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敵であり、獲物であり、友である 第四話 魔術物品と対価
作者:時雨   2012/11/29(木) 12:41公開   ID:wmb8.4kr4q6
『で、凪穣言ってたものは見つかりそうかい?』

「・・・・まったく」

私が今いるのは、大通りからわき道にそれてひっそり佇む蕎麦屋の前。
んで私の前にいるのは・・・あぁ・・名称は忘れちゃったけどよくお店の前に
いた狸の置物のあれ。
とりあえず、名前はポン蔵さんというらしい。

「ん〜資料館とか骨董品店とか喜和子さんや恭司さんに言ってつれてってもらったんだけど、魔力や力があるものがひとっつも見当たらないのよ」

正確に言うと曰くありげな品は幾つか見つけたのだ。
ポピュラーだったのが涙を流す幽霊の掛け軸とか、夜な夜な髪が伸びる人形、
満月の晩に覗くと自分の死期が見える鏡だとか何とか・・。
恭司さんがその手のものが好きらしく、置いてある店につれてってくれたんだけど、どの品も曰くがあるだけで、魔力やそれらしき力がかけらも感じられない・・ようはただの骨董品。

「・・・ただ」

『ただ?』

「骨董屋の店内で変な人は見かけたんだよね」

『というと?』

「・・無精ひげをはやしたくたびれサラリーマンって感じの人だったんだけど、
 気配が薄いっていうか・・店内を見てたのにお店の人も恭司さんもその人には
 全然気がつかなかったの」

目立つ人じゃなかったからそれで気づかなかっただけかもしれない・・でも。

『・・・そいつ魔力を纏ってたか?』

「うん。でも・・なんだろう魔力の上から透明な風呂敷みたいなので囲って洩れないようにしているかんじ?・・それでもほんの少しだけ洩れてたけど」

『そら隠遁の術だ』

「隠遁って?」

『日本に昔から伝わる古来の術式だ。・・昔はよく忍が使ってるのを見たことがある。気配や魔力をそれで隠すんだ』

・・とうとう忍者まで出てきたよ、どこまでぶっ飛んでんだこの世界〔汗〕

「でも、なんでそんな術までかけてあの店に?・・あそこに置いてあったのはただの骨董・・・・・あれ?」

曰くがあるのに、それを起こしそうな形跡がひとかけらも無い骨董品を置く骨董品店、そこに出入りする魔力ありげな忍者もどき・・。

「もしかして、その忍者もどきに物品をすりかえられてた・・・とか?」

『?すりかえるような素振りがあったのか?』

「うんん、でも私達が来るもっと以前から魔力がある品を普通の骨董とすりかえてたら・・・」

『そういや、聞いたことがあるな。魔術やそれを纏う物品なんかを集めて取り仕切るなんとかって奴らがいるらしいって』

「げっ・・・そんじゃ、いくら私が探しても無駄ってこと」

てか、私あの忍者もどきに姿見られてんだけど・・。
魔術隠す術なんて私には無いし、そんな奴らがいるなら魔力のあるやつも取り仕切てる可能性だって・・。

『まぁ、なるようになるさ。いざとなればトヨウケヒメ様の所に頼みに行くってのもてだしな』

「トヨウケヒメ?・・・でも、あの人は五穀豊穣の神様だよね」

『ん〜正確にいうとそうなんだが、人間ってのは結構節操がないからな。あのお方
にそれとは全然関係のない願い事を頼みに行く奴もいるんだわ。それをトヨウケヒメ様も面白がって受け入れちゃうもんだから・・』

「雑多になっちゃったわけね・・」

見た感じ大雑把で精神ナイーブのくせにやることは豪快って・・・。

「ん〜でもあの人が私の頼みごとを聞いてくれるとは思わないんだけど・・・。」

華火ならともかく、そのおまけ程度にしか思われてないだろう私が頼んでも、門前払いをくらいそうな気がする。

『あのな・・あの方はあれでも偉大な神様なんだぞ。縁を無碍にされるほど野暮じゃねぇよ・・・それに時間も無いんだろ?』

「・・・・・うん」

確かに、時間は無い。今は五月最後の週だから私の誕生日である7月11日まで
あと一ヶ月ちょい。ただでさえ幼児の行動できる範囲も出来ることも限られてる上になにやら知らない奴らが魔術物品を収集してるんだとしたら、まず一般人が手に入れることは不可能だ。

「・・ありがとう。今度頼んでみるよ」

『おう、そうしな』

私はどっこらしょと座り込んでいたアスファルトから立ち上がり、ポン蔵さんに右手をかざして魔力を送り込んだ。

(きれいになれ、きれいになれ、きれいになれ・・・・)

『おぉ、いつも悪いな』

「んにゃ、貴重な情報ももらってるから、これぐらいはわけないよ」

かざした手をどけると、先ほどまで少し汚れていたぽん蔵さんはピッカピカになり、先ほどよりも強い魔力をおびていた。

『いや、ここの爺さんが打つそばはうまいのになかなか客がきやしねぇ、凪譲の
 魔力でご利益があがればこっちとしても万々歳だ』

「まぁ、ご利益が上がるっても一時的なんだけどね」

私の魔力をおびると一時的に元々あったご利益にご利益が上乗せされるらしい。
こんな効果がある魔力は本当に稀とのことだから、きっと前に銀子さんが言っていた目立つ魔力ってのはこれのことだろう。
そんなデメリットがあるわりに、上乗せされる時間は魔力量で区切られていて、今の私が全力で注いでも1時間持つかどうか・・。

「それじゃ、今度は皆でおそば食べに来るよ」

『おう、そうしな!』


ぽん蔵さんとわかれ、とぼとぼ道を歩きながら空を眺める。

「大分日が高くなってきた」

今は時間にして夕方の四時、あたりはほんのり赤く染まり始めているが、それでも
このごろは明るくなってきた。

(・・・確かに時間が無い)

問題は様々ある、でも今は生き残ることが最優先事項だ。
そんなことをダラダラと考えながら帰り道を歩いていると、道の向こうから喜和子
さんと華火が手をつないで向かってくるのが見えた。

「凪ちゃんの帰りが遅いからお母さんと向かえにきちゃった」

喜和子さんと手をつなぎながらえへっと笑う華火と、それをにっこり笑う喜和子さん。

「もう、凪ちゃんたらフラッと何処かえいっちゃうから叔母さん心配しちゃった」

と、口では言う喜和子さんだが、顔は優しく微笑むばかり。
彼女が怒るさまは何度かみたことがあるが、・・うん、微笑んで怒るってよりも胸ぐら掴んで全身で怒るって感じの人だ。
なので、怒ってるっていうよりも・・。

「兄さんも小さい頃からすぐにフラッといなくなっていたのよ。最初の方は家族みんなで心配してたんだけど、いつもけろっとした顔で帰ってくるもんだから、毎回
兄さんにエルボをくらわしてたわ。・・そういうところばっかり兄さんに似るんだ
から・・でも、さすが親子ね」

・・・とんでもないことがサラッと言われた気もしなくもないが、・・・うん私は
エルボくらってないし、良しとしておこう。

「凪ちゃんが遊んでくれないから華火つまんないよ」

「でも華火ちゃん私以外にも友達がいっぱいいるじゃん」

ブウブウいう華火を宥めながら、私達三人は日がくれる道を歩いて帰ったのであった。



翌日、私はポン蔵さんのアドバイスもありトヨウケヒメがいる神社へと足を運んだ。


「トヨウケヒメ、申し訳ないけど出てきてくれる」

お社の前でトヨウケヒメに呼びかけると、トヨウケヒメはクツクツと喉を鳴らしながら私の前に現れた。
ちなみに格好は前回と一緒で白ツナギに銜え麦である。

『譲ちゃんも懲りないね。前回で学んだろ・・うちが姿を現せばあんたに掛かる負担5倍以上に膨れ上がるって』

確かに、今だって脂汗がダラダラだ。

「だったらそのプレッシャーを引っ込めてくれる、他の神社の神様からはそんな
 プレッシャーは感じないんだけど」

『そりゃ他の奴らが譲ちゃんのことを嘗めきってるからさ・・それがわかってる
 からうちの所にきたんだろう?』

確かに、ポン蔵さんのアドバスがなくとも来るならここだったろう。
時間は掛かるが銀子さんところの神様とも面識があるし、あちらの方がフレンドリーだった・・・でも・・。

「・・そうね、まともに取引してくれそうなのは貴女だけだもの」

油断してくれればこちらが有利になるならまだしも、取引のさいに足元見られた状態じゃこちらが不利にあるばかりか、取引じたい持ち込めるかどうか・・。

『神は縁を無碍にはしない・・・だが、そうさねより強い縁のほうが譲ちゃんが欲しているものには近づけるのは確かだね』

「・・それで、本題に入りたいんだけど・・」

じゃないともたないわ・・・これ。

『ったくなよっちいねぇ。譲ちゃんにはとっとと成長してもわなくっちゃならないのに・・。』

「・・・なんでよ」

『まぁ、そこらへんはおいおい話す機会があれば話てやるよ。・・それで、譲ちゃんが望むものってのはなんだい』

「・・強固で魔力を溜め込め、私の魔力と気配を隠しあの世へ誘う声
すらも遮断するもの」

『こりゃ、でかく出たね。わかってると思うがただでやるわけにはいかないよ。それに見合うだけの対価をもらう』

「・・・・わかってるわ」

この世界じゃなくったって、悪魔伝承なんかはあった。
当然取引をもち出せば対価を要求されるのは火を見るよりも明らかである。
だからこそ、なるべくならば自分の手で見つけたかったのに。

『そうさね・・・じゃあ対価は“鳥居”にしよう』

「鳥居?」

『そう、渡すに値する鳥居を持ってきな・・それが対価だ』

そういって不適に笑うと、トヨウケヒメは姿をけした。
姿が消えたとたんに、足の力が抜けその場に座り込んでしまい、
自分としても情けない限りだが、とりあえず目的は果たせた。

「それにしても、何で鳥居?」

『それが慣わしだからどす』

ポンっという音と共に現れたのはトヨウケヒメに仕える狐の杉さんであった。
前回現れたときに私がビックリしてたから配慮しての音だろうが・・なんとなく
間の抜けた音だね・・それ。

『凪はんもいつもここに来るとき潜ってるあの鳥居は、願いを叶えたものがこの神社に奉納したものなんどす』

私の失礼な考えにまったく気がつくこともなく説明を始める杉さん。
ある意味大物である。

「でも、あの鳥居を見るかぎり十個ぐらいしか願いが叶ってないみたいだけど」

『へぇ、そりゃ人間の願いを端から端まで叶えるわけではおまへんから、対価に
みやった分だけ願いがかなうんどす』

「・・・まぁ、そりゃそうか」

対価に見合わない願いまで叶える義理なんてないもん・・な。

『ですので、気張ってください』

「え?」

『トヨウケヒメ様は凪はんに期待してます。でなきゃあんな無茶な願いはなっから
 はねつけはります。期待して出来ると思うから対価をいったんどす。』

「そうだね・・・どうせ、他に手立てはないんだから」

やらないで諦めるぐらいなら・・・やって何とかして見せるわ。


・・・・リミットまで約一ヶ月・・・・・・・





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■作者からのメッセージ
今回もやたらと長い文のうえ原作に入っていない作品を読んでいただき真にありがとうございます。まだまだ、原作には入りませんが気長に読みすすめてくれる方がいれば幸いです。
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