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敵であり、獲物であり、友である 第三話 たった一人 されど一人・下
作者:時雨   2012/11/28(水) 17:29公開   ID:wmb8.4kr4q6
喜和子さんち、もとい橘家にお世話になるようになってはや一ヶ月と少しが経過した。

一ヶ月この家ですごし判ったことは、この一家は・・とりあえずぶっ飛んでいた。
いや、とってもいい一家なんだけど、感性というかなんというか・・うん普通という概念の斜め上を行く家族って言うのかな、このまえなんて八百屋のおっさんに安くしなきゃズラのことばらすよ?って喜和子さんが笑って言ってるのをみたし。
それでも一家の評判はこのへんではかなり良く、それはまさに喜和子さんたちの人徳というのか、あの人たちはお人よしというか面倒見がいいというか、他人のことにたいしてやたら親身になれるそんな人たちだからこそ、普通とはちがっても周りに受け入れられているのだろう。
そのなかでも華火の場合は外見も美少女だし、なによりあの明るい性格もあってご近所でもとても可愛がられていた。
友達も多く、あの子の周りではいつも話し声や笑い声が絶えない。
でも、だからこそ・・・。

「凪ちゃん、遊びに行こう!」

「うん」

華火は私を遊びに誘うときは大体あの神社につれてゆく。
別にそれに不満があるわけじゃないけど、あの子は他の子がいるときは絶対にあの場所には行かないからそれが少しだけ気になった。

場所はいつもの神社、いつも境内の真ん中で華火と向かいながら今日はなにして遊ぶか話し合うのだ。

「今日はなにしようか」

華火が首をかしげながら考えているところ悪いが、私は今日どうしても確かめたいことがあった。

「今日は温かいし、お昼寝しない?」

社のところはちょうど日差しも適度にはいるし絶妙な感じで日陰もあるので昼寝には最適の場所。その所為か今日は猫までもそこでお昼寝中だ。

「猫さんと一緒に寝るのも気持ちよさそうね!」

うん・・猫さんグッジョブ!!

爆弾娘こと華火は正に字に書いたとおりのアクティブ人間だから、ジッとしてるのはあまり性に合わないかと思い気が気でなかったんだけど、たまたまいた猫のおかげで今日こそは確かめられそうである。

暖かい日差しのおかげか、30分もしないうちに華火はスピスピと深い眠りに誘われていった。その隣で華火が寝入ったことを確認すると、私はむくりと起き上がり誰もいない場所に小声で話し掛けた。

「いい加減出てきたらどうなの?神様でもストーカーで訴えるわよ」

この一ヶ月ここに来るとど〜も視線を感じていた。
最初に来たときは気づかなかったけど、ここまで続けば流石に気づくってもんだ。

『いやはや、うちに気づくとは譲ちゃんただもんじゃないね』

声をかければおかしそうに笑いながら出てきたのは・・。

「おい、ちょっと待て」

『ん?』

「・・・もしかしなくても、貴女がここに祭られてる神様?」

『そうだけど』

・・・・私の目の前にいるのはメカニックが着そうな白いツナギを上半身のところで脱ぎ、半そでTシャツをさらし、頭にはタオルみたなものをバンダナのように巻いて、
右耳の下で簡単に髪をまとめた女性。・・しかも口には麦をくわえていた。

「・・・今時の神様ってツナギしようなわけ?てか・・なんで麦」

 『別に神がオシャレしたって良いじゃん?麦は一応うちが五穀豊穣を司ってるから念のため仕方がなくね』

ツナギってオシャレか?てかてめぇで司ってるもんを仕方がなくとかいってんじゃんねぇよ・・と、まぁつっこみたいのはやまやまだが・・。

「・・まぁ、いいや。とにかく本題に入るわ。貴女がここい一ヶ月の間、華火のことずっとみてたのはなんで?」

そう、この1ヶ月ここに来るたびに感じていた。
しかも、その視線は私にではなく華火にだ。
・・・こんなふうにいうとなんだか自意識過剰に思うかもしれないが、実際この手
のことに関して私は生まれたときから認識があり、意識してきた。
だが華火は少々変わったところはあるが、いたって普通の子。
もし、何らかの原因で華火が神に目を付けられたんだったら、あの子には何にも
対抗策がないんだ。こんなふざけた格好してても神は神。
声を聞いただけで力の差を認識させられるのに、姿を見せられた状態の今は・・
うん、逃げ出したい。
握りこぶしをつくってるては脂汗でびしょびしょだし、出来ることなら気絶してしまいたい。さっきまでのかるくちだって精一杯の虚勢だ。今の私が情けなくってしょうがない。

『きつそうだねぇ。下手に見えるっつうのも難儀なこった』

鼻で笑われながら言う言葉は皮肉気だが、どこか棘は感じられなかった。
多分それは隣で眠る華火のおかげだろう。
華火をみる神の目はどことなく優しげな気がするから。

『まぁ、長話できるほど譲ちゃんはもたなそうだし・・単刀直入に言えばうちは  華火を傷つける気は一切ない』

「じゃあなんで!?」

『これ以上言うことはないよ。そんじゃ』

そういうと、神はそのまますぅっと消えていった。
正直に言えば、あれ以上は私が持たなかった・・でも。

「あんなんで納得できるわけないじゃない」

いままでは神の何気ない愚痴やらなんやらは聞いてもそこまで威圧は感じなかった。
でも、さっきは違った。
あそこまで何かから逃げ出したいと思ったことは無い。
それは、私に対して意識を向けた言葉だったから。
はっきりと格の差を見せ付けられた、そういっても過言じゃない。
でも、それでも・・。

「華火は私の身内よ、何かしたら容赦しないから」

こんな言葉あいつにしたら、そこらへんの小石よりも意味の無い言葉なんだろう。
それに、あの華火を見る目・・多分さっきの言葉に嘘はない。
でも、ほんの少しでも可能性があるならその矛先を私に向けなければ、あの子は
身を守る術をもたないんだから。

『そんな気張らんでもええ』

「誰!?」

よっぽど気が張ってたのか、声がするまで目の前の存在に全然気づかなかった。

『わてどす。トヨウケヒメ様に仕える狐の杉といいます』

そこにいたのは鳥居のそとにいた狐だった。

『華火はんのこと、そこまで心配せんでも大丈夫どすえ』

狐の顔だからよくわかんないが、多分優しく笑ってるつもりなんだと思う。

「なんで、そんなこといえるの?」

別に嘘をついてるとは思わないけど、用心するに越したことはないと思う。
なにせこの狐はあの神に仕えてるものだからね。

『・・トヨウケヒメ様にとって華火はんは光のようなものなんどす。だからこそ
 あの方は大事に華火はんのことを見守っていたんどすえ』

「なんでそこまで華火のこと・・」

『・・凪はんはこの神社をどうお思います?』

「え?」

『穢れや淀みがないでっしゃろう』

そう、それは思った。
最初に来たときは、思ってるよりも人がきているのかと思ったけど、この一ヶ月殆ど人は見かけていない。

『最近じゃ神社にくるかたも減りましてな、正月ですら人がこなくなりんした。
 近くの神社より遠くの大きい神社にむかうんどす。神にだって感情はあります。
 忘れ去られていけば、悲しいし寂しいんどす。華火はんがくるまで、ここは淀み と穢れが溜まり、トヨウケヒメ様は己を見失いかけていたんどす。そんなときです、華火はんが遊びにきたのは・・。
 ここは遊び道具一つありはしませんし、その時は淀みと穢れでこの場所は人にとっても居心地のいい場所ではありませんでした。
 それでも華火はんはことあるごとにここに遊びにきたんどす。
 それからです、トヨウケヒメ様も少しずつ己を取り戻され穢れも徐々にトヨウケヒメ様の気で払われていったんどす。』

「・・・そっか」

『たった一人と思われますやろう?・・でも、されど一人なんどす。その一人がいるだけで神も人も大きく変わります。ですから・・』

「わかった」

『えっ』

「その一人の重さがわからないほど、私だって愚かじゃないよ」   

私にだっていたもの・・訳もわからない状況下のなか一言の言葉で救い、拭ってくれた人が・・・。 

「それにしても、さすが爆弾娘。知らないうちにこんな大物を釣り上げていたとは」

『そうですね。トヨウケヒメ様はそれはもう華火はんのことを大事にされてはりますから。この前なんて華火はんに近づく下郎を脅かしてこいと、厳命されました』

「・・・・あぁ、だからこの子無事なわけね」

そりゃ神様に守られてれば納得だわ。

『でも、トヨウケヒメ様は凪はんのことも喜んではりましたよ。華火はんがつれて来た初めての友達でしたし。なにより凪はんも華火はんもお互いのこと大事に思ってるのははたから見てもすぐにわかりましたから』

「・・・それにしても、やっぱり華火は私がくる前も誰もつれてこなかったのね」

『へぇ、華火はんは敏感なところがありますから、本能で他の子をここに近づけな いようにしたんじゃないでっしゃろうか・・子供はなにかと恐がりますから』

(・・・華火ってそんな繊細なことを実行できる子だったっけ?)

私は首をかしげながらも考え深げにしている狐の杉さんを思い、余計なことは口に
しないでいた。・・・うん、私っていい子。

その日は華火を起こし二人で帰っていったものの、やっぱり気になり神社ではない所で華火に聞くと・・。

「だって八百屋のおじさんのズラを取ったときとか、おじさんの盆栽を壊したとき とか他色々な時に逃げる場所が必要でしょ?だから誰にも言ってないの。
 凪ちゃんは特別だよ」

こんなとんでもないことを言っていた三歳児のことなんて知らない。
うん、いま即効で削除したので私はなにも知らない。

八百屋のおっさんとどこぞのおじさんには尊い犠牲となってもらおう。



・・・・・リミットまで後五ヶ月・・・・・・・・・



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■作者からのメッセージ
長文を読んでいただき、真にありがとうございます。
えぇ、今回はやっと神様らしき人?を出すことができました。
まぁ、でも出張ったのは狐の杉さんの方が長かったですけどね。
そこでお願いがあります。
杉さんのキャラを際立たせるために舞妓さんの言葉らしきものをしゃべらせてみたのですが、私自体が京都にいったこともなければ、京都の方と話す機会にも恵まれたことがないので、かなりの間違いがみこまれます。
不愉快に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、けして方言を馬鹿にしての
間違いではないので、そこはご容赦いただきたく存じます。
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