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白き剣姫の聖杯戦争 第四話 〜紅き瞳の誤算・前編〜
作者:たまも   2012/10/20(土) 23:28公開   ID:8YA7Hr6Ij6Y
アーチャーが召喚されてから二日後の二月二日、早朝。

まだ多くの学生が布団に噛り付いているであろうこの時間、衛宮邸の家主、衛宮志保は朝餉の用意をしている。
それは、毎朝続けてきた日課であり趣味だ。人が減っても、人が増えても、違う場所でも続けてきた、衛宮志保にとっての不変の日常。

そして、今日も今日とて朝餉の用意をするべく台所に立つ志保もまた、そんな変わらぬ日常を迎えられると思っていた。

しかしその日、いつもと変わらない朝を迎えた筈の衛宮邸に、一本の電話が鳴り響いた。
些細な変化、些細な出来事。けれどそれは、確実に衛宮邸の日常を脅かすものだった。

「もしもし・・・あ、お早うございます。はい、はい・・・・・・え?・・・あの、もう一度・・・・・・あー・・・・・・」

桜はまだ来ておらず、志保が料理の手を止め電話に出たのだが、その声は心なしか重い。
別に相手が気に入らないとか、料理の邪魔をされたからという訳ではないが、話が進んでいくにつれて志保の声に力がなくなっていく。
その目は若干虚ろで、もし桜が見たならば、邪な思考は吹き飛び心配と不安で軽い錯乱状態に陥ったかもしれない。

「はい・・・・・・あ、いえ。幹也さんのせいじゃないですから。はい。ああ、ただ・・・・・・師匠、いえ、橙子さんに、くれぐれもヨロシクお伝えください。はい、はい、では・・・」

静かに受話器を置き、志保は思わず溜息を吐いた。
とある知り合いからの電話だったのだが、内容はあまり喜ばしいものではなかった。

「・・・・・・はあ。まぁ、無理だろうとは思ってたけどね・・・・・・・・・不安は残るけどやるしかないか。昨日、遠坂が休んでいたみたいだし・・・・・・いよいよ、かな」

それは志保にとって最悪の報せではあったものの、だからといって嘆いてばかりはいられない。
凛が昨日、二月一日に欠席したことは綾子から聞いて知っていた。体調不良ということらしいが、恐らく嘘だろうと志保は思っていた。その可能性が全く無い訳ではないが、考え得る可能性はもう一つあるのだ。

(夜中にサーヴァントを召喚して、その疲れで寝坊・・・・・・で、遅刻するくらいなら、いっそ欠席したほうがマシって考えるだろうね、遠坂なら。っていうか、まだ召喚してなかったってことの方が驚きだけど)

そもそも、凛が聖杯戦争に参加しないという考えは志保の頭には無い。
凛が魔術師であることは知っていたし、何より凛は遠坂家の当主だ。
冬木の聖杯戦争を作った御三家の一つ、遠坂家。その人間が聖杯戦争に参加しない筈がなく、聖杯も参加者の選定は御三家を優先する。
これで関係ないと考える方が難しいだろう。

勿論、凛がサーヴァントを召喚したという確証はない。いわば、単なる志保の直感である。
だが、志保は一昨日凛と極普通に会話しており、その時点においては至って健康そのもので、具合が悪そうには見えなかった。むしろ、何かやる気が漲っている様子で、どこか張り詰めた雰囲気さえ感じられた。
それらを考えれば、どちらがより信憑性があるかは一目瞭然である。

まあ、一昨日までサーヴァントを召喚していなかったとすると、本当に聖杯戦争に参加する気があるのかと疑いたくはなるが。

それはともかく、その推測を前提として考えるなら、また一つ席が埋まったということになる。
聖杯戦争の開幕まで、もう幾何も無い。

「残るは一人、か。だっていうのに・・・・・・先が思いやられるなぁ」

志保はもう一度大きな溜息を吐くと、料理を再開するために台所に戻った。
そう、気落ちしたままで。

結果、中々料理に身が入らず、普段より料理の質が落ちた事は必定であったかもしれない。





それから瞬く間に時は過ぎ、舞台は移る。
穂群原学園、昼休み。

「・・・・・・はぁ」

志保は、授業が終わっても動く気配を見せず、自分の席で頬杖をつきながら小さく溜息を吐いた。
今朝から何度目の溜息か。あまり溜息ばかり吐くのも良くないのは分かっているが、それでも自然と出てしまうのだった。

尤も、今朝の電話については既に割り切っているので、今の溜息の原因はソレではない。
原因は、今朝作った弁当と目の前の光景。

いつもの様に、昼食を共にしようと集まってきた女性徒達。それを志保は若干憂鬱な心地で見やり、次に普段より数段質の落ちた弁当へと視線を落とす。

(あー・・・・・・どうしようかなぁ・・・・・・ありのままを言えばいいかな。あぁ、でもそれだと心配させちゃうかもしれないし・・・・・・う〜ん・・・・・・)

悩み自体はさして重大な事柄ではない。ただ、正直に良くない事があったと二年C組の女子達に告げた時の反応が、何より怖かった。それで彼女達が事の元凶に辿り着くとは思えないが、用心するに越したことはない。
何せ彼女達は、志保に関する事となると何を仕出かすか分からない。以前、とある男子が志保に無理矢理に交際を迫った際、彼女達が彼にしたことを思うと背筋が寒くなる。
どんなことをしたかは想像に任せるが―――というか喋るのも躊躇われる―――彼は一切口を噤み半年ほど登校拒否になったことを記しておく。
一応、彼女達の為にさわりの部分だけ説明しよう。
まず、彼女達は彼に対して肉体的な危害は一切加えていない。あくまでも穏便な手段で済ませた、というのは彼女達の談。
件の彼は女子に人気のある美形だったのだが、裏では色々と後ろめたいこともしていた。ここまで言えば察してくれるとは思うが、そういった彼の悪事が明るみになったことで彼女達は口実と切り札を得たのだった。そもそも、彼の自業自得という一面があったことを理解して欲しい。ある意味、志保に手を出そうとしたのが彼の運の尽きだった。

最早、時折見せる彼女達の行動は桜の域に達しつつあるのかもしれない。ベクトルは違うけれど。

ともあれ。

志保が眉を顰めて言い訳を考えていると、それに気付いたのか、栗毛の女生徒が志保の顔を心配そうに覗き込んでいた。
志保が慌てて笑顔を作ると、栗毛の女生徒は顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。

(え?あれ?何故に赤くなる!?・・・私、何か対応間違った?)

予想外の反応に戸惑い、志保は笑顔を引き攣らせる。幸いだったのは、頬を赤くした栗毛の女生徒がその時の志保の顔を見ていなかったことか。

とはいえ、志保がその理由を―――自分の笑顔を見て頬を赤らめている―――理解していない以上は為す術がない。

どうしようかと引き攣った笑顔のまま逡巡していると、唐突に思いもよらない所から助け舟が出された。

「志保さん。お客さんが来てるよ!」

「え?」

志保は、その背後から掛けられた言葉に疑問を感じつつも感謝した。
これで、一時的にせよこの空間から開放されると。

だが、安堵したのも束の間、志保は更なる疑念に晒されることとなる。

「・・・・・・遠坂?」

振り返り、志保の視線の先に居たのは、穂群原学園のアイドルの片割れ、冬木の管理人セカンドオーナー、遠坂凛だった。





「ここで、いいかしら?」

「うん。構わないよ、少し寒いけど」

そう言って、志保は苦笑しながら後ろ手に扉を閉めた。
場所は、肌寒い空気が身を震わす屋上。

凛は志保に話があるとのことで、人が少ないと思われる屋上へと来ていた。

志保は辺りを見渡して、他に人が居ないかを確認する。流石にこの季節に屋上で食事をしようという酔狂な人間は居なかったようで、人の気配は全く無い。
少なくとも、扉の外は。

「フェンスの方に行こう。何の話か知らないけど、扉の近くじゃ、ね?」

「・・・・・・あぁ、そうですね。そうしましょうか」

扉の内側では、野次馬根性を剥き出しにした生徒達が耳を欹てている。彼等は息を潜めているつもりなのかもしれないが、所詮は素人。胸中に秘めた欲望が駄々漏れで、逆に存在感を増す結果になっていた。
無論、それに志保と凛が気付かない筈はなく、揃って呆れた表情を作るのだった。

扉から離れた志保と凛は、フェンスに背を預け腰を下ろした。

「何ていうか、あの活力をもっと有意義に使えないものかしらね?」

「まぁ、そう言わずに。気持ちは分かるけどさ」

尤もな凛の言葉に苦笑を零しながら、志保は弁当を広げた。
同じように凛も弁当を広げ、志保と二人、何気ない友人同士の会話を交わす。

「はあ?・・・嘘でしょ。この出来で失敗したっていうのか、アンタは?」

凛は志保の弁当のおかずを口に運び、眉を顰める。
勿論、不味い訳ではない。むしろ美味しい。だというのに、作った本人が失敗したとぬかすのだ。
それでは一口食べた瞬間に、負けた、と思った自分は何なのだと、凛は肩を震わす。

「そう言われてもな・・・・・・それが原因で藤ねえが咆えたからなぁ。その後、桜と一緒に心配されたくらいだし。うん、桜か藤ねえに聞いてくれれば確認取れる筈だ」

そう真面目な表情で言う志保に、凛は思わず溜息を吐いた。
まさか、本気で確認を取りに行くなんて馬鹿馬鹿しいことが出来る筈もなかったが、そこまで言う以上、志保の言葉に嘘偽りは無いのだろう。

(だとしたら、コイツどれだけのポテンシャル秘めてるってのよ・・・)

「というか、遠坂の弁当の方が美味しいと思うけど」

「それは何?私に喧嘩を売っていると思っていいのかしら?」

「何でそうなるかな。本心から言ってるんだよ。遠坂の味は私のと全然違うし、結構勉強になるんだよ?」

「それはどうも。でも、だったら本当のアンタの料理はどれだけ美味しいってのよ」

凛の弁当のおかずを咀嚼している志保を横目で見ながら、凛は不貞腐れたような口調で言った。
その凛の表情が可笑しくて、志保はクスリと笑みを零した。
凛自身、らしくないと自覚しているのか、笑みを浮かべる志保を咎めることはせず、黙って頬を淡く朱に染めた。

「うーん、けど二年前までは、そうでもなかったんだよ。そう、だな・・・・・・多分この弁当か、それ以下くらいの腕前だったと思う」

それでも十分凄いんだが、という思いを押し込め、凛は疑問に感じたことを尋ねる。

「・・・ってことは、その二年前に何かあったってこと?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。まぁ、そうだね」

急に能面の様に表情を無くし、空を見上げる志保。
その瞳は虚空を見つめ、何を考えているのか想像もつかない。

「え?あの、志保?」

「うん・・・ちょっと、ね。ちょっと・・・・・・・・・色々、あったんだよ・・・うん・・・色々・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

それ以降、妙な雰囲気の中で二人は弁当を食べ続け、そのまま終わるかと思われたが、凛の弛まぬ努力により、何とか空気を正常に戻すことに成功した。
当然、料理以外の話題に終始したことは言うまでもないだろう。

その後、二人共に弁当を食べ終えた所で、志保は何気ない口調で切り出した。

「しかし、珍しいな」

「ん?何が?」

「恍けるなよ。遠坂から私に話しなんて、滅多にないだろ。で、いい加減何の話なのか教えてくれてもいいんじゃない?」

志保にそう言われ、僅かに目を見開く凛。
凛は、一つ溜息を吐くと意を決したように告げた。

「そう、ね。別に大した話じゃないんだけど・・・」

凛の口から語られた内容は、額面通りに受け取るのなら、確かに然程重要な話ではなかった。

内容を要約すると、"最近は物騒な事件もあるのだから、他人の手伝いなどせずにさっさと帰れ"ということだった。

ちなみに、物騒な事件と言っても、最近ニュースで報道されるているのは原因不明の集団昏睡事件くらいである。
それも立派に不可解な事件ではあるが、取り立てて警戒するような事件でもない。
いくら志保が人が好くて、他人の手伝いなどで遅くまで学校に残ることが多いといっても、特に気にかける必要もないだろう。

それらを含めて考えるなら、心配性の友人が仲の良いお人好しの友人を心配して言ったと捉えるのが普通であろう。

だがしかし、遠坂凛は魔術師である。
それも、聖杯戦争に参加するマスターの一人。
だとするならば、言葉の裏に隠された本当の意味を察することは難しくない。
一つ言えることは、どちらにしても気持ちの方向性は同じだということだ。

「・・・・・・ん、了解。何でかは知らないけど、ご忠告通り、とっとと家路に着くことにするよ」

「ええ、そうして頂戴」

志保の答えに満足したのか、凛は安堵の表情を浮かべる。
それを見た志保は、柔らかな微笑を浮かべて言った。

「遠坂ってさ、優しいよね」

「んなっ、何よいきなり!」

凛は、志保の言葉を聞いて頬を一瞬で紅潮させた。
これが漫画やアニメであれば、頭から立ち昇る湯気が見えたことだろう。

「別に、ただそう思っただけだよ」

その混じりっけのない純粋な志保の笑顔の前に、凛は口を噤むしかなかった。

「さて、と・・・・・・じゃあ、そろそろ行くよ」

志保は徐に立ち上がり、数歩進んだ所で不意に振り返った。

「あぁ、そうだ。言い忘れてた」

「ん?」

「遠坂、今度さ、家に夕飯食べに来ないか?」

「はい?」

凛は、訳が分からない、といった表情だ。
今まで料理の話題を持ち出さないようにしていたのに、志保はあっさりとそれを口にした。
努力が無駄に、とは思わないまでも、凛は少し拍子抜けした様子だった。

「いや、何か遠坂がどうにも本当の私の腕を信用してないみたいだったからさ、どうせだったら夕食に招待しようと思って。腕に縒りを掛けて作りますよ?」

悪戯っ子のような表情を浮かべ、冗談めかした口調で言う志保。
凛は、そんな志保に呆れつつも不適に微笑み、真直ぐに志保の紅い瞳を見つめ返した。

「そう?だったら考えておくわ。ただし、私を納得させられなかったら承知しないわよ」

「ふふ、臨む所だよ」

暫し見詰め合った後、志保は扉へと歩んで行き、凛は弁当箱を片付ける。
だがまたしても、志保はドアノブに手を掛けたまま振り返った。

「あぁ、それと遠坂。早くしないと、次の授業始まるよ?」

「え?」

驚いた凛の声と共に響く予鈴の音。
だが、その予鈴の音さえも掻き消さんばかりの大きな音が、扉の内側、校舎側から聞こえてきた。
それは丁度、数人の人間が駆け回り、階段から転げ落ちるような、そんな騒音だった。

弁当を携えて扉まで歩んできた凛は、志保と顔を見合わせ、揃って溜息を吐いた。





やがて一日が終わり、放課後。
教室には生徒達の姿はほとんどなく、辺りは刻々と暗くなっていく。
日が沈み夜になれば、校舎に残る人間は一人もいなくなるだろう。

「さて、アーチャー。まずは、結界の下調べ。どんな結界か調べてから、どうするかを判断しましょう」

凛は姿の見えない相棒、アーチャーに声を掛ける。

『承知した』

アーチャーは、パスを通した念話で答える。
凛は頷くと、暗い校舎を進んでいった。

何故凛とアーチャーがこんなことをしているかと言えば、学校全体に巨大な結界が仕掛けられているからである。
凛達がそれに気付いたのは、朝の登校時。まだ展開されていないというのに、この結界は異常な気配を振り撒いていた。

結界の効果は千差万別。
志保の静止の結界のように境界線で作用するものから、内側に作用するものなど様々だ。

その中で、この結界は内側に作用するものに該当する。
攻撃性の高い、結界内における生命活動の圧迫、それがこの結界の効果。未だ完成はしていないが、一度発動すれば、校舎内にいる全ての人間が昏倒するだろう。
だがそんなものは、凛には通用しない。それは、凛個人を狙ったものではなく、土地全体に作用するものだからだ。体内に魔力を通す魔術師は、そのように広範囲に作用する効果を弾いてしまう。

故に、この結界の狙いは魔術師、マスターではない。
恐らく、その標的は学校内の人間全て。
そんなことをする理由は一つしかない。
それはつまり、凛にとっては喜ばしくないものだ。

校内を隅々まで調べ、最後に屋上に出ると、外はすっかり闇に呑まれていた。
学校に残っているのは、凛とアーチャーのみ。

「――――――これで七つ目。どうやら、ここが起点みたいね」

昼に来た時には調べる暇がなかったが、屋上には堂々と八画の刻印が刻まれていた。
魔術師だけに見える赤紫の文字は、見たことも聞いたこともないモノだ。

「・・・・・・不味いわね、これ。とてもじゃないけど、私の手に負える代物じゃない」

凛は、この結界を張った人間は相当な考えなしだとは思っているが、結界自体は桁違いの技術で括られている。
一時的にこの呪刻から魔力を押し流す事は出来るが、呪刻そのものを撤去する事は出来ない。
術者が再び魔力を通せば、それだけで呪刻は復活するだろう。

さらに厄介なのは、この結界の本当の効果。
ここまで調べて分かったのは、この結界は発動すれば、文字通り人間を"溶解"させるというものだ。
内部の人間から精神力や体力を奪うという結界はあるが、これは別格だ。
これは魂喰らい。結界内の人間を溶かして、残った魂を強引に集める血の要塞ブラッドフォート

魂とは、在るとされ、魔術において必要な要素と言われているが、その扱いは困難を極める。
魂はあくまで"内容を調べるモノ"、"器に移し替えるモノ"に留まる。
衛宮志保が良い例だろう。
彼女は、肉体が死滅した兄の魂を、魂が抜けた生きている妹の体に移し替えて誕生したのだから。
だが、それを抜き出すだけではなく、一箇所に集めても本来は意味が無い。
何故なら、そんな変換不能なエネルギーを集めた所で、魔術師には利用する術がない。
だから、それに意味があるとすれば――――――

「アーチャー。サーヴァントって、そういうモノ?」

知らず、凛の声音が冷たく鋭いものとなる。

『・・・・・・ご推察通りだ。我々は基本的には霊体だ。故に食事は第二たましい、ないしは第三要素せいしんとなる。君たちが肉を栄養とするように、サーヴァントは魂と精神を栄養とする。まぁ、栄養を摂取した所で基本能力は変わらないが、取り入れれば取り入れるほどタフになる。即ち、魔力の貯蔵量が増していく、という訳だ』

つまり、サーヴァントを強力にする方法が、無差別に人を襲うということ。

「マスターから提供される魔力だけじゃ、足りないってこと?」

不愉快そうな凛に対し、アーチャーは事実だけを淡々と告げる。

『足りなくはないが、多いに越した事はない。実力が劣る場合、弱点を物資で補うのが戦争だろう。周囲の人間からエネルギーを奪うのは、マスターとしては何ら間違っていない。そういう意味で言えば、この結界は効率がいい』

その事実は認めるが、遠坂凛はそれを認めることは出来ない。
凛は、自分が為すべきことは、分かっているつもりだった。

「それ、癇に障るわ。二度と口にしないで、アーチャー」

刻まれた呪刻を見つめながら告げる凛。
それにアーチャーは、どこか弾むような声で返した。

『同感だ。私も真似をするつもりはない』

それを聞いた凛は、薄く口元に笑みを浮かべた。

「・・・・・・さて、それじゃ消すとしますか。無駄でしょうけど、とりあえず邪魔をするぐらいにはなる」

凛は、刻まれた呪刻に近寄り、左腕を差し出す。
そして、遠坂家に代々伝わる魔術刻印を起動する。

Abzug消去 Bedienung摘出手術 Mittelstand第二節

左手をつけ、一気に魔力を押し流す。
これで、一先ずこの呪刻からは色を洗い流せた。
だが――――――



「なんだよ。消しちまうのか、もったいねえ」



唐突に、凛たちしか居ない筈の屋上に第三者の声が響き渡った。

今宵、赤と青の英霊が激突する。
それは、因縁の戦い。
勝敗はどちらに上がるのか、それを知るのは、魔力滾らす紅き瞳のみ。


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