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ネギま!―剣製の凱歌― 第二章-第20話 三日目、転進シネマ村
作者:佐藤C   2012/10/23(火) 18:59公開   ID:CmMSlGZQwL.



『………やはりあの「千の刃」の弟子だけはある。
 「紅き翼」に連なる者……どうしても僕らの前に立ちはだかるのか』

『…ああ、気にしないでいいよ。今のは独り言だから。
 ただ……お姫様を守る騎士ナイトがこれだけいると、流石に厄介みたいだね』

『あの「千の剣ミッレ・グラディウス」には予想以上に骨が折れそうだし、君には退場してもらうよ』

『安心するといい、殺しはしない。腕のいい治癒術師なら十分治せるから』



『――――「石の息吹プノエー・ペトラス」』









     第二章-第20話 三日目、転進シネマ村









「…ご無沙汰しております木乃香お嬢様」
「ご壮健で何よりです。お怪我はありませんか?」
「ご幼少の頃からとても可愛いらしいお方でしたが…ご成長なされて随分とお綺麗になられまして…♪」

「あははー、友達の前やしあんまり褒めんといてーな。ハズカシイわー」

 ひと先ず天守閣の内部に下りた一同…ネギ、木乃香、明日菜、カモ、そして三人の巫女。
 ……なのだが、いきなり現れた巫女達と和やかに会話を始める木乃香を前に、他の面子は事情を把握できなかった。

「えーと、このか?この人達は…」
「うん? ああ、そーいえばゆーてへんかったね。この人達はウチのお父様の……うーんと…あれや、お仕事の部下みたいな?
 こんなカンジの巫女さんが、ウチがちっちゃい頃からたくさんおったんや。せやからみんなウチの家族みたいなもんやえ♪」

「な…!何という勿体無いお言葉……!!」
「こここのかお嬢様の…ご、ご家族など…ううっ、長い修行頑張って良かった」
「わ、私も、一生お嬢様にお仕えしていく所存です…!」

 三人の若い女性達は、巫女服の袖で感涙の涙を拭い始める。

(………なんかスゴイわね、色々と)
(確かに凄いです、一生お仕えするとか…。あ、もしかしてこれがブシドーかな?)
(兄貴、ソレたぶん違う)


「にしてもさっきの凄かったえ!皆があんなコト出来るやなんて知らなかったわー♪」
「うふふふ。お嬢様、今時の巫女はこれくらい出来ませんと♪」

 そんな彼女達の傍らには、(何やら術が付与されているらしい)縄と布でぐるぐる巻きの簀巻きにされた千草が無言で横たわる。
 ……いつまで関係ない話に花を咲かせる気だアンタら。誰でもいい、彼女の存在を思い出してあげてくれ。


「申し遅れました。私達はお嬢様の父君であらせられます詠春様にお仕えする者です。
 主に代わって………このかお嬢様がいつもお世話になっております」

 三人の巫女達は、心からの感謝を込めて揃って深々と頭を下げた。

「いえそんな、このかとは友達ですから…」
「僕も大事な友達ですから。それに僕、先生ですし」
(俺っちも、いつもこのか姉さんには可愛がってもらってます。…グヘヘ)

 一匹だけ、日頃の感謝に若干(?)の下心を含んでいたのだった。おいエロガモ。


(………私共は詠春様の命で参りました、警戒せずとも結構ですよ)

(!…えと、その詠春さんという人は……)

(はい。このかお嬢様のお父上で、我ら西を纏める長にございます)

 木乃香が話し込んでいる間に、巫女の一人がネギに小声で囁いた。

天ヶ崎この女は私共が責任を持って本山に連行致しますので、どうぞご安心を)



「…それではそろそろお暇させて頂きます」
「どうか皆様お気をつけて・・・・・・。お嬢様、修学旅行を存分に楽しんでくださいね」

「うん、ありがとなー!お父様によろしく言っといてー」

 巫女三人は千草を抱え鮮やかに天守閣の窓から飛び降りて、そのまま姿を消した。
 ……木乃香はそれを見て、窓に向って元気に手を振っている。
 少しは疑え天然少女よ。おっとりしてるってレベルじゃねーぞ。



「………えーと。これ終わったの?」

 何とも締まらない幕引きに、明日菜が疑問形で呟いた。
 すると彼女の肩の上で、カモが小声で話しだす。

(まあとりあえずはな。主犯格が捕まったんだし、もう派手には襲って来ねーだろ。
 でも仲間が残ってるからな…まだ油断は禁物だ。
 今後の事も話し合いてぇし、ひと先ず刹那姉さんと合流しようぜ)

「それじゃあ下に降りましょう。このかさん、足元に気を付けてくださいね」

「ありがとネギ君」

 ネギが木乃香の手を引きながら、四人は天守閣の屋根から下りて日本橋に引き返した。




 ◇◇◇◇◇




 その悪趣味な物体は、一体いつ置かれたのか。





「………………………………え………?」



 木乃香が、余りにか細い声を漏らす。



「ちょっ…………何よコレ…………!?」



 明日菜が、震える声で口を開く。



「……これ、は……『石化ペトリフィケーション』…!? 高等魔術じゃねえか!!」



 カモミールが、事態の重さに悲鳴をあげる。




「そんな……………なんで」




 堪らずネギが、口にした。




「………なんで、刹那さんが……………石に…………!!」



 もはや誰もいなくなった、日本橋の前の広場。

 そこに寂しく『置かれて』いる………桜咲刹那という少女に瓜二つの、『石像ソレ』。


 ―――その精巧さはまるで、直前まで生きていた本物の人間を・・・・・・・・・・・・・・・今さっき石に変えたかのよう・・・・・・・・・・・・・だと。
 そうネギ達に確信させるには、ソレは充分な存在だった。


 …それが『石化魔法ペトリフィケーション』。
 有機物・無機物問わず、対象を「石」に変じてしまう…強力にして脅威の呪術。
 もし生物がこの呪いを受けようものなら…完全に石にされるその瞬間まで、生きながら石にされてしまう・・・・・・・・・・・・・責め苦を負う―――



「一体何で刹那姉さんがこんなことに………。
 …ヤバイぜ、兄貴は軽傷しか治せねえし………!!」

「…? このか? …しっかりしてこのか!?」

 物言わぬ石灰色せきかいしょくの石像を目にして、木乃香は顔面蒼白になっていた。
 体は竦み、脚はぐらつき、肩が小刻みに震えている。


 ……それがほとんど直感から来る、不確かな確信だろうと。
 どれほど常識では有り得ない出来事だろうと。


 ―――木乃香は理解してしまったのだ。

 目の前に佇む石像が・・・・・・・・・、彼女の無二の親友「桜咲刹那・・・・本人・・だという事を。



「…………………ちゃ………」


「せっちゃ…………、せっちゃん。せっちゃん……!せっちゃん!!」


 石になった刹那に駆け寄り、必死に彼女の名前を叫ぶ。
 …だがその返事こたえが、帰って来る筈もない。

「ちょっ、落ち着いてこのか!!」

 明日菜は必死に木乃香を落ち着かせようとするが……明日菜の言葉は、彼女の耳には入らなかった。





(………ああ、まただ。)



『アナタノオ父サンハネ、すーぱーまんミタイナ人ダッタノヨ♪
 誰カガぴんちニナッタラドコカラトモナク現レテ、必ズ助ケテクレルノヨ』

『ねぎ、ドウシテコンナコト………』
『……だってピンチになったら……お父さんが来てくれるかも…って思って……』




 ――――眩暈がする。
 ネギの視界がチカチカと明滅して、赤く赤く染まってゆく。



《燃えている。焼けている。焦げて崩れて壊れて消えて、炭になって灰になる―――。》


 泣き叫んで石像せつなに縋り付く木乃香と、それを必死に宥める明日菜。

 その光景の向こう側に、ネギは燃える村を幻視した。




 紅イ、朱イ、緋イ――――――炎。
 大炎ハ辺リヲ照ラシ、家ヲ焼イテ空ヲ焦ガス。
 村カラ吹キ荒レル熱風ガ、ねぎノ帽子ヲ攫ッテイク。

 炎ガ村ヲ、灼イテイタ。


『僕が「ピンチになったら」って思ったから……?
 ピンチになったらお父さんが来てくれるって思ったから………』

『僕があんなコト思ったから――――――――――――――――!!!!』

『わしゃモウ助カラン…コノ
石化ハ強力ジャ……治ス術ハ………ナイ。』

『頼ム………逃ゲトクレ。ドンナ事ガアッテモオ前ダケハ守ル。
 ソレガ……死ンダアノ馬鹿ヘノわしノ誓イナンジャ…』






「……く…………っ!!」


 ―――ギリッ…!!

 ネギの拳が握られる。強く歯を食い縛る。
 目の前の状況に無力な自分…それがどうしようもなく腹立たしくて仕方ない。


(……なんで、僕は………六年前と同じじゃないか。…魔法学校首席なんて、何の役にも立たない!!)



「……き…兄貴!!落ち着け!!」

「!! え…あ、カモ君…」

 ネギはそこで、我に返った。


「いいか兄貴、関西呪術協会に行けば治癒術師がいるハズだ!治せる見込みはあるんだ、だから冷静になれ!!
 ああっそれにしても…さっき巫女の姉ちゃん達と離れるんじゃなかった!!」

 だがあの巫女達がこの場に居たからといって、石化解呪の力になったとは限らない。
 それでもそんな事を口にしてしまう程度には、刹那の石化にカモもかなり動揺していた。
 しかし彼の言葉は充分、ネギに一筋の光明を見出させる。


(関西呪術協会………!!)


「じゃ、じゃあ早く行こう!!」
「待て待て兄貴!刹那の姉さんをどうやって運ぶか――」


「キャアっ!?」


「「!!?」」


 突如射した強い光に、ネギとカモは目を開けていられなくなる。

 其れは閃光。そして突風。
 堪らずネギは口を押さえて膝をつく。

「うぷっ…!!なにこの…すごく濃い魔力……ッ!?」
「お、おい見ろ兄貴!!」

 言われて何とか薄目を開けて視界を開くと、
 その輝きに目を瞑り、強風に体を屈める明日菜の………更にその先に。


 眩いばかりの光を纏う、木乃香がいた。


 吹き荒ぶ烈風は魔力の波動。
 着物の袖と黒い長髪がたえなる力に煽られ揺れる。


「ちょ…どうしちゃったの…この――」
「……アスナさん下がって!!」


 ネギが叫んだ直後。彼らの視界は真っ白に染められた。











 ◇◇◇◇◇



 ――――「桜咲刹那」。

 それは木乃香の、最初の友達。
 いつだって木乃香じぶんを守って傍に居てくれた親友。

 疎遠になった後でも、木乃香は変わらず彼女を慕い続けた。
 また昔のように話したかった。

 それが叶った。
 この修学旅行でまた、昔のような関係に戻れた気がした。

 そして親友は昔と変わらず、ずっと木乃香じぶんを守ってくれた。




 その親友がいま、目の前にいる。

 自分の予想が現実離れしていることは理解している。でもきっと間違いなかった。

 刹那しんゆうは、石になってしまった。



 少女の姿をかたどる石像。/石灰色の彫像スカルプチャー

 その在り様は冷たく無機質。/体温は失われた。

 虚ろな瞳は何も映さず。/心も失われた。

 ……たとえ木乃香が笑いかけても。

 ―――刹那がそれに、笑顔を返すことはない。



(いやや……!!せっかくまた仲良うできたのに。
 また…一緒に遊べるようになったのに………!!)


「せっちゃん……………!!」


 その愛称は、二人が親友だった証。
 「せっちゃん」、「このちゃん」。
 互いをこの名で呼び合おうと、幼い二人は約束を交わした。

 今は「お嬢様」と堅苦しく呼ぶものの…一昨日の夜、刹那は確かに「このちゃん」と口にした。
 彼女だって、忘れていなかった。

 冷たくて硬いだけの石の体を抱き締めて、木乃香はその名を呼び続ける。


「せっちゃ…………、せっちゃん。せっちゃん……!せっちゃん!!」


 石になった刹那に駆け寄り、必死に彼女の名前を叫ぶ。
 …だがその返事こたえが、帰って来る筈もない。

「ちょっ、落ち着いてこのか!!」

 木乃香が錯乱したと思ったのか、明日菜は彼女の肩を掴んで刹那から引き離そうとする。
 しかし木乃香は頑なに、刹那の傍から離れようとしなかった。


「―――――――せっちゃん…………!!」




「……キャアっ!?」

 明日菜が悲鳴を上げて目を瞑り、木乃香から数歩後退る。

「うぷっ…!!なにこの…すごく濃い魔力……ッ!?」

 ネギとカモが驚愕する、膨大な魔力の奔流。


 その発生源――中心には、黒く艶やかな長髪を靡かせる木乃香が立っていた。


 体に暖かな光を纏い、己が傍らに激しい烈風を現す。


 ――――そして光の洪水が、その場一帯を埋め尽くした。



 ………全てが治まると。




「………お、お嬢様………?」


 聞き慣れた声に、木乃香は弾かれるようにして顔を上げる。


 濡れた瞼を開けると、石像は消えていた。



 温かい肌の色。木乃香を見つめて映す瞳。彼女を呼ぶ声。


 ………刹那が、不思議そうな顔をして木乃香を見ていた。



 石像はもう、何処にも無かった。




「…………うっ…」

「!? ど、どうかされましたお嬢様!?まさか…どこかお怪我でも――」

「……ひっぐ…よかったぁ……!せっちゃぁ〜〜ん!!」

「えっ!?えっ!?な…い、いけませんお嬢様っ!?」

 目に涙を溜めて嗚咽を漏らすと、木乃香は跳びつく勢いで刹那に抱きついた。
 いきなり木乃香に抱き締められ、刹那は顔を赤くしながらわたわたと狼狽える。

 構わず木乃香は、……泣き笑いを浮かべながら、力いっぱい刹那を抱き締めた。

 もう二度と、放さぬように。




 ・
 ・
 ・
 ・



 ――――『その悪趣味な物体は、一体いつ置かれたのか。』

 ………一体誰が置いたのか。


 ……誰が。




 ◇◇◇◇◇



「……成程、アレがお姫様のチカラという訳か。笑えないね、アレは単純な魔力量ならサウザンドマスターをも超えている……適性が治癒能力に偏っている事を祈りたい所だよ」

 一人の少女が起こした奇跡を、離れた場所から見つめた二つの視線があった。


「……あなたはどう思う?"千の剣"」

「…木乃香アイツらしい才能だよ。
 誰かを傷つけるなんてアイツには似合わない……というよりできないだろうな」

 日本橋を望める程度に離れた場所の、長屋の屋根の上で二人は対峙する。
 士郎はいつでも投影ができるよう脳裏に設計図を待機させ、右手の神経を研ぎ澄ませる。
 対するフェイトはポケットに左手を入れ、士郎に体を斜めに向けて相対していた。

「それはそうとさっきの矢は面白かったよ。あれ程の威力を持ちながら追尾までしてくるなんて性質タチが悪い。
 でも、術者が常に視線で狙い続けなければいけないのがネックだ。
 その所為で君は、あの剣士の石化を防げなかった」

 常に視線で狙い続けなければならない……それはつまり「士郎はフェイトから目を離せず、矢を射た場所から動けなかった」という事だ。
 そのためフルンディングを使うのは、見晴らしが良く開けた場所が望ましい。シネマ村のような…遮蔽物となりうる建物だらけの場所では対処され易い。それでも、離れた場所に居た士郎が、木乃香達からフェイトを引き離し続けるためには、フルンディングを使用せざるを得なかった。

 その隙を見事に突かれ……士郎はフェイトを見失う。
 護衛という目的上、その後も木乃香から目を離せなかった士郎は…刹那がフェイトに遭遇したと気づかない。
 千草が捕まったのを確かめて、士郎がフェイトを捜し始めた時には………既に遅過ぎた。


「……なんで石化なんて、回りくどい真似をした?
 殺そうと思えば簡単に出来た筈だ」

「なんだ、殺してほしかったの?」


「…………殺すぞ」


 聞けば全身総毛立つような冷たい声。
 人を殺せる絶対零度の視線で士郎がフェイトを睨みつける。


 ……彼はそれを簡単に受け流し、目を瞑って話題を変えた。

「あなたが「千の刃」から、何をどこまで聞いているのか知らないけど…快楽殺人者シリアルキラーの集まりとでも思われているなら心外だね。
 目的のため結果的に人を殺す事があっても、それは本意じゃない。無駄な殺生は好きじゃないんだ」

「そして無駄な争いも好まない。雇い主がいなくなってしまった以上僕がここにいる理由もない。
 だからここは大人しく退かせてもらうよ。……でも」

 そこで言葉を一端区切り、彼は変わらず感情のない顔で士郎を見た。

「あなたに興味が出てきたから話してあげよう。師匠から聞いているかな?」


「僕ら『完全なる世界コズモ・エンテレケイア』の目的は、世界を滅ぼすことで世界を救うこと・・・・・・・・・・・・・・・・だ」


「…………は…!?」


 …それに続く言葉が出ない。
 冗談や策略の類にしては突飛すぎるし、まさか本気で言っているのか。
 変わらず眼前に立つ少年の無表情に変化はない。嘘を言っているようにも見えない。

 混乱した思考は互いに足を引っ張り合い、絡み合って空転する。
 文字通り言葉を失くし、士郎は二の句を継ぐ事ができなかった。


「――そう。また会おう、千の剣」


 ――パシャンッ

 その場に寂しい音を残して、フェイトは水溜まりに溶けて消えた。
 ……険しい顔を貼りつけたまま、残された士郎はポツリと呟く。



「……フェイト・アーウェルンクス…」


(奴は………何者なんだ……!?)





 ◇◇◇◇◇



 刹那の石化解呪により、一同は歓喜に沸いていた。

「ス、スゴイですこのかさん!!」
「え!?やっぱ今のってこのかがやったの!?」
(術式も詠唱も介さずに…高等魔術であるハズの「石化」を魔力だけで完全治癒か……フムフム…)

「えーと…ウチ、何かやったん?」

「あ…あああお嬢様…し、ししし主従がここのように抱き合って密着するのは如何なものかと思いますいやそのですね嫌という訳ではなくてむしろ嬉し…いや何を言ってるんだ私はこんな不埒な考えが簡単に口から出るだなんてやはり修行が足りな…」

ネギ&明日菜(刹那さん嬉しそう…)

 木乃香本人は(刹那に抱きついたまま)不思議そうにしているが、刹那の解呪は間違いなく木乃香によるものだ。
 状況が読めない刹那は赤い顔のまま視線をうろうろさせている。

「あ、ああのアスナさんネギ先生!?これは一体どういう――」



 ・
 ・
 ・



「……ぐすっ。でも本当に良かった……刹那さんがどうにか戻って」
「ああ、一時はどうなる事かと……」
「よかったですね木乃香さん!」
「うんー♪」

「…私が石に……?それでお嬢様が…チカラをお使いに……」

 木乃香には膨大な呪力―――西洋魔術的に言うなら「魔力」―――が眠っていると、刹那は詠春から聞かされていた。
 なので彼女は、木乃香が不思議な力を見せたと聞いてもすぐに納得できた。

 同時に………「石にされた」と聞いて、刹那は自分がそうなる直前の出来事を思い出す。



 ――それだけで背筋が凍った。
 刹那じぶんを石にしたあの白い髪の少年――――「アレ・・」は、間違いなく別格だ。


(主犯の天ヶ崎を捕らえたとはいえ………私達だけでは厳しい)

 刹那は顔を上げて周囲を見渡した。


「…ネギ先生、カモ君、アスナさん」

「はい、わかりました」
「了解だぜ!」
「え? なになに?」

 ネギとカモは刹那の考えを承知して首肯する。
 一人だけよく分かっていない明日菜を尻目に、刹那は未だ自分に抱きつく木乃香の顔を見つめた。

「お嬢様。これからお嬢様の御実家に参りましょう」

「……ほえ?」


 ネギ一行は一路、関西呪術協会へ足を向ける事にした。







<おまけ>

刹那
「あ…あああお嬢様…し、ししし主従がここのように抱き合って密着するのは如何なものかと思いますいやそのですね嫌という訳ではなくてむしろ嬉し…いや何を言ってるんだ私はこんな不埒な考えが簡単に口から出るだなんてやはり修行が足りな…」

刹那
(……あれ、修行するとなると………やはり相手は士郎さんにお願いして……?)

刹那
(………………えへ)

木乃香
「? ………むぅ」

 ぎゅ――〜〜っ

刹那
「!? お、お嬢様ッ!?(そ、そんなに強く抱き締められたら…///)」

ネギ&明日菜
(刹那さん嬉しそう)


・↑………俺は何が書きたかったんだ。


〜補足・解説〜

・シリアスシーンを書くのは疲れるので、ぶっちゃけ木乃香の心情を描写する辺りで手を抜きました。
 だって辛いんだもの…悲痛な気持ちを文章にして表現するって、凄く体力が要るんですよ…。

>「紅き翼」に連なる者
 士郎本人にその自覚はありません。
 師匠が凄い人だとは知っているけれど、普段の態度がアレなのでいまいち英雄とは実感できていません。
 でも尊敬はしています。

>ご幼少の頃からとても可愛いらしいお方でしたが
>長い修行頑張って良かった
 この巫女達もかなり若いですが、子供の頃から修行をしていたほど呪術協会の在籍期間が長いので、幼い頃の木乃香を知っています。

>今時の巫女はこれくらい出来ませんと♪
 木乃香に魔法関連の事を誤魔化すためのウソ。
 全ての巫女があんなこと出来てたまるかい。アルバイトで巫女さんやってる人もいるんだぞ。
 …え?遠坂家の凛ちゃん?

>(何やら術が付与されているらしい)縄と布でぐるぐる巻きの簀巻きにされた千草が無言で横たわっている。
 術によって、口も利けない状態まで「無力化」されている最中でございます。
 できるのは「心臓を動かすこと」と「呼吸すること」くらいという、人権侵害しまくりな術。だが巫女たち曰く「これでも温情をかけてやった」らしい。

>少しは疑え天然少女よ。おっとりしてるってレベルじゃねーぞ。
 近衛木乃香:おっとりした性格で少し天然。…というのはもはや公式。

>カモが小声で話しだす。
 木乃香の手前、堂々と話す訳にはいきませんので。
 彼女の前でも普通に話せる日が来るのはまだ遠い……。

>(………ああ、まただ。)
 木乃香メインのエピソードなのにネギの過去を少しブッ込んだ。…済まぬ。
 でも「石化」という現象は、充分過ぎるほどネギのトラウマだと思うんですよ。
 原作の修学旅行編で石化を目撃した時は「僕の所為だ…」と涙目になる程度でしたが、この小説では我を忘れて幻覚を見るレベルまで動揺しています。
 …もっと動揺させてもよかったんじゃないですかね、赤松先生?

>魔法学校首席なんて、
 天才少年、基本魔法の天才、天才少年魔法使い…などと原作で言われるネギですが、魔法学校を首席で卒業したという設定はあまり目立ってませんね。

>堪らずネギは口を押さえて膝をつく。
>「うぷっ…!!なにこの…すごく濃い魔力……ッ!?」
 魔力酔い。吐きそう。
 カモは魔力容量が少ないので酔うほど魔力を受け止められない、明日菜はマジックキャンセルを持っているのでネギほど影響を受けませんでした。
 ただし明日菜はまだ自分の能力を自覚していないため無効化が不完全で、魔力の奔流を受け流し切れていません。

>着物の袖と黒い長髪がたえなる力に煽られ揺れる。
【妙なる】…不思議なまでに優れている、または何とも言えないほど美しいさま。
 「不思議な感じだけど凄い/美しい」といった感覚。

>……誰が。
 原作を知っている方々には判りきった事なんですけどね。
 それでもわざわざ、こんなにくどく書いたのは、「あんな非道な行いをしでかした輩は一体どこのどなたなんでしょうね〜え?」という皮肉と嫌味です。
 確かに殺してはいないけれど、石化というのはある意味それより酷い仕打ちなのではと思うんです。しかしその「殺しはしない」というのが、フェイトの矜持とかプライドなんでしょうね。

>魔力量ならサウザンドマスターをも超えている……適性が治癒能力に偏っている事を祈りたい所だよ。
 戦闘魔法にも明るかったらナギ以上になるかも、という懸念。
 木乃香は原作で「魔法の射手」を使っていますが、戦闘魔法はどれほどの腕前なんでしょうね?

>「…………殺すぞ」
 ここまでハッキリ言うのはフェイトに対してだけじゃないですかね、士郎は。
 士郎とフェイトは(しばらくの間は)仲良くなれません。お互いの性質的な問題で。

>シリアルキラー
 本来は「連続殺人犯」という意味ですが、「殺人鬼」「快楽殺人犯」等の意味もあります。

>「――そう。また会おう、千の剣」
 これは士郎が「完全なる世界」についてどれだけ知っているか(師匠からどれだけ聞かされているか)、という程度を探る為のひっかけ。過去を語るのが苦手な男(ジャック・●カン氏)は、弟子に大した話はしていないようです(笑)
 ………士郎は心理戦で翻弄(及び圧倒)されてばかりですね。実は戦闘能力でも現時点で負けています。…頑張れ士郎!京都決戦編を待て!!
 しかしお陰で、フェイトが強キャラとしての存在感を出せているので結果オーライ。うん良かった。

>高等魔術であるハズの「石化」を魔力だけで完全治癒か……フムフム…)
 これはカモの台詞です。
 ネギの従者パートナー候補の一人として(引き込むため)、木乃香のポテンシャルを分析・鑑定中。…大人しくしてろカモ。

>やはり相手は士郎さんにお願いして……?)
 楓さんとか真名さんもいらっしゃいますよ刹那さーん。



【次回予告】


「デカイ口叩けんのもそこまでやで。そない簡単に俺を倒せる思うなや!!」

風盾デフレクシオ―――あぐっ!!」

「ちょ、ちょっと!あの子すごく強いじゃない!!」
「メチャクチャ戦い慣れしてやがる!!」

「いくで―――トドメや!!」

「『瞬く雷精コンニヴェーオ・フルグラーリス』」―――――――解放エーミッタム!!」

 終わらない螺旋の結界に封じ込められたネギ達。
 戦いもまた、終わらない―――!!


 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
 第二章-第21話 三日目、永遠循環


《ちびせつなとお呼びください!》


 次回を待て!

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