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敵であり、獲物であり、友である 第五話 たりないもの
作者:時雨   2012/11/30(金) 14:02公開   ID:wmb8.4kr4q6
トヨウケヒメに対価を鳥居と言われ、一日悩んだすえ私なりの結論に至った。
それすなわち・・・。

「量より質・・・というわけで、喜和子さんいってきます」

私は玄関で見送ってくれている喜和子さんに一言言うが、喜和子さんは首をかしげ
ながらも笑ってくれた。

「なんのことを言ってるかよくわからないけど、とりあえず車には気をつけてね」

「・・・・・はい」

喜和子さんは私が資料館や骨董店に行きたいといったときも、こうして一人で出掛けるときも笑ってつれてってくれたり、見送ってくれたりする。
ここ最近は物品探しで余裕がなく、喜和子さんにかなり我が儘をいってる気がしても、それをやめる余裕が無かった。・・でも何とかなりそうな目処ができて振り返ってみると、我が儘どころか普通にありえないことを連発していたような気がする。
最近忘れがちだが、私は今三歳なのだ。
あと一ヶ月で誕生日だが、四歳児だって資料館には出掛けなしいまどき一人で遊びにも行かせてもらえない気がする。

「あっ!凪ちゃんどっかいくの?華火もいく!!」

・・・・うだうだ考えてないでとっとと出掛ければよかった・・。

「・・えっと、今日は神社じゃなくて大工の原さん所にいくんだけど」

「華火もいく!」

・・・やっぱりいくんかい。

「凪ちゃん、悪いんだけど一緒に連れて行ってやって。最近凪ちゃんに遊んでもら
 えなくってこの子ぶうたれてたから」

・・・うん、幼児二人を出掛けさせちゃうんだから、あんまり私がしんぱいすることもなかった・・か?

「それじゃ、二人ともいってらっしゃい。夕飯にはもどるのよ」

「「は〜い」」

こうして、華火と一緒に原さんの所に向かうことになった。



原さんの所にいく道々でいろんな人に声をかけられた・・おもに華火が。

「あら、華火ちゃんに凪ちゃんおでかけ?」

「華火ちゃん僕んちで一緒に遊ぼう」

「うちでお菓子を焼いたの華火ちゃん食べていかない?」

などなど、私に話し掛けてきたのは骨董屋のおっちゃんとか、そばやの出前の兄ちゃんぐらいなもんだ。
いや、別に僻んでるわけじゃないぞ・・うん。
ただ、やっぱこういうのをじかに見ると、華火の人気がうかがい知れるというか、なんというか。ときたまなんとも凄まじい悪戯をするも、それすらも愛嬌に変えられる華火が羨ましいというか・・そんな華火は何故か私と一緒にいたがるのだ。

「華火ちゃん、遊ぼうって言われてたけど・・いいの?行かなくって」

「うん、華火は凪ちゃんと一緒にいたいもん」

と笑顔で言い切る。
うん・・・やっぱり何考えてるのかよくわかんないや。
まぁ、多分子供の気まぐれだとは思うけど・・でも、私も人間なんだよね、それが気まぐれだとしても・・嬉しいものなんだよ。

「ありがとう、華火」

「?」


そんなこんなをへて、家から歩いて30分かかってようやっと大工の原さんの
仕事場に到着したのであった。

「原さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

木を電鋸で切るおとやら、鉋をかける音やらで原さんの・・・えっとガレージ?
や、家を建ててるとこしか大工さんのイメージがなかったから、こういう仕事場をどういっていいのかわかんないけど・・うん見た目でっかいガレージで仕事をしていた。とりあえずそういうところだから音がやけに響いて余計に五月蝿く感じるんだよね。
なので、ばかでっかい声で原さんをよんでみると、なにやら設計図みたいなものとにらめっこしていた初老・・・いやおじさ・・・んでもなく、お兄さんが顔を上げた。

「おう、凪穣ちゃんに華火じゃねぇか何かようか?」

白髪が目立ち始めた角刈りにはねじり端巻き。
上は薄い長シャツにしたがボンタンに足袋のような厚いブーツ?
なんというか、ザ大工といった出で立ちの原さんはニカッと笑いながら
私達のほうに向かい用をたずねてくれた。

「あぁ〜〜・・檜の棒状の材木を分けてもらえませんか?」

流石に檜は無理かなぁ、と思い目を泳がせながら聞いてみると、原さんも目をパチパチさせていた。
・・・うん、ちょっとギャップが可愛いかも・・。

「ひ、檜か?」

「うん」

「檜は・・ちょっとなぁ」

渋い声を上げる原さんをみながらやっぱ無理か、と思っていたら今まで黙っていた
華火がススッと原さんの足もとにいきボンタンをクイクイっと引っ張った。

「ん?」

「原さん、華火どうしても欲しいんだ。ダメ?」

首をかしげながら聞く華火をみた原さんは・・・。

「・・・・よっしゃ、あまった切れ端んなかにあるかもしんないから、好きなの持ってきな!!」

(おいおい・・)

原さんあっけなく陥落・・。
あれで落ちる原さんって・・・とか、世の中不条理だ・・とか思いながらも、一番
に思うのは、華火の将来への不安材料がまた一つ増えたなってことだった。
・・・ひっ檜ゲットだぜ?

原さんに頼んで長さを10cmにそろえてもらった四本の檜を抱えながら、帰る途中
華火はず〜っとニコニコ笑っていた。

「華火ちゃん・・なんか嬉しそうだね」

「えへへ、凪ちゃん今日華火と一緒にいてよかったって思ったでしょ?」

「えっ・・うん」

これっきり華火が何か言うことは無かったけど、帰ってからも華火のご機嫌はずっ
と続いていた。


檜が手に入ってからは、私の一日は殆ど紙やすりで檜を削ることに費やされていた。
朝も昼も夜も、眠る時間も惜しみ表面を削り、どの木もつるっとした筒状にする為
に・・そんな日が五日続いたある深夜、今日も一家にばれないようにキッチンに新聞紙をしいて作業をしていると・・。

「凪ちゃん」

後ろから声をかけられた。
深夜ってこともあり油断をしていて、誰かが近くにいることすら全然気づかず
慌てて後ろを振り返ると、そこには苦笑いを浮かべた喜和子さんがいた。

「喜和子・・さん」

「こんなに連日続けて・・・よっぽど大事なことなのね?」

喜和子さんの言葉はここ数日の徹夜続きを踏まえての言葉だった。

 「なんでわかったの?って顔ね。・・そんな立派なくまを目につくってたら
  やでも気づくわよ」

クスクスと笑いながら言う喜和子さんの姿と父さんの姿が重なった。
どこか心を暖かくするあの笑い声は血縁がなせる業なのだろうか。
 
「凪ちゃん、・・その作業はまだ結構続きそう?」

笑いを引っ込め、ジッとこちらをみる喜和子さんの目は真剣で嘘を許さないと如実に語っているような目。

「・・・この作業は明日の昼までには終わりそう」

「そう・・じゃあ、あと少し頑張りなさい」

「え?」

喜和子さんは突飛な人だ、でも、それでも今回のは絶対に止められると思っていた。
だが、喜和子さんの言葉はまったくの真逆でそれどころか応援までされちゃった。

「あら、私が止めないのがそんなに不思議?」

「・・・うん」

思わず頷いてしまった。
いや、だって普通は幼児がこんな徹夜続きでこんな作業してたら止めるだろう・・。
てか、最悪な場合ひくかな。

「まぁ、何をしようとしてるのかは叔母さんわからないけど、凪ちゃんにとってこの作業はとっても大事なことなんでしょ?」
「・・・うん」

「なら、止めないよ。・・・その代わり、中途半端なことしたら叔母さん許さないからね」

「うん!」

 力強く頷くと喜和子さんは頭をなでてくれながら、そっと言ってくれた。

「ちゃんと寝れるときには寝ときなさいよ」

そういうと、喜和子さんは自分の寝室へと戻っていった。

改めて思う。
喜和子さんは・・うんん、橘一家はぶっ飛んでる。
そして橘一家はとってもおっきな人たちだ。

翌日の昼には喜和子さんに言ったとおりに終わらせ、そのまま寝てしまったらしい。
連日連夜の徹夜と一心不乱に魔力を注ぎ込んだ余波だと思う。
一日ねっぱなしだったあと、華火には泣きつかれ喜和子さん夫妻には苦笑いをされながらも頭をなでてくれた。
・・とりあえず睡眠はちゃんととらなきゃな、と少しくすぐったく思いながらもそう考える私がいた。


翌日には喜和子さんとお花屋さんにいったんだけど・・。

「紅花?・・そうねぇ、7月の上旬には入れられると思うけど・・あんまり仕入れ  
 ることがないし、生産数もそんなに多くないから確実なことはちょっといえないねぇ」

「えっ・・あの、7月5日までには欲しいんですけそど!」

「そういわれてもねぇ・・」

花屋のおばさんも困り顔だが、私だってこまるのだ。
・・てか死活問題だし。

「では、届いたら電話を一本くださるかしら」

「はい、それはもちろん」

喜和子さんはにっこりそういうと、私の手を少し引っ張りながら歩き出してしまっ
た。・・・ただ、そのと喜和子さんの笑顔に妙な迫力があったのは気のせいだろう
か?

「凪ちゃん大丈夫よ?確実に五日までに届くから」
・・そう断言する言葉は心強いのだが、妙な恐怖を感じるのは・・。

 「ん?」

 (気のせいっすね!!)
 
 家に帰ったあと喜和子さんは何処かに電話をしていたが・・・私は耳をふさいでいた。
 
「あの時の貸しががさがさあるでしょ?」

とかなんとか、その他色々なんて私は聞えてません・・はいまったくもって。

・・多分喜和子さんのおかげで期日には紅花が届くであろうことを見越し、次の段階へ移行した。

私はその日町外れにある近所でも有名ながん・・いやいじっぱ・・りでもなくって、
昔ながらの古風なジジイ・・あっ・・もういいか、とりあえずその人の家の前に来ていた。
このジジイの実家で紅花染めをやっていたときき、ここにきたんだけど・・。

「あぁ!?餓鬼が何言ってんだ!染物なめんなとっととかんな!!」

と家を訪ねて、とっとと放りだされてしまった。
・・染物なめてるわけじゃないんだけど、“紅花で絵の具を作りたいんです”なんていったのがまずかったんだろうか?

「まぁ、いいか」

私はジジイ・・・もとい千家さんちの塀の前に座りこんでいた。
こうなったら我慢比べである。
そこらへんを通る猫娘と話しをしたり、カマイタチをからかったりしながら2時間位
たったろうか、家に近づいてくるおばあさんが一人いた。

「まぁ、まぁお譲ちゃんこんなところでどうしたの?どこか痛いの?」

「うんん、千家さんに紅花染めを教えてもらおうと思ったんだけど断られちゃったから
 こうなったら我慢比べかなと思ってここで待ってるの」

・・・自分でいっておきながらなんて身勝手とおもうが、子供の外見からするとこの位
の方が健気に見えるから不思議である。

「まぁ、こんな所じゃ風邪をひいてしまうよ。千家は私の家でもあるからどうぞ
 お入り?」

そういって私を立ち上がらせようとしてくれたが、断った。

「うんん、千家さんが教えてくれるまでおうちには入んない」
といってまた其処に座り込む。
かなりはた迷惑な餓鬼だと思われるが、ここで家に入ったらあのジジイの攻略には時間がかかってしまう気がする。あぁいう・・・もう、いっか、頑固爺は根性がある餓鬼と奥さんに弱いものと相場が決まっているのだ。

「どうしましょう・・・じゃあ、おじいさんに聞いてくるから、それでいいって言った   
 ら家に入ってくれるかしら?」

「うん」

そういって家に入っていったおばあさんだけど、まぁ悪いが期待はしていない。
一日やそこらしかも数時間いたぐらいで頷いてくれるんだったら、頑固爺なんて
呼ばれやしないだろうし。
そのあと戻ってきたおばあさんは困った顔をしていた。
やっぱり説得に心配したらしい。

「ごめんなさいね。うちのおじいさん頑固だから・・えっと・・」

「私凪っていいます。今橘さんちにお世話になってるんです」

「まぁ、橘さんちの・・困ったね、橘さんちにはいつも町内会なんかの時にお世話になってるのに・・」

「あっ、そういうのは気にしないで。今日きたのは橘さん達とは関係のないことなんで」

「でもねぇ」

「私も五時になったらちゃんと帰るから大丈夫」

そうにっこり言うも、やっぱりおばあさんは困り顔。
そりゃ、こんな餓鬼に言われちゃあ安心どころか不安は募る一方だろうが、私がまた座
り込み、まだ帰る意思がないとわかると、渋々と家の中に入っていった。

そんな感じで、五時に帰りまた九時ぐらいからジジイの家に座り込む日が三日続いた。

四日目の朝、今日も千家さんの家に行こうと玄関で靴えをはいていると、肩をとんとん
とたたかれ、振り返るとそこには私の目線に合わせて座ってくれている恭司さんだった。

「凪ちゃん今日も千家さんの所?」

「あっ、うん・・もしかして千家さんから電話とかきてた?」

「うん」

あっちゃ、くるかなとは思ってたけど・・やっぱり迷惑かけちゃったか・・。

「でも、その電話では気にしないでくださいっていっておいたから」
「え?」

「喜和子とかけてるんだよね、あのお爺さんがいつ折れるのか。あの電話の様子じゃあもうそろそろ折れそうな感じだから、根性の見せ所だよ」

「・・・・恭司さんたち、楽しんでます?」

「もちろん」

にこっり笑われながら見送られたものの・・・なんか複雑な心境である。
・・まぁ、迷惑がられるよりかはいいかと思いなおし今日も今日とてジジイんちに
向かうのであった。


ジジイんちの塀に寄りかかりながら12時ぐらいになったろうか、ようやっと大将の
お出ましのようだ。

「おい、餓鬼。てめぇがここにいるとばあさんが五月蝿くってかなわねぇんだ。
 とっととかえんな」

「やだ」

「餓鬼!我が儘いってんじゃねぇ!!」

「ここで引き下がったら本当にただの我が儘になっちゃうもん!!だから絶対にやだ!!!!」

そう叫ぶようにいうと、はぁ〜とため息をつき、頭を抱え始めたジジイ。
うん、私もこんな餓鬼を目の前にしたらそうなるね。

「だぁ〜わかった。とりあえず家にはいんな!話しはそれからだ」

「うん!!」

(よっしゃ!!)

やっと大将をの懐に飛び込んだよ!!
あと一撃与えれば絶対に落ちる!!

「あらあら、やっと折れたんですか?おじいさん」

ジジイに連れられ、家に入り居間に案内されると、そこにはお茶をのみながら座るおばあさんの姿。

「別におれちゃいねぇよ!まだ教えるなんていってねぇからな」

すこしむくれながら居間にある座椅子にどかっと座ると、おばあさんは逆に立ち上がり
お台所へとむかう。

「凪ちゃん、お昼まだでしょ?今日はうちでたべておゆき」

「えっでも・・」

「ここまで頑張った凪ちゃんにご褒美だよ。あの頑固なおじいさんをここまで追い詰めたのはもう何十年ぶりだからね」

ウフフと笑いながらおばあさんを見るも、ジジイに呼ばれたので渋々居間に向かい、
ジジイの向かい側に座った。

「でっ、なんで紅花にこだわんだ。絵の具なんてそこらでしこたま売ってんだろうがぁ」

「・・・紅花ってよりも、化学薬品の入っていない絵の具を手に入れたいの。でも、
 調べてみると、自然のもので赤を作る材料はなかなか手に入らないものが殆どで、紅花ならお花屋さんで手に入るし近所の人に聞いたら千家さんは実家で紅花染めをやってたってきいたから・・それで・・」

またこんなことを言ったら家から放りだされるかも知れない・・。
でも、教えてもらおうって人に嘘をいって手に入れた絵の具で鳥居を染めたとしても、
それはなんだか違う気がするし・・・なにより、ジジイに対して失礼だと思ったから。

「・・・・餓鬼、お前根性はあるようだが馬鹿だろ」

「・・なんで私が馬鹿なのよ!」

「はぁ・・まぁ・・だが、そういう馬鹿はきれぇじゃねぇよ」

私は言い返しただけなのにジジイ・・千家さんは頭をかきながらも、その時初めて笑っ
てくれた。

「ところで、なんでそんな特殊な絵の具が必要なんだ」

「・・・化学薬品や釘なんかを全然使わないで全部手作りの鳥居を作る為だよ」

「鳥居だぁ!?」

・・まぁ、こんな話しを聞けばそういう反応が普通だよね。

「鳥居っていっても高さ10cmの小さいものだよ。」

「だが、なんでまたそんなもん・・・」

「トヨウケヒメに奉納するためには、どうしてもそれじゃなきゃダメなの」

・・・私には神社にあった鳥居は絶対に無理だ。
転生前の私なら誰かに頼めば何とかなったかもしれないけど・・多分そういうのじゃ
あの神は納得しない・・というか、見てもらうことさえ出来ないんだと思う。
対価とはそういうものだ。
他力本願で何かを渡しても、それは自分からの対価ではないただ橋渡ししただけになる。
なら、どうするか・・。

私の考え、出来る全てのことをやるしかない。

「・・どうしても叶えたい願いがあるの。・・・それに喜和子さんと中途半端には
 しないって約束した!だから・・」

「・・・そうかよ」

「・・・・」

言うべきことは全て言った。
後は何も言わず、千家さんの方をジッと見つめていると、千家さんはそれは大きなため息を一つつくと、ポツリといった。

「紅花はいつ手に入る」

「え?」

「だぁら紅花はいつ手に入るかって聞いてんだ!!」

「七月五日には手に入るよ!」

「じゃあ届いたら電話してこい、それまでには準備しておいてやる」

「うん!!」

「だがなぁ、餓鬼。紅花染めの工程は重労働なうえ一日じゃ出来上がらん。それでも
 やるか」

「もちろんだよ。そんなことは覚悟の上だしね」

紅花のエキスを抽出するのに四日かかるのは事前に調べてあるし、重労働も覚悟の上。後は組み木作りが出来るように檜削りも紅花が届く前までに完成させればいい。
・・・これで、一応全てに目処はたった。

「ほらほら、子供がそんな難しい顔をしてちゃだめよ」

これからのことをつらつらと考えていると、おばあさんがおうどんを持ってきてくれた。

「きつねうどんだけど、凪ちゃん嫌いかい?」

「うんん、大好き!」

「ばあさんのうどんは格別だ。残さず食っていきな」

「うん」

こうして、四日目でやっと千家さんの了解を取り付けて帰ることになったんだけど。


「やっぱり四日で落ちたね」

にっこり笑って美味しそうにカステラを食べてる恭司さんと・・。

「もうすこし粘ると思ったのに!!」

と、カステラをみて悔しそうに地団駄を踏んでる喜和子さんがいたのは内緒である。


紅花が届くまでの間は組み木作り用に檜を削ったり、魔力を注ぎ込んだりして日を過ごし・・・華火とはその間全然遊んであげることなく、かなりむくれていた。

そして紅花が届いた七月五日・・・届いたときは改めて喜和子さんの・・・偉大さ?
を知った。
それから四日間は千家さんちに通い詰め、紅花の赤い液を抽出。
・・まぁ、色は市販のものよりも少しくすんでいたけれど、初めてやったにしては
いい色だと頑固爺にいわれたので、まぁまぁの出来なのであろう。
其処にサラダ油を混ぜ込み絵の具を作って檜を緋色に染めた。
あとは、部品を削った溝に差込固定して・・・・。


「・・・完成!!!!!!!!!」

もう、久々にガッツポーズを決めてしまうほどに感動したね、いやマジで。
でも、本当にギリギリセ〜〜〜〜〜〜〜〜フ。

「明日が10日だから、ギリギリ一日前にはトヨウケヒメに届けられる」

完成した高揚感となんとか生き延びられそうという安堵感を胸に、その日は
リビングで倒れるように眠ってしまった。


翌日の朝10時位まで私はグゥスカ寝てしまったらしく、起こしてくれた喜和子さん
にお礼も言わず、昨日完成した鳥居をもってトヨウケヒメのいる神社へと走っていくのであった。

「トヨウケヒメ!!対価の鳥居を持ってきたわ!」

走ってきたせいか、ゼイゼイと荒い呼吸をしながらも叫ぶようにトヨウケヒメ
を呼ぶと、私の目の前に毎度おなじみ白ツナギと銜え麦のトヨウケヒメが姿を
あらわした。

『朝から五月蝿い!そんな叫ばなくっても聞えてるよ』

五月蝿そうに耳をほじくりながら出てきたトヨウケヒメにズイッと昨日出来上がった鳥居を差し出した。

「そんなことよりも、対価を持ってきたわ」

鳥居を前に出しながら、膝に手をつき荒い呼吸を整えているとさっきまで持っていた
鳥居の感触がなくなり、見てみるといつの間にやら鳥居はトヨウケヒメの手に渡っていた。

『・・これまた、ちっこいのをもってきたねぇ』

親指と人差し指でつまみながらしみじみとぼやくトヨウケヒメを見て、・・まさかダメなの?とか少しあせり始めたとき・・。

『だが、魔力と想いが通った良い品だ。この色は紅花か?』

「・・うん。私のイメージじゃ神様への奉納品に化学薬品はないじゃないかって
 のがあって・・それで」

『譲ちゃんの魔力と想いで清めの効果もきちんと出てる。・・だが、よくわかったな。渡すに値する対価の意味が・・。』

「意味?そんなもん知らないわよ。ただ私の命を守るものを貰うのよ、私も出来うる限りのことをするのがどおりでしょ」

『・・・まぁいいさ。とりあえず及第点だ』

にやりと笑い、鳥居はトヨウケヒメの手の中で光を放ちながら消えていった。
だが・・及第点?

「ちょっ及第点ってどういうこと!?」

『そのまんまの意味だ。なぁ譲ちゃんもさっき自分でいってたろう、“自分の命を守るものだ”って、はっきりいって譲ちゃんの言ってたような都合のいいもんがこの程度のことで手に入ると思うな』

「!?」

『だが、物を渡さないほど価値の無いものでもない。・・だから及第点っていってるんだ』

「じゃあ・・」

『まぁ、なんだ。強固な器であんたの姿と気配を譲ちゃんの敵から隠すものはやらんでもない』

「!!」

『だが、今から渡すものは色々未完成だ。そこは譲ちゃんのほうで補いな。それでいいならくれてやる』

「それでいいわ、お願い!私にそれを頂戴!!」

『よし、取引成立だ』

トヨウケヒメはニカッっと笑い指を鳴らすと、私の胸の辺りで光が輝きだした。

『ほれ、手をだしな』

トヨウケヒメに言われ慌て光をすくうように手をだすと、だんだんと光が収束してい
き、手に収まったのは手のひら二つにすっぽり収まる緋色の筒。
筒の周りには銀色のもので蔦と蓮が絡まるように描かれていた。

「これ・・・・なに?」

筒には覗き穴があったので覗いてみても真っ暗なままで・・まさか欠陥品とか?

『それは万華鏡だ。・・てか、さっきも言ったろう、未完成だって。だが、まぁその万華鏡が完成しても、中が見えるのはいつもじゃないけどね』

「・・・・・・・なに、その気まぐれ万華鏡」

『がたがた五月蝿い。それにとっとと名前を書きな』

「名前?」

『そいつは強固で強力な呪具だ・・効果だけみれば神具といっても過言じゃない。
 だが、だからこそ強大な魔力を消費する。その魔力は譲ちゃんが補わなければならないが、そのまんまじゃ穣ちゃんじゃ持続は難しい。だから名前を書いて対象者
 を限定することで、魔力の消費を最低限に抑えるんだよ』

「・・わかった」

『どうぞ、これを使ってください』

隣でポンと音を立てながら現れた杉さんが渡してくれたのは・・・。

「・・・油性ペン?」
『へぇ、それがどないしました?』

「・・・・・・・・・・・なんでもない」

(・・・私の紅花染めの苦労を返せ!!!!?)

杉さんに渡されたペンで端の方に小さく名前を書くと、それは小さく光最初っから
描かれていたような模様へと変化した。

『これで対象者は限定された・・・だが、それでもこいつに魔力を注ぎ込んだところでお前は自分の命を守れないだろう』

「・・どういうことよ!!」

『・・・その万華鏡にはまだたりないんだ』

「だから、何がたりないの!!!」

『それはいまお前にいってもしょうがないものだ。・・いや、うちにだってどうにも出来ないもの』

トヨウケヒメは今までに無いぐらい悲しそうに笑いながら告げた。
それが私には死刑宣告に聞えたのは、仕方のないことと思って欲しい。

『あとは運命に委ねな。運命がお前を生かすならそのように動くさ』

そういってトヨウケヒメが消えたとたんマリオネットの糸が切れたように私も膝を
ついてしまい、いつの間にか杉さんも消えうせていた。

(運命って・・・それってどういうことよ!?そんふうに言われたら私はどうしようもないじゃない)

呆然となりながら膝をついていると、少し遠くから私を呼ぶ声が聞こえ、その声は
だんだんと近づいてきた。

「凪ちゃんみっけ!!よっちゃんのお母さんが美味しいお菓子があるから食べにおいでって・・・凪ちゃん?どうかした?」

あまりにも私に様子がおかしかったせいだろうか、華火あ泣きそうな顔で私の顔を
覗き込んでくるので、私は一回目を瞑り、そして見開くと同時に・・笑った。

「うんん、なんでもない。よっちゃんちに行こうか?」

「・・・・うん」

私はその時笑うことが精一杯で、華火の不安そうな顔には全然気づいてあげることが
出来なかった。
そして私達が立ち去った後の会話なんてのも知るはずもなく・・・。

『トヨウケヒメ様・・』

『・・・なるようにしかならん。それが世の常だ』

目を瞑り耐えるようにそう呟くトヨウケヒメを杉は足元から悲しそうにみていた。




時は刻々と過ぎ、今は夕方の四時半を回ったところか・・。

私と華火は華火の友達であるよっちゃんの家から帰る途中だった。
あの神社からよっちゃんの家に行くまでの間、華火が懸命に私に話し掛けてくれるも、
私は間の抜けた返事しか返せず、よっちゃんの家で遊んでいるときも、心配そうにしている華火に気づきもせずぼ〜っとしていた。

そんな私にとうとう華火の堪忍袋が切れたのだ。

「凪ちゃん!!今日の凪ちゃんなんか変だよ!?」

「華火ちゃん・・」

「華火の話し全然聞いてくれないし、華火のことも全然みてくれない!!」

「・・・華火ちゃんには関係ないでしょ!ほっといてよ!!」

言ってから、自分の言った言葉の意味を理解した・・。

「凪ちゃんなんてだいっきらい!!?」

そういって走り出してしまった華火を反射で追いかけた私だが、言ってしまった言葉は取り消せず、このままほおって置こうかと思い足を止めかけたそのとき・・。

「!!華火!!危ない!?!」

「え?」

角を猛スピードで曲がってきた車が見え、思わず叫びながら走ると華火はこちらに振り返り、その後ろには華火に向かってくる車が見えた!!

そのとき、私の体は自分が幼児であったことを忘れたかのように、スピードを上げ走り、華火の背を押した。


その後覚えてるのは、五月蝿いブレーキ音と・・・。
「凪ちゃん!!!!?!!」

華火の叫び声だった。


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■作者からのメッセージ
今回のは本当に長くなりました。あんまりにも長いんで途中で切ろうかとも思ったんです、今回はどうしても続けて書きたかったので、我が儘を押し通させていただきました。ですがその我が儘をしてなお読んでくれる方々に本当に感謝します。
とりあえず、次回で四歳までの話しは終わりになると思います。
その次ではやっとまつろわぬ神の話し編に移行となると思うので、もしまだ興味を
もって読んでくれる方がいらしたら幸いです
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