明け方、日課のランニングをしていると突然、七星門の鍵がほのかに光を帯びた。
鍵は、旭先輩がセブンスターズとデュエルをしているのだと、俺に教える。場所はおそらく、方角的に、森のほう。
といっても、この鍵から伝わってくる感覚はものすごくアバウトだから、詳しい場所は分からない。
近くに行けばどのあたりか分かるだろうと思い、俺は森のほうへと急いだ。
そして見つけた。
闘技場を。
流石に思考が停止した。
湖上に城が建っていた時も驚いたが、今回は少し違う。
建設中。
生徒達の手で、建設中だった。
おかしい。絶対におかしい。
しばらく唖然としていたが、我に返り、慌てて
闘技場の中へと急ぐ。
俺が突っ立っている間に、既に鍵は光を放つのをやめている。決着がついたようだが、どちらが勝ったのかは分からない。
闘技場の中に到着する。
到着したところまでは良かった。
その瞬間、俺の目の前に、一匹の虎が飛び出して来なければ。
「うわぁぁっ!?」
俺が尻餅をつき、とっさに腕で顔を覆った。
が、虎は俺の上を飛び越えていった。
「な、何だったんだ、今のは............」
「お、三沢、来たのか」
頭上から、先輩の声がして振り返ると、どこか疲れたような様子の先輩が立っていた。胸元には、七星門の鍵が光っている。
「良かった、勝ったんですね」
「当然だろ?楽勝だよ、楽勝」
とてもそうは見えないけど、多分、大丈夫だろう。
カミューラの時、デュエルが終わった直後に倒れたのに比べれば、立って歩けるだけましだ。
というか、先輩の心配なんてしてる場合じゃない。
「先輩、今の虎は?」
もし人食い虎だったら............最悪だ。
「ああ、あいつは飼い主と一緒にアマゾンにでも帰っただけだ。心配ねーよ。
あ、そうだ、三沢、せっかくだし、俺の部屋寄ってかね?」
初めて入るということもあり、
あの先輩ということもあり、俺は緊張していた。
そして、俺は先輩の部屋に入った瞬間、度肝を抜かれた。
「この、壁一面に並んでいる金庫は何ですか?」
旭先輩の部屋の壁の片側には、漆黒の物々しい金庫が積み上がり、部屋を圧迫していた。
「ん、そういえば三沢はこの部屋に入るの初めてか。万丈目はよく来てるんだけどな。
それは俺のカード資産だよ」
「はぁっ!?こ、こんなに!?」
全部で十二個もある。
俺もそこそこカードを持っているつもりだったが、さすがにここまで多くは無い。
「ほとんど中身入ってないのもあるけどな」
そう言って先輩は、手慣れた様子で金庫を開けて、中のカードをいじり始める。
「えーと、これとこれと............こいつもか。残りは俺のデッキのほうから出すとしてっと。こんなもんか。
三沢、まだ朝飯まで少し時間あるし、遊ぼうぜ」
ソファーに座った先輩は、テーブルにカードを並べる。
「いいですけど、何で?」
テーブルの上にあるカードは、せいぜい30枚くらい。デュエルをするというわけでもなさそうだ。
詰めデュエルかとも思ったが、デッキもエクストラデッキも用意されているから違うはず。
「ただのお遊びだよ、お遊び。
テーブルの上に用意したのは、今日のセブンスターズとのデュエルで使用されたカードだ。で、お前はセブンスターズが使った方のカードを使う、と」
「なるほど、つまり、
今日のデュエルの再現をしようというわけですか」
用意された手札、デッキ、エクストラデッキで展開を予測する。
まさに遊びだ。
「ああ。今回は割と予想しやすい感じだったからな。学園一の頭脳を誇るお前ならいけるだろ。やるか?」
いつも通り、にやにやしながら聞いてくる。
つまりこれは、俺への挑戦、という訳か。
「おもしろいですね。その挑戦、受けましょう」
「じゃあ、俺が戦ったセブンスターズ、タニヤの紹介をしようか。
見た目は、褐色ポニテ巨乳ムキムキって感じの女だ」
..................どこかで聞いたことがあるような気がする。どこで聞いたのかは思い出せないが。
「性格は?」
「そうだなー、とりあえず動物に例えると、虎だな」
虎、か。
「ただの戦闘狂に見えて実は意外と堅実で、理にかなった戦いをする奴だな。
要するに、場面ごとの安定行動をしつつも、そこそこ攻撃的に動けばいいわけだ。
さて、始めようか。先攻は三沢からだ」
さて、手札は............
アマゾネスの剣士 アマゾネスの格闘戦士 アマゾネスペット
虎 アマゾネスの死闘場 戦士の生還 アマゾネスの
弩弓隊 ..................アマゾネスの死闘場?
俺の頬を、冷たい汗が伝う。
アマゾネスの死闘場:フィールド魔法
発動時、お互いのプレイヤーは600ポイントのライフを回復する。
お互いのプレイヤーが戦闘ダメージを受けた時、
100ライフポイントを払う事で相手に100ポイントのダメージを与える。
この効果は1度の戦闘につき、お互いに1度ずつ任意で発動できる
つ、使えない。
「あ、一個だけヒント言っとくと、タニヤは死闘場大好きだから、引いたら絶対最初に使うからな?」
「............まず、アマゾネスの死闘場を発動」
タニヤ:6000→6600
旭:6000→6600
さて、どうしようか。
安定行動、か。
アマゾネスの剣士:星4/地属性/戦士族/攻1500/守1600
このカードが戦闘を行う事によって受ける
コントローラーの戦闘ダメージは相手が受ける
アマゾネスの格闘戦士:星4/地属性/戦士族/攻1500/守1300
このカードが戦闘を行う事によって受ける
コントローラーの戦闘ダメージは0になる
アマゾネスペット
虎:星4/地属性/獣族/攻1100/守1500
このカードは自分のフィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。
自分フィールド上の「アマゾネス」という名のついたモンスターカード
1枚につき、このカードの攻撃力は400ポイントアップする。
相手はこのカードを破壊しない限り、
他の「アマゾネス」という名のついたモンスターを攻撃できない
まず、アマゾネスペット
虎は、効果の性質上、取っておきたい。
次に、アマゾネスの剣士は、アマゾネスの
弩弓隊とは相性が悪い。
と、なると。
「俺は、アマゾネスの格闘戦士を召喚。カードを一枚セット。ターンエンドです」
こんなものか。
「じゃあ俺のターン、ドロー。
まず、フィールド魔法 アマゾネスの里を発動。死闘場を破壊」
「まさかのミラーマッチですか。
というか、そのカードは?見たことがありませんが」
「当然のように、新規収録予定カードだな。効果は2つ。
まず、フィールド上に存在する限り、アマゾネス攻撃力は200ポイントアップする。
そして、アマゾネスモンスターが破壊され墓地へ送られた時、そのアマゾネスのレベル以下のアマゾネスモンスター一体を自分のデッキから特殊召喚する事ができる」
「へぇ、アマゾネスが全て効果破壊もいけるリクルーターになるんですか。なかなか強力なカードですね。でも、ミラーマッチではそれほど役に立たない気が............」
俺がそういうと、先輩は口角を釣り上げた。
「そうでもないんだな、これが。
俺は荒野の女戦士を召喚し、強制転移を発動」
!!
「互いのモンスターのコントロールを入れ替える。これで俺の場には攻撃力1700のアマゾネスの格闘戦士。お前の場には攻撃力1100の荒野の女戦士。
格闘戦士で荒野の女戦士に攻撃」
タニヤ:6600→6000
「荒野の女戦士の効果発動。戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の戦士族・地属性モンスター一体を自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。俺は、攻撃力1400のアマゾネスの賢者を特殊召喚。
里の効果で攻撃力200アップ。賢者で攻撃」
タニヤ:6000→4400
「賢者の効果発動。このカードが攻撃した場合、そのダメージステップ終了時に相手の場に存在する魔法・罠カード一枚を破壊する。伏せカードを破壊」
「う、うまい......」
思わず賞賛の声を挙げてしまう。
通常罠 アマゾネスの
弩弓隊。その効果は、相手の攻撃宣言時に、自分の場にアマゾネスモンスターが存在する場合のみ発動する事ができ、相手フィールド上の全てのモンスターを表側攻撃表示にし、攻撃力を500ポイントダウンさせる。さらに、相手の全てのモンスターに攻撃を強制する。
だが、
「最初にアマゾネスの格闘戦士を奪うことで、
弩弓隊を無効化。そしてアマゾネスの賢者の効果で割る、と」
「結果だけ見れば、『こいつ超能力で相手の手札見てるだろ』って感じだよなー。
これで三沢の場はまっさら。
俺は、カードを一枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン、ドロー」
ドローはサイクロンか。
まだ使う必要はないだろう。
「俺は、アマゾネスの剣士を召喚。アマゾネスの里の効果で、攻撃力は1700。
アマゾネスの賢者に攻撃」
旭:6600→6500
「カードを一枚セットして、ターンエンドです」
「俺のターン、ドロー。
俺は手札から、アマゾネスの鎖使いを召喚」
「それは古いカード、ですよね?」
「だな。里の効果で攻撃力は1700。
鎖使いで剣士に攻撃」
せっかくの剣士の効果が、相打ちのせいで完全に無駄になってしまった。
「鎖使いの効果。ライフを1500払って発動する事ができる。相手の手札を確認し、その中からモンスター一体を自分の手札に加える」
旭:6500→5000
「そして里の効果がチェーン。えーと、ターンプレイヤーの方がチェーン2、そして俺がチェーン3となりますよね?」
「『プギャーwwアマゾネスの里の効果は使用者の俺しか使えねーんだよww』って言ったら、ものすごい顔で睨まれたな」
「そりゃそうでしょう。じゃあ俺は、チェーン3でサイクロンを発動。アマゾネスの里を破壊」
破壊により、アマゾネスの里の効果は不発。おそらく、こういう展開だっただろう。
「で、鎖使いの効果でお前の手札を見て、ペット
虎を俺の手札へ。
アマゾネスの格闘戦士でダイレクトアタック。里が無くなって攻撃力は1500」
タニヤ:4400→2900
「ターンエンド。
この時点で、俺の手札は3、タニヤの手札は1。さらに、タニヤの場にはカードなし」
「圧倒的ですね。
ところで、ここまでは合ってますか?」
「完璧完璧。さすがだな」
「本当に読みやすいですし、当然ですよ。
ドロー。これはきついですね............。
アマゾネスの聖戦士を召喚。
自分の場のアマゾネスは一体なので、自身の効果により攻撃力が100ポイントアップし、1800 。
アマゾネスの格闘戦士に攻撃」
「格闘戦士の効果により、ダメージは0となる。ターンエンドだな?
俺のターン、ドロー。
手札から、アマゾネスペット
虎を召喚」
この場面でアマゾネスペット
虎?
「ペット
虎は、自身の効果により攻撃力がアップし、1500。
さらに俺は、永続
罠 アマゾネスの意地を発動。自分の墓地からアマゾネスモンスター一体を攻撃表示で特殊召喚する」
なるほど、アマゾネス専用の蘇生カードか。
「アマゾネスの意地がフィールド上に存在しなくなった時、蘇生したモンスターを破壊し、そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。
俺は、墓地の鎖使いを蘇生。
これにより、ペット
虎の攻撃力はさらに400ポイントアップし、1900。
さらに俺は、永続魔法 アマゾネスの闘志を発動。アマゾネス版スカイスクレーパーだな。
バトル、鎖使いで聖戦士に攻撃。聖戦士の攻撃力は1800、鎖使いは1500。よってアマゾネスの闘志の効果で、鎖使いは攻撃力が1000ポイントアップ」
「えーと、ギリギリ耐えますね」
タニヤ:2900→2200
「ペット
虎でダイレクトアタックして、ターンエンド」
タニヤ:2200→300
300。ジリ貧、といった感じか。ドロー次第だが。
さて、ドローは............死者蘇生か。
どうしようか。戦士の生還と死者蘇生で聖戦士と剣士を蘇生して、攻撃するか?
いや、ペット
虎の効果により、ペット
虎以外に攻撃できないから、聖戦士とペット
虎、剣士と鎖使いとで相打ちすることになってしまう。それでは、モンスターが出てきたら終わりだ。
タニヤの性格的にもここは
「俺は手札から、死者蘇生、戦士の生還を発動。墓地からアマゾネスの聖戦士を特殊召喚、アマゾネスの剣士を手札に加えて召喚。
そして、戦士族レベル4モンスター二体でエクシーズ召喚!」
「おおっ、せいかーい!!」
先輩が嬉しそうに言う。どうやら合っていたようだ。
「
H−
C エクスカリバー。効果発動。
エクシーズ素材をニつ取り除き、攻撃力を上昇させます」
これで攻撃力は4000。さらに、この効果は次の相手ターン終了時まで、だから、攻防一体の良い選択だろう。
「
H−
C エクスカリバーでアマゾネスペット
虎に攻撃」
旭:5000→2900
「ターンエンドです」
俺がそう宣言すると、先輩は立ち上がり、大きく手を打ち鳴らし始めた。
「ブラボー!ブラボー!よくできたな。正直一回ぐらいミスると思ったんだが。
さて、それじゃあ、そろそろ食事に行こうぜ。流石に三沢、そろそろ寮に戻らないと遅れるぜ?」
「え、ちょ、ちょっと、先輩、デュエルの結果は!?」
「ああん?それぐらい自分で考えろよ。もしかしたら少し難しいかもしれないけどな」
そう言って、先輩はさっさと行ってしまった。
「まったく、どこまでも自由な人だ..................」
あと少しくらい時間はあるだろうに。
「しょうがない。まずは手札は、っと」
巨大ネズミとアマゾネスの闘志、か。
巨大ネズミはただの地属性のリクルーターだし、アマゾネスの意地は役には立たないはず。
「となると、デッキか。? 一枚しかないのか」
ということは、このターンで決着がつくのか。
「あ、あれ?収、縮?」
どういう、ことだろう。収縮でどうやって突破するのか。
収縮には、モンスター一体の元々の攻撃力を半減させる効果しかない。
巨大ネズミでリクルートするカードは、デッキには存在しない。
アマゾネスの意地の効果で特殊召喚されたアマゾネスの鎖使いは、アマゾネスの意地の効果により、表示形式を変更できず、必ず攻撃しなければならない。
だがしかし、アマゾネスの闘志の効果では、エクスカリバーには全く届かない。
たとえ収縮を撃っても、攻撃力は.............攻撃力..................元々の攻撃力........................?
いや、まさか!
俺は部屋を飛び出した。
オートロックの扉が閉じる音を背に、寮の自分の部屋へと走る。
「収縮、収縮............あった」
俺は自分の部屋に到着するとすぐさまPCの電源を入れた。
当然、wikiを見るためだ。
《
収縮/Shrink》
速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。
カードテキストぐらい、俺にも分かっている。問題はそこじゃない。
wikiの強み、それは、詳しい裁定が書いてあること!
・
わかりづらいが、「そのモンスターの元々の攻撃力は半分の数値になる」のではなく、「そのモンスターの攻撃力は、元々の攻撃力の半分の数値になる」という意味。 そう、ここ。この記述だ。おそらくこれが鍵だ。
さらに画面をスクロールする。
Q:自身の効果で攻撃力がアップしている《カース・オブ・ヴァンパイア》・《ダーク・クルセイダー》・《カードガンナー》に発動した場合、攻撃力はどうなりますか?A:元々の攻撃力の半分になった状態から、自身の効果で攻撃力がアップします。 そう、普通はこうだ。だが、だがこれらのモンスターの効果は、自身の攻撃力を上昇させる効果だ。
それに対して、エクスカリバーの効果は!!
《
H−
C エクスカリバー/Heroic Champion -Excalibur》
:エクシーズ・効果モンスター/ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守2000
戦士族レベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を2つ取り除いて発動できる。
このカードの攻撃力は、次の相手のエンドフェイズ時まで元々の攻撃力の倍になる。
このカードの攻撃力は、
次の相手のエンドフェイズ時まで元々の攻撃力の倍になる!!
つまりこれは、一旦4000にするだけということ!!!
「収縮をエクスカリバーに発動することで、攻撃力を1000ポイントまで下げることができるのか!!」
知らなかった。知っておくべきだったのに!
「はぁー」
長い溜息をつく。不甲斐ない。
「ピピピ、ピピピ」
そのとき、生徒手帳に、メールが届いた。
見て見ると、予想通りというか、旭先輩からだった。
内容はたったの一言。
『解けた?』
『俺はまだまだでした』
そう、返した。
きっと、後で散々バカにされるだろう。
でもまあ、しょうがない。今回だけはその辱めを、甘んじて受けよう。