「うまい!うまい!!日本の食事はうまいぞ!!」
「うんうん!これよ!これが故郷の味なのよ!!日本に帰って来て本当に良かったわ!」
(そりゃ、昨日の夜から何も食べてないんだから、ファミレスの食事でも美味しいだろうな)
ファミレスの中でメニューから大量に注文した食事をガツガツと音を立てながら食しているゼノヴィアとイリナの姿を一誠は呆れたように見ながら、注文したアイスコーヒーを飲む。
その隣には小猫が座り、注文したパフェを食べながら、次々と料理を食べているゼノヴィアとイリナを確認すると、一誠に質問する。
「先輩・・・やっぱり、私も少しお金を出しましょうか?・・流石にコレだけの料理は一人じゃ」
「フッ・・小猫ちゃん・・安心してくれ。こう見えても俺は結構貯金が在るんだよ。リンディさん達から言われた依頼を解決すればちゃんと報酬が貰えるからね」
小猫の質問に一誠は余裕そうな笑みを浮かべながら答えた。
一誠には小猫に告げたように銀行にかなりの金額が貯金してある。リンディがその辺りをちゃんと管理しているのでお金が必要ないブラックと、お金よりも物々に興味が在るフリートの二人以外には報酬を支払っているのである。
リアスへの派遣も一応『アルード』として仕事とされているので、一誠とアーシアにリンディは報酬を銀行に振り込んでいるのでゼノヴィアとイリナの食事の代金は充分に一誠が支払える範囲だった。
因みに一番、一誠がお金を消費する時はオーフィスに奢る時であったりする。
(オーフィスに奢る時の食事の量を考えれば、この二人の食事の量なんて安いぐらいだぜ・・何せ異世界の地球じゃ、オーフィスを確認した店が即座に大食いの看板を取り外すぐらいだからな)
家では余り食べないオーフィスだが、外食の時にはやはりドラゴンなのだと思わせるぐらいに食事を食べるので、奢る時にはかなり覚悟をしなければならないのだ。
その様に一誠がコーヒーを飲みながら考えていると、食事を終えたゼノヴィアが口元を拭きながら声を出す。
「フゥ〜・・落ち着いた・・食事は本当に助かったよ。何せパートナーのイリナが路銀を全て絵につぎ込んでしまったので困っていたんだ」
「ちょっと!ゼノヴィア!酷いわよ!その言葉!?」
「事実だろう?・・どう見ても偽者にしか見えない絵など買ってしまったから、路銀が無くなって昨日は公園で寝たのだろうが?」
「そ、それはそうだけど・・・この絵に描かれているのはペトロ様よ!本物に決まってい…」
「ウ〜ム?・・如何見ても最近の絵の具で描かれていますね。年月を経た絵の独特のモノも全く見当たりませんし・・完全な偽物ですよ、コレは」
『ッ!!』
突然に響いたこの場に居ないはずの人物の声に一誠と小猫は驚愕に目を見開き、ゼノヴィアとイリナも聞き覚えの無い声に慌てて目を向けて見ると、一誠の隣でイリナが購入した絵を鑑定しているフリートの姿が在った。
何故此処にフリートが居るのかと一誠は口を思わず開け、フリートの治療を受けた小猫は怯えるように一誠の服を強く握る。
ゼノヴィアとイリナも気がつかれずに自分達の椅子の方に置いてあった絵を鑑定しているフリートに、警戒するような目を向けると、フリートはイリナに呆れたような視線を向ける。
「こんな二束三文どころか、一文にもならない絵を購入して路銀を全部使うだなんて・・・・これから貴女達どうこの街で過ごす気ですか?」
「・・・何者だ?」
「一誠君の先生で、名前は『フリート・アルハザード』です」
「って!?何で此処に居るんですか!?フリートさん!!」
今更ながらにフリートがこの場にいる事に、一誠は疑問に満ちた声で叫んだ。
アルハザードに居る筈のフリートが一体何故この場に居るのかと一誠は答えて貰おうとするが、その前に忌々しげなゼノヴィアとイリナの声が響く。
「フリート・アルハザード?・・そうか・・昨日の翡翠色の髪の女性・・何処かで見覚えが在ると思ったが」
「・・まさか、故郷で会う事になるなんてね・・・・『異端の賢者』と『翡翠の女帝』に」
「『異端の賢者』?・・『翡翠の女帝』・・・もしかしてフリートさん?・・教会に何かしたんですか?」
「色々と在りましてね・・・教会の連中の殆どが、関わっていなかった一誠君を除いて『アルード』の関係者を嫌っているんですよ」
「・・その通りだ・・だが、貴様がこの場に居ると言う事は・・『
神の子を見張る者』が堕天使コカビエルの討伐の為に動かしている連中は、貴様ら『アルード』か?」
「正解ですよ」
ゼノヴィアの質問にフリートはアッサリと答え、ゼノヴィアとイリナは苦虫を噛み潰したような顔をしてフリートを睨む。
悪魔、堕天使とは良好な関係を築けているフリート達だが、天使側、正確に言えばその下の教会勢との関係は良好とは言い難かった。教会の上層部からすれば自分達の主を崇めても居ない『アルード』の者達は、彼らの認識からすれば異端。更に言えばフリート達は教会が絶対に表にしたくない情報をこれでもかと言うほどに知っている者達。故に教会の上層部の殆どが『アルード』を嫌い、その下の者達に異端の存在だと通達しているのだ。
そのせいで教会のエクソシスト達が暴走してフリート達を異端の存在として抹殺しようとしたのだが、言うまでも無くその時に教会側に襲い掛かった被害は甚大と言う言葉では足りなかった。もしも教会の更に上に君臨している天使達が救援に駆けつけなければ、今頃教会上層部の者達の殆どが生きていなかっただろう。
ゼノヴィアとイリナはそのような経緯がある故に、フリート達の存在を異端として嫌っているのである。
「『アルード』が教会の者にした事は忘れていない」
「勝手に異端だとか叫んで襲い掛かって来たのは貴女側ですよ?しかも、教会はその後も私達に『はぐれ悪魔祓い』の捕縛依頼を出したりしています・・・こっちとしたら何言ってるんだろうって気持ちでしたが、依頼は依頼なので解決していますよ」
(ウワァ〜・・そ、そんな事が在ったのかよ・・知らなかったぜ)
(だが、これで『使い魔の森』の時にフリートが教会の話が出た時に不機嫌だった訳が分かったな)
(あぁ・・俺だって・・いきなり襲われたら反撃するぞ)
一誠とドライグはそう心の中で何故フリートが『使い魔の森』の時に不機嫌になった理由に納得していた。
険悪になって行く空気に不安を覚えた小猫は更に一誠の服を強く掴み、一誠はそんな小猫を安心させるように頭を撫でていると、更に別の第三者の声が響く。
「お待たせしました、フリートさん」
「祐斗先輩!?」
「木場!?何でお前が此処に!?」
この場に現れた祐斗に小猫と一誠は揃って疑問の声を上げると、フリートがその理由を説明する。
「私が呼んだんですよ・・ちょっと気になっていることが在りましてね」
「僕もその内容を知って同席したいと思ったんだよ・・・まぁ、僕の連絡先が知られていたのは驚いたけど・・・『聖剣計画』に関する事だからね」
そう告げる祐斗の視線には憎しみと怒りが宿り、ゆっくりとゼノヴィアとイリナにその視線は向けられる。
ゼノヴィアとイリナはその視線を真っ向から受け止めると、ゼノヴィアが腕を組みながらフリートと祐斗に告げる。
「其方の関係者の兵藤一誠には食事を奢って貰ったからね・・答えられる質問には答えるよ」
「そうかい・・なら、先ず宣言しておくけど・・僕は今回の件で『アルード』に協力する。目的は言うまでもないけど、教会が破壊を認めた三本のエクスカリバーを破壊する事だ」
「・・・・私達の前でその宣言をするなんてね・・・やっぱり、『聖剣計画』での事で恨みを持っているのね?・・エクスカリバーと教会を?」
「当然だよ・・逆に聞けば、僕らにアレだけの事をやっておいて怨まれないと思っているのかい?」
「でもね、木場君。あの計画のおかげで聖剣使いの研究は飛躍的に伸びたわ。だからこそ、私やゼノヴィアみたいに聖剣と呼応出来る使い手が誕生したの」
(おいおい・・イリナ?・・その発言は木場には不味いだろうが)
一誠はイリナの発言に対して僅かに不愉快な想いを抱いた。
直接『聖剣計画』の悲劇を味わっていないイリナだから出来る発言だが、それは被験者として処分されかけた祐斗に言ってはならない言葉。何せ祐斗が抱いている憎しみは、言い換えればそれだけ教会を信じていた事に他ならない。
信じていた者に切り捨てられ、共に歩んだ仲間を殺された祐斗が抱く憎しみは重く、そして凄まじく深い。案の定イリナの発言に対して祐斗の眼差しは憎悪に満ち溢れる。
「・・だからあの犠牲は必要な犠牲だったと言うのかい?・・・冗談じゃない・・僕らがどれだけ辛い日々を耐えて来たと思う?・・何時か僕らの想いが報われて自分達の夢に辿り着けると思っていた・・教会はそんな僕らの想いを踏み躙ったばかりか・・被験者の殆どを処分と言う名の言葉で殺したんだ」
「それは・・・・」
祐斗の言葉に対してイリナは困ったように顔を祐斗から逸らすと、今度はゼノヴィアが祐斗に声をかける。
「その事件は、私達の間でも最大級に嫌悪されたものだ。処分を決定した当時の責任者は信仰に問題が在るとされて異端の烙印を押された。今では堕天使側の住人さ」
「そうかい・・・その話は既にフリートさん達から聞いたよ。僕らを処分するように命じた大司教・・『バルパー・ガリレイ』・・その男は今回の事件に関与しているよ」
「ッ!!・・・やっぱり、今回の件に関わっていたのね、あの男が」
「エクスカリバーを扱える者が堕天使側に居ることを考えれば、あの男の関与を考えるのは当然ですよ。まぁ、教会のミスが巡り巡って三勢力全部に影響を及ぼす大事件になった訳です」
驚いているイリナに対して黙っていたフリートが何でもないと言うように告げ、ゆっくりと今度は自分だと言うように腕を組みながら質問する。
「さて・・次に私の質問ですけれど・・・当時『聖剣計画』で明確に処罰を受けたのはバルパー・ガリレイだけなんですか?」
「少なくとも私が知る限りではそうだ」
「そうですか・・・・ハァ〜、聞きたいことは終わりました・・・(クスクス・・覚悟しなさいよ、教会。そんなに命よりも聖剣が大切なら、貴方達が行なっていた聖剣研究が全部無意味だったことを教えてやりますよ)」
そうフリートは告げると共にゆっくりと座席から立ち上がって、外へと出て行った。
何時になく不穏なオーラを放っているフリートに気がついた一誠とドライグは恐怖に体が震えていると、今度はゼノヴィアとイリナが椅子から立ち上がる。
「食事の件は助かった。だが、私達は私達でエクスカリバーを破壊する」
「そう言う事ね・・上からは『アルード』には絶対に関わるなって言われているから・・もしも『アルード』が私達の邪魔をした時は排除させて貰うわよ、イッセー君」
「・・・イリナ・・幼馴染として今回の件での最後の忠告だ・・・俺の師匠が今回の件には本格的に関わってる・・死にたくなかったら逃げろよ」
「悪いけど・・・エクスカリバーの奪還は必ずするわ・・じゃあねぇ、イッセー君」
イリナはそう告げると共にゼノヴィアと共に外へと出て行った。
一誠はそんなイリナとゼノヴィアの後ろ姿に溜め息を吐き、その様子が気になった祐斗が一誠に質問する。
「一誠君?・・さっきの言葉の意味はどう言うことだい?」
「私も気になりました」
「・・・俺のもう一人の師匠ブラックさんなんだけどな・・あの人は『戦闘狂』なんだよ。それこそ、戦いの時に邪魔が入ったら邪魔した相手も攻撃するぐらいの・・だから、木場・・お前が今回の『アルード』の依頼に参加出来るんだ」
「・・なるほどね・・確かにエクスカリバーの件で僕が暴走する事を考えれば、その人の戦いに乱入する可能性があるね」
「そうだよ・・そうなったら最後・・師匠はお前も敵とみなして攻撃するぞ」
そう告げる一誠の表情には明確な恐怖の感情が浮かんでおり、一誠の実力を知っている祐斗と小猫はこれほどまでに一誠に恐怖を感じさせるブラックの実力がどれほどなのか理解出来ずに首を傾げた。
そして一誠はゆっくりと首を横に振って恐怖を振り払うと、そのまま祐斗に視線を向ける。
「木場・・頼むからエクスカリバーを前にしても暴走だけは出来るだけするなよ?リンディさんの配慮のおかげで依頼としての関係で俺とお前は介入出来るけど、その分依頼の遂行の邪魔をしたら部長の名前に傷がつくんだからよ」
「それは分かっているさ」
「・・祐斗先輩」
「・・・何かな、小猫ちゃん?」
何時もの無表情ではなく僅かに寂しげな表情を浮かべている小猫に、僅かに祐斗は驚きながらも質問した。
「・・・無事に帰って来て下さい・・・私は手助け出来ませんけど・・・祐斗先輩が居ないオカルト部なんていやです」
「・・・ハハハッ・・うん、そうだね・・・必ず帰って来るよ」
「小猫ちゃん、安心してくれ。もしもコイツが無茶しそうになったら、俺が力尽くでも止めるからさ」
そう一誠は小猫を安心させるように声をかけ、祐斗もその言葉に対して頷くと、小猫は僅かに安堵したように微笑むのだった。
夕暮れによって照らされる街並み。
その時間帯にとあるコンビニの前で一誠と祐斗は、この場に集合する事を決めたリンディが来るのを待っていた。
昼間の小猫の言葉のおかげか、今の祐斗は冷静さを保っていることが一誠の目から見ても明らかだった。最も直接エクスカリバーと相対すれば、再び憎しみに支配されてしまうかもしれないが、今のところは大丈夫だと思い、リンディが来るのを待っていると、一誠と祐斗は道の先からボストンバックを持って歩いて来ているリンディに気がつく。
「・・・時間通りね、二人とも」
『はい』
「それじゃ、先ずは説明からするわ・・調査の結果、例のエクスカリバーを強奪した者達のアジトはこの辺りに在るのは間違いないわ。残念な事にコカビエルが結界か何かを張っているせいで、正確な位置は掴めていないのだけどね」
「つまり、これだけ近い場所にエクソシストらしい服を着た者が近づけば」
「相手側は何かしらの動きを見せてくれると考えているわ。二人にはその為に囮役になって貰うけど、いいかしら?」
「構いません」
「俺もです。これ以上街中で殺人なんて起きて欲しくないですから」
「本当に助かるわ・・それじゃ、この中に入っている特殊な神父服を着て頂戴。フリートさんが作製したバリアジャケットの機能を持って、魔の力を隠蔽するモノよ」
リンディはそう告げると共に祐斗と一誠にボストンバックを差し出し、その中に入っていたカソック服を一誠と祐斗は即座に羽織る。
「そう言えば、イッセー君?・・バリアジャケットって何だい?」
「あぁ・・簡単に言えば防護服の事だ。本来だったら魔力で編まれる服なんだけど、フリートさんがその特性を服に与えたりするんだ。一定レベルの攻撃は全部防いでくれるから、結構今までも助けられたぜ」
「へぇ〜」
興味深そうに祐斗は自身が着ているカソック服を眺める。
カソック服などの教会に関わるような服には思うところは在るが、今回の自身の任務は敵を誘き寄せる為の囮役。それで今回の事件の首謀者とエクスカリバーに近づけるのだから、我慢すべきだと祐斗は思いながら同じようにカソックを服を着終えた一誠と共にリンディの下へと戻る。
「準備は終わったわね・・それじゃ、二人ともこの通信機を持っていて」
リンディはそう告げると共に祐斗と一誠にそれぞれ小型の通信機を手渡し、二人はそれを即座に身に着ける。
「二人は一緒に行動するけれど、不測の事態も考えられるから常に通信機はONにしておくように・・・さて、既にブラックとルインさんがこの辺りを捜索しているから、一誠と祐斗君は残りの半分を中心に調べてね」
丸い円が書かれている地図を一誠と祐斗に見せながら、リンディは二人が捜索する地点を示し、二人はそのまま了解したと言うように頷く。
一誠と祐斗はそのままこの場に残って届く連絡から捜索範囲を狭める役目を担うリンディと分かれて、自分達が捜索する範囲内を歩き出す。
「・・そういや、夜にこの辺りを歩くのは何か久しぶりな気がするな」
「あぁ・・それはこの辺りの悪魔としての仕事の担当がシトリー家の方だからだよ。部長と会長が仕事で会わない為にそう取り決めたんだ」
「そうか・・そういや、部長と会長は『表』の生活以外では干渉しない取り決めをしていたんだったよな・・納得したぜ」
そう一誠は祐斗と会話をしながら辺りを警戒するように視線を向ける。
今のところ敵が襲撃して来るような気配は無いが、相手は特殊な能力を持った三本のエクスカリバーを所持している。フリートの調査の結果、盗まれた三本のエクスカリバーの名称は、『
天閃の聖剣』、『
夢幻の聖剣』、『
透明の聖剣』。
速度、幻覚、透明と言う厄介な能力を秘めた三本のエクスカリバー。どれもこれも不意打ちに使える能力を秘めた聖剣なので、警戒だけは絶対に怠ってはならない。
故に奇襲を一誠と祐斗が警戒していると、突然に凄まじい殺気のようなものを二人は捉える。
ーーーゾクッ!!
「木場!!」
「あぁ、間違いないだろうね!・・・でも、この殺気は僕らには向いていない?」
「そうだな・・じゃ、一体誰に?」
感じた殺気の向かって居る先に疑問を覚えた一誠と祐斗は揃って首を傾げるが、今はとにかく向かってみようとリンディに連絡を行いながら殺気の出所に向かって走り出す。
一誠と祐斗が殺気が感じられる路地の角を曲がろうとすると、その先から走って来た誰かと一誠はぶつかってしまう。
ーーードガッ!!
「キャッ!!」
「ウォッ!!ご、ゴメン・・って!?」
「君はシトリー眷属の!?」
ぶつかった相手の正体に気がついた祐斗と一誠は揃って叫び、地面に尻餅をついてしまっている少女-シトリー眷属の『
兵士』
仁村留流子-の姿を見つめる。
留流子は目の前に居る二人がグレモリーの者だと知ると、泣きそうな顔をしながら祐斗の服を掴んで来る。
ーーーガシッ!!
「お願い!元士郎先輩を助けて!!聖剣が!聖剣が!!」
「落ち着いて!一体何が在ったんだい!?」
「・・わ、私達が悪魔としての仕事で召喚されたら、その先に『聖剣』を持った神父が居て、私達を襲って来たの・・私は元士郎先輩が時間を稼いでいる間に連絡しようと思ったんだけど、銃で携帯が壊されて、それで」
「木場!」
「あぁ・・君は此処に居て・・僕とイッセー君が匙君を助けに行く!」
「そうだ!・・この通信機の先に居る人に連絡を取って救援を頼んでくれ!それじゃ!」
一誠は自身が持っていた通信機を留流子に手渡すと、祐斗と共に殺気が放たれている方に向かって急いで走り出す。
そして先へと進んで行くと銃を発砲するような音が二人の耳に届き、其方の方へと向かってみると、負傷を負った箇所から煙を上げて、手の甲にデフォルメされたトカゲの顔らしきものを装着した匙と、神父服を纏った白髪の少年と思わしき者が『聖剣』を匙に向かって振り被っていた。
それを目にした一誠は瞬時に左手に『
赤龍帝の籠手』を具現化させ、そのまま力を解放し、上がった力を両足に全て注ぎこむ。
《
Boost!!》
《
Explosion!!》
「オラアァァァァァァァァァッ!!!!」
力が上がったのを確認すると同時に一誠は神父服を着た少年の背に向かって全力で飛び上がり、ドロップキックを少年の背に向かって叩き込む。
ーーードゴオオォォン!!
「ガッ!!」
「無事か!匙!!」
少年をドロップキックで蹴り飛ばすと共に元士郎の目の前に着地した一誠は、そのまま元士郎の状態を確認する。
何箇所か既に『聖剣』に斬られたのか、元士郎の体からは煙が上がっているが、致命傷と呼ぶべき傷が無い事に一誠と駆け寄って来た祐斗は気がつく。
「イッセー君!?コレは!?」
「あぁ・・こりゃ、苦しめる為の傷だ・・匙をアイツは嬲っていたんだ・・おい!匙!しっかりしろ!」
「・・ウゥ・・ひょ、兵藤か?・・どうして・・・此処に?」
「お前のところの後輩と会って助けに来たんだ・・ほら、すぐに治療してやるから、確りしろ!」
意識が朦朧としている元士郎に一誠は声をかけながら、服の中に手を入れてフリート特製の薬を元士郎の体に振り掛ける。
それと共に元士郎の体から上がっていた煙が徐々に治まって行き、傷の方も徐々に癒えて行く。
「『フェニックスの涙』ほどじゃないが、あの人の薬も充分に傷は治る。だから、気を確り持てよ!匙!」
「・・あぁ・・俺はまだ死ぬ訳には行かないぜ・・・ゆ、夢を・・会長とのデキちゃった婚をするまでは・・絶対に死ねるかよ」
「匙ッ!?・・・お、お前って奴は・・何てハードルの高い夢を!?クゥッ!!安心しろよ!こっちの用事が終わったら、(
精神的外傷は間違いなく負うけど)凄腕の医者の下に連れて行ってやるからな!!」
そう一誠は両目から大粒の涙を流しながら、意識が朦朧としている元士郎の手を強く握りながら告げた。
祐斗はその様子に苦笑いを浮かべるが、すぐにその表情は引き締まり、一誠のドロップキックを食らった背を押さえながら立ち上がろうとしている神父に目を向ける。
「グゥッ・・・クソッ!!最高に楽しんでたってのに!?良くも背中に蹴りをくれやがりましたね!俺っち忌々しい出来事を思い出して、大変に不愉快ッス!」
「ん?・・・・・アッ!!お前!!小猫ちゃんとアーシアを傷つけたイカレ『はぐれ悪魔祓い』ッ!!」
見覚えの在る少年の顔に、一誠は目の前にいる相手がアーシアと出会った日の夜に先ほどと同じようにドロップキックを叩き込んだ相手だった事を思い出した。
その言葉に少年-『フリード・セルゼン』は怒りに満ちた視線を一誠に向けて、右手に持っている『聖剣』を構える。
「・・あぁ・・その左手の『
神器』・・思い出したッスよ。俺様に蹴りを叩き込んでくれたクソ野郎みたいだな。あん時も今も、よくよく俺様の楽しみを邪魔してくれますね!ぶっ殺してやろうかぁぁぁぁん!?」
「イッセー君?知り合いかい?」
「思い出したくも無い相手だけどな・・・前に小猫ちゃんを襲った『はぐれ悪魔祓い』がアイツなんだよ・・リンディさん達から誰かの手によって助けられたって聞いていたけど」
「そうそう!俺様は凄まじく貴重な存在らしくてさぁ!堕天使の姉さん達と違って助けて貰ったのさ!!俺様ってやっぱり凄い存在なのだよ!」
楽しげにフリードは宣言しながら、右手に持っている『聖剣』を構えなおす。
その『聖剣』から発せられている波動は、明らかにゼノヴィアとイリナの持つエクスカリバーと同じ。
つまり、フリードが握っている『聖剣』は盗まれた三本のエクスカリバーの内の一本で在ることは明らかだった。
「此処最近のエクソシストを殺していた犯人はお前か!?」
「そうそう・・俺様の上司の命令でね。でも、思っていたよりも教会側の行動が弱い事に上司は不満で・・腐れ悪魔どもを狩る許可も出たんですよ!!!ヒャッハーー!!!」
ーーービュン!!
フリードが叫び終えると共にその姿が消え去った。
それに対して祐斗は即座に両手にそれぞれ魔剣を出現させ、迷う事無く魔剣を振り抜くと、甲高い金属音が鳴り響く。
ーーーガキィィィーーン!!!
「あん?俺様のスピードを見切っていたっていうのかい!?」
自身の『聖剣』を受け止めた祐斗の姿に、フリードは僅かに驚いたと言うように祐斗の顔を見つめる。
「悪いけど、僕もスピードには自信が在るほうでね!!」
「『
騎士』か!?チィッ!!厄介だね!だけど、俺様のスピードについて来れるかな!『
天閃の聖剣』に速度で勝てると思うなよ!!」
ーーーバキィィィーーン!!
「チィッ!!」
フリードの叫びと共に砕かれた魔剣の姿に祐斗は苛立たしげに舌打ちをして、後方に飛び退くと共に新たな魔剣を両手に出現させてフリードと相対する。
その様子を見ていたフリードは祐斗の『
神器』の正体を悟り、心の底から楽しげに口元を舐めながら叫ぶ。
「複数の魔剣ねぇ・・わーお!もしかして貴方の『
神器』は『
魔剣創造』ですか?レアな『
神器』を持っているなんて中々に罪なお方だね!」
「黙れ!!」
ーーーキィィィン!!
「だけど、俺様の持っているエクスカリバーちゃんには、そんじょそこらの魔剣君じゃ」
ーーーガキィィィン!!
言葉と共に再び『
天閃の聖剣』とぶつかり合っていた祐斗の魔剣が二刀とも、破砕音と共に砕け散った。
「相手になりはしませんぜ」
「クッ!!」
「(やっぱ、七つに別れた聖剣でも、木場の魔剣じゃ不利か・・なら)・・・木場!!三十秒だ!!それだけ経ったら譲渡するぞ!!ソイツは、いや、コカビエル達は悪魔側にも攻撃を仕掛ける気だ!もう野放しにしておくわけにはいかないぞ!!」
「ッ!!・・・・分かったよ!」
一誠の言葉の中に含まれている意味を理解した祐斗は、悔しげに顔を歪めながらも同意の声を上げた。
フリードに襲われた元士郎の様子を見るだけで、目の前の相手は放置して置く訳には不味い。次に狙われるのは自身の仲間かも知れないと理解した祐斗は、一先ず湧き上がって来る憎しみよりも仲間を護る事を優先する事に方針を決めた。
その為に少しでも時間を稼ごうと右手を地面に向け、数十本の魔剣を地面から発生させる。
「来いッ!!」
ーーーザザザザザザザザザザザッ!!!
「おうッ!?こりゃ、凄い数の魔剣だね!?だけど、俺様には無意味だっての!!」
ーーーバキィィィーーン!!
フリードはすぐ近くに在った魔剣に向かって『
天閃の聖剣』を振り抜き、甲高い金属音と共に魔剣を破壊した。
そのまま次の魔剣も破壊しようとするが、その前に両手に魔剣を握った祐斗が持ち前のスピードを発揮してフリードに襲い掛かる。
「ハァッ!!」
「チィッ!!」
ーーーキィン!!ギィン!!ガギィン!!
次々と祐斗は手に持つ魔剣を振り抜き、フリードは祐斗が繰り出す魔剣を破壊するか、或いはいなすことで祐斗の苛烈な攻撃を退けて行く。
自身の魔剣が次々と折られて行く事実に祐斗は悔しげに顔を歪めるが、今はそれを押し込めて時間を稼ぐ為に動く。もしも今日の昼に小猫の言葉を聞いていなかったら、祐斗は確実に暴走していただろう。
幸運にも小猫の心の底からの頼みが、祐斗のエクスカリバーに対する憎悪のブレーキを作り上げていたのだ。
そして約束の三十秒が経過すると必要な力が溜まったことを一誠は感知し、祐斗に向かって叫ぶ。
《
Boost!!》
「木場!」
「分かった!」
一誠の叫びを耳にした祐斗は即座に持っていた二刀の魔剣をフリードに向かって投げつけ、そのまま一誠の下に移動する。
ーーーバキィィィン!!
「何がしたいんですかね!?いい加減死んで貰いますぜぇ!!」
《
Transfer!!!》
「あん?」
響いた音声と共に一誠の隣に立っていた祐斗から凄まじいオーラが立ち昇るのを感じたフリードは、訝しげな視線を祐斗に向ける。
「貰ったんだから、この力!最大限に使わせて貰う!!『
魔剣創造』ッ!!!」
ーーーザザザザザザザザザザザザザンッ!!!!!
祐斗の叫びと共に周囲一帯の電柱や路面などの在りとあらゆる場所から様々な刃の魔剣が出現し、フリードに向かって伸びて行く。
「チィィィィッ!!」
ーーーバキバキバキバキバキィィィィーーンッ!!!
フリードは舌打ちしながら自身に向かって伸びて来る魔剣を、『
天閃の聖剣』を横薙ぎに振るう事で破壊して行く。
その隙に祐斗は右手に先ほどより強靭になった魔剣を握り、出現している魔剣群を足場にして縦横無尽に動き回る。徐々にそのスピードは上がるが、フリードはその動きを目で捉えて自身に向かって風切り音を立てながら次々と迫って来た魔剣を弾く。
ーーーキィン!!
「面白いサーカス芸だね!腐れ悪魔が!?『
天閃の聖剣』を持っている俺様に速さで勝てるかよ!!」
叫びと共にフリードが持っていた『
天閃の聖剣』がブレだし、遂にその切っ先が見えなくなると同時に、魔剣群が次々と破壊されて行く。
(クッ!!速さの聖剣だけは在るな!俺は気絶している匙から離れられないし、やばいか!あぁ、リンディさん達はどうしたんだよ!?)
留流子に渡した通信機から連絡が届いていないのかと一誠は僅かに焦りを覚え、最悪の場合はと左手の『
赤龍帝の籠手』に目を向ける。
そして遂に祐斗が作り上げた魔剣群が全て破壊し尽くされ、フリードは祐斗に向かって斬りかかる。
ーーーバキィィィーーン!!
「クッ!!強化された魔剣でも駄目か!」
「死・ネ!!!」
「クッ!!」
祐斗に『
天閃の聖剣』を振り抜こうとしているフリードの姿を目にした一誠は助けに入ろうとするが、その前にフリードに向かって翡翠の砲撃が直進して来る。
ーーードグオオォォォォン!!
「ゲェッ!?」
ーーードガァァァァァァン!!
翡翠の砲撃に気がついたフリードは慌てて祐斗への攻撃を止め、その場から飛び退いて直撃を逃れた。
今の攻撃はと祐斗が疑問に思っていると、その祐斗の前に険しい瞳をしたリンディが空から降り立つ。
ーーートン!!
「リンディさん!?」
「二人とも遅れてゴメンなさい・・こっちでもちょっと在って来るのが遅れてしまったわ。それと連絡して来た仁村さんって言う事は、他のシトリー眷属の子が保護したから安心してね」
リンディはそう一誠と祐斗に告げながら、無表情のまま埃を掃っているフリードに視線を向ける。
「おう!こりゃ、また美人なお方が登場だね!?どうだい?俺っちと熱い夜を過ごす気ない!?」
「悪いけど、私には心に決めた人が居るの。貴方の様な外道に触らせるつもりなんてこれっぽちも無いわ」
「良いねぇ、その顔・・泣き喚いた顔を見てみたくなったよ、俺様の『
天閃の聖剣』で、引ん剥いてやろうか?」
「そう・・どうやら本当の下衆みたいね・・“潰して上げるわ”」
そうリンディは告げると共にその身に力を込めて、秘めている力を解放しようとする。
一誠はその気配を感じ、気絶している元士郎を背中に抱えて祐斗の方へと移動すると、この場に第三者の声が響く。
「ほう、『
魔剣創造』か・・使い手の技量しだいでは無類の強さを発揮する『
神器』だ」
聞こえていた声に全員の視線が声の方に向くと、神父服を着た初老の男が立っていた。
その男の顔を見たリンディは僅かに眉を顰め、フリードは気安くその男に声をかける。
「バルパーの爺さんか」
「バルパー!?まさか!?お前がバルパー・ガリレイ!?」
「いかにも」
祐斗の憎悪の満ちた叫びに対して初老の男-『バルパー・ガリレイ』は堂々と肯定した。
そのままバルパーは僅かに不満そうな顔をしながらフリードに目を向けて、不満さに満ちた声を出す。
「フリード・・お前はエクスカリバーを所持しながらこの程度の連中を一人も殺せんのか?お前に渡した『因子』をもっと有効に使ってくれ」
「へいへい・・分かってますよ」
バルパーの言葉にフリードは不満そうにしながらも応じ、そのまま持っている『
天閃の聖剣』に意識を込める。
すると、刀身を覆うように蒼白いオーラが集まり出し、フリードの手の中で『
天閃の聖剣』は力強く輝き、バルパーは満足そうに頷く。
「それで良い。エクスカリバーの力を存分に発揮させ出来れば、この程度のやからどもなど敵では無いからな」
「ヒャハハハハハッ!!流石は伝説の聖剣様ってところだな!それじゃ女!宣言通りに引ん剥いてやりますよ!!」
「待てフリード・・・そう言えばあやつは如何したのだ?お前と共に悪魔狩りに出た筈だが?」
「途中で別行動したんですよ・・まぁ、アイツも『因子』に適合して『
夢幻の聖剣』を持っているんで大丈夫しょ!!」
「他にもエクスカリバーを持っている相手がこの近くに!?」
フリードの発言に祐斗は顔を険しく歪めながら叫び、一誠も悪魔に対しての絶対的な威力を宿すエクスカリバーを所持している『はぐれ悪魔祓い』の存在に顔を険しくする。
このままでは他の場所で犠牲者が出てしまうかも知れない事実に二人が焦りを覚えていると、突然に二人の背後の暗がりから声が響く。
「その聖剣の所持者とやらは、この雑魚の事か?」
『ッ!!』
背後から聞こえて来た声に祐斗と一誠は慌てて顔を向け、バルパーとフリードも暗がりの方に目を向けて見ると、声の主はゆっくりと暗がりの中から現れた。
その相手は全身を黒い服装で覆い、右手にフリードの握っている『
天閃の聖剣』と同じ威圧感を放っている黒く塗り潰された剣を握り、左手には明らかに生きていると思えないほどの重傷を負った神父服の男を引き摺るようにしながら持ってた。
ゆっくりと闇の中から現れたその人物-人間体のブラック-がつまらそうな顔をしながら、フリードとバルパーを睨むのだった。