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ネギま!―剣製の凱歌― 第二章-第19話 三日目、決着シネマ村
作者:佐藤C   2012/10/23(火) 00:00公開   ID:CmMSlGZQwL.



「このかさん、この中に隠れましょう!」
「おけ♪」

 月詠を刹那に任せて逃れた二人…ネギと木乃香は、日本橋から少し離れた城の内部に身を隠す。
 だが見世物アトラクションに過ぎない城の一階はハリボテで、隠れる場所などありそうもない。
 僅かに逡巡して視線を泳がせると、上に続く長い階段が視界に入る。ネギは迷わず木乃香の手を引いて、それを躊躇いなく駆け上がった。

「ようこそ、このかお嬢様」

「「っ!?」」

 ――その上階さきに、先客が居るとも知らずに。

 ……ここは観光施設なのだから、先客がいる事自体は決して妙な話ではない。

 ただし今この建物には…何故か・・・彼ら以外の人間は一人もおらず。
 そしてネギと木乃香を待ち構えていたその顔触れが、あまりに悪質な面子だった。


 二人の前に立ちはだかるのは………先日見た、眼鏡をかけた呪符使いの女だった。









 第二章-第19話 三日目、決着シネマ村









「月詠はん、うまく追い込んでくれはったようどすな。
 しかし小太郎を本山にやったんは失敗やったな。流石にアンタらが親書を届けもせず遊び呆けとるとは思わんかったわ。まあええ……護衛の剣士もなし、厄介な式祓いの中学生もおらん。
 残ったのは、従者もいない魔法使いのガキ一人……」

 千草が呪符を舞わせれば、二体の式神――猿鬼エンキ熊鬼ユウキ――に加え、翼を生やした大鬼が弓を携えて召喚される。
 三体の眷族はネギ達を鋭く睨みながら、彼女の背後に無言で佇む。


「ウフフ………詰みましたなぁ?」


 冷たく嗤う千草の声が、ネギに否応なく現実を突きつけた。




 ◇◇◇◇◇



 日本橋は先程までと打って変わって、水を打ったように静かだった。
 熾烈な剣戟は静寂な睨み合いに変わり、二人の少女は互いに視線で牽制し合う。

「……意外ですな〜」

「何がだ?」

「このか様とあの坊やのピンチやいいますのに〜。センパイはもっと焦る思てましたわ〜」

 膠着に痺れを切らしたのか、月詠は二刀を構えたまま笑って口を開いた。
 だが話しかけられた刹那の方は、興味無さげに彼女の話題を切って捨てる。

「私が居らずともあの程度なら問題ない。私はただ、お前を斬り伏せるだけだ」

「あら〜♪嬉しいコト言ってくれますな〜、お嬢様より私をとってくれはるなんて♪
 でもそんなにあの坊やを信頼してはるなんて、やっぱり意外です〜」

 ―――二ィッ

「……?」

 月詠は小首を傾げて、疑問の表情を浮かべた。

 刹那が浮かべた不敵な笑み。
 今までずっと鋭い目をして、口を固く結んで、厳しい表情ばかり見せていた―――“まるで抜き身の刀の様な”刹那が。
 自信に満ちた笑みを浮かべるその様は、月詠にとって衝撃だった。

「………確かにネギ先生は若い。いや…幼いとさえ言えるが優秀だ。
 だが…勘違いしているぞ月詠。私が信頼しているのは、ネギ先生だけではない・・・・・・・・・・



『友達の友達は友達だからね!私も協力するわよ!』


 月詠は刹那しか見ていなかった。だから気づかない。
 日本橋が静寂に包まれている…それはすなわち、刹那のクラスメート達を襲っていた妖怪騒ぎは収束したという事だ。
 もうじきネギと木乃香の元に明日菜が駆けつけるだろう。
 彼女が持つ『ハマノツルギ』は、相手が式神の類ならば数の不利を容易く覆せる代物だ。


 ……だが、間に合うかと言われれば………おそらく間に合わないだろう。

 それでも刹那は、最悪の結果が訪れない確信がある。

 ―――何故なら。




 ◇◇◇◇◇




 ――ズザザザザァ……ッ!

 水気が皆無にも関わらず、天守閣の上に渦を巻いて水柱が立ち上る。
 水流が治まれば、水柱があった空間に―――無表情をした白い髪の少年が現れた。

 その登場を目の当たりに、ネギは木乃香を背にしながら更に顔色を青くする。
 しかしフェイトは興味無さげにネギ達から視線を外し、ここに士郎が駆けつける危険性を千草に告げた。

(千草さん、あまり時間はありません)
(わかっとる。もうすぐ終わるさかい黙っとき)

「―――聞いとるかお嬢様の護衛、桜咲刹那!!この鬼の矢が二人を狙っとるのが見えるやろ!!
 お嬢様の身を案じるなら手ェ出さんとき!!」

 眼下の日本橋で月詠と刃を交えているだろう刹那に対し、牽制の声を上げる。
 その言葉の通り今、ギリギリと大弓を引き絞る巨躯の鬼の双眸が……ネギと木乃香に狙いを定めていた。
 千草は畳みかけるように言葉を続ける。

「ネギ言うたかボウヤ、諦めて大人しくお嬢様を渡してもらおか。
 一歩でも動いたら撃ち抜かせてもらいますえ?」

 妙な真似をすれば撃たれる。従者アスナも刹那もいない今、呪文を唱える時間もない。
 ……ネギには、選べる選択肢が無かった。


「……ネギ君、アレ………CGとちゃうんよね…?やっぱ」

「………すみません、このかさん……」

 今のネギには、その一言を口にするのが精一杯だった。


(…馬鹿だ僕は。よりによって建物の上階なんて逃げ場のない場所に来てしまうなんて………!!)



「大丈夫やえ。安心してなネギ君」

「え?」

 目の前の現実に膝が折れそうになるネギに、木乃香が言った。

 …彼女は眼前に迫る危機を、ネギほど正確には理解していないだろう。
 けれど……とても日常では遭遇し得ない、並々ならぬ状況だと……それくらいは解っている。

 でも、それでも。
 彼女はまっすぐな眼をして、「大丈夫」と言ってみせた。


「……こ…このかさん…?」

 木乃香はにこりと、―――ネギが見惚れるくらい綺麗な笑顔で断言する。

「せっちゃんが、「何があっても守る」言うたんや。必ずせっちゃんが助けてくれるて。
 それに……」


「……何をグズグズ言うとるんや。さっさとお嬢様を――わぷっ」


 突然、強い風が吹く。
 天守閣の屋根の上という場所故に、まともに風を受け千草が体勢を崩した。
 だがそれは……

「きゃっ」
「だ、大丈夫ですかこのかさん?」

 成人である千草がよろけるほどの風なのだから、木乃香の体も当然ぐらついた。



《…お?》


 『一歩でも動いたら撃ち抜かせてもらいますえ?』


 ネギに支えられながらも木乃香が一歩動く・・・・・・・・様子を、鬼は確かに視界に収め―――
 矢を番えた太い指を、迷いなく手放した。


 ―――ビンッ!!


「…あ? あ―――っ!?何で撃つんや!!」

《一歩でも〜て言うたやんけ》

「アホか!!お嬢様に死なれたら困るやろ―――――っ!!」


「くっ!!」

 騒ぐ千草を意に介さず、ネギは木乃香に迫る矢を見て走りだす。

(詠唱は間に合わない!!せめて僕が…)


(――――盾に…!!)


 少女に向けて一直線に進む矢の軌道。
 それに重なるようにして、10歳の少年は躊躇いなく幼いその身を投げ出した。


 ―――ザシュッ!!


(!! そん…っ)

 ネギは絶句して目を見開く。
 木乃香を狙う矢は、彼女を庇おうと前に出たネギの――大きく拡げた腕の下、脇腹の服を掠って貫通した。

「え!?ネギく…」

 いきなり飛び出したネギに驚いて、木乃香が声を上げる。
 だがその台詞を言いきる事は無いのだろう。

 ―――矢は、変わらず木乃香に迫る。
 投げ出した身は無意味に終わり、招く未来けっかは最初と何ら変わりない。


(こ、このかさ―――)


 迫る脅威はいとも容易く、少女の体に突き刺さるという話――――。





“―――――――。”



 ――バキャンッ!!


「「え?」」


 ネギと木乃香の呆けた声が重なった。
 千草は完全に虚を突かれ、フェイトはその目を瞠目させる。

 その原因となった光景は。

 木乃香を貫く筈だった矢が、飛来した何か・・・・・・によって真っ二つに砕かれた。

 …次いで。


《んあっ!?》
《ウキィッ!!》
《クマッ!?》

 弓を持った巨躯の鬼と猿鬼・熊鬼――千草のしもべが悉く還されていく。

「な、なんや!?何が起きとるんや!!」

「…千草さん。新手のようです」


(まさか…これは)


 式神達が立っていた場所……硬質の屋根瓦に深々と突き刺さる漆黒の矢。
 それを見てフェイトは一つの…いや、「ある一人」の可能性に行き当たる。

(…でも判ったのは、矢が飛んできた方角だけだ。なぜ姿が見えなかった?
 矢が届く程度の距離に居る筈だ……射たすぐ直後に姿を隠した可能性もあるけれど――まさかアーティファクト?)

 彼が思考の海に沈んだその瞬間とき
 その場全ての者に届く、

 ――――音が、聞こえた。





 流れる水の川音。

 むかし木乃香が川で溺れた時、刹那は彼女を助けようとした。

 しかし力及ばず、彼女も川に流されてしまう。

 …その時。その二人を、助けたのは―――……






         我が骨子は捻れ狂う。
『――――I am the bone of my sword.』


 ―――聞こえたのだ、音が。
 空を裂き、大気を貫き。風を巻いて天を駆ける…つるぎなる矢の足音が――――!!



『遠慮は無用だ。存分に―――ぶち抜け』




赤原猟犬フルンディング





「 ッ―――――――――――!!!!」


 堪らず、フェイトは後方に吹き飛んだ。


「なっ、新入り!?」


 それは口にする事すらおこがましい、約束された必然必中なる一射。
 黒く捻れて刃が外側に突き出たが、討つべき怨敵を当然の如く抉り穿つ………!!



 ――――ガギギギギギギギッギギギギギギィッギギギギギギギギギギギッ………ッッ!!!


(……この…矢はっ…………!!)


 フェイト・アーウェルンクス。
 彼が常時展開している魔法障壁は、360°あらゆる方向に幾重も張り巡らされている。
 曼荼羅に例えられるほど複雑かつ規則的に重なり合う魔方陣それは、しかしその一枚一枚が驚異的な防御力を持つ鉄壁だ。

 …だが。フェイトじぶんを喰らおうと障壁に牙を立てるこの黒矢は。

 矢を掴む腕に籠めた力を少しでも緩めようものなら、障壁など容易に砕くだろうとフェイトは直感した。


「………ッ!!」

 天守閣から離されシネマ村の上空を吹き飛びながら、身体を捩って彼はわざと体勢をずらす。
 フルンディングはフェイトの魔法障壁に斜めに衝突し、ギャリッ!という音を上げて逸れていった。


『―――ああ、悪足掻きはやめておけ』

「!?」


 ――――ズガァアンッ!!!


「っ!! ッ……!?」


 ―――ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッ!!!!!


 フェイトを襲った予想外の衝撃は、彼が先ほど確かに逸らしたフルンディング。
 それは通常の「矢」では有り得ない変則軌道で鋭角に旋回し、再びフェイトを襲撃する。
 何とか防ぐ事は出来たものの……その僅か一撃で、彼が誇る魔法障壁の三分の二が砕かれた。


『フルンディングは“決して失敗する事のない剣”とされる魔剣、フルンティングを原典としている。
 矢として放てば、射手が狙う限り対象を襲い続ける魔弾と化す。…ああ、それと』


『俺の射程は4kmキロだ。お望みとあらば京都府庁まで飛ばしてやろう』


 フェイトは、戦慄せずにはいられなかった。





 ……木乃香を守る騎士は一人ではない。

 彼こそが、刹那が最も信頼する魔法使い。
 仮契約パクティオーカードが刻む称号は『GLADIATORグラディアートル INFINITUSインフィニトゥス』――――「無限の剣を持つ者」、衛宮士郎。

 親友せつな義兄しろう。この二人がいる限り、近衛木乃香を害することは叶わない。




 ◇◇◇◇◇




 ――ガシャン!!

「ネギ!このか!! 大丈夫!?」

「ア…アスナさん!!」
「アスナー!!」

 勢いよく瓦を踏む音が聞こえると、そこには全ての「ひゃっきやこう」を送り還して駆けつけた明日菜の姿があった。

「こっちは全部終わったわ!刹那さんはまだ戦ってる!ここもチャチャっと終わらせるわよ!!」

「ハ、ハイ!!」


「……くっ…!!」


 千草が悔しさに唇を噛む。形勢が完全に逆転した。
 パートナーを従えた西洋魔術師の力を、彼女は(全裸という形で)身を以て味わっている。
 最悪なのは「ハマノツルギ」を持つ明日菜の存在だ。
 あのハリセンの前では千草の式神など、ただデカいだけの着ぐるみに成り下がる。


(ここではもう無理やな………引き時か)


「吹っ飛んでった新入りも回収せなアカンし……――月詠はん!!」




「…仕方ありません〜。ほなまた死合いましょ〜センパイ♪」

「断る」

「ああん、そんなツレへんこと言わんといてください〜♪」

 笑顔で言うには随分と物騒な言葉を残し、彼女は音もなく姿を眩ませた。




「流石に分が悪いようおすな。今日はここらでお暇させて頂きますえ。…猿鬼2!」


 ――ボンッ!

《ウキッ!》

 千草がお札を一枚振ると、猿の着ぐるみの姿をした式神が新たに一体召喚される。

「あっ!また…」

「ほなさいなら〜♪」

 明日菜が声を上げるも、時既に遅し。
 一昨日と同じように千草を抱え、猿鬼2は巧みな動きで瓦を蹴って跳んでいった。



「―――くうを割る界の隔壁、大いにつよく破れを不知しらず。其れはあまりに狭き門なりて、開く門戸は初めから無し」


結界呪けっかいしゅ閉々封結へいへいふうけつ


「へぶっ!?」

 逃亡を図った千草が「びたーん!」という擬音を発して見えない何かに激突する。
 彼女はそのまま猿鬼2共々、空中で停止した。


「…いいえ、逃がしませんよ天ヶ崎」

「現在本山の人手が足りておりませんので、僅か三名ではありますが」

「木乃香お嬢様―――我ら近衛巫女衆、遅ればせながら馳せ参じました」


 妙齢の、三人の女性の声が空に響いた。
 一人は天守閣のしゃちほこの上に、もう一人は反対側の鯱の上に立ち、三人目はネギ達を背に庇うようにして屋根瓦の上に佇立している。
 ネギ達は、突如現れた彼女達に呆気に取られた。

 ―――彼女達は、関西呪術協会長・近衛詠春直属の巫女集団………通称「近衛巫女かんなぎ衆」である。


「………天ヶ崎。ようやっと一人前になれた程度の半端モンが……ようお嬢様の御身に無礼を働けたもんやなぁ?オォ!?
 この…西の巫女の面汚しが…!!」

「ひぃっ!!?」

 やたら口の悪い巫女の剣幕に気圧されて、思わず千草は情けない声を出す。
 しかし他二人の巫女も…危うく木乃香を射る所だった千草に対し、抱く怒りは激しかった。

「く…こ、こんな結界、ウチの符術で破って…!」
「それをさせるとお思いですか?」


「「「―――オン」」」


「式神返し・式格減殺」
「絞め上げておやりなさい、蛇鬼ダッキ
「凍てこましたれ!白狼氷鬼ヒョウキ!!」

 それぞれの巫女の下に、弓矢、胴が人間のそれより遥かに太い大蛇、人の身の丈ほどもある白狼が姿を現す。
 白狼は口から白い息を吐き、大蛇は舌を出しながら主の周りでうねり狂う。

 ―――ギリィッ……!

 弓矢を召喚した巫女が矢を番え弦を引き絞り、猿鬼2に狙いを定めた。


「ナウボウ・アキャシャ・ギャラバヤ・オン・アリキャ・マリボリ・ソワカ……破っ!!」


 ―――ドッ!!


《ウキッ!? ………ウ…ウキィ〜……っ》

「な!?ど、どないしたんや猿鬼!」

 矢が命中した途端、見る間に猿鬼2が弱っていく。
 その姿は、腕に千草を抱えるのも精一杯といった有り様だった。

「"式格減殺"。その名のとおり、式神の霊格を低下させる呪いの矢です。
 すなわち式神弱体化……禁術である「式神棄却」一歩手前の呪術ですよ」

「…ほんなら訊こか、天ヶ崎」

「大蛇に絞めつけられるのと、氷狼に氷漬けにされるのは…どちらが貴女の好みでしょう?」

 己の式神を無力化させられ、これから召喚してもまた同じ事になるのだろう。
 冷や汗でびっしょりと顔を濡らしながら歯軋りして、……千草は力無く項垂れた。




 ◇◇◇◇◇



『お、もう終わりか?』
『お父さん、お姫様無事で良かったね!!』
『なんで町娘がハリセン持ってんだ?』
『巫女まで出てきて…一体どんなストーリーだったんだ』

 日本橋前の広場、そして城の真下に集まっていた野次馬達は、劇と勘違いしていた戦いが終わってぞろぞろと散っていく。
 人混みが消えたその場には、「ひゃっきやこう」に襲われた麻帆良女子中ズが地面にぐったりと座り込んでいる。
 ……のどかは散っていく人の流れに攫われていた。


「……全く、アレは何だったんですの」

「まあCGって事でイイんじゃない?考えたってわかんないでしょ」

(たぶんあの妖怪、魔法だよねー…ってか、バレたくないならあんな派手に騒がなきゃいーのに)

「CGは服を脱がしたりなどしませんよ朝倉さん。
 …しかしアレは本当になんだったのでしょうか……むぅ」

「まあまあ夕映!楽しかったからいーじゃん♪」

「脱がされて楽しくなどありませんっ!!」

 土汚れを払いながら一同が立ち上がる。
 疲れた息を吐く委員長、思索に耽る夕映、彼女に肩を回して抱きつくハルナ。
 そんな中、3班の千鶴が落ち着いた様子で口を開いた。

「それよりあやか、私達これからどうしようかしら」

「そうですわね……ネギ先生達とはすっかりはぐれてしまいましたし、3班は当初の予定に戻って行動する事にいたしましょう。
 ではハルナさん達、私達はここで別れます。お互い修学旅行を楽しみましょう」

「うん、じゃーね委員長!」

 こうして5班と3班は、再び各々の自由行動へ戻っていった。




 ・
 ・
 ・



 3班side


 彼女達が日本橋前の広場から幾分か離れた頃、その声は聞こえてきた。


「よぉいいんちょ。アホな馬鹿騒ぎは終わったか?」

「あ!千雨さん!今まで一体何処に…!」

 ちょうど妖怪騒ぎの辺りから姿が見えなかった千雨が、町娘の姿のまま委員長の前に現れた。

「バカ言え、あんな騒ぎに大人しく巻き込まれるワケねーだろ。
 だからって勝手に班から離れたらまた新田に怒られるだろーし…ザジと一緒に広場から逃げてたんだよ」

「わ…私たちが大変だった時に……!」

「アホか、自業自得だろ(ケッ)」

「まあまあ、いいじゃないあやか。無事に合流できたんだから」


「…で、千雨ちゃん。そのザジさんはドコにいるの?」

「あん?なに言ってんだ村上、ザジなら私の後ろに………あれ、いねえ」





「……………。」


『あ。あんな所に』
『おい何やってんだザジ!みんな集まってるぞ!』

 少し離れた所から自分を大声で呼ぶ声が聞こえて、彼女はそちらに顔を向ける。
 すると彼女はもう一度だけ、……いつのまにか日本橋の前に置かれていた石灰色せきかいしょくの石像を、その銀の瞳でじっと見上げる。

 ……その、人型をした石像の姿形は………彼女の知る人物のそれに、よく似ていた。


「………ごめんなさい。私のチカラでは、あなたを助ける事は出来ません」


 普段あまり口を開かない彼女にしては、随分と流暢な口ぶりで………ただの石像にそんな言葉を投げかける。
 そして彼女はタタタッ…と、小走りで級友達のもとへ駆けて行った。







<おまけ>
※ギャグです。

士郎
「遠慮は無用だ。存分に―――ぶち抜け」

赤原猟犬
「了解ッス旦那ぁ!!」

士郎
「え?」

赤原猟犬
「今度の狙いはあの白髪しらがショタッスね!テンションオールグリーン!狙いよーし、風速微弱!
 よっしゃ行くぜぇえええッ!! どっせーーーーーい!!!」

<ばひゅーーーーん

<くっ…!この…矢は……ッ!!

<ああ、悪足掻きはやめておけ

士郎
「…………えっ?」


・ただの悪ふざけですwww


〜補足・解説〜

>今この建物には…何故か彼ら以外の人間は一人もおらず。
 前話で記述した、「士郎が気づいた異常」…つまり「人払いの札」によるものです。

>親書を届けもせず遊び呆けとるとは
 まあ、フツーはそう思うw
 でも彼らは士郎を通じて詠春と繋ぎを取り、会う約束を取り付けてありますから。
 ……まあ一番の理由は木乃香のためですけど(笑)

>ここに士郎が駆けつける危険性
>千草さん、あまり時間はありません
 士郎が弓を使うと知らず、また射程距離が4kmという非常識さも知らないフェイトさん。
 無知って怖い。時間など初めから無かったのだよ!

>詠唱は間に合わない!!
 障壁くらいは間に合ったんじゃ?と思うけれど展開の都合上それはナシでw
 後付けの理屈を言うと、「まともな魔法戦闘の経験がほとんどないので、ネギの現時点での魔法障壁は鬼の矢を防げるほど物理防御力が高くないから」と考えています(エヴァ戦の経験から、対魔法防御力はそこそこ高い)。
 そしてこの反省から、狗神使いと戦うまでには魔法障壁を強化すると(笑) …ご都合主義だなぁ。

>木乃香を貫く筈だった矢が、飛来した何かによって真っ二つに砕かれた。
 高速で飛ぶ物体(鬼の矢)を狙い撃って撃墜する非常識さ。それが士郎クオリティ。

>『赤原猟犬』
 この小説はカラドボルグよりフルンディングが多用されますねw
 作者は「偽・螺旋剣」の方が好きなんですけど……(涙)。
 Fate/EXTRAでは、1ターンのうち6フェイズの行動で@無限の剣製→A偽・螺旋剣→B偽・螺旋剣→C偽・螺旋剣→D偽・螺旋剣→E偽・螺旋剣……という戦法でほとんどのボスキャラを倒しましたよ!魔力空っぽになりますけど!!

>矢を掴む腕に籠めた力を少しでも緩めようものなら、障壁など容易に砕くだろう
 この時フェイトは、フルンディングを片手で鷲掴みにして防いでいる状況。
 その腕に籠めた力を少しでも緩めたら…この矢は自分を貫くだろうという直感です。

>射手が狙う限り対象を襲い続ける魔弾と化す。…ああ、それと』
 独り言じゃないですよ。魔術で声を飛ばしてます。

>お望みとあらば京都府庁まで飛ばしてやろう
 参考までに調べましたが、シネマ村のモデルとなった東映太秦映画村⇒京都府庁までは4kmちょっとです。4km圏内には嵐山温泉もアリ。
 「お望みとあらば嵐山温泉まで飛ばしてやろう。ゆっくり浸かってくるといい」
 ……という皮肉込みの台詞も考えましたが、距離のイメージが京都府庁よりも伝わりにくいだろーなと。
 あとは「ただ温泉行きを勧めてるイイ奴じゃねーかww」とか思ってしまったので…。

>『GLADIATOR INFINITUS』
 実は訳しても「無限の剣を持つ者」とはなりません(汗
 直訳した場合の意味は「無限の剣士」です。

>「―――空を割る界の隔壁、大いに剛く破れを不知ず。其れは余に狭き門なりて、開く門戸は初めから無し」
 オリジナル陰陽術(笑)。
 即興にしては上手く書けたと自己評価。ありがとう類語辞典。
 「くう」は空間、「界」は世界を表します。すなわちこの呪文は「空間を割り世界を隔てる壁」という事。

>『結界呪・閉々封結』
 一定の領域に、目に見えないガラス張りのような立方体の結界を展開する。

>我ら近衛巫女衆、遅ればせながら馳せ参じました
 …そもそも、読者の皆様は彼女達を覚えていますでしょうか? 「第二章-第12話 修学旅行一日目・上」の本編と補足・解説で登場した『R毘古宮司之近衛巫女衆かがびこみやつかさのこのえかんなぎしゅう』の一員です。
 彼女達は魔力や術、式神の気配を本山から察知していました。その報告を受けた詠春は、事の次第を士郎に任せてあるものの、「アーウェルンクス」の存在を懸念して彼女達の派遣を決定した…という流れです。

>「式神返し・式格減殺」
 オリジナル陰陽術その2。
 式神の霊格を低下=即ち能力を下げて弱体化させる高等呪術。「式神に対処する術」というカテゴリに属するため「式神返し」の一種とされる。
 禁術指定されている「式神棄却」にも通じるため、通常は使用に厳しい制限がかけられている術である。今回は千草に対してメッチャ怒ってた巫女が使用許可を得ずに無断で使用。彼女は後で始末書を書かされた。

>禁術・式神棄却
 オリジナル陰陽術その3。
 陰陽術師にとって欠かせない存在である式神。かつてそれを問答無用で『無力化』及び『完全に殺害する』技術が開発された時、当時の陰陽術師たちは慌ててそれを禁術指定して封じ込めた。
 式神の無効化とは言うが『式払い』とは似て非なる。式払いが「式神などの召喚を無効化して送り還す」ものであるのに対し、『式神棄却』は式神や鬼、悪魔などの霊格=魂を、「呪いで汚染して」「召喚されたまま戦う力を奪う/殺害する」ものである。
 「霊格を完全に殺害しきる」という点では、原作で言及されている「ネギが九番目に習得した魔法」に通じる技術と言える。だが、ネギが習得した魔法の方が段違いに高性能である。

>蛇鬼
 オリジナル式神その1。
 太くてデカイまだら模様の蛇。
 数秒で気化する毒を吐く、敵を絞め上げる、とぐろを巻いて内側の人間を守る、などの行動ができる。鱗には微弱な魔力障壁機能がある。

>白狼氷鬼
 オリジナル式神その2。
 青白い毛並みを持つデカイ狼。触るとひんやりしている氷の式神。
 三人程度までなら背中に人を乗せて走ることが可能。口を開くと冷気が漏れ出て、相手を凍らせる吹雪を吐くことができる。

>ナウボウ・アキャシャ・ギャラバヤ・オン・アリキャ・マリボリ・ソワカ……
 密教(仏教の一種)の真言。
 かの弘法大師空海はこれを百万回唱える事で開眼した、という逸話がある。
※神社の巫女達は「神道」、しかしこの真言は「仏教」。関係ない物をごっちゃにしているように見えますが、この二つはかつて混同・同一視されていた時代があるので、混ざっていても(たぶん)無問題です。
 なので単純に、精神統一、集中するための言霊と思って頂ければ。あとこれ効き目ありますよ。唱えると心が澄んできます(個人的な経験談ですが)。

>普段あまり口を開かない彼女にしては、随分と流暢な口ぶりで
 原作が(一応)完結しているからこそ張れる伏線ですねw



【次回予告】


 その悪趣味な物体は、一体いつ置かれたのか。


「………………………………え………?」

 木乃香が、余りにか細い声を漏らす。


「ちょっ…………何よコレ…………!?」

 明日菜が、震える声で口を開く。


「……これ、は……『石化ペトリフィケーション』…!? 高等魔術じゃねえか!!」

 カモミールが、事態の重さに悲鳴をあげる。


「そんな……………なんで」

 堪らずネギが、口にした。


「………なんで、■■■が…………!!」



 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
 第二章-第20話 三日目、転進シネマ村

 それでは次回!

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■作者からのメッセージ
・今回は士郎の見せ場(存在感)が若干、巫女三人に食われた気がします…。

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