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マブラヴオルタネイティブ-フォーアンサー 【第拾七話】解隊式の後  目覚めぬ友
作者:首輪付きジャッカル   2012/10/20(土) 22:46公開   ID:aJK45xIaU56
―――ここはどこだ?―――

―――俺は生きているのか?死んでいるのか?―――

―――わからない。ただ―――

―――墜ちて行く・・・―――



「入隊の時に使ったくらいか。こんな所で何があるんだ?」
現在キャエーデを除く207のメンバーは講堂に集まっていた。
キャエーデとはクーデターの日から一度も会っていない。
神宮司教官に尋ねてみようとも思ったのだがなぜかそれは躊躇われた。

周りに他の人は無く、これから何が始まるのか予想も付かない。
「一体何なのかしら・・・ってあれは!」
榊の視線の先、そこには・・・
「ラダビノッド…基地指令…!?」
横浜基地の最高責任者、パウル・ラダビノッド基地指令その方だった。
「せ、整列!」
榊があわてて号令をかけ、6人が整列する。
間を置いて、基地指令は口を開いた。
「唐突ではあるがただ今より―――国連太平洋方面第11軍衛士訓練学校第207衛士訓練小隊解隊式を行う―――!」
解隊式・・・つまりそれの意味することは彼らがついに正規兵になるということ。
「諸君らは本日を持って訓練課程終了―――晴れて任官というめでたい日だ。
本来であれば盛大に門出を祝ってやりたいところだが―――先日の一件もある…
日本国民の感情に配慮したことを理解して欲しい。
世界は今、力と勇気ある若者を欲している。経験豊富な指揮官や兵士の力は戦場には欠かせぬものだ。
―――だがそれと同じくらい重要なのが勝利を信じ諦めぬ心なのだ。
人類は今未曾有の窮地に立たされている。戦況は厳しい―――だがだからこそ我々は必勝の信念を曲げてはならないのだ。
座して手に入れられるものはなにもない。命をかけて掴み取れ。
それがどれだけの気概を必要とするか……諸君は先の作戦で嫌というほど感じたことであろう。
本日付をもって諸君は人類防衛の前衛たる国連軍衛士の資格を諸君らは得た。
その栄誉と責任を噛みしめ必勝の気概を持ってその持てる力を尽くして欲しい。
―――手のひらを見たまえ
その手で何を掴む?
その手で何を守る?
―――拳を握りたまえ
その拳で何を拓く?
その拳で何を倒す?
―――前を見たまえ
その目で何を見据える?
その目で何を目指す?」
各々が己の手を見つめ思慮深げな顔をする。
その様子を見て一呼吸入れ、基地指令が話し出す。
「……最後に……極めて異例な事ではあるが……諸君の任官に際しお言葉が寄せられている。
日本帝国征威大将軍、煌武院 悠陽殿下からの御祝辞、心して賜りたまえ
『此度の働き、誠に大儀でありました。
私の迷いを正そうとする若者達の強き意思を、この身を以って知る事が出来、嬉しく思います。
しかし、幾つもの命が散り、二度と帰らぬものとなった事は悲しく、わが身を裂かれる様な思いです。
願わくば、天に召されし彼等の御霊が安らかならんことを。
先人達はこの国と民と大地を慈しみ、それが永らえる事を願ってきました。
その先人の想いは、この地に暮らす全ての人に託されているのです。
その想いを果たす事が、今の世に於いて並々ならぬ事ではございましょう。
しかし、一人ひとりが為すべき事を為し、相克を乗り越え、力を合わせる時、果たさざるものなど在りはしないでしょう。
皆様が正しき道を歩まれん事を、切に願います。
そして我が心は如何なる時も、そなた達と共に在ります』
……昇任に際し、殿下よりお言葉を賜るという名誉は、諸君自身の手で掴んだ栄光である。また、この度の急な昇任は、先日の将軍救出作戦に於ける諸君等の目覚しい活躍と作戦成功への貢献が評価された結果であることを付け加えておく……以上である」
殿下の言葉を、彼らはどう感じたのだろう?彼女らにどう響いたのだろう?
応えはどこにもない。しかし彼らの引き締まった表情がきっと答えでいいだろう。
「引き続き、衛士徽章授与を行なう」
徽章を渡されれば彼らは「訓練兵」から「少尉」になる。
最初に榊に。次に御剣、次に鎧衣、彩峰、珠瀬と順に渡されていき・・・
「白銀武訓練兵!」
「はい!」
白銀が一歩前に出る。徽章を付けて貰い、退がる。
「ただ今を持って貴官は国連衛士となった。
おめでとう、少尉」
「はい!」


「――徽章授与を終了する」
「……がんばりたまえ」
「――気を付えぇぇっ!ラダビノット司令官に対し――敬礼ッ!
 以上をもって国太平洋方面軍第11軍、横浜基地衛士訓練学校、第207衛士訓練小隊解隊式を終える」
「――207衛士訓練小隊――――解散ッ!」
神宮司教官からの最後の指示。
「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」
ラダビノッド基地指令と神宮司教官が講堂から出て行く。
講堂には元207の仲間達だけが残された。


「よっ…しゃああああああああああ!!」
「タケルぅ!やったね!ボクたち正規兵になったんだね!!」
「だげるさぁ〜〜〜〜〜ん…ミキは…ミキはぁあああああ!!」
「うわっ!泣きすぎだろたま!ちょっ、鼻水鼻水!!」
皆で喜び合う。どれだけこの日を待ち望んだだろう?今までの苦悩が今は懐かしい。

喜びの中、不意に白銀は今この場に居ない人物のことを思い出す。
「なぁ、キャエーデは?」
「そういえば12・5事件の日から会ってないわね?」
榊が答える。
12・5事件とは先日のクーデターのことである。
クーデターが起こった日、12月5日に因んで付けられた。

榊以外も返答は同じようなものだった。
「教官に聞いて見よう。何か知ってるかもしれない」
「そうね、行きましょう」
全員で急いで講堂を出る。

講堂を出たらすぐそこに教官はいた。
「教官!あの・・・!」
「ご昇任おめでとうございます、少尉殿!」
教官はそういうといきなり敬礼してきた。
そう、教官の階級は軍曹。そして彼らは少尉。
立ち居地が逆転したのだ。突然の敬語に狼狽える彼ら。
そうだ、今居ぬ仲間も気になるが今はほかに大切なことがある。
「軍曹、貴女には大変お世話になりました」
「軍曹・・・貴官の練成に心より感謝する」
「神宮司軍曹・・・本当に・・・わだじ・・・わだじ・・・」
「神宮司教官!私をここまで育てていただいたこと、とても感謝しています!」
「・・・軍曹の尽力に感謝する」
「神宮司軍曹、今までありがとう。軍曹の練成を受けたことを生涯誇りに思う」
 各々今までの感謝の言葉を述べる。珠瀬は涙で言葉を上手く紡げていなかった。
「ところで軍曹、キャエーデを知らないか?」
白銀が訊ねる。
「彼には…今はお会いにならない方が…」
陰った笑顔で答える神宮司軍曹。やはり何か知っているようだ。
「お願いします、知ってるなら教えてください!」
「でしたら・・・医務室に行けばお会いになれるかと」
「ありがとう軍曹。今までお世話になりました」
一度敬礼した後、走って医務室に向かう。
その背中に悲しい視線を送る神宮司軍曹。
「どうして…どうして今日なんですか?・・・いつか必ず仲間が傷つき倒れる悲しみや苦しみを知る。それは絶対。
でも、どうしてこんなに早く・・・どうしてこんなめでたい日に・・・?」
これから直面するだろう彼らの悲しみや苦しみを思うと、彼女は胸が痛んだ。
ちょうどその頃、彼らは医務室に辿り着き、驚愕していた。
「キャエーデ・・・なんで?」
ぱっとみ外傷は無い。しかしその右腕や右目、臓器の一部が擬似生態という作り物の身体だという。
「運ばれてきた時は、生きているのが不思議なくらい重症でした」
穂村 愛美衛生兵が説明する。
「心肺は安定していますが・・・意識がまだ戻りません・・・」
皆神妙な顔で黙るしか出来なかった。
彼の身に何が起こったのか?何があったのか?今の彼らはそれを知る由も無い。


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