セイクリッド・ギア』の中には伝説上の生物を封じて、その力を使用する『神器セイクリッド・ギア』が在る。一誠の『神器セイクリッド・ギア』である『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』もそれの類である。そして『五大龍王』の一角を担っていた『黒邪の龍王プリズン・ドラゴン』ヴリトラも、『赤龍帝』ドライグ同様に神によって『神器セイクリッド・ギア』に封じられた存在。
 最も『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』だけにその魂を封じられたドライグと違って、ヴリトラの方はその魂を幾重にも分けられ、複数の『神器セイクリッド・ギア』にその魂は宿っている。

(ドライグ?・・お前も気がついていたか?)

(あぁ・・確かにあの小僧からは薄くでは在るがヴリトラの気配を感じた・・最も俺と違って奴の意識が戻る可能性は低いがな)

(どう言うことだ、そりゃ?)

(簡単だ。俺はこの『神器セイクリッド・ギア』だけに封じられたが、ヴリトラはその魂を複数の『神器セイクリッド・ギア』に封じられた。それ故に奴の意識は長い眠りについている。目覚めるとすれば、余程の事が無ければ無理だろう。しかし、奴は運が良かったようだな)

(どう言う意味だ?)

(以前フリートの奴が『龍王の一角の欠片を宿している眷属悪魔がいる』と言っていただろう?つまり、フリートはあの小僧を捕捉していたんだ。龍王の力が宿っている『神器セイクリッド・ギア』を奴が見過ごすと思うか?)

(・・・・アイツ・・本当に運が良かったんだな・・会長の眷属になれて・・羨ましいぜ)

 ドライグの言いたい事を理解した一誠は、匙元士郎の事を心の底から羨ましいと思った。
 ヴリトラと言う伝説に名を残している龍王の力が宿っている『神器セイクリッド・ギア』を、あのフリートが見逃す筈が無い。だが、元士郎はフリートの手が届く前にソーナの眷属悪魔になった。だからこそ、フリートは元士郎に対して何もしなかったのだ。
 ソーナはともかく、ソーナの実の姉である『セラフォルー・レヴィアタン』を敵に回すのは幾らなんでも不味い。故にフリートは元士郎の存在が分かっていても、手を出さずに静観すると言うことにしたのだ。
 一誠はその事実を心の底から羨ましいと思いながら、リアス達と共に自身の家へと向かう。
 しかし、その足は急に止まり、リアス達も離れていたとしても自分達にとっての脅威を感じ取り、険しい視線を一誠の家に向ける。急な雰囲気の変化に脅威を感じ取れなかったアーシアと、脅威として認識していないオーフィスが、一誠達の様子に首を傾げる。

「皆さん、どうしたんですか?」

「何を警戒してる?」

「・・・イッセー・・貴方の知り合いに『聖剣』の使い手なんているかしら?」

「いえ・・居ませんよ・・・だけど・・家から感じられる二つの気配の内の片方なんですけど・・・何処か懐かしい感じを受けます」

「そう・・・とにかく、相手が教会の人間なら、私達のことも気がついているでしょうね」

「どうします、部長」

 僅かに殺気を滲ませながら祐斗はリアスにそう質問し、リアスは悩むような顔をして一誠の家を見つめる。
 どう考えてもリアスの悪魔としての本能が一誠の家から感じているのは『聖剣』の波動。しかも、上級悪魔であるリアスでも恐怖を抱くほどの強力な『聖剣』の波動。状況から考えれば偶然であろうが、リアスとしては最悪な場面だと思って祐斗に視線を向ける。
 案の定、祐斗の全身から殺気が渦巻いていた。このまま一誠の家に向かうのは危険で在るとリアスは考える。

(どうすべきかしらね・・此処で私が帰ろうと言ったとしても、今の祐斗の様子じゃ、勝手にイッセーの家に向かうわね・・・なら、此処は全員で向かって祐斗が暴走しようとしたら止めるのがベストね)

 そうリアスは判断すると、小猫、朱乃、そして一誠に視線で向かう事を伝える。
 一誠達はその視線の意味を読み違えずに悟り、頷くと共に家に向かって歩き出す。明らかに雰囲気が変わった事に不安を感じたアーシアは一誠の左手を不安そうにしながら握り、一誠はそんなアーシアの不安を晴らそうと強く握り返す。
 そして一誠を先頭に家の中に足を踏み入れると、リビングの方から笑い声らしきものが耳に届き、足早にリビングに向かってみると、其処では。

「でね、これがイッセーが小学生時代の写真でね。プールに行った時に海パンが破れて、そのまま滑り台に行ったりして、もう、本当に大変だったのよ」

「って!?何で人の恥ずかしい過去を知らない人に話しているんだよ!?母さん!?」

 リビングに辿り着くと共にハッキリと聞こえた母親の言葉に、一誠は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
 大変な事態になっていないかと心配しながら帰って来たのに、ついて見れば母親は楽しげに二人の白いローブを羽織った人物と会話していた。
 どう考えても教会関係者なのだろうが、自身の恥ずかしい過去をアルバム見せながら説明している実の母親の姿に、一誠は頭が痛そうに手をおくが、件の母親は何を言っているんだというように一誠に目を向けていた。

「イッセー?・・貴方気がついていないの?」

「何が?」

「だから、其処の栗毛の子よ・・良く顔を見てみなさい?」

「ん?」

 母親の言葉に改めて一誠は椅子に座っている二人の女性の顔を見つめる。
 片方の女性は青い髪に緑色のメッシュが入っていて、目つきが悪いように感じるが、一誠には全く身に覚えの無い人物。もう一人の栗毛の女性の方が母親が言うには自身と知り合いらしいのだが、やはり一誠の脳裏には思い浮かばない。

(本当に誰だ?・・・こんな美人と知り合いだったら、幾ら教会関係者だとしても覚えている筈なんだけどなぁ?)

「もう・・分からないみたいね・・ほら、この子よ、この子」

 一誠の様子に本当に気がついていないのだと分かった母親は、アルバムの中から一枚の写真を取り出し、幼い頃の自身と一緒に写っている栗毛の男の子と思われる子を指差した。
 その写真に写っている男の子と、目の前に居る栗毛の女性の顔を一誠は何度と無く見比べ、全身を震わせる。

「ま、まさか!?」

「漸く気がついたみたいね、イッセー君。そう私が昔イッセー君と一緒に遊んだ子、紫藤イリナよ」

「う、嘘だろう?」

「そうだよね・・私も驚いたよ、暫らく会わない間にイッセー君も色々あったんだね」

 月日の流れを感じると言うように栗毛の女性-『紫藤イリナ』-は何度も頷きながら、一誠の背後に居るリアス達に意味深な視線を送る。
 その視線から自分達の正体を知られていると感じたリアス達は、僅かに警戒するように視線をイリナと、その隣に座っている女性に向ける。
 そして一誠は母親が示す写真の男の子とイリナの顔を何度も見比べながら呟く。

「・・ま、まさか・・ほ、本当に女の子だったとは・・昔、周りの奴らがお前を女の子だと言って居た時に大笑いしたのに・・・・ほ、本当にアイツなのか?」

「失礼ね。そりゃ、あの頃の私は男の子顔負けにヤンチャだったから信じられないと思うけど・・教会に一緒に言った時にシスター服を着た時があったでしょう?」

「そういや、そんな事も在ったな・・あの時は俺を驚かす為の遊びで着たと思っていたぜ・・・で、教会関係者が一体俺の家に何の用で来たんだ?」

「偶然よ。久々にこの街に来たから、懐かしくてあっちこっちに寄ったの。イッセー君の家に来たのも、それの流れでね・・・でも、丁度良かったかも知れないわね」

 イリナはそう告げると共に意味深な視線を警戒しているリアスに送り、リアスはその視線を真っ向から受け止める。

「どうやら・・私にも用が在るみたいね?」

「えぇ、紅い髪を持つ貴女には元々会う予定だったの。偶然だったけど、早めに会えて助かったわ」

「・・・母さん・・裏の関係でイリナは話が在るみたいなんだ」

「・・・そう・・イリナちゃんも関係者だったとわね・・私は買い物に行って来るけど、互いに傷負うような事をしたら駄目よ、イッセー」

「分かってる」

 母親の言葉に一誠は頷き、そのまま母親は買い物袋を持って外へと出て行った。
 それと共にリアスと朱乃が、イリナとその隣に居る女性と相対するように席に座り、一誠、小猫、アーシア、祐斗はリアス達の背後で話を聞く姿勢で立つ。残りのオーフィスは話には興味が無いと言うように、床に座ってベルフェモンと共に一誠の母親が置いて行った一誠のアルバムを楽しげに眺める。
 明らかに行動が可笑しいオーフィスとベルフェモンの行動にイリナともう一人の女性は険しい視線をオーフィスに向けるが、何かを言う前にリアスが声を出す。

「オーフィスとベルフェモンの事は気にしないで良いわ。彼女達は私の悪魔としての関係者では無いからね」

「フ〜ン・・・なら、話を進めるけど・・先ずは自己紹介からするわ。私は紫藤イリナ。プロテスタントが管理しているエクスカリバーの一本、『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』の使用者よ」

ーーーシュゥン!!

『ッ!!』

 言葉と共にイリナが右手に持っていた糸のようなものが形を変え、リアス達の目の前で日本刀に変化した。
 リアス達は告げられた『聖剣』の名前と波動に目を見開き、祐斗は射殺さんばかりにイリナが持っている日本刀の形をしている『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』を睨む。目の前に自身の絶対の怨敵である『聖剣』が現れた。
 それを理解した祐斗は右手に魔剣を出現させようとするが、その前に一誠が祐斗の右肩を掴む。

ーーーガシッ!!

「落ち着けよ、木場・・・先ずは話を聞いてからにしろよ・・部長が聞く気なんだから」

「・・・分かった・・少し落ち着いたよ」

 早まった行動をしようとしていた自身に気がついた祐斗は、一誠の言葉に僅かに心を落ち着けて話を聞く体勢になる。
 リアス、朱乃、アーシア、小猫は明らかに冷静さを失っている祐斗の様子に不安を感じるが、今は話を進めようとイリナに視線を向けると、イリナの横に座っていた緑色のメッシュを青い髪に入れている女性が、巻かれている白い布を外してリアス達に長剣を見せながら自己紹介をする。

「私の名前は『ゼノヴィア』・・そしてこの剣がカトリックが管理している『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』だ」

「・・驚いたわね・・・教会が管理している六本のエクスカリバーの内、二本のエクスカリバーを見られるなんてね・・・それで、こんな教会がご大層に管理している『聖剣』を持ち出して来るなんて・・・よっぽど今この街で起きていることは教会にとって不味い事なのかしら?」

「どうもそっちもかなりの情報を持っているようね・・なら、話は早いわ。率直に言うけど、教会が管理している六本のエクスカリバーの内、三本が盗まれた。そしてその犯人がこの街に潜んでいるのよ」

「・・なるほどね・・私達の方も『聖剣』を使用されたエクソシストの殺人の情報は得ていたけど・・まさか、その『聖剣』がエクスカリバーだとは思って無かったわ」

 予想以上に強力な『聖剣』が自身の管理地に入り込んでいる事実に、リアスは顔を険しく歪めた。
 同時に一誠は事前にエクスカリバーの情報を得ていた事も悟るが、その件に関してリアスは責めるつもりは無かった。一誠がエクスカリバーの存在を隠していたのは、祐斗を暴走させないため。
 最も赦せない『聖剣』であるエクスカリバーが自身の手の届くところに在ると分かれば、祐斗は主であるリアスの制止を無視しても復讐に走る。
 間の悪い時にエクスカリバーの保有者が来てくれたと、リアスは内心で苦虫を噛み潰したような気持ちを持ちながら話を続ける。

「それで・・今回こんな厄介な事件を引き起こした犯人は誰なのかしら?」

「『神の子を見張る者グリゴリ』の幹部、堕天使コカビエルに、それに属している者達だ」

『ッ!!』

 告げられた名前に事前にリンディから話を聞いていたにも関わらず、リアス達は驚愕に目を見開いた。
 堕天使コカビエルとなれば、古の戦いを生き残り、聖書にさえも名を残す大物中の大物。そんな強力な堕天使が街の何処かに潜んでいる事実に、リアス達は恐怖を覚える。
 リアス達の反応に納得だと言うように頷きながら、イリナは更に話を続ける。

「教会は今回の件を重く見ているわ。最悪の場合は、『神の子を見張る者グリゴリ』そのもの相手にする可能性が高い。だから、私達はこれ以上状況をややこしくしたくないの」

「・・つまり、私達が堕天使と組むと其方は考えているのかしら?」

「可能性は充分に考えられる。上は悪魔も堕天使も信用していない。悪魔としても強力な『聖剣』が教会から取り払われるのは万々歳だろう」

「そうね・・・そう考えられても可笑しくないけれど・・貴女達が一つ知らない情報を私達は持っているわ。堕天使の組織である『神の子を見張る者グリゴリ』から、既に堕天使コカビエルは裏切り者扱いされていて抹殺命令も出ているのよ?」

『ッ!?』

 リアスが告げた情報に、今度はイリナとゼノヴィアが驚愕に目を見開いた。
 その様子にリアスは満足そうな笑みを浮かべながら、更に話を続ける。

「既にこの街には貴女達以外にもコカビエルを捕縛か抹殺する為に動いている者達が居るわ。其方の方から干渉は出来るだけ控えるようにとも頼まれている・・・私達は裏切り者の堕天使コカビエルと手を組む気は無いわ」

「・・・予想外の事態だが・・此方にとっても嬉しい情報だ。何よりも其方が動かないと言うのは、特に嬉しい情報だ・・これで私達も其方を気にせずに動く事が出来る」

「さっきから気になっていたのだけど・・・動くのは貴女達二人だけなの?」

「そうだ。最後の一本を所持している正教会は、私達が敗北した時の事を考えて待機する事を決めた」

「・・・正気なの?相手は既に三本もエクスカリバーを所有し、更に堕天使コカビエルまで背後に控えている。たった二人だけで挑むのは無謀としか言えないわよ」

 リアスがそう告げるのも無理は無い。
 何せ相手側は既に『神の子を見張る者グリゴリ』からは切り捨てられたとは言え、それでも聖書に名を残す大物が存在し、その下についている『はぐれ悪魔祓い』達も居る。
 幾らエクスカリバーを所持しているとは言っても、無謀を通り越して命を捨てに行くようなものである。その事を理解しているリアス、朱乃、小猫、アーシア、一誠はイリナとゼノヴィアの顔を驚きながら見つめるが、二人は決意に満ちた眼差しを返す。

「そうかもしれないけど」

「覚悟の上さ・・・・最悪の場合は連中が持つエクスカリバー全てを破壊することが目的だ。私達の持つエクスカリバーを含めてな」

(・・・いい話を聞いたぜ・・つまり、教会の連中はエクスカリバーが無くなる事を容認しているんだな・・フリートさんに伝えないとな・・それにこれを利用すれば)

 ゼノヴィアの言葉に一誠は内心で喜びの声を上げながら、殺気立っている祐斗に視線を向ける。
 最大の問題だったエクスカリバーを破壊した時に起きる問題が、思いがけない形で解決出来た。これで上手く行けば、祐斗の復讐を手助けする事が出来ると内心で一誠は策を考える。
 その間にゼノヴィアとイリナは椅子から立ち上がって、用は終わったと言うように一誠の家から出て行こうとするが、二人の視線は突如として一誠の左手を握っているアーシアに集まる。

「・・・まさか?・・・『魔女』アーシア・アルジェントか?」

「ッ!」

 ゼノヴィアの言葉にアーシアの体は震え、一誠と静かに写真を見ていたオーフィスの目が鋭くなる。
 リアス、小猫、朱乃もゼノヴィアの発言に顔を険しくする。彼女達にとってもアーシアは悪魔ではないが大切な仲間。その仲間を傷つける単語を発したゼノヴィアに険しい視線が集中するが、それに気がついていない、イリナがまじまじとアーシアの顔を見つめる。

「貴女が一時期教会内部で噂になっていた『魔女』になった元『聖女』さん?悪魔や堕天使をも癒す力を所持していたから、異端とされて追放されたらしいけど・・・・まさか、悪魔と一緒に行動しているとは思ってなかったわ」

「・・あ、あの・・私は・・・・」

「悪魔と共に居るか・・・『聖女』と呼ばれた者も堕ちるところまで堕ちたものだ・・まだ、我らが神を信じているのか?」

「?・・何を言っているの、ゼノヴィア?・・異端とされた彼女が主を信仰しているはずが無いでしょう?」

「いや・・アーシア・アルジェントからは信仰の匂いがする。抽象的な言葉だが、私はそう言うのに敏感でな・・彼女からはその感じを受ける」

 ゼノヴィアはそう目を細めながら、悲しそうな顔をしているアーシアを見つめ、イリナは興味深そうにアーシアを眺める。

「そうなの?悪魔と一緒に居るのに、アーシアさんは主を今も信じているの?」

「・・・捨てられないんです・・・ずっと、信じて来たのですから・・・捨てる事が出来ないんです」

 そうアーシアは複雑さに悲しみが混じった表情をしながらイリナとゼノヴィアに告げた。
 アーシアにとって悪魔であるリアス達と共に居ても、やはり今までの人生を全て捧げていた神を捨て切ることは出来なかった。今の生活は教会で得られなかった全てを得ることが出来て幸せだが、それでもやはり過去の全てだった信仰心をアーシアは捨て切れなかった。
 例え異端と称され追放されたとしても、アーシアにとって教会での日々は掛け替えの無い日々だったのだから。
 それを察した一誠は自身の知っている事を考えて内心で複雑な気持ちを抱くが、それに気がついていないゼノヴィアは白い布に包まれている長剣を突き出す。

「そうか・・信仰心が残っているとなれば話は簡単だ。今すぐに私達に斬られるといい。いまなら神の名の下に断罪しよう。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださるはずだ」

 そのゼノヴィアの宣言が終わると同時に二つの影がアーシアを護ると言うように動いた。
 一つの影である一誠は瞬時にゼノヴィアとアーシアの間に庇うように割り込み、もう一つの影である黒い鎖がアーシアに触れさせないと言うように、アーシアの周りに漂う。
 その鎖の正体に気がついたリアス、小猫、朱乃、祐斗はまさかと思いながらオーフィスの方に目を向けて見ると、オーフィスの腕の中で眠そうにしながらも不機嫌そうに目を細めているベルフェモンの姿を目にする。

「フワァァァァァッ・・・アーシア・・オーフィスのお友達・・傷つけるの・・僕赦さない」

「・・ベルフェモンが・・・喋った」

「と言うよりも・・話せましたの?」

 初めて聞くベルフェモンの肉声に小猫と朱乃は驚きながら呟き、リアスと祐斗もベルフェモンに驚きの視線を向けていた。
 彼らにとってベルフェモンは常にオーフィスの腕の中に居るマスコットの存在だった。時たま一誠に対して意地悪する以外は行動しないのだから、その認識は正しい。だが、そのベルフェモンが今、オーフィスの不機嫌さを代行すると言うように動いた。
 イリナ、ゼノヴィアもオーフィスの腕の中に居るベルフェモンの行動と、一誠の行動に面食らったような顔をするが、一誠は構わずにゼノヴィアとイリナに宣言する。

「アーシアを傷つけるつもりなら、俺達が赦さない・・・それと・・アンタ、アーシアが『魔女』だと言ったな?」

「そうだよ。少なくとも今の彼女は『魔女』と呼ばれるだけの存在だと思うが?」

「・・・ふざけんなッ!!救いを求めていたアーシアをお前ら、教会の連中は誰一人助けなかっただろうが!?勝手に『聖女』だとアーシアを言っておきながら、お前らが考えている者と少し違っただけで見限ったお前らは馬鹿だ!!アーシアの優しさを理解しなかった教会の連中なんか!ただの大馬鹿野郎どもだ!!友達になってくれる奴も居ないなんて、そんなの間違っている!!」

「『聖女』に友情が必要だと思うか?・・『聖女』にとって大切なのは分け隔てない慈悲と自愛だ」

「ハッ!・・なら、その分け隔てない慈悲と自愛をアーシアは見せただろうが?・・悪魔を治療出来たアーシアの行動こそ、『聖女』の名が相応しいんじゃないのか」

「んっ!」

 一誠の言葉にゼノヴィアは僅かに声を詰まらせた。
 確かにゼノヴィアの言った言葉が『聖女』の行動として相応しいのならば、確かに本来相容れない存在である悪魔を我が身を省みずに治療したアーシアの行動は『聖女』としか言えない。
 自身の言葉の矛盾にゼノヴィアは反論する言葉が思いつかずにいると、一誠は更にずっと溜め込んでいた神に関わる者に伝えたかった言葉を続ける。

「お前ら教会の連中は自分達の教義が大事だからって、アーシアの苦しみや悲しみを分からなかった!何が神だ!何が愛だよ!その神がアーシアを助けてくれたのか!?」

「・・・・君はアーシア・アルジェントの何だ?」

「家族だ。友達だ。仲間だ!だから、アーシアを助ける。アーシアを護る・・・先に言っておくぜ、アーシアに手を出してみろ?俺はお前ら全員が敵に回ってもアーシアを護る為に戦うぞ」

 そう一誠はゼノヴィアに対して心の底から思っている意思を宣言し、フッと今の自分の言葉の中にずっと悩んでいた答えが在ったことに気がついた。

(・・あぁ、そうか。俺が何で木場の事で悩んでいたのか、漸く分かった。アイツも俺の、オカルト部の仲間なんだよな。アイツが居なくなったオカルト部の風景なんて考えられない・・答えなんてもう出てたんだよな)

 この時、一誠の心の内で祐斗に対して行なう行動は完全に決まった。
 それはもしかしたらブラック達の考えと違っているかもしれないが、確かに一誠の中で自身が行いたいと思える行動が完全に決まったのだった。
 漸く悩んでいた答えが出せた事と、教会の者に言いたいことがいえた事に一誠は満足そうに息を吐きながらゼノヴィアを見つめ、ゼノヴィアは白い布から『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』の柄を出して握る。

「それは私達・・我ら教会すべてに対する挑戦か・・・悪魔ではなく人間のようだが、随分と大きな口を叩くね?・・・少しやるかい?」

「良いぜ・・お前ら二人なんて、俺が本気を出せば何も出来ずに地面に蹲るぞ・・フフフフッ」

(((あの技を使う気だ)))

 悩みが吹っ切れたおかげでテンションが上がり、僅かに厭らしさが滲み出ている一誠の笑いを目にしたリアス、朱乃、小猫は、一誠がやろうとしていることを察して内心で呟いた。
 あの女性にとって絶対的な威力を発揮する技を使用すれば、幾らエクスカリバーでも無意味。一度その身に受けた事が在るリアス、朱乃、小猫はこれから起きるであろう惨劇を思い浮かべて頭を痛めるが、止めようという気は湧かなかった。彼女達も仲間であるアーシアを侮辱された事に苛立ちを覚えているのだ。
 件の人物であるアーシアは一誠の言葉に顔を真っ赤に染めて俯き、オーフィスとベルフェモンは止める気どころか自分達も参戦すると言うようにファイテングポーズを構えていた。
 しかし、オーフィスとベルフェモンが言葉を言う前に祐斗が一誠の横に並び、特大の殺気を発しながら右手に一振りの魔剣を呼び出す。

「その争い・・僕も加えて貰うよ」

「誰だ、君は?」

「君達の先輩だよ・・簡単に言おうか・・『聖剣計画』の失敗作だ」

『ッ!!』

 告げられた事実にゼノヴィアとイリナの両目が驚愕に目を見開いた。
 その様子を眺めながら祐斗は殺気に満ちた不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと外へと繋がる出口の方に視線を向ける。

「此処じゃ、一誠君の家に迷惑だ・・君達も存分にやり合える場所が良いだろう?」

「・・良いだろう。この戦いは教会に一切知らせない私的な決闘とする・・それに『先輩』の実力と、其処の人間の実力が知りたいからね」

 ゼノヴィアはそう宣言し、こうして急な形では在るが教会の者との戦いが決まり、一同は決闘を行なう為に駒王学園へと向かうのだった。





 駒王学園の旧校舎側にある広い練習場。
 その場所を囲むように紅い魔力の結界が張られ、一誠の家から移動して来た祐斗、一誠、ゼノヴィア、イリナはそれぞれ対峙しながら睨み合っていた。
 ゼノヴィアとイリナは着ていた白いローブを脱ぎ捨て、体のラインが浮き彫りになっている黒いボディースーツのような戦闘服姿を晒し、自分達が持つエクスカリバーを構えていた。
 その様子を離れたところでリアス、朱乃、小猫、アーシア、オーフィス、ベルフェモンは観戦し、アーシアは気になっていた『聖剣計画』に関してリアスから説明を受けていた。

「『聖剣計画』と言うのは数年前まで、キリスト教内でエクスカリバーを扱える者を育成すると言う計画だったわ。あの二人がエクスカリバーを扱えている事から考えて、計画は続いていたようね。しかも、成功した」

「・・初めて知りました・・でも、その『聖剣計画』と祐斗さんはどんな関係なんですか?」

「・・・・祐斗はその計画の被験者だったの・・だけど、『聖剣』に適応出来なかった・・その結果、教会は恐ろしい事を行なったわ」

「ど、どんな事なんですか?・・教会は一体何をしたんですか?」

「・・・処分・・・適応出来なかった被験者達を教会は『不良品』と決め付け・・・教会の人間は被験者達を殺した」

「ッ!!・・そ、そんな・・主に仕える者がそのような事を」

 悲しげに顔を俯かせながら朱乃が伝えた『聖剣計画』で起きた惨劇の内容に、アーシアはショックを受けて目元を潤ませる。
 リアスはアーシアの様子に憂いを帯びた視線を祐斗に向け、自身が祐斗と出会い、悪魔へと転生させた経緯を説明する。

「私が祐斗と出会ったのは、あの子が研究所から瀕死の状態で逃げ出して来た時だったわ・・瀕死の状態で在りながらも、あの子は教会に対して復讐を誓っていた。最近では落ち着いたように思っていたけど・・・あの子は忘れていなかった。『聖剣』を。『聖剣』に関わった者達を。そして教会の者達を」

「・・・祐斗先輩は・・大丈夫でしょうか?」

「分からないわ・・・でも、この戦いが少しでもあの子のエクスカリバーへの憎しみを晴らす戦いになってくれる事を願うしかないわ」

 そうリアスは右手に魔剣を握ってゼノヴィアと対峙している祐斗に、憂いを込めた視線を向けた。
 イリナと対峙している一誠は殺気が満ち溢れている祐斗に目を向け、一応確認しておくべきことを確認する。

「木場・・譲渡するか?」

「・・いや・・悪いけど、僕は僕の実力で試したいんだ・・譲渡は受けないよ」

「・・そうか・・・なら、こっちは俺が相手にするから、お前は好きにやれよ!」

Boostブースト!!》

 祐斗に声を掛け終えると共に一誠の左手に光が走り、電子音声と共に『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』が出現した。
 イリナ、ゼノヴィアは一誠の左手に出現した赤い籠手-『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』-の姿に、驚愕の眼差しを一誠と左手の『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』を交互に向ける。

「・・・・『神滅具ロンギヌス』」

「嘘・・それって、『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』・・こんな極東の地で、『赤い龍の帝王ウェルシュ・ドラゴン』の力を宿した者と出会えるなんて」

「イッセー君に気を取られていると、怪我ではすまなくなるよ!!」

ーーービュン!!

 叫ぶと共に一誠に気を取られているゼノヴィアに向かって、祐斗は魔剣を振り翳して斬りかかった。
 その動きを察知したゼノヴィアは、自身が握る『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』で祐斗の一撃を受け止め、聖剣と魔剣のぶつかり合いで火花が散る。

ーーーギィン!!

「『魔剣創造ソード・バース』に『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』。更にアーシア・アルジェントの持つ『聖母の微笑トワイライト・ヒーリング』。我々教会が異端視する『神器セイクリッド・ギア』ばかりだ」

「僕の力は無念の中で殺されていった同士の恨みが生み出したものでもある!この力で僕はエクスカリバーを扱う者を倒し、エクスカリバーを叩き折る事をずっと願っていた!!」

 そう叫ぶ祐斗の声音には隠し切れない憎悪が滲み出ていて、ゼノヴィアは不敵な笑みを浮かべながら祐斗と剣戟を繰り広げる。

ーーーギィン!!ガキィン!!キィン!!

「木場の奴・・焦り過ぎないようにしろよ」

「あっちばかり気にしている暇なんて無いよ!イッセー君!!」

 ゼノヴィアと祐斗の剣戟に目を向けていた一誠に、イリナは自身が持つ『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』を刀の形状にしながら一誠に斬りかかった。
 確実な一撃だとイリナは思うが、一誠は最初から斬りかかることが分かっていたと言うように、僅かに体を傾けるだけでイリナの斬撃を避ける。

「よっと!」

「まだまだ!!」

ーーーシュシュシュシュシュッ!!

 次々とイリナは一誠に向かって剣を振るうが、一誠は最小の動きを持ってイリナの剣を避け続ける。
 その間に十秒と言う時間が経過したのか、再び一誠の左手に顕現している『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』から電子音声が鳴り響く。

Boostブースト!!》

「クッ!!伝説の通り、十秒ごとに力が倍加する見たいね!」

「ま〜な」

「もう!何なのよ!?そのやる気の無い声は!?」

「いや・・そのな・・(おいおい・・イリナの握っているエクスカリバーって『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』だよな?・・俺、てっきりフリート先生の『千変』みたいに形が幾重にも変わって来ると思ってたんだけど?)」

 名称からしてフリートと同じような戦法を使ってくると考えていた一誠は、僅かに拍子抜けしたような気持ちで一誠はイリナの攻撃を避け続ける。
 しかし、待っていてもイリナは刀以外の形状を使用して来る気配が無い。つまり、イリナは『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』を使いこなせていないと言うことだと一誠は認識した。

(『聖剣』は悪魔にとっては絶大だけど、人間の俺には決定的じゃ無いもんな・・『龍殺し』だったら、もう少し必死になっていたけど)

(ムッ!相棒!どうやらあちらが動くようだぞ?)

「んっ?」

 ドライグの警戒の声に一誠が目を向けて見ると、『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』と触れ合った祐斗の二つの魔剣が砕けるのを目にする。

ーーーバキィィィン!!

「クソッ!!」

「我が剣は破壊の権化。魔剣と言えど砕けぬものはない!!」

「木場!!飛べ!!」

「クッ!!」

 ゼノヴィアが強力な一撃を放とうとしていることを察した一誠は祐斗に向かって叫び、祐斗はその指示に従い空中に飛び上がる。
 それに続くように一誠も全力で空中にジャンプすると共に、器用にクルクルと回していた『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』をゼノヴィアは全力で地面に振り下ろす。

ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

「おいおい・・これが『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』の力かよ・・『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』とは比べものにならない威力だぜ」

 ゼノヴィアが『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』を振り下ろすと共に巻き上がった土煙を全力で飛び上がることで避けた一誠は、余りの威力に地面に出来上がったクレータを見つめ、冷や汗を流した。
 今のゼノヴィアの一撃はさほど力を込めて振り下ろしたようには見えなかった。にも関わらず、地面にクレータが出来るほどの威力なのだから、攻撃力と言う点だけで言えば『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』よりも『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』の方が上なのは明らかだった。
 一誠と同様に『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』の威力を目にした祐斗は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、新たな魔剣を手に握り締める。

「・・真のエクスカリバーじゃなくてもこの威力か・・七本全部消滅させるのは修羅の道だね」

(不味いか・・・こりゃ、早々に勝負を決めた方が良さそうだな)

 減るどころか更に高まって行く祐斗の憎しみを感じた一誠は、これ以上勝負を長引かせるのは不味いと察して三段階目の倍化の音声が鳴り響くと共に、その力を解放する。

Boostブースト!!》

Explosionエクスプロージョン!!》

「よっしゃ!悪いがイリナ。早々に勝負を決めさせて貰うぞ!」

「ケホケホ・・・言ってくれるわね・・でも、決めるのは私の方よ!」

 服についた土を払いながら、イリナは『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』を一誠に向かって構えた。
 それを目にした一誠は腰を深く落とすと共に、全力でイリナに向かって駆け出す。

ーーービュン!!

「嘘ッ!?」

 余りにも速い一誠の移動速度にイリナは信じられないと言う声を上げるが、一瞬にして一誠はイリナとの距離を詰めると、そのままイリナの右肩に触れるだけしか行なわず通り過ぎる。

ーーートン!!

「な、何をしたいの!?イッセー君!?攻撃のチャンスだったのに、ただ触れるだけしかしないなんて!?」

 チャンスだったと言うのに攻撃も行なわずにただ服に触れると言う行為だけしか行なわなかった一誠に対してイリナは、侮辱されたと思って怒鳴った。
 しかし、一誠はイリナの怒鳴りなど気にせずに『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』が具現化している左手を向け、真剣な眼差しを向ける。

「・・・紫藤イリナ・・子供の頃のよしみだ・・・負けを認めてくれ。そうすれば、家での宣言通りに地面に蹲る未来だけは避けられるぞ?」

「ば、馬鹿にしてるの!?ただ服に触れただけでしょう!?次は接近なんてさせないからね!」

「そうか・・最後のチャンスだったんだが・・・残念だ・・イリナ・・・では地面に蹲って貰うぞ!!『洋服崩壊ドレス・ブレイク』ッ!!!」

ーーービリッ!!

「・・・へっ?」

 一誠が技名を叫ぶと共に、イリナが着ていた黒い戦闘服は軽い音と共に服の下に着ていた純白の下着ごと弾け飛んだ。
 それと共にたわわな乳房と、引き締まった腰、白いお尻で構成されたイリナの裸身が余す事無く一誠に晒される。自身が裸になってしまったのだと徐々にイリナは認識し、その顔を真っ赤に染めると共に大切な部分を腕で隠しながら一誠の宣言通りに地面に蹲り、悲鳴を辺りに響かせる。

「キャアァァァァァァァァァァァァーーーーーーー!!!!!!!」

「フゥ・・・やはり俺の宣言どおりになった・・俺が本気を出せば、全ての女性は地面に蹲るしか無いんだ・・虚しいぜ」

「な、何格好つけた言葉を言っているのよ!!こ、こんな卑猥な技!最低よ!!」

「俺だってこの技を使用するたびに恐怖に震えるんだぞ!!覚悟を決めてこの技を使用しているんだ!あの人のお仕置きを受ける覚悟もして…」

ーーーポンッ!

「そう覚悟は出来てるのね、一誠君」

「ッ!!」

ーーーギリギリギリッ!

 優しい声と共に背後から肩に置かれた手の感触を感じた一誠は、錆び付いたような音を立てながら背後を振り向いてみると、心の底から優しげな笑みを浮かべているリンディが居た。
 その事実を一誠は現実と認識したくなく、何度も目を擦るが、現実は変わらず全身を冷や汗塗れにしてガクガクと膝を震わせながらリンディに質問する。

「ア、ア、ア・・アレ?・・リンディさん?・・な、な、何で此処に居るんですか?」

「一誠君のお母さんから連絡が在って、教会の人間と戦闘になっているんじゃないかと心配して来たのよ・・そしたらね」

「アハハハハハッ」

「フフフフッ・・最近良くその技を使用しているみたいね・・・少しこの件が終わったらお話をしましょうね、一誠君」

 そう告げられたリンディの言葉に一誠はムンクのように両手に頬を置きながら声にならない叫びを上げるが、リンディは構わずに地面に落ちていたイリナが着ていたと思われる白いローブを拾い上げて、イリナに羽織らせる。
 そのまま剣戟を続けているゼノヴィアと祐斗の戦いに視線を向け、その視線を険しくしながら絶望している一誠に質問する。

「一誠君・・・彼がそうなのね?」

「・・はい・・・リンディさん・・木場は勝てると思いますか?」

「無理ね・・冷静さを欠き過ぎているわ・・エクスカリバーを破壊することだけに神経が向き過ぎている。このままだと」

「ハアァァァァァァァァッ!!!」

 勝負の行く末をリンディが告げようとする前に、祐斗は気合の叫びと共に手元に全長二メートル以上の禍々しいオーラを発している巨大な大剣を作り上げた。
 それを目にした一誠、リアス、小猫、朱乃、アーシアは何時もの祐斗ならば絶対に行なわない行動に目を見開く。『騎士ナイト』で在る祐斗の持ち味は、引き上げられた速度。今祐斗が握っているような大剣は、攻撃力は上がるとしても、祐斗の持ち味を殺す武器以外の何ものでもない。
 祐斗と戦っているゼノヴィアも明らかに心底落胆したと言うように嘆息をしながら、『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』を祐斗の大剣に向かって振り抜く。

「残念だ。選択を間違えたな」

ーーーバキィィィィーーン!!

「ッ!!」

 激しい金属音と共に宙に折れた祐斗の大剣が舞った。
 対してゼノヴィアの持つ『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』は一切刀身には欠けた様子がなく、難なくと祐斗の剣を破壊した。

「君の武器は多彩な魔剣とその俊足だ。巨大な剣を持つには、明らかに筋力不足であり、自らの俊足を殺すものでしかない。破壊力を求めた理由は分からんが、重大な判断ミスだな」

ーーードン!!

「ガハッ!」

 ゼノヴィアは言葉と共に『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』の柄頭を祐斗の腹部に、深く抉り込ませた。
 その衝撃に祐斗は口から吐しゃ物を吐きながら、地面に蹲る。ゼノヴィアはその姿を一瞥すると、踵を返しながら祐斗に告げる。

「刀身での一撃でなくとも、今の打ち込みだけで当分は起き上がれないよ」

「・・ま、待て・・」

 苦痛に呻きながらも祐斗はゼノヴィアの背に手を伸ばすが、ゼノヴィアは止まらずにイリナの方に向かって歩きながら一誠に視線を送る。

「・・やり方はともかく、イリナと自分に傷を負わせずに戦いを終わらせるとは・・・なるほど・・今代の『赤龍帝』はかなりの実力の保持者のようだな」

「そりゃどうも」

「・・・一つだけ言おう。『白い龍バニシング・ドラゴン』は既に目覚めている」

「・・・・・・らしいな」

 ゼノヴィアの言葉に一誠は僅かに顔を険しくしながら答え、話を聞いていたリアス達も顔を険しく歪める。
 『赤い龍ウェルシュ・ドラゴン』と対を成す存在である『白い龍バニシング・ドラゴン』。両者は共に『二天龍』の称号を持つ龍であり、そして同じように『神器セイクリッド・ギア』に封じられ、『赤い龍ウェルシュ・ドラゴン』が『赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア』に封じられているように、『白い龍バニシング・ドラゴン』は十三種の『神滅具ロンギヌス』の一つである『白龍皇の光翼ディバイン・ディバイディング』に封じられている。しかも、一誠としては傍迷惑なのだが二頭の龍とも『神器セイクリッド・ギア』に封じられていても争いが続き、言うなれば一誠には勝手に決められた宿命のライバルがいると言う事なのである。
 一誠が辛くともフリートとブラックの訓練を受け続けたのも、実を言えばドライグから教えられた『白い龍バニシング・ドラゴン』の存在が大きい。もしも『白い龍バニシング・ドラゴン』を宿した者が危険な奴だった場合、自身の家族にまで危害が及ぶ。それを逃れる為に一誠はフリートとブラックの訓練を受け続けたのだ。

「知っているなら話は早い・・君の実力は全て見たわけではないが、今代の『白い龍バニシング・ドラゴン』は強いよ」

「そんなのは知ってるよ・・・(ブラック師匠が本気で楽しんだ相手だぞ。強いのは分かってるさ)」

 そう一誠は内心で呟きながらゼノヴィアの横を通り過ぎて、祐斗の方へと歩いて行く。
 ゼノヴィアは一誠の様子に目を細めるが、この場での用はもう終わったと判断して白いローブで体を隠しているイリナに声を掛ける。

「イリナ・・此処での用は終わりだ」

「分かってるわよ・・イッセー君!!服を台無しにしてくれた事!絶対に裁くからね!アーメン!!」

 イリナはそう言いながら“地面に落ちていた『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』”を拾い上げ、ゼノヴィアと共にこの場から立ち去ろうとする。
 しかし、立ち去る直前に険しい瞳をしているリンディがゼノヴィアとイリナに声を掛ける。

「・・・一つだけ貴女達二人に伝えておくことが在るわ?」

「・・何かな?」

「・・今回は一誠君が動いたから良いけど・・次に私達の保護下にあるアーシアさんに手を出そうとしたら・・・“潰すわよ”」

『ッ!!』

 言葉と共に発せられたリンディの凄まじい殺気にゼノヴィアとイリナは目を見開くが、リンディは発した殺気をすぐに霧散させてもう用は無いと言うようにリアス達の方に歩いて行く。
 ゼノヴィアとイリナはリンディの殺気に目を細めるが、すぐに踵を返して今度こそこの場を去って行った。

 そして決闘が終わった後、ゼノヴィアの一撃で負傷を負った祐斗をアーシアが『聖母の微笑トワイライト・ヒーリング』を用いて負傷を癒し、リアス、朱乃はリンディから今回の件の詳しい話を聞いていた。

「教会が其方を訪ねるのは予想外だったわ・・エクスカリバーの存在を秘密にしていてゴメンなさい」

「いえ・・隠していた理由は大体察していますから気にしないで下さい」

「そうですわ。其方も立場が在りますから、全てを話せませんし、気にしなくて構いません」

「その言葉に感謝します・・・・それじゃ、私達の方もやるべき事が在りますので」

「ま、待って下さい!!!」

 この場から去ろうとするリンディを祐斗が呼び止めた。
 リアスはその行動に目を見開くが、祐斗のやろうとしている事を察して止めようとする。だが、リアスが何かを言う前に祐斗が叫ぶ。

「ぼ、僕を!貴女達が受けている依頼に参加させて下さい!!」

「祐斗!止めなさい!」

 リアスは祐斗を止めようとする。
 確かにリアスは『アルード』から一誠を眷属候補として借り受けているが、それはあくまでお互いの同意と上層からの許可が在るからこそである。特に今回『アルード』が受けている依頼は堕天使組織『神の子を見張る者グリゴリ』からの依頼。
 リアス・グレモリーの眷属悪魔である祐斗が介入することは出来ないのだ。その事を理解しているリアスは、何としても祐斗を止めようとするが、その前にリンディがリアスの肩に手を置く。

ーーーポン!

「リンディさん!?」

「・・・・・彼の復讐心は止まるものでは無いようね・・・丁度こっちも人手が欲しかったの・・リアスさん・・悪魔としての貴女に依頼して良いかしら?『木場祐斗君をアルードの依頼に協力して貰う』と言う依頼をね」

『ッ!!!』

 告げられた依頼の内容にリアス、小猫、朱乃、アーシアは目を見開くが、祐斗は喜びに満ちた笑みを浮かべるのだった。


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羊羽様
・今回で悩みは吹っ切れましたが、吹っ切れすぎて欲望が暴走してしまいました。
ソーナに起きた出来事は何れ明らかになります。次回も頑張ります!

kusari様
・コカビエルがどうなるのかは楽しみに待っていて下さい。絶対に後悔する運命しか待っていませんけどね。
引き金は引かずに済みましたが、警告は告げられました。


そして前回の作品でお伝えした『漆黒の竜人と少女』の移転先は、色々と悩んだ結果、『ハーメルン』に決めました。あの作品もアンチが強い部分が在りますので、此方の『シルフェニア』には合わないと判断いたしました。また、題名を変えます。
新たな題名は『漆黒の竜人と魔法世界』です。
テキストサイズ:35k

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