駒王学園の旧校舎オカルト部の部室。
その部屋に祐斗を通してリンディからの連絡を受けたリアス、朱乃、小猫、アーシア、オーフィス、そして自身の眷属に被害が及んだ事も在ってソーナと、その『
女王』である真羅椿姫が元士郎を連れて来るリンディ達を待っていた。
その間にソーナは自身の『
兵士』である留流子から聞いた情報をリアス達に説明していた。
「・・以上が私の眷属に起きた出来事よ、リアス」
「そう・・・コカビエルの一味はどうやら教会側だけじゃなくて、私達にも危害を与える気になったのね・・しかも、ソーナの方を狙うなんて」
「部長・・私としてはリンディさんが教えてくれたコカビエルの目的を考えれば、シトリー側を狙うのは当然かもしれませんわ・・ソーナのお姉様の事を考えると」
「・・・・た、確かにそうかもしれないわね。と言う事は、今回のシトリー眷属のコカビエルの襲撃は、ソレが目的だったと考えるべきね」
朱乃の言葉にソーナの姉の性格を思い出したリアスは頭を痛そうにしながら押さえ、ソーナも同じように頭を押さえる。
ソーナの姉であるセラフォルー・レヴィアタンはソーナを溺愛している。それこそソーナが汚されでもすれば、堕天使側に戦争を仕掛けるだろう。その辺りの事をコカビエルが知っているかは分からないが、この地に居る魔王の身内の眷属を狙ったのは、魔王の怒りを自身に向けさせる為と言う事は充分に考えられた。
自分勝手な目的の為に自身の眷属を消滅させられかけたソーナは怒りを堪えていると言うように、膝の上に載せていた手を強く握る。
リアスも自身の眷属が狙われていたらと思うとソーナの怒りは他人事では無かった。何せ相手側には上位の聖剣が在るのだ。聖剣のダメージは上級悪魔でさえも消滅させてしまうほどの脅威。もはや、今回の件を傍観していられる状況では無いのだとリアス達は確信し、それぞれ複雑そうに顔を歪める。
それぞれが今回の件に対して考えを巡らせていると、部室の扉が開き、気絶している元士郎を背負った一誠と祐斗が最初に部屋の中に入って来る。
ーーーガチャッ!
「部長!匙を連れ帰って来ました!」
「匙!」
部屋に入って来ると共に一誠が声を出すと、ソファーに座っていたソーナと椿姫が慌てて駆け寄って来る。
一誠は二人を安心させるように笑みを浮かべると、ゆっくりと気絶している元士郎をソファーの方に運んで祐斗の手を借りながらソファーに元士郎を寝かせる。ソーナと椿姫は心配そうに元士郎の状態を確認するが、元士郎は所々に斬られた様な後を服に残している以外、穏やかな息を吐きながら眠っていた。
「傷の方はフリートさんの薬で治しました。リンディさんからも、少し血を流したから気絶しているだけだって言われたんで・・安静にしていれば大丈夫だと思います」
「そうですか・・・兵藤君、木場君・・・匙を助けてくれて本当にありがとうございます」
「本当に助けてくれた事を感謝します」
(会長もやっぱり厳しそうでも眷属を大切に思っているんだな。匙、お前は大切に思われてるぜ)
自身と祐斗に向かって深々と頭を下げているソーナと椿姫の姿に、一誠は微笑みながら眠り続けている元士郎に向かって微笑んだ。
その様子にリアス達も無事に戻って来た事実に安堵の息を吐いていると、黒く塗り潰された『
夢幻の聖剣』を持ったリンディが部屋の中に足を踏み入れる。
「こんばんわね、皆さん」
『ッ!!!』
リンディの挨拶にリアス達は、その手の中に在る『
夢幻の聖剣』に気がつき、黒く塗り潰されている『
夢幻の聖剣』に驚愕と困惑に包まれながら目を見開く。
その様子に気がついたリンディは苦笑を浮かべると、ゆっくりと『
夢幻の聖剣』をソファーの間に置いてある机の上に載せて事情を説明する。
「驚かせてゴメンなさいね・・この聖剣の事は今は気にしないで頂戴ね」
「・・えぇ・・分かりました・・それで状況はどうなんですか?」
「・・そうね・・・・先ずはコカビエルのアジトが判明したわ」
『ッ!!』
アッサリとリンディが告げた事実に、事前に話を聞いていた一誠、祐斗、そしてオーフィス以外の全員がリンディを驚きながら見つめる。
「今日の件で予想よりも早くバルパーが表に出て来てくれたおかげで、作戦は一部を除いて以外は成功した。明日にでも襲撃をかけて今回の件は全部終わらせるつもりよ」
「一部と言うと?」
「部長。教会の二人の事です」
「俺の師匠をコカビエル側だとイリナが勘違いして攻撃して来たんですよ。そのせいで倒せた『はぐれ悪魔祓い』がバルパーと一緒に逃げたんですよ。使っていた『
天閃の聖剣』を持って」
「そう・・・まぁ、あちらとは手を組んでいる訳じゃないから介入は考えられたけど、最悪なタイミングで介入して来たと言う訳ね」
「そうなるわ」
リアスの言葉にリンディは頷きながら答えた。
予想外のゼノヴィアとイリナの介入は在ったが、リンディ達の作戦は概ね成功を収めている。既にリアス達は知らないが、リンディはコカビエルがどう動こうと対処出来るだけの準備は終えているのだ。
コカビエルが所属していた組織である『
神の子を見張る者』の方も、総督であるアザゼルと上層部の堕天使達が睨みを効かせているのでコカビエルの考えに同調した者が居るとしても動くことは出来ない。
更に言えばアザゼルからの連絡で既にコカビエル一味を裏で支援していた者達の排除も終わっている。既にコカビエル一味が行なえる行動は限られている。
進退窮まったコカビエル達が次に行う事をリンディ達は凡そ予測出来ていた。その為の準備も既に終えつつある。
もはやどうやっても、コカビエル達はリンディ達が敷いた包囲網から逃れる事が出来ない状況に追い込まれていた。
「次にコカビエルが狙うとすれば、先ず間違いなくこの場所、『駒王学園』でしょうね」
「やっぱりッ!」
「この学園を戦場にする気だと!?コカビエルは!?」
リンディの言葉にリアスとソーナは苦虫を噛み潰したような顔をしながら声を出した。
シトリー眷属をコカビエル一味が狙った時点で、コカビエルは教会側ではなく悪魔側からの戦争への発展を考えて動いた。結局エクスカリバーを強奪しても、教会側が出したのは弱いエクソシスト達とゼノヴィア、イリナの二人だけ。
教会からのこれ以上の動きが無いと悟ったコカビエルが次に狙うとすれば、魔王の妹であるリアスとソーナの二人以外に考えられないのだ。
「恐らく明日か今日辺りにあちらから何かしらの動きが在ると見て間違いないでしょうね。最もそれも予測の範囲内よ。コカビエル一味がこの場所に足を踏み入れた瞬間に、彼らは強制的に別空間に送られる手はずになっているからね」
「・・そう簡単に行くのでしょうか?相手は堕天使コカビエル・・例え別空間に送ったとしても、戻って来る可能性は充分に考えられるのでは?」
「普通ならそうでしょうね・・でも、その場所がこの駒王学園と全く同じ場所だったとしたらどうかしら?」
「そんな都合の良い場所が在る筈がありま・・・・ッ!!」
「私達がライザーと行なったレーティングゲームのフィールド!?」
話している途中で何かに気がついた朱乃に続くように、リアスは自分達が行なったレーティングゲームのフィールドを思い出して叫んだ。
「そう・・実は貴女達がレーティングゲームを行なったフィールドは・・実はサーゼクスさん経由でフリートさんに渡されていたのよ・・・じ、自分の趣味の為にね」
「しゅ、趣味って・・お兄様一体何を考えているの?」
リンディが告げた事実にリアスは頭を痛そうに押さえながら声を出した。
何か絶対録でもない事の為に使用するつもりだったのだとリアスは悟るが、今回はその行動が助かった。何せコカビエルはともかく、ブラックが本気で戦えばどうやっても戦場となった駒王学園は廃墟と化す。流石にそうなったら不味いので、サーゼクスが趣味の為にフリートに渡していた駒王学園を模したレーティングゲームのフィールドにコカビエル達を引き込む作戦をリンディ達は取ったのだ。
リンディ達の準備とは、その空間を現実世界だとコカビエル達に誤認させる為に作り変える作業なのだ。
一誠はリンディの説明を聞き、ブラックが本気で暴れる場所がある事実に心の底から安堵の息を吐く。
(ハァ〜・・良かったぜ・・もしも師匠がこの街で暴れていたらと思うと・・ゾッとするぜ、本気で)
(あぁ・・・俺も同感だ・・先ほどはつまらん相手だったから助かったが・・・・もしもアレが楽しんだ戦いだったら・・相棒、お前の幼馴染は今頃は跡形も無くこの世から消え去っていたぞ)
(だよな・・イリナの奴・・本当に運が良かったよな)
そう一誠は此処には居ないゼノヴィアとイリナの強運に心の底から感心する。
今回ブラックが戦った相手だったフリードが、もしもブラックが認めるほどの実力者だったら戦いに乱入して来たイリナの命は無かっただろう。フリードとの戦いを心の底からつまらないとブラックが感じていたからこそ、イリナに対してブラックは何もしなかったのだ。
そして打ち合わせは終わりだと言うようにリンディはテーブルにおいて置いた『
夢幻の聖剣』を手に持って部室から出て行こうとするが、その前にリアスがリンディを呼び止める。
「待って、リンディさん」
「何かしら?リアスさん?」
「・・・明日行なわれると言う戦いだけど、一誠と祐斗だけじゃなくて私達全員参加させて貰って良いかしら?」
「部長!?それは!?」
「祐斗・・もうこれだけの事態になったとしたら、私もこの地の管理者として見過ごせないわ。どんな結果になるとしても見届けないといけないのよ」
「リアス・・なら、その戦いの場に私と椿姫も加えて下さい・・コカビエルの一味は私の眷属を傷つけました・・何かしらのお返しをしないと気が済みませんので」
「・・と言う事らしいのだけど・・どうでしょうか、リンディさん?」
リアスがそう質問すると、リンディはゆっくりと部室内に居る残りの朱乃、アーシア、子猫に目を向けるが、三人ともリアスの言葉に同意するように深く頷く。
その様子にリンディは溜め息を漏らすが、確かにリアスの言葉は間違いないと内心で同意する。先ず間違いなくコカビエルはリアスかソーナに対して宣戦布告を行なうのは間違いない。つまり、どうやってもリアス達とコカビエルが相対するのは避けられない。
その前にリンディ達がコカビエルを襲撃する事も出来るが、その場合は高い確率で街に被害が及んでしまう。被害を最小に抑える為にも仕方が無いことだとリンディは判断してリアス達に顔を向ける。
「分かったわ・・だけど、絶対にコカビエルとブラックが戦う時は手を出させないでね・・・・他の連中はともかく、ブラックの戦いに手を出せば最後なのだからね」
「・・分かりました」
「その条件さえ呑めば良いのなら、私も構いません」
リンディの言葉に隠されている意味が分からずとも、自分達が参戦出来るのならとリアスとソーナはそれぞれ同意を示すのだった。
一誠の家への帰り道。
既に夜も遅く、街灯の光で照らされているその道を部室での話し合いを終えた一誠、アーシア、オーフィスは歩いていた。
「イッセーさん!明日は頑張りましょう!」
「あぁ・・・(俺としたら出来るだけアーシアを危険な目には合わせたくないんだけど・・この様子じゃ説得は無理だよな・・オーフィスは戦いの場には来れないしな)」
『
無限の龍神』であるオーフィスの姿を知る者は少ないが、その身から発せられるオーラは腕の中に居るベルフェモンの力を抑えていても隠し切れない。
それでも以前に『
禍の団』に居た時よりもオーラは落ちているのだが、流石に直接相対すればオーフィスが放つ途轍もない気配をコカビエルが感知する可能性は高く、罠だと悟られてしまう可能性が高いのでオーフィスは待機するしかないのだ。
本当は自分も行きたかったと言うように不機嫌そうに頬を膨らませているオーフィスの姿に、一誠は苦笑を浮かべながらオーフィスの頭を優しく撫でる。
「今回は留守番だけど、絶対に戻って来るから安心してくれよ」
「・・・ん・・分かった・・我、待ってる」
一誠の言葉にオーフィスは不満そうにしながらも頷いた。
その様子にアーシアは苦笑を浮かべるが、突如として一誠とオーフィスの顔が険しく歪むのを目にする。
「・・・・ど、どうしたんですか?」
「・・・・血の匂いがするんだ」
「ッ!!・・ほ、本当ですか?」
「あぁ・・・オーフィス」
「分かってる」
一誠の声にオーフィスは答えながらアーシアを護るように立ち、一誠は警戒しながら血の匂いが漂う路地裏の方へと進んで行く。
(また、エクソシストがやられたのか?)
(可能性は高いが・・・既にかなりの人数のエクソシストが連中にやられている・・もしも今の状況でコカビエル達に狙われる可能性が在るとすれば)
(ッ!!)
ドライグの言う可能性に行き着いた一誠は顔を更に険しく歪めて、血の匂いが漂う路地裏を覗いて見ると、全身傷だらけで血まみれになっているゼノヴィアが荒い息を吐きながら壁に背を預けて気絶していた。
「クッ!!・・師匠が『
夢幻の聖剣』を奪ったから、二人のエクスカリバーを狙ったのか?」
(だろうな・・・・二人を狙う可能性は充分に考えられただろうが・・手を結んでもいない相手を気にかけるほどリンディ達は優しく在るまい・・ましてや、コカビエル達に這入り付いているのはルインフォースだ・・・奴が自身の主であるブラックに攻撃した者を助けるとは考えられん)
「だよな・・・・『
破壊の聖剣』は奪われたのか?」
血まみれになって気絶しているゼノヴィアを一誠は支えるように体の下に両手を入れながら、ゼノヴィアが所持していた筈の『
破壊の聖剣』が無い事に苦虫を噛み潰したような顔をする。
状況から考えて、自分達と分かれてからさほど時間が経たない間にゼノヴィアとイリナは襲われたとしか考えられない。目的はゼノヴィアとイリナが持っていた『
破壊の聖剣』と『
擬態の聖剣』以外に一誠は考えれなかった。
「イリナの姿が無いな・・・・連れ去られたのか?」
(可能性は高いな・・宣戦布告にコカビエルの奴が使う可能性が高い・・となれば、リアス・グレモリーか、ソーナ・シトリーの下に運ばれるだろう・・最も生きているかどうかは分からんがな)
「ッ!!」
ドライグの声に一誠は僅かに目を見開く。
アーシアの件で幾ら戦いあったとしても、一誠にとってやはりイリナは幼馴染の相手。だからこそ、ブラックに対する忠告を送ったりしたのだ。
最も結局それは聞き入れてはくれなかったが、無事で在る事を一誠は願いながら気絶しているゼノヴィアをお姫様抱っこで路地の外へと連れて行くと、アーシアがゼノヴィアの姿に目を見開く。
「イッセーさん!?その人!?」
「あぁ・・多分・・コカビエル一味にやられたんだろう・・アーシア、悪いけど?」
「はい!」
一誠の言いたい事が分かったのか、アーシアは一誠の腕の中に居るゼノヴィアに両手を向けて緑色のオーラを発してゼノヴィアの傷を癒して行く。
徐々にアーシアの力が効いているのか、ゼノヴィアの表情は緩和して行き、荒かった息も穏やかになって行った。
取り敢えずの応急処置は終わったと判断した一誠は、アーシアに向かって首を横に振るう事で治療を中断させて、自身の家の方に体を向ける。
「此処での治療は終わりにして、一先ずは家に戻ろう・・・俺の腕の中にずっと抱えている訳にも行かないからな」
「はい!!」
「分かった」
一誠の言葉にアーシアとオーフィスは頷き、そのままゼノヴィアに出来るだけ負担をかけないようにしながら自分達の家へと戻って行った。
翌朝の兵藤家内に設けられたアーシアの部屋。
小奇麗に纏まっているその部屋の中で昨夜一誠達の手によって運ばれたゼノヴィアが目を覚ましていた。一体何故自身は見知らぬ部屋の中にいるのかと部屋の中を見回してみると、自身が眠っていたベットの横に置かれている椅子に座って眠っているアーシアの姿を目にする。
「・・アーシア・・アルジェントか?」
「気がついたか」
ゼノヴィアが椅子に座って眠っているアーシアの姿に驚きながら声を出していると、別の声が響き、ゼノヴィアは朝食らしき物が載っているトレイを持った一誠を目にする。
「兵藤一誠?・・では、此処は」
「俺の家だ・・昨日部室での話し合いの後の帰り道で傷だらけになったお前を見つけて連れて来たんだ・・アーシアに感謝しろよ・・昨日帰って来てからずっとお前の傍で見ていてくれていたんだからよ・その証拠に体に傷は無いだろう?」
「ッ!!」
言われてゼノヴィアは昨夜自身がコカビエルに負わされた傷が全て治癒されている事に気がつき、治療してくれただろうアーシアを呆然と見つめる。
「・・・何故だ?」
「何がだよ?」
「・・・・何故・・何故・・アーシア・アルジェントは私を治療した?・・・私は彼女を異端だと言って殺そうとした?・・それなのに・・・何故彼女は?」
「・・・アーシアにはそんなの関係ないんだよ・・目の前で消えかけている命があったら、アーシアは癒そうとするんだ・・悪魔や殺そうとした相手だって・・アーシアは放っておけなかったから、お前を治したんだ」
「・・・・」
一誠の言葉にゼノヴィアは何も言えずに顔を俯かせる。
異端だと告げて批判したアーシアに自身は助けられた。その事実は昨夜の『
夢幻の聖剣』の拒絶に勝るとも劣らないほどにゼノヴィアの精神を揺らしていた。
本当にアーシアは異端だったのかとさえも疑問に満ち溢れる。一誠はそんなゼノヴィアの苦悩を感じたのか、手に持っていた朝食が載っているトレイをゼノヴィアに差し出す。
「まぁ、とにかくだ・・ほら、朝食だ・・昨日かなり血を流していたから、食事は取らないと不味いぞ」
「・・・・『
破壊の聖剣』はコカビエルに奪われた」
「・・・・やっぱりか」
「・・・お前達と分かれた後にコカビエルに私とイリナは襲われ・・・『
破壊の聖剣』と『
擬態の聖剣』が持ち去られた・・・・イリナはその時に奴に連れて行かれた・・・・切り札を使う暇も無かったよ」
「・・何でコカビエルはお前を殺さなかったんだ?」
「・・・・生きて私が教会に戻れば、教会側も本腰を入れると考えたのだろう・・・イリナの方は分からないが・・・・自分達の手駒として使う気なのかもしれない・・・どうやら、自分が『
神の子を見張る者』から抹殺指示が出ていることを分かっているようだったからね」
「そうか・・・情報ありがとな」
一誠はそうゼノヴィアに感謝の言葉を告げるが、ゼノヴィアは顔を被っていた毛布で覆い隠す。
その様子に一誠は苦笑を浮かべながら部屋の中に在るテーブルに持っていた朝食を置くと、眠っていたアーシアの瞼が動く。
「ぅん・・ん〜・・アッ、イッセーさん・・・おはよう・・ございます」
「おはよう、アーシア・・勝手に部屋に入って悪かったな」
「いえ、気にしないで下さい・・・ゼノヴィアさんは・・・やっぱりまだ目を覚まさないんですね」
アーシアは心配そうに声を出しながら、自身のベットの上に横になって布団で顔を隠しているゼノヴィアに目を向けた。
一誠はその様子に苦笑しながら、ゆっくりと立ち上がり、アーシアに手を差し出しながら声を出す。
「アーシア、ゼノヴィアの朝食は持って来たから、俺達も下に降りて朝食を取ろうぜ」
「はい!」
そうアーシアは返事をすると、一誠と共に階下へと下りて行った。
残されたゼノヴィアはアーシアと一誠が階下に向かうと共にベットから起き上がり、ゆっくりとテーブルに載っている朝食に目を向ける。
そしてリビングで一誠達が朝食を終えると共に、オーフィスが持っているフリート印の携帯から着信音が鳴り響く。
ーーーピピピピッ!!
「電話・・・・・・・・・・分かった・・一誠とアーシアに伝える」
ーーーピッ!
携帯を切ると共に自身に目を向けていたアーシアと一誠にオーフィスは顔を向けて、電話の内容を説明する。
「リンディから連絡。コカビエルがリアスの下に現れて宣戦布告した」
『ッ!!』
「場所は予想通り、『駒王学園』・・・・向かうメンバー、駒王学園前の公園に集合」
「・・分かった・・アーシア!すぐに仕度だ!」
「はい!!」
一誠の声にアーシアは即座に返事を返して、二人はそのままベルフェモンを抱えたオーフィスと共に駒王学園の目と鼻の先に在る公園へと向かって行った。
その様子をゼノヴィアはアーシアの部屋の窓からジッと何かを考え込むように見続けたのだった。
駒王学園の目と鼻の先に在る公園内部。
既にその場所にはオカルト部の面々と生徒会のメンバーに、リンディと怪しげな機械を操作しているフリートの姿が在り、公園から見える駒王学園に全員が目を向けていた。
「ん〜・・リンディさん・・例のフィールド内部にコカビエルと、昨夜ブラックに左腕を斬りおとされたと言う『はぐれ悪魔祓い』に、何かの儀式を行なっているバルパーの姿を確認しました。序でに明らかに洗脳されていると思われるイリナって子も居ますね」
「イリナもですか!?フリートさん!?」
「はい、そうですよ、一誠君・・どうもあっちの手勢は潜ませている魔獣らしき者の数体と、今言ったメンバーだけみたいですね・・・これだけの連中でどうやって戦争する気なんでしょうか・・・本当に?」
フリートはそう小首を傾げながら疑問の声を述べた。
明らかに戦争を引き起こせるような戦力ではない。更に言えばバルパーとフリードに、洗脳されているイリナはともかく、コカビエルの方は明らかに自分達が居る場所が擬似的な空間だと分かっているのに空間と繋がっているフリートの視界の先で薄ら笑いを浮かべている。
つまり、何が来ても自分なら大丈夫だとコカビエルは考えている証拠だった。
「分かっていた事ですけど・・・・アホですかね・・あの堕天使?・・アザゼルが頭を抱えるのも凄く分かりますよ」
「無駄口はいいわ、フリートさん・・ソーナさん?学園の方はどうかしら?」
「はい・・リンディさんの指示通りに学園の水道管が破裂したと言う事にして、今日は学園は休校と言う形にしました・・遺憾な面は在りますが・・一般の学生に被害を及ばないようにするにはコレしかありませんから」
ソーナは事前にリンディからコカビエルから宣戦布告が出次第に、駒王学園から一般の学生や教諭を避難させる様に告げられていた。
幾ら別空間で戦うとは言っても、被害が現実世界に及ばないと言う保障は無い。特にブラックが戦う場合は、別空間で戦うと言っても現実世界に影響を及ぼす可能性も秘めているのだ。故にリンディは事前に被害を及ばないようにする為に策を幾十にも打っていた。
「フリートさん!結界の構築は!?」
「はい!既に学園を囲むように衝撃防御、空間作用、人払い、隠蔽、その他在りとあらゆる可能性が考えれる戦いの余波に対する結界を構築済みです。凡そ三十以上の結界を学園に張り巡らしました!!一番影響率が高いと思われる空間作用の結界は五層張りましたよ!」
『ッ!!』
リンディの質問に対するフリートの答えに、オカルト部と生徒会の面々は一誠とオーフィスを除いて全員が目を開いた。
簡単に答えたフリートだが、その張り巡らしたと言う結界の姿をリアス達は誰一人とし感じ取る事が出来なかったのだ。今こうして知らされても、様々な力の流れを感じるのに秀でている朱乃でも、フリートが張り巡らした結界の気配を感じることは出来ない。
一体どれだけの実力者なのだと一誠とオーフィスを除いた全員がフリートを見つめるが、リンディは更に全員を驚愕させる指示をフリートに出す。
「その結界にプラス空間作用の結界を三層追加しなさい!昨日の戦いでブラックの機嫌は更に悪くなったのだからね!」
「了解ですよ!!ルインさんと共同して結界を張るので、時間的に約十五分ほどで完了します!その後にブラックを転送するんで良いんですよね?」
「えぇ・・構わないわ」
「リ、リンディさん?・・幾らコカビエルを相手にするからと言って、流石に結界の張りすぎじゃ」
「部長・・それは違います」
「イッセー?・・違うって何が?」
「・・今のリンディさんの指示は・・コカビエルに対してじゃなくて・・・俺の師匠の戦いに対する備えなんです」
『ッ!!!』
一誠が告げた事実にその場に居る全員がまさかと言う瞳で一誠、リンディ、フリートを交互に見つめるが、三人とも真剣な顔をして頷く。
唯でさえ不機嫌だったブラックが、昨日のフリードとの非常につまらない戦いのせいで更に機嫌は悪くなっている。その事実だけでリンディとフリートが最大限に警戒を行なう事は、ブラックの怒りを知る者全員が同意するものだった。
「この場に居る全員に伝えておくわ・・・・ブラックがフィールド内に入ったら、即座に私の傍に寄りなさい・・今のあの人が戦いが始めれば周りを気にするとは思えないわ・・それが最後のフィールド内に入る条件よ・・良いわね?」
そのリンディの質問に対してフィールド内に入るリアス、朱乃、ソーナ、椿姫、アーシア、子猫、一誠、祐斗の中には戸惑う者も居たが全員が同意するように頷く。
リンディはそれを確認すると、これ以上は時間を延ばせないと考えてリアス達と共に向かおうとするが、その前にフリートが祐斗を呼び止める。
「アッ!!祐斗君!ちょっと待って下さい!」
「?・・何でしょうか?」
「えぇとですね・・・コレを持っていて下さい」
フリートは言葉と共に白衣の中から取り出した光り輝く球体を取り出し、祐斗の手の中に載せた。
渡された祐斗は聖なるオーラが迸っている球体に驚くが、不思議とそのオーラは悪魔である祐斗を傷つける様子は無く、寧ろ祐斗の心に懐かしく、暖かな気持ちが伝わって来た。
「これは・・・・何だか懐かしい気持ちになります」
「・・・祐斗君・・恐らくバルパーは結界内で自慢げに自身の研究の成果を話すでしょう・・その時に貴方はその球体の正体を知る筈です」
「え?」
「・・その時に何が起きるのかは私にも分かりません・・ですが、きっとその球体は貴方に力を貸してくれる筈です・・良いですか?その球体を何が在っても手放してはいけませんよ」
「・・・理由は分かりませんけど・・・分かりました・・絶対にコレを手放しません」
フリートの指示に祐斗は頷きながら渡された球体を自身が着ている制服の内ポケットに仕舞い込む。
今度こそこの場での用は終わりだとリアス達が駒王学園に向かって歩き出すが、今度は昨夜のダメージから漸く回復した元士郎がソーナを呼び止める。
「会長!やっぱり、俺達も!?」
「匙・・貴方はまだ昨夜のダメージが完全に回復していません・・他の者も堕天使コカビエルの相手はキツイです・・私と椿姫だけがリアス達と共に行きます」
「会長!?・・・・クッ!!兵藤!木場!お前ら会長達を護れよ!もしも会長達に何か在ったら!?」
「分かってるよ、匙。会長も副会長も絶対に部長達と一緒に無事に戻す・・男の約束だ」
「僕も約束するよ」
悔しげに顔を歪めている元士郎に対して一誠と祐斗は拳を突き出しながら誓い、元士郎はその二人の拳に合わせるように自身の拳をぶつけ合う。
ーーートン!トン!
「・・・・それじゃ行きましょう!」
そのリンディの呼びかけに戦いに向かうメンバー全員が決意に満ちた顔をして頷き、一向は堕天使コカビエル一味との決戦の場で在る駒王学園を模したフィールドへと向かうのだった。