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竜人とマッドの弟子は赤龍帝 夢幻の聖剣の拒絶
作者:ゼクス   2012/08/30(木) 21:47公開   ID:sJQoKZ.2Fwk
「師匠!?」

「この人がイッセー君の!?」

 ブラックの姿を確認して叫んだ一誠の言葉に、祐斗は驚きながらもフリード達の仲間と思われる『はぐれ悪魔祓い』の男性の遺体を左手に持ち、右手に黒く染まりながらもフリードが持っている『天閃の聖剣エクスカリバー・ラピッドリィ』と同種の聖なる波動を発している聖剣を握った人間体のブラックに目を向ける。
 ただ立っているだけなのにも関わらず、ブラックの全身から発せられている圧倒的な威圧感を感じ、祐斗は思わず身構える。
 その動きに対してブラックは僅かに興味が浮かぶが、すぐにつまらなそうな視線を自身が右手に握っている聖剣を驚愕と困惑に満ちた目で見つめているバルパーに向け、左手に持っていた男性の遺体を投げつける。

「フン」

ーーードン!!

「ヌゥッ!」

 ブラックが投げて目の前に落下した男性の死に顔を確認したバルパーは、僅かに呻くような声を上げた。
 間違いなく目の前で恐怖に染まりきった死に顔を晒して遺体と成っている男は、フリード同様に自身が『因子』を渡し、『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を使って悪魔狩りを命じた者。しかし、その者は全身に傷を負い、恐怖に染まりきった顔で死んでいる。
 だが、そんな事はバルパーにはどうでも良かった。所詮フリードも、目の前に在る遺体となった男もバルパーにとっては自分の聖剣研究を完成させる為の道具に過ぎない。問題はブラックが右手に握っている黒く変わり果てた『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』の方だった。

「クゥッ!!・・貴様は教会の手の者か!?まさか、悪魔と手を結ぶとは!?」

「何の事だ?」

「とぼけるな!?私の研究を奪った教会以外の者が聖剣を使える筈がない!?『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を扱える貴様の所属など、私の研究資料を奪った教会しか考えられん!」

「・・・・あぁ・・この剣か・・・・其処の雑魚から奪った時に少し反発したんでな・・・“ねじ伏せてやったら、こうなった”」

「馬鹿な!?」

 何でも無い様に告げたブラックの言葉に、バルパーは信じられないと言うような声で叫んだ。
 『聖剣』を扱う為には『因子』こそが最も重要なモノだと言うのが、バルパーが長年の研究の果てに辿り着いた結果。故に『因子』を手に入れる為にバルパーは非道を行なって来た。全ては自身の研究と欲望の為に。
 しかし、今バルパーの研究結果を全て粉砕するように、扱える者が限られている『聖剣』を、しかもエクスカリバーと言う上位の『聖剣』を『因子』を全く宿さずに従えているブラックが現れた。絶対に認めてはならない。もしも認めてしまえば、自身の長年の研究の結果が崩壊してしまうとバルパーは危機感を覚えてフリードに命じる。

「フリード!!『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を取り戻せ!!早くしろ!!」

「へいへい・・って事で!死んで下さいね!お兄さんよ!!ヒャハハハハハーーーッ!!!!」

ーーービュン!!

 狂ったような哄笑と共に『因子』が活性化しているのか、祐斗と戦っていた時よりも『天閃の聖剣エクスカリバー・ラピッドリィ』の力が引き出せているフリードが、殆ど一瞬の内にブラックの間合い内に入り込み、『天閃の聖剣エクスカリバー・ラピッドリィ』をブラックに向かって振り抜く。

ーーーガキィィィィーーン!!

「オゥッ!今の防ぐなんてやりますね!!でも、まだまだスピードは上がりますよッ!!」

 自身の『天閃の聖剣エクスカリバー・ラピッドリィ』による一撃を『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』で簡単に受け止めたブラックに対してフリードは叫ぶと、もはや剣閃が見えない速度で『天閃の聖剣エクスカリバー・ラピッドリィ』の刃がブラックに襲い掛かる。
 しかし、ブラックは僅かに体を揺らすか、或いは『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を微かに動かすだけでフリードの攻撃を全て避ける。

ーーーキィン!シュ!キィン!!キィン!!

「・・・・凄い・・・アレだけの攻撃を一歩も動かずに避けているだけじゃなくて、服にもフリードの剣が触れていない・・何てヒトだ」

 無駄が全く無く、最小限の動きだけでフリードの縦横無尽な攻撃を防いでいるブラックの姿に、祐斗は呆然としながら声を出す。
 その間にこの場はブラックに任せようと判断したリンディは、一誠が運んで来た気絶している元士郎の状態を手早く確認する。

「どうですか、リンディさん?匙は?」

「安心して一誠君。フリートさんの薬は確かに効いているわ。今は血が少し流れ過ぎたから気絶しているだけよ」

「そうですか・・良かった・・・・そういや、リンディさんが遅れたのは『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』の方が在ったからですか?」

「えぇ、一誠君達が居た地点から、少し離れた場所でブラックが見つけたのよ。元々所持していた『はぐれ悪魔祓い』は、他のシトリー眷属の子を襲おうとしていたみたいなの」

 リンディはそう一誠に説明しながら、ゆっくりとフリードの攻撃をつまらなそうな顔をしながら避けているブラックに顔を向ける。
 一誠もそれに釣られてブラックとフリードの戦いを見るが、全くフリードはブラックの相手になっていなかった。凄まじい速度で四方八方、縦横無尽に鋭い刃を振るうか突くかでフリードはブラックに攻撃しているが、ブラックはその攻撃を全て完全に見切っていて明らかにつまらなそうな顔をしながらフリードの攻撃を防いでいた。
 どれだけフリードが苛烈な攻撃を加えようと、ブラックは一歩も動かないどころか、右手に握っている『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』だけで防いでいる。明らかにブラックとフリードの間には隔絶した実力の差が在る事が示されていた。
 最初は狂喜の笑みを浮かべながらブラックに襲い掛かったフリードだが、今では焦りと怒りに満ちた表情をブラックに斬りかかる。

「なんでさ!なんで剣が当たらねぇぇぇんだよ!!」

ーーーガキィィィーーン!!

 フリードが全力で斬りかかったにも関わらず、ブラックは無言のまま『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』で簡単に受け止め、甲高い金属音が鳴り響いた。

「いい加減に死ねぇって…」

ーーードタッ!

「・・・・あん?」

 自身の左側の方から聞こえて来た何か重いモノが地面に落ちたような音に、フリードはゆっくりと自身の左側に目を向けてみる。
 其処には在るべき筈のフリードの左腕が肩口から無くなっていた。一体何処に行ったのかと夢見がちに下の方に目を向けて見ると、自身の左腕が地面に切り口から血を流しながら落ちていることに気がつく。自身の腕が斬り落とされたのだとフリードが認識した瞬間、肩口から大量の血が噴き出す。

ーーーブシュウゥゥゥゥゥゥーーーーー!!!!

「ギャアァァァァァァァァァァァーーーーー!!!!腕が!腕が!?俺っちの腕が!?こ、この!何してくれ…」

ーーードゴォォン!!

「ゲボッ!!」

 血を噴き出しながらフリードが叫んでいる途中でブラックの右足が振り抜かれ、フリードは顎を蹴り飛ばされると宙に体が浮かび上がった。
 そのままブラックはつまらなそうな顔をしながら蹴り上げた右足をフリードの胴体に合わせ、踵落としを胴体に叩き込んで地面に叩きつける。

ーーードゴォォン!!

「ガッ!!」

「何をしているだと?殺し合いと言う戦いをしているだけだろうが?」

 地面に叩きつけられた事で内臓がやられたのか、血を吐き出しているフリードを見下ろしながらブラックは告げた。
 その戦いを見ていた祐斗は圧倒的としか言えないブラックの戦いぶりに言葉が出せなかった。自身の『魔剣創造ソード・バース』で生み出した魔剣群を破壊し尽くし、『天閃の聖剣エクスカリバー・ラピッドリィ』でスピードが上がっていたフリードの実力はかなりのもの。相性の悪さが在ったとしても、自身ではフリードに対して一撃も入れられなかった。
 それに対してブラックは『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を持っていたにしても、その能力は一切使用せず、自身の技量だけでフリードを圧倒した。その事実に祐斗が言葉を失っていると、ゆっくりとブラックは『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を地面に蹲っているフリードに向かって構える。

「・・少しは楽しめるかと思っていたが、やはり無理だったな・・・終わりだ」

「ッ!!」

 言葉と共に発せられたブラックの圧倒的と言う言葉が軽く思えるほどの殺気に、体中に走る痛みも忘れてフリードは目を見開くがブラックは無言のまま『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を振り下ろそうとする。
 フリードは黒く輝く『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』の刃に絶対的な死を感じて恐怖に染まり切った顔をするが、ブラックは構わずに『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を構え、突如として立っていた場所から飛び退く。

「チィッ!!」

ーーードスン!!

『なっ!?』

 直前までブラックが立っていた場所に突き刺さった長く伸びた日本刀の刀身らしきモノに、戦いを見ていた一誠と祐斗は驚愕と困惑に満ちた叫びを上げた。
 そのまま慌てて日本刀の刀身が伸びている方に目を向けて見ると、日本刀に扮した『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』を伸ばしているイリナの姿と、その横に立って『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』を握っているゼノヴィアの姿が在った。

「イリナッ!?」

「ヤッホー!イッセー君!?」

「ヤッホー!じゃねぇよ!?何しているんだ!?お前!?」

「何って?見て分からないの?エクソシストを殺そうとしたコカビエル一味を倒そうとしたんだよ?」

「ハァ!?・・・・ま、まさか!?」

 イリナのとんでもない発言に一瞬、一誠は訳が分からないと言う声を出したが、一つの推測が浮かび上がって顔を青ざめさせた。
 恐らくイリナは黒く染まった『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』の姿とブラックが壁になっていてフリードの顔を確認出来なかった為に、フリードではなく、ブラックの方をコカビエルの仲間だと勘違いしてしまった。最初から戦いを見ていなければ、確かに勘違いしても可笑しくない状況だが最悪な場面での横槍だった。
 案の定ブラックの行動に対する邪魔が入ったおかげで、地面に蹲っていたフリードは口に『天閃の聖剣エクスカリバー・ラピッドリィ』を咥え、右手で自身の斬り落とされた左手を拾い上げると、地面を這いながら苦虫を噛み潰したような顔をしているバルパーの下に辿り着く。

「ひゃ・・ひゃる・・ひゃー・・ひぃしゃん!」

「分かっておるわ!!この場は退かせて貰う!!」

ーーーカッ!!

『ッ!!』

 バルパーが叫ぶと共に地面に向かって球体のような物を叩きつけると、目を覆うように眩い閃光が辺りを包み込んだ。
 全員がその閃光が治まるまで目を庇い、閃光の影響が治まった後にバルパーとフリードが居た場所を見てみるが、既に其処には二人の姿は無かった。

「嘘ッ!?もしかして私!?」

「勘違いしてたんだよ!お前が攻撃したのは俺の師匠だ!!」

 漸く自身が勘違いして攻撃した事に気がついて慌てているイリナに向かって一誠は叫ぶが、すぐさまその視線はブラックの方に向く。
 ブラックは自身の戦いの邪魔をした者を絶対に赦さない。このままではイリナが攻撃対象になると一誠は思うが、ブラックはイリナに攻撃する様子を全く見せずつまらなそうな顔をしながらリンディに目を向ける。

「・・・・・これで良いのか?」

「えぇ・・・彼女の介入は予想外だったけれど、概ねは作戦通りよ。今ルインさんから念話が届いたわ。ちゃんと捕捉しているから、作戦は成功ね」

「そうか」

「あ、あの?リンディさん?」

「・・もしかして、全部策だったんですか?」

 リンディとブラックの会話を聞いていた一誠と祐斗はまさかと思いながら質問すると、リンディは頷きながら説明する。

「そうよ・・元々私達の目的は堕天使コカビエルの捕縛か抹殺・・・その為には奴らのアジトの居場所が分からないといけないわ。だから今回は見逃して、隠れているルインさんが尾行してアジトを捕捉したら襲撃を掛けるという作戦だったの・・・本当はバルパーだけを逃がして二本目のエクスカリバーも回収するつもりだったのだけど」

 ゆっくりとリンディはバツ悪そうな顔をしているイリナに不機嫌さに満ちた目を向ける。
 本来ならばフリードを殺して二本目のエクスカリバーも回収する予定だった。バルパーが居たとしても、コカビエル達の目的にはエクスカリバーが何かしらの重要な鍵を握っている可能性が高い。故にその鍵であるエクスカリバーも回収する予定だったのだが、イリナの介入のせいでソレは失敗に終わってしまった。

「ハァ〜・・・気配は感じていたけど・・介入はして来ないと考えたのは間違いだったわね・・まぁ、良いわ・・祐斗君、一誠君?」

『はい!!』

「一先ずは襲われた子の事も在るから、一端戻るわ」

「で、でも!?」

「祐斗君・・言いたいことは分かるけど、敵の陣地に単身で挑むのは無謀よ。ましてや相手側には聖書に名を残すような大物が控えているわ・・・バルパーを逃がす気は無いから・・今日のところは一先ず終わりにしましょう。リアスさん達にも状況を説明しないと危険だからね」

「・・・分かりました」

 悔しそうな顔をしながらもリンディの言葉に祐斗は頷いた。
 確かにこのまま追ったとしても『天閃の聖剣エクスカリバー・ラピッドリィ』を持つフリードに勝てなかった自身が、それよりも上の実力者である堕天使コカビエルを相手にするのは不可能。
 聖剣によるダメージを受けた元士郎の事も気になるし、何よりもまだ復讐を果たすチャンスは在ると考えていた祐斗は素直にリンディの言葉に従い、気絶している元士郎を背負おうとしている一誠に手を貸す。
 その様子を眺めていたブラックはこの場に残っていた『はぐれ悪魔祓い』の遺体を左手に掴み上げて、右手に『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を持ちながらこの場を去ろうとするが、ゼノヴィアがブラックを呼び止める。

「待て」

「・・・何だ、小娘?俺は今つまらん戦いばかりで機嫌が悪いんだ・・つまらん呼び止めだったら、ただでは済まさんぞ?」

「・・・二つだけ聞きたい事がある?・・その『はぐれ悪魔祓い』の遺体を如何する気だ?」

「フリートが調べたいと欲しがっていたんでな。その為に持って帰る」

「・・・死者の遺体を辱める気か?やはり、貴様らは異端だな」

「・・・・・・・・・クククククッ!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 ゼノヴィアの発言にブラックは心の底から可笑しそうに笑い声を上げ、一誠と祐斗は何事かと目を向け、リンディは額を押さえながらゼノヴィアを眺める。
 その間にもブラックの哄笑は続き、遂に怒りを覚えたイリナが『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』の切っ先をブラックに向けて叫ぶ。

「何が可笑しいのよ!?」

「ククククッ・・死者を辱めると来たか・・・なるほど・・どうやら貴様らは教会から知らされていないようだな・・いや、教えられる筈も無いか・・知った時に貴様らのような敬虔な信者ならば先ず間違いなく“壊れるからな”・・ククククッ、滑稽だ」

「何を言っている?・・私達が“壊れるだと”?・・どう言う意味だ?」

「知りたければ、貴様が尊重している神にでも聞くんだな・・最も答えなど返っては来ないだろうが・・・・・で、俺を呼び止めた二つ目は一体どんな用だ?」

「・・・『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を渡して貰おう。それも私達が回収すべき物だ」

 ブラックの発言は気になるが、今は後回しにしおうとゼノヴィアは考えてブラックの右手に在る『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』に向けながら要求を告げた。
 もしも応じなければ奪い取ると言うようにゼノヴィアは『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』を、イリナは『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』をブラックに対して構える。それを目撃した一誠は内心で絶叫を上げた。

(おいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!止めろって!?ブラック師匠に勝てる訳が無いだろうが!?そのヒトは本当の化け物なんだからよ!?)

 このままでは惨劇が起こると一誠は確信し、リンディに止めて貰おうとするが、一誠の予想に反してブラックはアッサリ右手に持っていた『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を地面に突き刺す。

ーーードスッ!!

「・・持って行きたいのなら持っていけ。俺には不要な物だ」

 ブラックはそう告げると、ゆっくりとこの場には用が本当に無くなったと言うように『はぐれ悪魔祓い』の遺体を持ちながら、暗がりの中に消えて行った。
 祐斗は折角手に入れた『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』をゼノヴィアとイリナが持って行く事実に複雑そうな顔をするが、今はバルパーと言う明確な復讐すべき対象が居るのでエクスカリバーは一先ず後回しにしようと考えながらイリナが地面に突き刺さる『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』に手を伸ばすのを眺める。

「予想外だったけど、先ずは一本め…」

ーーービギッ!!

「キャッ!?」

「イリナッ!?」

 『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』の柄とイリナの手が触れようとした瞬間、まるでイリナを拒絶するかのように『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』の波動が迸った。
 ゼノヴィアはその事実に驚愕と困惑に満ち溢れた顔をしながら右手を押さえているイリナを支えながら、地面に突き刺さったままの『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を見つめる。

「・・・『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』が・・・私達を拒絶したと言うのか?」

「そ、そんな筈無いわよ!何かの間違いに決まって…」

ーーービギッ!!

『ッ!!!』

 再びイリナが『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』に触れようとした瞬間、先ほどと同様に『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』は波動を発してイリナの手を拒絶した。
 その様子を見ていたリンディは溜め息を吐くと、ゆっくりと『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』に近づいて手を伸ばす。
 祐斗はその様子にイリナのようにリンディも拒絶されると心配して止めようとするが、『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』はイリナの時と違ってリンディを拒絶する事無く、アッサリと地面から引き抜かれる。

ーーートスッ!

「やっぱり、ブラックを担い手に選んだのね?」

ーーーシュゥゥゥッ!!

 リンディの問いに応じるかのように『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』は静謐なオーラを発した。
 その事実とリンディの言葉にゼノヴィアはまさかと思いながら、イリナの時と違って大人しくリンディの手の中に在る『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』の姿に呆然と呟く。

「・・選んだと言うのか・・七つに別れたエクスカリバーの一つ、『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』が己が主を」

「そんな筈が無いわ!?あの男が聖剣の祝福を受けている筈が無いわよ!!」

「だが、現に私達の手の中に戻る事を『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』は拒絶している」

「ッ!!」

 ゼノヴィアの言葉にイリナは信じられないと言う気持ちを抱きながら、リンディの手の中に在る『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を見つめる。
 その姿からはイリナの時のように拒絶する気配は全く無かった。主として選んだブラックの下に行く為には、リンディについて行けば良いと『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』は判断し、イリナの時と違って拒絶の気配が全く見えない。その事実にゼノヴィアとイリナの心中はますます荒れていた。
 聖剣を扱う為に必要なモノを宿していないにも関わらず、上位の聖剣の一本である『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を従えたブラック。自分達の聖剣に対する認識が大きく崩れ去るような現実にゼノヴィアとイリナは打ちのめされた様な気持ちを心中に抱く。
 『聖剣計画』に関わる祐斗も複雑な気持ちを抱いていたが、黒く染まった『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』の姿は、明らかに聖剣と呼ぶには相応しくない姿に変貌した。寧ろ自身が創り上げられるような魔剣と言う印象の方が、今の『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』は近いと祐斗は感じている。
 その様にゼノヴィア、イリナ、祐斗が複雑そうに『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を見つめていると、ゆっくりとリンディはゼノヴィアとイリナに背を向けながら声を出す。

「この剣が教会に戻る為にはブラックを倒すしか無いでしょうね・・最もその時は覚悟しなさい・・今回は私の作戦に付き合ってくれたけど、あの人は誰にも従わない暴竜よ。覚悟も無く手を出せば、手痛いどころか、命さえも消えると思うのね・・行きましょう、二人とも」

『はい』

 リンディの言葉に一誠と祐斗は返事を返して前へと歩いて行き、イリナとゼノヴィアはその背を複雑そうな顔をしながら見つめるのだった。





 アルハザード、フリートの研究室内部。
 その場所には一足先に戻ったブラックが運んで来た『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』を扱っていた『はぐれ悪魔祓い』の遺体を調べているフリートの姿が在った。

「フムフム・・・・・コレは?・・・なるほど・・バルパーの聖剣研究はやはりこう言う考えだったんですね・・・外道極まると言う研究です・・この『はぐれ悪魔祓い』の体の状態から察するに、ブラックが殺さなくても数日もしないであの世行きでしたね。まぁ、行くのは地獄の方でしょうけど」

「ほう・・・やはり、奴の研究には犠牲が必要だったか・・どうにも可笑しい気配を感じたが、それは一体何だ?」

「・・・摘出しないとハッキリ分かりませんが・・恐らくは『因子』と言うのは聖剣との相性でしょうね。ブラックの場合は相性も何も関係無く従えたようですけど・・まぁ、伝説と言っても折れて新しく再生した聖剣じゃ、貴方が持っている“あの剣”には全然及びませんから、当然でしょうけどね」

「フン・・・それで?・・その男から判明した聖剣に対する研究内容はお前の役に立つのか?」

「全然立ちませんよ。私の聖剣研究と、バルパー、正確に言えば教会の聖剣研究の内容は全く方向性が違いますね。あっちは簡単に言えば“聖剣に合わせた人間を生み出す研究”ですけど、私の研究は“聖剣が使用者に合わせる研究”ですからね・・・・まぁ、人の命よりも聖剣の方が大切な教会がしそうな研究ですけど」

「確かにな」

 フリートの考えにブラックは同意するように頷いた。
 詳しく判明していなかった教会の『聖剣計画』の内容も、今回の一件で全て判明することが出来た。祐斗を含めた『聖剣計画』の悲劇によって死んで行った者達はただ殺された訳ではない。
 “必要だったから被験者達は殺されたのだ”。

「祐斗君が知ったら絶対に我慢出来ずに一人でコカビエル達のアジトに突撃しそうですね。一誠君も怒るかもしれませんね・・・いやはや、厄介な問題が明らかになりましたね」

「だが、同時にあの木場とか言う小僧が更に上に行ける切っ掛けにはなるだろう。俺が見たところ、あの小僧は切っ掛けさえ在れば至る可能性が高い」

「ほう・・・・中々に面白い情報ですね、それは」

 ブラックからの情報にフリートは楽しげな笑みを口元に浮かべた。
 『神器セイクリッド・ギア』の『禁手化バランス・ブレイク』に関しては、今だフリートでも解析し切れていない面が多い。長い間この世界に居るアザゼルが保持している『神器セイクリッド・ギア』に関するデータよりも、フリートが持っているデータは少ないのだ。
 最もアザゼルの方からすれば、長年研究して漸く最近人工神器セイクリッド・ギアを形にして来たのに、既に自分達には及ばないながらも形を組み上げているフリートの方が異常だと思っているのだが。

「明日辺りには今回の件は終わるだろうな」

「でしょうね。コカビエルは既に自分一人でも戦争を始める気のようですよ。巻き込まれる方としたら迷惑ですよね」

「アザゼルの話では奴は戦争を生き残ったのは自分の実力だと勘違いしているようだな・・・ククククッ、そんなに戦争がしたいんだったらさせてやるさ」

「そうですよね。此処までやったんだったら、自分が死ぬ覚悟も出来ているでしょうから・・存分に戦争をさせて上げるのが供養ですね。どうせ捕まったら『地獄の最下層コキュートス』辺りで永久凍結封印ですからね」

「今死ぬか、永久に動けないかの違いだ・・・・いや・・もしかしたら誰かが利用する為に復活させるかもしれんから・・・・・後腐れなく済ましてやる」

 そう、ブラックはフリートに告げると共に部屋から出て行った。
 完全にコカビエルの命運が決まったとフリートは確信しながら、話している間に起動させていた機械から出て来た光り輝く球体を手にとって眺める。

「・・・・綺麗ですね・・・この子達の『因子』を本当の意味で受け入れられる者が居るとすれば、それは一人だけでしょうね・・・・・・フゥ〜、一誠君に研究が終わったら渡す予定でしたけど、どうやらその前に一度私が使う必要が出ましたね。エクスカリバーと同様に伝説に名を残す龍殺しの聖剣『アスカロン』を」

 そう言いながらフリートが目を向ける先には、研究用のカプセルの中に聖なる波動を発しながら浮かんでいる聖剣『アスカロン』が存在していたのだった。





 一方その頃、『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』の回収が予想外な形で不可能になってしまったゼノヴィアとイリナは、街の暗がりをトボトボと落ち込みながら歩いていた。
 『天閃の聖剣エクスカリバー・ラピッドリィ』も回収出来るチャンスだったのに、自分達の行動が邪魔をしてしまいバルパーとフリードが持ち帰ってしまった。更に二人が落ち込んでいるのは自分達教会側が保管していた『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』に拒絶された事だった。本来は自分達の手元に在るべき剣に拒絶された事実は、ゼノヴィアとイリナの心中を掻き乱していた。

「・・・・ゼノヴィア?・・・『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』はどうするの?・・アレも回収しないといけないけど・・・『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』は私達を・・・」

「・・・もう一度試してみる・・あの時に拒絶されたのはイリナだったから、今度は私が試してみるさ・・人工的な聖剣使いであるお前よりも、私の方が触れることが出来る可能性がある」

「そ、そうね・・じゃ、『夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア』は最後にして残りの二本を先に回収しましょう」

「あぁ・・連中がこの辺りを捜索していた事から、堕天使コカビエル一味のアジトはこの辺りの何処かに違いない」

「えぇ!じゃ、すぐに捜索しましょう!」

 イリナは雰囲気を変えようと元気な声を出し、ゼノヴィアはその様子に苦笑しながらも頷き、二人が前へと歩き出そうとした瞬間、二人に巨大な不気味なプレッシャーが襲い掛かる。

ーーーゾクッ!!

『ッ!!』

 全身が総毛立つ様な巨大なプレッシャーにゼノヴィアとイリナは目を見開きながら上空を見上げる。
 其処には、月をバックに装飾の凝った黒いローブを身に纏った十枚の黒い翼を背中に生やした若い男が浮かんでいた。
 その男の姿を確認したイリナは襲い掛かるプレッシャーに体を震わせながらも『擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』を構え、ゼノヴィアも顔を険しくしながら『破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』を構える。

『・・・堕天使・・・コカビエル』

 二人が呟いた名前を、宙に浮かんでいた堕天使コカビエルは肯定するように好戦的な笑みで口元を歪めながら、イリナとゼノヴィアの二人を見下ろすのだった。


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lizeru様
・誤字報告ありがとうございました!!誤字の方は修正しました!!
確かにそうなんですけど、時に権力を持った者が欲望の為に暴走したのが原因でしょうね。その結果が人道を外れたんでしょうね。フリードへのドロップキックは最初から決まっていました。奴にはそれさえも生温いんですけどね。

ショウゴ様
・此方こそ感想ありがとうございます!
一誠君は三巻では活躍がちょっと経るかもしれませんが、次の第四巻では乳龍帝大暴れ決定しています。ドライグ、アルビオンの災難が本格的に始まるのです。引き金を引くのはもちろんあのお方です。

RAN様
・今回は作戦だったので運が良く助かりましたが、寧ろ此処で二人は死んで居た方が幸せなのかもしれません。だって、ブラックとフリートですので。

羊羽様
・名前はそれですね。三巻は終わりませんでした。寧ろ此処で終わっていた方が、バルパー、フリードにとっては幸せな未来が待っています。

武者丸様
・はい。祐斗君がゼノヴィアを皮肉な事に救っていました。
第三巻まではまだまともな一誠君なのですが、四巻の内容から遂に『乳龍帝』の称号が相応しい行動をして行きます。つまり、ドライグ、アルビオンの災難の日々が始まるのです。子猫に関しては原作でも一緒に活動することが多いので、少し多めに活躍して行きます。五巻の禁手化が無くなりましたので。

ディヴァン様
・本人は要らないと言っているんですけど、『夢幻の聖剣』の方がブラックと一緒に行動したいと考えています。

レイフォン様
・お久しぶりです。聖剣に関してはバルパーに地獄を見せる為に盛り込みました。最もブラック本人からすれば『夢幻の聖剣』は要らないんですけどね。だって、本来の姿で使えば一瞬で『夢幻の聖剣』が粉砕しますので。
グレートレッドの方がブラックよりも強いです。つまり、ヴァーリからすればグレートレッドの前にブラック、その前に一誠と言う認識になるでしょう。最もブラックが何時までもグレートレッドを上にして置く筈が無いので、何れは超える可能性が在ります。ブラックがオメガブレードを解放すれば別なんですけどね。

kusari様
・天界側は『アルード』を認めているのですが、教会は自分達の権威を喪失しない為に異端としたのです。イリナ達は自らの求める物に否定されてしまいかなり落ち込みました。
バルパー、フリードは辛くも逃れましたが、絶対に此処で死んで居た方が幸せだったと言う未来が待っています。

とある見習い小説家様
・今回はブラックの恐ろしさが本格的でなかったので、精神的に助かりましたけど、コカビエル戦になったら敵味方関係なく恐怖と言う感情を植えつけるでしょう。

オカムー様
・今回は運が良くリンディの作戦の為に助かりましたけど、絶対に此処で死んでいた方が幸せだった未来が待っています。ブラック達に目をつけられた時点で相手側に天国など訪れないのです。
無知とは怖いですよね。知っていたら逃げられないと分かっていても、地の果てまで逃げるような猛者なんですけどね。

次回も頑張ります!!
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