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マブラヴオルタネイティブ-フォーアンサー 【第拾玖話】英雄と栄光の道 屍連なる道
作者:首輪付きジャッカル   2012/11/05(月) 00:33公開   ID:lu2Cx/G1lWE
―――ポタ・ポタ・ポタ―――
 全ての人間がしゃべることも出来ず、時間すら止まってしまったようなこの空間で、キャエーデの右手から流れる血が地に落ちる音と、兵士級BETAの歯がキャエーデの右腕の筋肉繊維を切断していく歪な音だけが支配する。

―――ブチッ―――
何かが千切れる音と共に、キャエーデの右腕が肩口から外れ地に落ちた。
その瞬間だ。千切れる、その瞬間キャエーデが動いた。
殴った。
何のことも無い。ただ左手で兵士級を殴打した。
強化服も着ていない、生身の身体で、ただそれだけのことで、兵士級の2mを超える巨躯を吹き飛ばした。
大きく吹き飛ばされたBETAの身体が大地に叩きつけられる。
そのとき騒ぎに気付いて走ってきた戦術機が兵士級の頭を突撃銃で貫いた。
その様を茫然自失で見ていた白銀は混乱している。
何故ここにキャエーデが居るのか?いつ目覚めたのか?どうしてBETAが居たのか?そして・・・もしキャエーデが現れなかったらまりもちゃん(神宮司軍曹)はどうなっていたのか・・・?
混乱した白銀はあらゆる言葉が喉につまり音を成さない。

そんな白銀に近づいていく者があった。
キャエーデだ。
キャエーデは無表情で白銀の前まで来ると・・・




黙って白銀の胸倉を掴みあげた。
「なっ!?」
「キャエーデ中尉、何を!?」
神宮司軍曹が止めるため、駆け寄ろうとするが、
「神宮司軍曹・・・・・・」
たった一言。この一言だけで神宮司軍曹は何も言えなくなった。
上官からの命令というだけではない。もし仮に神宮司軍曹がキャエーデの上官だったとしても黙ってしまっただろう。
それほどに圧倒的な、力を持った一言。
「何・・を・・・?」
白銀が力なく自分の胸倉を掴み上げている男の手を外そうとする。しかし強化服で強化されている白銀の力でも、万力のように締められた生身のキャエーデの手一つ外せない。
そして、キャエーデが突然右肩を振りかぶる。しかし、
「あ、右腕ねぇんだったな・・・」
そう言いながらなんでもないように自分の何も無くなった右肩を苦笑い気味に見つめる。
1秒ほどそうした後、白銀に再び目を向けると・・・
「うわ!」
突然手を離した。
白銀は持ち上げられていたのだから重力に従って真っ直ぐと地面に・・・しかし突然、横から硬いものがぶつかった。
「ガッ!?」
白銀が先ほどのBETA以上に吹き飛ばされる。
蹴った。
キャエーデが、白銀が地面に叩きつけられる寸前、全力で蹴った。
人間の脚力は腕力の3倍と言われている。
つまり2mをも超える屈強なBETAすら吹き飛ばす拳の三倍の衝撃を一身に受身を取ることも出来ず受けたのだ。
「・・・ッ!」
あまりの苦痛に声も出せない白銀。
先ほど兵士級に止めを刺した戦術機の衛士、伊隅みちるも、キャエーデの始めてみせる姿に声を出せなくなっていた。それは神宮司軍曹も同じだ。
苦しむ白銀に悠々と近づき、再び胸倉を掴みあげるキャエーデ。
「痛いか?コレで痛くないとか言われてもビビるけどよ・・・
人間死ぬときゃもっといてぇ。
今日、お前のせいで死んだ連中も、死にたくはなかったろうに」
「オレの・・せい・・・?」
「あぁ、お前と・・・俺のせいだ。前の時はこんな大々的なイベント無かったんだろ?俺とお前が道を変え、こういうレールを敷いたからそれにしたがって沢山の人間が死んだ。クーデターもそうだ。天元山の住人達もそうだ」
「ちがう・・・オレは・・・人類の勝利の為に」
「人類の勝利ねぇ。そのために何人犠牲になった?何人犠牲にした?
そもそもこの道で本当に人類は勝利できるのか?」
「そんなの「あぁそんなの今の俺たちじゃわからねぇ」」
白銀の言葉を遮ってキャエーデが言った。
「それでも進むしかねぇ。たとえ何人何万人何億人犠牲にしようが進むしかねぇんだ。
お前にその覚悟があるか?お前に、幾千の死者の山を築いてでもことを成し遂げる覚悟はあるのか!?」
「う・・あ・・・」
「もしお前にその覚悟が無いなら、消えろ。
一時の幸せに逃避するがいいさ」
そういうとキャエーデは白銀を離した。
すとんと地に落ちる白銀。
次の瞬間白銀は脱兎のごとく駆け出していた。
その後姿を見送ったあと、キャエーデはある一角を見る。
「こんなとこだろ」
「キャエーデ、そなた・・・!」
「キャエーデ!」
「キャエーデさん!」
「・・・」
「ひどいよキャエーデ!」
瓦礫の影から榊・御剣・珠瀬・彩峰・鎧衣の5人が現れる。
そんな5人の剣幕などものともせずに、キャエーデは白銀が走っていったほうを見つめながら、
「これでいいのさ。どうせあのままじゃ次か次の次の戦場で死ぬだろうぜ?
これがあいつのためだろ?」
「「「「「・・・」」」」」
キャエーデの言葉に5人は黙ってしまう。
本当にこれでいいのか?これが白銀のためなのか?答えを出せるものなど居ない。

しかしキャエーデは知っていた。
白銀が逃げた先に在るのは幸せな元の世界などではない。
もっと大きな、まごう事なき絶望であることを・・・

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■作者からのメッセージ
強化服着てると生身の人間に鉄パイプで殴られても痛くないです。
まぁ、生身の「普通」の人間ならね・・・
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